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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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2011年3月の東日本大震災・津波に伴い原発関連の被災を受けた友人達へのメッセージ(仮訳:佐々木康人)

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  ブルッカルト先生からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載Message to our friends affected by the nuclear component of the earthquake/tsunami event of March 2011(August 26, 2013) してあります。また、括弧内は私が付記した部分です。
  Werner Burkart教授は放射線生物学、疫学、環境保健学を専門とする放射線科学者です。ミュンヘンでの教育・研究活動を経て、ドイツ連邦共和国の連邦放射線防護局放射線衛生研究所長として、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)のドイツ代表を務めました。その後国際原子力機関(IAEA)の事務局次長に就任し、核科学とその応用を担当しました。高自然放射線レベル地域の健康影響の研究に強い関心を示し、医学面では、発展途上国におけるがんの放射線治療を推進し、ポジトロン断層撮影(PET)の普及活動を先導しました。2011年IAEA退任後もウィーンに住み、画家のローザ夫人ともども日本とその文化に強い関心を持っています。

ウェルナー・ブルッカルト(於ウィーン)
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学医学部 放射線生物学教授
IAEA前事務局次長


  2011年3月の東日本大震災以来、約2年半が過ぎました。被災した方々そして日本全体が体験した苦難とそこからの回復力に思いをはせながら、怖れずに制約もせずに将来構想を描く時が来ています。
  福島第一原子力発電所からの放射性物質飛散の状況を把握し、軽減する、地方自治体と日本全体での計り知れない努力は、大きな賞賛に値します。国際社会は、日本がこれまでに達成した成果に非常な感銘を受けております。そして地元の当事者に寄り添い、日本の国の外から出来る限りのことを行う準備ができています。穏当で理性的な技術的・科学的水準を保って、主要な放射線科学的事実―これは建設的な対応の基礎となるものですが―が述べられてきました。これらの事実の多くは、不安解消の根拠ともなります。そのうち最も重要なものを、以下に要約します。

  まず初めに、津波が起こった時に原子炉内外には大量の放射能が残留していたにもかかわらず、事故に起因する放射線被ばくを、自然放射線の年間被ばく線量の変動幅を超えるほど受けた人々は、幸いなことに、比較的少人数にとどまっております。これは、良好な気象条件に全般的に恵まれただけではなく、当局と被災者の方々の統制のとれた行動によるものです。チェルノブイリ事故で最も大きな健康被害となった、幼児・子供の放射性ヨウ素による甲状腺被ばくは、福島でも危険性が潜在したものの、防がれたのです。
  第二に、人々の活動と食品の流通の制限(すなわち避難や立ち入り制限および食品の安全基準に基づく出荷制限など)は以下に挙げるもののおかげである程度緩和されます。より賢明なる知見と規制、積極的な対策、さらに、放射性核種による障害を物理学的半減期のみから期待される幅を超えて低減させうる放射線生態学的なメカニズム(風雨などの気候変動などで放射能レベルが減少すること)。第三に、放射線科学に基づく放射能低減と復旧が、津波の非情な力による被害を受けた沿岸部への対策とともに進められました。2011年3月以前の社会経済状況の復活へ向けた重要な最初の成果が、多大な努力によって得られています。
  しかし、やらなければならないこともあります。科学者や専門家には(科学的な知見として)理解しにくいものの、近隣と以遠の社会構造(福島と福島を越えた日本全体での社会構造)に強くかかわることがらがいくつかあります。遺伝子に危害を加える因子としての放射能や放射線によるリスクは真剣に、そして最高度の注意を払って評価する必要があります(ので、過小評価も過大評価もなされるべきではありません)。メディアや政治関係者は、(科学の専門家ではありませんから)適切な慎重さと知識を欠くことがしばしばあります。そのために、放射線防護の目的で考えられた、直線閾値なし(LNT)仮説のような単純化した概念に基づいて、不適切な比較をして(ごく微量の放射性物質による危険性を強調して)、(人々に)不安を与えることがあります。このようにして植えつけられたネガティブな認識が危機的な損害を及ぼし、福島地域とその近隣で実現した多くのポジテイブな展開を妨げています。地域の製品や人々にさえ押される(このような負の)烙印を新たな努力で防がなければなりません。被災者、報道関係者、科学者集団レベルでの情報公開の方針が、社会レベルでの解決に必要な信頼を生み、理由のない心配や怖れから生ずる負の社会経済的影響を防ぐ唯一の手段です。この視点では、複雑な科学的説明ではなく、自然放射線レベルとその変動とそれによる健康リスクとの適切な比較をすることにより課題に対する共通の理解を生み、将来への確信を与えるのに役立つでしょう。この困難な任務の遂行に当たって、さらなる進捗を日本社会が成し遂げると私は信じます。”Japan as One (日本は一つ)”運動のような強い動きがまず成果をあげました。津波や放射性降下物がもたらした問題を克服しようと立ち向かった福島の立派な人々が(地元で)仕事をしっかりとしていく礎となりました。
  天皇陛下の示される地域社会への強い支援が、東北地方と東北を超えて日本全体に、新たな誇りと希望を芽生えさせるでしょう。2011年3月の(東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う)放射線の影響の克服にむけた日本人の創意と忍耐力は感動的なものです。今後の年月に実施すべき仕事が沢山残っています。被災地の人々の意思決定への参加と物質的、政治的支援の継続により社会の傷みが癒され、最終的に、福島が歴史的な成果を得ることとなるのです。

佐々木康人
前(独)放射線医学総合研究所 理事長
前国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員
元原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長

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