ドイツからの支援のことば（仮訳：山下俊一）

ハイヨ・ツェーブ（Hajo Zeeb）
ドイツ・ブレーメン大学レイビッツ疾病予防疫学研究所疫学部門教授

　 2011年3月、東日本大震災と引き続き起きた津波は、福島第一原発を含む広い範囲の東日本沿岸部に、甚大な被害をもたらしました。福島で起きたことは、日本の全国民に健康影響についての大きな懸念を抱かせていますし、とりわけ福島県民には厳しい状況となっています。家族や生計を失った方もおられます。日本のみならず、多くの国の人々が、環境汚染の結果引き起こされる健康と次世代の将来全般について、不安を抱いています。

　 私は福島県を二度訪問していますが、それぞれの訪問の準備中に、多くの周辺の人々から驚くべきコメントをもらいました。放射線リスクがあるかもしれない福島へ私自身が行く事への不安はないのか、と。いつも私の応えは、「はい、いくばかりかのリスク増加はあるでしょうが、短期間の福島訪問では私の健康影響は極めて少ないでしょう」。すると続いて、「では福島に永く住み続ける住民の長期に渡る健康影響はどうなのでしょうか」との質問をする方もあるでしょう。

　 ２つの主要な国際レポート（WHOとUNSCEAR）が、福島事故後の将来への健康リスクを評価しています。これら２つのレポートは、いくらか異なるデータや方法を用いているものの、いずれも同じような結論を導いています。すなわち、福島第一原発の事故による放射線被曝に起因する健康リスクは低く留まるということです（もちろん原発近辺に住む若年者を含む集団では、たぶんゼロとは言えないでしょう）。一方では、他の組織や人々が全く異なる結論を述べていますが、彼らの主張するところは（すべてが否定されるわけではありませんが）、支持されないように思われます。現在示されている測定結果は、人々が受けた被ばく線量がチェルノブイリ後に周辺住民が受けたものよりも著しく低いことを示しています。しかし、科学的に正当な放射線量の評価は今後も続けられるべきです。

　 複合災害から2年半近くが経過し、災害管理の情況の中で行われる測定が、福島県被災住民の放射線に起因する健康影響からの防護のために不可欠であるという事が明らかになりました。このことは、潜在的な健康リスクを最小限にする為に、特に汚染した地域からの食品の流通を迅速に制限すること、すでに（欧州と比較しても）十分低い食品の安全基準をさらに低くすることと関係します。しかしながら、避難の途中で、特に高齢者においては貴重ないのちが失われたという事実もあります。多くの住民が自らの判断で福島から離れ去った事は大変理解できる事です。安全に対する十分な確信が持てる場合に限り、避難された方も故郷に戻ることを検討する可能性があります。除染と放射線量モニタリングの計測がその意味で必須です。

　 以上のことから、福島県とその汚染した地域では、当面更なる管理とモニタリングが重要な仕事となるでしょう。これに関しては、地域のコミュニュティーが大きな役割を担いますし、計画的な支援活動や臨機応変な対応と同様に、現状に対する公平で信頼できる情報など、住民が必要とするすべての支援が得られるようにすべきです。日本国民は、災害後の困難を克服する為に、財政面でも団結力の面においても、どんな労をも厭わず努力しています。私たち海外の専門家は，微力ではありますが、皆様の努力に沿えるように、そして、お役に立てるもので求められるあらゆる活動を、引き続き喜んで支援する所存です。