平成23年5月18日
頻繁に行われる大気圏内核実験の影響で、日本の大気中の放射線量が今より遥かに高い数値だった、1950~60年代。核実験によって放出された放射線による、環境への影響と人への健康影響についての情報を収集・評価することなどを目的として、国際連合の中にUNSCEAR(=United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation=「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」)が設立されました。1955年の発足当初から、日本も加盟しています。
こうした核実験の停止にも寄与したUNSCEARでは、核兵器の非保有国が持ち回りで議長を務めることになっています。最近では、この 原子力災害専門家グループの一員の佐々木康人先生が議長(2004~05年)を務められました。
UNSCEARは、人工放射線(平和目的も軍事目的も)、及び自然放射線による被ばくのレベルと、それが人に及ぼす身体的・遺伝的影響、環境への影響について、全世界から得られたデータを詳細に調査し、その結果を国連総会に報告してきました。調査はあくまで科学的になされ、公正中立な立場が堅持されてきています。
この調査結果は、1958年以降いくつもの報告書として刊行されています。最新のものとしては、今回の東電福島原発の事故が起きる半月ほど前に、「チェルノブイリ原発事故による放射線健康影響」が刊行され、同事故以降の約20年にわたる研究成果が網羅されています。その中では、放射線による影響のまとめとして、事故処理作業者に白血病と白内障が増加したことや(*著者注)、ヨウ素131に汚染されたミルクの摂取制限の遅れから住民に小児甲状腺がんが増加したこと等が指摘されています。
このようにUNSCEARは、放射線が誘発するがんなどのリスクの推定値に関する情報を、世界中に提供する責を担っています。今回の事故後、日本では、 国際機関ICRPが定めた勧告に基づいて、学校での放射線量基準などを定めていますが、そのICRPが、勧告を作成する際に基礎として用いているのも、UNSCEARの情報なのです。
来週、5月23日から27日まで、UNSCEARは年に一度の定例会合をウイーンで開きます。私も、UNSCEARの国内対応委員長として、日本代表団に参加する予定です。今年は福島第一原発事故に関する討議がなされ、比較的短期間に報告書が出されることが想定されます。従来からUNSCEARの報告書の中では、わが国で蓄積されてきた原爆被爆者の健康影響調査の研究成果が中心的な情報源の1つとなってきましたが、今回の事故に伴う放射線健康影響の科学的評価においても、わが国の主体的な貢献が期待されています。
- 児玉 和紀
- (財)放射線影響研究所 主席研究員
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)国内対応委員会委員長
*著者注:
これは、「事故処理作業者のなかで高線量の被ばくをした人たちにその傾向がみられた」ことを意味しています。報告書ではまた、より確かな結論を得るためには、調査研究の継続により更なる詳細な検討が必要であることも述べられています。
参考資料
- UNSCEARホームページ
http://www.unscear.org/ (英語) - UNSCEAR 2006報告書(附属書A)「放射線とがんに関する疫学研究」
(英語、上記ホームページからダウンロードできます) - UNSCEAR 2008報告書(附属書D)「チェルノブイリ原発事故による
放射線健康影響」(英語、UNSCEARホームページからダウンロードできます)