平成23年11月18日
今回の原発事故の後、各地で「除染」作業が進められています。学校のグラウンドでは、表土を削り取るという方法で除染が行われました。取り除いた汚染土壌をどう処理するかという問題が残ってはいますが、当面、放射線量を低減させるという初期の目的の達成には有効に機能しています。
今後も、人々の生活圏全般(特に、これまで避難区域であった場所への住民の方々の帰還)を広く視野に入れ、更に様々な状況で「除染」を進めていかなければなりません。また、「除染」は単に《汚染を取り除く》だけではなく、《取り除いたものの後始末》まで考える必要があります。
本稿では、より効率的な除染活動を進めるために、下の図の各プロセス毎に、やや広い視野の中で諸々の課題についてまとめたいと思います。
- ①汚染状況の把握
除染の対象を決定するにあたっても、除染方法を選択するにあたっても、まず《どこが・どのように・どれほどの規模で》汚染されているかを知ることが、出発点です。
- ②除染対象の決定
次に、汚染状況に関する情報をもとに、《何を・あるいはどこを・どの範囲で》除染するかを検討し決定します。一般に、汚染の除去をより広範にする事を目指せば目指すほど、後始末をしなければならない除染廃棄物の量が増え、手間と費用もかさむことになる――というジレンマの中で、対象範囲を決めてゆくことになります。
- ③除染方法の決定
より廃棄物の量を抑えつつ、効率的に汚染レベルの低減を達成するにはどうすれば良いか、具体的な方法を検討します。例えば学校のグラウンドの場合には、
- 表土を削いだのち別の場所に運ぶ、
- 二層に掘り、表土とその下の土の層を入れ替える(いわゆる天地返し)、
- グラウンドの限られた場所に積み上げる、
- グラウンドに穴を掘って埋設する ――などが考えられます。
また、どれほどの深さまで表土を削ればよいのか、という点も慎重な検討が必要です。もちろん深く削れば削るほど除染は徹底的にできることになりますが、その分、残土の量が増えることになります。グラウンドの表土を取り除いた後で、外部へ持ち出すことができず混乱の原因になった事例は、記憶に新しいところです。
現状では、事故で放出されたセシウムは表面数センチ以内にとどまっている場合が多いようですが、そうした①からもたらされる情報と合わせて、適切な手法を決定することが重要です。
更に、対象となる場所の性格によっては、除染方法をより慎重に検討する必要があります。例えば、農地の除染の場合には、表面の土壌を除去してしまうと、作物を育てる「母地」を取り除いてしまうことになり、「放射能レベルは十分に下がったけれども、農地としては使えない」ということになりかねません。この場合には、表層の土と下層の土を混ぜ合わせることによって、放射能レベルの部分的な低減と母地の保持の両方を達成する作戦をとることなども検討に値するでしょう。
- ④除染作業の実施
こうして除染計画が策定されると、いよいよ実際の除染作業が実施されます。この際には、作業従事者の被ばくに十分注意する必要があります。汚染物質が《体表面に付着》しないような工夫、汚染物質を《鼻から吸入》したり、《口から摂取》したりしないような対処をした上で、個人被ばく線量計による測定を怠らず、被ばくの管理を行うことになります。
- ⑤放射性廃棄物の処理・処分
続いて、策定された計画にしたがって、廃棄物を処分する段階に進みます。ここでもまた、減量の工夫も必要です。この汚染廃棄物処理作業においても、作業者の被ばくの管理が大切になります。
- ⑥除染の効果の確認
除染作業後には、放射能レベルを確認します。レベルの低下が期待されたほどでない場合には、「除染計画の策定」に立ち返って作戦を練り直す必要があるかもしれません。
- ⑦再汚染・二次汚染の防止
除染作業にあたっては、直接的な除染対象の汚染のみに目が向きがちです。しかしながら、放射性物質は、環境中で様々な形で拡散などをします。高い土地にあった放射性物質が、低地に移動することも考えられます。こうした事も視野に入れ、せっかく除染した場所に再び放射性物質が流入しないよう、工夫が必要です。また、除染作業によって生じた廃棄物が新たな汚染を引き起こさないための対策も講じなければなりません。
【おわりに】
以上、「除染」について様々な観点から検討を加えました。除染作業は、現状の把握に始まり、廃棄物の処理・処分で終わる大変な作業です。ともすると目の前の汚染の除去のみに目が向きがちですが、常に個々の作業を大きな視野の中でとらえて、優先順位を設定した上で、より効果的な除染を考えることが重要です。
(酒井 一夫・(独)放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター長
東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻客員教授)