レシィ・チェム先生からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載 (Lessons for future generations (August 6, 2014) )してあります。
チェム先生は、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)において福島原発事故直後から健康問題の統括責任者を、また「IAEA COMPREHENSIVE FUKUSHIMA REPORT」において放射線健康影響評価の共同議長を務めておられます。2014年8月末をもって定年退職を迎え、故郷カンボジアに戻られる予定です。
レシィ・キース・チェム博士
国際原子力機関(IAEA)健康部長員
福島原発事故後、私は、福島県内において、福島県立医大、福島第一・第二原子力発電所をはじめ、友伸仮設団地(南相馬市友伸グラウンド応急仮設住宅)へ避難を余儀なくされた市民の方々、特別養護老人ホームである飯館ホームに避難されておられるお年寄りの方々、さらには、ご病気で南相馬市立総合病院に入院されている方々を訪問する機会に得たことに感謝しています。そこで出会った医師ならびに医療関係者は、まさしく初動対応における縁の下の力持ちであり、この方々の勇気と人間性には大変心を動かされました。
すべてがうまくいっている時、医師の活躍はなかなか目に見えないものです。しかし、想像を絶する悲劇に直面したとき、例えば今回の災害のような局面において、我々が困難に立ち向かうためには、想像を超えるあらゆる方法での対応が要求されます。緊急を要する状況下では、危険性が計り知れない状況下であったにもかかわらず、医療関係者はその技能や専門性にかかわらず、大きな救いとなりました。通信と交通の手段がほぼ閉ざされ、また、その他、水道や電気などの基本的なインフラのほとんどが制限されている非常事態下での対応については、医療専門家が大きな役割を担うことになりました。僅かな情報しか手に入らない状況の下、物心両面において集められるものを活用し、最も重篤な被災者を救うための対応を暗中模索で成し遂げたのです。
東北地方太平洋沖地震に続いて起きた原子力災害を含めて、この東日本大震災で命を失った方々は2万人近くに達するということ思い返して下さい。勇気ある彼らとの長い議論で、後方で活動をしていた我々が物事をどう見て、様々な事象に対してどのように伝えるか、についての考え方を大きく変えさせられました。
勇敢な彼らは、我々に専門的知識は必須であるが、今回のような災害時においては、それだけでは不十分であるということを教えてくれました。教育と実践の両方において、異なる専門性を有するもの同士の協力が必要であり、人が直面するであろう困難に対して、共に立ち向かえることに気づかせてくれました。また、放射線医学の分野で、かれらが経験を惜しみなく共有してくれたことで、大きくな恩恵を受けています。
放射線医学分野と科学技術分野の公衆コミュニケーションにおいて、我々がこれまで受けてきた教育と実習との間に大きなギャップがあることに気づかせてくれました。加えて、今回の重要な教訓を、将来の医療関係者の教育に活かす方法についても教えてくれています。
初動の対応に携わったある方が教えてくれたことですが、専門家として、我々(医療関係者)は復旧活動に際し重要な役割を担っていますが、これは科学者として重要な使命です。また我々は社会に対しても同様に重要な役割を有しています。人材の育成を担い、またこの原子力災害からの復旧に貢献しなければなりません。これが、我々の重要な役割です。
かつてガリレオはこういったことがあります。
「暗闇の中から照らされた地球を見れば、貴方にとっては月よりもきれいに見えるでしょう。」福島原発事故に携わった医療関係者の対応、ある意味で“夜の暗闇”にも似た経験が、世界中の人々の心を動かしたのです。
(日本国民、福島県民である)皆様のヒューマニティに感謝いたします。
山下 俊一
福島県立医科大学 副学長
長崎大学 理事・副学長 (福島復興支援担当)