日本アカデメイア 交流会 菅内閣総理大臣スピーチ
余りに会場が大きくて驚きました。私自身、今御案内いただきましたように、15回ということであります。野党のときに牛尾さんから声を掛けていただいて、皆さんの会に出席させていただいたのが切っ掛けであります。本日は、総理大臣という立場で、初めてこうして皆さんに講演させていただきます。大変光栄に思います。
今、何と言っても新型コロナウイルスという国難に直面し、私たち、経済社会は大きな転換期にあると思ってます。大事なことは、感染を一日も早く収束させる。それと同時に、その中で生じた変化を契機として改革に挑戦し、次の時代に踏み出していくことだと思ってます。
まず、その対策であります。全国の感染者数は、一度高止まりをした後に、直近で増加に転じており、感染拡大地域も広がりつつあります。国民の皆さんの不安も増しております。特に医療機関を始め、この感染症の最前線で戦っていただいている方々の御負担は、極めて重くなっております。
こうした中、政府としては、専門家からなる分科会の提言を受けて、対策を講じてきております。専門家の先生方からは、飲食が感染リスクが高い場面として指摘されております。そのため、ステージ3、すなわち感染が相当進んだ地域では、飲食店の時間短縮を要請すべきであると提言されており、それに沿って、北海道、また大阪、東京、名古屋など、各地で今、時間短縮を行っております。さらに、こうしたステージ3の地域では、GoToトラベル、これを一時停止すべきとの提言をいただき、先月末から実施いたしております。
しかし、全国の感染者数が先週末に3,000名を超える中、より踏み込んだ対策をと思い、決断いたしました。年末年始に集中的な対策を取るべきだと考え、全国、GoToトラベルを一旦停止することといたしました。これについては、GoToを利用して年末年始に帰省をされる方、大変申し訳なく思います。また、準備をしていた事業者の皆さんにも御迷惑をかけております。そういう中で、キャンセルについては、旅行代金のうち35パーセントを事業者に国から支払いをすることになっておりましたが、今回は50パーセントにさせていただきたい、このように引き上げる予定であります。
さらに、飲食店の時間短縮については感染防止に極めて重要な対策であり、年末年始、広く御協力いただく必要がありますので、各都道府県が支払う協力金については、支援の単価を倍増し、最大1か月当たり120万円を支援することといたしております。
こうした中で、コロナとの長く厳しい戦い、最前線で臨んでいただいております医療関係者の方々に、心から感謝を申し上げます。そうして、医療機関などに対して、これまで約3兆円の支援を行ってまいりましたが、今回の経済対策では、1.4兆円の追加支援を行い、コロナ対応の病床確保をしっかり支援していく、こうしたことを決定いたしております。また、医療機関には、特に人的支援が重要であり、コロナに対応する医療機関に派遣される医師、看護師の支援額も倍増いたします。また、看護師の皆さんが本来の業務に専念できるように、清掃などを民間業者へ委託し、その分の経費も政府としてはしっかり支援をしたいというふうに思っています。
年末年始は、各機関も体制を縮小せざるを得ない時期でもあります。我々の責務は、国民の命と暮らしを守ることであり、静かな年末年始をお過ごしいただくという形で、国民の皆さんの御協力を頂きながら、何としても感染拡大の防止、全力で取り組んでいるということであります。
また、多発する自然災害の要因とされる気候変動も、国民の命と暮らしを守る上に直結する問題であると認識してます。臨時国会の冒頭の所信表明演説で、2050年カーボンニュートラルを宣言いたしました。これは、我が国が世界の大きな流れを主導していくために、どうしても実現しなければならない目標です。
これまでは、「2050年にCO2を2013年からの8割削減」、「CO2排出を日本全体でゼロにするのは、今世紀後半のできるだけ早期」、こうした目標にとどまっていました。私は、この問題に受け身ではなくて攻めの姿勢で取り組んで行くべきだと考え、総理就任後、いち早く政権の方針として、カーボンニュートラルを明確に打ち出す決意をしておりました。組閣において、梶山経済産業大臣と小泉環境大臣をあえて留任させたのもその実現のためであります。
環境対応は、もはや経済成長への制約ではない。我が国の企業に将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を産み出すものである、そういう認識の基に判断いたしました。
こうした環境と成長の好循環に向けて、発想の転換を行い、今回の経済対策では、まずは政府が環境投資で一歩大きく踏み出します。過去に例のない、2兆円の基金を創設しました。そして、野心的なイノベーションに挑戦する企業を、今後10年間継続して支援していきます。この基金により、様々な先端技術の実用化を加速化させます。
例えば、非常に薄くて、軽くて、効率的で、壁などにも設置できる、次世代太陽光発電の技術や二酸化炭素を回収し、建築材料や燃料として再利用する技術などが対象になります。また、低コストで、水素を大規模に製造、流通させ、飛行機などのエネルギーとして利用する技術、低コスト・超効率の蓄電池技術など、こうしたものも対象としたいと思います。
蓄電池の製造や生産工程で再エネを利用するなど、大きく脱炭素化を図る設備投資には、大企業も含めて、あらゆる業種について、過去最高水準、最大10パーセントの税額控除という、税制、ここもしっかり支援します。同時に、自動車から排出される二酸化炭素をゼロにすることを目指し、電気自動車などを最大限導入していくための制度や規制、ここを構築します。
政府の率先した大胆な支援と制度改革を通じて、民間投資を後押しし、240兆円の現預金を活用し、ひいては3,000兆円とも言われています、世界中の環境関連の投資資金を我が国に呼び込み、雇用と成長を産み出したいと思います。
もう一つの大きな改革が、デジタル化であります。コロナを機に、行政サービスのデジタル化の遅れが明らかになりました。給付金の支給スピードが遅い、テレワークができない、判子をもらうために、会社に出社しなければならない。こうした声を大きく聞きました。
これらの、コロナ禍で浮かび上がった問題を解決すべく、改革を強力に進める司令塔として、デジタル庁を設立します。来年秋の始動を目指し、現在急ピッチで作業を進めてます。デジタル庁は、首相直属の組織とし、情報システム関係の予算を一元的に所管させ、各省庁に対し、勧告、是正ができる強い権限を持たせます。御高齢の方々などデジタル機器の利用に慣れていない方を念頭に置いた対応もしっかり行っていきます。
組織の要は人であり、民間から100人規模の高度な専門人材を迎え、官民を行き来しながら、キャリアアップできるモデルを作ります。公務員の採用枠に、デジタル職を創出すべく、現在検討を行っています。政権の本気度というものを、是非、分かっていただきたい、このように思います。
デジタル化のカギであるマイナンバーについても、デジタル庁の下で、企画、運営してきます。カードと保険証の一体化を、来年3月からスタートします。そして、令和6年度までに、運転免許証との一体化も行います。今回の経済対策で、これらを含めたデジタル関係で1兆円を超える規模を確保しました。さらに、民間企業における抜本的なデジタル化を税制で広く後押しすることや、株主総会のオンライン化など、日本全体のデジタル化を一挙に進めてまいります。
地方、そしてそこで働く、暮らす方々は日本の礎です。コロナを機に、地方の良さが見直される一方、産業や企業を取り巻く環境は激変してます。この中で、都会から地方へ、また、中小企業やベンチャーへの新たな人の流れをつくり、次なる成長の突破口にしたいと思います。デジタル化の基盤となる光ファイバーについて、この夏に手当てしました500億円の補正予算によって、来年度中には、離島を含む、全国隅々まで整備します。全国的にテレワークの環境が整い、さらにはオンライン教育、オンライン診療の重要な基盤ともなると思ってます。
行政の申請などにおける押印は、テレワークの妨げになることから、99パーセント廃止します。署名、押印、対面規制についても、早急に見直しを進めます。大企業でも中小企業にも、それぞれすばらしい人材がいます。大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営陣として紹介する取組を、まずは銀行の人材のリストアップを行ってスタートしたところであり、今後、他業種にも広めていきたい、このように思います。
海外からの人材の流れも積極的に後押ししていきたいと思います。四方を海に囲まれた我が国にとって、国内だけでなく、海外との人の交流、海外の成長を取り込んでいく必要性は、ポストコロナ時代において更に高まる、そのように思っています。コーポレートガバナンス改革は、我が国企業の価値を高めるカギとなるものであり、しっかりと進めていきたいと思います。更なる成長のため、女性、外国人、中途採用者の登用、こうしたことを促進して、多様性のある職場、しがらみにとらわれない経営の実現に向けて改革を進めます。
海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。金融事業拠点として、日本には、良好な治安と生活環境、1,900兆円の個人金融資産などの強みがあります。そうした、日本の魅力を更に高めるため、今回関係者から要望の強かった税制について、大幅な見直しを行います。相続税については、国外財産を対象外とし、いわゆる業績連動報酬に掛かる所得税は、一律20パーセントの税率を適用することといたします。これらの取組を通じて、海外から見て魅力ある金融市場に向けた改革と有力な事業者、高度外国人材を呼び込む環境を、しっかり作っていきたいと思います。
我が国の未来を担うのは、子供たちであります。少子化は、様々な要因が複雑に絡み合って生じていることから、結婚や出産、子育てを希望する方々の声に、丁寧に耳を傾け、そうした希望の実現を阻害する原因を、なくす対策を講じる必要があると思ってます。
第1に不妊治療であります。「子供は欲しいが、費用が多額でとても不妊治療は受けられない」という当事者の気持ちに寄り添い、出産を希望する方を広く支援し、その願いにお応えしたいと思います。こうした思いから、私は、自民党総裁選挙の際に、不妊治療に保険適用をする約束をしました。2022年度からスタートしたいと思います。男性の不妊も対象にしたいと思います。
それまでの間は、現行の助成制度の所得制限、これを撤廃した上で、助成額の上限を今までの倍、一律30万で6回まで、2人目以降も同様とし、来年に入ったらすぐ実施できるよう補正予算に盛り込みます。また、不妊治療と仕事を両立する社会的気運を醸成するととともに、治療のため仕事を休めるような中小企業の取組を支援するなど、事業主による職場環境整備、ここもしっかり推進していきたいと思います。
併せて、不育症患者や小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者等に対する支援も、推進することにいたしております。子供を持ちたいという方々に寄り添い、きめ細やかな対策を進めていきたいと思います。
第2に待機児童問題です。これまで、保育所などの整備を進めてきたことにより、今年は調査を開始して以来、最小の1万2,000人となり、解消までもう一歩のところまで来てます。最終的な解消を目指し、近日中に、「新子育て安心プラン」を取りまとめます。幼稚園やベビーシッターを含む、地域のあらゆる子育て資源を活用しながら、女性の就業率の上昇も見込んで、今後4年間で、14万人分の保育の受け皿を整備いたします。
もう一点、挙げなければならないのが、男性の育児参加です。少子化の問題を解消するには、男性が積極的に育児休業を取得し、これまで以上に、子育てに参加することが不可欠だと思ってます。
今回、全国の小学校について、現在の40人学級を35人学級にする、こうしたことを決定いたしました。40年ぶりの、全学年の学級人数の引き下げであります。きめ細かく、こうした教育に配慮していきたいと思います。
これらの一連の具体的対策を着実に実施し、結婚、出産、子育てしたいという希望を阻む障壁を、一つ一つ取り除いていくことで、長年の課題である少子化対策を大きく前に進めていきたい、このように思います。
日本外交の基軸は日米同盟です。来年1月下旬には、バイデン次期大統領が正式に就任されます。先月の初め、電話会談を行いました。その中で、日米安全保障条約第5条、尖閣(せんかく)諸島への適用、日米同盟の強化、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を確認し、大変意義のある電話会談でありました。従来、米国政府首脳に、公の場で、条約第5条の尖閣諸島への適用を表明してもらうには、相当な時間をかけて、入念な外交努力が行われてきました。
今回は、初めての電話会談の場で先方から言及があるとは、正直想定もしておりませんでした。バイデン次期大統領とは、今後、国会の日程次第ではありますが、できる限り早い時期にお会いして、日米同盟の強化に向けた連携のみならず、コロナ対応や気候変動問題といった、国際社会共通の課題にも、じっくり話し合いたいと思ってます。
私の内閣にとって、引き続き最重要課題であります、北朝鮮による日本人拉致問題です。この秋の一連の国際会議においても、数多くの首脳から理解と協力を示していただきました。バイデン次期大統領の下でも、この問題での日米連携を更に深めていきたいと考えています。
日米同盟を基軸として、自由で開かれたインド太平洋を実現するための取組を戦略的に進めていくとともに、中国を始めとする近隣諸国との安定的な関係を築いていく、この日本外交の基本方針に変わりはありません。私自ら首脳外交も活用しながら、積極外交に戦略的に進めていく考えであります。
今回の世界的なコロナ危機は、国際社会の連帯の必要性を想起させました。各国に内向きな志向がみられる中で、RCEP協定(地域的な包括的経済連携協定)、そして、TPP(環太平洋パートナーシップ)といった経済枠組み、WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機関)といった国際機関の場を通じて、多国間主義を貫きながら、団結した世界の実現を目指し、ポストコロナの秩序づくりを主導していきたいと思います。
そして夏には、世界の団結の象徴となる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催いたします。安全・安心な大会を実現すべく、しっかりと準備してまいりたいと思います。
今年も残すところ、あと2週間です。総裁選や所信表明演説でお約束したことを、できるものからスピーディーに実現し、国民の皆さんに成果を実感していただきたい、そういう気持ちでこの3か月間、全力で取り組んできました。
携帯電話については、今月初め、ドコモが大容量プランについて、2年前に比べて7割も安い、20G(ギガ)で2,980円という料金プランをメインブランドの中で実現すると発表がありました。本格的な競争に向けて、大きな節目だったというふうに思います。
年末年始においても、高い緊張感を持って新型コロナウイルスの対応に当たり、何としてもこれ以上の感染拡大を食い止め、その上で、経済をコロナが始まる前の水準まで回復させます。そして、グリーンとデジタルを原動力として、経済を民需主導の成長軌道に乗せていきたいと思います。
菅内閣において重要なのは、変化に対応するスピード、そして、国民目線の改革であります。行政の縦割り、既得権、そうした悪しき前例主義を打破して、具体的な改革を実行します。皆様方、叱咤(しった)激励を頂きながら、国民のために働く内閣として全力で頑張ってまいりますので、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。