知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会
知財人財育成プラン検討ワーキンググループ(第3回)



  1. 日時 : 平成23年10月24日(月)10:00~12:00
  2. 場所 : 知的財産戦略推進事務局内会議室
  3. 出席者 :
    【委 員】妹尾座長、青山委員、荒井委員、佐々木委員、末吉委員、杉光委員、住川委員、
    高倉委員、中島委員、本田委員、八島委員
    【事務局】近藤事務局長、上田次長、安藤参事官、髙原参事官、藤井政策参与
  4. 議事 :
      (1)開  会
      (2)知財人財の育成・確保について
      (3)「知財人財育成プラン」策定に向けた検討の方向性について
      (4)閉  会


○近藤局長
 おはようございます。実は、妹尾先生が予定どおりお見えのはずなのですが、ちょっと遅れておられるようでございまして、連絡が取れておりません。恐らくもうすぐお見えになると思いますが、それまでの間、冒頭の事務的な御説明を含めて、妹尾座長に代わりまして私の方で議事を進めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 ただいまから「知財人財育成プラン検討ワーキンググループ」の第3回の会合を開催いたしたいと思います。本日は、御多忙のところ、御参集いただきまして、ありがとうございます。
 本日は、まず、前回と同様に、各セクターの有識者からのヒアリングを行わせていただきます。続きまして「知財人財育成プラン」に向けた検討課題についての議論を深めたいと考えておるところでございます。
 本日は、上條先生、澤井先生から御欠席の連絡をいただいております。
 本日は、参考人といたしまして、本ワーキンググループの親会でございます「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」の委員でもいらっしゃる小川紘一 東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員、奥山尚一 日本弁理士会会長、また、本年3月まで知財戦略本部員を務められると同時に「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」の委員でもいらっしゃいました佐藤辰彦 創成国際特許事務所所長・弁理士、もうお一方、中山喬志 日本知的財産協会専務理事にもお越しをいただいているところでございます。よろしくお願いをいたします。
 また、関係省庁といたしまして、特許庁総務部から中村知的財産活用企画調整官にもオブザーバーとして参加をいただいております。
 このように申し上げているうちに妹尾先生が到着されましたので、早速、妹尾先生にお返しをしたいと思います。
 
○妹尾座長
 ありがとうございます。
 皆さん、おはようございます。済みませんでした。所用で遅れました。
 今の議事に続いて、近藤局長、御挨拶をというふうに振り返しをさせていただきます。無茶振りのし合いでございますが、局長、よろしくお願いします。
 
○近藤局長
 おはようございます。御無礼いたしました。妹尾先生がこのぐらいの遅れで来るのであれば、待っていればよかったなと思って、今、反省をしているところでございます。
 このワーキンググループももう3回目でございます。8月に設置をいたしまして、あのときはまだ暑かったんですけれども、あっという間に3回目になったなと、こんなふうに思ってございます。この間、特許の制度の関係では、相当、世界じゅうでの動きもございました。例えば、皆様御承知のように、アメリカでいよいよと言うんでしょうか、やっとと言うんでしょうか、「先発明主義」から「先願主義」への歴史的大転換もございました。また「特許審査ハイウェイ(PPH)」もいよいよ中国と一緒にやることになりまして、中国なども相手に入ってくると、こういう時代になってきたわけでございます。グローバル・ネットワーク時代ということで、大きな変化が生まれているような気がいたします。
 知財に限らず、マクロ経済でも、例えば、ギリシャの話一つ取っても、ギリシャは恐らくGDPでわずか20兆円とか25兆円ぐらいの国なんです。そのぐらいの国が世界じゅうを振り回している。英語でも「尻尾が犬を振り回す」ということわざがありますが、そんな感じにすらなっているわけであります。
 私が申し上げたいのは、要は、一つひとつの世界の動きが日本に直接に響いてくると、こういう時代になってきたんだと思うのです。世界に出ていく、世界の中で活躍できる人財、そういったことも含めて、我々は、10年後、更には20年後を見据えた人財育成をしていくことが必要だろうと、こんなふうに思っているわけでございます。改めて皆様方に御審議をよろしくお願いをしたいと思います。
 年内とりまとめを目途にやっております。年内と言いましても、あと2か月もするとクリスマスでありまして、余り余裕はございません。相当ハイペースで審議を進めてまいります。また一層御負担をかけまして、妹尾先生の心臓がまた悪くなるといけないのですが、よろしくお願いしたいと思います。
 最後にもう一つ、今日、紙と一緒にバッジを配ってございます。これはクールジャパン、日本ももう一回頑張ろうではないか、震災から立ち上がって、世界に向けて頑張っていこうということで、私どもの知財事務局が中心になりまして、政府全体の共通のロゴとバッジをつくりました。今日、お配りをしてございますので、是非、御着用をいただければと思います。
 ちなみに、このデザイナーは佐藤可士和さんという、うなずいておられる方も何人もおられますが、ユニクロとか、ツタヤとか、今、ちょうどやっている東京国際映画祭などを含むコ・フェスタとか、こういったものをつくった新進気鋭のデザイナーのデザインでございます。正直申し上げて、私は相当気に入っておりまして、是非、皆様にも御着用をお願いしたい、こんなふうに思っているところでございます。
 ちょっと挨拶が長くなりましたが、ありがとうございました。妹尾先生にまたお返しをいたします。
 
○妹尾座長
 ありがとうございます。
 先日、このデザインを局長とお話ししたときに、ジャパンネクストとあるのは、まさかチャイナファーストではないでしょうねと申し上げまして、そういう意味に取られないように頑張ろうということかと思います。
 もう一点、近藤局長と意見が合ったのは、これ、さっと見ると、スプートニクに見えるねと。これでうなずいている方はかなりの世代の方だというのがよくわかります(笑)。世代を認識するための道具に使える、こういうことがよくわかりました。ありがとうございます。
 それでは、早速、始めたいと思います。まずは、資料の確認を行いたいと思いますので、高原参事官からお願いいたします。
 
○高原参事官
 おはようございます。議事次第の1枚紙の下に関係資料を置いております。本日は資料の種類が多いものですから、御確認をいただければと思います。
 なお、「席上配布資料(委員限り)」と書いてあるものがございます。委員の方から御提出していただいた資料でございますが、一部に未公開情報もございますので、恐縮でございますが、その旨の表示がある資料につきましては、委員御本人限りとさせていただければと存じます。よろしくお願いいたします。
 右肩に「資料1-小川参考人」と書いてございます資料は委員限りの資料ということで、よろしくお願いいたします。
 それから「資料1-奥山参考人」と書いてございます資料も委員限りということでお願いをしたいと存じます。
 次は、「資料1-佐藤参考人」と書いてある資料でございます。
 さらに、「資料1-中山参考人」と書いてございます資料も委員限りということでお願いをいたします。
 次の「資料1-荒井委員」は、荒井委員から御提出いただいた資料です。
 資料1の最後は「資料1-杉光委員」と書いた資料でございますが、杉光委員からは別添資料も提出いただいております。こちらも御確認いただければと存じます。
 以上が資料1のシリーズでございまして、その次は、資料2「『知財人財育成プラン』策定に向けた検討の方向性(案)」でございます。
 それから、資料3「今後の進め方について」でございます。
 そして、1つ参考資料がございまして、参考資料1として前回のワーキンググループでの主な意見をまとめた資料を添付してございます。
 資料の不足等はございませんでしょうか。以上でございます。
 
○妹尾座長
 ありがとうございます。
 もし、資料に何かございましたら、事務局が対応しますので、よろしくお願いいたします。
 では、早速、知財人財の育成・確保に関する有識者のお話を伺いたいと思います。本日は、先ほど御紹介のように、6名の有識者の方にお話を伺います。4名の参考人及び委員であります荒井委員、杉光委員からヒアリングという形です。質疑は、まとめてやるか、適宜やるか、流れを見ながら差配をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。いずれにせよ、時間が詰まっておりますので、できるだけ要領よく行きたいと思いますので、御協力いただければと思います。
 では、早速ですけれども、小川参考人からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
○小川参考人
 皆さん、おはようございます。小川でございます。
 先ほどの局長が話題になさったバッジを1週間ほど前に頂いたためか少し頑張りすぎてしまい、持ち時間が20分しかないのに30枚ものPower Point図を準備してしまいました。全てをご説明する時間がございませんので、ご容赦ください。
 (PP)
 今回は特に、知財人財育成はなぜ変わらなければならないのか、という問題提起のもとに、変わらなければならなくなった背景をいろいろな視点からご説明いたします。我々はこれまで知財立国の政策を推進し、特に特許の出願・登録という供給サイドの点では世界的な成果を上げてきました。次に、このように成果は出ているのですが、圧倒的な特許数を誇った企業が何度も市場撤退を繰り返すという事例が1990年代の末から何度も繰り返されるようになっていたのです。事実今日は、この事実を皆さんと共有し、なぜこんなことになるのかを、まず考えてみたいと思います。次にこれらの事実を冷静に受け止めながら、我々がなぜ変わらなければいけないのかということを、デジタル化と国際標準化によって技術伝播が加速するようになった事実、そしてこのタイミングから知財が持つ最大の機能としての差し止め訴訟権が必ずしも有効に機能しなくなっていた、という実ビジネスの姿を紹介します。その背後にあるのがクロスライセンスを前面に出して大躍進するアジア企業であり、アジア市場の急成長でした。非常に安定と言われ続けたグローバル産業の構造が一変して知財が本来の基本機能を発揮し難くなり、知財人財の育成も変わらなければならなくなっていたのです。
 (PP)
 最初にご紹介するこの図は、日本が知財の創造という意味でなら世界に誇る成果を上げことを示す具体的なデータです。ごらんになってわかりますように、日本では研究者人口の約半分以上(53%)に相当する40万件以上もの特許が毎年日本国籍を持つ人によって出願されています。研究者人口当たりの出願ではヨーロッパ(9%)やアメリカ(19%)に比べてはるかに大きい。一方、登録でもアメリカとほぼ同じトップクラスです(2008年までのデータ)。こういう意味では、知財立国の政策が大変な成果を上げました。
 (PP)
 しかしながら、知財立国の政策が謳った三位一体ということから見ますと、多くの矛盾が顕在化しています。例えば競争政策としての知財政策とマクロ経済成長論から見た知財の役割が本質的に持つ矛盾が、未だに解決されていません。例えば経済学者は、特許というのは技術知識の主たる流出経路である事実を、多くの実証研究を踏まえながら主張しています。彼らの主張は、特許を出願すればするほど技術知識がスピルオーバー(伝播/流通)するので、別の国/企業がこれを更に活用しながら技術イノベーションを生み出し、経済を成長させる、という主張です。マクロな経済成長にとってはスピルオーバーさせる制度設計がいいことなんですね。しかし巨額の研究投資をしてもその成果が国や企業に留まらずにスピルオーバーするのなら国や企業の競争優位に結びつかない、というのが競争政策や事業戦略側の主張です。この矛盾は未だに解決されないままに、科学技術基本政策と知財立国政策が同時進行しているのがこれまで日本でした。事実、1996年に施行された第一期科学技術基本政策には、知財に関する記述が全くありません。日本は最初からこの矛盾を広げるイノベーション政策を推進してきたようです。我々はこの矛盾をどうしても解決しなければなりません。
 もうひとつの矛盾が国際標準化です。1990年代からデジタル化が進み、人工物の設計に組み込みシステム(マイクロプロセッサーと組み込みソフト)が深く介在するようになりましたが、ここに国際標準化が介在しますと、製品を構成する基幹技術の結合インタフェースと結合公差が、共にグローバル市場へ公開されます。したがって基幹部品が単独でグローバル市場に流通し、これを調達すれば誰もが市場参入できるようになりました。実証研究によれば、ここから技術知識の伝播スピードが10~30倍速くなって産業構造が一変し、結果的に日本企業の国際競争力を弱体化させていたのです。国際標準化を推進するのなら、これによって変わるグローバル産業構造の激変を予測し、この中に適応した知財保護と知財活用を我々の手で新たに生み出す努力をすべきでした。しかし我々は、三位一体と言いながら保護と強化の政策を後回しにし、知財の創造(特許出願)だけを強化して国際標準化を推進し、これによって逆に国際標準化が生み出す巨大市場から締め出されることになっていたのです。皮肉なことに、特許の数が自己目的化したことによって、技術のスピルオーバーが更に加速していたのです。この政策推進については、アカデミアも決して無罪ではなかった。ごく最近までこの矛盾を体系的に指摘することがありませんでしたし、それ以前に、知財の公開がイノベーションを促進させて国の競争優位に繋がると当時主張したのも、原理主義者と呼ばれるアカデミアの人々でした。
 3番目の矛盾、すなわち、技術知識を含む広い意味での営業情報が、人を介してとどめなく流出している事実です。これはよく聞く話ですので皆さんもご存じでしょう。人を介した技術情報の漏洩は、特に日本でひどい状況になっており、例えば1980~1990年代の半導体、1990年代から2000年代の液晶やDVD、自動車、金型そして現在のLED照明やデジタル家電用の蓄電池、自動車用の蓄電池からパワー半導体まで、今後の日本の雇用・成長を守ると期待されている多くの産業でこれが起きているのです。技術知識が人を介して流出し、製品のレベルで知財の保護も活用も機能しないのなら、我々は何を頼って雇用・成長を考えればよいのでしょうか。技術流出を20年以上も放置したことで国富を留めも無く流出させる結果となったのです。
 日本は第一期科学技術基本政策から現在まで60兆円もの税金を投入してきました。民間企業の研究開発投資も含めると200兆円の巨額になります。この85%が製造業で使われました。しかしながら上記の実態を鑑みていえば、他国の中央研究所になっている日本という国が浮かび上がります。これを放置すれば、巨額の科学技術投資が国内の雇用や成長に寄与するのは極めて限定的になるでしょう。その背後にあったのが、知的財産の役割を取り込まなかった日本の科学技術基本政策でした。日本が参考にしたアメリカのヤングレポートには、知財の重要性が明確に位置付けられています。
 (PP)
 知的財産、特に特許の基本機能が機能し難くなったもう一つ重要な背景に、製品体系が複合化している事実があります。例えば機能材料や素材であれば、単純明快な物質特許で守られますので、医薬品と同じようにクロスライセンスを考慮する必要はありません。したがって特許の数と質がそのままグローバル市場の競争優位に直結します。しかし21世紀の我々が目にする多くの製品は何百という技術モジュールで構成されていますので、一社が全てを自前で開発することは不可能です。例えばDVDは、2,067件の必須特許で構成されています。したがって1社で全てを所有することが不可能であり、他社の特許をクロスライセンスによって使わないと商品開発ができません。クロスライセンスが当たり前の製品になってしまえば、差し止め訴訟権は単にロイヤリティーの支払いを催促する権利であるに過ぎません。
 クロスライセンスになれば、例えロイヤリティーの全額を支払ったとしても、その総額は工場出荷額の約5パーセントというのが商慣行です。他の製品とのクロスライセンスも交渉の道具に使うので、実質的なロイヤリティーはトータル・ビジネス・コストの中の1%以下ではないでしょうか。例え上限に近い5%であっても企業のオペレーションコスト(特にオーバーヘッド)や税制を含む国のビジネス制度設計および為替によって、トータル・ビジネスコストに与えるロイヤリティーのコストが余りにも小さいのです。したがって、DVDのような複合型の製品になればなるほど、特許の質も数も競争力の源泉にならなくなってしまう。技術防衛の役割としてはそれなりに機能しますが、これは単に必要条件に過ぎません。特にデジタル型の製品でこれが顕著に現れました。日本の電機産業が非常に苦しんでいて、グローバル市場から消える可能性すら否定できない事態となった背景がこれであり、同時に産業構造の変化がこのような経営環境を日本企業に突き付けているのです。
 一方、これをキャッチアップ型の国や企業から見ますと、経営環境の変化が全く逆に働き、徹底してクロスライセンスを狙いながら先行企業の技術成果を利用できるようになっています。1970年代までの欧米企業に対する日本企業や1990年代以降のアジア諸国企業、例えばサムソンがその代表的な事例です。1980年代までの日本企業は数多くの周辺特許・応用特許を出願し、クロスライセンスによって、欧米企業による差し止め訴訟を回避し、またロイヤリティーの支払い軽減を図りました、21世紀のキャッチアップ型アジア企業も同じです。サムソンは現在アップルと知財で係争していますが、彼らは徹底してクロスライセンスへ持ち込もうとするでしょう。一方、アップルはこれを阻む戦略を徹底させるはずです。クロスライセンスになればアップルの競争優位が極端に低下して日本企業と同じ状況に置かれるからです。
 ここで我々は、“技術と知財に優るだけでは勝てない”、経営環境が到来した事実、そしてこの背後に産業構造の大転換が起きているという事実を、改めて共有したいと思います。
 (PP)
 他にも類似の事例がたくさんあります。この図は、2005年までにアメリカで登録された液晶関連の特許数であり、累計25,000件の中の85%以上を日本企業が持っています。しかしながら2000年ころから実ビジネスで勝てなくなりました。同じようにDVDでも日本企業が必須特許の90%を持っていますが、実ビジネスでは液晶と全く同じ軌跡を描いて市場撤退を繰り返しました。現在でも残っている日本の企業は1社もありません。
 (PP)
 リチュームイオン電池でも事態は変わりません。これまで出願された特許(10万7千件)の70%以上を日本企業が持っていますが、グローバル市場の市場シェアが、他の事例と類似の傾向で急落しています。
 (PP)
確かに日本企業は技術開発や製品開発に膨大な金を注ぎ込みますので日本企業が新規市場を生み出します。しかしながら見事に同じカーブを描いてシェアを落としました。実ビジネスの現場からこれを見ますと、特許とは一体何だろうかという本質的な問題に立ち帰らざるをえません。知財マネージメント全体に関わる本質的な問題に我々は直面しているのです。
 (PP)
 この図は、横軸に研究開発投資を、縦軸に営業利益を取り、二つの関係を俯瞰したものです。先ほど申し上げたように、産業構造が変わって技術が伝播し易くなった製品領域、特にオープン化とかグローバル化というキーワードが広がる産業の領域では、研究開発投資をすればするほど、営業利益が極端に小さくなっています。しかしながら、技術伝播がし難く産業構造がゆっくりとしか変わらない産業領域、例えば農業機械、建設機械、事務機械、化学、自動車、機能材料、そして同じ電機産業であっても重電部門・社会インフラ系の市場領域では、営業利益が研究開発投資と強い相関をもちます。要するに、産業構造によって、知財マネージメントを変えなければいけないという仮説がこの図から導かれます。
 (PP)
 逆に、このような産業構造の変化を韓国から見るとどう見えるでしょうか。この図から明らかなように、韓国製造業のGDPは、技術伝播スピードが加速して産業構造が変わり、比較優位の国際分業を起点にしたビジネス・エコシステムが最初に現れた電機及び電子機器で、1990年代の後半から成長軌道に乗りました。しかしながら産業構造が変わっていない精密機械産業などの領域ではGDPの伸びが非常に小さい。
 台湾の製造業を見ますと、韓国のケースと全く同じでした。中国の広州とその周辺や上海地区でもほぼ類似のデータが得られています(現在、細部を分析中)。つまり、アジア諸国は、比較優位の国際分業、あるいはビジネス・エコシステムと呼ばれる産業構造が大規模に現れ、技術の伝播スピードが10~30倍も速くなったタイミングで、経済成長の軌道に乗ったのです。しかしながら、この産業構造転換が日本企業に対して逆の影響を与えました。そしてここから、知財の在り方、そして技術イノベーションの在り方も本質的に変わってしまったのです。
 (PP)
 産業構造が変わるとなぜ日本企業が勝てないのでしょうか。これをトータル・ビジネスコストの視点で考えてみましょう。この図は日本企業と韓国企業のビジネスコストを比較したものです。太陽電池のケースを想定しています。日本企業と韓国企業で大きく異なるのが設備の減価償却コスト、売上高間接費(コスト)、そして知財コストです。これ以外に政策的な補助金や法人税、為替も含めると、差がさらに拡大します。ここから明らかなように、技術伝播し易い、あるいは調達し易い経営環境では、技術や知財以外の要因、つまり、減価償却や売上高間接費などに代表される国のビジネス制度設計および企業の経営オペレーション側でトータル・ビジネスコストが決まってしまうのです。そして技術力や知財がトータルコストへ与える影響は、相対的に小さくなってしまう。
 先に技術開発へ投資し、多数の特許を出願・登録した企業の方が、実ビジネスの現場で、コスト競争に勝てなくなってしまうことを、これは意味しています。一般に、これまでの商慣行でロイヤリティーが工場出荷の5%程度と小さく、これより遥かに巨額の減価償却や売上高間接費を少し調整すれば、例え特許を殆ど持たなくても(5%のロイヤリティーを全額支払っても)コスト競争に勝てる、ということになります。このような経営環境は、デジタル技術が製品設計に介在し易く、したがって産業構造が最も早く変わったエレクトロニクスで、1990年代の後半に顕在化しました。しかしながら類似の経営環境が、自動車産業や建設機械、事務機械であっても、途上国の市場では既に顕在化しています。多くの産業領域が急速に構造転換しているのです。
 したがって、いずれ大多数の産業においても、特許の数ではなく、特許(知財)の保護と活用に焦点を当てた知財政策へ転換させる必要があります。政策転換せずに放置すれば、日本企業の多くが現在のエレクトロニクス産業と同じように、グローバル市場から撤退を繰り返すことになるでしょう。特許の数が自己目的になって保護・活用を怠ると、日本が生み出す技術イノベーションの成果を留めも無く流出させるという意味で、数を自己目的にした現在の知財政策が、逆に技術流出を加速するだけになってしまうからです。
 (PP)
 これまで、特に産業構造が変わると知財の保護がいろんな意味で難しくなっているということを申し上げました。
 では、知財の活用はどうでしょうか。少なくもこれまで公開されている知財政策関連の予算配分を見ますと、知財の活用という項目にTLOの推進や知財の流通だけが挙げられており、いわゆる知財と事業戦略を同じ土俵で位置付けて活用することを推進する予算はこれまで全く計上されていませんでしした。そもそもTLOや流通関連の予算ですら非常に少なかったのです。しかしながら、先ほど申し上げたような産業構造が急速に変わっており、TLOや知財流通という従来型の知財活用すら21世紀の日本企業が直面する知財問題の解決には寄与し難くなってしまっているのです。自ら製品を作ってビジネス展開する日本の製造業からこれを見ますと、この象徴的な事例としての、差し止め訴訟権が実ビジネスで機能不全になっているからなのです。差し止め訴訟の役割は、ロイヤリティーの支払い催促という機能の限定されてしまった、と言い換えてもよいでしょう。
 例えば基幹部品を全く内製せず特許も非常に少ない(登録件数が年間150~300件)のアップル社が、グローバル市場を独占しています。世界最大の携帯電話会社であるノキア、世界最大のインターネット・ルータ会社のシスコシステム社、世界最大のパソコン用チップセット会社のインテル、そして世界最大の電子化ドキュメント市場のアドビシステム社、太陽電池ビジネスで世界最大の市場シェアと驚異的な利益率を誇るファースト・ソーラー社は、特許の数が驚くほど少ない。彼らは例外無く、特許の数で無くその保護と活用に焦点を当て、技術と知的財産を特定領域だけに集中させながら圧倒的な市場支配力を持っているのです。これが21世紀型の知財マネージメントですが、このような経営環境を先に作られると、日本は全く勝てません。ここでは特許の数を競い、特許の保護と活用に勝ちパターンの原点があることに気が付かなければ、相手が仕掛ける市場支配のビジネスモデルを事前に見破ることはできません。
 (PP)
 さらに我々が考えなければならないのは、基幹部品の多くを日本から調達するサムスンとLGがグローバル市場で圧倒的な競争力を持っている事実です。知財と技術を持って内製する日本企業が勝てないのはなぜなのでしょうか。
 一方、医薬品は売上と特許の登録数と企業業績との関係に強い相関をもっています。なぜ医薬品なら特許数が企業業績に直結するんでしょうか。なぜ日本のエレクトロニクス産業では直結しないのか。特許の機能、したがって知財マネージメントの在り方が、産業構造によって変えなければならないということを、これらの事実が我々に教えてくれます。
 ひょっとすると、欧米企業は、産業構造の転換を契機に知財マネージメントの在り方をすでに変えていた可能性があります。
 (PP)
 ではヨーロッパ諸国やアメリカはどんなことをやっていたのでしょうか。時間がないので結論だけをお話しますと、1980年代に欧米諸国は産業構造を強制的に変えました。そしてここから知財政策も全部変えました。欧米諸国は、1980年代に、まずデジタル型エレクトロニクス産業から、オープン分業型の産業構造へ転換しましたので、企業制度も変わりました。あるいは、企業制度を産業構造に適応させた企業だけが残った、と言ったらいいでしょうか。オープン分業型(ビジネス・エコシステム型)へ適応しながら、市場と企業の境界設計をビジネスモデルの出発点にした企業が新たな知財マネージメントを完成させたのです。その代表的な事例がインテル、マイクロソフト、アドビシステムズ、シスコシステムズ、ファーストソーラーなど、1990年代以降のICT産業を支配した企業の知財マネージメントでした。最近の事例で言えば、アーム社やアップル社、グーグル社が最も先鋭的な知財マネージメントを完成させています。
 自虐的な表現で本当に申し訳ないのですが、1990年代の初期は日本にJapan as №1の余韻がまだ残っており、バブル崩壊を金融や財政の視点でしか見てなかった。したがって産業構造を変えるという必要性が意識されませんでした。しかしながら、欧米とアジアは、共に比較優位の国際分業を前提にしたビジネス・エコシステムを完成させて産業構造の転換を更にグローバル市場へ進めました。これまでに我々は、経営環境の転換を実ビジネスの視点で体系的に論じることがなく、工場を起点としたモノづくり経営が強力な世論になって製造業の隅々に浸透しました。したがって市場側を起点にした産業構造の転換に気がつかなかった可能性があります。構造転換をアメリカではなく、日本の視点から論じてこなかった我々アカデミアも決して無罪ではありません。
 (PP)
 以上の現実を踏まえ、ここからなぜ人財育成が変わらなければならないか、という論点に移りたいと思います。その前に、そもそも人工物の設計とは、要するに、製品を構成する技術体系を技術モジュールの単純組み合わせに転換させる一連のプロセスです。これによってはじめて分業とルーチン化によって低コスト量産が可能になりますので。この意味で、製品設計の深部に介在するデジタル化とは、決して技術のことではありません。技術モジュールの結合インタフェースを暗黙知から形式知へ転換し、同時に結合公差を飛躍的に拡大する機能を持っているからです。ここから人工物の設計が一変し、産業構造が大きく変わっていくのです。例え自動車であっても例外ではありません。
 (PP)
 こういう視点で見ますと、国際標準化とは決して規格つくりではありません。国際標準化とは、人工物を構成する技術モジュールの結合インタフェースや結合公差を、ともにグローバル市場へ公開するからです。したがって例え技術蓄積の無いキャッチアップ型企業であっても市場参入できるようになり、これを起点に比較優位の国際分業が生まれ、ビジネス・エコシステムによる経済成長雇と雇用が生まれるからです。このことをジツビジネスの知財マネージメントという視点で語れば、キャッチアップ型企業がクロスライセンス戦略を武器に市場参入する姿があり、先進国が仕掛ける差し止め訴訟を回避するために必死に特許を出願する姿が見えてきます。クロスライセンスになると、先に申し上げたように技術や知財の役割が非常に小さくなり、企業の経営オペレーションや国のビジネス制度設計が競争力を左右します。特許の在り方が本質的に変わってくる、と言い換えてもよいでしょう。
 ここからは、グローバル市場のパラダイムが変わり、伝統的なフルセット垂直統合型の経済合理性が完全に崩壊します。これを最初に、しかも大規模に経験したのが1980年代後半のIBMでした。次に1990年代のヨーロッパ諸国です。日本のエレクトロニクス産業も、パソコンやその周辺機器でなら1990年代の中期から後期に経験しましたが、これが大規模に現れたのは2000年以降のデジタル家電からでした。現在の日本では、類似の経営環境がエレクトロニクス以外の他の多くの産業で顕在化しています。このように、非常に安定と言われた産業構造ですら、デジタル化や国際標準化によって瞬時に変わってしまう。したがって、知財マネージメントの在り方もここから本質的に変わってしまうことになります。
 (PP)
 この図ではこれまでと同じことを別の視点から説明していますが、要するに、人工物としての製品をトータルなビジネスコストで俯瞰すれば、図の左側に位置取りした技術に関連する事項や知財に関連する事項が、それ以外の経営側とか、ビジネスの制度設計に左右されるのです。技術が伝播し、対価を支払えばいつでも調達できる経営環境がその背後にありました。経済学者の実証研究によれば、技術伝播の主瀁経路が公開された特許ですので、特許の数を競って保護や活用をしなのであれば、技術や特許の役割を限りなく小さくしてしまう、と言ってもよいでしょう。
 (PP)
 このような経営環境の到来に直面した欧米企業は、1990年代から先進国と途上国との国際分業(ビジネス・エコシステム)を前提にした経営戦略に切り替えました。具体的には、ソフトウェア、すなわち組み込みシステムを多用し、ソフトウェアが介在しないハードウェアブロックをアジアに任せたのです。いわゆるものづくりはアジアに任せるということです。この経営戦略を主導するために、欧米企業は国際標準化を経営ツールにして国際分業を彼らが優位の構造に事前設計するノウハウを身に付けました。グローバルな産業構造を欧米優位の方向へ変えて行ったのです。そこから彼らは、途上国の成長をヨーロッパやアメリカの成長に取り込む仕組みを、ビジネスモデルとして完成させ、知財マネージメントがこのモデルを支える役目を担ったのです。
 (PP)
 この図には代表的な事例として欧州携帯電話の事例を示します。オープン標準化を標榜しながら、自分のトータルシステムの中に完璧ブラックボックスが必ず存在している事実をご理解下さい。
 (PP)
 この図に示すインテルも全く同じです。パソコンのトータル・サプライチェーンの設計で真ん中にインテルが鎮座して、ここからサプライチェーンの前後を全部支配する構造になっています。自分が鎮座するブラックボックス領域は、クロスライセンス不要の領域であって他社による差し止め訴訟が不可能になる状況も、知財マネージメントによって構築されています。
 (PP)
 この図はアップルの例であり、上の方がアップルのブラックボックス領域です。下の方は調達市場です。アップルは製品企画・設計の段階で自社と市場との境界を必ず設計する。自社すなわち人為的にブラックボックス化する領域ではクロスライセンスが絶対に不要であって、他社による差し止め訴訟を絶対させない仕組みが、知財マネージメントによって隠されています。しかも、ここから外部に対して強い影響力を持たせるような知財マネージメントも、背後に隠れています。これがアップルの世界。だからこそ、年間せいぜい150件か300件ぐらいの登録件数でやっても世界市場を全部支配できる構造になっているのです。
 (PP)
 最後に強調したいのは、いずれにせよ日本企業の方向性という意味では、多くの産業が国際分業型へ転換する流れに逆らうことはできません。したがって知財マネージメントの在り方も、これに対応して変わっていかなければなりません。まだ顕在化していませんけれども、自動車とか、ロボットとか、産業機械とか、医療機械、iPS細胞でも、決して例外ではありません。その兆候が既に出ています。
 (PP)
 ここで国際標準化の役割をもう一度強調すれば、研究開発の段階から先手必勝で、ビジネスモデルとか知財マネージメントの仕掛けをつくる経営ツールである、ということになります。そして知財マネージメントとは、特許権だけではなくて、著作権・意匠権・商標権・契約を総動員して、先手必勝の仕掛け、すなわちビジネス・エコシステムの中の自社優位の位置取り戦略を、オープンなグローバル市場で安定化させる役割を担う、ということになります。
 (PP)
持ち時間を越えてしまいましたが、我が国が直面する経営環境のパラダイム・シフトを冷静に理解し、これを踏まえた基本的な方向性を国民的レベルで共有し、同時にこれを企業のトップマネージメント層が理解しなければなりません。ここから同じ方向性を持って産官学が連携できるようになり、企業内では多様な人材がチームプレーで標準化や知財マネージメントを企画・立案・実施できるようになるでしょう。これによってはじめて伝統的な産業や企業制度にトラップされてしまった日本および日本企業が、比較優位の国際分業を起点にしたビジネス・エコシステムによってアジアの成長とともに歩むことができるようになるのです。
 ここで具体的にどのようなビジネスモデルや知財マネージメント、標準化戦略を採るかは、いろいろな定石を学んで自らの力で生み出さねばなりません。日本の大学のMOT講座は知財法から始まるそうですが、これを中心にするのではなく、むしろ多種多様な定石の習得と活用を中心にする講義中心へと変えていかねばなりません。
 最後に再び繰り返しますが、これまでご説明した産業構造の大転換は、オープンな国際標準化によってこの世に出現しました。その背後にデジタル化の進展(人工物の設計に組み込みシステムが深く広く介在)があったのは言うまでもありません。この意味で国際標準化と知財戦略の表裏一体になった競争政策や事業戦略こそが、21世紀の日本および日本企業の方向性となるのです。この方向性を政策の現場と紫綬の前線で担う人材育成が極めて重要になるはずであり、知財人財の育成が変わらなければならない背景もここにありました。
 
○妹尾座長
 どうもありがとうございました。
 小川先生の御議論は皆さんよく御存じだと思います。今、非常にコンパクトにまとめてお話をいただきました。もう80年代モデルは全く通用しなくなってきている。それは知財の世界でも国際標準化とともに大きく変わっているぞという御指摘だと思います。産業構造が従来と変わるということですけれども、産業自体が、ほかの分野は大丈夫だということではなくて、ほかの分野も全く同じようなところを追随しているという流れがあります。ですから、これに先行して手を打てるような人材が各分野で出てこないといけないということだと思います。いずれにせよ、従来の知財マネジメントがいけないのではないのですが、余りにも副作用が強くなり過ぎたので、この副作用を考えると、まさに服用の在り方そのものを変えなければいけないし、その服用の在り方そのものを考える人材は一体どこにいるんだ。そういうことを御指摘いただいたと理解いたしております。
 時間の関係もありますので、次々に参考人の方々のお話を伺いたいと思います。次は、奥山参考人にお願いをしたいと思います。それでは、奥山参考人、よろしくお願いいたします。
 
○奥山参考人
 弁理士会会長の奥山でございます。今日はお時間いただきまして大変ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
 (PP)
 小川先生の非常に幅の広いお話の後で、日本弁理士会という小さな世界のお話になってしまうんですが、資格士業として非常に重要なテーマを2つ挙げろと言ったら、そのうちの1つは人材育成ということだろうと思っておりまして、常々努力している分野でございますので、それについてちょっと御説明させていただきます。
 (PP)
 弁理士の現状なんですが、弁理士の数は御案内のように増えておりまして、ここには8月末の数字が書いてあるんですけれども、今日現在でも9,135人という数字になっております。このように増えてきておりまして、もうちょっと詳しく見てみますと、弁理士登録する者は、弁理士試験に受かってから3年ぐらいで登録するという傾向がございます。3年過ぎると登録しないというふうになっておりまして、こちらの表を見ていただきますと、去年受かった者がまだ登録していないというのはわかるんですが、だんだん未登録者が増えてきているんではないかなということを実感しているという状況にございます。
 (PP)
 その理由になりますが、出願件数は増えておりません。減っております。それにはいろんな理由があるとは思うんですが、現象として減っているということでございます。
 (PP)
 訴訟を見てみますと、これは知財訴訟全般の、裁判所に訴えがあった件数でございます。これは当然、商標・意匠・特許以外にもいろいろ含んだ数字でございますが、特許だけを見てみますと、ここにはデータが出ていないんですが、判決の出たベースで見ますと、右肩下がりになっているという状況でございます。
 (PP)
 弁理士が増えている、出願件数は漸減しているという状況を見てみますと、1人当たりの弁理士の出願件数は減っているということでございます。一番端的に出ているのはこのピンクのラインで、10年前は92件あったのが、39.5件ぐらいになっているということでございます。これが多いのか少ないのか、いろいろ議論はあるとは思うんですが、1つ言えることは、我々、資格を持って特許庁への代理業を営んでいる者としては、オン・ザ・ジョブ・トレーニング、仕事をして初めて仕事ができるようになるという、変な言い方なんですけれども、訓練のためには、やはりある一定の件数がないと、きちんとした教育もできないというのが現状でございます。その中でいろいろ頑張ってはいるんですが、やはりベースになる弁理士1人当たりの出願件数は減っているということは御認識いただきたいと思いますし、また、それが弁理士の教育に対する取組みにも影響を与えるということでございます。
 (PP)
 そのような出願ベースの話、勿論、もっと幅の広いアドバイザー型の弁理士、あるいは中小企業の発明発掘をお手伝いする、そういったことができるような弁理士の養成も力を入れておりますし、より幅広いコンサルタント業務にも取り組めるような研修を提供しております。
 (PP)
 法定の研修がまずございまして、現在、実務修習ということで、弁理士試験に受かった後、登録するためには、3か月で72時間の研修を受けなければいけないことになっております。そのほかに、継続研修ということで、例外としては80歳以上の方とか、特に事情のある方以外ですが、すべての弁理士が5年ごとに70時間、1年当たり14時間の研修を受けなければいけないことになっております。そのほかには、特定侵害訴訟代理権をもらうために45時間の能力担保研修を受けて、この前提になる民法とか民訴法の勉強も義務化しているんですが、それに加えて45時間の研修を受けて、特定侵害訴訟代理業務試験を受けた大体60%の者が受かっているという状況でございます。
 (PP)
 その中身になりますが、集合研修がございますし、普通に教室に集まってやるものもございますし、e-ラーニングという形でも積極的に展開しておりまして、現在、二百数十時間の研修がe-ラーニングで提供されています。そのほかには、知財マネジメント、総合アドバイザー型の弁理士養成のための研修も積極的にやっているところでございます。
 (PP)
 諸外国との交流ですが、いつもつらつら自分がやっている仕事の内容を考えるんですが、平均として見ても、恐らく半分ぐらいは外国絡みの仕事があるんではないかと思っています。外国から来る出願、それから、日本の企業が外国で出願するのをお手伝いするものというふうに、直感的に感じている次第です。したがいまして、当然のごとく国際性というのは弁理士にとって非常に重要でして、海外の対応する団体とのおつき合い、あるいは海外の特許庁とのおつき合いも非常に活発にやっているところでございます。
 (PP)
 先ほど申し上げましたように、オン・ザ・ジョブ・トレーニングというか、実際、仕事をやって初めて専門家としての実力が身につくということで、インターン研修、ちょっと人数が少ないんでございますが、これもとにかくやってみようということで、現在、取り組んでいるところでございます。
 (PP)
 そのほかには、中小企業をお手伝いしつつ、ベテラン弁理士と若手弁理士が組んで、若手弁理士を養成しながらお手伝いをする。単に助成金をばらまくというのではなくて、人財育成に絡めて中小企業のお手伝いをするということをやっております。
 (PP)
 こういったことですが、お願いといたしましては、弁理士会だけでできることには限界がございます。これまでもいろんな側面で関係官庁にはお手伝いいただいていますが、例えば、JETROにしろJICAにしろ、非常に立派な国際的活動をしていらっしゃいます。それから、外務省にしても、今回のACTAのような成果を上げていらっしゃるところで、そこに弁理士が何らかのお手伝いをして実力をつけていくということをお願いしたいと考えております。
 そういったことで、私のいただきました時間がたちましたので、日本弁理士会としての説明を終わらせていただきます。どうもありがとうございます。
 
○妹尾座長
 どうもありがとうございます。
 皆さん、質問したいことも多々あると思いますが、後でまとめてということにさせていただきたいと思います。
 それでは、次に、佐藤参考人にお話を伺いたいと思います。それでは、佐藤参考人、よろしくお願いいたします。
 
○佐藤参考人
 おはようございます。佐藤辰彦です。どうぞよろしくお願いいたします。
 (PP)
 私も今年の3月まで本部委員をさせていただいて、この専門調査会にもいろいろと関係させていただきました。こちらの本部を離れまして、今、現場でいろいろやっているところでございます。今回、グローバル知財人材育成ということに関して、現場で感じているものをベースに、いろいろお話をさせていただきたいと思っています。論点を明確にするために、多少強調気味に表現しているところもありますけれども、そこは是非、御了承いただきたいと思っております。先ほど小川先生のお話を伺っていまして、小川先生の認識に私は全く賛同しております。今、我々が置かれている日本の産業構造は、グローバル化とデジタル化と高度情報化、この3つによって産業構造が全く変わったという認識が必要だろうと思っております。知財も変わってきた。その中でどうやってグローバル知財人材を育てるんだということが今の課題ではないかと思っています。
 (PP)
 現場、現場と申し上げましたけれども、当然、弁理士ですので、大企業、中小企業の知財活動の支援をやっておりますし、産学連携、中小企業の海外技術移転、知財学会、ベンチャー学会等の学会活動、大学における知財マネジメントの授業、中小企業の先端基盤整備事業等の支援、日中韓の知財連携のような現場で今、いろいろやっております。その中で感じたものを今日はお話をしたいと思っております。
 (PP)
 さて、私の認識ですけれども、「知財人材問題の課題」ですが、基本的には、我が国の国際競争力向上のために知財の活用がうまく進んでいない、そのために何をすべきか、というのが、この専門調査会のテーマだろうと理解しております。
 (PP)
 そこで、私の授業の中で、知財人材マネジメントということをやっておりますけれども、その視点としては、まず大事なのは、事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体の経営戦略を実行できる事業体が構築されているかということがまず大事。その次に、そのような中で、知財戦略の役割を実行できる人材(組織)の育成・構築はできているのか。更に、それを実行できる知財マネジメント人材がうまく育っているのかというような観点で知財人材マネジメントというのは考えるべきだと思っております。
 その点に関しては、これは企業だけではなくて、我が国の各セクターにおいても全く同じような見方が必要ではないかと思っています。したがって、今日は、そのような視点でいろいろお話をさせていただきたいと思っております。私も小川先生と同じようにいろいろ言いたいことがあって、非常にボリュームが多くなっています。できるだけ簡略にお話をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 (PP)
 そこで「現場から見た現状と課題」でございますが、知財人口は増加し知財に関する認識は深まったが、知財を高度に活用できる人材は少ないのではないか。これはまさに専門調査会でもテーマとしている話です。それから、グローバルに知財を活用する必要性が高まっているにもかかわらず、これに対応できる知財人材は少ないのではないか。国際的な知財人材を創出する機能が低下しているのではないか。優秀な人材を誘引できる環境が整っていないのではないか。各分野の知財人材は増加したけれども、各分野ごとの役割分担の認識が弱く、各分野の特性に合った活動となっておらず、各セクターの強みが生かせないというのが、私が今、感じている問題意識でございます。
 (PP)
 そこで、大変口幅ったい言い方で提言させていただくんですけれども、各セクターにおいてリーダー的な人材として活躍できるハイレベルな人財の育成に注力すべきではないかということでございます。後ほども御紹介しますけれども、中国では、知財分野で世界的に著名な講師を招いて「ハイレベルセミナー」を開催し、また、ハイレベルな形の活動として、国家を担う知財戦略を牽引できる人財の育成に取り組んでおります。
 自戒を含めて申し上げますけれども、弁理士・弁護士を初めとする専門家の世界においても、有能な人財を育てるためには、若手の弁理士たち、また専門家たちが憧れるような専門家をつくっていくことが必要ではないかと思っています。
 (PP)
 さて、これは、お手元の資料にございません。この資料は、知財協の『知財管理』に載っている論文を引用してお話をしようと思ったんですけれども、外部には転載禁止ということですので、このパワーポイントだけですので、パワーポイントを見ていただきたいと思います。ここの中の論文では、我が国の大企業が集まっている知財協の知財部門長の76%が知財と関係ない部門から来ているということです。それから、就任前に知財経験がないという方が42%ということです。それから、新任の知財部門長が他部門から異動した理由を聞くと、プロパーに適任者がいないために代打的異動ということが回答されている。これから見ると、プロパーからリーダーが育たないというのが現状ではないか。そういう意味では、企業知財におけるキャリアパスがうまくいっているのかというふうに感じております。
 (PP)
 もう一点は、企業経営層から望まれている知財部門長というのは、知財マネジメント型、更に知財マネジメント型プラス知財エキスパート型の知財部門長ということが言われているということでございます。そういう意味で、スーパー知財部門長が経営層から望まれているのをどのようにつくっていくかが企業の知財においての課題だという問題指摘がこの論文でもされているところでございます。
 (PP)
 もう一方、国際人材と言いますけれども、国際人材を創出する機能が低下しているんではないかと感じております。企業ないし特許事務所、法律事務所が大学や法律事務所に派遣をして国際人材を今まで輩出してきたわけですけれども、最近、リーマンショック以降、研究費、知財予算の減少ということで、派遣の余裕が低下している。その結果として、国際知財人材の輩出が減少するんではないかということを懸念しております。
 (PP)
 更に、グローバルな人材と言いますけれども、その創出基盤が弱体化しているのではないかと思います。左側の絵では、アメリカですけれども、中国はこのように急激に留学数が伸びています。韓国も、見にくいですけれども、ブルーですけれども、伸びています。それに対して日本は下がっている。これは韓国のケースですけれども、韓国に中国の留学生が急激に伸びている。こういう状況の中で、日本は横ばい、もしくは減少、更に数では圧倒的に負ける。このような状況で本当にグローバル知財人材が生まれるのかという危機感を持っています。
 (PP)
 さて、我々特許事務所及び知財事務所の問題なんですけれども、国際化が遅れているのではないかという認識でおります。例えば、アメリカは、ジェネラルローファームがパテントファームを吸収して大型の知財ファームに変わっていく。ヨーロッパは、歴史あるパテントファームがシンジケート化する。東南アジアは国を超えた形でパテントファームがシンジケート化している。こんな形で、今、世界の知財事務所の国際化は急激に進んでいるというふうに認識しております。しかし、我々特許事務所を初め、海外にブランチを持っている事務所は1%以下という状況にあります。実際に実務においても、アジアを見ても、各事務所が、海外で鍛えられた弁理士・弁護士が還流してきて、レベルが急激に上がってきている。更に、日本から海外への出願も、日本の事務所の中抜きということが行われるようになってきている。本当に日本の事務所が国際化の中で生き残れるのかという危機感を持っています。
 (PP)
 更に、我々弁理士なんですけれども、今まで権利化業務中心の弁理士から、水平・垂直展開をしろということで、いろいろ議論してきております。また、弁理士会の中でも当然議論しているわけですけれども、そのような水平・垂直展開において、高度化に対応できているのかということが一番課題ではないかと思っております。
 (PP)
 更に、こういう状況で本当に弁理士は育つのかということですけれども、弁理士の育成環境が劣化しているのではないか。弁理士の3分の1が登録7年以内でございます。私は年寄りなんですけれども、昔、先輩たちに、並みで10年、ましで7年と言われています。そうやって育てられました。7年以上かけて知財弁理士を育てない限り、本当のプロにはならない。そういう状況だと思いますけれども、しかし、我々は、ここに示したように、出願件数の減少、手数料の抑制、処理期間の短縮、処理内容の高度化、こういう状況の中で、人材を育成する環境が非常に弱っているということでございます。
 (PP)
 それから、各分野はそれぞれの役割を果たしているかということでございます。先ほど申し上げましたけれども、各分野の知財人材はたくさん増えました。しかし、それぞれの役割分担がうまくいっていないんではないかということが私の感想でございます。例えば、特許の権利化をするにしても、発明者、知財担当者、弁理士、これらがきちんと役割分担をして初めていい権利がつくれると思っております。
 (PP)
 特にグローバルに有効な権利を進めるためには高度な対応が必要となります。御存じのとおり、国ごとに制度が異なり、運用が異なります。そういう事情を考慮した上で、最初からオリジナルな出願をするというのは結構大変な作業でございます。そこでは、それぞれの役割分担を明確にし、それをうまくまとめていくことによって、効率的な、レベルの高い権利化が進められると思っています。
 (PP)
 例えば、医薬系の特許でも、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、みんな保護の仕方が違います。
 (PP)
 また、医療機器においても、ここにありますように、アメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国、オーストラリア、それぞれ違います。
 (PP)
 また、医療関連行為においても、同じように、いろんな形で国ごとに違っているわけです。これに対応できる体制がない限り、本当にグローバルな有効な権利化というのは難しいんではないかという問題意識でございます。
 (PP)
 さて、次の話ですけれども、先端研究現場をサポートする専門知財人材が不足しているのではないか。ということです。私も産学連携で先端研究現場にいろいろ関わっておりますけれども、現場に先端技術と知財、特許ということを十分に理解した形のコーディネーターなりアドバイザーというのは極めて少ないと感じております。更に、そのような方々は企業の実務経験者が多いんですけれども、それぞれ任期つきであるとか、定年退職者だとか、定年間際で退職されて就任されたという方が多くて、なかなか積極的な活動になっていないと思っております。
 (PP)
 中小企業の海外展開について、海外知財プロデューサーが必要だということが昨年来、議論されているところでございます。私も今、群馬県の中小企業のアメリカ展開を支援しているんですけれども、海外進出の基礎情報とか、企業紹介レベルだったらだれでもできる。しかし、これをマネジメントをやって、契約を成立させて、実際に事業を展開するまでサポートできる人は本当にいないんではないかと思っております。
 (PP)
 さて、次の提言でございますが、「大学・大学院における知財人財育成」ということです。知財マネジメント人財を育成するためには、大学・大学院における知財教育を強化する必要があるんではないかと思っております。私も実際に大学に関わっておりまして、大学側の方でも、どのような人財を育成すべきかという点について明確なビジョンがあるというふうには感じられません。そういう意味では、大学でも知財教育の在り方について再考すべき時期ではないかと思っております。先ほど小川先生のお話にもありましたけれども、知財マネジメントと言っても、MOT、経営学等のスキルなくして知財だけの議論で知財マネジメントは到底できると思いません。そういう意味で、知財マネジメント人財を育成するとすれば、そういうことを踏まえた上での大学のカリキュラムなりを見直す必要があるんではないかと思っております。
 (PP)
 この点については、総合科学技術会議でも高度人材育成ということで議論されているところでございますけれども、日本の現状では研究と教育が近寄り過ぎて、先生の専門の興味あることを教育することが大学の主体になっている。そのために、コアの根底となるものがきっちりと教育されていないということが指摘されています。
 それから、もう一つ、アメリカでは、大学院の学生はキャリアパスがはっきりしている。そういう意味では、非常に強いインセンティブを持てるにもかかわらず、日本の大学院ではそれがはっきりしていないということが指摘されているところでございます。
 (PP)
 さて、今日お話しするので、知財人材育成に関する論文を少し集めてみました。これを統計的に見ますと、2005年から2008年までには、知財人材育成の研究論文が結構たくさんありました。しかし、ここ数年、ほとんどないと言っていいぐらいの状況になっております。そういう意味では、先ほど小川先生のお話にありましたように、ここ数年間で知財の置かれている環境は全く変わったという認識の下に、もっと知財人材育成の研究について深化すべき時期ではないかということを申し上げたいと思っています。
 (PP)
 更に、高度知財人材育成のためには大学院の仕組みの工夫が要るんではないかと思います。産業構造ビジョン2010に載っているんですけれども、つくば・イノベーション・アリーナにおける世界水準の大学院機能・産業人材育成機能の付加というところで、各大学が連携し、更に海外の大学とも連携し、かつ教授を海外に派遣し、学生も海外に派遣するというような形でのスキームが提案されております。そういう意味で、知的財産専門職大学院の今後の在り方においても、こういう機能強化という点の検討が必要ではないかと思います。
 (PP)
 次に「知財人材育成に各セクターの協力体制が必要ではないか?」ということでございます。これも産業構造ビジョン2010で取り上げられておりますけれども、人材育成のためには、我が国の各セクターが協力して進めることが必要ではないか。教育界、産業界、士業、行政だけではなく、マスコミを含めた形で知財人材というものをみんなで育て上げるという見直しが必要ではないかと思っております。
 (PP)
 最後の提言でございますが、グローバル人財の育成のためには、海外に人財を派遣することが必要ではないか。先ほどデータをお見せしたように、日本の留学生が非常に減少している。このような状況で本当にグローバル人財が育つのか。海外に出て、優秀な人財の中で経験を積むことによって大きく成長しますし、更に帰国後も自らの仕事に生かすことができる人的ネットワークをつくることができると思っています。
 最近、アジア弁理士協会の中で、非常にアジアのメンバーのプレゼンスが高まっております。その理由は、私は、やはり欧米に留学していた弁護士・弁理士が帰国して活躍するようになって、彼らのレベルが急速に上がったというふうに認識しております。
 (PP)
 先ほど申し上げましたように、中国はハイレベル人材育成ということで、中国共産党中央組織部が、これから10年以内に海外から1,000人のハイレベル人材を呼び戻すと。それを政府の各機関並びに産業界のトップに据えることを目指しているのは御承知のとおりでございます。
 (PP)
 中国は今、年間7,800人の国費留学生がいて、日本の6倍でございます。この留学奨励策とともに、帰国したときのポストを保証するということで、彼らのインセンティブを高めているということでございます。
 (PP)
 これはいわゆる「海亀政策」と言われていて、国家重点計画の科学技術部門のリーダーの72%、また、科学技術院の81%、工程院院士の54%が帰国した人材だということでございます。
 (PP)
 最後になりましたけれども、このような形で中国が海外に人材を非常に派遣しているということであるならば、我が国もそれをやるべきではないか。今、我が国は、アジアの人材を日本に呼び込むということで、「アジア人財資金構想」ということでやっております。この逆バージョンで、日本から海外に人を派遣するということがこれから検討すべき課題ではないかと思っております。
 (PP)
 今、ざっとでございますが、14の問題提起と3つの提言をさせていただきました。語るところはまだまだたくさんあるんですけれども、時間でございますので、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。
 
○妹尾座長
 どうもありがとうございます。
 佐藤委員も本部委員としてこういう御議論をずっとされてきたので、我々も深く承知している次第であります。
 それでは、今日は参考人を4方お呼びしていますけれども、参考人の最後に中山参考人にお願いをしたいと思います。それでは、中山参考人、よろしくお願いいたします。
 
○中山参考人
 中山でございます。よろしくお願いいたします。
 プロジェクターを使わずに、お手元の資料でお話しさせていただければと思います。先ほどから、いろいろな課題が出ているようですので、私からは、私どもが実際現場でやっている人材育成、現場ではどういうふうな形で人材育成を実施しているのかという視点で御説明させていただきたいと思います。
 御説明いたしますのは、1つは、形として見えていない人材育成もあるということ。それから、形として見れるようにプログラムを組んでやる人材育成、それも御紹介いたしたいと思います。その中でも、変えつつあるものというところを抽出いたします。あとは、私どもの中で、グローバル人材についていろいろ議論しているところを若干御紹介できればと思っております。
 まず、資料1は、JIPAとはどういう組織か、どのような活動をおこなっているかを示しています。ほとんどの方は御存じだと思いますけれども、73年ほどの活動をしております非営利の任意団体でございます。会員制で運営しておりまして、会員に対する、いろんなサポートをする団体でございます。
 現在の会員数は1,212でございます。知財を生み出している企業を正会員としておりまして、今、903社です。ほとんどの大企業が入っていまして、中堅企業も参加しています。賛助会員は、私どもの運営の趣旨に賛同された方がお入りになっておりまして、こちらが309ということでございます。
 正会員の方は、出入りがありますが、賛助会員は増えています。最近お入りになる会員は、自社も人材育成に注力したいから是非とも当協会のプログラムを受けたいということでお入りになる方が多く、それが特徴的でございます。
 私どものスローガンは、資料の左下にございますが、昨年採用いたしました「世界から期待され、世界をリードするJIPA」で、「我々もグローバル化を視点に入れていろいろ活動しなければいけない」というところを明らかにするために、このスローガンを採用しております。
 活動方針のところに書いてございますが、私どもの活動理念は「経営に資する活動」でございます。会員の多くは知財部門が主として入っているわけでございますけれども、知財部門が企業内でいかに経営に貢献するか、貢献できるかが問われており、そういうもののお手伝いをするのが私どもの団体でございます。それをグローバルに諸外国、地域の民間団体と連携を取りながら、それぞれの国の知的財産制度をユーザーフレンドリーに変革するために、いろいろな提言等、活動しているということでございます。
 次の資料でございますが、これは先ほどお話をしました、見えない、形のない人材育成というところをあらわした図でございまして、神戸大学の松尾先生との共同研究でつくられたチャートでございます。ヘキサゴンになっていますけれども、協会が動くに当たって役員会が方針を設定する、委員会、プロジェクト、そういうところが役員会の方針を受けて研究する、それをいろいろ会員が実務に活用できる実践知を創り出していく、それを形式知にして会員にフィードバックする、そういう活動を続けています。したがって、全体が学習メカニズムになっているという分析をしていただいております。
 3ページ目にしめしましたが、JIPA活動は、ある意味では、グローバル人材のOJTの場になっているのではないかと思います。JIPAの役員クラスは、既に社会においてグローバル人材として確立されてた方々に参加していただいています。こういう方がJIPAにおきましてリーダーシップを取っていただく、若手の参加を交えて活動することは、若手に対しするグローバル人材育成のOJT(実践)の場に他なりません。
 その場としましては、欧米の企業と意見交換し活動する民間三極という場がございます。また、それぞれ委員会、プロジェクトチームが、役員も含めて、諸外国に向けて代表団を結成し提言や調査を行う場や、官民合同で動かしている国際模倣品対策フォーラムがあり、それから、これは民間だけの取組みでございますけれども、日本の企業と中国企業の連携で研究等を行っている。こういう場で今後の国際的人脈の形成というものを図っています。
 それから、委員会活動、それ自体も人材育成になっている。委員それぞれが成長していくためのものをその委員会活動から得ている。会員の方から委員を派遣していただいていますけれども、それは個々人の成長を育成する、そういういい場だというような認識の下に派遣していただいていると思っています。今、20の専門委員会で構成されております。
 次のページでございますけれども、実践知をどう移転するかというところでございます。それは会誌なり、資料、会員向けの部会という場とか、もう一つは研修会の資料として使うということで、その移転を図っているということでございます。
 さて、ここからが見える研修プログラムでございますけれども、会員向け研修・人材育成というものを私どもは大きな柱として掲げています。中堅企業は自前で体系的な人材育成のプログラムを作れないということもございまして、私どもの提供する人材育成プログラムに積極的に参加して、自社の人材の成長を図っているところでございます。
 ここには3つのカテゴリーがあろうかと思います。1つは、習熟度に応じたプログラムでございます。それから、もう一つは、育成ターゲットを明確にしたプログラムでございます。これが最近、変革しているところでございます。3つ目は、専門性の領域を拡大するというプログラムでございまして、ある意味、狭義のグローバル人材の育成ということかと思います。
 次のページでございますけれども、習熟度に応じたプログラムを図式化してございます。こういうプログラムを関東、東海、関西で実施しております。こういう定例のものと臨時のものの組み合わせで、習熟度に応じたプログラムを提供しているところでございます。
 続きまして、6ページでございますけれども、育成ターゲットを明確にしたプログラムでございます。これは、変革リーダーというものを養いたい、育成しなければいけないだろうという思いで、少人数で行っている育成研修でございます。高い志を持った方、企業の中で変革を目指す方、そういう人をいかに育てるかというところに視点を置いて活動しております。
 第1、第2、第3ラウンドの6か月間を通じて、育成研修を行っているということでございます。第1は3日間の合宿でございますけれども、そこで自分の課題、漠然と思ったものをいろんな講義を聞いてもう少固めていく、深掘りしていくという作業をやっていただく。第2ラウンドは、グループごとに集まって、それぞれのメンバーの意見を聞きながら、自分の課題をより深く煮詰めていく。第3ラウンドはその発表の場でございまして、相互研修ということで、お互いに足らないところを補足し合う。
 最終的なゴールは、会社に帰って実際に自分の立てた課題、それに対するアプローチを提言することです。そこまでがこのプログラムに組み込まれておりまして、単に研修したということではなくて、会社の中で評価される、そういうところまで突き詰めた研修でございます。あと、フォローアップも行っております。
 7ページ目でございますけれども、変革を担うリーダーだけだと人材の育成として若干遅きに失するところがあります。もう少し若い年齢を鍛えなければいけないだろうということで始めたプログラムでございまして、これもやはり第3ラウンドまでを用意しています。こちらは3か月で終わりということでございますけれども、特徴的なのは、経営学に関する基礎知識を学んでもらう。それから、その分析の仕方を身につけてもらう。いわゆる知財から離れたところで、一般的な会社人としての教養と言いますか、経営を見る目を養ってもらうということをやっています。
 2日目はケースメソッドでございますけれども、あるケースを経営的視点で見たらどうなるかという分析を行うプログラムでございます。
 最終的には、それぞれのグループでテーマを掲げ、戦略提言を行うという形で進めて行きます。
 最後でございますけれども、これは、先ほど申しました狭義のグローバル化でございます。米国、欧州、これは当然のことながら、(それぞれ隔年ですが)、そちらの方へ研修生を派遣する。中国についても、これを現地滞在するような形に仕上げていますし、中韓台、スルーして回るようなコースを設けたりしております。ここで特徴的なのは、単に座学で聞くのではなくて、事前研修でその制度をより知った上で、自分たちの研究目的をより明らかにし、現地でそれをきちんと仕上げてくる。仕上げた後の復習も行う。すなわち、事前研修、現地研修、事後研修を一体として組んでいます。この研修は、中国を除けば現地語、英語で行っているということでございます。こういうふうな、ある意味でのグローバルを目指した研修も持っているところでございます。
 お手元の資料にはございませんけれども、今年、私どものが議論しているのは、グローバル人材の育成、いかに行うべきかというとことでございます。難航しているのは、「グローバル人材とは」という定義がはっきりしない点です。いろんな層で、例えば、シニア層にグローバル人材を問えば、シニア層から見たグローバル人材像が出てくる。人材育成委員会というのがございますけれども、若手が入っているところで見ると、若手から見たグローバル人材像とは何だということで、そこでまた違ったレベルのグローバル人材像が出てくます。私どもとしましては、会員に対するアウトプット(人材の仕上げサポート)を出さなければいけませんので、会員各社がどのようなレベルの人材育成を望んでいるのか、そのニーズをつかむのが大変です。大企業は自らの体系でグローバル人材の育成を図っていると思いますけれども、中堅企業がどの程度のコストをかけて、どういう人材を育成したいかというところのニーズを掘り出すのが1つの課題でございます。
 もう一つは、それがある程度固まったとしても、では、どういうプログラムをつくれば、そういう人が育成できるのかという具体論になると、厄介です。とりあえずその点は後の問題だということで、今は、「グローバル人材像いかにありや」というところを議論していますが、なかなか先に進まないというのが現状でございます。
 先ほど来、従来のマネージメントではもう日本企業は立ち行かないという話もいろいろな方から出ております。私どもとしては、付加すべき(高度化)研修は付加すべきと思っています。そういうものを取り入れたいのですが、具体的にそれをどういうふうにプログラムとして組み込むのか、理念と具体論を両輪としてきちんとしないと理想倒れになってしまいますので、具体的プログラムづくりを見据えながら議論しているところでございます。
 以上でございます。ありがとうございました。
 
○妹尾座長
 ありがとうございます。
 以上、4名の参考人の方から御提言、その他、問題、課題についての御紹介をいただきました。
 引き続き、委員お二方から御発言、御提言がありますので、お伺いしたいと思います。荒井委員と杉光委員ですけれども、まず、荒井委員からお願いできますでしょうか。
 
○荒井委員
 それでは、お手元に資料1と書いてありますので、これに沿いまして「知財人材の活躍領域の拡大を」という話をさせていただきたいと思います。
 日本で、明治のときに著作権、特許、いずれも制度ができて、以来、特許庁、あるいは文化庁、あるいは弁理士会・弁護士会、それから、今の知財協とか、いろいろ各方面で知財人材の育成に大変努力してきて、大変すばらしい人材が育って、そろって活躍して、知財立国として立派な国になったんだと思います。
 そういうことで、1にございますが、2006年に知財人材育成総合戦略をつくったという意味は、そうは言っても、各分野ごとでそれぞれ人材育成をやっていた。独立をしていて、融合人材、統合人材と言うんでしょうか、総合人材が必要になってきているんで、こういう各分野が協力する体制をつくるべきではないかということで、協議会をつくったりして協力体制ができたというのが大きな成果だと思います。それより前は、それぞれが独立していた。更に、いろいろな制度を充実していかなければいけないということで、各方面、民間でも政府でも大学でも制度を充実させたという意味では、成果が上がったんだと思います。
 そのときに想定していた以上のことは、国際化が進展したということだと思います。当時も相当国際化が進む、あるいは情報革命が進むということで、意識をしてグローバル人材とは言っていたんですが、リーマンショックみたいなものが起きて、本当に日本企業が海外に出ていって、国内だけで売る商品はなくなった、国内だけで取る特許はなくなったということで、国内市場という概念がなくなったんだと思います。これが非常に大きな変化だと思います。
 もう一つ、想定外だったのは、当時は、弁理士のほか、弁護士とか、公認会計士、いわゆる士業の方が、機能を大きくして人数を増やしても、それ以上に大きくして活躍していただけるんではないかということですが、公認会計士と同じように、弁理士についても、そういう方面での想定がうまくいっていないということだと思います。これは共通の問題だと思います。
 2番にありますが、こういう中で、今回、こういうワーキンググループができて、新しい知財人財の戦略をつくるというのは非常に大事なことだと思いますので、是非しっかり作成して、早急に実施をしていただくことが必要だと思います。その際、知財が変わったという認識が必要だと思います。これは参考人からもお話あったわけですが、いずれにしても国内だけの商品はなくなった、国内だけの活動はなくなったということであり、技術開発、科学技術も非常にフラット化して、ボーダーレスになったということで、各国の知財制度は独立しているとのギャップをどう埋めていくか。
 それをうまく成功しているのが、さっきお話の出ているアップルとか、いろんなアメリカ企業は、事実上、国内にあるそういう制度を彼らが勝手に乗り越えて国際ビジネスに変えてきているということではないかと思います。ビジネスモデルはそういう意味で革新しているわけですし、今、スマートフォンの後、スマートシティーとか、スマートグリッドとか、いろいろ言われています。あるいはクラウドコンピューティングになれば、この傾向は大変加速すると思いますので、知財人財も変わっていかなければいけないということだと思いますし、国際標準が従来の実質的な発想の標準とはすっかり変わって、関係する専門人財も活躍の仕方が変わってきているんだと思います。
 その中で、あえて申し上げれば、知財をやっている方は、今まで特許法とか著作権法を読んで、国内市場における独占権を国家が付与するという、いわば聖職のような感じでやってきているわけですが、実際に起きていることはサービス産業、サービスの競争に変わってきているんではないかということだと思います。WTOが1995年にサービス産業を自由化することを決めて、実際には世界のルールも変わったわけでございます。サービス産業ということは、顧客満足度を向上させるということですから、研究者、出願人、こういう直接的な顧客のほかに、その後ろにいる、いろんな商品のユーザーとか、あるいは市民というか、国民というか、間接的、二次的な顧客にとっても、どっちがいいのか、あるいは国際的な顧客、そういうふうに変わってきたという認識の変化が大事ではないかと思います。
 そういう意味では、知財も国際競争の時代に変わったということで、どうしても今までは国内でどうするという議論だったんですが、国際的な、これはいろいろお話ございますが、知財についてのエコシステムをつくるとか、知財のビジネスモデルも非常にグローバルに変わっているから、そこで活躍する知財人財もおのずからグローバルにならなければいけないし、役割が、個人がグローバルになるというよりも、いろんなグローバルな連携をいかに増やしていくかというふうに変えていく必要もあると思います。
 そういう意味で、3番の「知財人財の課題」ですが、行政とか手法、特許庁であれば、審査官、審判官も、今まで何度も御指摘ありますように、引用文献がいろんな国の言葉になっているとか、そういうふうになってくると、日本人が幾らやろうとしても無理なわけですから、外国の特許庁の審査官や審判官と共同でビジネスをやる、そのときにいかにしっかり貢献するかというふうに発想を変える時期が来たのではないかと思います。
 それから、もう一つ、特許庁の課題は、任期つきの審査官500人が間もなく任期が終わるわけです。当初想定したのは、こういう方が特許庁での経験を社会に生かす、あるいは国際的に生かすという期待を持っていたわけですから、そういう方が活躍できるように、卒業研修という表現がいいかどうかわかりませんが、円滑にほかの分野に行けるように手当てを打って、もうそろそろ始めるべきではないかと思います。
 それから、同じように、裁判所ですが、知財高裁をつくって国際的に貢献しようということですが、さっきの統計にもありますが、なかなか日本の場合には裁判は増えないということは、いいことか悪いことかわかりませんけれども、ちょうど今回、アップルとサムスンの訴訟問題、これは10か国で起こしていますから、10か国の裁判所の競争になっているんです。どこの裁判所がフェアな、的確な判断をするかということで、そういう意味で、国際競争でちゃんとやれるかという裁判官、調査官の問題。
 それから、もう一つは、専門委員を数百人、これは学会の第一人者の方にお願いして、そういう方が知財裁判に関与していけば、専門の、第一線の研究者が知財マインドが高まるだろう、知財についての知識が高まるだろうという期待をしていたんですが、それがうまくいっているかどうか。いっていないとすると、強化する手当てを打つ必要があると思います。
 企業については、お話のありましたとおり、それぞれ各方面で一生懸命おやりになっていますので、しっかり国際ビジネス、経営自身が国際化しているわけですから、それをリードするような形で、経営者としてやっていただく、専門家としてやっていただく。しかし、そうは言っても、5万人の人材が4万人に減るというお話がこの前あって、では、どういう形が今後の形かということもしっかりビジョンをつくってやっていただくのが必要ではないかと思います。
 それから、大学と研究機関については、誠に残念ながら、運営費交付金が減ったり、いろんな見直しがあって、実際にはティエローなどもうまくいかない大学も相当増えてきていると思いますので、日本では大学や研究機関が必ずしも知財についてはまだまだ定着していませんから、てこ入れが必要ではないかと思います。
 それから、さっきの弁理士・弁護士、量で2倍、機能で2倍と狙っていたものが、なかなか機能の方がうまく増えていかない。これは弁理士の方、弁護士の方、それぞれ御努力はされていますが、機能的にも拡大する、国際的にも活躍していただける具体策が必要だと思います。
 それから、専門職大学院は、これは法科大学院などと共通ですが、一部専門職大学院については定員割れというような状態も現実問題として来ているわけですから、社会のニーズに合うような教育をする、あるいは魅力ある内容にするとか、相当危機感を持ってやらないと、これは問題が大きいんではないかと思います。
 それから、コンテンツの人財についても、非常に進んだ人財もおられますが、まだまだアナログ時代の著作権的な発想にこだわっている方もおられます。あるいはアナログ的なビジネスモデルにこだわっている方もいますから、これはやはりどんどん今の世界全体の流れに対して遅れていく恐れもありますので、下手をすると知財人財がコンテンツの場合にはネックになってしまう。著作権はこうだとか、そういうことを言って、日本ではなかなか新しいビジネスが生まれてこない。促進というよりも、むしろネックになっているケースも見られるのが懸念されますので、この辺は早く貢献する方にモーダルシフトが必要ではないかという気がいたします。いいタイミングでワーキンググループをやっていただいているわけですから、課題を解決する具体策を出して、早急に実施していただくことを要望いたします。
 以上です。
 
○妹尾座長
 ありがとうございました。
 指摘を幾つもいただきましたし、具体的な案もいただきました。
 もう一方、委員から御発言をお願いすることになっております。それでは、杉光委員、よろしくお願いいたします。
 
○杉光委員
 本日は、こういう機会をいただきまして、誠にありがとうございます。資料がお手元にもございますけれども、パワーポイントも使いながら御説明させていただきたいと思います。26分ですので、36分終了を目指して御説明したいと思います。
 (PP)
 まず、お手元の一番上にアンダーラインを引いてあるんですけれども、一見、複製・配布禁止と読み間違えてしまうかもしれません。これは「自由に行って頂いて結構です。」とございますので、お読み間違いのないようお願いいたします。
 (PP)
 まず、最初のマネジメントサイクルということで、今日のお話も中心的なテーマは、やはり教育をどうするかということだったと思うんですが、知財人財育成も企業からすればマネジメント事項ですので、そういう意味では、教育をするというのはDOですけれども、その後、やはりSEEがなければいけない。そして、そのSEEがまた次のPLANにつながっていくということですので、教育の部分、知財人財育成の部分には、この評価の部分が若干注目されにくい部分があるかとは思うんですが、今回のこの検定の話は評価にかなり深く関わる話だということを御理解いただければと考えています。
 (PP)
 その評価に関する、あるいは評価を検定制度と言い換えますと、これは2004年の古いデータではあるんですが、検定創設当時に、こういう企業向けの知財人財のための検定制度が必要と思うかどうかというアンケートの結果でございます。こちらでは一応、89%の方が必要ではないかというふうにお答えになったということがございます。
 (PP)
 こういうような社会のニーズを踏まえて、2004年に民間試験として知的財産検定という名前の制度をスタートさせたところになります。この当時は、大手企業の多くの方に御協力いただきまして、とにかく過去に実際にあった事例、実際起こった事件を洗いざらい全部出してくれと。勿論、実名は出しませんという前提で実例収集をし、そこから問題を作成するという実践的な方法を取ったということになります。そういったところも恐らく評価されたんだと思いますが、2008年に国家試験になりました。
 (PP)
 この国家試験はどういう仕組みで運営されているかと言いますと、基本的にはこちらの法律に基づいておりまして、職業能力開発促進法という法律がございます。アンダーラインを引いてございますけれども、「職業に必要な労働者の能力を開発し、及び向上させることを促進し、職業の安定と労働者の地位の向上を図る」のが目的でございます。
 それから、44条の2項、3項にございますけれども、まず「検定職種」というのがありまして、検定職種ごとにその内容は労働省令で定める。それから、試験の構成は、実技試験及び学科試験によって行うということで、後でも少し御説明しますが、よく学科試験、実技試験と何で2種類あるのかと言われるんですが、この法律に基づいて行っているからにほかなりません。
 (PP)
 「技能検定」と言いますのは、「働く人々の有する技能を一定の基準により検定し、国として証明する国家検定制度」です。これは厚生労働省の説明になります。技能に対する社会一般の評価を高め、働く人々の技能と地位の向上を図ることを目的とするということで、現在、136職種ございまして、昨年の段階で459万人の方がこの技能検定の合格者になっている。今、申し上げたのは、あくまでも技能検定全般でございますので、知的財産管理技能検定は勿論もっと少ないです。
 (PP)
 知的財産教育協会の専務理事ということで今日、お話しさせていただいているんですけれども、知的財産教育協会と国との関係は何かというのがこの「国と指定試験機関の役割分担」ですが、ごらんいただきますとおわかりになりますように、試験科目範囲の設定、受験資格の特例、実施要領の認定、事業計画の承認等々、主たるところはすべて国が行うことになっておりまして、指定試験機関の役割は、あくまでも試験問題をつくる、それから、試験を実施する、そしてそれを報告するというのが主な業務になっております。
 したがいまして、知的財産教育協会というのは、指定試験機関として、一種の国の手足として動いているというのが実態でございまして、特別会計、一般会計という区分で、試験に関しては完全に特別会計という別区分で会計することが要求されており、また、これも難しいんですけれども、特別会計で利益を出してはいけない。ただ、利益を出してはいけないから赤字でいいのかというと、赤字でもいけないということで、非常に難しいマネージメントが要求されるということになります。ちなみに、利益が出る場合には、受験料を下げることになります。
 (PP)
 それから、「知的財産管理」という職種でございますけれども、実は、「管理」という言葉は、妹尾先生がよく悪い方の言葉で用いられていて、私、正直使いたくなかったんですが、ここで言う管理はマネジメントの意味と御理解いただきたいと考えます。実際、知的財産マネジメントという職種で当初は国家試験になる予定だったんですけれども、法令用語として「マネジメント」という言葉は使われていない、前例がないということで、同義語という前提で「管理」という言葉にしたところでございます。
 (PP)
 それから、受検資格については省略をしたいと思いますが、一言だけ申し上げますと、基本的には、1級、2級を見ていただきますと、実務経験を有することが前提になっております。先ほど申し上げましたように、この業務を行う人のための試験ということが基本的前提にあるからでございます。ただ、3級を見ていただきますと、従事しようとしている者ということで、これからやる気のある人もOKとなっておりますので、実質的には3級から受検していただければ、現在、知財業務をやっていない方、知財関連業務でない方も受検できるようにはなっております。そして3級合格者は2級を受検できますので、実質的には3級、2級というように上がっていくことができるというのが実態でございます。
 (PP)
 それから、「学科試験」「実技試験」については、ここに書いてある下線部だけ御説明して、学科試験は基本的に知識の試験である。それから、実技試験は実際の業務に関する試験であるというような位置づけになってございます。
 (PP)
 1級、2級、3級のそれぞれの到達イメージですけれども、基本的には課題の発見と解決を主導するというのが1級である。2級は、課題を発見して、一部は自律的に解決する。3級は、課題を発見し、上司の指導の下でその課題を解決するという設定になってございます。
 (PP)
 試験時間については省略させていただきます。
 (PP)
 ここが結構重要なポイントなんですが、知財マネジメント3階層論として御紹介しておりますのが、実は「知財マネジメント」という言葉について語られるときに、レベルの違う言葉がごちゃまぜに議論されていることが多うございます。ベースにあるのは勿論、法律だと思いますけれども、その上に実務というものがあり、その実務は戦略に基づいて行われなければならないという意味で、戦略というレベルもある。
 一番わかりやすい例で言いますと、サッカーの話に例えるとわかりやすいかと思うんです。法律というのは、サッカーで言えば、どういうことをやったらレッドカードだよというルールになります。それから、シュートをうまく打つとか、あるいはフェイントをかけて相手を抜くとか、こういったものが実務。戦略というのは、サッカーの戦略と同じで、前半守って後半攻めるとか、あるいはこの試合は全部守りだというような、これが戦略に当たるのかなと思います。
 ここで何を申し上げたいかと言いますと、今までの教育はどうしても法律中心になりがちだったのではないかというのが懸念事項といいますか、今までの感想でございます。実際、シュートの打ち方とか、フェイントはこうやるといいなどは、サッカーのルールブックを幾ら読んでも書いていないわけでございますけれども、法律がベースにあるということで、やはり法律が基本だよねと。基本なのはおっしゃるとおりなんですが、基本だけでは応用はできないというところが、なかなか認識されてこなかったのではないかと考えてございます。ですので、そういう意味では、知財の世界で言えば、実務というのは、ある分野の実務をものすごく詳しく知っている、あるいはどんな技術でもその本質をとらえることができる、こういったことが能力のある人ということになると思うんですが、その方が必ずしも法律に詳しいかどうかわからないということになるかと思います。
 (PP)
 いずれにせよ、こういうレベル感の違いがあるということで、このようなことを申し上げているのは、実は、こういったことを意識して、こういうようなスキル標準が存在するということでございます。これは経済産業省の知財政策室がおつくりになった、平成18年、19年にかけて発表されたスキル標準でございまして、ごらんいただきますように、戦略というもの、それから、実務というもの、「管理」という言葉を使っておりますが、マネジメントに近い話ということで、創造、保護、活用、それぞれの分野について、さまざまな、先ほど申し上げたような階層の法律のみならず、実務、戦略的なものが網羅されている。
 (PP)
 なぜこれを御紹介したかと言いますと、検定がこういう試験範囲を参考にしているからでございます。こちらにありますように、戦略が試験範囲に入っております。それから、標準化の話も入っております。それから、事業戦略、R&D戦略も試験範囲に入っております。ですので、そういった試験範囲になっているということになります。
 (PP)
 こちらは「企業における知的財産業務の分類」ということで、見ていただければということです。いずれにしても、弁理士のいわゆる試験の範囲等と、企業における知財業務はやはりずれがあるということを申し上げたかったということになります。
 (PP)
 こちらはイメージですので、見ていただければいいんですが、例えば、自社製品の模倣品が中国で出回るのを排除するために検討しているということについて、どう考えるかという問題。これは明らかに法律の問題ではないと思います。これは2級の問題です。基本的には、2004年の知財検定、民間時代からグローバルを目指して、こういった問題を出題するようにしてまいりました。
 (PP)
 1級の問題に関しますと、もっと高度かつ複雑な問題が出まして、米国特許のクレームの判断ですとか、あるいは次のページにありますように、契約書を見て、この契約書を受け取った会社として、自社にどういうことが有利なのかを判断しようと、そういうような問題を出題しております。
 (PP)
 この試験の特徴をわかりやすく申し上げますと、1級の受検者の感想は、試験中に会社で業務をしている気分になったというような感想をいただいております。
 (PP)
 それから、合格率は、こちらに書いてございますように、1級は非常に難しく、約7%。2級、3級はごらんのとおりでございます。
 (PP)
 それから、累積受検者数。これは累積です。毎年ではありませんので、右肩上がりという意味ではございません。あくまでも累積でございます。ですので、今はやや緩やかな、右にちょっと上がっているかなぐらいの受検者数になっております。今は累積で10万人を超えているということになります。
 (PP)
 それから、知財管理技能士の活躍の場は、大企業のみならず、実は中小企業でも活用できる。勿論、特許事務所でも活躍できる。いろいろな場がございます。
 (PP)
 検定を利用する大企業の例ですと、私が非常に関心しましたのは、この試験を現状把握と教育結果の効果測定に利用する。その結果を見て、組織として教育設計が間違っていないかを確認し、傾向がもしわかれば、それに基づいて教育設計を見直すというのは、まさに冒頭申し上げた知財マネジメントサイクルに活用されている企業があるということで、そういう使い方をしていただければ非常にありがたいと思っています。
 (PP)
 こちらが知財管理技能士と弁理士との「協働」のイメージでございます。先ほど出願件数の減少等、いろいろな話がございました。中小企業の話は余り多くなかったかもしれませんが、私は中小企業でも本当は非常に重要な、本来、特許にすべき、あるいは知的財産としてきっちり管理すべきものがありながら、そういったものが埋もれている、あるいは気づかないまま、それこそ流出しているというケースが実は多くあるというのが実態かと認識しております。そういう意味では、中小企業の社内には、少なくともこういった知見を持った人がいれば、それは潜在的な知財の発掘になり、それを権利化することによって、いいサイクルが回るのではないかということを期待しております。
 これの一番典型的な例として、もう一点、別添資料で「合格者の声」というのを添付させていただいております。これは、株式会社エンジニアという、中小企業と言うと失礼かもしれませんが、中堅企業なのかもしれませんが、この会社の「ネジザウルス」という言葉をお聞きになった方は多いんではないかと思います。2009年にグッドデザイン賞を受賞しまして、2011年に発明大賞、今年も日本商工会議所の会頭発明賞など、11個の賞をこの2年間で受賞されている会社でございます。
 まさに知財を重視している中堅中小企業でございまして、こちらはちゃんと許諾を取ってお出ししているんですが、下線部に書いてございますように、「弁理士さんも中小企業の経営者に、特許制度についての、ごく基本的な事柄から説明を初めなければなりません。」「自分で理解できないことに対して、数百万円はおろか数千円でも支出する経営者はいません。」「弊社では、国家資格の知的財産管理技能検定を開発・製造部門の社員を中心に受けさせています。」「この資格を取得できる程度の知識があれば、弁理士の先生と、実のある特許戦略のコミュニケーションがスムーズにでき、効果的な知財投資が可能になると考えています。」、このようなコメントが典型的な中小企業での活用例かと考えています。
 最後になりますけれども、基本的には、こちらの試験は箱でございますので、中身はいかようにも変化することが可能でございます。ですので、知財業界の一種のツールとしてうまく御利用いただいて、活用し、知財人財の育成にお役立ていただければと考えてございます。
 36分と言いながら、済みません、4分も過ぎてしまいました。そういうことで、一応、この辺で終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 
○妹尾座長
 どうもありがとうございました。
 参考人4名、それから、本ワーキングの委員2名、合計6名の方々の御意見、御提案を伺いました。たっぷりお話しできる時間がなくて大変申し訳なかったんですけれども、今日、お話しいただいた方々の議論は勿論、知財の世界では大変有名な方々ばかりですので、皆さん、それなりに御承知されていると思います。
 御質問、御討議、今の6名の方にしたい気持ちは山々なんですが、次の議題を踏まえてということでさせていただきたいと思います。次に、知財人財育成プランに向けた検討課題を含めた全体討議ですが、それについて事務局が資料を用意しているということなので、その説明をしていただきます。その上で、残り時間と言ってもあとちょっとしかないですが、したいと思います。それでは、高原参事官、よろしくお願いいたします。
 
○高原参事官
 それでは、資料2をごらんいただけますでしょうか。「『知財人財育成プラン』策定に向けた検討の方向性(案)」でございます。
 前回のワーキンググループで「知財人財育成プラン策定に向けた検討課題について」という資料を事務局から提出させていただきました。その際には、まず、知財を取り巻く10年後、更に、その先の状況を見据えることが必要ではないか、そうした上で、その将来像に向かってどのように知財人財の育成を進めていけばよいか、そのような方向で検討を進めるべきではないかとしておりました。そして、前回、その検討の方向性について、御検討のたたき台として幾つかの視点を例示させていただいていたと、こういうことでございます。
 今般のこの資料2でございますが、タイトルにありますように、今、申し上げた前回の資料のうちの後段の部分、つまり、知財人財育成プランの策定に向けた検討の方向性について、よりフォーカスをしたものでございます。
 1ページ、第1パラグラフでございます。こちらは前回の資料には明記をしてございませんでしたが、これまでの会合で御議論いただいた内容を受け、急速な状況変化、あるいはイノベーションモデルの進化を踏まえまして、従来型のコンセプトと新しいコンセプトとをうまく組み合わせ、相乗的な効果が発揮されるように知財人財の育成を進めるべきではないかということを、上段の部分に書かせていただいております。
 第2パラグラフでございますが、先ほど申し上げました検討の大きな流れを再度述べたものでございます。イノベーションモデルの進化を受け、今後ますます育成に注力をすべき人財につきまして、グローバルにイノベーションを創生することにより、国際競争力の強化に資する知財の活用ができる知財人財、仮称として「知財イノベーション人財」という表現しているところでございます。
 それから、各論の部分でございます。1ページの後半以降、検討の視点を7点ほど例示してございます。「1.知財イノベーション人材を養成するための場の形成」「2.知財マネジメント戦略に関する研究の推進」「3.グローバル・ネットワーク時代に対応するための特許審査体制の構築」、それから、2ページに入りまして「4.知財人財育成のための資格・検定制度の活用」につきましては、内容的には前回の資料で既にお示しをしたものでございます。
 2ページ目の5.につきましては、大企業とは異なり、知財人財の確保が困難である中小・ベンチャー企業において、どのような取組みが必要かという視点を書いたものでございます。6.は、裾野の拡大への対応もしっかりやるということ。それから、7.につきましては、グローバル・ネットワーク時代の知財人財の育成を推進していく協議会の構築ということでございます。2006年の総合戦略に基づいて、「知財人材育成推進協議会」が創設されておりますけれども、今の時代に沿った知財人財の育成に向けて、各関係機関が集う協議会を整備することができないかという視点でございます。
 この1.~7.は前回と同様に議論のたたき台という性質のものでございまして、網羅的なものではございません。委員の皆様からも知財人財の育成を進めていく上での視点について、御意見をいただければ幸いでございます。
 以上でございます。
 
○妹尾座長
 ありがとうございました。
 今のはたたき台ですから、この7つのうち、幾つもがなくなっても構わないわけですし、あるいはたくさん修文されても構わないということだと思います。それを前提に御議論いただきたいのですが、今日、せっかく委員の方、参考人の方が見えていますので、先ほどのお話の中での質問等がございましたらお受けしたいと思います。いかがでしょうか。八島委員。
 
○八島委員
 確認なんですけれども、このワーキンググループの一番の目的は、日本の国際競争力の強化、そのために資する知財人財ということだと思うんですけれども、企業側の立場から言うと、正直言いまして、そういう知財人財というのはたくさんいてもしようがないような気がするんです。妹尾先生がおっしゃるような、例えば、知財の軍師という人間がたくさんいてもしようがない。その辺のところはどこにフォーカスを置くかというのがポイントで、今日、皆さんがおっしゃったのはまさにそうだと思うんですけれども、知財としてのプロとは何ですか、やはり実務をきちんとできないといけない。そのベースが一番大事なんですが、日本に本当に新しい発明が生まれてくるのかどうかがポイントだと思うんです。そこがまずないと、知財というのは手段でしかないと私は思っているんです。知財というのは無から有を生むようなものではなくて、有のものをどういう形でやっていくかというようなポイントなので、そこのところがまず1つ大事だと。
 だから、この前もお話しさせていただいたように、知財の人間が知財が大事だと言うのは当たり前で、むしろ知財でない人間が知財が大事である、使うんだよというような組織というか、雰囲気を日本の中でつくっていくのが、人材をつくるポイントではないかと思うんです。そういう意味で言うと、弁理士・弁護士の方は、我々はすごく感謝していますし、専門知識を利用させていただく。その弁理士・弁理士は、徹底的に日本の法律なり、そういうものをきちんとプロフェッショナルとしてできる実力をつけていただきたいというのが1つ。
 それから、もう一つは、国の方々にお願いしたいのは、先ほど荒井先生がおっしゃったように、日本の中で仕事ができるというか、知財を使って、ああでもない、こうでもないというようなところになるかというと、多分、なかなかならなくて、例えば、さっきのアップル対サムスンみたいな形で、世界でやっていけるようなもの。大事なことは、我々から見れば、日本でできた発明をちゃんと事業をやろうとする国で評価というか、保護というか、活用できるようなシステムづくり。知財制度自体が属国主義ですから、各国ごとのあれになるかもしれないんだけれども、司法制度なり何なりを標準化、平準化していくというのが、国としてやっていただかなければいけない。そういうものをつくる。これは7科目全部挙げていますけれども、いわゆる総花的にはいいかもしれないけれども、もっとフォーカスを当てて、実力をつけよと、プロフェッショナルとしてやるべきところ、それから、いわゆる軍師というか、先が見えてできる人間、環境づくり、そういうふうに分けないといけないのかなというのが感想なんです。
 
○妹尾座長
 ありがとうございました。
 確かに、この7つを見ると、全部ホチキスでとめているみたいな印象があるのかもしれないと思います。
 今の御発言を含めて、ほかの方々から御意見、あるいは参考人の方々への御質問、そのほかございますか。いかがでしょう。佐々木委員。
 
○佐々木委員
 小川先生のお話は何回も聞かせていただきまして、小川先生のお話を聞かせていただいたときに、弊社の経営層も、これからはもう特許を出してはだめだぜと、オーバーリアクションをする人が出てきたのも確かであります。
 小川先生の話を一段と理解するためになんですが、仮の質問になりますけれども、例えば、日本のIT業界、家電業界が負けたときに、特許は世界で取ってありました。あのときに、この国でつくらせよう、あるいはこの国でつくってもらおうとしたときに、その国の発展性とか、その国のレイバーコストの安さとか、その国からどこにそれが流れるかというのをよくよく吟味して、例えば、ロイヤリティーを今までにないような額に設定するとか、先ほどライセンス拒否は難しいとおっしゃいましたけれども、事によると、そういうことも含めたマネージメントをすれば、今の絵姿は変わっていたのか、あるいは、小手先と言ってはいけないのですけれども、そのレベルではだめなのか。
 例えば、今、我々はミャンマーには特許はありませんけれども、ミャンマーに特許があるとして、ミャンマーが中国に伍していけるようなレイバーコストでやれるんで、そこでものをつくらせようとしたときに、ミャンマーのこれから10年後の発展性とか、ミャンマーの国際関係がどうなるかということを考えて、ライセンス料を、今のミャンマーではとてもとても払えない、びっくりするような額に設定するとか、やりにくいかもしれませんけれども、先を見据えてそういうことをやっていれば、家電業界等々ももうちょっと持ちこたえたと言ったら失礼な言い方ですけれども、あの製品群で、あれだけの特許を持って、競争力を保ち続けたのかどうか、そこが私自身は非常に興味があるところで、先生、どんなお考えか、お聞かせいただければと思います。
 
○小川参考人
 私はそういう現場に行ったことがないんですけれども、少なくとも私が知っている範囲で言えば、パソコン、携帯電話、テレビ、DVD、リチュームイオン電池、そしてパワー半導体などの分野で多くの人とこの種のデスカッションをしました。しかしながら今佐々木委員がおっしゃったような意識を持った人に私はお目にかかったことはありません。いずれにせよ特許をたくさん出願すればビジネスをプロテクトできるという意識の人ばかりでした。例えばDVDの人々には、1980年代のVTRでは必須特許の数でビジネスが決まった、という先輩たちの事例が彼らの意識を支えていました。しかしながらこれはアナログ技術の時代の話であって技術伝播が起こり難いケースで成立したモデルだったのです。しかしDVDの人々はデジタル化時代の国際標準化によってグローバル産業構造が一変する事実を全く理解できていませんでした。それはなぜかと言うと、DVDの開発が始まったのが1994ころでしたので、上記の産業構造の変化と同時進行する時期だったからです。ほとんどの方が気づかなかったということではないかと思います。我々アカデミアの人々も無罪ではありません。
 それからミャンマーの話ですけれども、要するに国によってロイヤリティーの在り方を、ある国は50%で、ある国は5%、のように変えられるか、というご質問だと思いますが、もし変えられるのであれば徹底してやればいいと思います。しかし国際的な慣行としては数%とか、あるいは場合によっては10%以下に抑えられています。
 もし変えられないのだとすれば、我々は産業構造の変化に伴って知財マネージメントを変えなければならないことになります。この意味で現在ヨーロッパで係争中のアップルとサムスンの事例が今後の日本企業に極めて重要な方向性を示すことになるでしょう。ヨーロッパでアップルがサムスンを訴えているのは意匠権です。意匠権というのは、それ自身はクロスライセンスの対象になりません。つまり、アップルは徹底してクロスライセンスを防ぐことに注力しています。一方、サムスンは徹底してクロスライセンスに持ち込もうとしています。
 もう一つ注目すべき点は、アップルもサムスンも、自分のブラックボックス領域と相手のそれを認識してビジネスモデル・知財マネージメントを事前設計していることです。経済学で言えば、まず最初に市場と企業の境界を明快に峻別しています。
 これまでのトヨタは境界設計など全く必要が無かったと思いますが、特に途上国市場ではそろそろ必要になるのではないでしょうか。電気自動車ではすぎに必要となる可能性があります。
 
○佐々木委員
 ありがとうございました。
 先ほどの八島さんのあれとよく似ていて、取るところ、徹底的に抑えるところと、先を見越してどう使うかというところはかなり峻別されるんではないかという感じがしています。そういう意味で、そこをもうちょっと明確に進めたらどうでしょうかということも含めて申し上げさせていただきました。
 
○妹尾座長
 ありがとうございます。
 今、産業界からの委員のお2人が御発言されましたが、全然違う業界であるにもかかわらず、多分、同じようになっていくというお話だと思います。すなわち、今まで、特許は、どの分野でも、どの領域でも、取れば効果が上がるよねということでした。それが80年代神話としていまだに残っているんですけれども、現在の世界はそうではなくて、取るべきところと、逆にそれを取らないとか、あるいは取ってもオープンにすることによって新興国とウィンウィンの関係を結ぶとか、そういう構造をやっているわけです。そういうことがちゃんと考えられる人材を育成しなくてはいけないよねということが背後にあろうかと思います。
 時間が迫ってきたので、誠に残念なんですけれども、ほかにどうしてもという御発言、あるいは御質問ございますか。いかがでしょうか。
 それでは、今日は6人の皆さん、本当に貴重なお時間ありがとうございました。十分お話を伺う時間がなくて、誠に申し訳ございません。ただし、6名の方の共通の認識があるなということを私は理解したつもりです。こういう理解でよろしいかどうか、3点あります。
 第1は、ビジネスと産業自体が、まさに前の人材育成を書いた2005年のころから様変わりをしたということです。勿論、その底流は1980年代後半から始まっていたのですけれども、見事に噴き出してきたのが2005年以降ということで、様変わりになってきています。それに対応した知財マネジメントは当然変わってきているということで、知財マネジメントと言われているものが、従来の、どの分野のどのような技術であっても出願をすれば効果がある、権利を取れば効果がある、ということではなくなった。場合によっては副作用を起こすよねということもあるし、全く意味がないよねということもあるし、いろんなことが起きてきたというのが第1番目の共通した認識かと思います。
 第2番目は何かというと、その認識に基づくと、知財マネジメントを担う方々についても、これはモデルを変えなければいけないということです。一つはグローバルということに対応する。先ほど荒井先生から、もう国内市場という概念はないのではないかという御発言があったぐらいです。要するに、日本全体として見れば、グローバルを前提にしなければいけない。勿論、例外はあると思いますが。
 もう一つは、事業との関係性が変わった。知財部門が頑張っていれば、あとは事業部門に任せたという、バトンゾーンで手渡しをすればいいという形ではなくて、事前に事業部門の方々と連携をしなくてはいけない。つまりパッシブな関係ではなくて、プロアクティブな関係に変わってきた。それをこなせる知財人財はいるんだろうかという問題提起が恐らくあっただろうと思います。これらが2点目です。
 第3点目は、これは非常に特徴的だと思うですが、実は、活用側の育成がすごく必要ではないかということの御指摘だと思います。例えば、奥山参考人が知財ユーザーの教育ということをおっしゃったこともそうですし、いろいろな方々がおっしゃったことは皆そこに通じると思います。活用する人たちがわかっていなければ知財が重要だと言えないよねと、これは先ほどの八島委員の発言でもそうですね。ということは何かというと、知財人財育成というのは、実は知財の人材を育成するという射程ではなくなってきた。知財を活用する人材の育成がパラドキシカルに、あるいはぐるっと婉曲的に必要だということです。そうしなければ知財人財自身も生きないという相互関係に入ってきたと、こういう認識でいらっしゃると思います。
 勿論、これ以外の御指摘もあろうかと思いますが、座長として、この6名の方の共通項として、この認識を伺えたと思います。これ以降、もし委員の皆さんから、あそこはどうなっている、こうなっている、あるいは先ほどのたたき台は一見ホチキスに見えるぞとか、いろいろ御指摘があろうかと思います。後ほど私ないしは事務局にお寄せいただきたければと思います。また、参考人の方々も、まだまだしゃべり足りないぞということでしたら御意見をお寄せいただければと思います。
 それでは、ちょうど予定の時間がまいりましたので、本日の会合をここで閉会させていただければと思います。
 事務局から何か連絡事項はありますか。
 
○高原参事官
 今後のスケジュールにつきましては、最初に申し上げた資料3に進め方が書いてございますが、次回、第4回につきましては、11月21日月曜日の午前中を予定しておりますので、日程の確保のほど、どうぞよろしくお願いをいたします。
 以上でございます。
 
○妹尾座長
 ありがとうございました。
 大変な日程で、委員の皆さんには御無理を申し上げますけれども、どうぞ御協力よろしくお願いいたします。
 それでは、本日は御多忙のところ、ありがとうございました。これで終わりたいと思います。