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福島原発事故後の国際協力支援
―国境を越えた被災者同士の絆―

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 2014年7月25-27日、福島県立医科大学(以下、福島医大)の構内で、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)と福島医大共催による国際学術会議 が開催されました。(前回の国際学術会議の概要については、本コラム第61回参照)。福島第一原発事故後の復旧・復興に関する多次元の課題が取り上げられましたが、特に“Radiation, Health, and Population”という副題の通り、災害後の精神・心理学的健康影響と科学的情報伝達、社会的影響に焦点を定めた講演と議論が行われました。
 今回ご紹介させていただきたいのは、その会議の中で垣間見ることができた、災害の犠牲者やその親戚、救援活動の経験者たちが国境を越えて思いを共有して絆を深め、協力支援活動をしている実例です。

日米の学生たちの生の声

 筆者にとって新鮮だったのは、最終日の「日米の学生による発表」の二つのシンポジウムでした。まず福島医大の学生が、震災直後からボランティア活動をどのように広げていったか、3.11以後自分は何をしてきたのかを発表。それに対し、ニューヨークのマウントサイナイ・アイカーン医科大学学生が、9.11の災害の援助・復旧に参加してどのように成長したかを発表しました。9.11直後、親類縁者や親しい友人を失って動揺する心身状態で、葛藤しながら活動に参加した経緯は、特に感動的でした。
 さらに、2012年のハリケーン・サンディの災害に対する支援活動の経験も話題になりました。福島で支援活動に従事する、長崎大学、広島大学を始め国内の多くの学生たちの思いを生の声で聴くことができました。また、ニューヨークの日本人医師会が、学生たちの交流に多大の後援をしていることも知りました。
 今回のシンポジウムは私にとって、災害との出会いが学生たちの今後の人生にどのように関わっていくのかを思い描く機会となりました。大きな災害を経験した日米の学生達が情報を交換し、交流し、励まし合い、助け合う姿は、ほのかな希望の光を見せてくれました。

「9.11被災者の家族会」の方々との交流

 7月26日は福島の伝統的行事で全国から人が集まっていたため、市内のホテルが満員で、会議の参加者は二本松市の岳温泉に宿泊するという幸運に恵まれました。勇んで移動用のバスに乗り込むと、「これは9.11用のバスです」と注意されました。2001年9月11日のニューヨーク世界貿易センタービル襲撃事件の「9.11被災者の家族会」(September 11th Families’ Association)の会員20人余りが、慰問と激励のために福島を訪問していて、私達の会議を傍聴しているとのことでした。
 私は、日本座敷で行った懇親会の席上でこのグループの方々に挨拶し、福島の被災者への支援に対し感謝の気持ちをお伝えしました。代表のリチャード・フアーチ氏(Mr. Richard Fuerch)は、「自分達は、9.11の犠牲者の身内として、大変つらい思いをし、回復にいたるまでに多くの困難を経験し、長い時間を必要としました。自分達の思いと経験を福島の被災者と共有して、少しでも早く困難を克服される手伝いをしたいと思い、何度も福島を訪れています。」とおっしゃっていました。
 また事務局を務めるジョイス・グロスバード(Ms. Joyce Grossbard)は、ニュージャージー州イングルウッドのロータリークラブに所属する方でした。私が、「中学時代の同級生が、日本の銀行のニューヨーク支店に勤務していた子息を失った。日本人犠牲者24人の一人だった。犠牲者の父親として捜索に奔走し、悲しい結果を確認して大変つらい思いをした。友人の私達もとても心配していたが、やっと最近元気を取り戻しつつあるように見える」と話すと、共感と同情を示してくれました。
 翌日の会議場で記念品として渡された赤、青、白3色のブレスレットには、日本語で「希望 友情」、英語で“Hope & Friendship”と刻まれていました。この国際会議での出会いを通じて、福島に国内外から様々な協力支援が寄せられていることを再認識し、被災地の復興と人々の心の安寧が加速することをあらためて願いました。


佐々木康人 前(独)放射線医学総合研究所 理事長
前国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員
元原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長

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