首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸

第4回知的財産による競争力強化専門調査会 議事録

  1. 開 会 : 2008年2月5日(火)10:00〜12:00
  2. 場 所 : 知的財産戦略推進事務局会議室
  3. 出席者 :
    【委 員】 相澤会長、岡内委員、加藤委員、河内委員、佐藤委員、関田委員、妹尾委員、辻村委員、長岡委員、中村委員、中山委員、前田委員、三尾委員
    【事務局】 素川事務局長、松村事務局次長
  4. 議 事 :
    (1) 開  会
    (2) 前回専門調査会以降の動きについて
    (3) オープン・イノベーションの促進について
    (4) 自由討議
    (5) 閉  会
○相澤会長 それでは、多少定刻前ではございますが、長岡委員は遅れられるという連絡が入っており、皆様おそろいでございますので、第4回になりますが、知的財産による競争力強化専門調査会をこれから開催させていただきます。
 本日はご多忙のところをご参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 なお、本日は田中委員と渡部委員はご欠席との連絡をいただいております。
 まず委員各位まとめていただきました分野別知的財産戦略につきましては、昨年12月に知的財産本部の会合が開催されましたので、その折に私から報告させていただきました。まずこのことをご報告申し上げておきます。ところで、第3回の会合より2カ月強経過しておりますので、今日に至るまでどんなことが動いていたかということで、事務局から簡単に説明をしていただきたいと思います。
○松村事務局次長 それでは、資料はないんですけれども、昨年まとめていただきました分野別戦略につきまして、12月の中旬に岸田大臣から経団連の方に取りまとまった報告書についての説明と意見交換ということで榊原副会長以下知的財産の幹部の方々と朝食会形式で懇談会を行いました。
 その席で岸田大臣からは、3点経団連側にお願いをさせていただきまして、1つ目は国際的な取り組みが必要とされている環境問題についての我が国の環境技術を世界にもっと使ってもらい、この問題の解決のために積極的に貢献していく必要がある。ぜひとも産業界の皆様にこうした国際貢献の観点を踏まえた知財戦略の取り組みにつきご検討いただきたい。
 第2点、我が国技術の国際展開をさらに推し進める観点からも我が国がリーダーシップをとって国際標準を獲得していく必要がある。経団連として産業界の取り組みをリードしていただきたい。
 第3、イノベーションの原点たる基礎研究の成果を経済全体の活力に結びつけていくためには、産業界の皆様が技術シーズに用途を与え、新たなビジネスにつなげていただくことは不可欠であると。私としてもTLOや大学知財本部の機能強化に意を用いてまいりますけれども、産業界におかれては、大学等との連携のさらなる強化をお願いしたい。
 ということで、それに対しまして、マブチ知的財産委員長の方から我が国の知財の取り組みは来年で7年になりますと、そろそろ立ち止まって考えてみてもよいのでは。具体的にはこれまでの施策はどの程度イノベーションの促進に寄与したのか、一度総合的なレビューをしておく必要があるのではないかというような点。
 環境分野については、我が国の技術をもっと使ってもらい、問題解決のために貢献すべきじゃないかという大臣のご指摘については国際競争力の維持強化の観点から知財権を大切にしつつ、国際展開を進めるということではないかということで、企業の競争力に何らかの影響がある場合や、意図せざる技術の流出が起こってしまう場合を除き、正当な対価を得られるのであれば、広くライセンスを行っていくことで我が国技術を普及させ、世界の環境問題の解決に役立てるとの考えに経団連としても賛同するところであって、経団連の会員会社にもぜひ伝えたいというようなご発言がありました。そのほか、経団連からご出席された方々からは国際標準化の推進とともに、オープン・イノベーションの時代であるので、一つの会社だけで研究開発するのは難しいと。ほかの企業や大学との連携が大事であり、企業を越えた場、個人での創造、コミュニティの重要性を踏まえた対策を打っていくべきであるという点やイノベーションの成果を知的資産として世界で活用する。この点についてはこれまでやや力を入れてこなかった面があるので、これから積極的に取り組んでいく必要があるというようなご発言がございました。
 その後、実はその朝食会の翌々日でございますけれども、先ほど相澤会長からご紹介のありました知財戦略本部会合がございました。
 簡単に本部員の方々も今日ご出席でございますけれども、簡単にご紹介をさせていただきますと、相澤本部員の方から報告書のご説明がありまして、知財フロンティアという基本理念で日本の知財戦略をこれからどんどん進めていくということで、具体的には技術フロンティア、制度フロンティア、市場フロンティア、それぞれのフロンティアを世界に向かって大きく拡大していくことが大事というご紹介がございました。
 その後、岸田大臣の方から報告書の中にも示されておりますリサーチツール特許に関するデータベースの構築につきまして、全体の調整は内閣府の主催する関係局長会議において行うこととし、実際のデータベースの構築を特許庁にお願いしたいということで甘利大臣に要請がありまして、甘利大臣はイノベーション促進の観点から重要な取り組みであるので、特許に関するリサーチツールのデータベース構築を早急に進めるよう特許庁に指示するという発言がございました。
 また、岸田大臣から、その後、さっきご紹介させていただきました経団連との朝食会の模様を報告いたしまして、その後質疑に入ります。主な意見だけ簡単にご紹介いたしますと、21世紀は情報コンテンツのビックバンが起こっているということで、情報をデジタル化してその利用を図っていく。そのために著作権法の改正、見直しが必要ではないかという意見、また模倣品・海賊版拡散防止条約の早期実現などの取り組みや在外公館の相談機能強化という点が必要ではないかという点、またインターネットで何かビジネスを行おうと思うと知財権に抵触して我が国はやりにくいという状況、現行著作権法はデジタルコンテンツの流通利用という側面に対する配慮が不十分であるので、一省庁の枠組みを越えて国の戦略として取り組むべきじゃないかという意見、また京大の山中先生のiPSの発明について、国家戦略としてぜひ万全なサポートをしていただく必要があるのではないかというご意見、またあわせてアメリカのバイオプロセス全体の特許が可能であるけれども、ヨーロッパも今そういうことをやろうとしているので、日本についても制度の見直しが必要ではないかというご意見、また産学連携が特に中小企業支援という結果につながっているということから、そういう面でもこれに積極的に取り組むべきじゃないかというご意見などなどございました。
 最後に福田総理から、福田総理自身が官房長官として第1回から本部会合に出席していて、保護制度の強化とか知財裁判所の設立とか、そういうことを振り返ってみても、知財環境は大幅に前進したと。昨今、市場技術のスピードも早まっているので、そういう状況の中でこの本部を中心にそういう情勢に常にキャッチアップしていくということが非常に大事である。またキャッチアップだけじゃなくて、その先をいくことはまた大事だと。まさに日本はこの面でも頑張れるかもしれない。欧米に、アメリカに追いつけるような状況になったということで、もっと頑張ってほしいと。例えば環境に関する技術開発等が進むと世界をリードできるような立場になるのではないかというような希望を持っていると。そういうことをするためにも今回示された知財フロンティアの開拓という新機軸のもとに、今後とも世界最先端の知財立国を目指して未開の技術・市場・制度の開拓に果敢に挑戦するということが重要であると、こういうふうに考えるので、よろしくお願いしたいということでございます。
 ちょっと長くなりましたけれども、以上でございます。
○相澤会長 ただいまのような状況がこの2カ月余りの経過でございます。
 何かご質問はございますでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 それでは、本日の中心の議題は、3番目にありますオープン・イノベーションの促進についてでございます。
 この議題に移りたいと思います。
 先ほど申し上げましたとおり、昨年の分野別知的財産戦略をまとめたところでございますが、その検討において、大学から企業への技術移転、それからオープンソース・ソフトウエア、それから国際標準化等、こういったことに代表されるように知財の創造や活用に当たって、外部のリソースを利用するという観点、これが強く打ち出されてきたというふうに思います。
 昨今、競争力強化のためには、このようなオープン・イノベーションという考え方も取り入れられているということで、このことの重要性がますます強くなってきたのではないかと思われます。
 そこで、オープン・イノベーションという観点から、今後の知的財産による競争力の強化に係わる課題に関する調査、それから検討を行うべく事務局に、短期間ではありますが大変膨大な資料を用意していただきました。
 本日はこのことにつきまして議論を進めたいわけでございますが、まず資料に基づいて事務局から説明をさせていただきます。
 それでは、松村次長から資料の1の説明をお願いいたします。
○松村事務局次長 それでは、恐縮です。1枚めくっていただきまして目次をごらんいただきたいと思います。資料の構成でございます。
 まず、最初にオープン・イノベーションの位置づけということでオープン・イノベーションのニーズの高まりというTがございます。定義の問題とか、なぜオープン・イノベーションが今、また改めて問われているのかという点、アメリカと我が国との比較、そしてUでございますけれども、それでは何をしたらいいのかということで、最初に新しい創造環境を創出していく必要があるのではないかということで、技術情報へのアクセスの改善とか、研究開発目的のデジタル情報利用の円滑化とか、この時代における前提でありますネット環境の安全性、信頼性の確保の問題、そして技術移転を促進するという観点で、まず特許流通市場、今日本ではどういう状況になっているかという現状、そしてその活性化のためにはどういうことをしたらいいのかというのを知財活用ビジネス、仲介事業者の観点、また企業における取り組みのあり方、そして大学のあり方、さらには政府として何をできるか、やるべきか、そして国際展開のためにどういうことをやっていったらいいか、こういうような構成にさせていただいております。
 それでは、3ページでございます。
 昨年取りまとめていただきました分野別知財戦略において横串のテーマとして3つのフロンティアと5つ戦略、1つの配慮すべき事項というのを出していただきました。
 真ん中にございますように、技術フロンティア、制度フロンティア、市場フロンティア、それぞれに大きな戦略がございまして、技術フロンティアが基本特許を確保し、幅広く技術を押さえるという産学連携の重要性、制度フロンティアの拡大におきましては、新ビジネス開拓のための知財制度の整備、市場フロンティアにつきましては、共通基盤的な枠組みの積極的活用や中小企業の積極活用への支援強化、国際展開のための技術移転の促進、さらにはパテントへの対応というのを配慮事項として挙げていただきましたが、オープン・イノベーションというのは3つのフロンティアをさらにプッシュしていく機能を持つんではないかと、そういう観点で昨年の分野別戦略の横串テーマとこのシステムというような牽引役になるものではないかと、こういう位置づけでございます。
 次のページでございます。
 それでは、イノベーションモデルとして、世の中によく言われているのにはどういうものがあるかといいますと、クローズド・イノベーションとオープン・イノベーションがあるということで、ご承知のとおり、クローズド・イノベーションは研究開発から製品化までを垂直統合の形で自社内で完結させる。それに対しまして、オープン・イノベーションは下のポンチ絵でいいますと、A社からB社に技術移転をやるということでございますけれども、そのためには各社における知財管理、これは構成面、防護面、両方における知財管理だと思いますけれども、これが前提でありますし、仲介市場がその間に成り立っていくことが成功のために必要でありますし、それを支える昨今の大きな変化として情報技術の発展があると、こういった点はチェスブロウの方にも書かれているので、一応参考までに引用をしてございます。
 5ページでございますけれども、もう一つの切り口として、産業構造審議会の情報経済産業ビジョンのフォローアップから抜き出してきたものでございますけれども、1つの技術革新モデルは囲い込みを中心とした技術革新モデル、これは紫の左端の方にあるものでございますけれども、もう一つが一定の技術や情報を幅広く「共有」したイノベーションモデル、これは右端のオレンジ色のところでございますけれども、その間に青、緑、黄色のコンセプトがあると思いますけれども、この独占的技術移転から(非独占的)技術移転に至るこの領域が技術の流通、オープン化のコンセプトに当たるのではないか。一応概念整理でございます。
 次のページでございますけれども、なぜ昨今オープン・イノベーションというものが改めてクローズアップされているかと。重々ご承知のとおり、グローバル経済化による競争激化、製品ライフサイクルの短縮化、これは左下の表にございますけれども、それと技術開発コストの上昇と、これは右のグラフでございますけれども、もう一つ、上の(2)でございますけれども、有用な知識・技術の分散・拡散と書いてありますが、要するに情報技術によりさまざまなリソースが出現して、それへのアクセスが情報技術によって現実化しつつあるという状況がこういった(1)の競争激化等の要素をさらにプッシュして、これがこの情報技術というものをうまく活用し、外部リソースを積極的に取り入れることに競争力の格差というものが生まれてきている面があるのではないかという問題意識でございます。
 7ページでございます。
 それでは、アメリカではどういう状況になっているかと。
 まず1つ目が従来、オープン・イノベーションというのは、主としてIT業界の世界で言われておりました。ところが、ごらんいただきますように、情報通信産業でももちろんでございますけれども、一般消費財産業、化学産業、製薬・バイオ産業において成功事例が続出してきていると。また大学においてもライセンス活動が盛んに行われているとともに、一番下の青い箱ですけれども、ネット技術の発展による情報へのアクセス容易化により、ガレージイノベーションというんですか、個人、ベンチャー等イノベータ層が拡大している面があるのではないかと。
 次のページでございますけれども、そういった企業や大学・個人の取り組みの結果、間に介在する仲介機能がビジネスとして成り立ってきている。仲介業者の扱った取引額は470億ドルという推計もございますけれども、どういうビジネスを展開しているか、3つの代表的なパターンを下に示しましたけれども、IP Capital Groupは仲介手数料を稼いでいるビジネスモデル。Ocean Tomo LLCは、知財評価及び流通オークションで稼いでいる。Intellectual Venturesは顧客企業の特許ポートフォリオを形成しているとか、その活用を実施してビジネスにしているというパターンがございます。
 駆け足で恐縮ですけれども、次のページでございます。
 翻って、我が国の特許流通市場はどうかと。アメリカと比較しまして、やはり萌芽段階にしかないのではないかと。例えばデータでいいますと、民間の仲介業者の扱った取引額は19億円にとどまっているという推計がございます。
 他方、ちょっと小さい字で括弧で書いてございますけれども、自治体、国等の社外アドバイザーやコーディネーターが扱っている取引額、ちょっと俗に官製市場と言ってもいいんでしょうか、これは133億円、こっちの方が大きいんですけれども。いずれにしても、アメリカに比べるとはるかに小さい。あともう一つのポイントとして、大企業において、有用な技術が埋もれている可能性があるのではないかと。左下の円グラフでございますけれども、知財協会員企業に対してのアンケート調査を野村総研が行ったものでございますけれども、ライセンス実績、1許もライセンス実績がない大企業は43%いると、無回答の企業、もしこれを実績がないと考えた場合は、ライセンスをしたことがある企業は引き算をしますと42%にしかならない。もう一つ、右の円グラフでございますけれども、自分で事業化しなかった研究案件はどういうふうにされているかというと、他社にライセンスされるものは8%以下でそれ以外は少なくとも半分近くは埋蔵金となっている可能性があると。埋蔵金ならまだしもなくなってしまう可能性もあるということでございます。
 次のページごらんいただきます。
 大学はどうかということでございます。
 関係者のご尽力によりまして、大学の知財本部、またTLOの整備もあり、大学の知財マインドもかつてに比べるとはるかに高まってきて大学の特許出願件数やライセンス収入も大幅に増加してきております。
 これは左下のグラフでございます。
 他方、未利用特許の割合は大学が一般の平均に比べますと相当大きな状況になっております。当然、アメリカの大学に比べると日本の大学、TLOのライセンス収入は見えないぐらいの存在でございます。
 次のページでございます。
 最近になって顕著になってきている傾向として、大学の特許申請における共同出願比率というものは非常に顕著に増加をしてきております。左下の棒グラフ、折れ線グラフが共同出願比率でございますけれども、2005年において48%程度、最近においては60%程度になっているのではないかということも言われております。
 右がちょっと非常に見にくいんですけれども、例えば東京大学、一番上にございますけれども、上の棒グラフが1995年から2003年の平均、下が2004年、2005年の平均、各国立大学というか独立法人、押し並べて単独出願の比率が落ちている。東大などにおきましては95年から2003年は単独出願が70%だったものが四十二、三%に落ちているということでございます。
 日本大学などはそれほど変化はないということが見てとれます。
 12ページにいかせていただきます。
 大学からライセンスが少ない要因として、よく言われている例というのを簡単に挙げさせていただいておりますが、研究戦略としては研究テーマの設定段階から、将来の特許の獲得・活用可能性が十分考慮されていないのではいなか。権利の取得戦略におきましては、出願より論文発表を優先しているのではないか、その結果として権利取得が困難となっている場合があるんじゃないか。周辺特許も視野に入れて権利取得を迅速に行っていないんではないか。権利取得や維持管理に必要な資金が十分確保されていないんではないか。また出願の実態としては「量」の確保が優先されているのではないかというようなことが指摘されていると思います。
 それでは、今のさまざまな情勢の中で何をしていったらいいかというのは、13ページ以下でございます。
 取り組むべき課題の最初に新たな創造環境の創出ということで、やはり裾野を広げるというか、極端に言って一億総クリエイターの実現のために、学術情報へのアクセスを抜本的に改善することが重要じゃないかと。例えば、図書館情報にアクセス、国立国会図書館では880万冊の蔵書のデジタル化を進めようとしておりますけれども、課題と書いてございますけれども、デジタル化することさえ今の法律上の解釈が不明確な面がある。例えばデジタルというのがなかった時代の解釈でコピーをとろうと思うと、保存のためはできるんだけれども、原本は廃棄しなきゃいけないという解釈がございます。何のためにデジタル化するかわからなくなってしまうようなものもございますし、図書館間のデジタル情報の相互利用というのが郵送でないとできない。図書館に出向けば一般複製物の提供が受けられるけれども、FAX、電子メール、ネット利用者間で提供が受けられないという面がございまして、将来的に一定の範囲で図書館の権利者の許諾なしに蔵書をデジタル化することや図書館間でのデータのやりとりはもちろん、利用者への資料提供の在り方についても見直しを検討していく必要があるのではないかという問題定義でございます。
 14ページでございますけれども、学術情報とともに特許情報へのアクセスというのも大事じゃないかということで、特許情報データベースにつきまして、海外特許情報を含む充実が求められていますけれども、こうしたデータベースの充実や特許情報を提供しやすくための環境の整備を検討しなきゃいけないというのを14ページの下に示しております。具体的には、IPDLの情報を使って民間がそれを複製、編集して再データベース化してユーザーに提供するとか、IPDLを社内に取り込んで社内をそれを使うことも円滑にできるような枠組みをつくっていくことは重要ではないかということでございます。
 15ページでございます。
 特許審査の迅速化・質の向上のためにも、円滑化のための環境づくりが必要じゃないかということで、これら昨年の報告書に示していただきましたコミュニティー・パテント・レビューをやろうと思っても特許庁に直接民間人が資料を出すことについては問題ないんですけれども、コミュニティをつくって民間人同士で相互に情報共有をするようなことは複製に当たるというような問題もございますし、非特許文献のデータベースへのアクセス、検索はできるんですけれども、閲覧はできないと、そういう問題がございます。
 ちょっと駆け足ですけれども、次のページでございますけれども、映像・画像解析の研究開発におきましても似たような問題があって、高度情報社会を支える基盤的技術としてなかなか研究が進みにくいという面がございます。これも複製化・改変・公衆送信権の問題でございますので、研究のための著作物の利用を促進する枠組みというのを検討していく必要があるのではないかということでございます。
 17ページでございます。さらに、最近ソフトウエア・ベンダーが、これは大体アメリカのソフトウエア・ベンダーなんですけれども、ボット対策などで日本に研究拠点を続々と設立をしておりますけれども、アメリカではリバースエンジニアリングが著作権法上合法化されておりますので、日本で似たような研究開発をしようと思っても、日本の著作権法ではそれは明示的に規定されていないということで、ウィルス対策ソフトウェアの開発もやや慎重になっている面があるのではないかということが言われております。こういった点についても手当てをしていく必要があったり、暗号ソフトウェアの開発など、ほかの面でもそういうような明確化が必要になっているのではないかという問題定義がございます。
 プライバシーの保護についても取り組んでいく必要があるということはあわせて書かせていただいています。
 18ページでございます。
 技術移転というのを積極的に取り組んでいくということもオープン・イノベーションを進めていく上で当然大事でございまして、もう一回特許流通市場というのを振り返ってみたいと思います。今度は、技術の提供側と導入側に分けてその要因を多少かいつまんで指摘させていただいております。
 18ページは提供側の現状として、一部の企業では、自社特許を活用し流通させる動きがあるものの、多くの企業では、棚卸しと申しますか、自社の知財の把握と整理ができていない面があるのではないか。また特許取得の目的を、自社利用のための発明の権利保護や防衛的出願をメーンにして、将来のライセンス供与を狙いとした特許権の取得はしていないのではないか。また(中小企業は)自社技術の提供により、事業化による利益を奪われることを懸念して技術を出すということには全く問題意識がいっていないのではないかというような指摘がございます。
 19ページは、導入側の現状として、人に頼らない、自分でものづくりをしていくという「ものづくり精神」と言われているものがあるようでございますけれども、そういった問題や自社開発志向、同じでございますけれども、が強い面があるのではないか。だから、導入をなかなかしようとしないのではないか。また、技術導入の可能性があっても技術だけ導入してもノウハウとか人がついてこないと意味がないということでためらってしまう。また何が必要かという経営戦略を裸にしてしまう危険から、ニーズの提示に消極的な面があるのではないかということが言われております。
 20ページでございます。
 現状の続きとして仲介ビジネスは今どういうことになっているか。先ほどちょっと金額だけ触れましたけれども、現在民間の流通事業者は二、三十社、また特許庁でも特許流通データベースや特許流通アドバイザーが活用されておりますけれども、やはり特許の流通する特許の量と質が足らないということが聞こえてまいります。
 他方、21ページ以下でございますけれども、いろいろな流通のためのファイナンスの枠組みというのが整理されてきまして、その具体的な成功事例というか、弾は徐々に出てきております。最初は知財信託でございますけれども、右下の三菱UFJ信託銀行を中心とした図でございますけれども、これは大田区の例ですけれども、大田区産業振興協会というのが左上にございますけれども、ここは10年ぐらい前から優良技術の表彰制度というのをみずからやっておりまして、毎年5社か10社表彰しております。三菱UFJ信託銀行としても大田区に行っても数百社の企業の技術レベルなんてわかりっこないので、このデータベースをもとに銀行として銀行内の評価をして営業構成をかけてやっと芽が出てきている状況のようでございます。
 次は、22ページ、ファンドでございますけれども、これはいろいろなところで取り上げておりますけれども、左の黄色い箱の真ん中ぐらいに資金1億円を獲得とございますけれども、これは当初1,000万円の価値しか認めてもらっていなかったのをこのパテント・ファイナンス・コンサルティングは、事業全体を評価したら1億ぐらいいくだろうという評価をして、このファンドが買い取り、それで順調にライセンシーを見つけて軌道に乗ってきているということで、これがなければ1,000万円の評価のまま事業がついえていたという事例でございます。
 そのほか23ページは、日本政策投資銀行が担保不足を知財権を活用することによって決めて融資を実施した事例は300件ぐらい出てきているということで、総じまして、24ページでございますけれども、特許流通市場の活性化のためにまず何が必要かということで、流通面に着目した一つの示唆として考えられますのは、結局総合プロデュース機能ではないか。その内訳としては一番上の白い箱でございますけれども、「知財」単独での価値評価よりは事業と一体的に総合評価をしていく、それが総じて総合プロデューサー機能、その内訳としては市場ニーズとか事業の将来性とか知財ポートフォリオの構築など付加価値創造力とか資金調達力とか交渉力、こういったものを総合した側面が仲介ビジネス、仲介事業に機能として必要ではないかという点。
 25ページでございますけれども、企業においてはどういうようなことに積極的に取り組んでいただく必要があるのではないかということでございます。
 赤字で書いてございますけれども、オープン・イノベーションとクローズド・イノベーションを柔軟に使い分ける。つまり、全業種、全事業、全企業、全部がオープン・イノベーションということではない。それぞれの事業分野ごとに最適化の中でこういった使い分けが必要じゃないかということでございます。
 具体的に◆で書いてございますけれども、知財を含めた社内リソースの把握と整理、事業の企画段階からの外部の特許を活用を含めた知財ポートフォリオの形成、特許取得に際してのライセンス供与も念頭に置いた対応、特に中小企業者におかれては必要に応じ、外部の総合プロデューサー機能も利用すること。大企業におかれた場合、次のページにございますけれども、技術の相互利用の枠組みを活用。また、ここに書いてございませんけれども、あわせて技術流出への考慮という点も必要かと思います。
 次のページ、26ページでございますけれども、協業の土俵作りということで、(1)の国際標準化、(2)パテントプール、(3)クロスライセンス、(5)パテントコモンズ、これは昨年の分野別戦略においてご審議いただいた事項でございます。
 (4)と(6)が新しく入っておりまして、共同研究も協業の土俵作りということでございますけれども、ただ共有特許は産業界の皆さんのお話を伺いますと意思決定や手続きに時間やコストがかかる点に留意していく必要があるんじゃないかという点を書かせていただいております。
 また、(6)のネットワーク上における情報技術共有の枠組みというのは、これは先ほどご紹介させていただいたポンチ絵でございます。
 27ページ、大学におかれてどういうような取り組みを重視していただくことが必要じゃないかということで、まず知的財産の質と量の確保ということ、まずは国際的展開を視野に入れて、基本特許を押さえていく、これは昨年の報告書の一番トップに掲げていたことでございます。そのために、TLO、知財本部において、@パテント・マップの作成等を通じた、特許化可能性に関する迅速なレビュー、A活用を見据えた迅速かつ適切な国内外での権利取得、要するに特許をとれるかどうかという見きわめを早くつけていただくと研究現場でも非常に助かるというものでございますし、そういう決断をした場合には早くとれるということでございます。
 それと、知財本部、TLOの評価に関して、質を一層重視していただくことが重要ではないかという点、また必要な経費を確保すること。またさらに、産学共同研究の成果の有効活用という観点で、最大限その成果を活用されるための取り扱いについて一層検討していく必要があるんじゃないかと。
 次の28ページから政府として何をできるかということでございますけれども、まず成功事例などの情報提供じゃないかということを28ページで書かせていただきました。
 次に29ページにおきましては、ライセンシーの保護、ライセンサーの破産、事業譲渡があってもライセンシーが保護される仕組みということで、既に特許法上登録制度がございますけれども、余り利用されておりません。その理由として、ライセンス内容が開示されてしまうことがあるんじゃないかということで国会に改正案、開示内容の一部を利害関係に限定するなどの改正案を今提出しております。ただ、著作権法にはこういう制度ございませんので、文化庁において検討をしております。
 30ページでございますけれども、そういう国内の流通市場の活性化とは別に、国際展開をさらに進めていくような枠組みをどういうふうにつくっていくかということで、ここも分野別戦略でご検討いただきました国際知財システムの整備とか、中小・ベンチャー企業の外国出願の支援強化、アジア諸国における人材育成、模倣品条約の実現、既にご議論いただいた点を列挙させていただいております。
 31ページ、国際という展開の中でも国際貢献という側面も含めて技術移転を図っていくという面で、環境分野に特にフォーカスを当てて、さっきも本部における福田総理の発言を紹介させていただきましたけれども、ダボス会議における福田総理の発言というのはつながっている面がございまして、我が国として実行できることは、優れた環境関連技術をより多くの国に移転していくことですということを言いまして、真ん中省略しまして、途上国に対してはそれにプラスして100億ドル規模の新たな資金メカニズムを構築するということ。また、JBIC、これはまた貿易保険でも似たようなあれでありますけれども、いろいろな制度をつくっていったり、また環境省でホームページにおいて移転対象技術を公開していくというような取り組みを進めていこうと思います。
 民間におきまして、「エコ・パテントコモンズ」の設立などの動きがございます。総じてオープン・イノベーション・コンプリヘンシブにどういう取り組みをしていったらいいかという点について、ちょっと長くなりましたけれども、資料説明させていただきました。
○相澤会長 ありがとうございました。
 本日、オープン・イノベーションについて、これからディスカッションしていただきたいと思いますので、このような状況を整理した上での資料でございます。
 そこで、これからご質問等も当然おありかと思いますし、それからご意見もございますと思います。
 そこで、これから自由討議に入りますが、本日ご欠席の渡部委員から書面でご意見をいただいておりますので、まずこのご意見から紹介いただいていいですか。
○松村事務局次長 結構長文のご意見をいただいていますので、簡単に渡部委員から7点ご意見をいただいています。
 1点は、イノベーションを促進していくために特許の質を高めることがまず大事じゃないかということで、いろいろ渡部委員の研究室で勉強されているということで、最初のページの@のところに4つぐらいありますけれども、その結果として出願時点で特許の質が変動して、9月と3月に質が低下する傾向があるんじゃないかとか、パテントプールに入っている特許でもばらつきが大きいとか、大学の特許については企業と共同出願の特許は、単独出願特許より質が低下する傾向にあるんじゃないかとか、権利付与後の特許の質は、出願人、代理人、特許庁にパラメーターで有効なのがあるのではないか、いろいろ分析をされております。
 もう一つ、大きなポイントとして中小企業重視の知財戦略ということで、さっきの本部会合でもご発言がありましたけれども、2ページ目の一番最初の方で中小企業へのライセンス契約の比率というのは結構高い、大企業43、中小企業53.8になっているというんで、2ページ目の一番下のセンテンスですけれども、地域間格差是正などが議論されていますが、中小企業との共同研究やライセンスを更に支援する措置なども考えていく必要があるんじゃないかという点、次のページでございますけれども、意匠権を含めて広く知財権としてデザインが取引される市場を広げていく必要があるのではないかという点で、デザインマネジメントの導入促進を言っております。
 さらにC、大学と企業の共願の特許ということで、第1パラグラフの2行目、最後ですけれども、日本では大学からの出願のおよそ60%弱が企業との共同出願であるという、米国にはない特徴を有します。米国では共同出願はわずかです。日本の場合大学の知財活動の成果が共同出願特許に行き着くという構造になっている可能性がある。この共同出願特許がイノベーションにどういう役割を果たしているかというのが問題だけれども、実は共同出願の特許は、大学単独出願特許に比べて特許の質が低く、多くの場合防衛特許としてのみ機能しており、実施化率も低いのではないかという指摘がある。
 飛びまして、米国のように大学および企業の単独所有のほうが特許流通市場に乗りやすいと考えれば、その方向で大学の知財活動がより生かされるようなシステムになるような工夫を議論する必要があるのではないかということでございます。
 ページの最後の知財情報技術の利用ということでございます。
 次のページの第2パラグラフ、現在の情報技術では、Google mailなどが実現しているように、個人の興味をデジタルデータから読み取って、関連しそうな情報をデスクトップ上に表示するなどができます。現在、研究者の研究情報はほとんどデジタルデータになっているので、関連する特許と文献情報が自動的に検索され、デスクトップ上にアブストラクトが表示されるような仕組みを構築していただくと研究も進むんではないかということを言っております。
 E大型産学官連携プロジェクトなどの知財戦略を精緻化する。
 大型プロジェクト、これは複数企業と複数大学、公的機関が参加する異分野融合、川上から川下までのプロジェクトを考えておりますけれども、そこでも企業や組織の境界を超えた情報交換が必要になる以上は、知財処理を積極的に取り組んでいく必要があるということを言っております。
 最後、アジアにおける産学知財流通の促進ということで、アジア地域への科学技術の移転が非常に重要、ただ相手先の制度が完備していなかったり、契約慣行が十分成熟していない地域もあるので、円滑に行われるよう取り組みが必要であるということを言っています。
 以上でございます。
○相澤会長 それでは、渡部委員からのご意見のご紹介は以上とさせていただきまして、これから自由討議に入りたいと思います。
 どなたからでも結構でございますので、挙手の上、ご発言をお願いいたします。
○前田委員 膨大な資料をきれいにまとめていただきましてどうもありがとうございました。
 私の立場として、大学における技術移転についての意見を述べさせていただきたいと思います。
 11ページについてです。今、渡部委員からの資料にもございましたように、共同出願がかなりふえてきています。ライセンスを阻害している可能性もあるのではないかというお話があったかと思われます。アメリカは、もともと大学が単独で特許を持ち、それを企業へライセンスして、ライセンス収入を上げるというビジネスがかなり定着しているかと思うのですけれども、日本においては、知財本部整備事業が5年前に開始され、大学が特許を持ちライセンスをするということを始めました。分野によっては、例えばライフサイエンスの分野などは大学が臨床試験を最後にしなければいけませんので、かなり優位な立場にありますので、大学だけが特許を持つということもかなり交渉しやすい場合もあろうかと思います。しかし別の分野によっては、例えば自動車業界や電気業界の場合などはどうしても最終製品は企業のみが関係しますので、学校が特許を単独で持つという話になると、その先に交渉が進まないなどということもあります。この5年間でどういう形で産学連携が進められてきたかといいますと、やはり企業の方も大学もうまくいくようにということで共同出願をして両方で持ちWIN−WINの関係を築いてきたのだと思います。大学だけが持つとコンペティターに持っていかれてしまう可能性があるため、競合会社のために共同研究のお金を出したわけじゃないという企業の方の気持ちもありますので、やはりある程度いい関係で両者が持つ場合がもっとも多いケースです。また大学が特許を企業へ譲渡してしまい、全く関与できなくなると、今度は企業の方の事情でそのテーマがなくなった場合に先生が研究し続けているにもかかわらず世に出ないということが起きますので、やはり両者で持ち、例えば3年なり、5年後も研究が全然進まなかった場合は違う企業へお話を持っていきますよという条件を契約書に入れさせていただくことで、塩漬け特許、防衛特許にならないような工夫をしてきたという事情があります。アメリカのように、きちんと共同研究をするときに、分厚い契約書でどこまでの成果を出しますか、いつまでやりますかという綿密な計画が練られていれば大学がきちんと成果を全部もらうということも可能かと思いますが、日本の場合、学生さんをリクルートする目的だとか、先生の発想をいただくとか、広い意味での共同研究がなされていると思いますので、ある意味、共同出願をすることで両方WIN−WINの関係がとられているのだと思われます。特許のライセンス収入はそれほど上がらなかったけれども、特許を出願することで共同研究・受託研究や、寄付講座の金額が相当大きくなってきたのだと私は思っています。従って、ライセンス収入の数が急激な上昇を示さなくても共同研究や受託研究によって先生の研究が世の中で使われるようになれば、それは大きな意味での産学連携が進んだというふうなことが言えるのではないかなと思いますので、日本の場合はそういう姿もありなのかなというふうに思っています。
東京医科歯科大の場合は色々なケースでの共同出願を行っています。あえて、大学の研究者が単独で考えた内容を、企業に半分権利をお売りして共同出願にしていただいたこともあります。リスクを大企業の方に持っていただき、敵がアメリカになりそうな、大きな特許になりそうなものに関しては、特に訴訟等に慣れている企業の方に全面的に協力していただきたいと思い、そのようなケースもありますので、日本のスタイルとしては共同出願というのも悪くないのかなというふうに私個人的には考えています。
 この5年間で文部科学省から出ている数字というのは共同研究、受託研究、寄付講座、奨学寄附金、いろいろなものの数字が右肩上がりにきれいに上がってきているかと思います。先生方の研究が、最終的に結局どのような形であれ、企業の方に使っていただいて世の中に出ればいいのだと思いますので、このような産学連携も日本的でいいのかなというふうに考えています。
○相澤会長 これは現状がこうなっているということで、その中身が今前田委員がおっしゃったような一色であるのか、あるいはここのところをもう少し抜本的に見直しておかないと国際戦略という点ではいろいろと問題点もあるというふうに解釈するか、その辺のところが問題だと思うんです。ですから、ただ右肩上がりになっているからいいのだという状況ではないのではないかということで、これからの議論のポイントになるかと思います。
○河内委員 今の前田委員のお話を企業から同じ思いがします。ただ、1つ、やはり問題とする必要があるのは、大学の非常に萌芽的な研究を早い段階から企業が一緒に共同研究した場合に、企業はこの先どういう応用展開ができるかわからないのに、全部押さえ込んでしまうと意識が働きます。そうすると、大学の研究成果がもっと広く、幅広く展開できる可能性を摘むということに対し何か工夫が必要ではないかなという思いがしました。全体的には、やはり私は大学との共同研究というのは今企業はどんどん進めていますし、その成果も私は上がってきているんじゃないかなというふうに思っていますけれども。
○前田委員 言い忘れちゃったんですけれども、リサーチツールみたいな特許が大学が単独でもっていろいろな企業さんで使っていただかなければいけないと思いますので、基礎的な研究だったり、あと例えば振動の理論の構築だとか、物にすぐつながらないけれども、大学の先生に研究していただかなきゃいけないような内容というものは、どちらかというと学校が単独でもっていろいろなところに使っていただく。またライフサイエンスの分野もリサーチツールに近いところは大学が持っていろいろな企業にライセンスするというような形をケースバイケースで持つべきだと思います。
○長岡委員 共同出願ですが、これはちょっと紹介していただいていますけれども、我々の実証研究によりますと、日米を比較しますと産学だけじゃなくて産産でも、つまり産業と産業の間でも、日本の場合は発明者が2つの組織に属していると、そのまま出願にも2つの組織になる場合が非常に多いことが確認できます。つまり発明者主義がかなり日本の特許の所有構造を決めている、つまり、とりあえず権利を確保しておくことが目標となっており、一緒に発明をしたんであれば、一緒に出願をするという傾向が、産学だけじゃなくて産産でも、米国と比較して強いのではないかと思います。
 権利を確保しておけばいいという動機がは非常にあるため、いかに使うかまで事前に十分見通した契約をしていないと考えられます。企業の方が排他的権利を確保したい場合も当然あるわけで、その場合例えばフィールド・オブ・ユースでエクスシビティを確保するとか、いろいろな契約上工夫があるにもかかわらず、一般的に知財特許権自体を共有してしまいますと当然独占権がなくなってしまうということで特許権自体も弱めることになり、加えてライセンスを含むいろいろなことでお互いに交渉が必要になって、利用が妨げられるということがあります。したがって共同研究契約に入る時点でそれぞれ何を確保したいか、排他権をどちらがとるのか、どの市場でとるのかというところをもう少しお互いに考える。それから特許法の規定はあくまでも任意規定ですから、参考にするだけで、ゼロから最適な契約を考えるというアプローチが非常に重要じゃないかなというふうに思います。
○河内委員 今のお話は全くそのとおりだと思います。ただ、私いつも大学の先生には申しわけないんですけれども、やはり大学の知財戦略といいますか、そういうものをしっかりと受ける体制というのは余りにも弱過ぎると思うんです、今。したがって、やはりどうしても企業主導になりがちなんで、最初のお話がありましたように、導入段階で契約をつくる段階で、大学としての知財戦略、この研究の成果どういうふうに持っていくんだという、そういうことをしっかりと受ける体制というのが重要であろうと。それから共同研究というのは、どんどん変わっていくんです。最初設定した想定からどんどん研究を進めていく中で戦略自身も変わりますし、中身も変わっていくと、そういうものが共同研究の実態なので、すなわち何もかも最初から決まって出口が見えているというもんじゃないわけで、その辺をよく配慮する必要があろうかなと思います。
○相澤会長 それでは、そのほかの点につきましてはいかがでしょうか。
○加藤委員 この資料1、大変広い分野で、詳細にイノベーションの問題を大変うまくまとめていただいていると思います。本当にありがとうございます。
 4点ばかり、細かい点ですけれども、コメントさせていただきたいと思います。まず第1に、8ページ目あたりに関係いたします。
 仲介ビジネスがアメリカ等では隆盛しているけれども、日本ではまだまだであるという点ですけれども、1つ注意していただきたいのは、欧米では仲介ビジネスの結果、一部だとは思いますが、その結果売られた特許がトロールの材料になっているという点です。現実に、そういう人々に渡らないために仕方なく買いたくない特許を買うとか、そういう例もかなりあります。これは逆に言うと、こういう仲介ビジネス市場をインフレ化してしまうといいますか、特許権の行使を健全じゃない方向に持っていくおそれがあるというふうに思います。
 そういう意味で、仲介ビジネスがとにかく進まないといけない、場合によっては大学とか研究機関のように、自分は、その特許を実施しないところは、どんどんこういう人の手をかりて売ったらいいんだというようなことはぜひ助長しないでいただきたいと思います。本来どう特許が使われるべきかということを、国家としてもよく考えていただきたいというふうに思います。この辺の研究はあまり外には出てこないと思いますけれども、現実には企業の中では非常に深刻な問題になっていると思います。ぜひその辺、ご検討いただきたいと思います。
 それから、16ページの前後に、著作権の範囲に関連して、調査研究のための例外規定を考えたほうがいいんじゃないかという点、これは大賛成でございます。この中では、15ページにはコミュニティー・パテント・レビューをする場合の障害、それから17ページにはソフトウェアの解析等、これらは多分全体から見ますとあくまで一部の例であって、最近の著作権の広がりといいますか、実務の中でのいろいろなデジタル著作権とのかかわりということを考えると、恐らくこのような事例というのはまだほかにもあるんじゃないかと思います。そういう意味で、調査研究のための著作権の取り扱いというのは、この際広く検討していただいたらどうかというのが第2番目の点です。
 それから、第3番目、18ページですけれども、これは若干言葉じりをとらえてのコメントで恐縮なんですけれども、囲みの真ん中に赤字で書いてあります、将来のライセンス供与を狙いとした特許権の取得はしていないという指摘があるということなんですけれども、まず企業の場合、これは企業でなくてもそうだと思いますけれども、特許を取ることが目的なのかどうか。まず研究開発をしてよい技術を出すということが目的なわけです。我々はいつも特許は後からついてくるものだと言っています。その結果、ある特許がいろいろ使えるかどうかというのは出してみないとわからない面があるわけです。初めから、何か研究をして、この特許で稼いでやろうということをこの言葉が意味しているとしたら、若干誤解を招くと思います。
 もちろんいろいろな研究開発をして、その結果、特許が出てくる。その中には自分自身がこれは事業としては使わないかもしれない、だけど特許として非常に価値があるというものは取ります。多くの企業は取ると思います。その結果、それを広く使っていただくということも当然考えると思います。後から出てくるいろいろなオープン・イノベーションのベースになるライセンスですとか、共有の話というのは当然そういうところから出てくると思います。もし研究だけして、特許を取ってうまく活用するということであるとしたら、それはさっきも指摘させていただいたトロールの発想そのものであって、それが本当にいいのかという、この言葉の意味をちょっと誤解がないようにしていただきたいなという点でございます。
 それから最後、24ページのあたり、これはそれまでにもずっとその関連に触れているんですけれども、総合プロデュース、これは大変いい言葉で、こういう発想で技術のいろいろな流通というのをやっていただかないといけないと思います。我々企業も毎年、もう本当に何百、何千という特許をご利用いただくために、いろいろな形で社会全体に対して紹介させていただいております。その場合、特許番号何番ですとだけ書いてあっても、だれもそんなのは読まないですよね。
 一番大事なことは、この特許を使ってこういうことができます。富士通はこういう製品はつくらないけれども、皆さんこういうような形で活用できませんでしょうかということをお示しするということですよね。したがって、大事なことは、その技術で何が見えてくるか、どういうものができるか、どういうサービスができるかということをどうやって特定して使っていただける方にご紹介するかということですね。それがまさにここで言われている総合プロデュースということだと思うんですけれども、これはぜひこの際、もう少し掘り下げていただきたいなというふうに思います。
 若干、私の手前みその例なんですけれども、最近、川崎市がこの仲介のようなことをしていただいて、我々は地域企業と呼んでいますけれども、従業員50人ほどの企業とある契約をさせていただきました。そういう例がありますけれども、残念ながら日本ではまだこういうようにうまく技術を利用していただく例というのは少ないんだと思うんです。そこで思うのは、当然企業側も、さっき申し上げたように、自分の持っている技術が世の中でどう活用されるかというのをうまく説明できるための目利きが必要だということですし、実はそのための物すごい努力が必要だということです。多分、コストパフォーマンスを考えるとなかなかペイしないんじゃないかというぐらい大変な努力が必要で、これは通常、物を販売するのと同じか、それ以上に努力が必要です。国全体としてそういうものがもっと流通するというか、認められてくれば、だんだんとその辺も壁が低くなってくるのかなと思っています。
 それで、仲介の側としてこの総合プロデュース機能が必要だという面で言いますと、例えば日本と欧米を比べた場合に、恐らくこういう仲介をしていただくような方々のコンサル能力といいますか、そもそもそういう仲介ができるコンサルタントとして技術力がある、技術の目利きができる方が世の中に少ないんじゃないかということをすごく感じます。そういう方が客観的に中に入って、この技術はこういうふうに評価できると、価値もこれぐらいあるということを言っていただけば、これは恐らく特許の流通、ライセンス契約のコンサルティングも含めて、本来は非常にすそ野が広いビジネスになると思います。残念ながら日本はその意味のプロとしてのコンサルタントが非常に少ないんじゃないかというふうに思います。そういう方々をどうやって育てていくかということは、恐らく中長期的な日本の問題かなというふうに思います。
 以上です。
○相澤会長 ありがとうございました。
○中村委員 ただいま加藤委員からご指摘いただきました点、非常に私も意見を一にするところが多うございまして、今回の資料をご用意いただく切り口といたしまして、オープン・イノベーションということで、さらに翻ってみれば、昨年まで検討していただきました産業別、業界別の戦略に共通するものというところでオープン・イノベーションという流れになってきたかというふうに理解しておりますけれども、ただオープン・イノベーションというのは、ある意味、知財の戦略の一断面ではないかなというふうに感じておりまして、今回の資料で言えば25ページのところに象徴的にあらわれているかと思うんですけれども、特に私ども企業といたしましては、知財というものを事業戦略であったり研究開発戦略とどう連動させて、知財がどれだけその企業の活動に貢献できるかという、そこをちゃんと最初の段階でもくろんだ上で権利の創出をしたり活用をするというところに本当のもくろんでいるところがあるわけでありまして、それが今までどちらかというと囲い込み、もしくは自前主義のところに偏重していないかという懸念は確かにあろうかと思いますけれども、そういう意味で、どの部分をオープン・イノベーションで進めていって、どこを差別化、いわゆるクローズドというふうにするのかということを最初の段階できちっと絵を描くというところにその重要性があるのではないかと考えております。
 したがいまして、今回の資料が昨年の流れからの分野別の戦略というものを横断的に網羅するという考え方としての深掘りということであれば、必ずしもオープン・イノベーションというのは一つの切り口になるかもしれませんけれども、さらにその上位概念として、その知財戦略が最終的にどう競争力を高めるのかというもくろみの中の一つという位置づけでもいいのではないかなと感じます。
 以上でございます。
○相澤会長 その点につきましては、ご指摘のとおりでありまして、分野別でいろいろと各分野についての検討が進んできた中で、非常に分野ごとの特異性のある部分、これが明らかになってまいりました。ただ、そのところで、情報分野のところはかなりここで言ういわゆるオープン・イノベーションというものが顕著にあらわれてきているだろうということであの段階はまとまったわけです。しかし、オープン・イノベーションというのは必ずしも情報分野だけではなく、非常に広い範囲にわたって起こってきていることであると。ですから、この部分を一つの断面としてとらえておかないと、今の時期における知財戦略は十分ではないだろうという観点でありますので、すべてをオープン・イノベーションでまとめるということではございません。
○中山委員 今のこととも関係しているのですけれども、戦略本部がオープンという概念を打ち出したことは、私は非常に結構なことだと思っております。
 戦略会議が始まって以来、この会議は権利の強化のほうに主力を置いてきました。私もそれだけではどうかなと、前から思っておりました。私は例えばクリエイティブコモンズにも関係しておりますけれども、そういう分野が必要ではないかというふうに思っておりました。
 今、中村委員がおっしゃったとおり、情報を囲い込むことと情報を共有すること、これは別に相反するわけではないので、そのどちらを選ぶかということは企業の問題だろうと思います。その意味で、今日のこの報告書の大半は法律マターではなくて、こういうものもあるのだということをきちんと提示したという点では非常に意味があると思います。
 ただ、一般的にはそうですけれども、著作権に関しましては、多くは法律問題になってまいります。特許の場合、ほとんどは政策の問題とか運用の問題、あるいは企業の努力の問題だと思うのですけれども、著作権は、これは権利義務をきちっと決めなければならない問題がいっぱいあります。ここに書かれているのは本当に、加藤委員がおっしゃったように一部でして、例えば前回の法改正では、機械が故障した場合にはその中のデータを一回外に移してまた元へ戻すわけですけれども、移したときには複製をしているから著作権侵害になったら困るので、なりませんよという法改正をしましたが、そういう問題が沢山あるわけです。
 ですから、これはこの場でとても議論はできません。これはデジタル時代において著作権はどうなるかという大問題ですので、ここでは問題提起をして、文化審議会のほうに回してもらえればと思います。
○佐藤委員 このオープン・イノベーションいうのは、今までの知的創造サイクルを超えた市場を見定めた意味での新しい切り口を提案されたという意味で大変よかったと思っています。ただ、オープン・イノベーションというのは、単に知財を流動化させるということが目的なのかというと、そうではないんじゃないかと思います。あくまでも、このIBM等のオープン戦略においても、まず企業の中にしっかりしたビジネスモデルがあって、その中で自己開発した資源と、足りないものを外から持ってくる、そういうものの組み合わせの中のオープン・イノベーションだと思います。
 そういう意味では、まず企業が世界に伍するようなビジネスモデルをつくるというところがないと、このオープン・イノベーションというのはないと思います。そういう意味でも先ほど中村委員がおっしゃったとおりだろうと思っています。そこの原点をしっかりつかまえないと、何かいかにも死蔵されている特許をお互いに利用しましょうというレベルで終わってしまうんじゃないかと思います。
 確かに今はスピードが速くて、市場をキャッチアップしていくというのは各個別企業では非常に難しい。そのためにお互いが持っている資源をできるだけ有効利用しましょうという発想はいいんですけれども、有効利用する以上に、まず最初に利用する立場の企業側がしっかりしたビジネスモデルを打ち出さない限り、実際は動かない話じゃないかと思います。
 そういう意味で、産業界の立場じゃない者がこんな非常に口幅ったい言い方をするんですけれども、例えばこの間もコンテンツのワーキンググループで申し上げたんですが、京セラさんが中国の携帯の市場から撤退した。それによって日本の携帯メーカーは全員撤退したという状況になっている。これは何だという話だろうと思うんですね。やはりそれは中国という大きな市場があるにもかかわらず、それをキャッチアップできるビジネスモデルを日本の企業が提案できなかったということではないかと。外部の人間がこんなことを言うと非常に申しわけない言い方でございますけれども、ただこういう場面を何とか克服していかない限り、本当の日本の競争力は強くならないと思います。
 そんなことで、外野から非常に勝手なことを申し上げましたけれども、以上でございます。
○辻村委員 先ほどの佐藤委員のご意見というのは、産業界から見ると本当にそういうところもありまして、ただ、今まさに産業界はオープン・イノベーションの時代ということで、ここ何年か前から突入しているんです。結局、もう皆さんご存じのように、企業が成長していくにはどうしてもR&D投資―研究開発投資が要ると。しかしながら、資料にもありましたように、製品のライフサイクルが非常に短いし、多くの意味で厳しい競合環境があるという中ではとてもペイしない。基本的に、経常利益とR&D費という形での比率でR&Dの効率を見ますけれども、どんどん落ちているという状況の中で、何とかしないといけないということで始めたのがこのオープン・イノベーション、企業サイドで言いますとですね。
 P&Gさんが2000年からやられて成功しているコネクタ&ディベロップ戦略というのがあって、実は我々も今検討をしているんですけれども、ここで一つの問題は、先ほどありましたけれども、何をオープンにして、何をクローズドにするかということ。企業の戦略が流出するというリスクがあるために、なかなかそこへ日本の企業というのはニーズを出せないんです。その辺が課題になっています。
 何をリスクと見るかということは経営戦略ですが、基本的にはスピードを買うというところが一つの大きなポイントです。やはりビジネスの根幹にかかわるようなことは自社でやるということが多い。ただし、これだけスピードが要求される時代においては、スピードを買うというところに関しては割り切って、ニーズを提示して取りにいくということをもっと積極的にやらないといけないのではないかと思っています。
 P&Gさんに話を聞きますと、一番の抵抗はやっぱり研究者だったらしいですね。NIH―Not Invented Hereという、我々のところで開発したものではないという意識がすごく強くて、それをいかに打開していくかということがオープン・イノベーションを導入するときの一つのポイントだったと。ただ、一度成果が上がればすっと浸透していく。このやり方も、ネット上で情報を全世界から集めてくるという手法ですので、まさにネット環境の整備とか、情報のコントロールというところが実は物すごく大事になってきます。
 それからもう一つは、契約といいますか、ニーズとシーズが合致したときに、そこから以降がなかなか海外とのやり取りでは進みにくい。相手が大学の研究機関とかだったらまだいいのですけれども、小さな中小企業であるとか、個人であったりすると、契約段階でうまくいかないといいますか、なかなか進まないというところがあって、その辺をどう整備していくかというのも、実は一つ大きな課題なのではないかと思っております。
○相澤会長 どうもありがとうございました。
○関田委員 クローズとオープンというのは中村委員のおっしゃったとおりでありまして、先ほどの事務局の資料じゃないですけれども、鉄鋼というのは比較的ライフサイクルが長いということで、その製品というのは企業戦略そのものですから、これはほとんどクローズでやっています。ただ昨今、地球環境問題とかで地球温暖化対策を2020年、2030年、2050年、抜本的に変えていこうとなりますと、恐らく鉄鋼の知識といいますか、それだけではやっていけないので、これはもうオープンに行かざるを得ないのではないかなと、これは個人的な見解なので、オープン・イノベーションへの流れというのは、そういった面で技術的に進むのではないかなと。ただ、やっぱりクローズの部分とオープンの部分というのは、中村委員がおっしゃるように明確に分けるというのは企業として当然のことだと思います。これが1点です。
 もう一点、ちょっと違う観点なんですけれども、いろいろ情報を取りやすくしましょうというところが前段、たくさんいろんなご紹介があるんですけれども、例えば14ページあたりなんですけれども、いろいろなデータベースを容易に皆さんが取れるようにしましょうというんですが、一方で、途上国あたりに変に使われるというのが過去にもなかったわけではありませんで、その辺が我が国の競争力強化という観点からいった場合に、何らかの防御を考えないと、我が国のイノベーションじゃなくて途上国のイノベーションにリーガルに使われるとちょっとまずいんじゃないかなという懸念を感じましたので、この辺はちょっと国のほうでも考えていただきたいと思います。
 以上、2点でございます。
○岡内委員 前回の会議はぎっくり腰で欠席をいたしまして、今日は風邪を引いておりまして鼻声で大変申しわけありませんが、ご容赦いただきたいと思います。
 中小企業という立場でちょっとお話をさせていただきたいと思いますけれども、いろんなところに中小企業の項目を出していただき、いろんな政策をやっていただき、この推進計画も何年目かになっているわけですけれども、なかなかこの成果がどう上がっているか、難しいところは、私が中小企業の中を見ると、残念ながらまだ、笛吹けど踊らずというような感じを持っております。
 ただ、その反面、確実に進歩しているところもございまして、私が20年前に台湾と訴訟を起こしたときに、本当に相談するところもなくて一人ぼっちという感覚でしたが、今はもう本当にどこへ行っても知財の相談窓口はあること。
 それが現実として思えたことと、もう一つ、去年の11月14日、東京都の中小企業知財シンポジウムというのが六本木ヒルズで開催されまして、約450名の方々が出席をいたしました。分科会に途中から分かれましたのではっきりした人数はわからないのですが、そのうちでいわゆる中小企業で知財の担当を専任に持っている人はどのぐらいいらっしゃいますかという司会者からの質問がございまして、これが40%もいたのです。これはちょっと私自身大変驚きまして、ただこの40%という数値は、そこに興味のある人が来てくれたわけですから、決して全員の比率ではないと思っております。それにしてもちょっと驚いた数字で、確実に上がっているなということと、何とかこの雰囲気を盛り上げていって、中小企業の隅々まで個人の意識の中に入っていただきたいなと思っております。ただ、中小企業といいましても、大変知財に関しましては厳しゅうございまして、実はちょっと1つ例を挙げて、こういう場合どうしたらいいのかなと、そういったことも視野に入れながら案をつくっていただければありがたいなと思っております。
 私が知り合った中で、大手のエアコンの冷却機をつくっているところがございます。この中で画期的な気液分離装置、気体と液体とを分ける、これが全く今まで考えもしなかったような表面張力を利用するということで、従来の技術に比べると体積で5分の1、当然ながら材料費も低くなりますのと、あとエネルギー効率が物すごく上がりまして、これだけ省エネに努力をした結果の上のエアコン、これが8から5%も効率が上がるということで論文も出し、基本特許は押さえております。
 考えられることは、この技術は何もクーラーの冷媒だけではないのです。例えばボイラーにしても、あるいはバイオガスの気液分離。非常に重要なことなのですけれども、その辺の特許はどうなっているのですかと聞きましたら、とてもそこまで考えが回らないと言われました。どこで応用されるか、あるいは応用に関して、いわゆる応用技術までパテントを押さえること、特に海外特許ということまで含めたらもう費用の点で全く考えられないということです。今、話しになっているように、いわゆるオープンにしていくのか、あるいは最初からありますように、技術の川上から川下まで全部を押さえるというふうに持っていくのか非常に悩んでいるのと同時に、もし全部押さえたいという気持ちがあっても、今のところどうしようもないと。こういったところ、いわゆる技術の応用先が考えられるところ、あるいは資金の援助をお願いしたい。援助、援助と言いますと、また中山先生に怒られてしまうのですけれども、必要なところの援助はあってもいいのではないかと思っています。
 ちょっと問題提起みたいな形なのですけれども、こういう企業がほかにもたくさんあるんじゃないかと思います。でも相談できるところがない。結局、そちらのほうではまだパテントを押さえていないから、いわゆるライバル的なところには当然相談もできないし、一人の弁護士あるいは弁理士さんに相談しても全体的な話はわからない。こういうところ、安心して相談できる先というのを、例えば産総研さんの中の一部であるとか、そういったところに窓口があると非常にいいのではないかと思っておりますが、もしそういう可能性がございましたらご検討いただきたいなと。
 以上でございます。
○相澤会長 ありがとうございました。
○三尾委員 私のほうはライセンス契約ということの側面も含めまして、弁護士として少し契約作成について関与していますので、そのあたりに関してお話ししたいと思います。
 まず前提なんですけれども、先ほど加藤委員がおっしゃったように、仲介ビジネスはパテント・トロールにつながるということは私のほうも非常に危惧する点でございまして、このあたりは注意していく必要があるかなというふうに思います。
 さらにライセンスをするということに関してなんですけれども、少し私が経験いたしましたライセンス契約の中身をお話ししますと、基本的には特許や知財だけのライセンスという契約書はほとんどないのではないかと思います。事業とプラスをして、事業自体のライセンス、ノウハウの付与ですね、そのあたりも含めてのビジネスとしてのライセンスというか、ビジネスの一部としての知財権の付与ということがほとんどでございます。それは弁護士として関与するというレベルの契約ですので、ライセンス契約のすべてではないと思うんですけれども、全体のストラクチャーとしてのライセンス契約を締結するということが非常に多いです。
 その中で、ライセンスフィーとか、例えば専用実施権なんかを設定する場合、譲渡する場合とさまざまあるんですけれども、金額を算定する根拠として知財を単体で考えるというケースはほとんどないのではないかというふうに思います。事業としてどのぐらいもうかるのか、やっていけるのかということからマーケティングをして、そこから金額を算定した上で対価を決めるというような形で設定されていますので、私ども弁護士には決まった段階で話を持ってこられるケースが多いものですから、この金額の根拠は何ですかというようなことも結構あります。業界の中でこのぐらいのライセンス比率であるということが決まっている場合もあるんですけれども、そういった事業全体としての権利付与ということになりますと、その基準というのもあまり考慮されないものですから、金額を決めるのが非常に難しいなというような感想を持っております。
 これは知財の評価につながると思うんですけれども、知財の評価自体は非常に難しいということは皆さんもご存じかと思います。事業全体の中の知財の価値ということで算定する必要がございますし、将来の事業発展の可能性も含めまして決めないといけないものですから非常に難しい。そういった意味で、この報告書にまとめてくださいましたプロデューサー機能というのは非常に大事ではないかと考えます。
 また思いますのは、こういう契約を結びたいから契約書をつくってくださいという形で持ってこられることが多いんですけれども、そのときに、そもそも知財権は大丈夫なんでしょうかというようなことがよくあるんです。もちろん特許としては査定を受けているというケースもありますし、出願中のものもありますけれども、これが査定を受けていたとしても、果たして将来的に有効なんだろうかという点が非常にあいまいであるということもあります。似たような特許というわけではないんですけれども、先行技術があるというケースもありますし、権利の有効性の判断が崩れてしまいますと全体のビジネス自体が崩れてしまうという危うさを持っております。
 また、いろんなケースがあるんですけれども、そもそも先願特許等をきちんと調査していないというようなケースもございまして、話を持ってこられている方はその事業分野のプロではあるんですけれども、細かい技術の有効性や侵害の可能性について十分な詰めが足りないというような印象を持つことが多いです。
 さらに調査をする前提の段階で支障を感じますのは、特許等の情報の公開が非常に不十分ではないかということです。IPDLも使いにくい状態にありますし、それに先立って事前調査ということで今特許庁のほうで中小企業を中心にサービスをやっていただいていますけれども、そのあたりも十分活用して、きちんと特許情報を利用者に提供するということを国としてはやっていただきたいというふうに強く感じます。
 さらにIPDLなんですけれども、著作権法の関係からしても十分活用できない状況ではないかなと思います。といいますのは、IPDLは分野別に分類されているわけではありませんし、必要な分野の情報をすぐに簡単に入手するということが非常に難しいです。IPDLを前提としたデータベースも著作権法の問題があってどこまで活用できるのか、例えば社内のイントラネットでそのデータベースを少し改変して使いたいというニーズがあっても、果たしてそれは著作権法の問題があって違法なんじゃないかということもありますし、そのあたりを整備していただかないと、ビジネスとして前振りの基本的なところの情報が十分集まってこないということになり、ひいては権利の流通に関しても支障になっているのではないかという印象を持っております。
 また、ライセンスというものが非常に重要になってくるという今後の見込みが考えられるんですけれども、そのときに独禁法上のガイドラインについて、この間改正されましたけれども、それについてもいろいろ細かい点について考える必要があるのではないかという個人的な印象を持っております。
 といいますのは、一番ちょっと私が危惧しておりますのは改良発明の点なんですけれども、例えば大企業がライセンシーになるというようなことが十分考えられてくると思うんですけれども、中小企業が特許を出す場合に、改良発明は基本的にはライセンシーのものになってしまうんですけれども、基本特許であるかどうかは別にして、改良発明ですべてのビジネスを囲い込んでしまって、もともとの特許が息絶えてしまうというようなことも十分考えられると思うんです。そういったことも危惧して、中小企業のほうでライセンスをするということに躊躇があるということもありますので、独禁法のガイドラインもライセンシーのほうがライセンサーよりも力が強い場合もあることを前提にした上で柔軟に運用されていく必要があるのかなというふうに考えます。
 、最後に1点だけなんですが、24ページの総合プロデューサーというところなんですけれども、これは1つの事業者がすべてをやるということはなかなか、専門的な分野でございますので難しいという判断もあるかと思います。例えば法律のプロである弁護士と技術をわかっていらっしゃる弁理士さんや学者、研究者の方々等いろんな専門性を1つにを結集した団体がプロデュースしていくというような考え方で進めていくのも一つのやり方ではないかなというふうに思います。
 以上です。
○妹尾委員 それでは、全体についてコメントをさせていただきます。大きく分けて4点ございます。第1点はイノベーションについて、第2点は特許の扱いについて、3番目は先ほどから出ている総合プロデューサーについて、4点はそれ以外ということです。
 第1点は、イノベーションについてです。オープン・イノベーションがついに取り上げられてきたなというので、この資料も非常におもしろく拝見しました。ただ、ちょっと気になるのが、オープン・イノベーションの話がいつの間にか、間の議論が見えないままに、特許流通の話に落ちていってしまっているということです。委員の方々の先ほどからご指摘と全く同感で、特に佐藤委員がおっしゃられたように、やっぱり画期的な新事業創出というのが一番重要で、それがイノベーション、すなわち社会に価値をもたらすモデルの変換ということだと思います。
 だとすると、画期的な事業の創出・普及・定着のレベルの話と、技術の独占・共有・移転・流通の話と、それから特許の流通その他のレベルの話、この3つのレベルがもう少し明確に整理された方がよいだろうと。なおかつ、分けた上で関係づけがどうなっているのかという議論をもう少し展開することが今後の課題かなという気がしました。すなわち、事業創出と技術共有は一体どんな関係になっているのか、あるいは技術創出と特許流通はどういう関係になっているのか。恐らくこれは長岡先生のご専門のところなのでぜひいろいろ知見を教えていただきたいと思います。これらの関係づけがないと、何となくイノベーションだよねと言っていたらいつの間にか特許流通の話になっているという、これではいかがかなという気がするのです。それが1の1点目です。
 1の2点目は何かというと、イノベーションの話とソーシングの話が少し混在していないかなという気がしています。イノベーションそのものとイノベーションを起こすためにどういうリソースを使うかというソーシングの話は、一応概念上は区別したほうがよいと思います。インソースでやるのか、すなわち自前主義ですね。アウトソーシング、すなわち外注主義ですね。クロスソース、相互に利用しようという話。それから、恐らくコモンソース、ソースをコモン、みんなの共有地に出してやろうと。このソーシングの話がイノベーションの話とどう組み合わさるのかということですが、何となくイノベーションがそのままソーシングの話になってしまっているという印象がぬぐえません。その辺をもう一回整理をしてみたいなという気になりました。
 それから1の3点目は、ここでの議論はオープンvsクローズというセットでお考えになっているわけです.これは確かにそうなんですが、パルミザーノだとかIBMはオープンvsクローズのセットでは考えてはいない。オープンとプロプラという言い方をしています。これはちょっとツイストしている議論ですけれども、オープン・イノベーションに対してproprietary、すなわち両者の間にプラットフォームが入って、プラットフォーム上でプロプラをやっていると。プロプラをやっているのが、いずれスタンダリゼーションされて次のプラットフォームをつくるという展開でのイノベーションの考え方をとっています。これは必ずしもオープンvsクローズという考え方と同じではないです。だから、ここで言っているオープンvsクローズは、どちらかというとソーシングに近い話なので、そこを整理しておいたほうがよいだろうなという気がします。
 それから、イノベーションの議論の4点目は、5ページの表です。これはなかなか苦労されておつくりになったというのはすごくよくわかりますが、多分何となく、ちょっと違うぞと皆さんお思いになられているのではないかと思います。恐らくこれは、独占・排他対非独占・公開共有の話と、価格の有償・無償という話と、対象の限定・非限定という話の3軸が2軸に落とされてしまっているので、少しごっちゃになっている印象なのかと思います。さらにもう1軸ぐらいありそうな気がするので、軸を整理してみるともう少しすっきりした図になるかなという気がします。つまり一次元のスペクトラムだけで議論するとわかりにくいところがあるので、場合によってはマトリックスにしたり、三次元にしてみたりという工夫が要るかと思います。
 以上、イノベーションに関する議論の整理の仕方について、ちょっと感想を述べさせていただきました。
 2番目が特許の話です。今日いろいろな議論を伺っていてわかったのは、量対質の議論というのは結構出てきていますが、その前提がどうも特許が個体だという「a patent」の議論を前提にしているように見えます。しかし、「群」という概念がもうそろそろ出てもよいのではという気がします。つまり、特許の量と言っているときに、単独特許の件数を数えて量と言っている。確かに薬剤なんかのときは1特許1製品というのがあるんでしょうけれども、例えばIT関係だったら、やっぱり特許群の話だから、「a」ではなくて「set(集合)」の話ですよね。そうすると今度は、質という問題も個々の特許の質ではなくて、その群の質がよいのかどうか、つまり抜けがないのかとか、漏れがないのかとか、あるいはわざと仕掛けがしてあるとか、落とし穴があるとか、そういう群管理・群評価、あるいは網管理・網評価ということを恐らく考えてこなければいけないのではないかなと思います。
 というのは何かというと、特許一本勝ち至上主義みたいなものが見えてくるのですが、その一方でやっぱり合わせ技もあるはずです。合わせ技で勝てればいいでしょうというと、これはやっぱり群なんです。なので、一本勝ちだけでの基本特許何とかだけではなくて、合わせ技でも勝っていくみたいなしたたかな勝負師を我々は考えなければいけないのです。そうすると評価も量対質という単純な話ではなくて、その辺を織り込んだほうがよいと思うんです。恐らく大学特許がどうだこうだというのは、群になっていないからライセンスしにくいとかいう話をよく聞きますよね。あるいは、これが抜けているからこれだけじゃ無理だよねみたいな話があるので、何か特許群としての質ということを考慮に入れてくるとよいのではないかなという気がしました。これが2つ目です。
 3番目は、先ほどから皆さんおっしゃっている24ページの総合プロデュースという話ですが、これは長年ここの委員会でも私、人材育成の側からこのことを言わせていただいていたので、皆さんのご賛同が大変うれしく伺っていました。
 ただし、ここで我々が注意しなくてはいけないのは、毎回申し上げていることですけれども、仲介のgo-betweenではないという点です。そうではなくて、これはビジネスディベロッパーあるいはプロデューサーの話ですよと。コーディネーターという概念はもうやめましょう。調整役、仲介役じゃなくて、こういうことをやろうぜという「この指とまれ」と出せるやつがプロデューサー。プロデューサーというは何かといったら、こうやれば絶対この作品は受けるよね、だから脚本家はだれそれで、監督はだれそれで、主演はだれそれでということをやってのける人をプロデューサーというふうに言うわけです。そのプロデューサーシップとコーディネーターシップを間違えてはいけない。コーディネーターと言っていると、みんな調整役になって、結局はつまらない作品ばかりつくっているということになりかねない。そうではなくて、ビジネスをつくれる人を育てましょうと。
 そうすると、先ほどのお話にある「技術の目利き」だけではなくて、これはもう何回も申し上げていますが、「事業の見巧者」古典芸能で言うところの見巧者、パフォーマンスを評価できる人ということがすごく重要なのです。技術の目利きというシーズサイドの話に加えて、事業サイドからの事業の見巧者が必要かと思うのです。
 よく私は人材育成の専門家として聞かれるんですが、そういう人は育成可能ですかと。答えは育成可能です。絶対に可能です。こんな議論をすると今日の趣旨から外れるので、また人材育成の機会にお話しさせていただきたいのですが、そういうプロデューサーは育成できるんです。ただ、今までしていなかっただけというのが現状だと思います。これが3点目です。
 4点目はそれ以外の話で、ちょっと細かい点をご指摘させていただきたい。3ページ目のところ。ご参考までにということで申し上げたいのですが、オープン・イノベーションを技術フロンティア、制度フロンティア、市場フロンティアということで整理されています。そのときに申し上げればよかったのですが、社会系の研究でパラダイムシフトが起きるというときは、パラダイムの構成は技術と制度と文化という言い方をします。昔は文化ではなく、イデオロギーと言っていました。この3点セットのどれかが崩れるとパラダイムシフトが始まるよということです。社会的なパラダイムシフトの議論として、クーンとかポパーとかいう話に連なるのですが。ここでは、我々が普通、文化だとか、昔はイデオロギーと言っていたのが「市場」と書かれています。でも中身を見てみると「優れた技術の共通基盤化」みたいなことなので、これは市場の話ではなくて、むしろ文化、イデオロギーとは少々異なりますが、behavior、すなわち行動特性みたいな、あるいは企業行動の準拠枠組みみたいな感じがするのです。ここではパラダイムシフトをやろう、という提案に見えますので、社会系のパラダイムの議論を紹介させていただきました。だからどうだという話ではございません。
 それから18ページの議論、先ほど加藤委員がご指摘されたのに私は全く同感なんですが、18ページの上の○の2つ目、将来ラインセンスを最初からやろうとしているわけではない、という話です。これは書き方がnot butの書き方になっているからそう見えてしまうのではないでしょうか。そうじゃなくて、我々が議論したいのはnot only, but alsoを言いたいわけでしょう。権利保護や防衛出願のみではなくて、パテントが将来的に流通することも視野に入れながら戦略を練ろうよということです。ただし、それは先ほどのご議論のように、ダイナミックに動いていけば、そのとおりいくかどうかわからなくなるんだけれどもという話です。いずれにせよ、これは多分、not butではなくてnot only, but alsoで書かれると非常によいと思います。
 それから9ページの図です。これ私はよくわからなかったんですが、9ページの左の図の議論で、だからライセンスがないんですよというお話があったと思います。しかし、この図を見るとクロスライセンスを除くと書いてある。IT関係はクロスライセンスが主だからこの表の中には載ってこないわけですね。一方、薬だとかそういうところは絶対ライセンスを普通しないでしょう。これも図には載ってきませんよね。だとしたら、これは一体どこの業種を言っているんだろうと。多分この業種の中身を精査していただくとこの実態はもう少しわかりやすくなるんじゃないかなという気がしました。
 すみません長くなって。最後のところは16ページです。先ほどから出ています著作権の話です。これは2つ、参考までにご指摘をさせていただきたいと思います。
 1つは、これは非常によいなと思っています。特に研究のための著作物利用促進はぜひやっていただきたい。現在私、文化庁のほうで、私が委員長になって写真保存センターの設立の検討をやっていますが、そのときに日本の代表的作家、例えば木村伊兵衛だとか土門拳だとか、そういう人たちの写真の保存について、皆さん「文化遺産」と言うんです。私は今違うコンセプトで行こうと提案しています。「文化遺産」を「文化資産」にしようと。すなわち次の世代のコンテンツリソースに過去のコンテンツがなるんだよということです。コンテンツというのはリソースから生まれるわけですから、日本が誇る写真のコンテンツを次世代のコンテンツリソースにしよう、すなわち遺産から資産。そのときにデジタル画像の問題というのはが著作権上あるので、ここの話は実はコンテンツの世界にもすごく影響するという気がしています。
 もう一つ、これは将来的に多分、防犯カメラの問題に触れてくるだろうと思えます。防犯カメラで撮った画像を研究利用させてほしいということを、私は警察庁の委員もやっておりますので、そちらでもお願いをしています。ぜひここでもお願いをしたい。というのは何かというと、防犯カメラはプライバシーの問題があって防犯以外に使えないのですが、例えば私は秋葉原を拠点にしていますので、秋葉原の防犯カメラの映像データを防災用に使ってみたい。つまり災害時にどういうふうに人を誘導できるか、要するに緊急避難誘導のために買い物客の動線データを使いたいのです。ところが、現在これは緊急避難誘導のための解析に使えないんです。要するに研究利用だとか公的利用に、こういう蓄積データも使えると非常によくなるなと。もちろん制約はあると思いますが、そんな感想を持ちました。
 すみません、長々となりましたけれども、以上4点のコメントをさせていただきました。
○相澤会長 ありがとうございました。
○長岡委員 私は追加的に4点だけ。細かい点ですけれども、申し上げたいと思います。
 1つは、もう何度もたくさんの委員からご指摘ありましたけれども、オープン・イノベーションと排他的な権利行使は必ずしも矛盾しない点です。例えばオープン・イノベーションのひとつの形として、あるレイアーは独占して、ほかのレイアーは完全にオープンにするということもあると思いますので、今の妹尾委員のご指摘もありましたけれども、その区別を明確にされるのが重要ではないかというのが1点目です。
 それから、2点目は、パテント・トロールの原因です。仲介ビジネスがトロールの惹起につながるというご指摘もありましたが、その原因をもう少し検討する必要があって、事務局資料では乱用的な権利行使というふうに書いてあるんですけれども、権利設定自体、つまり何が特許になるかというところも重要です。特に米国の場合ですと継続出願がかなり行われているということもあります。したがって、パテント・トロールの問題を権利行使だけではなくて、権利の設定の段階からも検討する必要があるのではないかなと思います。権利の設定が適切であれば、仲介市場が発達しても、それがパテント・トロールということにはならない可能性もあります。
 3番目は、技術の仲介市場の発展には、取引コストが高いこと、中でもライセンス条件の相場が無いというところが一つのバリアです。ライセンスの当事者はあまり開示したくないというのは当然にしてあるわけですが、公益といいますか、市場の発達のためには開示が望ましいということもあります。ですから政府がいろいろな機会で開示を促す方向で働きかけることが重要です。例えばリサーチツールのデータベースをつくる準備が進んでいると思いますけれども、それも一つの重要な措置ですし、米国ですと上場企業の開示条件で重要なマテリアルコントラクトのディスクロージャーというのがありまして、これによって日本よりもはるかに開示が進んでいるということもあります。強制的な開示はもちろんできないわけですけれども、ライセンス条件がいろんな場面で開示されることがライセンス市場を広く育てる上で重要な役割を果たすということがあると思います。
 最後の点ですけれども、知財のライセンス等も含めて、企業が積極的にライセンス管理をやっていく上でグループとして知財を管理していくということが非常に重要です。知的財産権の信託化が可能にすることの一つの便益として、知財をグループで管理できるようになることが当初の目的にあったと理解していますが、実際にはあまり効果がなかったのではないかと認識をしております。日本企業の場合は今まで基本的には単体で知財を管理してきましたが、最近は、持ち株会社とかそういうことがあって、知財管理でも戦略的な管理を集中すべきではないかという動きもあります。しかし、現状ではグループ内の知財の所有権の移転が円滑に進むように必ずしもなっていないのではないかと思います。それは税制の問題等もございますし、こうした問題の検討も重要ではないかと思っております。
 以上です。
○相澤会長 ありがとうございました。
○佐藤委員 オープン・イノベーションに関して一言だけ付け加えたいと思います。
 この4ページにも資料として挙げられているチェスブロウのオープンビジネスモデルというのが1つ大きな参考になっていると思うんですけれども、この中でイノベーションというものを時間軸でとらえて知財戦略を構築すべきだということを提言しています。そういう意味では、この専門調査会でさらに深めていく意味では、イノベーションである以上、製品・技術開発の草創期から成長期、成熟期、そしてさらに衰退期という段階での知財戦略は当然イノベーションによって違っていくわけで、それに見合った戦略を立てるという時間軸のとらえ方というのをぜひご検討いただいたらいかがかと思います。
 私はこの本を読んでこの点に非常に興味を持ちまして、例えば国際標準をとる段階というのは成熟期ではなくて草創期の段階であって、その段階において集中的に標準をとるための開発をやり、権利化をし、それでパテントプールをつくるという、段階に応じてやるべき知財戦略が違うという時間軸のとらえ方がここの中ではすごく私は興味を持ちました。そういう意味では、今日拝見したペーパーの中では時間軸でとらえる観点がちょっと明確になっていないので、さらにご検討いただいたらいかがかと思いました。
 以上でございます。
○相澤会長 そのほかいかがでございましょうか。
 大変重要なご指摘をいただきました。資料1にまとめられている内容は、現状がどういう状況にあるのかということを中心にまとめられてきているもので、これからどうすべきかというところをまとめるためのキーワードを挙げてきているというふうにとらえていただきたいと思います。
 まずオープン・イノベーションに対するきちっとしたコンセプトの整理、それを展開する上での知財戦略の位置づけ等々について、今日具体的にご指摘もございましたので、そういうことを軸に次の会までに整理させていただきたいと思います。本日いただきましたご意見以外にまだこういうことがあったということをお気づきでしたらば、事務局に書面でお寄せいただければと思います。
 それでは、本日は以上とさせていただきたいと思います。
 次回の専門調査会は3月4日、火曜日、10時から12時でございまして、場所は本日と同じところでございます。次回が平成19年度の最後の会合となりますので、本年度の専門調査会における調査検討に係る報告書の取りまとめに向けた議論を行わせていただきたいと思います。
 それでは、事務局はこれまでの専門調査会における議論などを踏まえまして報告書の素案を作成し、次回の会合に提出していただくようにお願いいたします。
○中村委員 すみません、当初こちらの調査会がスタートいたしましたときに、分野別の戦略をまとめるというのに加えまして、後半では模倣対策でありますとかそういったところに対する論議もというのが当初あったかと思います。今日の部分にも一部ございますけれども、そのあたりを、次回が最終ということであれば、どういう形で盛り込むかということもぜひちょっとご検討をいただきたいと思います。
○相澤会長 これについては事務局との間で相談させていただきます。
 それでは、事務局から補足はありますでしょうか。
○松村事務局次長 今のご質問というか、競争力強化専門調査会は昨年の夏に立ち上げていただきまして、競争力強化に資するさまざまな論点、とりあえず年内に分野別戦略をやるということで、年明けの2回はその他国際展開に関係する重要事項みたいなことで、今日もオープンですけれども、そこもオープンにしてあったという位置づけでございます。
 それで、テーマとして模倣品の話ということを具体的事例として挙げさせていただいたかどうかちょっと記憶にないんですけれども、そこはちょっとまた次の会までの間に具体的にどういうことを詰めたほうがいいのかというのを、ちょっとお話を伺いに参って、それで次の会合までに必要なものを用意させていただきたいと思います。
○相澤会長 そのほかには事務局からありませんか。
○松村事務局次長 さっき相澤会長から整理していただいたとおり、今日は本当にさまざまなご意見をいただきましてありがとうございました。
 主としてオープン・イノベーションに絡んでビジネス戦略全体の中でどういう位置づけをしたらいいのか、その概念整理、または本当に極めつけのポイントはどこかと。妹尾先生の概念整理にどこまで私はついていけたかわかりませんけれども、いろいろとご議論いただきましてありがとうございました。そこは今日のご意見を踏まえて位置づけをきっちりとさせていただきたいと思います。
 また、産学連携のところにつきまして、前田委員ほかいろいろご意見をいただきまして、相澤会長からもご発言がございましたけれども、今の状況は今の状況としてあって、中期的にどういう方向を目指すべきかという点について、今日のご意見を踏まえて、また各委員から個別にご意見をいただきまして、取りまとめの案を作成させていただきたいと思います。
 その他留意事項として、パテント・トロールの問題とか流出問題とかいただきました。その点も踏まえたコンプリヘンシブな報告書の案をつくらせていただいて、今後の段取りとしまして、私どもとしては国際展開を検討する上で重要な視点としてオープン・イノベーションというのを今回取り上げさせていただいたわけですけれども、昨年の分野別戦略とあわせて知財の推進計画2008の策定作業、つまり原案を策定する有識者会議にご報告をさせていただくべく準備をさせていただきたいと思います。
○相澤会長 それでは、本日の会合はこれで終了させていただきます。
 どうも長時間にわたりましてご協力をいただきまして、ありがとうございました。
(以 上)