放射線による被ばくには、大きく分けて「外部被ばく」と「内部被ばく」があります。このうち、福島での原発事故後に放出された放射性物質(特に放射性セシウムと放射性ヨウ素)による「内部被ばく」については、事故後2年を経過した現在、ほとんど無くなっていることが最近の調査から明らかとなりました。ここではその調査に基づいて、現況をさらに詳しくご報告したいと思います。
- 放射性物質の種類
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原発事故により、大気中に特に大量に放出された放射性物質は、セシウム134、セシウム137とヨウ素131でした。まずヨウ素131については、事故後初期の放出による甲状腺被ばくが心配されましたが、その線量は「甲状腺がんが増える可能性がある」とされている数値を下回り、健康上問題となるものではないことが放射線医学総合研究所によって試算されています(1)。また、ヨウ素131の半減期(放射能が半分に減少する時間)は8日ですので、事故後2年あまりを経過した現在は、すでに環境中からは消失しています。一方、セシウム134とセシウム137の半減期は、それぞれ2年と30年です。つまり、今でもこれらが含まれている食品を食べると内部被ばくの原因となってしまうので、引き続き注意を払う必要があります。
- 内部被ばくの調査
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福島県の方々の体内セシウム量、言い換えれば「内部被ばくの程度」を測定するため、ホールボディカウンターという特殊な装置(2)を使った調査が、現在までに何度か行われています。その結果、いずれの調査報告でも、住民の方々の体内セシウム量は検出できないか、あるいは極めて低い濃度であることが明らかとなりました(3 , 4)。
特に、子どもたちへの健康影響が心配される中、福島県三春町の小中学校生の在校生のうち95%(1,383人)の体内セシウム量を測定したところ、全員が検出限界(検出できる最下限の量)以下でした。
こうした調査結果から、放射性セシウムの内部被ばくによる健康影響、発がんの増加は無いと考えられます。
- 内部被ばくを防ぐための食品規制
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内部被ばくは、食品中に含まれている放射性物質を摂取するか、あるいは大気中の放射性物質を吸入することによって起こります。前述の通り、原発事故から2年あまりが経過した現在、大気中の放射性物質はもう検出されません。あとは、食品からの摂取に注意を払う必要があります。そのため、市販されているさまざまな食品は、引き続き厳しく規制されています。
- 福島産の米の規制
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ここでは食品の中でも特に、福島の代表的な作物の一つでもあり、多くの方が日常的に食べている米の規制についてご説明します。
平成24年8月から、福島県産の米はすべて、放射性セシウムの量を測る検査に回されています。新しく開発された装置を使って、1千万袋(1袋は30kg)以上もの量を、1袋わずか5秒のペースで効率よく検査しています(5)。
その検査で、規制値(1kgあたり100ベクレル)を下回ったもののみ出荷され、規制値を超える米は一切市場に流通していません。なお、規制値を超え、市場に出荷されなかった米は、1千万袋のうち71袋(0.0007%)でした(6)。
- 陰膳方式による検査
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また、別の検査として、食べる分のほかにもうひとつ余分に同じ食事を作ってもらい、食事中に含まれる放射線量を測定する「陰膳方式」)という手法があります。この手法で、福島県を含め全国100の家庭で検査を行ったところ、放射性セシウムは、93の家庭ではまったく検出されませんでした(7)。残りの7家庭では、1キログラムあたりの値が、セシウム137は最高2.4ベクレル、セシウム134は最高1.3ベクレル検出されましたが、ともに健康に影響のない極めて少ない量でした。
このように、体内のセシウム量を測定するいわば「出口のチェック」と、食事中に含まれるセシウム量を測定する「入口のチェック」というふたつの調査が行われていますが、いずれの結果を見ても、厳しい規制値を下回っている市販の食品を食べている限り、セシウムによる内部被ばくは心配しなくてよいと言えます。
- 市販ルート以外の食品の場合
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ごくわずかながら、上記のホールボディカウンターを用いる「出口のチェック」で、体内セシウムの濃度が他の方よりは高い方々がいらっしゃいます。その方々が食べていたのは、市場に出回っていない、つまり、自分で採取したり狩りをしたり釣ったりした未検査のきのこ、いのししの肉(セシウムは肉に集まる性質があります)、川魚だったようで、これらの食品からは規制値を超える放射能が検出されています。
しかしこのケースでも、健康に影響が及ぶような数値は検出されていません。また、そのように体内セシウムの濃度が高くなってしまった場合でも、セシウムを含む食事を食べずにいれば、徐々に体外に排出され、体内セシウム量は低くなっていきます。その半減期は、子どもで約10日、成人で約100日と、子どもの方がより速やかに体内から排出されるとされています(8)。
- おわりに
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なお補足ですが、実は自然界には、放射性物質がたくさんあります。中でもカリウム40はすべての食品に含まれており、当然、人の体内からも検出されます。カリウム40の半減期は13億年で、カリウム40による内部被ばくは、年間0.19ミリシーベルト(2)。私たち人間を含めすべての動植物は、実は普段から、ほんのわずかではありますが、内部被ばくしながら生きているとも言えるのです。
大切なことは、上記のような福島や福島産品の現況を正しく理解すること。その上で、美味しい食事を、楽しみながら、ゆっくり食べるのが、健康によいことでしょう。
遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長
<参考資料>
- (1) 平成24年度原子力災害影響調査等事業(事故初期のヨウ素等短半減期による内部被ばくの線量評価調査)
(最終報告書は未公表ですが、概要は福島県の県民健康管理調査第10回検討委員会資料2に公表されています。 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/6455.pdf ) - (2) 第10回コメント「内部被ばくとホールボディカウンター」
https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g10.html - (3) Hayano RS et al “Internal radiocesium contamination of adults and children in Fukushima 7 to 20 months after the Fukushima NPP accident as measured by extensive whole-body-counter surveys” Proceedings of the Japan Academy Series B 89 (2013) 157-163
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/89/4/89_PJA8904B-01/_article - (4) 福島県住民ホールボディカウンタ測定の線量評価の方針について(福島県保健福祉部, 独立行政法人放射線医学総合研究所, 独立行政法人日本原子力研究開発機構)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/torimatome1412/attach/references_no24.pdf - (5) 米の全量全袋検査(福島県)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/89-3.html - (6) ふくしまの恵み安全対策協議会
https://fukumegu.org/ok/kome/ - (7) 実際の食事に含まれる放射性物質測定調査結果(コープふくしま)
http://www.fukushima.coop/kagezen/2012.html
http://www.fukushima.coop/kagezen/2012_02.html - (8) 体内残留率・排泄率のモデル予想値(独立行政法人放射線医学総合研究所)
http://www.nirs.qst.go.jp/db/anzendb/RPD/gpmdj.php