岸田内閣総理大臣記者会見
【岸田総理冒頭発言】
昨日、モンゴルのオヨーンエルデネ首相との電話会談を行ったことをもって、この夏の外交日程を一区切りつけることができました。お盆が明ければ、いよいよ秋の総裁選挙に向けた動きが本格化することになります。
今回の総裁選挙では、自民党が変わる姿、新生自民党を国民の前にしっかりと示すことが必要です。そのためには、透明で開かれた選挙、そして何よりも自由闊達(かったつ)な論戦が重要です。その際、自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は、私が身を引くことであります。私は、来る総裁選には出馬いたしません。総裁選を通じて選ばれた新たなリーダーを、一兵卒として支えていくことに徹してまいります。
総理、総裁としての3年間、30年続いたデフレ経済に終止符を打つ、そのために、新しい資本主義の下、賃上げと投資促進のアニマルスピリッツを官民連携で復活させる。AI(人工知能)時代における電力需要の大幅増加やGX(グリーン・トランスフォーメーション)に対応するために、カーボンプライシング、GX経済移行債の導入、原発再稼働、新型革新炉の設置など、エネルギー政策を転換する。待ったなしの少子化に対応するために、3.6兆円の大規模な少子化対策を実行する。国際社会の複雑化・困難化に対応して、5年で43兆円、防衛力を抜本的に強化する。強固な日米関係を基礎に、G7広島サミットの開催、NATO(北大西洋条約機構)首脳会合やキャンプ・デービッドでの首脳会合への出席などを通じて、分断が進む国際社会において、協調に向けた国際的な議論をリードするとともに、日韓関係の改善、グローバルサウスとの関係強化など、外交を多角的に展開する。このように、多くの皆様の御協力によって、大きな成果を上げることができたと自負をしております。
他方で、この間、旧統一教会をめぐる問題や派閥の政治資金パーティーをめぐる政治とカネの問題など、国民の政治不信を招く事態が相次いで生じました。
私としては、被害者救済法の成立や政治資金規正法の改正など、課題への対応や再発防止策を講じることが、総理、総裁としての私の責任であるという思いで、国民を裏切ることがないよう、信念を持って臨んでまいりました。
特に、政治とカネの問題をめぐっては、派閥解消、政倫審(政治倫理審査会)出席、パーティー券購入の公開上限引下げなどの判断について、御批判も頂きましたが、国民の信頼あってこその政治であり、政治改革を前に進めるとの強い思いを持って、国民の方を向いて、重い決断をさせていただきました。
残されたのは、自民党トップとしての責任です。もとより、所属議員が起こした重大な事態について、組織の長として責任を取ることに、いささかのちゅうちょもありません。今回の事案が発生した当初から思い定め、心に期してきたところであり、当面の外交日程に一区切りがついたこの時点で、私が身を引くことでけじめをつけ、総裁選に向かっていきたいと考えています。
日本が直面する内外の難局は本当に厳しい状況です。今般の総裁選挙では、我こそはと思う方は積極的に手を挙げて、真剣勝負の議論を闘わせてほしいと思っています。そして、新総裁が選ばれた後はノーサイド。主流派も反主流派もなく、新総裁の下で一致団結、政策力・実行力に基づいた真のドリームチームをつくってもらい、そして、何よりも大切なことは、国民の共感を得られる政治を実現することにあります。それができる総裁かどうか、私自身も自分の一票をしっかり見定めて投じていきたいと思っています。
もとより、私には、政治家・岸田文雄として引き続き取り組まなければならない課題があります。30年続いたコストカット型、縮小均衡型、そして、デフレ型経済からの脱却を確かなものとするためには、新しい資本主義の下での取組を強化し、賃上げや投資増の流れを加速することで、GDP(国内総生産)600兆円を確実なものとしなければなりません。
原発の再稼働、新型革新炉の設置を含めたエネルギー政策についても、電力自由化が進む中で、いかに電力投資資金を確保するか。電力安全保障と脱炭素化をいかに両立させるか。第7次エネルギー基本計画の下で方向性を確かなものとしていかなければなりません。
外交においては、ウクライナ侵略から3年、核による威嚇、そして核使用の可能性すら指摘される中、唯一の戦争被爆国として、平和国家・日本として、終結に向けてリーダーシップを発揮しなければなりません。
そして、来年は日韓国交正常化60年の節目の年、日韓関係の正常化を一層確かなものとしなければなりませんし、戦略的互恵関係に基づいた日中関係、そして、拉致問題の解決を含む日朝関係。「遠くの親戚より近くの他人」と言うように、北東アジアの近隣外交を前に進めていかなければなりません。
憲法改正については、自衛隊の明記と緊急事態条項について、条文の形で詰め、初の発議までつなげていかなければなりません。既に緊急事態条項については、条文化の作業、また、自衛隊の明記については、今月末までに論点整理を衆参で取りまとめるよう指示を出していますが、着実に実行してまいりたいと思います。
そして、政治改革。政治資金規正法改正で残された検討項目について、早期に結論を得ていかなければなりません。既に(自由民主党)政治刷新本部に新たなワーキンググループを設けるよう指示を出したところです。私の政治人生、そして政治生命をかけて、一兵卒として引き続きこうした課題に取り組んでまいります。
まずは、9月までの任期中、総理、総裁としての私の責任において、できるところまで最大限進めていきます。そして、今後とも総理、総裁として、能登半島地震からの復旧・復興や、南海トラフ地震や台風などへの災害対策を始め、最後の一日まで政策実行に一意専心、当たってまいります。
私からは以上です。
【質疑応答】
(内閣広報官)
ありがとうございました。
それでは、まず、幹事社の日経新聞から質問をどうぞ。
(記者)
日経新聞の秋山です。
総理が総裁選不出馬を表明されたその真意を伺います。経済は、デフレ脱却が見えてきて、成長型経済の移行に向けてこれからという段階で、外交も国際秩序の維持・強化を総理が主導して、日本の顔が見える外交が定着し始めました。政権がこのタイミングで代わることでこの流れが失われる可能性もあるわけですが、総裁選に立候補して、3年間の実績を国民に訴えて戦うという選択肢はなかったのでしょうか。また、不出馬ということですが、次の総裁選は誰を支持して、どの部分、何を託すお考えでしょうか。よろしくお願いします。
(岸田総理)
先ほど申し上げたように、経済、エネルギー政策、こども政策、安全保障政策、そして外交。本当に多くの皆様のお力添えもあり、具体的な結果が出てきている、これは自負するところであります。
そして、日本は、引き続き国の内外に難局を迎えている、難局に直面している、こういった状況にあります。この際に、こうした内外の課題にしっかりと取り組んでいくことは大変重要なことであると思いますが、だからこそ、政治の信頼、国民からの信頼、これが大事だと思っています。こうした国民の共感や信頼、これを再び取り戻すことによってこそ、こういった政策というのは前に進めることができると信じています。そういったことから、自民党は変わらなければならない。そして、自民党が変わったということを示す第一歩が、私自身が総裁選挙に出馬しない、身を引くことであると判断して、今回の決断に至った、こういったことであります。是非、自民党として、与党として、しっかりと国民の信頼を得て、国民の共感を頂きながら政策を進めていく、こうした堂々とした道筋につなげていきたいと思っています。そのための私の決断であると思っています。
そして、後継について御質問がありました。当然のことながら、不出馬を表明した人間が後のことについて何か申し上げる、こうしたことは控えるべきであると思っています。ただ、一つ申し上げるならば、政治とカネの問題、あるいは政治の信頼回復の問題について、一連の改革努力が続けられてきましたし、これからも続けていかなければなりません。こうした一連の改革マインドが後戻りすることがないような方であってもらいたいということは一つ感じております。
以上です。
(内閣広報官)
それでは、そのほか御質問のある方は挙手願います。
では、前の左から2番目の方。
(記者)
日本テレビの江口と申します。よろしくお願いします。
今回、不出馬の御決断を決められたタイミングというのはいつだったのでしょうか。また、決断に当たり御相談された方はいたのでしょうか。
(岸田総理)
先ほど申し上げましたが、今回、政治とカネをめぐる問題が発生してから、トップとしての責任の在り方については思いをめぐらせてきました。そして、国会最終盤、政治資金規正法の改正なども実現したわけでありますが、やはり政治とカネの問題は大変重要な問題であり、誠心誠意取り組んだつもりでありますが、やはり政治家としてやりたかったこと、そしてやるべきこと、これを今一度しっかりと整理し、そして方向性を示す、それだけは総裁選挙から撤退するに当たってもしっかりと示していく、そういった政治家の意地みたいなものはありました。ですから、この国会が閉幕してから先送りできない課題について取り組み、結果を出していくことに専念をしていく、こういったことを申し上げてきました。
この1か月半を振り返りましても、実質賃金が実質的にプラスに転じる、あるいは最低賃金も過去最大の上げ幅を実現する、酷暑乗り切りのための経済対策、物価高対策、こういったものを示させていただきました。さらには、旧優生保護法における対応、直接の謝罪ですとか除斥期間の主張を撤回するなどの取組、佐渡島の金山の世界遺産への登録、NATOサミットへの出席、PALM10(第10回太平洋・島サミット)の開催、そして憲法改正に向けても党内の議論を整理して前に進めていく、こういったことを行ってまいりました。自分自身、今日まで取り組んできた政策課題における成果は大きなものがあったと自負しておりますが、それらについても改めて最後に整理し、今後の方向性についてしっかり示していく、これだけはやった上で、今回の不出馬表明をしたいということを強く思ってきました。先ほども申し上げたように、言わば政治家としての意地をしっかり示した上で、これから先を考えた場合に、自民党の信頼回復のためには身を引かなければいけないということで、今回の決断をした、こういったことであります。
是非しっかりとした総裁選挙をやってもらい、そして、選ばれた総裁は、今度こそオール自民党でドリームチームをつくって、信頼回復に向けてしっかりと取り組んでもらいたいと思います。そのための決断でありたいと私は思っています。タイミングということについては、今言ったような思いで取り組んだ上で今日に至った、こういったことであります。
以上です。
(内閣広報官)
それでは、ほかに御質問はありますでしょうか。
では、一番奥の方、お願いします。
(記者)
北海道新聞の藤本です。よろしくお願いします。
先ほどの質問とも関連するのですけれども、この政権を支えてきた麻生太郎副総裁にはいつお伝えになったのでしょうかというのが一つと、あと、この総裁選へ出馬されないのは、いろいろ先ほど総理、御説明されたと思うのですけれども、一方で、やはり支持率がずっと低迷してきたことも要因の一つだと考えております。先ほどおっしゃったような様々な成果を上げたにもかかわらず、どうして御自身の支持が得られなかったと思われるでしょうか。御自身で考えてみて、反省すべき点がございましたらお伝えください。
(岸田総理)
支持率、高い低いについて何か申し上げるつもりはありません。しかし、政治課題において結論を出すということは大事だと思いますが、一方で、政治とカネの問題、政治の信頼の問題、これも大変大きな課題であるということを改めて感じています。ですから、政策を進めるためにも信頼回復に努めなければならない、そう感じて、その第一歩として、私自身の身の処し方を決断した、こういったことであります。
一番最初の部分は、誰かに相談したかということですが、これはいろいろな方々の考え方はお伺いいたしました。しかし、私自身、最後は自分で決定する、これは当然のことであります。私自身が決定いたしました。
以上です。
(内閣広報官)
この後、総理は予定がございますので、申し訳ございませんが、会見は終わらせていただきたいと思います。
今、挙手いただいている社は、追って書面で御質問を提出いただければと思います。本日中に1問、担当宛てにメールでお送りくださいますよう、お願いいたします。後日、書面にて回答をさせていただきます。御協力ありがとうございました。