知財紛争処理タスクフォース 議事要旨(第2回)

【日  時】平成27年3月30日(月)15:00〜17:00
【場  所】中央合同庁舎4号館12階1214特別会議室
【出 席 者】相澤座長、荒井委員、飯村委員、大野委員、奥山委員、上柳委員
杉村委員、高倉委員、長澤委員、宮川委員、加藤参考人
【事 務 局】横尾局長、増田次長、田川参事官、北村参事官
【関係府省】法務省、特許庁
【オブザーバー】最高裁判所

 事務局より「知財紛争処理の改善に向けた論点」について説明した後、訴訟手続の在り方について大野委員によるプレゼン及び意見交換、損害賠償額について加藤参考人によるプレゼン及び意見交換、差止請求権及びその他について意見交換をそれぞれ実施。主な意見は以下のとおり。

<訴訟手続の在り方>

  • 機密漏えいのおそれを考慮すると、例え裁判所の心証が悪くなろうとも提出できない技術上の重要な営業秘密がある。このような点に配慮しつつ、しかし証拠提出を排除すると訴訟がうやむやになる可能性があるので、攻めと守りのバランスがとれた制度としていただきたい。
  • 日本の裁判において「営業秘密だから」と言っていれば済むこと、隠し通せることはやはり問題ではないか。侵害しているか否かという論点に早く行きつくような仕組みにしていかないと、権利の保護という事が難しくなるのではないかと思う。
  • より証拠開示が図られれば良いと考えるが、米国のディスカバリーは金が掛かる世界でもかなり特殊な制度である。各国で運用されているディスクロージャー制度を見習う方が良いのではないか。
  • ディスカバリーのように全て出させるという制度を入れると、中小企業に過剰な負担となるため、その点考慮する必要がある。強行規定とするより裁量規定のままにして裁判所の柔軟な活用に期待した方が、中小企業にとって良いのではないか。
  • 特許法第104条の2については、単なる主張義務ではなく、証拠提出責任を課してはどうか。
  • 特許法第104条の2については、営業秘密(不正教競争防止法)の改正でも措置されているように、明示しないときは侵害行為を推定する規定にするのも可能ではないかと考える。
  • ドイツなどと同様に査察制度を導入すれば中小企業も証拠を入手し易くなるのではないか。
  • 裁判官が鑑定人を選んで任せるドイツの査察制度について、鑑定人も玉石混交であるため、基本的には良い制度とは思っていない。当事者が全部情報を開示し、それで争うということが裁判制度としては公平なのではないか。
  • 特許法第105条の4(秘密保持命令)において刑事罰が必要なのか疑問である。ビジネスでの訴訟において、違反したらいきなり刑事罰になってしまうのは妥当とは思えない。この点の手当がなされれば、第105条の4の秘密保持命令が出しやすくなり、現在のいくつかの問題も解決・軽減できるのではないだろうか。
  • 平成10年、11年の議論を思い起こすと、結果としては法律改正が十分ではなく、その後の運用も不十分だったということではないか。今回の議論でもう一度方向をしっかり示して、法律を改正し、裁判所の訴訟指揮、運用をしっかりやるということを示していくことが大事だと思う。

<損害賠償額>

  • これまでは、産業界は高額賠償を求めていないのではないかと裁判官が考えた上で、一方が大きく勝つ賠償金を認めないというブレーキがかかっていたのではないか。もっと高額で然るべきというのが産業界の総意であれば、裁判所の考えも変わってくる。
  • 今まで護送船団方式でやってきた知財担当者としては、高額でない方が良かったかもしれないが、これからはフロントランナーを目指すべきであるし、それならば損害賠償額はかなり高額でなければいけない。経営レベルの意識を変えるためにも損害賠償額は高い方が、日本全体が良い方向に向かうのではないか。
  • 訴訟における損害賠償額の認定と業界の相場とは個別の事件ごとで多少違いが出る。判決が増えれば自ずと相場は醸成されるのではないか。
  • 損害賠償の額だけを比較してその高低について議論するのではなく、当事者の主張・立証など個別事件の事情に基づき判断すべきである。
  • 損害賠償額の計算方法について日米でびっくりするような違いは出なかったと思う。違いがあるとすれば三倍賠償である。
  • FRAND宣言した特許権の事例と、その他の特許権の事例における損害賠償は区別して議論すべき。
  • 日本の弁護士費用は決して安くなく、何千万〜何億円の弁護士費用がかかる。標準必須特許の損害賠償金が1000万円程度では、1件、2件の標準必須特許を持っていても訴訟は起こせない。
  • 世界の訴訟制度を見ると、敗訴者が弁護士費用を含む裁判費用を負担する制度がある。同制度の導入を検討するのもあり得ると考える。
  • 特許法第102条2項について、侵害者側が得ている利益というのを、何をもって利益とするのかという問題もある。もし限界利益という形で認められれば結構な金額になるのではないか。
  • 損害賠償認定の根拠として特許法第102条第2項が約半分も適用されていることに驚いている。平成10年改正前までは、認定のハードルが高く、件数もほぼない、という状況であったため、現行の第102条第1項が新設された。第102条第2項が改正されていないにもかかわらず、最近では半分近く適用されているということは、意義があるのではないか。
  • 特許法第102条第3項について、損害額算出に参考となるロイヤリティのデータベースの整備については、実際には双方の支払いがあまりないようにロイヤリティを決めている実態があるのではないか。それではいくらデータを集めてもロイヤリティは低い。
  • ロイヤリティのデータベースの整備については既存の資料で足りると考える。むしろ、損害賠償額認定の根拠要素について判例を分析し、それを中心とした客観的資料を作成すれば中小企業にとっても便利であり、役立つのではないか。
  • 完璧に役に立つロイヤリティのデータベースというのはあり得ないが、それなりに実態を反映したものができれば、裁判所の理解を得やすくなるのではないか。
  • 寄与率は大きな問題であり、特許法第102条第1項〜第3項に共通して侵害者に立証責任を負担させる規定を設けると良いのではないか。ただ規定を設けるだけでは足りないと考えるので、非寄与率の算定要素となる考慮要素を例示する規定を設けてはどうか。
  • 寄与率は、米国の訴訟でも何らかの形で調整の数値は出てくるので、何らかの形で入れざるを得ない。しかし、その算定方法が、諸外国の企業からすると説得性に疑問があるということが問題である。
  • 一般的な損害賠償額の算定は、民法の原則を超えない範囲で特許法第102条第1項、第2項が設けられている。究極的な立証命題は、実際に侵害が起きた場合、もし侵害が無かったとしたら権利者がどれだけ利益をえられたか、という問いかけ。後段は、非現実の立証となるため100%を認める理屈が立てにくく、どうしても低くなる。
  • 日本の問題点は、逸失利益という民法の原則を特許法でどれだけ離れられるか、ということに帰着している。そこを変えない限りは、手間ひまかけて訴訟をしても、交渉をした場合と同じ金額の賠償額となり、おかしいままになる。

<差止請求権、その他>

  • アップル対サムスン事件の大合議判決では、FRAND宣言されていれば差止請求は権利の濫用になり認められないと判断されたが、FRAND宣言されていない特許はどうなるのか。差止請求権については、継続的に議論すべきである。
  • 差止めについては、日本では濫用と認められない限り認容される一方で、米国では救済措置として例外的に認められているなど、米国と日本の制度や法体系に違いがある。
  • 仮処分がなかなか認められないとよく言われている。最後に判決が出るときに一緒に差止めが認められても、その時には既にマーケットには流通していないとか、差止めの効果が少ないと言う方がいる。

以 上