岸田内閣総理大臣記者会見
【岸田総理冒頭発言】
1年前の今日、ロシアによるウクライナ侵略が起こりました。現代を生きる我々にとって、この2月24日という日は忘れられない、いえ、忘れてはならない日となりました。ロシアの戦車やミサイルが、市民が住む住宅や橋や発電所を無慈悲に襲い、無辜(むこ)の市民が殺害される暴挙に世界中が愕然(がくぜん)としました。あれから1年、正義を取り戻す戦いは予断を許さない状況が続いています。我々は、ウクライナ国民が自らの国は自ら守るという強固な信念と勇気を行動で示している姿を目の当たりにしています。こうした行動の支えとなっているのは諸国民の連帯の心です。
日本国民の皆様にも、この1年間、ウクライナ国民との連帯を明確に示していただきました。2,000人を超えるウクライナからの避難民を受け入れ、生活支援等を表明いただいた自治体は300以上、職場の提供などの支援を表明いただいた企業は800社以上に上ります。また、政府としても、今般、日本に身寄りのないウクライナからの避難民の方々への生活費等の支援を1年延長することを決定したところです。
今回の暴挙に伴うエネルギーや食料品価格の高騰で多大な影響を被っている中での日本国民の連帯の姿勢は、ウクライナ国民に必ず伝わっているものと思います。総理大臣としても、心より御礼を申し上げます。先ほど申し上げたとおり、戦況は予断を許しませんが、国際社会の平和と秩序を取り戻すため、引き続き国民の皆様の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。
力による一方的な現状変更の試みを断じて許すことがないよう、ウクライナに対する支援とロシアに対する制裁を着実に実施し、国連憲章を含む、国際法といった法の支配に基づく世界の平和秩序を回復しなければなりません。
そうした国際社会の固い決意の中核となるのがG7です。我が国は本年のG7議長国です。そして、5月の広島サミットの主催はもとより、1月から12月までの1年間を通じて、ウクライナ問題に対する結束を議長国として主導してまいります。
同時に、日本は、今年から国連安保理非常任理事国も務めており、国連安保理での役割もしっかりと担ってまいります。本日はこの後、23時からゼレンスキー大統領もお招きし、G7首脳テレビ会議を私が主催いたします。欧米の武器支援の動きが広がる一方、ロシアが新たな攻勢拡大に出つつあるなど、戦況は緊迫の度を加えています。
本日は、こうした最新の状況についての意見交換、G7の結束確認、復興に向けた支援の在り方などについて、首脳同士で集中的に議論を行いたいと考えています。また、対露制裁について、G7として新たな制裁の考えを示したいと考えています。さらに、第三国によるロシアへの軍事支援が指摘されていることも踏まえ、G7としてそうした支援を停止するよう呼び掛ける考えです。G7において日本は、アジアからの唯一の参加国です。平和のルールに欧州もアジアもありません。北朝鮮による頻繁なミサイル発射など、日本を取り巻く情勢も緊迫の度を強めています。また、エネルギーや食料の価格高騰は、アジアを始め、世界各国を直撃しています。日本は、平和秩序を守るための結束をアジア各国に働きかけ、同時に、アジア各国の本音も踏まえた議論を米国、欧州の首脳と行ってまいります。
そして、日本は世界唯一の戦争被爆国です。過去77年間の核兵器不使用の歴史が、ロシアによる核兵器使用の威嚇によって汚されることはあってはなりません。今週、プーチン大統領が新戦略兵器削減条約の履行停止を述べたことに強い懸念を表明いたします。核軍縮への取組を続けることがますます重要となっており、G7における議論を先導してまいります。
残念ながら、現時点ではロシアによる侵略行為との戦いの終わりは見えていません。そうした厳しい現実を前に、ウクライナが最も必要としているものは、ロシアと戦う装備品です。日本は、防衛装備移転三原則に従い、防弾チョッキやヘルメット、ドローン等をウクライナに供与してきましたが、殺傷性のある装備品は提供することには制約があります。しかし、だからこそ日本は、日本の強みをいかし、ウクライナの人たちに寄り添った支援をきめ細かく実施してきています。
侵略直後からこれまでに、約9億ドルの人道、復旧・復興支援と、先般、追加表明した約55億ドルの財政支援を含め、計71億ドルのウクライナ関連支援を表明してきました。今後も日本ならではの形で、切れ目なくウクライナを支えていきます。
具体的には、まず、ロシアによるエネルギー・インフラ等への攻撃が継続する中、ウクライナの電力不足への国際的対応が求められています。我が国は米国と連携し、エネルギー分野支援に関するG7プラスの枠組みでの協力を主導していきます。
例えば、日本が進めてきている約1,500台の発電機の供与は、数十万人のウクライナの人々に、厳しい寒さの中で暖を提供しています。また、より広範な人々が裨益(ひえき)するよう、10基程度の大型の変圧施設や約140台の電力関連機材の供与を進めていきます。
戦闘が終わった地では、地雷や不発弾を除去して、安全を確保し、復旧・復興を進めることが重要です。日本には、カンボジア等での地雷除去や復興協力の長年の経験があります。そこで得た知見を活用しつつ、日本の協力により経験を積んだカンボジアとともに、ウクライナに対し、地雷探知機の使用方法に関する研修を開始しました。ウクライナが一刻も早く地雷除去を本格的に進められるよう、研修を継続するとともに、地雷探知機や地雷除去機の供与を進めていきます。また、復旧・復興の前提となるがれき処理のため、建機等の供与も進めていきます。
ロシアによる侵略が始まる前、ウクライナは世界有数の穀倉地帯として、世界各地に農作物を供給していました。ロシアの暴挙でその供給が阻害されたことにより、国際的な食糧危機が発生しています。日本は、これまでも、ウクライナにおける穀物の貯蔵能力の拡大支援や影響を受けている地域向けの食糧支援を実施してきました。しかし、ウクライナが再び世界の食糧庫として穀物を世界に供給できるよう、支援していくことこそが重要です。
その観点から、ウクライナ産のトウモロコシ等の種子を調達し、女性、若者、零細農家を優先して供与することによって、ウクライナの農業生産能力の回復を支援することも準備しています。ウクライナの農業生産、輸出能力を回復させる取組は、グローバルサウスとの関係でも重要であり、今後とも日本ならではの支援を拡充していく考えです。
加えて、教育やガバナンス強化、文化財保護等、ウクライナのニーズに応じた、日本ならではの知見をいかした、多岐にわたる支援を実施していきます。
また、ロシアによる暴挙の影響を受けているウクライナの周辺国を支えていくことも重要です。多くの避難民の流入やエネルギー価格の高騰などの困難に直面しているポーランドやモルドバなど、周辺国に対する円借款の供与などを実施してきています。
今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれない。私は強い危機感を持って、強力な対露制裁とウクライナ支援を実施してきました。そして、G7、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)、東アジアサミット、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議、様々な会議や首脳会談で強く訴えてきました。侵略を受けているウクライナを支えることは、ウクライナへの支援であると同時に、力による一方的な現状変更を認めず、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くとの我々の決意を行動で示していくことです。
世界が歴史的転換点にある今、日本独自の立ち位置をいかして、外交力を発揮する。さらに、有志国と連携して、次の平和秩序づくりに貢献をしていく。5月のG7広島サミット、9月のインドG20、11月の米国APEC(アジア太平洋経済協力)、年末の日本でのASEANとの特別首脳会合など、本年は、インド太平洋地域で重要な国際会議が次々と開かれます。国際社会の平和と安定を取り戻すべく、このアジアから、世界に信頼される日本の外交力を大いに発揮するよう、最大限努力いたします。日本への期待は大きい。日本にとって大きな機会でもあります。そのスタートとして、今晩、G7首脳と充実した議論を行いたいと思います。
ウクライナ情勢が依然不透明な中、世界的な物価高騰に引き続き警戒が必要です。これまでの累次にわたる対策に加え、1月からは電気、ガス料金の軽減がスタートしていますが、現下の情勢を踏まえ、今朝、物価・賃金・生活総合対策本部を開催し、電気料金の値上げ申請への厳格かつ丁寧な査定など、料金抑制に向けた取組や飼料価格の激変緩和対策等を指示いたしました。
ロシアによるウクライナ侵略開始から1年を迎えるに当たり、本日はウクライナ対策を中心にお話をさせていただきました。国民の皆様には多大なお力添えを頂くことになりますが、国民生活を守り、支えるための政策は遺漏なく、しっかりと講じてまいります。国民の皆様の御理解と御協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、これからプレスの皆様より御質問を頂きます。
指名を受けられました方は、お近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。
まず、幹事社から御質問を頂きます。
それでは、西日本新聞、河合さん、どうぞ。
(記者)
西日本新聞の河合と申します。よろしくお願いいたします。
総理のウクライナ訪問について伺います。米国のバイデン大統領がキーウを訪問し、G7首脳の中で現地入りを実現できていないのは岸田総理だけとなりました。5月のG7広島サミットまでに訪問する考えはありますか。検討している具体的な時期があれば、教えてください。また、現地でゼレンスキー大統領と会談する意義をどうお考えでしょうか。キーウ訪問を要請されてからこの間、検討を続けてこられたと思いますが、どういったところに課題、ハードルがあるのでしょうか。乗り越えるべき障壁についてもお答えください。
(岸田総理)
まず、御質問の私のウクライナ訪問については、諸般の事情も踏まえながら、検討を行っているところであり、現時点では何ら決まっていることはありません。
なお、ゼレンスキー大統領との間では、これまでも累次にわたる電話首脳会談等を通じて、緊密に意思疎通を行ってきています。本日、この後に主催するG7首脳テレビ会合にもゼレンスキー大統領を招待し、侵略1年の節目に、G7とウクライナの結束を国際社会に力強く訴え、そして、法の支配に基づく国際秩序を堅持する、こうした確固たる決意を示したいと思っています。
そして、私のウクライナ訪問については、安全確保ですとか、あるいは秘密保護など、諸般の事情も踏まえながら、検討を行っているところであります。先ほど申し上げましたが、時期等、具体的に決まっているものは現在ありません。
以上です。
(内閣広報官)
続きまして、幹事社のNHK、清水さん。
(記者)
NHKの清水です。
ウクライナ情勢の国内経済への影響について伺います。先ほど総理も言及されましたが、侵攻が長期化する中、世界的に食料、エネルギー問題が深刻化して、国内でも物価が高騰しています。いわゆる支援疲れとならずに、対露制裁やウクライナ支援を継続していくためには、国内経済の安定化が不可欠だという見方もあります。与党内からは追加の物価対策を求める声もありますが、予備費の活用も含めて、物価対策をどのように行う考えかお聞かせください。また、時期や規模も含めて具体的に教えてください。お願いします。
(岸田総理)
まず、御質問の物価高対策ですが、政府においては、これまでも物価高の主因であるエネルギーあるいは食料品等に的を絞って燃料油価格の激変緩和ですとか、特に経済的に厳しい世帯への5万円の給付、また、電気・都市ガス料金上昇の負担緩和策など、累次にわたりきめ細かく政策、対策を用意してきたところです。そして、その上で、先ほども触れさせていただきましたが、本日、物価・賃金・生活総合対策本部を開催し、用意した総合経済対策、さらには補正予算、この執行を更に加速化する、これを確認するとともに、エネルギーに関しては、電力の規制料金の改定申請に対して、4月という日程ありきではなく厳格かつ丁寧な査定による審査を行うなど電気料金の抑制に向けて一層取り組むということ、また、食料品に関しては、飼料価格の本年4-6月期以降も見据えた激変緩和対策、あるいは輸入小麦の政府売渡価格の激変緩和対策、これも4月以降も講じていくということ、こういったことを指示いたしました。さらには、賃上げに関しては、大手企業において賃上げに向けて前向きな動きが見られますが、やはり大切なのは、雇用の7割を占める中小企業における賃上げの流れを波及させることであるということから、賃上げ原資の確保を含めた適正な価格転嫁を定着させるため、価格転嫁対策の強化を図ること、こういった指示をしたところであります。現状の総合経済対策を一日も早く執行することと併せて、さらに今、申し上げた点等において一層の対策を用意していかなければいけない、こういった問題意識に立っています。
ウクライナ情勢、先行き不透明であるということでありますので、世界的な物価高騰の動向についても予断は許されないと思います。引き続き機動的な対応を考えていかなければならないと思っております。与党とも連携しながら、情勢をしっかり把握した上で、この対応を考えてまいります。
以上です。
(内閣広報官)
ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けします。御質問を希望される方は挙手をお願いします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。
それでは、共同通信、鈴木さん。
(記者)
共同通信の鈴木です。
広島サミットの関連で伺います。総理が議長を務める5月の広島サミットでも、ロシアによるウクライナ侵攻は、主要テーマの一つと見込まれます。冒頭、G7サミットへのスタートとの御発言もございましたが、今晩のG7首脳テレビ会議をどのように広島サミットの議論につなげていきたいお考えでしょうか。また、広島サミットにもゼレンスキー大統領を招待するお考えはありますでしょうか。
(岸田総理)
まず、先ほども申し上げたように、本日、ロシアによるウクライナ侵略開始から1年を迎える日に、G7議長国としてG7首脳テレビ会議を主催いたします。そして、今回の会議にはG7首脳に加えて、ゼレンスキーウクライナ大統領も冒頭参加することを予定しております。
そして、サミットにどのようにつなげていくかという御質問ですが、日本は本年のG7議長国として、法の支配に基づく国際秩序を堅持するという世界の取決めをリードしていかなければならないと思っています。そのためにも、ロシアの侵略を止めるべく、本日の会議では、G7が引き続き結束して、そして、対露制裁やウクライナへの支援を維持強化していく、こうしたことを確認することが重要であると思っています。そして、その確認、成果を含めて広島サミットにも議論をつなげていく、こうした流れを日本としてリードしていきたいと思っています。
そして、5月のG7広島サミットへの招待国あるいは招待機関については、これはまだ関係国との意見交換も行いながら、議長国として今、検討しているところです。まだ決まってはおりません。ただ、ゼレンスキー大統領を含め、ウクライナ政府との連携あるいは協力、これは本日以降も緊密に実施していくことは重要であると認識しております。現在決まっているのはそこまでです。
(内閣広報官)
それでは、次の方。
それでは、ブルームバーグのレイノルズさん。
(記者)
ブルームバーグニュースのレイノルズと申します。
政府と日銀の共同声明についてお伺いしたいのです。次期総裁候補として政府が提示した植田氏の所信聴取が、今朝国会で行われました。植田氏によると、共同声明を見直すタイミングはまだですということだったのですけれども、総理御自身のお考えはいかがでしょうか。
(岸田総理)
御指摘のように、日銀の総裁・副総裁候補者について、国会において聴取が行われたということですが、植田総裁候補は、政府、そして、日銀の共同声明について直ちに見直すという必要があるというふうには今のところ考えておりません、そのように発言したという報告を受けております。それも含めて、本日の衆議院議院運営委員会における植田総裁候補の発言について、政府として、特段違和感のある内容はなかったと認識しています。いずれにせよ、国会で同意を頂き、新しい総裁が着任されたならば、できるだけ早いタイミングでお会いし、物価安定の下で持続的な経済成長の実現に向けた政府と日銀の連携について確認したいと思っております。
以上です。
(内閣広報官)
次の方。
中国新聞、樋口さん。
(記者)
中国新聞の樋口です。
ロシアによる核の威嚇を受けた核兵器をめぐる情勢について伺います。先ほど総理は、外交力、日本独自の立ち位置をいかしてとおっしゃいましたけれども、正に唯一の戦争被爆国であるということが独自の立ち位置だと思うのですけれども、ロシアが今、先ほど言及もありましたけれども、新STARTの履行停止を表明する中で、核をめぐる情勢が非常に厳しさを増しております。こうした中で唯一の戦争被爆国として、どのように総理、かねて掲げる核兵器のない世界というのに向けて行動していくのか、3か月後には広島サミットも迫っておりますので、例えばより多くの国々の首脳に広島に来ていただくとか、広島、長崎を訪れていただくとか、77年前の惨禍というのを世界に発信していくことが重要だと考えますけれども、その辺りの見解をお聞かせください。
(岸田総理)
まず、御指摘の新STARTですが、新START、これは米露間の戦略的安定性に資すると同時に、両国の核軍縮における重要な進展を示すものだと認識しております。核兵器のない世界に向けては、米露を含む関係国を巻き込んだ軍備管理、軍縮の取組が重要であり、ロシアが同条約の履行を停止する旨発表したこと、このことに強く懸念を感じています。
また、唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核による威嚇も、ましてや使用、これはあってはならないと考えています。広島と長崎に核兵器が投下されてから、77年間核兵器が使用されていないというこの歴史をないがしろにするなどということは決して許されないと思っています。
そして、御指摘のロシアの動きによって、核兵器のない世界に向けた道のり、これは一層厳しいものになっていると思いますが、そうであるからこそ、この厳しい安全保障環境という現実を核兵器のない世界という理想にどのように結びつけていくのか、これは現実的かつ実践的な取組を進めて、国際的な機運を一層高めていくことが重要であると思います。
被爆地を訪問して被爆の実相に触れること、重要でないか、今、御質問の中でそういう御指摘もありました。私もそう思うからこそ、昨年、国連において発表しましたヒロシマ・アクション・プランを実行していくことが重要だと思います。このプランの最後に被爆の実相に触れることの重要性も盛り込ませていただいています。
こうしたヒロシマ・アクション・プランを進めていく、さらには、今、我が国が主導して開催している国際賢人会議における様々な英知、こうしたものも得ながら、一歩一歩着実に取組を進めていくことが重要であると思っています。
そして、是非G7広島サミットを、再び核兵器のない世界を目指そうという国際的な機運を盛り上げる、反転させる機会、チャンスにしたいと思っています。そうした思いで、是非G7議長国としても議論をリードしていきたいと考えています。
(内閣広報官)
それでは、産経新聞、田村さん。
(記者)
産経新聞の田村です。よろしくお願いいたします。
ウクライナ情勢に関連してお伺いします。中国がロシアに軍事支援を行うとの見方を米国などが指摘しています。先ほど冒頭、総理は、第三国に軍事支援、停止するように呼び掛けるというふうに言及されましたけれども、日本政府としても中国の動きを同様に分析しているのかということと、また、仮に中国が軍事支援を行った場合、対中制裁の実施など、日本としてどのように対応していく考えか教えてください。
(岸田総理)
中国の対応についての御質問ですが、まず、先日、2月18日ですが、米国のブリンケン国務長官と中国の共産党中央外事弁公室主任、王毅主任とが会談をしたということが報じられています。この会談においてブリンケン国務長官は、中国がロシアに対して殺傷性のある支援の提供を検討していることに関する懸念を中国側に伝達した旨述べたと承知しています。
この点については、我が国としても、先般のミュンヘンにおける林外務大臣と王毅主任との会談で、ウクライナ情勢について意見交換を行い、中国による責任ある対応を強く求め、また、先日のG7外相会合の議長声明でも、第三者に対し、ロシア軍等への支援を停止するよう求めたところです。
こうした我が国自身の中国との対話、また、G7の議論、こういったものを踏まえて、我が国として対応してまいります。引き続き関連情報の収集・分析、これを行うことが重要だと思いますが、そうした収集・分析と併せて、G7を始めとする関係国と緊密に連携しながら、明確なメッセージを国際社会に発していくことが重要であると考えています。こうした考えに基づいて、我が国としても第三国の対応についてメッセージを発し続けていかなければならないと考えます。
以上です。
(内閣広報官)
それでは、次に時事通信の市川さん。
(記者)
時事通信の市川です。
総理は、先ほど日本は今年のG7議長国で、なおかつ日本の外交力を発揮できるよう最大限努力したいとおっしゃっていました。例えばプーチン大統領と直接電話会談などをして、ロシア軍の即時撤退や核の使用をやめるよう促すお考えはありますか。
(岸田総理)
まず、ロシアによるウクライナ侵略においては、ロシアによるこうした侵略行為をやめさせることは重要であると思っています。しかしながら、ロシアの姿勢、そして、昨今の様々な発言、こうしたものを見ておりますと、ロシアは引き続き強硬な態度を維持している、変えようとしていない、こうした姿勢を感じます。ロシアとして、併合した地域については一歩たりとも譲るつもりはないというような強硬な姿勢を変えていない、こういった状況にあると認識しております。
この情勢に対して、外交力を発揮し働きかけを行うということは大事だと思いますが、今の時点で日本として何をするべきなのか、ロシアの強硬な態度を考えますと、今はまず国際社会が結束をし、ロシアに対する強い制裁と、そして、ウクライナに対する支援を行っていく、こういった意志を明確に示していくことが求められているのだと思います。まずはこうした、G7の議長国として、関係国のそうした覚悟をしっかり確認し、発信していく、これが今の時点で日本として行うべき外交ではないかと思っています。
そうした取組を進める中で、この情勢の変化を注視していくというのが、我が国の基本的な姿勢、現時点における姿勢であります。それから先のことについては、今の時点で予断を持って申し上げることは適切でないと考えます。
(内閣広報官)
それでは、次、TBSの川西さん。
(記者)
TBS、川西と申します。
国民生活に関連してマスクについてお伺いしたいのですけれども、政府は3月13日をもってマスク着用を個人の判断に委ねるということにされていますが、各社、世論調査などを見ておりますと、外すことにやはり慎重な声が現在上回っております。なかなかコロナ前の日常生活を取り戻すにはまだハードルが高いのかなと見受けられますが、政府として、更なるメッセージを出すつもりはお考えでしょうか。また、総理御自身、13日をもってマスクを外されるでしょうか。お願いします。
(岸田総理)
マスクについては、2月10日に政府対策本部決定を行い、専門家の意見も踏まえて、マスクの取扱いについて3月13日から見直すこととし、現在の、屋内では原則着用、屋外では原則不要としている取扱いを改めて、行政が一律にルールとして求めるのではなく、個人の主体的な選択を尊重し、マスクの着用は個人の判断に委ねることを基本とすること。さらには、政府は各個人のマスク着用の判断に資するよう、感染防止対策としてマスクの着用が効果的である場面などを示し、一定の場合にマスクの着用を奨励すること、このようにいたしました。
個々の方々の着脱の判断、これは強制するものではなく、また、通勤ラッシュ時や高齢者施設を訪問するときなど、高齢者等、重症化リスクの高い方への感染を防ぐために、必要なときには引き続きマスクの着用をお願いすることとしております。
政府としては、こうした取扱いについて、分かりやすいリーフレットを作成し、地方自治体あるいは業界を通じた周知をお願いしているほか、国民の皆様にもウェブサイトやSNSを通じて広報を行っているところです。今後とも、テレビCMや様々なツールを使って政府広報を行っていきたいと思っておりますが、私自身、マスクを外すのかという質問につきましては、私自身は正に個人の主体的な選択という基本的な考え方に基づき、場面場面に応じて適切に判断していくということだと思っております。基本的にはマスク着脱が奨励される場面などを除き、マスクを外して過ごす機会が増えることになると考えています。
(内閣広報官)
では、七尾さん。
(記者)
ニコニコ、七尾です。連日お疲れさまです。よろしくお願いします。
今までG7広島サミット、幾つか質問があったと思いますが、更問という形で質問させてください。冒頭、総理からございましたように、ロシアは新START履行の停止を表明しました。それと一方で、それと重ねて、核兵器の使用をウクライナ侵攻でずっとちらつかせて揺さぶりを続けていると思います。日本とロシアの今の関係は、実現可能性も大変厳しいことを承知の上でお聞きしますけれども、岸田総理、政治の最大のテーマの一つとして、やはり核兵器のない世界の実現を目指しているというのはよく分かります。ウクライナだけでなく、ロシアの広島サミットへの何らかの形でのコミットを検討するお考えというのは、総理の今の中で、数か月先になりますが、現時点では難しいかもしれませんが、ロシアの何らかの形でのG7へのコミットを検討するお考えというのは念頭にありますでしょうか。
(岸田総理)
今、国際社会は、ロシアによるウクライナ侵略に直面し、国際社会の根幹が揺るがされている歴史的な転換点にあると認識しています。こうした中で、G7の広島サミットを開催するわけですから、力による一方的な現状変更、あるいはロシアによる核の使用をちらつかせるといったような威嚇、こうしたことについては、断固として拒否する。こういった強いメッセージを発することが重要であると考えています。是非G7加盟国と共に、国際社会に対してこうした、今申し上げたような思い、さらには法の支配に基づく国際秩序は断固として守り抜くのだという決意を発信することが重要であると思っています。
そして、先ほど来申し上げているように、侵略についても、また、核の使用をちらつかせるといった威嚇についても、これは非難されるべきはロシアであるということ。これは間違いないと思っています。よって、G7広島サミットにロシアを関与させるということは考えていませんが、ただ、核兵器のない世界という理想を求めるに当たって、やはり現実に核兵器を持っている核兵器国を動かす、あるいは関与させる。こうしたことは重要である。これは従来から申し上げているとおりであります。
サミットについては、今申し上げたようにロシアの関与は考えていませんが、今後、やはり長い議論の中で、現実的、実践的に核兵器のない世界を目指すためにはどうあるべきなのか、これは一つ一つ丁寧に考えていかなければならない課題であるとも思っています。
いずれにしろ、今の時点で日本として採るべき姿勢、あるいはG7において議長国として果たすべき責任は、先ほど来申し上げているとおりであります。今の時点でやるべきこと、これをしっかり果たした上で、また未来について、様々な状況について注視していく。これが今の時点での日本の採るべき姿ではないかと思っています。
(内閣広報官)
それでは、次に、岩上さん。
(記者)
インターネット報道メディア「IWJ」代表の岩上安身です。よろしくお願いします。
ピューリッツァー賞受賞歴のある米国の著名なジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏が、2月8日、ドイツとロシアを結ぶ天然ガス・パイプライン、ノルドストリームの爆破を行ったのは、米国のバイデン政権とノルウェーであるというスクープを発表しました。これが仮に事実であるとすれば、約1兆円の建設費のかかったノルドストリームにはドイツも出資しており、米国の同盟国でありG7メンバーでもあるドイツにとっては重大な背信行為にもなります。ドイツでは、野党から徹底調査をすべきという声が上がっております。
日本政府は、このノルドストリーム爆破疑惑について、独自に検証や調査を行っているのでしょうか。また、米国は誠実な同盟国なのかどうか、疑いの出ている中、日本の安全保障を米国に丸ごと委ねていていいのかどうか。岸田総理がおっしゃるように、自国は自国の力で守るべきと言うならば、有事の際の自衛隊の指揮権まで米国に渡してしまっていいのか、再考すべきなのではないでしょうか。総理のお考えをお聞きしたいと思います。
(岸田総理)
まず、御指摘の報道記事につきましては、米政府は完全なるフィクションであるという評価をしておりますし、ノルウェー外務省もナンセンスであるとしています。多くの国々が、関与を明確に否定しているものであると思います。もちろん、おっしゃるように、調査しているという国もあるのかもしれません。その調査等については、行方は見守りたいと思いますが、多くの国において、こうした記事に関しては否定的な評価がされていると承知しております。
そして、その上で、自衛隊、我が国の安全保障ですが、自衛隊による活動については、米軍との共同対処等も含めて、その全てが我が国の主体的な判断の下に、憲法、国際法あるいは国内法に従って行われる。自衛隊及び米軍は各々独立した指揮系統に従って行動する、これは言うまでもないことであると思っています。我が国として、我が国の国民や命を守るためにどうあるべきなのか、外交、安全保障について、その観点から政策を判断し、そして、行動を決めていきたいと考えております。
以上です。
(内閣広報官)
それでは大変恐縮ですが、時間の関係で、あと2問とさせていただきます。
それでは、フジテレビの瀬島さん。
(記者)
フジテレビの瀬島です。
広島サミットの招待国の関連で伺います。韓国の招待をめぐっては、いわゆる元徴用工訴訟問題の解決が最大の懸念となりますが、総理は、サミットまでに日韓首脳会談を開いて決着を図るなど、早期解決の道筋も描いていらっしゃいますでしょうか。現在の協議の状況も踏まえて、お考えをお聞かせください。
(岸田総理)
先ほども少し申し上げましたが、まず、G7広島サミットの招待国に関しては、現在検討中であり、何ら現在決まってはおりません。
そして、韓国との関係については、日韓関係、昨年11月の日韓首脳会談において、私と尹大統領との間で、日韓間の懸案の早期解決を図ることで改めて一致いたしました。そして、それを受けて、現在、外交当局間で協議を加速してきているところです。
1965年の国交正常化以来築いてきた友好協力関係の基盤に基づいて、日韓関係を健全な形に戻し、更に発展させていくため、韓国政府と緊密に意思疎通をしていきたいと考えております。ですから、今のところ、引き続き努力を続けるという段階であり、今後の見通しについては、何も決まっていない、これが現状であります。
(内閣広報官)
それでは、テレビ東京の篠原さん。
(記者)
テレビ東京の篠原でございます。
日銀の植田総裁候補の聴取についてお伺いしたいと思います。先ほど今日の発言に、全体で違和感はなかったというお話でございましたけれども、マーケットを含めて、ちょっと驚きをもって受け止められたのが、植田総裁候補が、2パーセントの物価上昇率が見通せると見込まれる場合には、金融政策の正常化に向かって踏み出すことができると、将来的な出口戦略に言及しました。
この点について、岸田総理は、どのように受け止められますでしょうか。また、植田氏の日銀総裁としての適格性について、改めて総理のコメントを頂ければと思います。
(岸田総理)
まず、今の発言については、従来のアコードに基づく方針、これを改めて発言されたものではないかと思います。特段、今までと大きな変化を示すような発言ではないと認識いたします。
そして、植田総裁候補の人選ということですが、日銀の総裁、さらには副総裁候補の人選に当たっては、まずは、政府との連携の下に、経済、物価、金融情勢を踏まえつつ、適切な金融政策運営を行っていかれる方を念頭に検討してきました。
そして、特に近年、リーマンショック後でありますが、主要国中央銀行トップとの緊密な連携や、内外の市場関係者に対する質の高い発信力、受信力という点が格段に重要になってきているということは、国会の委員会でも私自身申し上げたとおりであります。こういった点も配慮して、人選を進めたところであります。
こうした観点から、日銀総裁の候補者として、国際的に著名な経済学者であり、また、金融分野に高い見識も持っておられる植田和男氏を選任したということであります。
是非政府、日銀一体となって、物価安定下での持続的な経済成長の実現に向けて取り組んでいきたいと考えており、植田総裁候補が、もし、国会において了承され、そして着任されたならば、連携をしっかり確認していきたいと考えています。
以上です。
(内閣広報官)
以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。
恐縮ですが、現在、挙手いただいている方につきましては、本日中に1問、担当宛てにメールでお送りください。後日、書面にて回答させていただきます。
御協力ありがとうございました。