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"までい"の心で、健康を守るお手伝いを

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平成24年10月31日

 福島県相馬郡飯舘村は、阿武隈山系北部にあり、豊かな自然に恵まれた「日本で最も美しい村」の一つです。私は最近その村を、所属するNPO法人の活動で三度にわたり、一医師として訪れる機会がありました。
 飯舘村は、私達が「忘れかけていた日本」を思い出させてくれる村です。そこは、手間暇惜しまず、丁寧に、心を込めて、相手を思いやる"までい"な生活文化が残っている村だったそうです。しかしその"までいの村"飯舘は、福島第一原発事故によって今や世界中に"Iitate"として知られるようになってしまいました。

 この村は、地震による建造物の破壊はそれほどひどくなく、また内陸であるため津波の影響は全く見られません。加えて、大部分の地域では一時帰宅が許されているために、住まいは思っていたより綺麗で、荒れた田畑を除けば地震や原発事故の爪痕は一見、軽いように見えます。しかし、人々の健康状態は、「爪痕は軽い」などとは決して言えません。

ロハスな暮らしから、全員ストレスの日々へ

 私がこの村を訪ねた目的は、「全村見守り隊」の方々の健康相談です。「全村見守り隊」とは、無人化した村の防犯パトロールを3交代24時間体制で行っているチームです。隊員は、福島県内各地の仮設住宅や借り上げ住宅に分散、避難されている380人の飯舘村村民の方々で、村役場に臨時職員として雇用されています。隊員の年齢は、約9割が50歳以上です。

 相談にお見えになった村民の約半数が、事故前は農業に従事されていた方々で、約6割が二世代以上(中には四世代の方も)で一緒に一つ屋根の下で生活をされていた方々でした。それこそ農繁期ともなれば、日の出とともに野良に出て、日の入りと共に家路につくような日常であったことと思います。日々の食卓を賑わす食材は、その日の朝、畑で収穫した新鮮な旬の野菜、山野で採れた山菜やキノコ、渓流で釣れた岩魚や山女、時にはブランド牛として名高い"飯舘牛"も。そうした生活はまさに、今、生活観の見直しを迫られている私たち日本人が行き着くべき"ロハス"なものであったと思います。

 健康相談は、「全村見守り隊」の集結場所である「いちばん館」で行いました。私が健康相談を担当した方々の約半数が、以前から高血圧の治療を受けておられるか、又は最近血圧が高くなった方でした。約2/3の方々に震災後体重の増加が見られ、約8割の方が既に脂質異常症で治療を受けているか、今回の健診で異常値が認められるなど、顕著な頻度で生活習慣病及びその危険因子が観察されました。また全ての方が、将来に対する不安を抱き、それをストレスと感じるとお答えになっていました。

光ケーブルでつながった絆

 確かに私達が健康相談を行った対象は御高齢の方々だったとは言え、それにしても憂うべき状況です。そしてこの傾向は、飯舘村の村民特有のものではないと思われます。住みなれた家を離れ、避難生活を余儀なくされている方々にとって、食生活を初め日常生活の急激な変化が、こうした健康上の問題の原因であることは明らかです。
 このままでは、「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ 」の報告書 が掲げる「20年後を目途にがん死亡率が最も低い県を目指そう」という提言の実現も、難しくなってしまいます。
 福島県も「県民健康管理調査」を精力的に実施されていますし、各地方自治体も避難された住民の健康管理に腐心されています。私達のNPOでも、私達なりの方法で、今後は健康相談と併行して、管理栄養士による食事指導、理学療養士等による運動療法の指導などを展開して行こうと考えています。
 最近、別のNPO法人の御厚意で、「いちばん館」と、現在私が院長として勤務する山梨県にある病院の院長室との間に光ケーブルが引かれ、テレビ電話ができるようになりました。これにより、村民の方々が入力される歩数、血圧、体重などのデータをいつでも見ることができますし、直接、お顔を拝見しながら健康相談に応じることができるようになりました。飯舘村の方々との間に、ささやかながら私達なりの"絆"が繋がりました。
 実際に飯舘村の方々と接してからは、飯舘村の村民の方々を初め、今回の福島原発事故で未だに不自由な避難生活を余儀なくされている方々に、これまで以上に想いを馳せるようになりました。これからも、避難されている方々の健康を守るためのお手伝いを、"までい"のこころで末永くさせて頂きたいと思っています。


(前川 和彦
 東京大学名誉教授、
 (独)放射線医学総合研究所緊急被ばく医療ネットワーク会議委員長、
 放射線事故医療研究会代表幹事))

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