検証・評価・企画委員会(第2回)日 時:平成26年11月11日(火)16:00〜18:00 場 所:中央合同庁舎4号館 1214特別会議室 出席者:
○渡部座長 定刻でございますので、ただいまから第2回の「知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会」を開催させていただきます。 本日は、御多忙のところ、御参集いただきまして、誠にありがとうございます。 本日は「我が国知財システムの強化」というテーマの基、知的財産政策ビジョンの検証について、議論を行うこととしております。 なお、本日、角川委員、喜連川委員、杉村委員、妹尾委員、竹宮委員、中山委員、長谷川委員、松本委員、山田委員、山本委員につきましては、所用のため、御欠席されています。 日覺委員も、本日は御所用のため欠席されておりますけれども、代理で吉沢浩明様に参考人として出席していただいております。 本日は、平副大臣及び松本政務官にも御出席いただいておりますので、御挨拶をいただきたく存じます。 まず、平副大臣から御挨拶をいただきたいと思います。 ○平副大臣 知的財産戦略担当の副大臣として御挨拶を申し上げます。 平将明です。どうぞよろしくお願いいたします。 本日は、有識者と関係省庁の皆様にお集まりいただきました。ありがとうございます。 安倍政権が掲げる成長戦略を推進するためには、我が国企業の最先端の研究成果を知的財産権として保護し、イノベーションにつなげていくことが重要でございます。 また、地方創生も、私、担当しておりますが、地方創生においても、優れた技術を有する地域の企業・大学の知を保護・活用する上で知的財産制度は欠かせないものでございます。 本日の委員会では、昨年の知的財産戦略本部で決定された「知的財産政策ビジョン」の各施策の取組状況に関してフォローアップと評価を行っていただき、成長戦略や地方創生の推進に御協力をいただきたいと考えております。 渡部座長のイニシアチブのもと、本日の議論が活発になされて、実りある成果につながることを期待いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします。 ○渡部座長 副大臣、どうもありがとうございました。 続きまして、松本政務官から御挨拶をいただきたく存じます。 ○松本政務官 ただいま御紹介をいただきました知的財産戦略担当の大臣政務官をしております松本洋平でございます。 本日は、第2回目ということでありますけれども、第1回目の際には、私、実は御嶽山の噴火に伴う現地対策本部長をやっていた関係で出席できませんで、大変申し訳なく思っております。 本日の委員会では、我が国の知財システムの強化に向けまして、特に紛争処理機能の在り方、また、特許権等の適切な付与に関して議論をいただく予定と伺っているところでもあります。 この2つは、知的財産権の保護・活用を適切に推進するに当たりまして、両輪となる重要な論点と考えております。 高い知見を備えた皆様から率直な御意見・御提言をいただき、我が国の知財システムの強化につなげてまいりたいと存じますので、渡部座長を中心に何とぞ御協力をよろしくお願いいたします。 ○渡部座長 松本政務官、ありがとうございました。 それでは、知的財産政策ビジョンの検証について、議論に移りたいと存じます。 まずは、事務局から、配付資料の確認と今後の進め方の説明をお願いいたします。 ○北村参事官 お手元の資料ですが、座席表等を何枚かめくっていただきますと、右上に「資料1」と書いてあるものがございます。こちらが論点の紙ということで、事務局から用意いたしました。後ほど御説明いたします。 次が資料2、特許庁の提出資料です。「侵害訴訟等における特許の安定性に資する特許制度の在り方の検討状況」であります。 次が資料3、こちらも特許庁の資料で「権利行使の在り方に関する調査研究」「特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究」でございます。 次が、資料4になりますが、こちらは法務省からの提出資料「紛争処理機能の在り方に関する調査結果及び今後の予定」でございます。 その次、資料5、こちらも文書の資料ですが、法務省の資料「ドイツ連邦共和国における知的財産訴訟制度(特許訴訟制度)の調査結果(報告)」でございます。 続きまして、資料6、特許庁提出資料ですが「審査の質の向上に向けた取組」であります。 その次が資料7「特許の異議申立て制度の導入」。 続きまして、委員の方から資料をいただいておりまして、まず、初めが資料8、荒井委員の提出資料であります。 次に、議事次第には書いてございませんが、資料9として相澤委員の提出資料が入ってございます。 同じく、資料10として、本日御欠席の杉村委員の提出資料でございます。こちらだけ本日御欠席ですので、簡単に項目だけ申し上げますと、杉村委員提出資料ですが、紛争処理機能の在り方等についての御意見ということで承っております。 項目だけ申し上げますと、まず、1ポツ「特許訴訟の件数・勝訴率・損害賠償額の現状について」。 2番目として「特許紛争における無効の抗弁について」。 3点目として「証拠収集手続について」。 4点目「中小企業の勝訴率について」。 5点目「紛争処理機能の在り方についての検討の方向性」ということで、そちらに書いてございます意見を承っております。 資料ですが、その次、参考資料1というものがございます。こちらは事務局の資料ですけれども、今後の進め方、スケジュールと議題について、今後の予定について書いてございます。 最後に参考資料2ということで「知的財産に関する基礎資料」を用意してございます。 過不足等ございませんでしょうか。 ○渡部座長 資料の方よろしいでしょうか。 それでは、早速でございますけれども、知的財産政策ビジョンの検証に入りたいと存じます。 検証に先立ち、事務局から「我が国知財システムの強化」に関する論点について御説明をお願いいたします。 ○北村参事官 それでは、お手元の資料1を御覧ください。 「我が国知財システムの強化に関する論点」ということで、事務局から資料を用意いたしました。 こちらは、本日のテーマにつきまして、前回の委員会等での有識者の主な御意見とそれに関する事務局から1案として提示させていただく主な論点という構成になってございます。 まず「1.紛争処理機能の在り方等」ですけれども、前回の委員会等で出た意見を4つ並べてございます。 まず、知財裁判は8割が権利者の敗訴。裁判で守られない知財は価値がないという御指摘。 2点目として、特許審査の質や迅速性が向上しても、侵害訴訟の勝訴率や損害賠償額で魅力がなくてはシステム全体が盛り上がらないという御指摘。 3点目は、損害賠償額の算定方法の見直し、無効の抗弁の撤廃、文書提出命令の範囲の拡大等、手続の改善をすべきという御指摘です。 4点目は、米国はディスカバリー制度により侵害立証が楽であるが、一方、被告側から見て煩雑であり、良い面・悪い面があることを踏まえて検討すべきという御指摘を承っております。 これらを踏まえまして、主な論点として一例挙げさせていただいておりますが、まず、特許訴訟の件数・勝訴率・損害賠償額の現状をどう評価すべきか。 2点目として、無効の抗弁の導入が特許訴訟にどのような影響を与えたか。 証拠収集手続は十分整備されているといえるか。不十分であるとすればどのような改善が必要か。 中小企業の勝訴率が低い理由は何か。改善を図るとしたらどのような改善を図るべきか。 最後、アップルvsサムスンの知財高裁判決を経た今、差止請求権の適切な行使の在り方について、どのような検討課題があるかという点でございます。 こちらはちょっと文章だけでは何ですので、参考資料を最後にお付けしております。 参考資料2に基づいて、若干、補足を加えます。 参考資料2の9ページでございますが「主要国の知財訴訟件数の推移」というグラフでございます。 米国、中国に比べると、日本は知財訴訟の件数が数字として低いということが見てとれるかと思います。 10ページですが、特許権者の敗訴率の推移が経年で書いてございます。 10年ぐらい見てみますと、大体8割ほど負けているというのが実情でございます。 11ページですが、特許権者の勝訴率を各国別に比較したものでございます。 欧米諸国と比べると、概して日本は勝訴率が低いというところが見てとれるかと思います。 あと次の12ページですが、その侵害訴訟における原告、被告の属性、特に大企業であるか、中小企業であるかというところをとったのがこちらの図でございます。 特に右側の図ですけれども、大企業が訴えている場合、中小企業が訴えている場合ということで、その属性別に分けると、勝訴率が異なっているというのが見てとれる図であろうかと思います。 あと、次の13ページですが、その敗訴の原因を分けたグラフでございますけれども、大きく分けて権利無効による敗訴と非侵害による敗訴がございますが、権利無効による敗訴、青い折れ線ですが、直近では27%、非侵害による敗訴、赤い折れ線ですが、直近では67%という数字が出てございます。 あと次の14ページですが、損害賠償額の日米比較ですけれども、右側の金額だけを見ますと、アメリカの方が日本に比べて賠償額が大きいというところが見てとれるかと思います。 最後15ページは、今年の5月に知財高裁で出ましたアップルvsサムスン事件について、概要を記したものでございます。 資料1にまた戻っていただきますが、資料1の裏面です。 今日の2つ目のテーマでございます「特許権等の適切な付与等」。こちらについて、前回の委員会等でいただいた意見をそこに幾つか記載してございます。 まず、審査の促進とのバランスを図りながら、良い権利を生み出していくことに取り組むべきという御指摘。 特許庁における審査も質は高いが、従来、権利取得しづらい方向で動いてきたことを反省すべきという御指摘。 米中と比較すると日本の補正制度は厳しい規定が設けられているという御指摘。 再生医療については広く権利が認められるよう改善すべき。 公開公報中の情報は海外では権利化しなければ無料で使用されるという御指摘。 中小企業は、特許権だけでなく、商標、意匠の権利も活用した総合的な知財戦略を考えるべきという御指摘をいただいております。 これを受けて、主な論点として、幾つか挙げさせていただきました。 まず、迅速性を維持しつつ、審査の質を向上するために必要となる取組は何か。 特許明細書等の補正の制限の現状をどう評価すべきか。 先端医療技術に係る特許の保護は十分か。 技術流出防止の観点から、現行の公開の在り方、あるいは審査請求制度をどう評価すべきか。 地方創生に向け、審査・審判の実務において取り組むべき施策は何か。 最後、意匠・商標の活用は十分になされているか。その活用促進に向けて必要となる取組は何かということで、挙げさせていただいております。 本日の議論に資することができればということでございます。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございました。 本日のテーマは「我が国知財システムの強化」ということでございますけれども、今、論点で御説明いただきましたように、2つ「紛争処理関係」それから「特許権の付与」という2つの大きなテーマがございますので、以降、それぞれ1つずつ議論をさせていただきたいと存じます。 最初に「紛争処理機能の在り方等」について議論したいと思いますが、このアジェンダに関しましては、まず、特許庁の取組の説明をお願いいたします。 ○澤井特許庁調整課長 特許庁の澤井でございます。 ただいま御指摘ございました侵害訴訟等における特許の安定性に関する検討の現状につきまして、御紹介させていただきます。 昨年、このテーマにおきまして、外部有識者、学者の方2名、弁護士の方2名、うち元判事の方1名、産業界1名の方による委員会を立ち上げるなど、こうした点につきまして、調査研究してまいりました。 特に、侵害訴訟を経験した大企業13者、あるいは中小企業4者、裁判所2者、法律事務所2者へのヒアリングあるいは海外の有識者や裁判所へのヒアリング等も通じて行ってきたところでございます。 こうした「調査研究の背景」は、先ほど事務局からもありました特許訴訟の件数が例えば中国やあるいはアメリカに比べて相当少ないということ。また、特許権の侵害訴訟等で、特許権者の勝訴率が欧米諸国に比べると低いという問題意識を踏まえました。また、ユーザーの方々からは、こうした状況が特許出願に対する意欲を減退させ、日本におけるイノベーションの促進を阻害しているのではないかという御指摘等も頂戴したところでございます。 また、このグラフ、一番右のグラフ、これは私どものほうで米国における研究開発投資額を民間投資額、赤線と政府による研究開発投資額、青線とをプロットしたものでございます。 ちょうど皆様御案内のとおり、米国では、1982年にCAFCができ、また1985年にヤングレポートができ、プロパテントを進めてきたところでございます。 この1980年代を境に見ていただきますと、それ以前は政府投資に比べますと、民間投資が非常に低調であったことがよくわかるかと思います。 他方で、特許が守られる、安定するという状況になりますと、民間研究開発投資額が爆発的に伸びまして、今の米国の成長につながっているのではないかと考察ができるところでございます。 なお、80年代以前でよく言われるものは、当時の米国の最高裁のジャクソンさんという判事が言った言葉で「特許権というのは私の目の前にあるときまで存続する」と。すなわち、自分のところに来るとおおむね潰れることになりますよ、というような発言がありました。特許権の不安定性がこの当時、50年代〜70年代にわたりまして続いていたことがこうした研究開発投資への意欲を削いできたのではないかということも見てとれるところでございます。 こうした調査研究を踏まえまして、2ページ目に移っていただきます。 今回、このいろいろなヒアリングをさせていただきまして、特許の安定性につきまして、実際に侵害訴訟に関与した方々にお聞きしましたところ、特許権は十分に安定していないという御意見が多く出されたところでございます。 また、特許権の安定性を担保するための制度の導入等を検討すべきではないかという意見もここに書いてありますように多くの方々がそうした意見をこのヒアリング、調査の中でも述べていただいたところでございます。 この安定性について、これまでどういう流れがあったかということを簡単に説明するものが3ページ目のスライドでございます。 皆様御案内のとおり、キルビー最高裁判決というのが2000年4月に最高裁で出されました。 それまで、特許権の有効、無効につきましては、特許庁において行うというところでございましたが、2000年の4月の最高裁判決によりまして、無効理由が存在することが明らかであると認められるときには、その特許権に基づく差止めや損害賠償請求等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されるものではないという判示を頂戴いたしました。 これを踏まえまして、当時の裁判所の運用傾向につきましては、ここに書いてありますように、何人が見ても無効理由が明らかだなというような特許権である場合には、裁判所でも被告としての抗弁が成立するという運用をされていたということでございます。 こうしたこともございまして、そういう運用が数年間続いた後、これを法律でサポートするために、特許法104条の3というものが2005年4月1日に施行されたところでございます。この104条の3の議論の過程におきまして、このキルビー最高裁判決が判示したところの明らか要件、すなわち明白性要件というものを入れるべきか入れるべきではないかというような議論がなされたところであります。 この際、明白性、キルビー最高裁判決でなされております明らか要件というのは、撤廃しようという形での法律改正が進みました。これは当時、権利の有効、無効を判断する特許庁の無効審判が遅延していたということで、その遅延していた無効審判と並行して行わざるを得ない状況を考えれば、裁判所でもそうした審判と同様に明らか要件、明白性要件は不要ではないかという御議論を背景としたものでございます。 一方、この議論の中では、例えば、前の知財高裁所長の飯村判事などは、明白性要件を削除した場合には、権利者の負担が大きくなる。例えば、訴訟において、無効の抗弁を行う被疑侵害から二重も三重も証拠の無効理由が出された場合に、これに対して裁判所として対応することは大変困難である。加えて、権利者としてこれに対応することはより困難であるというような主張もあったところでございます。 ただ、こうした意見よりは先ほど申し上げました明白性要件を撤廃すべきではないかという意見が取り入れられまして、今日の特許法104条の3につながっているところでございます。 では、その当時、明白性要件を撤廃する際に言われていました無効審判の審理の状況につきましては、4ページ目に記させていただきました。 当時の指摘のとおり、無効審判というのは、例えば2000年、キルビー最高裁判決がありました2000年当時は、19月かかるということで、非常に長期化しておりました。 判決との時間の関係を見ましても、判決の後に無効審判の結果、審決が出るというものがこの棒グラフで書いてありますように65%、すなわち3件に2件は判決よりも遅く審判の結果が出ていたということで、先ほど申し上げたような状況にあったところでございます。 一方、今日、審査審判の迅速化というのは大きなテーマとして特許庁として進めておりましたので、今日では、この審理に要する期間は、2013年で8.3月、判決と審決の前後関係につきましても、今や100%無効審判の方が早く審決が出るという状況になりまして、当時との時合が大きく異なるような状況となっております。 また、こうした状況から、権利確保あるいは特許出願の意欲を阻害し、出願や特許権取得の魅力が下がっているのではないか。これが特許出願の減少にもつながっているのではないかということを少し見てみたいがために、5ページ目に各国における特許出願の推移につきまして、棒グラフに示したものでございます。 ちょうど2008年9月に御案内のとおり、リーマンショックが起こりまして、我が国では、このリーマンショックを境に大きく出願件数が内国人・外国人共に下がったところでございます。 特に、2008年、あるいは2007年の6.3万件の海外の出願が、2009年には一気に5.3万件、1万件ほど下がり、その後、特に回復することなく5万件台で海外の出願、この棒グラフで言うところのピンクの部分が推移していることがわかるかと思います。 すなわち、一度リーマンショックの末に落ちた出願が、特に海外からの出願がその後回復しないような状況が見てとれるところでございます。 海外からの特許出願が減るということは、その後の海外からの投資も減るということでございますので、慎重にこうした数字を見ていく必要があろうかと存じます。 一方、右の上はアメリカにおける状況でございますが、当のリーマンショックを起こしたアメリカでございますが、国内からの出願、すなわち薄緑色の出願につきましては、このリーマンによる影響を少し受けましたが、2008年から2009年でございますが、海外からの出願というのは、このリーマンがありましても14.2万件から14.9万件に増えておりまして、更に言いますと、2010年以降は急激な出願の増加、とりわけ海外からの出願が増えているところでございます。 左下にございます中国における状況につきましては、リーマンの後、日本と同様に海外からの出願は2008年から2009年、6.2万件から5.5万件に激減いたしましたが、直ちに2010年には回復し、今では大きな伸びを示しております。当然にグローバル化が進んでおりますので、海外からの出願は増えるものでございますけれども、こうしたことは欧州でも同様の状況を示しているところでございます。 このように、リーマンショックによる影響が諸外国においては小さく、直ちにそうした状況が回復されている状況が見てとれるところでございます。 では、こうした訴訟が少ないあるいは特許出願が減少しているということにつきまして、ユーザーの方々にヒアリングしてみた結果が6ページ目でございます。 産業界の方々からヒアリングしたところ、訴訟しても勝てないと。あるいは訴訟において権利者が不利だという印象があるということで、特許権について、最終的に行使がしにくい中では、出願もしにくいというような意見が多く出ているところでございます。 また、104条の3が施行された後は、あらかじめ無効審判で争うよりも、何か事が起きて、裁判に訴えられたら、そのときに抗弁をすればいいやということで、後から対応すればいいやというような考え方もあり、結果、権利者の方から見ますと、行使をしたときに無効を訴えられるリスクが増大し、特許権による発明の保護が後退したという中小の御意見もございました。 また、中小企業は、特許をとっても、その特許で裁判をして勝てる確率は低いのだというような指摘もございます。これは先ほど事務局の方から出された資料の中でも、事務局が示しておりましたこの添付資料の12ページ目でございますが、中小企業が原告、大企業が被告のような場合には、統計的にもこうした主張が裏付けられているなというところでございます。 また、我が国の有識者の方々にヒアリングしたところでも、同様の御意見がありまして、例えば無効の抗弁を入れること等の措置により、権利行使がしにくいというような御意見、あるいは技術専門官庁である特許庁の判断を可能な限り尊重すべきではないかというようなこと、また、品質の高い信頼される審査の実現が必要で、審査の質を上げる、あるいは付与後レビュー制度等の推進が必要だというような特許庁に対する御意見、御指摘も頂戴しているところでございます。 また、海外からの出願が減っていることにつきましては、欧米諸国企業やあるいは大きな団体に対してヒアリングを重ねてきておりますけれども、やはり同様に、日本の特許権はエンフォーサブルではないということで、権利行使が満足にできない状況の中では、日本に特許出願をする意味を感じないというような厳しい意見等を頂戴します。 また、CAFCの長官の御経験者等は、やはり特許に価値を与えることで、研究開発や、投資を通じて、発明が創出されることになるのだというような御指摘も頂戴しているところでございます。 こうした議論を進める上で、当然に裁判における勝訴率が云々というだけではなくて、和解の内容もしっかり見るべきではないかというような御指摘も頂戴いたします。 7ページ目でございます。 「和解の状況」につきまして、これを調べてみましたら、日本での和解の状況というのは、提訴された案件の中で、おおむね4割、この円グラフで言いますと38%が和解により決着を示しております。 他方で、右が米国を例示させていただきましたが、米国の場合は9割、88.5%の者が和解により解決をしておりまして、和解の現状を見ましても、やはり、我が国の場合、必ずしも権利者に有利であるとは言えないのではないかなと考えます。本当に乱暴な説明になるかと思いますが、和解の全てが仮に原告有利な判断がなされたとして、これを簡単に計算しましても、原告有利に和解がなされた、あるいは勝訴がなされたというものは、合計しても5割にも満たないことが簡単に計算ができるかと存じます。 一方で、米国の場合は、同様に乱暴に和解が全て権利者に有利であったと仮定いたしますと、提訴されたものの9割を超すものが原告に有利な結果になったということもこの和解の状況からも言えるのかもしれません。 こうした中、この安定性を高める、確保するための方策として、海外の主要国がどういう取組をしているかということを8ページ目に記させていただきました。 アメリカにおきましては、侵害訴訟において、特許無効の抗弁ができることは皆様御案内のとおりでございます。 一方、その判断をする上での判断のハードルが特許権を付与する特許庁、すなわちUSPTOと、訴訟における判断のハードルに違いがあるということが言えます。 今、少し詳しく説明いたしますと、米国特許商標庁、USPTOでは「証拠の優越」に基づいて特許審査が行われます。すなわち、51%でもこれは拒絶だな、無効だなということになりますと、特許が拒絶されるあるいは無効となります。 他方で、訴訟におきましては、権利有効推定規定というものが働きまして、無効の抗弁をする場合には「明確かつ確信できる証拠」というものに基づいて行わなければならないところでございます。 これはものの本などによりますと、例えば6対4で無効の蓋然性があっても無効にしない。例えば8対2ぐらいの確度が必要ではないかということでございます。 これは、御案内のとおり、特許審査に掛けられる時間というのは、どこの国もそんなに多くは掛けられません。ですから、ある程度グレーのまま特許を付与するようなこともきっとあるのかもしれませんが、これが一定の時間を経るとともに、当然にその特許権に対しまして、周りの人たちがそれを尊重する。また、特許権者自身がその特許権に基づきまして、新しい工場を作ったり、あるいは製品を開発する、あるいは人を雇用するようなこともございますので、そうしたものを尊重していく世界ができ、少しずつ時間とともに白い色に変わっていくということを踏まえたものでございます。 また「明確かつ確信できる証拠」というものを訴訟においても求めておりますのは、これはどうしても特許権を後で見た場合には、全てが無効に見えてしまう、後知恵、ハインドサイトというものを防止するためであるとも聞いております。 一方、ドイツについては、そもそも侵害訴訟においては、無効の主張が原則できません。連邦特許裁判所によって特許の有効無効を争うことになりますが、この連邦特許裁判所の裁判体、合議体は5名で構成されまして、2名の法律の訓練を受けた裁判官と3名の技術系の裁判官とで構成されております。 この技術系裁判官というのは、通例、特許庁で特許審査官としての経験を有している者が充てられているということでございます。 最後のスライドでございます。9ページ目でございますが、こうしたことを踏まえまして、特許権の安定性を高めるためには、まず何より特許庁での審査の質を高める。そして瑕疵のない特許権を付与するという御指摘をいただいております。 そのために、現在、特許庁では、審査体制の強化、品質ポリシーの策定など、後ほど詳しく説明をさせていただきます。 また、この調査研究においての御指摘の結論といたしましては、特許法第104条の3の改定によって、例えば、明白性要件を導入する。あるいは米国型の有効推定規定を導入する。あるいは無効理由を新規性だけに制限し、誰でも分かるような理由だけに制限するという指摘や、そもそも特許法104条の3を廃止してはどうかというような御指摘も頂戴いたしました。 以上でございます。 ○渡部座長 ありがとうございました。 続きまして、法務省の取組の御説明をお願いいたします。 ○鈴木法務省司法法制部参事官 法務省司法法制部の鈴木でございます。 本日は御紹介いただく機会をいただきまして、ありがとうございます。 知的財産推進計画2013におきまして、法務省は紛争処理機能の在り方の検討のため、特許権侵害訴訟やADRを始めとする知的財産関係紛争処理システム全体を対象に、調査等を実施し、公表することとされております。 知財高裁設置法を所管する法務省司法法制部といたしましては、この一環として、平成25年末に担当者をドイツに派遣いたしまして、知的財産訴訟制度を主に特許訴訟を中心に実情調査を行っておりますので、その概要について御紹介をさせていただきたいと思います。 それでは、資料4の項目に従いまして御説明させていただきたいと思います。 また、調査結果の詳細につきましては、資料5の調査結果(報告)を御参照いただければと思います。 まず、ドイツにおきましては、デュッセルドルフの地裁と高裁、それからミュンヘンの地裁、連邦特許裁判所、連邦通常裁判所のほか、デュッセルドルフとミュンヘンの弁護士・弁理士事務所において調査を行っております。 それでは、ドイツにおける特許訴訟制度の概要について御紹介いたします。 先ほど、特許庁からの御紹介にもありましたが、ドイツにおいては、ドイツ国内特許と欧州特許の2種類がありまして、それぞれの特許につき、異議申立ての対象特許庁や異議申立て機関等の手続面に差異が設けられております。 特許権に関する訴訟手続きの類型は大別いたしまして、特許権の侵害に対して損害賠償や差止めを求める民事訴訟(いわゆる侵害訴訟)と特許権の効力(有効性)に関する訴訟がございまして、後者は、付与された特許の無効を求める手続と出願拒絶に対する不服申立手続等に分けられるところでございます。 これらの事件概況でございますが、正式な統計ではございませんが、ドイツにおいては、ヨーロッパの中でも、フランス、オランダ、イギリスなどと比べて、侵害訴訟の事件数が多いとされております。当事者の傾向としては、聞き取りによりますれば、外国企業、中でも大企業が多く、訴訟の対象となる特許は、侵害訴訟、無効手続を問わず、ドイツ国内特許よりも欧州特許の割合の方が多いとのことでございました。 続きまして、侵害訴訟について御紹介をさせていただきます。 ドイツにおきましては、特許権侵害訴訟の第1審は、州の地方裁判所のうち、侵害訴訟の管轄を持つ地裁が、控訴審は州の高等裁判所が、上告審は連邦通常裁判所がそれぞれ担当しているところでございます。 侵害訴訟における合議体の構成は、地裁、高裁とも一般に3名の法律系裁判官から構成されており、審理期間については、聞き取りによれば、第1審は通常1年程度で終結するとのことでございます。 次に、特許の付与・有効性に関する裁判について御紹介をさせていただきます。 ドイツでは、付与された国内特許について、3カ月以内にドイツ特許庁に対し異議の申立てができ、ドイツ特許庁の決定に対しましては、1カ月以内に連邦特許裁判所に対し抗告ができることとされております。 これに加え、ドイツにおいては、付与された国内特許に対し、連邦特許裁判所に直接無効手続を提起することができます。 ただし、これには先に述べた意義申立て期間が経過しており、更に異議手続が継続していないことが条件となります。 この無効手続は第1審を連邦特許裁判所が、第2審を連邦通常裁判所が担当しております。これらの優位構成に関する訴訟手続においては、裁判体に技術系裁判官が加わっているところでございます。 なお、無効手続の審理期間につきましては、現地の聞き取りによりますれば、第1審は約2年程度かかるというような話が多く聞かれました。 続きまして、今、申し上げました「分離原則」について御紹介させていただきます。 ドイツでは、特許権侵害訴訟の裁判所は、当該特許の有効性については判断できず、原則として無効の抗弁は主張することができないこととされております。 特許の有効性を争う場合は、侵害訴訟とは別の手続によらなければならず、例外的に無効の蓋然性が高いといえる場合に、侵害訴訟の手続が中止されることがあるとされているところでございます。 ただいま申しました分離原則のメリットといたしましては、各訪問先におきましては、特許の有効性に関する審理が行われないことにより、侵害訴訟が迅速に進行するという指摘がありました。その反面、デメリットといたしまして、侵害訴訟において、侵害と判断された後に、無効手続で特許が無効とされるケースが少なくなく、先に侵害訴訟で勝訴し、仮執行がされてしまうと、無効手続で特許が無効とされても、会社の破綻等、取り返しのつかない損害が生ずることがあるとされております。 このようなデメリットにつきましては、裁判官、弁護士を含む複数の訪問先で指摘されるなど、ドイツにおいては共通の問題意識とされているようでございます。 中には、侵害訴訟において有効性の判断をしないまま損賠賠償義務を肯定するのは正義や正当性という観点から重要な問題があるのではないかという指摘もございました。 このような観点からいたしますと、デュッセルドルフにおける特許訴訟での判決ベースの勝訴率が仮に60%程度であったとしても、そこには後に無効手続によって、逆の結論となってしまい、かえって当事者にとって、煩雑さを増し、正義の観点からも問題な事案が相当数含まれ得ると考えられますので、この数値のみを単純に他国と比較することについては、慎重であるべきと思われます。 次に「専門的知見」に関する実情について御紹介いたします。 今回の訪問先を含めまして、侵害訴訟においては、専門的知見を得る目的での鑑定は余り実施されていないようでありました。 先に紹介したとおり、侵害訴訟の裁判所の裁判体は、法律系裁判官のみで構成されておりますが、聞き取りによれば、専門的知見を基本的に裁判官が長期間担当して、経験を積むことにより獲得されているとのことでございました。 他方、連邦特許裁判所の無効手続の裁判体には技術系裁判官が含まれており、専門的知見はそこから取り入れられているため、鑑定の採用は1%未満であろうということのことでございました。 連邦特許裁判所での聞き取りでは、技術系裁判官は技術分野に強く、獲得されているとのことでございました。 他方、連邦特許裁判所の無効手続の裁判体には技術系裁判官が含まれており、専門的知見はそこから取り入れられているため、鑑定の採用は1%未満であろうとのことでございました。 連邦特許裁判所での聞き取りでは、技術系裁判官は技術分野に強く、鑑定人を要しないというメリットがございますが、他方で専門性が高いがゆえに、適用分野が限られるという御指摘もございました。 次は「和解等について」ですが、裁判所の和解や調停に関するスタンスは地域によってばらつきがあるようでございまして、一般に訴訟にまで至った事案におきましては、和解や調停は難しく、和解等の話ができるのは、賠償金額のみが問題となるような一定の類型の事件に限られるようでございます。 いずれにいたしましても、第1審判決前に、裁判官が心証開示をし、それを踏まえつつ損害論に関する協議を行った上で、和解が多く成立している日本における実情とは特許訴訟実務の在り方が大きく異なっているようでございます。 その他でございますが、先ほど御紹介させていただきましたとおり、正式な統計に基づくものではございませんが、ドイツでは、ヨーロッパの中での侵害訴訟の件数が多く、事件が集まっていると言われております。 訪問先において、事件が集中する理由について尋ねましたところ、ドイツの市場の影響力の大きさですとか、ディスカバリーやディスクロージャー制度がなく、弁護士費用も低廉に抑えられているために、総体的に費用が安いこと。それから裁判所の判断が安定していること等が多く指摘されたところでございまして、他方、特許権者である原告の勝訴率に関する指摘は余り見られないところでございました。 次に「パテントトロール」についてでございますが、ドイツの裁判所では、さほど顕在化していないとのことでございました。その原因として、ある弁護士からは、ドイツでは、アメリカと異なって訴訟にかかるコストが低く、また陪審でもないために判断が安定しており、パテントトロールが発展する土壌にはないというような御意見がありました。 この点は、先ほど申し上げたドイツの特許権侵害訴訟に関する判断の安定性が関連しているように思われます。 ドイツに関する知的財産訴訟制度の御紹介は以上でございますが、今年度におきましては、先ほど特許庁からも御紹介がありましたワシントンDCに担当者を派遣いたしまして、連邦巡回区控訴裁判所、CAFCを中心とする米国の知的財産処理システム全体の調査ですとか、アメリカ型の知財司法を世界に広めるためのCAFCの取組の状況につきまして、調査を行うことを予定いたしております。 先に述べましたとおり、ドイツにおいてはパテントトロールの土壌がないという理由から推察すると、アメリカにおいては訴訟コストの高さ、陪審による判断の不安定性といったドイツとは対照的な側面があり、これらの事情が高い和解率につながっている事象、すなわち本来は被告に争う余地が十分あるような事案においても、高額な和解を余儀なくさせ、そこにパテントトロールが乗じているというような日常が伺われるところでございます。 この点におきましては、先に述べましたような日本における訴訟上の和解とは数字では計れないような、根本的な違いがあるように見受けられるところですので、これらの実情につきましても、調査をしてまいりたいと考えております。 また、英国にも担当者を派遣し、知財専門の裁判システムを要する英国の実情についても調査を行う予定でございます。 来年度以降につきましては、フランスのパリ、それからカナダのオタワにそれぞれ担当者を派遣し、調査を行うことを予定しております。 これらの国は、いずれも知財関係訴訟の件数が我が国の数倍ありながら、効率的な審理を行っているとのことであり、制度面、運用面での実情について調査を行いたいと考えております。 少し長くなりましたが、私からの御報告は以上でございます。 どうもありがとうございました。 ○渡部座長 ありがとうございました。 それでは、この前半の紛争処理機能について、御意見のある方は挙手をお願い申し上げたいと思います。 宮川委員、お願いします。 ○宮川委員 宮川でございます。 ちょっと風邪をひいておりまして、声がハスキーですけれども、御勘弁ください。 私は、知的財産権侵害訴訟に携わる者として、今、特許庁の方から御説明いただいた資料とその評価の仕方に、実務家の目からすると、少し視点がずれているのではないかという点が多々ありましたので、最初に問題提起として発言させていただきたいと思います。 まず、第一に、特許訴訟の主な論点として、資料1に書いてあるところなのですけれども、特許訴訟の件数、勝訴率、損害賠償の現状というものを出してこられまして、これを侵害訴訟等の善しあしというか、司法システムの状況を判断するというその評価の指標に使うという点ですが、既に2013年の知財政策ビジョンを作る際にも検討した結果、これはその評価の指標にはならないのではないかということで知財戦略本部でも検討を済ませていることだと理解しています。 と申しますのも、特許訴訟の件数が多いというのは、権利行使が非常にし易いかというと、私が日ごろ携わっている実務の関係ですと、特許権あるいは知的財産権侵害の警告を出す、あるいは受けるという弁護士あるいは弁理士の立場に立ちますと、明らかに権利者が勝つ事件、あるいは明らかに権利者の主張に合理性がなく勝ち目のない事件は、そもそも裁判にならずに、法律の専門家あるいは、知財の専門家の弁護士、弁理士がアドバイスをして、裁判にならずに解決している。すなわち、訴訟前の和解ができているというケースが私としては多いと思っております。 そういう意味で、特許訴訟の件数が多いことが、権利行使がしやすいとか、権利が安定しているという指標にはとてもならないと思っておりますし、勝訴率が高い、訴訟で権利者が勝つことを、権利が大事にされていることの指標にするというのも、裁判を経験してみますと非常におかしな話です。と申しますのは、本来、勝つべき人が勝ち、負けるべき人が負けるのが裁判ですし、もし本当に権利があるのに負けてしまうような制度であれば、それはいけないとは思いますが、実際に見ますと、裁判になる事件は、原告被告それぞれ言い分があって、なかなか白黒つけにくい、難しい事件というものがあって、裁判所に行って判断をしていただかないと、どちらも引っ込みがつかないような事件、そういうものは裁判になって判決をいただくことがあると思います。 また、先ほど申し上げましたように、権利者が強いような事件は、裁判にならずに解決されると。それでは、裁判になるのに権利者が負けてしまう事件はどういうものかというと、ひとからげに言うわけではありませんが、権利者が裁判を提起しても負けてしまう可能性が高いにもかかわらず、何か理由があって裁判を起こすというようなケースも少なからずあるように思います。そういうケースでは、結局裁判所が判断して敗訴すると。それが権利の安定性がないかというと、それは決してそのようなことではないと考えております。 そういう意味で、本当に繰り返しになりますが、この特許訴訟の善しあしというものを評価する際に、訴訟件数や勝訴率を出すとか、あと先ほどいただいた参考資料の2の何かよくわからないのですけれども、14ページに米国と日本で損害賠償額がトップ5はこれだけ違うのだという、こういう結論で比較というものを出されていらっしゃいますが、これも損害賠償制度がそもそも損失を補てんするような制度になっている日本と懲罰的賠償、3倍賠償といったような制度のある米国と、そして中身も事件のスケールも比較研究することなしに、結論の数字だけ並べて多いと見えるような誤解を与える、そういう評価の仕方をするのは、やはり司法の善しあしというものを検討するにはふさわしくないデータではないかと思っております。 すみません。長くなって。自分の専門分野なものでいろいろ言いたいことがありまして。 無効の抗弁の導入について、今、権利の安定性に欠いて、権利者にとっては非常に困ったものだというようなコメントが有識者からあったという御報告をいただいておりますが、この権利無効の抗弁を導入することによって、裁判でそれぞれの主張を尽くし、そして紛争を裁判の場で、1回で解決しようという必要性というのは、この平成16年の改正時に真剣に議論をされ、そのとき以降、その必要性がなくなるような、そのような大きな事情の変更があったとは思えませんし、特許庁のデータでも、その制度が導入された以前と以降で、裁判の中で無効の抗弁がなされて無効とされたもののパーセンテージが70%前後ということで、それほど変わっていないということですから、この制度の導入によって、何か安定性を欠くような事情が発生したというような数字は、私は残念ながらこの資料から見つけることはできませんでした。 ということで、やはり、この無効の抗弁を判断する上では、もう少し具体的に本当にこれが悪なのか、権利者にとってよろしくない制度なのかは、もう少し法律的な観点からも裁判という観点からも、じっくりと検討していただきたいと思っております。 そして、最後になりますけれども、中小企業の勝訴率が低い理由は何かと、どのように改善を図るべきかというような論点が出ているかと思いますが、私の経験から申し上げますと、やはり中小企業の方は、一般論として言いますと、訴訟にかける費用がそれほどたくさん捻出できないあるいはそもそも知財の専門家に対するアクセスが十分ではないということで、その訴訟を起こすか起こさないか、あるいはどうやって対応するかという、そこの戦略で十分な指導を受けないでいってしまい、負けることが多々あるのではないかと思っております。 と申しますのも、私の経験ですと、中小企業と言われるような規模の権利者の方から、私の依頼者である大企業と言われる会社が権利侵害で警告書を受け、私どもが大企業側の代理をして権利侵害を争った事件がありますが、その際には権利侵害でない理由と、仮に権利侵害に該当するとしても、そうであれば、あなたの権利は無効になりますよということで、いろいろな文献を引用して、丁寧に反論書で御説明し、相手の代理人とも議論をしたのですが、その中小企業の権利者の方は、その点、十分納得していただけず、結局、裁判になって2年も裁判をやって、結局原告すなわち権利者敗訴ということになりました。 というように、やはりこの事案を裁判にすべきかどうかという十分な指導を受けられず、残念ながら無駄な裁判をするということもあって、それで負けてしまうということもあり得るのだと思います。 これまで中小企業の方に知財専門家のリソースへのアクセスを高めようということで、弁理士会や弁護士会が中小企業向けのいろいろなサポートを考えて提供しようとしていますし、各方面の御協力も得ていますが、やはりそういう問題から考えていくべきことなのではないかと思っております。 すみません。長くなりましたが以上です。 ○渡部座長 ありがとうございました。 荒井委員、お願いします。 ○荒井委員 今の御意見に関し、私は違う意見を持っています。私の意見は資料8にございます。この議論は日本再生のための知財戦略、すなわち、いい発明をする、今回、ノーベル賞が出て関心が高まっていますが、日本を元気な国にしようという観点から議論をする。いろいろな研究開発の努力をどのように特許庁や裁判所が守っていったらいいのかという方向での議論がいいと思っていますので、今の御意見には、私は相当違った意見を持っております。 これはいろいろなユーザーの方、企業の方、大学の先生、個人発明家に聞いてみますと、日本では特許をとっても裁判所に守ってもらえないから、結局、しようがないと諦めている意見が多くあります。 これをどのように直すかということで、資料8の「(方針)」に書いてありますが、特許庁と裁判所の機能をもう一遍見直したらいい。それぞれが立派になって、それぞれの機能分担の見直しをする。 Aにございますが、今までは特許庁は非常に問題があったわけです。それが知財本部のいろいろな活動で、今、良くなってきているわけです。特許庁は、技術的専門家集団として、本来の機能をしっかり果たすという努力を更にする。 裁判所は、技術的な問題に入るときに、できるだけ専門機関としての特許庁に任せて、法律判断とか、経済判断、ビジネス判断に特化したら、国全体のシステムとして良いと思っております。 1番は2番目のテーマですので、ちょっと飛ばしまして、2ページに参りますと、そのためには、もちろん特許庁でしっかりいい審査をする。それから、そのためには弁理士もますます頑張ってもらわないといけない。その前提で、2にあります「特許の安定性を高める」、すなわち、特許の有効性推定規定を入れる。 それからAにありますが、今の104条の3を入れたのは、先ほども話がありましたが、当時は審判が十分機能していなかった。審判に入ったら裁判まで遅くなってしまうということだったので、早く裁判所で一遍に解決しようというわけで、104条の3を入れた。今や審判が早くなってきたので、104条の3の必要性がなくなった。この10年間の成果は皆さんのおかげです。10年前は審判が非常に長かったのが、今はその問題がなくなりました。 3番は、何だかんだと言っても、弁護士費用も出てこないような損害賠償額というのはどこかおかしい。アメリカは高過ぎるといっても、日本はやはり低過ぎる。経済判断が不十分です。実損と言っても、こういう特許の侵害とか、いろいろな知的財産の実損というのは非常に分かりにくいわけです。しっかり研究開発が報われるようなビジネスの実態にあったものに変えていくべきです。 4番は、今の特許裁判が実際に裁判所に行って見てみると、口頭審理と言いながら、準備書面のとおりと言って3分で終わるのがほとんどです。これでは、技術の審理をしているように思えません。実際の映像を使ったりした本当の口頭弁論をやったらいい。そのために調査官の質問権とか、付記弁理士制度を導入したのです。これが全く生かされていない。特許庁の審判で、そういう口頭審理を入れたら、非常に質も上がって早くなりました。是非日本の裁判所もそうしたらいい。 それから、5番にありますが、特許裁判の透明性が非常に日本は欠けています。@にございますが、アメリカでは原告とか被告もみんなインターネットで発表します。日本は先ほどの特許庁の調査のようなものというのは、普通の人には手に入らないのです。誰が誰を訴えて、いつやっているかというのも分からない。 それから、そもそも裁判所に行っても、いつ裁判をやるかが分からないのです。 当日、裁判所に来てくれと、張り出します、ノートに書いてありますと言う。これはいかにも閉鎖的すぎます。 それから、Bで事件の決着状況が分からない。判決になったものだけしばらくしてインターネットで出るのですが、和解で解決しているとか言っても、解決したならその旨言うということで、裁判所も、国家の機関です。これだけ国家機関が情報公開を求められているときに、国家機関として、是非、もっともっと透明性を高めていただきたい。そうすれば、大企業が有利か、中小企業が有利かとか、こういう議論が全部分かり、どこに問題があるかが分かる。 特許裁判の透明性を高めて、アメリカ並みにしたらみんなが納得する特許裁判ができて、研究開発に力が入ってくるということではないかと思います。是非やっていただきたいと思います。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございました。 ほかいかがですか。 長澤委員、お願いします。 ○長澤委員 企業の実務家としての立場で意見を述べさせていただきます。 理想と現実というものがあり、特許の保護レベルがある程度高く、権利がばんばん使えるという状況が理想的ですが、それには2つ背景があります。1つは、特に電気、IT系の分野では、特許の件数が非常に増えているということが挙げられます。新興国も沢山出しています。白物だけではなくて、カメラやプリンターやパソコン機器だけではなく、白物、自動車、住宅、ネットワークインフラ、半導体、OS等についても、ほとんど同じような分野をみんなで出し合っています。 このような状態のため、訴訟合戦になった場合、お金を使っただけで結局痛み分けになるため、基本的には訴訟にならないように努力しています。 訴訟にならないよう、できる限り外に飛び出し、どちらにとってもいい契約を結ぼうと一生懸命努力をしているわけです。 実は日本に足りないのは、外に飛び出す勇気であると思っています。その中で、ではどういう制度が理想的なのかを考える必要があります。今まで、我々、日本の会社同士、もしくは欧米の会社、韓国を含んだ会社同士についても、ほとんど交渉でwinwinのストーリーを描こうとしているのですが、訴える相手は、ほとんど故意の侵害者です。 これはたまたま使ってしまったとかではなく、明らかに真似をしているものです。 その場合、彼らは非常によく分かっているため、訴えた瞬間すぐ和解の話を持ってきます。そういう意味では、訴訟後の和解交渉に入るのですが、唯一我々も和解交渉ではなくて最高裁まで行った件があります。それは先ほど言った無効理由に加え、我々の権利主張が7割以上は勝てると思っていた件だったにもかかわらず、初めての訴訟だったため、相手が承服せず、最高裁まで行きました。我々はそこで勝ったわけなのですが、大企業が訴訟をした場合の勝訴率は約4割弱あります。これは決して低いわけではないと我々は思っています。 ただ、一方、損害賠償額は、余りにも低過ぎると思います。最高裁で勝ったとしても、事実としてその裁判の費用もとても出ないような額が出てくることもあり、先のアップルとサムスンの件よりも先に、アメリカでのマイクロソフトとモトローラーの件等がありました。これらのアメリカの件では、製品につき3セントや9セントという額が国際標準必須特許の使用に係る損害賠償額となっています。しかし、先のアップルとサムスンの件はそれよりはるかに低く、アメリカの件の30分の1となるように思え、低過ぎると思います。 また、裁判所の方が我々に提示する和解額も割と低い印象を持ちます。しかしながら、一方では、新興国が特許を沢山出し、特に中国での大量の出願を考えると、原告のことだけではなく、我々日本企業が被告側になるということも当然考えなければいけません。 特に、電機、IT業界はそのおそれが非常に多いです。なぜならば、例えばユーザーインターフェース、アプリケーションや、ちょっとしたメカのアイデア、国際標準規格製品適用、等といったものが特許になります。これは明らかにどの国でも特許になっており、投資を伴わなくても、新興国の後発企業でも出せる特許であります。 そのため、新興国の後発企業が持っている特許も使わなければいけない時代が来るであろうということは当然予想されます。 その中で、その損害賠償額が国際標準の必須特許FRANDを出したものについては幾らで、コアと言われるものすごい投資を使った日本の肝ともいえるような技術に対する損害賠償額が、どのように計算されているのかを考えなければいけないと思っています。また、後者には非常に高い損害賠償額が出て当然だと考えます。 また、侵害の立証について、足りないのではという意見もありますが、これは副作用も実は結構大きいと思っています。実は我々がアメリカで訴訟を被告として受ける場合、原告は100%パテントトロールです。今でもペンディングを十幾つ持っていますが、ディスカバリーでは、持っているカメラの技術を全部提出しなさいと言われます。ソフトウェアについても、要素のソースコードを全部出しなさいと言われます。 アメリカの弁護士からは、裁判官の心証を悪くしたくないから、出したほうがいいですよという話来るが、その場合、我々がそのソースコードを全部出してしまうと、コピーすれば簡単にソースもどきは作れてしまうため、当然出しません。アメリカの弁護士からは必ず秘匿しますから絶対大丈夫という話があったが、先日、サムスンの担当の弁護士がノキアの交渉でそれを使ったという事件が発生しました。当然弁護士はクビだろうなと思っていたら、たかだか小さい罰金で終わってしまったことに非常に驚きました。 ということで、原告の代理人だけだから、ディスカバリーを出す。もしくは被告側に責任を大きく転嫁する。営業秘密の場合はちょっと別だとは思うのですが、特許の場合は、最終製品物が手に入るため、我々は、かなりの確率で被告の侵害は立証できています。また、最近、分析会社も沢山いいものがあるため、材料の分析も非常に進んでいます。営業秘密は生産に関わるものなので見えませんが、製品に関わるものはそこそこ見えます。 逆に新興国が原告である場合、訴訟を乱発され、立証責任を被告が負うということになった場合、我が国の企業が被告になった際に、営業秘密の新興国による搾取を逆に助長してしまう可能性があると考えております。そのため、これはある程度慎重に考えなければいけないと思っています。 また、無効抗弁の廃止の話についても、私は比較的慎重に考えています。現在、審判部で無効審判が行われているため、有効性推定についてはあってもいいかと思うのですが、往々にしてパテントトロールや新興国は、我々を訴える特許として、どこかに流通していた特許をぱっと買ってきて、ぱっと訴えるということが非常に多いです。訴えられてから全世界の特許調査をして、無効審判をするとなると、無効審判の期間が短いため、辛い状況に陥ることも確かです。 そのため、無効抗弁の廃止についても、現時点では反対の立場をとらざるを得ません。その基になる特許権の付与については、大きくこの裁判制度と関係していると思っており、ある程度の進歩性の高さがあり、なおかつ非常に安定していれば、プロパテントの政策がとれるのではないかと思いますが、現状は、必ずしもそうではない状況です。正直申し上げまして、FA11の期間は、比較的進歩性の低いものも通っています。弊社の場合も、FA11を推進した期間は、登録率が90%程ありました。 今年に入って70%ぐらいに下がっていますが、これは安定しているとは決して言えません。今年になって36条の拒絶理由が増えているということも部下から聞いており、拒絶理由も厳しくなっていると聞いています。この理由については、資料を調べる時間があり、更に36条も綿密に見られるため、36条の拒絶理由が増えているということは明白であると思います。そのため、権利が決して高い進歩性レベルで安定しているとは日本ですら言えないと考えます。 アメリカは更に状況が悪いため、アメリカの今の訴訟制度が良いとは決して言えないように思います。 ありがとうございました。 ○渡部座長 ありがとうございました。 相澤委員。 ○相澤委員 マクロ的な話とミクロ的な話があると思います。 マクロの話としては、日本の経済成長、産業発展のために特許制度をどのように制度設計していくかということが重要です。米国では、プロパテント政策は一定の効果を上げていると評価されています。特許出願数が減少し、訴訟件数も少ない状況に直面しているので、日本の制度を再評価してみるべき時期に来ています。 ミクロ的な話の出発点として、米国の訴訟件数が多く、ヨーロッパではオランダとドイツの件数が多いとされています。 そして、日本企業が、日本で訴えを提起するか、米国で訴えを提起するかを考えて、行動していると思います。日本企業が米国で訴訟を起こしている例もあります。そこで、勝訴率と損害賠償額を企業は、当然、考慮していると思います。高い訴訟費用を使ってまで、米国で訴訟をするかどうかを判断していると思います。 日本の特許侵害訴訟の件数が少なく、日本企業が米国で訴訟を提起していることから、日本の特許制度が日本経済を支える組織として機能していないと考えられます。日本の裁判官の能力は高く、判断のブレは少なく、公正であり、非常に安定した裁判制度です。にもかかわらず、日本からの逃避が起きているのは、特許訴訟の制度に問題があり、十分な機能を果たしていないということになります。 そこには、損害賠償額が低くて、勝訴しても訴訟にかかる費用を賄いきれないということがあります。これでは、中小企業が、裁判で救済を受けることは難しいと言わざるを得ません。中小企業にとって、訴えが提起しやすい制度になっているかどうかという問題の一つでもありますが、中小企業が特許侵害からの救済を現実的に受けるためには、損害賠償を高くする必要があります。 なお、米国が多いだけではなく、欧州に比べても少ないということは、深刻な状況であり、制度的に大きな問題を抱えていると考えざるを得まぜん。 ○渡部座長 ありがとうございました。 他の方、よろしいでしょうか。 御意見。 では、奥山委員。 ○奥山委員 荒井委員が御説明になられたようなドラスティックな対策を採るかどうかというところまでは、もうちょっと慎重な方がいいのかなと思うのですが、方向性としては、荒井委員、それから相澤委員がおっしゃられた点について賛同します。そこについて、るる申し上げても、しようがないと思いますので、賛意を表明して私の意見としますが、1つ気になるのは、こういう議論をしているときに、日本で和解で裁判が終わるというのは、判決と同じぐらいの数があるというのは、よく知られていることで、先ほども御説明があったとおりなのですけれども、その自分でも裁判のお手伝いをすることはありますが、結局、和解の場合は、足して2で割るような結論を裁判官が心証に基づいて作りだすわけですよね。ですから、それを和解の内容が公開されていないところで、特許権利者が本当は勝っているのだみたいなことを言われても、どうも本当なのかなということになってしまうわけで、やはり、議論をしていく上では、その和解があるからということで、その勝訴率の低さとか、そういったものが和らげられているというような議論はちょっと賛同しかねるというのが私の意見です。 ○渡部座長 ありがとうございます。 大体よろしいでしょうか。 では、前半の話はこれぐらいにさせていただきまして、先ほどいろいろ御意見いただきましたので、特許庁さんあるいは法務省さん、何かございますでしょうか。 ○澤井特許庁調整課長 先ほど、冒頭、宮川委員の方からありました点につきましては、事務局の方が御用意されているとおりでございまして、今、また多くの委員からも御指摘されましたように、この委員会の中でも、例えば勝訴率ですとか、特許訴訟件数ですとか、御議論が出たものですから、そうしたことを背景に委員会を開き、検討したものを報告したところでございます。 また、それに対する御指摘につきましても、各ヒアリングのところに真摯に中立的に意見を聞いた結果を報告させていただいたところでございます。 以上でございます。 ○渡部座長 ありがとうございます。 それでは、法務省。 ○鈴木法務省司法法制部参事官 先ほど、奥山委員からの御指摘の中で、和解がその前提として足して2で割るというようなものと受けとめられている点について、若干補足をさせていただきますと、その日本の裁判の運用というのは、裁判官がその判決の見通しについての心証開示をして、それとの兼ね合いで和解を監視するというやり方をやっていると承知いたしておりますので、決して和解であった場合に、勝訴、敗訴の見通しが明らかにされないという実情はないのではないかと考えているところでございます。 それから、荒井委員から御指摘いただきました中で、日本の特許に関する裁判の中で、調査官の活用がさほどされていないのではないかというような御指摘もありましたが、私どもが聞いているところによりますと、特許ですとか、プログラム著作権に関する知財訴訟におきましては、原則として全件で技術を専門とする調査官は関与していると承知いたしております。 また、技術説明会におきましては、調査官も関与をした上で、当事者双方が同席し、そこでパワーポイント等を利用したプレゼンテーションを行った上で、裁判官、調査官を交えた質疑応答がされていると承知いたしております。 それから、裁判官の技術的知見に関して、いろいろ御指摘があったところでございますけれども、それなりの体制を整えていると承知いたしておりまして、例えば、東京、大阪では、専門部を設けて、専門の裁判官を養成しているということ。 それから、先ほど申しましたような調査官による常時のサポートがあるということですとか、それから専門委員を200名程度そろえておりまして、常に相談できる体制を整えていることからも、技術的な点でその点が劣っているというような実情にはないのではないかと承知いたしております。 以上でございます。 ○渡部座長 よろしいでしょうか。 では長澤委員。 ○長澤委員 差止請求権について一言だけ申し上げます。 先ほどのある保護レベル以上のものであっても、恐らく差止請求権を制限しなければいけないような特許は多く存在すると思います。 1つはスタンダードエッセンシャル特許であり、これに関してはFRANDが出ていようが出ていまいが、万人が使わないとビジネスはできないため、差止請求権は制限すべきだと思っています。 さらに、それを何かに利用したり適用しただけという特許についても、ある程度差止請求権の制限をすべきだと思っています。 また、PAE(パテントトロール)が権利行使しようとしたとき場合には、差止めは彼らの目的ではないため、これは損害賠償額の決定の方に集中すべきであると考えます。 また、一方では、日本の損害賠償額が低くただ乗りを許すという議論はさておき、差止制限を解除するための例外規定のようなものを幾つか考えられなければいけないと思っています。新興国の中には、交渉する気がまるでない企業があり、とにかく使っていたとしても「使っていない」と主張を続け、理由を聞くと、社長がそう言えと言っている等の話も聞きます。このような企業はライセンスをとる意思がまるでありません。したがって、このような不誠実な交渉をする会社に対する差止請求権の行使の制限は解除すべきだと思います。極端な例を出しましたが、それに近い交渉をする企業も存在します。 例えば、電機、IT業界では、標準特許を沢山使ってものを出しますが、標準特許を出した日本の会社よりもはるかに安い値段、また、自分たちも利益が出ない値段で製品を市場に出し、元々技術開発した会社を排斥し、独占状態にした後に値段を上げていく企業も見受けられます。そのため、その場合には差止請求権というものをある程度強く認め、適正な損害賠償額に導くべきであると思います。 我々企業にとっては、国際標準の必須特許やその関連特許を、新興国企業やパテントトロールが買い、日本の法制度が強くなったことを背景に、訴えられるリスクを強く意識しています。そのため差止請求権の制限については、これから考えなければいけません。法制度で考えるのか、裁判所でそのような認識を持っていただくのかというのは、別問題としてあると思いますが、その点だけ一言加えたいと思います。 ○渡部座長 ありがとうございます。 荒井委員。 ○荒井委員 ちょっとだけ追加させていただきます。国全体のシステムを考えるという意味は、一生懸命企業の方も国も一杯金を入れて研究開発を進めている。大学もやっている。それで特許をとるということは、会社の中で、一度みんなで集まって、知財部でも相当議論して、そして弁理士にも頼んで出願する。特許庁できちんと審査して、特許になる。年間十数万件特許になって、そのうち100件ぐらい訴訟で訴えたら、前は半分無効になった。これは国全体で何をやっているのかと疑問が出ます。今は27%まで下がってきていますが、みんなでそこまで大変なエネルギーを使ってやっと取った特許の中で、自信があるから裁判に訴えるわけですね。これなら勝てると思って訴える。それでもこれしか勝てないというのは、特許庁が悪いのか、裁判所が悪いか、国としてはシステムが機能していないのではないかという危機感を持った方がいいと思う。 それからもう一点は、もちろん長澤さんがおっしゃったみたいに、これは原告になる場合と被告になる場合には、立場はすっかり違いますから、それのバランスはよく考える必要があるというのは全く賛成です。 それから、もう一点。調査官が関与しているというのは、昔から関与していたので、法律改正をしたのは、法廷で質問できるようにしたわけです。それが使われていない。 調査官は前から引き続いて働いている。しかし、今度は堂々と法廷で技術論争をするために調査官に質問権を与えた。それから弁理士の先生方もあれだけ試験を受けて、付記弁理士制度を作ったにもかかわらず、誰も法定で質問したり意見を出していない。もちろん書類は作っているのです。 だから、法律の詳しい人も技術の詳しい人もみんなでこの問題をやろうとした10年前のあの努力が生きていないことを考えて、その上で国全体のシステムを良くしていくということが必要だと思います。 以上です。 ○渡部座長 では最後で大丈夫ですか。 ○前田委員 ブリヂストンの実情の場合をお話しします。国内のタイヤ会社は、もう数が6社とか決まっていますので、長澤さんがおっしゃいましたように、弊社は国内では、基本的にクロスライセンスを行うようにして、余り争いごとにならないようにしているのが現状です。今、現実に国内での訴訟で特に言及すべきところはないのですけれども、現在、主に中国では、常に3つぐらい訴訟を起こしています。世界最大手の弊社のトレッドパターンとか、ブリヂストンのマークを模倣されたりということが常に起きていますので、必ず見つけては警告後、訴訟提起するという作業をしています。 訴訟費用に満たないようなものしか取れないのも覚悟の上です。タイヤは人の命を預かっていますので、安全が何よりも大事なので、元が取れないのを覚悟で訴訟しているというのが現状ですね。 今後、日本でどんどん海外の安いタイヤの販売が増え、模倣品等、いろいろなものが出てきたときに、先ほど荒井先生がおっしゃったように、損害賠償が余りにも少ないと、やればやるだけ損していくというのでは切ない状況になっていくと思います。是非その辺は改善してもらいたいなというのは思っています。 ○渡部座長 ありがとうございました。 時間も来ておりますので、次のアジェンダに移らせていただきたいと存じます。 それでは、次は、特許権等の適切な付与等について、議論を行わせていただきます。 このアジェンダについて、特許庁の取組の説明をお願いいたします。 ○岩谷特許庁総務課企画調査官 特許庁総務課の岩谷です。よろしくお願いします。 「審査の質の向上に向けた取組」ということで御紹介したいと思います。 資料の1ページ目ですが、まず、我々が置かれている状況なのですが、御案内のとおり、審査官1人当たりの処理件数、欧州、米国と比べても数倍という中で、それでも審査官は、品質向上に向けてかなり努力していると我々は自負しております。 アンケート調査等を見ましても、他の例えば欧州特許庁、米国特許庁と比べましても、多くの項目においては、高い評価をいただいているというところでございます。 ただ、一方で、拒絶理由の通知の記載とか、先行技術調査、特に残念ながら外国文献等についての調査が少し甘いというような声もいただいているところでございます。 これに対して2ページ目ですが、我々、3本柱の取組を、今、進めております。 1つは「品質ポリシー・品質マニュアルの策定」。要するに、品質向上のために誰が何をやるかという責任を明確化する。 2番目に、それをしっかり体制を強化して、品質管理をしていくと。 3番目は、外部の目から客観的に我々のやっていることが正しいのだという評価をいただくという3本柱でやっております。 次の3ページ目ですが、現在の品質管理の体制の方を簡単に御紹介したいと思います。 品質は、審査部の中に、調整課、品質管理室、各部の審査長単位、それからもう一つは特許庁内での品質管理委員会あるいは品質管理官というものを置きまして、この3者でいわゆるPDCAサイクルを回すような構造となっております。 具体的には、調整課、品質管理室で品質管理の企画立案をし、それを各審査長単位が実施し、品質管理委員会あるいは品質管理官がサンプルチェックするという体制をとっております。 審査の品質管理のプロセスなのですが、3ページの右側の図になっております。 審査の各プロセスにおきまして、所要の品質管理を実施しております。ちょっとここはまた後で御紹介したいと思います。 4ページ目なのですが、具体的にどういう品質向上の取組を行っているかというところですが、1つは品質管理体制の充実ということで、品質管理官によるサンプルチェックです。これは、要は我々の品質に対しての監査というような意味合いがございます。 それからもう一つが、日常的な品質管理の充実ということで、これは審査官同士の協議あるいは管理職を交えた協議ということで、審査官は審査をしていますが、必ず皆さん一人よがりにならないように、審査官同士のばらつきを抑えるということが主眼の取組となっております。 また、ちょっとここでは明記されておりませんが、審査長によって全件、審査官の起案をチェックするという体制をとっておりますので、その意味でも、審査官同士のばらつきを防止しております。 それから3番目、質の現状把握ですが、これは端的に言いまして、ユーザーアンケートをとっております。 それから4番目、外国文献調査の充実。 これも先ほど我々ユーザーアンケートの結果、問題が見えている具体的なところでございますので、システム開発等を通じて、外国文献サーチ、検索の充実というものを図っております。 それから、最後になりますが、ユーザーニーズを踏まえまして審査基準を見直すとか、あるいは出願人とより綿密なコンタクト、面接審査などを行うというような取組を行っております。 それから、今日は割愛いたしますが、5ページ目、この取組というのは、基本的に意匠・商標も同様の取組を行っております。 それから、最後6ページ目のスライドですが、品質管理小委員会というものを今般設置させていただいております。3本柱の、外部からの客観的評価という意味になります。 品質管理小委員会においては、特許庁の品質の管理体制あるいは管理の状況について、具体的に評価をしていただき、その評価を通じて、品質管理の改善点の提言というものをしていただこうと思っております。それを特許庁の品質管理に関する施策に反映ということで、先ほど紹介しました内部でのPDCAサイクルに加えて、品質管理小委員会による外部からのPDCAサイクルというものも構築した次第でございます。 スケジュール等は、ここの下の方に書いてあるとおりでございます。 品質については以上です。 ○渡部座長 ありがとうございました。 それでは、この品質について。 荒井委員、どうぞ。 ○荒井委員 先ほどの資料の1ページ目、資料8の1ページ目の1番。とにかく、特許庁がしっかり審査と審判をやるのが原点だと思います。今、御説明がありましたように、非常に取り組んでおられることは、非常に評価いたしますが、なおやはり世間の期待に対して不十分ではないかということで、ますます頑張ってほしいという意味で申し上げたい。@はシステムをいろいろと作っても、実際にやっている人、問題の審査官がいるというのは客観的な事実です。全ての組織にはそういう人がいるわけですので、そういう人に当たった人は不幸だというのではなくて、そういう問題を排除してほしいということだと思います。 いろいろな弁理士事務所に聞いてみますと、5%ぐらいいるのではないかというようなことも言われている。他の人に聞くと、大体それは日本中の組織の平均ですということも言っているわけですから、おかしくはないのです。あとはいかにそれを防ぐかというのがマネジメントだと思うのです。Bにありますが、先ほどの御説明で、サンプル調査をしているというのですが、普通の会社は出荷前検査を全品やります。サンプルではなくて全部やっていただきたい。自信を持って世間に送り出す、そういう気持ちが大事ではないかと思います。 出荷前検査を全品やるのが普通の組織ではないかと思います。 それからCに書いたのは、いろいろな小委員会を作ったりしていただくのは結構ですが、システムの議論ではなくて、実際に審査に当たった人があの審査官と幾ら話してもだめだというときには、問題審査官を排除できるような形をやってほしいということをお願いしたいと思います。 それからEに審査基準の見直しがあります。これは各部でばらつきがあるとか、分野にばらつきがあるというのはみんな言っているわけですから、客観的に信頼性が持てるように良く作ってほしい。できるものなら、それをきちんと省令にして、根拠のあるものにして、みんなが納得する。そしていつもアップデートにしていくという取組が必要ではないかと思います。 それから、Fは「世界最速の特許審査」という議論です。世界に発信するという観点からすれば、出願時点から見て最速でなければ意味はない。他の国は出願時点から計算しているのに、日本だけは36カ月後の審査請求時点から計算して速いと言っても、世界に発信できないわけです。出願時点から見て、良くて速いというのが目標だと思いますので、是非そういう方向へ計算を変えていただきたいとお願いいたします。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございます。 長澤委員、どうぞ。 ○長澤委員 先ほどFA11の話をしましたが、それとは別に、日本は、特に特許法1条の原則に従って、安定した特許のレベルが必要だと思っています。 それは新興国がやたらに改良技術でたくさん特許をとれないレベルであって、アメリカのソフトウェア関連特許が容易に通ってしまうような審査基準にはしてほしくありません。 ただ、日本の企業も実は画期的な発明は苦手であると考えられ、恥ずかしい話ですが、そこそこの適正なレベルというのが非常に望まれているところです。 日本の企業というのは、改良技術が非常に得意であります。それもものづくりが非常に得意なので、ものづくりに関連する部分について、特許がとりやすいと良いと考えます。しかしながら、それ以前の単なるコンセプト的なアイデアや、誰でも出願できるような投資を伴わないアイデアようなものは、特許を付与しない、もしくは付与したとしても先ほど申し上げた権利の制限があり、結果として日本が有利になるようにしてほしいと思っています。 また、アメリカがソフトウェアの特許を次々と特許にしたのは、明らかに国策であり、その時点では、ソフトウェアというのはアメリカの唯一の日本に勝てる武器だったと思います。軍事産業から発展したソフトウェア、あるいは宇宙産業から発展したソフトウェアについては、当然それを保護したいと考えたでしょう。ところが、プロパテント政策下に、ビジネスモデルまで特許にしていたのが、今度はAlice事件により、そのようなビジネスモデルは特許にならなくなってきました。それは、中国における多数の出願を見ているからではないかと思われ、国策が如実に出ています。 私も実は品質管理小委員会の委員もさせていただいていますが、最初は登録すべき進歩性のレベルをどう考えるのかという議論をするのだと思って張り切っていたのですが、サンプルの数等の手続についての議論になってしまいました。そのサンプル数に関しても少ないと思いますが、時間が足りないのではないかと思います。 資料を見させていただいても、審査官の方々はとても努力をされていて、非常に短い時間で一生懸命うまく検索式を作って調査をして、拒絶理由を出していただいています。そういう意味では、他の国の審査官よりは、日本の審査官は、はるかに優れていると思います。 しかし、他の国より優れていれば良いということだけでなく、この国の国益になるには、より厳しい安定性というものが必要であると考えます。先ほど荒井委員がおっしゃったような、少し変な審査官は勘弁していただきたいのですが、かなり完璧を期さなければいけないのではないかと思います。そうしなければ国益につながらないのではないかと思います。平副大臣もいらっしゃいますが、私は、審査官の数が少し足りないのではないかという気持ちは持っております。 また、公開制度の廃止というのが今回の議題に出ていたかと思いますけれどが、これはちょっと勘弁してほしいと思っています。 なぜならば、公開したから営業秘密を持っていかれるというような話だと思うのですが、そういう持っていかれて困るような営業秘密を含む特許は元々出願しません。更に言うと、逆に公開制度を廃止することによって、何が起こるかというと、結局は我々が秘匿するか、あるいは新興国企業が秘匿するか、いずれの場合も考えられるとはいえ、公知文献化できなくなります。公開制度の1つの効果としては、全世界の公知文献にすることであるため、例えばどこかの国で訴えられた場合には、いや、以前からこういう文献が公開されているでしょうという議論ができます。 グローバルで先使用権というのは、認められておらず、国によっては国内の先使用権しか認めないものがある以上は、公開制度というのは大事だと思っています。 また、選択をして公開するものとしないものというアメリカ式も考えられるのですが、これも現時点では採用は慎重に考えなければならないと思います。日本で製品として販売したものは、他の国からも見ることができます。そのように、先に販売や使用をしている製品を見て、サブマリン特許を他の国に出されてしまうのは、非常にリスクが大きいと今のところは考えています。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございました。 ほかいかがでしょうか。 相澤委員、どうぞ。 ○相澤委員 審査官1人当たりの処理件数を見ると、国際比較ですごくよく働いています。審査のばらつきは諸外国に比べる小さいと思います。 これを継続的にしていくことは重要であり、より早くするという要望もないこともあり、これ以上早くする必要はないと思います。 それから、レベルについては、これは国際的なバランスをとらなければいけないので、ガラパゴスになっては困ります。 現在の制度は、大方から見るとうまくいっているというのではないかと思います。 これからも、問題点を改善し、進めていくことが好ましいと思います。 したがいまして、審査については、制度を大きく変更する必要はないと思います。 なお、出願公開については、特許法第29条の2は出願公開制度を前提にできています。出願公開がなくなると、後願を先に審査することにより大きな問題が生じます。先行技術として公開をしていくということにより、陳腐化された技術が新興国、発展途上国で特許化されることを避けることもできます。PCTによる国際的な枠組みでもあり、また、EPAなどで、各国と出願公開を約束していることもあり、公開制度は維持すべきです。 ○渡部座長 ありがとうございます。 それでは、前田委員、お願いします。 ○前田委員 審査官の方についてですが、タイヤの分野が違うグループに移ったときに、理解していただくのがとても大変で、まとめ審査をいう制度を使わせていただいたときに、非常に助かった経験があります。 まとめ審査ですと、材料からトレッドパターンに至るまで、いろいろ理解をしていただくために、長時間かけて御説明します。 そうしますと、審査官の方がタイヤの全体像を理解できるようになりますので、次から出願するときも分かるようになっていただいています。ある意味、審査官を教育しているといったら申しわけないのですけれども、まとめ審査を利用することで、その分野の人たちにタイヤの基礎知識を付けていただくというようなことをして、分かっていただくということをしたことがあります。 どうしても特殊な分野は、見たことがなかったりすると、イメージがつかめないのは仕方がないと思います。弊社もタイヤ業界最大手ということもありますので、理解をしていただき、正しく特許をちゃんと付与していただきたいなと思って、そのような努力をしています。 審査官の方も、積極的にいろいろ質問してくださるので、私個人的には、審査官の質という意味では、随分良くなっているのではないかなとは思っています。 あと公開のところは、長澤さんもおっしゃいましたように、会社の中で自分たち独自にどれを秘匿して、どれをあえて公開にしようかというのは、相当選定しています。サブマリン特許ではないですけれども、公開にならなくなるというのは、産業界の人間は望んでないのではないかなと思っています。 ○渡部座長 ありがとうございます。 ほかいかがでしょうか。 奥山委員、どうぞ。 ○奥山委員 1点だけ。長澤委員の方からも触れられたのですが、審査官の人数で、これも再三議論をしましたし、特許庁の方でも、御苦労をされて、任期付審査官という形で500名ほどの審査官を増やすという試みもされていますし、またその審査官の数よりも多いサーチャーを使って、審査の効率化を図っているということで、いろいろな法律のあるいは政策上の制約の上で、御苦労をされているのは分かるわけですが、やはり、審査官の数は任期付審査官という1つの方便ではあるのだろうと思うのですが、そういったものではなくて、やはり定常的にきちんとした人数を確保していただけるような施策が必要かと思います。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございます。 ほかでいかがでしょうか。吉沢参考人はよろしいですか。 ○吉沢参考人 はい。 ○渡部座長 いかがですか。 2つ目のアジェンダは、大体そんなところでございますが、全体を通じて何か言い残されていることですとか、2つの課題にまたがることですとか、もしあればいただければと思います。 よろしいでしょうか。 ○横尾局長 最初の点と関わると思うので、荒井委員のペーパーの1のEの「審査基準を省令にする」ということで、今、その審査基準だから、ある種の公定力がないということだろうと思うのですけれども、省令にすれば、省令なり、その上のレベルにすれば、ある種の裁判規範化するという御趣旨ではないかと思うのですが、それは正に最初の点とも関わる論点なので、これはちょっとここで即答できないかもしれませんけれども、これについてはどうか特許庁内からお聞かせいただきたいと思います。 ○澤井特許庁調整課長 お答えいたします。 審査基準につきましては、現在、産業構造審議会の下にあります特許制度小委員会の下に審査基準専門委員会WGというものを設けまして、広く産業界並びに弁護士、弁理士のユーザーの皆様と議論をさせていただいて、できる限り公定力のあるような皆様に御理解いただけるような、またしっかりと尊重されるようなものにすべく、議論をさせていただいております。 省令化、政令化につきましては、直ちに答えは用意はしておりませんが、今、私たちが進めておりますのは、あと1年ほどかけまして、抜本的に審査基準の見直しを行うというものであります。これは皆様も御案内かと思いますし、また、荒井委員からの御指摘がありましたように、審査基準というのは、大変細かく分かりにくい言葉で書いております。これを分かりやすい言葉で広くユーザーの皆様が、そしてこれを英訳して、諸外国の皆様に見てもらえるような審査基準となるように、抜本的に見直しをし、先ほど申し上げました審議会の審査基準専門委員会WGの方で喧々諤々の議論を進めていただいております。 是非、来年の7月ぐらいには、これをまとめようと思っておりますので、是非そちらの方も見ていただければと存じます。 ○渡部座長 相澤委員。 ○相澤委員 審査基準を法令にするという方法のほかに、法律の明確さを増すという観点から、基本的な部分を法令にするという考え方があると思います。 例えば、発明、進歩性の基本的な考え方を法令にしていくことも考えられます。 コンピューター・ソフトウェアを保護の対象とすることを明確にするために、特許法第2条第3項第1号に、物にはプログラムが入るという改正をした。コンピューター・ソフトウェアは発明に含まれると考えないとこの規定はできないので、この解釈になります。しかしながら、明確ではないという側面がありますので、国民の広く理解していただくということから、基本的なところは法令にしていくという考え方はあり得ると思います。全てを法令にするのは機動的な対処を阻害するという面がありますが、基本的なところを明確にするということも考えても良いかと思います。 ○渡部座長 荒井委員、お願いします。 ○荒井委員 こういう特許のシステムを評価するという意味は、技術は進歩して、大変変わっているわけですし、それから、ビジネスモデルも随分変わっています。国際競争も非常に変わってきている。日本の置かれている状況も戦後のキャッチアップの段階から、今や大きく変わってきている。いろいろな製品にも何千何万と特許を使うように変わってきている。こういうシステムについては、いつも弾力的に昔は10年ひと昔と言ったのですけれども、3年ひと昔ぐらいな気持ちで変えていく必要があると思うのです。 この審査基準なども、昔からのそのまま内部でやっているものを使っている。スポーツと一緒で、ルールが変わるなら、みんなが分かって、選手も理解し、アンパイヤも理解して、社会も理解しているような仕組みに変えていかなければいけないと思います。 そういう意味での透明性と、それから既判力で裁判所に行っても、一々特許法から議論するのではなくて、ここから先は裁判所で議論するけれども、それより前はこうやって決まっていますとした方が社会にとっていい。 もう一点は、日本はプロ集団として、特許庁も真剣にやっているということで、高い評価がある。会社の知財部の人も非常に育ってきています。だから、知財部の人々、弁理士が協力してプロと出願する。更に特許庁で審査している。こういうことが生きるような仕組みにする。それが特許庁に行ったら、3分の2しか合格率がないというのは残念です。知財部とか弁理士がもっともっと頑張っていただきたい。裁判所に行ったら、自信があって訴えても半分しか有効性が保てないというのも、どこかシステムがおかしい。そんな目で見て、この機会にこういうテーマを上げていただいたので、この機会に普通の常識からしたら、これだけのプロ集団がやって、同じ基準と同じデータベースを持っていれば、相当審査の合格率が高くなり、勝訴率が高くなるというような、有効が維持されるような仕組みにみんなで力を合わせてやっていくということが必要ではないかと思います。そういう観点からこういうものも昔のことにこだわらず、とらわれずに是非今回をきっかけに改革をしていただきたいという希望でございます。 ○渡部座長 ありがとうございました。 先ほど審査基準については特許庁さんからコメントがありましたが、他の件について、今、コメントされることはございますでしょうか。 ○澤井特許庁調整課長 では、簡単に各委員からいただきました御意見につきまして、御回答申し上げます。 荒井委員からございました問題ある審査官を減らすべき。御指摘ごもっともです。そういう人間がいるとすると、それを是正するために、まず、気付かなければいけないということで、私たち、今、企業や法律事務所、特許事務所のヒアリングを進めております。 また、先週の木曜日に特許庁のホームページに目安箱のような具体的な事例と問題について、是非教えてくださいというものを立ち上げました。 早速いただいておりまして、それは事実そのとおりだなと思いまして、反省をしているところでございますので、是非御利用いただければと存じます。 また、長澤委員、相澤委員、奥山委員から頂戴いたしました審査官に対するお褒めの言葉、深く感謝申し上げます。加えて、体制強化の必要性につきましては、私たちも大変よく感じているところでございますので、来年度に向けて増員要求も進めております。 是非こうしたことにつきましても、引き続き御支援を賜ればと存じます。 また、相澤委員から頂戴いたしました国際的なレベルでの視点、私たちは諸外国との審査官協議や実際の審査官を他国の特許庁の建物の中にインハウスとして入れて、我が国の審査基準などを海外に輸出する。そうしたことにも積極的に取り組んでおります。 前田委員からございましたまとめ審査、積極的に更に推進して、更に面接につきましても、もう少し、みんなが希望したら、必ず会えるような形にも先般ガイドラインを変えました。 是非御利用いただければと存じます。 以上でございます。 ○渡部座長 ありがとうございました。 全体を通じて局長はよろしいですか。 ○横尾局長 もう一個いいですか。 渡部座長が何も中身の御意見を言わないので、振りたいと思うのですが、以前、今の審査官を増やすというのは、この知財本部の当初の最大の目的の1つで、実績が上がったわけです。それでも少ないとなると、審査のやり方で工夫ができないかと。私も、実際、どういう審査をしているのか分からないのですけれども、ある種形式要件で外れるようなものは、外すとか、もうちょっと単純処理と実質審査を分けるようなやり方、単純処理のところをもしかしたら、渡部先生が別のあるセミナーでおっしゃっていたそのコンピューターで機械化処理をするような工夫というものができると、人の手にかかるものはより実質的な審査をして、先ほど長澤委員が言ったこととも場合によっては結びつくのかもしれませんが、本当に日本の国益に重要なものに実質の審査を集中し、そうでないものは、そのかなり機械的に処理するという工夫の余地があるのかどうか、渡部先生の御意見も出していただいた上で特許庁の意見を聞きたいなと思うのです。 ○渡部座長 先ほどの審査と質の議論を私も参加させていただいていますけれども、プロセスの評価だけではなくて、やはり客観的に本当に審査の質がどうかというメジャーを入れるべきではないかと。これはどうもアメリカ特許庁が入れられたということで、調査されていると思いますので、そこからやはり少し今のような機械処理の考え方がどれぐらいフィージブルかということを御検討いただくことはあり得るかなと思います。 ちなみに、実は、最近、先ほど前半の議論であった認容額ですけれども、米国の論文でこれは恐らくパテントトロールのせいだと思いますが、認容額がどのように決まっているかという実証分析が始まっておりまして、幾つか論文が出てきております。 その結果から、認容額の推定ができておりまして、それとその日本のデータを合わせてみますと、必ずしも日米の認容額の差も故意侵害の懲罰的賠償のせいでもないようですね。だから米国は、本質的に価値を高く算定するシステムになっているということではないかと思うのです。 いずれにしても、こういうデータの取扱いにおいては、単純なデータが出てくると、何かいろいろと御意見が出ると思うのですが、もう少し突っ込んだ評価をするべきではないか。それから、今のようにその中から物差しに使えるものもあるのではないかということは考えておりますが、ここで御披露するつもりはございませんでしたので、ちょっとどう書くかはあれですが。 よろしいでしょうか。 平副大臣、もし。 ○平副大臣 ありがとうございました。 政務は大体冒頭挨拶して出て行ってしまうというのがいつものパターンなのですが、一応、私はできるだけ最初から最後までいようと思っています。 最初から最後までいると、やはり政務でしか動かせないところが結構あって、地方分権や国家戦略特区などはそれで成果が出ているのだと思います。 今日は本当に皆さんの議論を聞いて大変勉強になりました。それなりのクオリティーを持って特許が与えられたにもかかわらず、裁判に負けてしまう。また、勝つべくして勝っても、弁理士さんの費用しか出ない。これは完全に問題なのだとよく理解しました。 その上で、よくあるのは、やはりちゃんと政府の側がこれを受けとめて、国家戦略の名に値するところまで、ちゃんと政府の方で取りまとめないといけないと思うのです。いつも、有識者の皆さんの意見をもらって、それで本当に国家戦略なのかと、成長戦略なのかというところまで消化できていないような気がしてならないので、今日の議論、また続きがあるように承知をしておりますが、しっかりと政府側が受けとめて、日本は余りのんびりやっている余裕はありませんので、かなりしたたかにやっていかなければいけないのだと思っておりますので、政府側はそれが本当に国家戦略の名に値するのかというところまでよく意識をしてまとめの作業を一緒にやりたいと思います。 今日はありがとうございました。 ○渡部座長 副大臣、ありがとうございました。 局長、最後に何か取りまとめを。 ○横尾局長 今日の特に最初のテーマで、杉村委員がペーパーだったのであれなのですが、宮川委員と似た意見だと思います。したがって、この問題は、正に勝つ側に立つか、負ける側に立つかという、訴える側か訴えられる側に立つかによっていろいろ変わってくる大変難しいテーマだと思います。今、平副大臣からもありましたとおり、国としてどうあるかというのを裁判の問題も含めますとなかなか難しいのですが、やはり知財本部は、正に国としてどうあるべきかを考える場でもありますので、この点は特に専門家の方も入れた突っ込んだ検討を更にしていく必要があるのではないかなと思った次第です。 それから、特に中小企業の問題が出ました。次回は中小企業のテーマもありますので、中小企業が相対的に不利な状況になるのをどう是正をするかという問題の1つとしてこの訴訟のテーマもあると思いますので、この点も次回引き続き議論いただければと思います。 ○渡部座長 局長、ありがとうございました。 それでは、最後に、次回以降の会合について、事務局から御説明いただけますでしょうか。 ○北村参事官 次回及び次々回の委員会は、11月26日水曜日の午前と午後にそれぞれ1回ずつ開催いたします。 午前中は午前10時からコンテンツ分野の会合、午後は午後1時から産業財産権分野の会合を開催させていただきます。 以上です。 ○渡部座長 ありがとうございます。 本日は、皆さん御多忙中のところ、ありがとうございました。 これで閉会とさせていただきます。 |