知財紛争処理タスクフォース 議事要旨(第4回)
【日 時】 | 平成27年4月24日(金)10:00〜12:00 |
【場 所】 | 中央合同庁舎4号館1階123会議室 |
【出 席 者 】 | 相澤座長、荒井委員、飯村委員、奥山委員、上柳委員、杉村委員、高倉委員、長澤委員、宮川委員 |
【事 務 局 】 | 横尾局長、増田次長、磯谷次長、田川参事官、北村参事官 |
【関係府省】 | 法務省、特許庁 |
【オブザーバー】 | 最高裁判所 |
知財事務局による「これまでの議論の整理について」に関する説明の後、委員等の間で意見交換を実施。意見交換の概要は以下のとおり。
<差止請求権>
- 差止請求権は特許権の根幹である。また、特許権を回避して、より良い製品を作ろうとすることが新たなイノベーションを呼ぶ原動力となっているケースが多いのではないか。その意味でも、差止請求権は強くあるべきである。
- 特許の価値は差止請求権と損害賠償請求とにあり、それらのトータルで評価される。差止請求権が制限できるようになれば、その価値が低くなる印象を与えるし、実際にそのような方向に進むことが懸念されるため、慎重に考えるべきである。
- 競争法で知財権が制限される新興国との経済連携協定では、日本の法制度が相手国に影響を与えることも念頭に置いて、本件の議論をすべきである。
- 国際標準必須特許のそれぞれに差止請求権を与えることは良くない。FRAND宣言をしているか否かにかかわらず、標準必須特許に関しては何らかの手当てが必要である。
- 生産拠点が日本に戻ってくる現状などを考慮すれば、悪意のPAEが日本に上陸するのは決して絵空事ではないため、差止請求権の制限の検討が必要と考える。
<情報公開・海外発信>
- 企業買収などのために、海外から日本の訴訟について問い合わせがあるが、どのような訴訟が、どのような当事者によってなされ、どのようなタイミングで裁判所に係属しているのか否か、和解しているのか否かが分からずに困っている。どこまで開示するかについては議論が必要であるが、情報公開することで知財紛争処理システムに対する信頼感は高まると思う。
- 訴訟結果に関する予見可能性が高いほど、交渉や訴訟に関する戦術が立てやすいため、できる限り多くの情報があればありがたい。現時点で公開されている情報は少ないという印象を持っている。
- 民間のサービス会社に大枚のお金を払えば訴訟記録を裁判所に閲覧しに行ってもらえるが、ITの時代になぜそのようなことをしなければならないのかと感じる。
- 個人情報保護法などの影響で情報の取扱いに関しては非常にセンシティブな世の状況があり、また、被告としては知られたくない情報もある。その中で、インターネットなどの便利な手段で原則的に公開していくという点は、慎重に議論を重ねた上で考えていくべきである。
- 英語による海外発信を行わないと国際的なルールメイキングにほとんど影響しないため、英語による海外発信が重要である。また、日本企業が海外でビジネスする上で、日本と同様のルールで活動できることにつながる。
<証拠収集手続>
- 侵害行為の立証の容易化を図ることに関しては、基本的には賛成できるが、検討の際には、攻守両方のことを考慮して、制度の在り方を考えるべきである。
- 「侵害を立証できないのなら製法特許を持っていても権利行使できない」と考えるために製法特許の価値が殆ど見出されていない。その問題を解決するためにも製法特許の侵害立証負担を軽減する方向で検討すべきである。
- 被告は、製法をノウハウとして管理している場合が多い。そのノウハウに関する重要な情報が原告に渡りやすくすることに関しては、慎重に検討すべきである。
- 証拠収集方法について検討している国は多々あるので、それらの知見を利用し、バランスの良い制度を設けるように検討すべきである。
<権利の安定性>
- 104条の3の導入により、被告有利になり、原告とのバランスが崩れてしまった。特許庁の審判が迅速化し、付与後異議申立制度が導入された現状を踏まえ、原告と被告のバランスを直していくことが必要である。
- 司法と行政の役割分担の中で、技術専門官庁である特許庁の審査・審判の質を高めることを前提に、司法においても、技術専門官庁の判断を尊重するという方向で進めることが、その発明をいち早く実施し、イノベーションを促進することにつながる。そのような観点で特許権の安定性の在り方について検討すべきである。
- 行政処分として付与された特許権が裁判でゼロから判断し直されると、特許庁の審査はなんだったのだろうということになる。特許庁の判断が明らかにおかしければ是正されるべきだが、微妙なレベルでは行政庁の判断を裁判で追認していかないと、常にハードルが高い方で判断が覆されてしまう。
- もし日本において特許権の権利行使が難しい状況があるとすれば、色々な工夫をしていかなければいけないと思うが、104条の3の廃止については、デメリットが大きい。
- 特許庁による完璧な先行技術調査はあり得ず、また、訴訟を起こされた特許権の全てに対して異議申立てや無効審判を請求することも現実的ではないため、104条の3は廃止すべきでない。
<損害賠償額>
- 現状の損害賠償額で、特許の経済的な価値が守られているとは思えない。法律理論でどうかだけではなく、経済的に見てどうなっているのかを数字に基づいて議論をして、法律や運用を見直していくことが必要である。
- 日本の特許の価値を上げるには損害賠償額がある程度大きくなる必要がある。交渉の場でも、アメリカの特許を持っていると大きく評価されるが、日本の特許を持っていても付録程度にしか見てもらえないケースもある。
- 損害賠償額を増やす方向で検討することは良いが、国際的に理解が得られるような制度とすることが必要である。
- 損害賠償額を増やすために民法の原則から離れて検討するという選択肢もあり得る。
- ライセンス料のデータベースを作ることは、現実的には難しいのではないか。特定の二社間のレートが一般的なものとは限らず、水面下に隠れている背景まで考慮しなければいけない。
- 米国では、実施料相当額について15項目に基づき判断するようにしている。このようなガイドラインを作ると良いのではないか。
<中小企業支援>
- 中小企業の立場からすると、弁理士に数十万円を払ってその特許が裁判で使えないと非常に困ってしまう。弁理士は、特許権が裁判で生きるかという観点も踏まえて特許権を取得することが大事である。
- 大企業は網の目のように出願をして、候補の中から2〜3件を選んで訴訟を起こす。そもそも2〜3件しか出願していない中小企業が裁判で勝つのは至難の技である。
- 特許権の侵害訴訟で中小企業が勝った事例に共通しているのは、戦うことを目的にした素晴らしい明細書であったという点である。弁理士の経験に基づいて、良い事例を積極的に広めたり、啓発活動を行うことが大切である。
<地方における知財司法アクセス>
- まずは、ITやTV会議システムの普及を通じて、地方の当事者、弁護士が、知財訴訟に参加できるようにすべきではないか。他の地方裁判所や高等裁判所にまで管轄を広げることの検討は慎重に行うべきである。
- 今の管轄制度では、地方の中小企業が知財訴訟を起こすためのハードルが高くなっているということは考慮すべきである。
以 上
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