福島での原発事故以来、放射線への懸念や関心が集まる中、学校現場における放射線教育の充実もまた課題となっています。この点に関して、私の考えるところを述べたいと思います。
- 放射線教育の変遷
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さかのぼれば、1980年までは中学校で放射線について教えられていました。しかしその後は、2008年3月に中学校理科新学習指導要領が告示されるまでの約30年間、中学校、高校では放射線についてほとんど教えられていませんでした。
当時「放射線教育がおよそ30年振りに復活」と言われた2008年の要領の中では、放射線についての授業が中学校でも必要だとして、2012年度から中学3年生を対象に、「エネルギー資源」の項目の中で「放射線の性質と利用」にも触れることが定められました(1)。
そうしてまさに放射線教育の再開へ向けた準備期間中だった2011年3月に、東京電力福島原発事故が起きたのです。
- 求められる教師のスキルアップ
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放射線はエネルギー源としてだけでなく、医療、工業、農業など社会の中で幅広く利用されています(2)。しかし、前述の通り学校現場では長らく教えられることがなかったため、当然のことながら多くの教員にとっては、理科の中でこれまで放射線について授業をした経験も、授業を受けた経験も乏しかったことでしょう。
そのため、2008年に定められた新学習指導要領をふまえて、―これは同時に東京電力福島原発事故をふまえたものになってしまったわけですが―どのように放射線を教えればよいか、どうしたら生徒に興味を持ってもらえるか、中学校、高校の理科教員を対象にした授業方法のセミナーや講習会が、全国で行われています(3)。
- 実験を通じた効果的な授業
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中学校3年生の理科の授業では、「放射線って何だろう」、「放射線は身の回りに存在している」、「放射線は医療でも利用されている」といったテーマから教えることが多くなってくるでしょう。
私も経験したことですが、単に講義するだけでは生徒も退屈しますし、理解が深まりません。それよりも、自然界には放射線が存在すること、放射線は防護できることなどを、実際に放射線測定器具を使って生徒に実験してもらうことは、理解を促すうえで有益でしょう。
たとえば放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線などがありますが、私自身も、アルファ線検出器を使って薄い紙1枚でアルファ線を遮蔽できることを知り、驚いたことを今でもよく覚えています。また、私の最近の講演でも、講演中に実際に肥料に含まれている天然の放射性カリウム量を測定したのですが、聴衆の皆様の理解を促すのに大変役立ちました。
- 学んだことを現実に
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このような現象を授業で実際に体験すると、学んだ理論と現実とを結びつけ、放射線防護の基本についても学ぶことが出来ます。放射線源から離れると受ける放射線量が減ること。放射線量は時間と比例すること。放射線は遮蔽できること。多量の放射線は体に有害ですが、放射線のリスクは線量の大きさに依存すること。そして、放射線は適切に使えば非常に役立ち、我々の生活に欠かせないこと。生徒たちには実験を通して、そうしたことを学んでほしいと思います。
そして、昨今子どもの理科離れが叫ばれていますが、実験を活用したこうした授業の体験は、放射線だけでなく、子どもたちに理科そのものへの興味をわかせることでしょう。
遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長
参考資料