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妊娠・出産と放射線の影響
~福島県の妊産婦、母親になられた方々へ~

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  「生まれてくる子どもに、放射線被ばくの影響がないかどうか心配…」福島での原発事故後、福島県の妊産婦の方々、母親になられた方々は、さまざまな断片的な情報に触れる中で不安になることも多いと思います。ここではあらためて、妊娠・出産と放射線の影響について、科学的見地からご説明したいと思います。

福島県民健康管理調査の結果から

  このコーナーの22回、26回でもご紹介した通り、福島県では原発事故後、県民の方々の健康を継続的に守るために、県と福島県立医科大学が中心となって福島県民健康管理調査が実施されています。
  調査の中で、事故後の妊娠・出産と放射線の関連性については、早産率、単胎出生児の先天奇形・異常の発生率はともに全国平均と変わらないことが報告され、「福島県で生まれた子どもに放射線の影響は認められない」とまとめられています(1)

国際放射線防護委員会(ICRP)の安全基準

  多くの方々が懸念されている通り、仮に妊婦が高い線量の放射線を浴びてしまった場合には、胎児に影響を与える可能性があります。その「高い線量」の基準に関して、ICRPは、「胚/胎児への100ミリグレイ未満の吸収線量は、妊娠中絶の理由と考えるべきではない」と勧告しています(2)(放射線の単位である「グレイ」と「シーベルト」に関しては、このコーナーの第42回で解説されています)。
  福島での原発事故の後、一般市民の中でこれほどの高い線量の放射線を浴びた方は、前述の健康管理調査からも確認されていません。
  また、当然ながら、病院でマンモグラフィーやCT(X線コンピューター断層撮影)などの放射線検査を受けたとしても、胎児の受ける線量が100ミリグレイを超えることはありません(3)

福島県の出生状況

  完全に不安を拭い去ることは難しいと思いますが、少なくとも上記のような科学的見地からは、妊産婦の方々にとって安心して妊娠、出産できる状況と言えます。
  前述の健康管理調査によると、実際の東日本大震災後の福島県内の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの平均数)は1.48で、震災前の1.52に比べてやや減ってはいるものの、引き続き全国平均1.39を上回っています(4)

天皇皇后両陛下の福島訪問

  天皇皇后両陛下は、7月22日から24日にかけて、福島県内各地を訪問されました。新聞記事(福島民報・福島民友 平成25年7月23日など)によれば、皇后陛下は川俣町で、ある妊婦の方に笑顔で近寄られておなかを優しくなでられ、「体調はいかがですか」「頑張ってください」と励ましのお言葉をかけられたそうです。その妊婦の方は、「夢みたいな出来事で感動しています」と涙で声を詰まらせながら語ったという内容でした。
  皇后陛下の、妊婦の方をねぎらう思いやりに、私自身も感銘を受けました。福島で元気に生まれた新生児たち、これから生まれてくる新生児たちが、家族や地域社会の愛情に育まれて、健康で立派に成長していくことを願ってやみません。私たち科学者もその一助となるべく、これからも福島の方々の気持ちに寄り添いながら、科学的見地から丁寧に情報をお伝えしていく決意です。

遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長



参考資料

  1. (1)福島県民健康管理調査 「妊産婦に関する調査」の実施状況について
  2. (2)国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Publication 103)
  3. (3)独立行政法人放射線医学総合研究所編著「虎の巻 低線量放射線と健康影響」
  4. (4)福島県保健福祉部 平成23年人口動態統計(確定数)の概況
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