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 トップ会議等一覧知的財産戦略本部権利保護基盤の強化に関する専門調査会 [印刷用(PDF)]


第3回 権利保護基盤の強化に関する専門調査会 議事録


1.日 時:15年11月28日(金)10:00〜12:17
2.場 所:知的財産戦略推進事務局 会議室
3.出席者:
【委員】阿部会長、伊藤委員、久保利委員、下坂委員、高林委員、竹田委員、中川委員、野間口委員、山田委員
【事務局】荒井事務局長
4.議事
(1)開会
(2)法科大学院の状況について
・参考人からの報告
 文部科学省 小松親次郎主任大学改革官
(3)「知的財産高等裁判所の創設」について
(4)「特許審査迅速化法(仮称)」について
・参考人からの意見聴取
 特許庁 小野新次郎特許技監
 特許庁 迎陽一総務部長
(5)閉会


○阿部会長 時間になりましたので始めさせていただきます。
 本日は、権利保護基盤の強化に関する専門調査会の第3回会合でございます。これからまた難しい御議論をいただくことになりますが、よろしくお願いいたします。
 最初に、本日の進行につきまして、事務局長から簡単に御説明いただきたいと思います。

○荒井事務局長 本日の議事の進め方について御説明いたします。
 本日の議題は、議事次第にありますとおり、3つの議題を予定しております。最初の議題といたしまして、「法科大学院の状況について」を取り上げております。委員の皆様方は既に御存知のとおり、我が国でも来年度から法科大学院、いわゆるロースクールが開校されることになりましたが、昨日27日付でこの法科大学院の設置が認可されました。本専門調査会の検討課題には、知的財産に関する専門人材の育成も含まれておりますし、現在御議論いただいております知的財産高等裁判所における技術専門性の確保という観点から、法科大学院に期待するところが大きいわけでございます。そこで、本日はまず、法科大学院認可の状況について御説明していただき、その後で、知的財産高等裁判所と特許審査迅速化法の議論をしていただきたいと考えております。

○阿部会長 このようなプログラムで今日は御議論をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 最初に、法科大学院の認可状況について、文科省から御報告をいただきたいと思います。参考人として、文科省の小松親次郎主任大学改革官においでいただいております。
 御説明のほど、よろしくお願いします。

○小松主任大学改革官 御紹介いただきました、文部科学省で法科大学院等を担当いたしております小松でございます。御報告させていただきます。
 早速でございますが、お手元に資料1として、今回の法科大学院の設置認可一覧を付けてございます。6月末に申請を受け付けまして、11月20日に審議会から文部科学大臣に認可の答申がございまして、それに従って、昨日、文部科学大臣が認可の手続きを行い、各大学に正式の認可証をお渡しすることになったわけでございます。
 2枚目の一番最後を見ていただきますと、合計66大学、入学定員にいたしまして 5,430人となっております。当初の申請が72大学ございましたので、今回認可になりましたのが66大学で、72大学で 5,950人ほどの入学定員の規模で認可申請があったわけですが、現時点で認可をされたものは 5,430人でございます。
 認可にならなかった6大学のうち2大学は保留ということで審査が続きます。これらが合計しますと 175人の定員がございますので、仮にこれがさらに追加で認可になった場合には、おおむね 5,600人になるかと考えます。
 知的財産の関係につきましては、これは極めて膨大な量ですので、私どももすべての科目、教員等について、現時点で把握できているわけではございませんけれども、特色を申し上げますと、まず、国公私にわたりましてすべての法科大学院で知的財産権関係の授業科目は何らかの形で設けられております。一番少ないところでは1科目というところもございますし、10単位以上にのぼって一定のまとまりを持っているようなところもございます。それに従いまして、大学によっては、知的財産法全体というだけではなくて、特許法とか著作権法、工業所有権法と細分化されているものもございます。
 大学教員につきましては、研究者の方のほかに弁護士、弁理士、官庁関係者、企業法務の担当などが参画されておられます。大学によって違いますので、科目の設け方によっては大学の先生だけとか、そういうものもありますが、トータルとしてはそういうことになります。知的財産の関係の教育、あるいは、専門的な大学院レベルの教育も、法科大学院だけで行われるわけではございませんけれども、いずれにいたしましても、私どもとしては、非常に重要な役割を果たすものと思いますので、来年4月から出発する法科大学院において、知的財産に強い法曹人材を目指すということで、ここでもいろいろと御議論をいただき、また、大学でも努力が実を結ぶように支援をしてまいりたいと考えております。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 何か御質問がありますか。
 委員の先生方も何らの形で御関係がある方、あるいは、お声がかかっている方が少なくないように思います。

○久保利委員 要望だけ1点。
 久保利でございます。本当に御苦労さまでございます。これから大変な時期が来るわけですけれども、各大学院が司法試験のことをやたらと気にしておりまして、特に選択科目の中に知財科目がどういう位置付けで入るかに神経をとがらせているわけです。もちろん、そういう態度が正しいとは思いませんけれども、学生の身になってみると、司法試験に受からないと弁護士の資格がないことになので、選択科目のつくり方、選び方はなかなか難しいと思いますが、ひとつこのあたりは文科省でも十分御配慮をいただいて、直接的には法務省の管轄かもしれませんけれども、こちらの教育が司法試験によって歪められることがないように、文科大臣としてもぜひ御尽力をお願いしたいということを、大宮法科大学院大学の専任教授の一人としてお願いしたいと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。
 それでは、どうもお忙しいところをおいでいただきまして、ありがとうございました。またよろしくお願いします。

○小松主任大学改革官 ありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。

○阿部会長 それでは、継続課題でございます知財高裁の創設についての意見交換に入らせていただきます。
 初めに、これまでの議論を踏まえて事務局で作業をしていただきました。その資料につきまして、事務局長から簡単に説明をいただきたいと思います。

○荒井事務局長 それでは、説明させていただきます。
 資料2「知的財産高等裁判所の創設について(案)」は、前回の御議論を基に修正を行ったものでございます。
 まず、1ページの「目次」を御覧いただきたいと思います。知的財産高等裁判所の創設の必要性と意義につきまして、項目の1から6に整理してございます。項目7と8は組織のあり方及び裁判管轄についてそれぞれ整理してございます。
 2ページには、知財重視の国家的意思表示の必要性と、それによる抑止効果の重要性を示しております。
 3ページ以下はその背景でございまして、3ページは模倣品・海賊版対策が深刻化してきていること。
 4ページは、アメリカのCAFCの例。
 5ページは、世界の知的財産に関する裁判所設立の流れを示しております。
 6ページには、知財の紛争のスピード解決の重要性を示しております。紛争のスピード解決が重要であり、裁判所の判断の早期統一のために知財高裁が必要であること。
 7ページは、技術専門性の対応についてであります。
 8ページも、特許訴訟は技術面での論争が中心であること。こういうことを書いてございまして、このためには裁判所の体制整備が必要であることが記載してございます。
 なお、9ページにございますが、技術専門性の確保の観点から議論のありました技術判事の問題につきましては、9ページの注意書きにおきまして、知財高裁の創設とは切り離し、別途検討と記してございます。
 10ページでは、知財重視の独立した司法行政の確立が必要であること。人事につきましては、知財高裁による知財重視のキャリアパス等、人事ローテーションの確立が、予算につきましては、知財重視の独立した執行権限の確保が、訴訟運営につきましては、知財訴訟にふさわしい訴訟運営、手続きの確立が必要である旨記載しております。
 11ページでは、司法アクセスの拡大のために、テレビ会議システムや巡回裁判を活用することを記載してございます。
 12ページには、以上の知財高裁の意義及びメリットを総括して記載したものでございます。
 13ページ以降に、組織のあり方、裁判管轄について整理してございます。まず13ページの「組織のあり方」に関してですが、左側のA案は、知財本部の議論以来念頭に置かれておりました、独立した知的財産高等裁判所を第9番目の高裁として創設する案でございます。右側には、前回、竹田委員から御提案がございました、東京高等裁判所の中に法律上の知的財産高等裁判所を設置する案をT案として記載してございます。
 次に、14ページの「審決取消訴訟、特許権等に関する訴えの裁判管轄」に関してでございます。A案の場合には、関連請求や併合請求も含め、特許権等に関する訴えのすべての地裁の終局判決に対する控訴及び審決取消訴訟を知財高裁が管轄すると整理してございます。T案の場合には、2003年民訴法改正下での東京高裁の管轄と同じでありまして、審決取消訴訟及び特許権等に関する訴えの東京高裁管内の地裁及び大阪地裁の終局判決に対する控訴を知財高裁が管轄すると記載してございます。
 次に、15ページの「著作権等に関する訴えの裁判管轄」に関してでございます。A案、T案ともに、知財高裁の管轄は2003年民訴法改正下での東京高裁の管轄と同じでございます。
 なお、16ページには、知財高裁の規模を御参考として記載してございます。
 次に、資料3に基づいて御説明させていただきます。資料3は、これまでの議論と、ただいま御説明いたしました資料2を踏まえまして、知的財産高等裁判所の創設につきまして、文書の形でとりまとめ案として整理したものでございます。
 1ページから3ページまでは、「創設の必要性とその意義」について記載してございます。4ページ以降には、知財高等裁判所のあり方に関しまして、組織のあり方、司法行政の独立性の確保、裁判管轄・移送・裁判権、司法ニーズへの対応につきまして、先ほど説明いたしました資料2の13ページから15ページのA案とT案との比較を文章の形で整理したものでございます。
 次に、資料4及び資料5に移らせていただきます。資料4及び資料5は、ただいま御説明いたしましたA案及びT案を、法律案要綱の形にしたものでございます。資料5は、竹田委員に提出していただいた資料でございます。
 まず資料4について御説明いたします。資料4の1ページの第一「目的」、第二「裁判所法の一部改正」の左側、「構成」でございますが、「知財高裁は、知財高裁長官及び相当数の判事でこれを構成するものとすること。」と定めてございます。
 2ページには、左から3行目に、司法行政につきましては、「裁判官会議の議によるものとし、知財高裁長官が、これを総括する」と定めてございます。
 3ページの右側から5行目には、「裁判官」に関しまして、「知財高裁長官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命するものとすること。」、「知財高裁長官の任免は、天皇がこれを認証するものとすること。」、「知財高裁の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補するものとすること。」と定めてございます。
 4ページは、「管轄」についてでございます。特許権等に関する訴えについて、地方裁判所が第一審とした終局判決に対する控訴及び著作権等に関する訴えについて、東京高裁管内の地方裁判所が第一審とした終局判決に対する控訴について、知財高裁が裁判管轄を有することを定めてございます。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 資料5につきましては、竹田委員から説明をお願いいたしますが、T案というのは、前回は名前がなかったわけですね。今回出てきましたけれども、これは復習ですが、B案の一つの具体的な形を竹田委員から御提示いただいたと理解して、それでよろしゅうございますね。
 では、竹田委員、お願いいたします。

○竹田委員 それでは、簡単に御説明いたします。
 前回、立法措置によって新たな知財高裁を設置するとともに、現在の司法制度の影響をできるだけ最小限にとどめ、その本質的なあり方と整合するという趣旨で東京高裁内に知財高裁を設置するという案を提示して御説明しました。通常、国会で審議される前は、法律案要綱が提出されるので、それを見習って作成したものがこの資料5でございます。
 読んでいただくと大体わかることですので、要点だけ説明しますと、2ページの第三は、知財高裁が東京高裁の管轄のうちの次の事務を取り扱うことになっています。現在、民事訴訟法で規定されている東京高裁が専属管轄のものが一、二で、三は、東京地裁と東京高裁の管轄内の地方裁判所が一審として成す終局判決に対する控訴事件となっています。この範囲内は、民事訴訟法と現在の規定と全く同じですので、この知財高裁が設立されることによっても制度の連続性と法的安定性を確保することができることになると思っています。
 「注」の部分は、現在の民事訴訟法では、東京高裁の管轄には属しないことになるわけですが、この点についてもなお知財高裁の管轄とする場合には、民事訴訟法でこの部分について東京高裁の管轄に属する旨を法律改正が必要になってきます。その法律改正は極めて小範囲にとどまるものですから、知財高裁の管轄とすることが妥当であるとも考えられますが、この点についてはなお検討する必要があるとしております。
 3ページの第四の「裁判官」。最高裁判所は、知財高裁に勤務する裁判官を定めるものとするということで、具体的な辞令面で言えば、ある裁判官を東京高裁判事に命ずる、知財高裁勤務を命ずるという辞令が出されることになると思います。
 第五は、前回も説明しました、代表となる判事、これは仮名として「代表判事」としておりますが、代表判事を最高裁が命じて、その代表判事は知財高裁の事務を総括することとしております。
 第六は「裁判事務の分配」であり、第七が「司法行政事務」でありまして、前回も申しました知的財産事件の処理に関する人事、予算執行等も含めた司法行政上の権限を独立して行使できることによって技術専門性を確保し、知的財産について豊かな知識、経験を持つ裁判官の育成に寄与することができるように、第七で一、二、三、四の規定を設けることを示しております。
 なお、東京高裁の中にさらに知財高裁を設けることになりますので、東京高裁の裁判官会議との関係をどう処理するかということが問題になると思いますが、これは、この法律の趣旨から言って、東京高裁としては、知財高裁に関する司法行政事務は、すべて裁判官会議の議によって、知財高裁に委任すれば何の問題も起きません。そのことを法律事項とするか、東京高裁の事務処理にゆだねるかという点は、具体的な法律条項をつくるときに検討することだろうと思います。
 ここの考え方は、主として以上のとおりですが、最後の5ページの「注」に書きましたのは、東京高裁内にこのような法律的に根拠付けられた知財高裁をつくるのは、別にこういう独立した法律によることなく、裁判所法や下級裁判所の設置及び管轄区域に関する法律等の改正も考えられますけれども、できるだけA案に近い趣旨を盛り込むという意味では、独立した一つの法律案をつくって、それで知財高裁を施行することが知財高裁設立の意義にかなうのではないかと考えております。
 添付してある資料は、裁判所内裁判所が果たして法律的に可能かという御疑念もあろうかと思いますが、この点は前回も申しましたように、私は法律上の問題はないと思っております。一つの例として、イギリスのSupreme Court Act で、High CourtがPatents Court を設けることが法律自体に規定されている例があるという意味で、参考のために添付したものです。
 なお、最後に、委員各位にぜひとも御理解いただきたいと思っておりますのは、知財高裁は、言うまでもなく、最高裁を中心にした裁判所が運営するわけですし、この知財高裁における事件処理が適正かつ迅速に行われるように協力するのは弁護士が中心です。そして、前回のこの専門調査会で、園尾最高裁行政局長は、東京高裁内に知財高裁を設けることを熱望すると言われています。また、日弁連とか各地裁で、独立したA案のような知財高裁については、批判的な意見が既に意見書等として出されております。
 それだけではなく、今月に開かれました日弁連の知的財産政策推進本部でこの問題について討議いたしまして、議長から、出席した約30名の知財専門の弁護士に意見を1人1人確認した際も、全員がT案に賛成ということでありました。
 このような状況から言いますと、知財高裁が設置されて、それを運用するに当たりましては、裁判所、弁護士会、在野在朝の司法部が一体となってその運営に当たることが可能な状況は、現在できていると私は認識しております。知財高裁の問題は、あくまでも司法部が運営していく問題ですので、行政によって設置の問題を決める場合におきましても、そのような設置について問題があるという意見が司法部内から多々出ている状況において、私が何度も言っている、従来の司法制度の本質にかかわるような知財高裁を設置することになりますと、司法部内に禍根を残すことがあるかということについて懸念するわけです。ぜひとも、委員各位にはその点を御賢察いただきたい。
 以上です。

○阿部会長 ありがとうございました。資料5の御説明に加えて、最近の弁護士会等の状況について御意見をいただきました。
 前回の御議論を思い出しますと、簡単に言えば、A案かB案かということで、A案に御賛成の方、B案のお考えの方ということに大別されて、今回は、B案ではなくT案ということで事務局で整理してもらいましたので、もしよろしければ、A案とT案、あるいは、T案の別のモディフィケーションの方がいいというお考えもあれば、もちろんそれを含めていただいて結構だと思いますが、御議論をいただきたいと思います。
 どなたからでも結構でございます。

○久保利委員 このT案というのは、たぶん竹田先生のTだと思いますけれども、いろいろわかりすく分析をしていただきまして、具体的な私案を出していただいて大変ありがたいと思います。
 ただ、私どもが今この専門調査会で議論している大前提として、この推進計画があるわけです。この推進計画の中では、内外に対し知的財産重視という国家政策を明確にする観点から知的財産高等裁判所の創設について具体的な法案を提出することを目指して、そのあり方を含めて検討を行うという話になっておりました。その観点から2〜3申し上げたいと思います。
 まず、どう見ても、裁判所内裁判所、東京高裁内知財高裁という発想よりは、独立した9番目の、横串を刺す知財高等裁判所の方が、国の姿勢を明確にする、国家政策を明確にするという観点からは一番明解でわかりやすいのではないか。今、竹田先生は、イギリスのパテンツ・コートの例をお出しになりました。確かにそういう例はあると思います。しかし、残念ながら、このパテンツ・コートが世界各国の知財国家戦略の中ですばらしい制度だということで言われているわけではないのではないだろうか。そういう例があるということでは貴重な御教示だと思いますけれども、それが果たして、イギリスの知財国家戦略というものを大々的に売り出す道具になったかというと、どうなのかなという疑問を抱かざるを得ないと考えます。
 それから、竹田先生の今のお話の中で、現実に運用する裁判所と弁護士がそう言っているのだからという話がありましたけれども、まさに司法改革そのものを考えても、裁判所と弁護士がしっかりしないから、そういう司法改革をしなければいけないという話になったわけでありまして、今回の知財戦略の問題についても、やはり権利保護の基盤の問題として言うと、弁護士と裁判所が非常に重たい任務を負っていたにもかかわらず、その果たし方が十分であったのか。
 私がもう一つ兼務しておりますコンテツ専門調査会の方では、コンテンツについてのプロと言える弁護士は10人しかいないという御批判を受けまして、もうちょっといるのではないかという反論をしてきたところではありますけれども、そういう意味から言っても、この知財推進本部の討議で30名の弁護士が全員賛成だったからというお話でしたが、そんなに賛成なら、なぜ弁護士会は、竹田先生よりも前にこういう提案をしなかったのか不思議です。結局、A案に対抗するお考えからT案を御支持されているのかなと。
 本当にT案がいいのであれば、この専門調査会がなくても、日弁連が、あるいは、最高裁が提案してもよかったはずですが、そうはなっていない。常に後追いというのは司法の宿命ですから。運営主体かもしれませんけれども、まな板の上のコイがあれこれ言っているからといって調理人がたじろぐことはないのではないかという感じが、私も弁護士の一人ですけれども、感じるところでございます。
 いずれにしても、知財高裁というのは、予算とか人事の独自性を確保することに大きな眼目があるのであって、どう考えてみても、東京高裁の中の知財高裁というT案では、残念だけれども、その独自性は、現実にどうかという問題よりも、法的に見た姿として、果たして本当に国民の理解を得られるのかどうか。現実にそうなるということであれば、法律上もそのようにした方がいいわけですし、逆に、運用のところでそうならない危険性があるということでは困るという感じがします。
 あと、いろいろ細かい点はあるかもしれませんけれども、せっかくこれだけの専門調査会の中に、様々な学者先生、弁理士さん、実務家、経済界の代表がいらっしゃるわけですから、ここで十分問題点を、前向きに9番目の知財高裁をつくるという方向で議論を進めていくならば、必ずやその隘路は打開できるのではないかと思っておりまして、あまりそういう細かいリーガルの点よりは、根本的な推進計画をいかなる形で実現するかという方向で御議論を進めていただければと思います。
 あえて申し上げました。

○阿部会長 ありがとうございました。
 中川先生、前回は御欠席されましたが、いかがでしょうか。

○中川委員 ちょっと確認させてください。
 今の久保利先生のお話を伺いまして、確認させていただきたいのですが、今日御説明があった資料2「知的財産高等裁判所の創設について(案)」の13ページのAかTかという話ですね。

○阿部会長 はい。

○中川委員 それは要するに、Aをとるとどういういいことがあるか、Tをとるとどういう悪いことがあるかというお話だったと思うのですが、その観点が、その前のページの2ページから12ページあたりまで挙がっているわけですが、2ページから12ページまでのこういう目標を達成するために、13ページのAかTのどちらがよりよいかというお話の組み立てということでよろしいですね。

○阿部会長 はい。

○中川委員 その中で、特に今2点おっしゃられたように思うのですが、一つが2ページの知財重視の国家的意思表示。もう一つが司法行政といいますか、人事・予算の独立。ということで、2ページと10ページの点でA案とT案は差が出てくるというお話であったと伺ったのですが、それでよろしいでしょうか。

○久保利委員 私が申し上げたのはそういう観点です。

○中川委員 2ページは国家意思表明です。これは前回の議論の確認ということになると思うのですが、6ページにスピード解決、7ページに専門性という2点が挙がっています。この点は、別にAでもTでもあまり差はないということでしょうか。

○久保利委員 逆に、審議の点を考えていくと、例えば7ページの技術専門性の対応という部分も影響は出てき得ると。同じようにやることは、制度的にこっちだったらできてこっちはできないということではないと思いますけど、逆に、そういうふうに存分にやるためにはA案の方が優れていると思います。しかし、今の段階の私の発言では、そこまで踏み込まないで、明らかに差がつくところだけ申し上げました。
 したがって、現実の運用として、法律に独立性がうたわれているA案の裁判所と、東京高裁の中に置かれる知財高裁のT案の裁判所と、独立性がどっちが強いかといえばA案の方が強いに決まっているわけですから。T案でもA案と同じように独立性強くやれますという竹田先生のお話で、それはやれるのかもしれない。そのための保証はどこにあるのかという話になると、A案の方が優れているということです。独立性の切り口からはそうなります。

○中川委員 3の問題と専門性の問題は人事の方に収れんするということですね。

○久保利委員 はい。

○中川委員 スピードの方は特に言及はなかったのですが。

○久保利委員 スピードそのものは、私自身としては、どっちがどうなのかと。少なくともA案がT案に劣るとは思いませんけど、T案でもそこそこのスピードでできるかもしれないと思います。

○中川委員 では、論点は1と4といいますか、知財重視の国家的意思表明と人事の独立性ですね。そして、人事の独立性ということは、要するに、裁判官のパフォーマンスが上がるようなことができるかということだと思いますが。
 そういうことであれば、まずメッセージがうまく伝わるか、インパクトはあるか。AとTのどちらが大きいかということですが、前回の議事録をよく拝見させていただいたのですけれども、なぜAならよりインパクトが強いのか、Tが弱いのか、そうではない例もあるのではないかなという気もいたしました。それは宣伝の仕方一つというところを私は感じておりますので、Aだから強い、Tだからやや弱いというのは、何か情緒的なものがあるのかなと。ちょっと言葉がすぎますけど。そういう気がして、もう少しデータが欲しいなという気がします。ここは専門調査会という形でやっておりますので、ほかの様々な裁判制度のあり方から見て、やはり独立させた方がうまくいったというデータがあると説得されやすいのですが、今のところは、Aだからよりよい、Tだからより弱いとも言えないし、しかし、Tが強いとも言えない。つまり全くイーブンという感じがします。データ的に、実証的に何も出てきていないので。
 これは、私が最近たまたま知った例ですけれども、刑事司法の世界で、アメリカのドラッグ・コート(Drug Treatment Court)というものが非常に流行っている。たまたまインターネットで、学習用の教材をつくっていて発見したのですが、そういう裁判所ができたのかと思って調べてみますと、要するに普通の裁判所らしいです。刑事裁判の量刑をするときに、麻薬の乱用についてきちんとしたトリートメントを受けると被告人が約束すれば、日本ではやりませんが、アメリカでは免訴という手続きを裁判官が検察官にとらせる。そういう発想です。日本であればいわば執行猶予みたいなものだと思いますが、そういう新しい手続きを発明したある一人の裁判官がいて、これがうまくいって再犯率が減ったということで一気に有名になったらしいです。日本でも導入しようという話があるらしいですが。これは組織の問題ではなくて、要するに、裁判官のいいパフォーマンスがあったと。なるほど実際に効果が上がる訴訟手続きの工夫をしてくれたということで、それをだれかが「ドラッグ・コート」と呼び始めて、それが一つのキーワードになって広がっていったという仕組みだと思います。
 だから、当たり前の話ですけど、どれだけ実績が上がっているかが一番重要であって、名前をつくったというのでは、恐らく人々は1週間しか覚えてくれないと思うんです。その後どれだけ続くかということになると、やはり実際にいい判決が出ている、あるいは、不必要な争いに裁判所がいつまでも付き合わない、さっさと判決をする。そういう、実質的に意味のある知財訴訟の運用がなされているということが保証されなければ、いくら名前を出してもだめだろうと思います。後が続かないと。
 新しいA案でつくりますといっても、では、何がどう変わっているんですかという実質が説明できないと、逆にインパクトが弱くなるのではないか。実質的に今と変わらないじゃないですかと言われてしまうと、例えば審議の手続きでこういう工夫をして、独立の高裁にしないとうまくできないという説明があるとわかるのですけれども、別にそういうところに踏み込んでいるわけではない。独立にした方が宣伝しやすいということですけど、実際にはそうではない例もありますので、どちらがインパクトがあるかというのは、全くのこしだめ的な予想でありまして、なかなか言えないのではないかというのが、前回の記事録を読んで、どうしてもぬぐえない疑問です。
 国家的意思表明という点からすると、AもTも変わらないという程度にしか、今の私たちの手持ちの資料では結論が出ないのではないかと思いました。
 それから、もう一つの論点であります人事の点ですけれども、これも、Aだからうまくできるかといいますと、結局、最高裁が上にあるわけで、最高裁が人事をするというのは憲法に書いてあることですから、T案のように、つまり間に1人高裁長官がいるのといないのとでは、私は司法行政は全くわかりませんので、説明していただいて、変わるということであれば納得しますけれども、変わるのか、変わらないのかというところも、現場の人あるいは経験者に意見を伺わないとわからないかなと思います。
以上要するに、AもTも、結果的に何が違うのか。達成しようという目標に対して、どちらがよりよく達成できるかということは有意の差がないのではないかという疑問を持って今日は来ました。

○阿部会長 その前に伊藤先生に教えていただきたいのですが、さっきの竹田先生のお話でも、法曹関係の方はA案に対してネガティブな御意見が多いということでしたが、その辺かいつまんで、先生の検討会は法曹関係の方がたくさんおられますので。あわせて、今の中川委員の御疑問も議論させていただきたいと思いますので、御紹介していただければと思います。

○伊藤委員 この問題についての私自身の意見は、後ほど申し上げることにいたしまして、ただいま会長から御指示がございましたので、私どもの検討会におけるこの問題について第3巡目(11月10日)の検討状況を御紹介させていただきたいと思います。
 この調査会での議論を紹介の上、具体案としては、前回提示されましたA案、B案、それから現行民訴法を基礎にした乙案について議論したわけであります。ただいまお尋ねがございました点につきましては、意見が分かれたというのが結論です。本日のA案の考え方を支持する意見もありましたし、本日のT案に近いB案という意見もございました。さらに、乙案という意見もありました。全体としては、B案を許容範囲とする意見が多かったかという印象を受けた次第でございます。
 また、A案支持の方からも、もしA案に重大な不都合や問題点があるのであれば、具体的制度設計は柔軟に考えてもいいのではないかという御意見もありました。また、具体的なメリット・デメリットについて、今、中川さんがおっしゃられたようなことですけれども、もっと詰めて議論して最終的選択をすべきではないかという御意見もありました。それから、A案を採用することを前提にして、むしろ第一審についてもそういうものを考えるべきではないかという、一歩進んだような御意見もありました。
 それから、職分管轄の点につきましては、後から私自身の意見として申し上げたいと思います。
 そのようなことで、検討会には、法曹関係者だけではなくて、産業界出身の委員、学識経験者等多様な委員に参加いただいているわけでございますが、結論から言いますと、いずれが最も適切な案かということについての意見の一致を見ず、今後も検討を続けるという状況でございます。

○阿部会長 A案批判の一番大きなところはどんなところでしょうか。

○伊藤委員 これは、指摘された問題点としては、ここの場でも御紹介があったかと思いますが、職分管轄の点で、A案を採用したときに、事件の取扱いが硬直的になるのではないか、例えば専門技術性のない事件も知財高裁で扱わざるを得ないような事態が起きてきて、かえって知財高裁本来の機能が損なわれ、その結果として迅速な解決についての当事者の期待や利益が損なわれるのではないかということが中心かと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。
 先ほど下坂委員からお手が挙がっていましたが、今の点も踏まえて御意見がございましたらどうぞ。別のことでも結構です。

○下坂委員 中川委員が、先ほど、例えばA案でまだできていないようなものに対して実証する場合、前回の議事録から見て、もっと実証していくべきだということですが、客観的にどのような実証データを取れば御納得いただけるのでしょうか。

○中川委員 具体例だと思います。

○下坂委員 ないものに対する具体例ですか。

○中川委員 いいえ。例えば、アメリカのCAFCが一つの例として挙がっているようですが、これは歴史的な沿革ですが、特許に関する高裁はアメリカでは昔からあったのですが、そのころは別にだれもそんなことは言っていなかった。たまたまCAFCができたときと、アメリカの知財戦略の重視という時代が重なっているだけではないかというのが私の歴史認識です。それに、CAFCだからみんなが注目しているのではなくて、アメリカだから注目しているのではないかと、私は素朴な疑問を持っているところです。

○下坂委員 その場合も立証はないですよね。先生はお思いになっているけど、立証はない。

○中川委員 そうです。私はそう思っているのだけれども、そうではないとおっしゃる方もいて、どちらもきちんとだれかに研究してもらったわけでも何でもなくて、僕の感想にとどまっているわけです。だから私自身もちゃんと責務を果たしていないのですが。それでは専門調査会と言うには足りないのではないかと、自省を込めてということです。

○下坂委員 引き続き、私の考えを述べさせていただきます。
 私は、次に述べます理由から、知的財産高等裁判所は、東京高等裁判所から独立した、日本国における第9番目の高裁として創設されるべきであるという主張でございます。
 その理由としますところは、先ほど久保利委員からもちょっと触れられましたように、まず、知財高裁は、本年7月に決定された知財推進計画を貫く知財立国の原点に立って論じられるべきものであり、この基本的姿勢を忘れてはならないというところにあります。この視点に立ちました場合、A案は、内外に向けて、我が国の知的財産重視の姿勢をアピールすることができることは明瞭であると考えます。ただし、先ほど中川委員から御指摘があった点、客観的資料がどのようなものを言うのか、それはまた一考したいと思っております。
 T案のように、既存の組織内では対外的アピール度が激減することは明白だと考えております。私は、東京高裁の中にもう一つ、その下部組織としてつくられる特定の部署に知財高裁の名を付して東京高等裁判所内知的財産高等裁判所とすると、これは英語では、下宿人などが指す「care of」でしょうけれども、こういう構成をとった場合、裁判所関係者はいざ知らず、一般人や外国人にとっては極めて紛らわしく、また、とてもいじましく感じますし、かつ、非常にわかりにくいものだと考えます。これは、伝統ある高等裁判所の名称が持つイメージを甚だしく損なう、単なる妥協案と言わざるを得ないと考えます。
 また、T案におきましては、予算や人事は独立可能とのことですけれども、東京高等裁判所内知的財産高等裁判所にあって、一体どのように独立性が確保できるのかが不透明です。現に、第13ページの右側下にあるように、T案によれば、知財高裁の長は長官ではなく代表判事というものでございまして、この代表判事は東京高裁のナンバー2として存在することになります。だれが考えましても、ある独立組織の独立性と、その独立組織の下に存在する組織の独立性の、そのいずれの独立性が高いかは容易に推察できるところです。
 下部組織では、通常、人事や予算の権限に独自性を発揮することはできません。独立組織とすることで、情報発信や人材育成などの面でも専門裁判所にふさわしい体制が整備できるものであります。すなわち、知財高裁は、我が国の知財裁判所に関する英文の判例情報の発信、法曹の育成・教育などの側面でも、専門司法機関としての役割を担うことが期待されているものでございます。そのためにも、高度な独立性を確保して自由度を高める必要性があると確信しております。
 前回、この専門調査会における最高裁の御発表に、東京高裁の中にも設ける事実上の知財高裁はマンションの中のモデルルームとのお言葉がありました。これは今日のT案ではなく、事実上の知財高裁に関する御提唱ではございましたけれども、その場合でも、そこに位置する知財高裁はモデルルームではないと存じます。モデルルームは、ただ購入訪問者が見に来るだけの入れ物ですけれども、そこにおける知財高裁は世界中の情報が集まり、世界に情報を発し、知財紛争解決に努力する、けたたましい住人が居住するところで、これが東京高裁内にあるということは、いつ大家から追い出されるかを心配する借家人の構図というにふさわしいと思っております。これは余談になりますが。
 次に、土地管轄の狭い東京高等裁判所が全国を管轄する知財高等裁判所をその懐の中に抱え込むことは甚だ奇異に映ります。全国を管轄区域とするにもかかわらず、東京高裁の中に知財高裁が存在することは、どう考えましても奇妙です。さらに、内外に向けて、我が国の知財重視の姿勢をアピールし、日本の産業の発展の一つを、知財立国をよりどころに世界に打って出ようとユーザーが切実に願うとき、東京高等裁判所の名がいかに名門であるからといっても、「東京」というローカル地名の付された高等裁判所の中の知財高等裁判所がナンバー2であることには変わりがなく、インパクトは甚だ弱いもので、このような妥協案は到底受け入れがたいものです。
 このことは、例えば、今、皆様に客観的フィーリングを感じていただくという、ただそれだけの目的のためではございますけれども、この東京を、パリやニューヨークという有名な土地名に置き換えていただきたいと思います。「パリ高等裁判所内知的財産高等裁判所」とか「ニューヨーク高等裁判所内知的財産高等裁判所」を、皆様は客観的にどのようにイメージなさるでありましょうか。また、「高等裁判所内高等裁判所」という日本語は、言葉が持つ意味を無視していると存じます。
 本日提出されております資料5及び資料6の法律案要綱を見ましても、T案よりもA案の方が明確である上、知財高裁長官の位置付けも格段に高うございます。国家戦略として新しいものをつくるのですから、国家の政策が明確に出るものとすべきです。東京高裁内に置いた方がいいという積極的な理由は、それが単に現状の司法制度下で受け入れやすいだろうという妥協的観点のみではないかと考えています。その他の利点が認められず、よくわからないからです。せっかくつくるのであれば、T案のような中途半端なものではなく、国民にもわかりやすいものにすべきであると考えております。すなわち、第9番目の独立した高裁をつくるべきです。
 前回の第2回目のこの専門調査会におきまして、私は横串、縦串という表現に惑わされまして沈黙を続けたものですから、今日はその分もう少ししゃべらせていただきたいと思っております。今回は勉強してまいりましたので。
 管轄、移送等についてですけれども、著作権等につきましては、本来、すべての事件を知財高裁で処理した方がよいと考えております。しかし、地域性の問題もあるということでしたら、東京高裁の管轄区域内で提起された地方裁判所の終局判決に対する控訴のみでもよいのではないかと考えております。「とりあえず」ということでございますが。
 次に、地方に対する保護という点につきまして、前回の資料にも書かれております巡回審理の点を支持いたします。審決取消訴訟、特許権等に関する訴えの裁判管轄において、T案に御賛成の委員は、地方アクセスの問題を提起しておられます。前回提出されました巡回審理方式というものがあるのですが、それを導入すれば地方アクセスの問題は解消できます。巡回審理方式は、知財保護実現の場所を東京のみに集中させずに、しかも、首都圏や大阪等の大都市に多く集中している知財専門家の関与を得た裁判が地方でも受けられるというメリットを生むと考えております。
 裁判所で前例がないとしても、特許庁では既に、当事者の便宜を図るために地方での巡回審理を実施しておられます。そして、ユーザーの好評と審査促進の効果を得ているという実績がございます。巡回審理は、当事者だけではなく、代理人にとりましても好都合であり、東京への一極集中を避ける意味でも有意義でございます。
 なお、付随的に申しますと、私はこの知財高裁の論議に関し、かねがね、裁判官の視野が狭くなるという主張を聞き続けてまいりました。そして、その都度、では、「裁判官の視野」と言われるものは一体何なのかと疑問を持っております。特許庁の巡回審理は、その多くを机上審査に追われる審査官や審判官にとっては、その仕事を通して地方の人々に触れ、考え方に触れるという貴重な機会の一つとも考えております。「裁判官の視野」と呼ばれる要素の一つに、もし、そのような人や土地との職業を通しての勉学が含まれるのであれば、裁判官による巡回審理は、裁判官の人間性の面における視野を広げることにも役立つものであると考えております。
 これから制度をつくろうという場合は、問題があれば、それを解決する形で制度を立案していけばいいことであると考えます。巡回審理は、知財高裁の基本的問題ではなく、解決できない問題でもありません。例えば、期日を重ねた審理を必要とする場合、長期にわたり法廷を維持するシステムをどう構成するか、巡回計画の立て方はどうするか、3人の裁判官の中に常時出張を専門にする裁判官をつくるかどうか、そういう形で行くことはどうか、これから生じる必要な人事管理はどうすればよいか、巡回に代えIT技術を上手に使うことはできないか等々、今までとは違った多くのシステムをとらなければならないことになるかもしれません。前述した特許庁の巡回例を考えれば、何度も言っておりますけれども、決して解決できない不可能な問題ではございません。
 次に、独立9番目の知財高裁の創設が、職分管轄に関する問題を生じさせるという議論がございます。しかしながら、これは、新たな専門機関を創設する場合、常に生じる権限境界を巡る問題であるとも言えます。新しい制度の需要や要請は、その制度を利用する側から生じるものでございまして、それらの需要や要請に対応する敏感な感覚こそが時代を進歩させ、変化させてきたもので、戦後の58年もそのことを繰り返しながらの今日があると信じております。
 需要や要請に対応する敏感な感覚は今、知財に求められており、知財に関連する司法制度に求められております。伝統ある司法制度といえども、この影響から逃れることはできないはずだと確信しております。ユーザーにとって使い勝手のよいものにするための解決策を見つけていくという姿勢が大切であると考えます。
 司法制度改革推進本部の知的財産訴訟検討会においても、先ほど伊藤委員からお話がありましたように、知財高裁についての検討が行われているところでございます。そこにおきまして、可能な限り、疑義を生じない管轄規定を設けるよう、ぜひ工夫をしていただきたいと考えております。
 裁判管轄や移送の問題は、テクニカルに解決することができる問題でございます。これらのことは、この調査会にも幾人もおられます民訴や行政法の先生方のすばらしい知識と知恵と経験を持って挑戦していただければ、必ずや解決できるものであり、私自身は、それらを深く信じ、大いに期待しているところでございます。問題があるからだめという考え方ではなく、知財高裁を活用して、できるだけ使い勝手のよいものにするための積極的解決策を、民訴法や司法制度の利害ばかりではない広い視点から見つけていく姿勢が大事で、社会全体の需要に司法制度がどこまで対応できるか、対応するつもりがあるかという、あくまでも姿勢の問題であると考えております。
 知財は、その性質上、一国のものではなく、国際取引、インターネット取引等の国境なき取引に関連いたします。それゆえ、目に見える形で知財を外国に示すこと、国際的視野での法的保護が国家政策として必要であり、重要であること。そして、迅速性、効率性をもって知財紛争の集約的解決を図ることが、知財にとって、そして、今の日本国にとりまして何より重要であることに、ぜひ御留意いただきたいと存じます。
 日本におきましては、戦後、その必要性から、簡易裁判所を設けた前例もございます。こう申しますと、恐らく、知財高裁は簡易裁判所の例とは違う、それは既存の概念から言えば知財高裁は異質であると反論を受けるかもしれません。それならば、従来の枠組みを絶対的なものと考え固執していくのではなく、新しい職分管轄、新しい事物管轄等の結合という新しい観点から、その異質のものを考えていただければいいことです。
 長くなりましたが、以上の次第から、知財高裁を日本国における第9番目の高等裁判所として創設することを強く強く支持するものでございます。
 なお、労働事件や医療過誤事件への波及を心配する方もおられますが、これらの問題は別途ケース・バイ・ケースで、そのときに皆で知恵を寄せ、熟慮し、検討し、対応していくべき事項であると考えておりまして、知財高裁の問題について、あえてそれを否定すべき理由として提唱されるものではないと考えております。
 以上です。ありがとうございました。

○阿部会長 ありがとうございました。
 実は、そろそろ次の課題に移らなければならないので、短くお願いできればと思います。

○高林委員 大演説を聞いた後ですから、短くといいましても、どこまで短くできるかわかりませんが、3点だけ申し上げたいと思います。
 その前に、まず、今、下坂委員がおっしゃったことに関してですが、下坂委員はA案とT案の対立というように位置付けられているようですが、私は、T案であっても下坂委員の御見解に完全に添うものだと思っております。今、いかにもT案はA案の採用を阻止するための提案であるかのようにおっしゃったと思いますが、それは全く違うと考えております。
 なぜ私がT案の方がよろしいかということを3点だけ申し上げたいと思います。司法行政の点と憲法上の問題、それと、サーキット・コートのこともお話しが出ましたが、それについて私も調べたことがありますので、お話ししたいと思います。
 まず、司法行政の点につきましては、中川委員からも御指摘がありましたけれども、高等裁判所長官という立場がどのような司法行政的なポストなのかということも考える必要があるだろうと思います。前回も申し上げたことですが、裁判官の任命からライフサイクル的な人事異動、どのような予算をつくって執行していくかということは、すべて最高裁判所が決めることであると憲法上位置づけられておりますので、知財高裁の長官を第9番目の高等裁判所長官と位置付けて、高裁長官という立場を仮に与えたとしても、それだけでは、そのような人事的あるいは予算的な目配り、気配り、実力を持つことは不可能であると思います。新たに創設される知財高裁の長にはそのような役割を担ってもらう必要がありますが、そのような役割を果たすためには、最高裁判所の中における発言権が確保されることが重要なのであって、9番目の高等裁判所の「長官」という名前のものなのかということは、二の次、三の次の問題であると考えております。
 ですから、竹田委員が御提案の「代表判事」という名前がふさわしいかどうかは、下坂委員がおっしゃったような、二番手というイメージがあるのかもしれませんので、考慮すべき余地があるかもしれませんけれども、「長官」という名前になったからいいということで問題が解決するわけではないと思います。
 それから、職分管轄の問題は、行政法等々の学者が考えればよいことだというご意見がありましたが、私は、資料2の15ページにあるA案は、著作権について、東京高裁管内の地裁が扱った事件だけを知財高裁が控訴審として扱うという提案であって、欠陥があると思っています。些末な問題なのかどうかは別としまして、例えば家庭裁判所を日本に設けたとして、家庭裁判所の審理が受けられるのは東日本の人間だけで、西日本の人間は地裁に行けといったらどうでしょうか。家庭裁判所というのは、遺産分割とかもろもろの審理を行いますけれども、そういう意味で、特別裁判所というのは特別の職分を設けているわけです。大して違わない裁判所だから、別に知財高裁でもどこでもいいではないかというのは、知財高裁の独自性を軽んずるものであろうかと思います。私は、知財高裁というものは、しっかりした職分管轄を持った独立の特別裁判所であるならば、それを区域によって分けて、そこによって審理を受けられるか受けられないかを決めることは、これは間違いだと思います。著作権事件を扱うとか、特許事件を扱うとか、そういう事件の種類によって分けることは当然考えられると思いますけれども、住んでいる地域によって審理を受けられる、受けられないということを区分することは、基本的に賛同できない点だと思います。

○下坂委員 T案もそうでしょう。

○高林委員 T案は、新たな職分管轄を設けるという案ではございません。通常裁判所という説ですので、T案はその辺の問題は回避しています。

○阿部会長 それは、15ページのT案ですね。

○高林委員 はい。15ページのA案は、知財高裁は東京高裁管内の著作権関係の控訴事件だけを扱うということで、特別の職分管轄を設けているものですから、A案は憲法上の問題があるのではないかと私は考えております。T案は、通常裁判所として位置付けられているわけですから、そのような問題は生じないと思います。
 そのような問題を回避するためには、日本中の著作権関係の控訴事件をすべて専属的に東京の知財高裁が扱うという案が考えられると思いますし、下坂委員はその案を採用した場合のcircuit court の採用を薦めるお話をされたのだろうと思います。circuit court はアメリカに例があります。アメリカの裁判所法に控訴裁判所の巡回審理に関する記載がありますけれども、米国の場合は、控訴裁判所は法律審ですし、オーラル・アーギュメントの時間や提出できる書類について厳しい制限があります。ですから、私も、フェデラル・サーキットの審理を傍聴したことがありますけれども、限られた時間内に、限られた書類の範囲内で行われるアーギュメントだけで済む手続きです。そういうものと日本における事実審裁判所である控訴裁判所の審理を同じように扱うことはできないことです。経験がないのなら、やってみればいいではないかとおっしゃるのであれば、今でも裁判所では、出張尋問するとか、嘱託とか、そういうもろもろの違う場所で行う審理の制度がありますけれども、それも事実審裁判所であれば非常に手間取る手続であることは経験済みのことです。
 以上のことを踏まえれば、知財高裁の巡回審理は裁判所に対してもユーザーに対しても不便を強いることになろうと思いますので、このようなものを採用してまで、著作権関係の控訴事件をすべて知財高裁で扱うメリットはないと思います。
 ですので、最初に申し上げたとおり、知財高裁をつくる理念という意味では、A案とT案は全く差異がなく、T案はA案から生ずるような欠陥を回避していますし、運用の仕方によっては限りなくA案と近いものになると思います。
 以上です。

○阿部会長 実は、やはり知的財産戦略で一番のユーザーは産業界なものですから、産業界がどうお考えになっているのか、そこをぜひお話しいただき、私としては、結論を出すのは次回まで延ばさせていただきたいと思います。

○野間口委員 私は前回も意見を申し上げましたが、前回と全く変わっておりません。基本的にはA案でやるべきだと思います。ただし、伊藤先生をはじめ、今の高林先生の著作権の話もありますけれども、硬直的に考えるのではなくて、いろいろ工夫するところがあれば、T案といいますか、司法制度のところで検討されているB案とか、そこのよいところを取り入れて、検討することができるのではないかと思います。しかし、基本的な旗印としてはAとしておいて、その不都合なところをどんどん見直して形でやっていただいた方が全体的な合意もできるし、国民的な納得も得られるし、また、内外に対してきちんとした姿勢を示すという意味でも、いいのではないでしょうか。
 いろいろと憲法の問題や法律の問題があって、私にはわからないところがありますけれども、そこのところは、いろいろな立場の方から意見を聞きますと、クリアできない問題ではない、いろいろ工夫できるという説明を私は受けていると思っておりまして、意見は前回とは変わりません。

○阿部会長 山田委員、何かプラスしていただくことがありますか。

○山田委員 今おっしゃったように、私も前回と同じように、知財重視の国家姿勢を示すことにおいては、明確に独立した高等裁判所をつくるというA案の方が、より強く内外に国の意思を示すことができると思います。
 もう1点は、私は、前回も申しましたけれども、この法案は、日本が知財立国を目指すために出された法案だと思います。それは将来を見据えて考えだされた法案だと思いますから、その意味では、将来ということを考えると、これから成長して日本の知財を生み出していく子どもたちに、知財の大切さを学校で教育することは大変重要なことだと思います。これは前回も話しましたけれども。
 明確に独立した第9番目の知財高等裁判所ができるということは、高等裁判所が8つではなく9つになるわけですね。そうすれば当然、教科書も改訂されて、知財高等裁判所が明記される。日本の進むべき道を中学、高校から、次代を担う若い人たちに教育することは大変効果がある。したがって、A案がよろしいと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。

○久保利委員 高林先生がおっしゃった司法行政上の問題ですが、これは裁判所法の20条で、高裁については、裁判官会議で、総括するのは高裁の長官だと書いてありますので、これはやはり高裁長官が偉いわけですから、知財高裁をつくって、そこの長官を9人目の長官にすべきだと考えます。
 それから、例えば文化庁が文化省になって文化大臣がいるのと、文化庁という存在とどっちが強いかといったら、普通に考えたら、やはり省の方が強いのではないか。例えば法務省の人権擁護局が、これはやめて人権委員会をつくろうと。三条委員会でやろうとか、あるいは、人権省をつくろうとなったら、そっちの方が強いのは決まっているので、その意味で、A案の方が対外的にアピール度が強い。さはさなりがらいろいろ問題点はある、というように議論を進めた方が、私は生産的なような気がします。立証しろと言われてもなかなか難しいところですが、印象としてはどうでしょうかということを申し上げたいと思います。

○伊藤委員 基本的視点は、私は久保利さんと一緒です。利用者の利益を見据えて、国民の視点から制度の在り方を検証しなければならないと思います。A案についての問題点は、竹田委員や高林委員からお話があったとおりで、私自身も検討会の議論を御紹介しましたので詳細は省略します。
 著作権に関する管轄についても、本日の資料2の15ページに書かれている考え方では、法の下の平等とか、裁判を受ける権利の実質的保障という点で問題が起こるのではないか、これも高林委員から御指摘があったとおりです。それを前提と致しますと、本日提示されているT案に相当の合理性があると思います。
 問題は、先ほど御議論がありましたアナウンスメント効果ですが、関連する話をさせていただきますと、アメリカにSmall Claims Courtと呼ばれる制度がございまして、「少額裁判所」と訳されています。もう20年ぐらい前でしょうか、少額裁判所が市民の少額紛争解決に大木や役割を果たしていることが世界中に知られておりまして、日本でもそういう制度をつくったらいいじゃないかという問題意識でアメリカに調査に行ったことがございます。私どもは全く無知で、行く前は、「Small Claims Court」という看板を掲げた裁判所かあるのかと思いましたら、州の下級裁判所が取り扱う一つの手続きとして少額訴訟手続があり、それを担当する裁判官がいる。組織的にはそういうことですが、機能としては大きな機能を発揮していて、それが世界的に知られていることが分かったわけです。
 そういったことを参考にして、現在日本でも、先ほど下坂委員から御発言がございましたが、簡易裁判所が管轄裁判所になっている少額訴訟手続を現在の民事訴訟法の中につくりまして、裁判所関係者から伺いますと、市民の裁判所として大きな機能を発揮していると聞いております。そういう意味では、看板を掲げるか掲げないかということでアナウンスメント効果が決まってくるものではないということを、参考例として申し上げました少額裁判所の例から御理解いただければと思います。
 以上でございます。

○阿部会長 先ほど申し上げましたように、今日は結論を控えさせていただきまして、次回には、できればまとめたいと思いますが、私も意見を全く申し上げないのは無責任ですので、先ほど中川委員からいろいろ問題提起がありましたので若干申し上げたいと思います。
 この知財高裁の創設の問題は、日本の国全体としての知的戦略の一環であるわけで、日本の国全体として調和のある、様々な意識改革も含めて、制度の整備がなされていかなければ意味がないということはおっしゃるとおりだと思います。ただ、知財高裁だけをとってもメリットがなければいけないことも事実だと思います。
 どうしてこういう議論が昨年来出てきたかといいますと、釈迦に説法のところがあると思いますが、現状の組織なり法の下に各省庁、各組織が物凄くがんばってきたことは事実でありまして、その結果、10年、20年とたつうちに、日本全体としていろいろな損をしてきた、ネガティブなことが生じてきたということで、個々の制度そのものは、なぜ悪いのかということは、開き直れば出てくるのは当たり前であります。しかしそれでは不十分で、全体としての国の知財戦略として見ていただいて、その上で改めて新しい制度をつくっていただくことが根底にあります。そこは、そうではない御議論が外部から出てきたときには、そこに立ち返っていただくことをぜひお願いしたいと思います。
 ただし、後のことはどうでもいいかというと、そうではなくて、やはり他の諸制度に決定的なネガティブなことを及ぼすようなことがあれば、当然そこはいろいろな修正なりが必要で、そこには知恵を出すことによって済まされる部分と、なかなかそうはいかない部分とあると思いますので、諸先生方がおっしゃっているような様々な配慮が必要だろうと思います。したがって、硬直的な制度をつくるべきではないということは全くおっしゃるとおりですので、そこは法曹界の方がいろいろ御心配になっているようなことはガンガン議論していただく必要があるのではないかと思います。
 私の意見といいましても、結論めいたことにつながることは申し上げておりませんが、ぜひそういうことでお願いいたします。さて、御指摘になっておりますメリット・デメリット、論点その他がおおむね出てきているのではないかと思いますので、本日の議論を踏まえて、事務局には、最終的なとりまとめを目指した論点整理、できれば調整をもやっていただいて、次回の会議でとりまとめ案について御議論いただく形にさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 それでは、特に御異論がないようですので、そういうことでお願いしたいと思います。事務局には多大なお仕事をお願いしているようで、いつも気がひけるのですけれども、よろしくお願いいたします。

○荒井事務局長 はい、わかりました。

○阿部会長 それでは、少し頭を切り換えて、もう一つの議題であります特許審査迅速化法についての御議論を始めさせていただきたいと思います。
 初めに、荒井事務局長から簡単に資料の説明をお願いします。

○荒井事務局長 お手元に資料6をお配りしてありますので、これに沿ってお話させていただきます。
 これは前回の会議で配付いたしましたパブリックコメントの結果につきまして、その概要を整理したものでございます。いただいたパブリックコメントのうち、特許審査迅速化法案の制定に関する意見が67件ございましたが、制定に賛成する意見が52件、反対する意見が1件、その他の意見が14件でございます。
 簡単にお話しさせていただきますが、2ページの2つ目の○印に、「ベンチャー企業では、審査が遅れているばかりに、事業を軌道にのせることができない場合がしばしばある」とか、もう少し下の方には、「『迅速化』とは『拙速化』ではない。審査官が審査する時間を短くすることではなく、待ち時間を短くすること」とか、あるいは、その3つ下には、「特許庁及び関係外郭団体が第三者機関から行政評価を受けなければならない規定を設けるべき」という御意見がありました。それから、下から2つ目の○印のところに、「特許庁だけでなく、出願人、代理人など関係者全員が、迅速かつ的確な審査処理体制づくりに協力していくべきであり、迅速化法はその取り組みを位置づけるものとして、早期に制定する必要がある」とございます。
 それから、3ページに反対意見を紹介してございます。「特許の審査は早ければそれでよいという単純なものではない」と。
 そのほかいろいろな御意見がございますが、先日お配りした資料に入っておりますので省略させていただきます。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 前回申し上げましたように、特許庁から参考人の方々に来ていただいております。参考人の方を御紹介させていただきますと、小野新次郎特許技監、迎陽一総務部長のお2人でございます。お忙しいところをよろしくお願いいたします。
 進行の不手際がございまして、遅れておりますので、10分か15分ぐらいで御紹介をしていただければありがたいと思います。御無理を申し上げて恐縮でございますが、よろしくお願いします。

○迎総務部長 それでは、私から、できるだけ手短に特許迅速化法の関係について御説明したいと思います。お手元の資料7に沿って御説明させていただきます。
 1ページお開きいただきまして、御承知のように、推進計画において、特許審査の迅速化については御指摘をいただいているところでございます。私どもといたしましても、審査の質を維持しながら特許審査を迅速化していくことは、重複研究を排除するとか、あるいは、その権利の早期確定による技術開発の活性化、研究と開発投資の効率化、こういったことにつながるものと考えておりまして、我が国企業の国際競争力向上のためにも特許審査迅速化には最大限の努力を払わなければならないと考えているところでございます。特許庁といたしましては、現在、審査の順番待ち期間が24か月ですけれども、これをゼロにすること、まさに即時審査を目指してあらゆる施策を講じていくということが私どもの基本姿勢でございます。
 4ページに飛んでいただきまして、特許審査の現状はどうなっているかということでございます。左上の「審査請求件数と一次審査件数」を見ていただきますと、赤い方の審査請求件数が2002年で約24万件、審査が行われているのは22万件。この差の2万件が滞貨として積み重なってくるわけです。
 右側の表に参りますと、黄色い棒グラフが審査待ちの滞貨となっている件数で、現在、2002年で50万件と増えてきております。結果として、青の折れ線グラフにございますように、審査待ち期間が24か月となっているわけでございます。この24をいかにゼロにしていくかが課題であると考えております。
 一方、特許庁の審査能力ということで、その下に、日・米・欧の比較をしているわけですが、現在、審査官の数が、2001年時点ですけれども、 1,096名。諸外国に比べて非常に少ない。一方、審査官1人当たりの処理件数が 182件で、アメリカの81件の倍、あるいは、EUの61件の3倍という量をやっているわけですけれども、まだ追いついていない。これが現状です。
 次の5ページをお開きいただきますと、今申し上げたことをもう少し詳しく見ますと、その出願が42万件、それに対して審査請求が24万件毎年出てくるわけです。ただ、結果を見ますと、これが処理されるのが22万件で、その半分ぐらいが拒絶され、特許にならないということになっております。実際、11万件拒絶されるわけですけれども、右下の四角にございますように、拒絶理由の連絡に反論がないようなもの、これを私どもは「戻し拒絶」と言っているのですが、これが約5万件あります。これは逆に言うと、出願者も、何とかして特許を取りたいという意思がひょっとしたらないものが、こういう戻し拒絶みたいなものに含まれているのではないかということであります。
 ちなみに、その次のページを見ていただきますと、日・米・欧の特許率、要するに、出願ないし審査請求に対して、特許になる比率が、アメリカで71%、ヨーロッパで75%、日本が55%でございまして、逆に、こういった特許率が上がるというか、簡単に拒絶されてしまうような審査請求があまり出てこないということになると、審査の負担も小さくなって迅速になっていくということがあります。
 次の7ページですけれども、特許審査の迅速化に向けては、これまでも努力をしてまいっております。さきの通常国会、平成15年の法改正におきまして、特許にかかわるいろいろな手数料、あるいは、特許になってからの各年ごとの年金、こういったものの体系を全部見直しまして、言うなれば、審査請求の料金を現行の9.95万円から19.9万円へと、実際のコストに見合って、審査請求の料金を引き上げる。これによって、出願者の方でも、審査請求をする前に、よく厳選していただきたいということであります。逆に、審査請求された後でも、審査の順番待ちの間に取り下げた場合は、請求料を半分お返しするということで、こういった改正を既に行っております。そのほか、下にございますが、審査官の増員、アウトソーシングの拡充、非常勤調査員の拡充、こういったことをやってきて、まずは、インの審査請求件数とアウトの審査処理件数を均衡させなければ、滞貨はどんどんたまっていってしまうということであります。
 さらに、既に50万件の滞貨があるわけで、もう一つの要因としては、審査請求の期間が、今までは、7年間のうちに審査請求をするということだったわけですけれども、これを3年間と期間を区切った。これは、過渡期において、審査請求件数が一時的に増えてくる時期が出てくるので、このまま放っておくと80万件もの滞貨がたまってしまうという状況になります。
 それに対して、8ページですけれども、待ち時間の短縮と滞貨一掃に向けた総合的な政策を講じていくことを考えているわけでございます。これは3本柱ということで、一つは出願・審査構造の適正化。逆に、厳選した審査請求になるべく絞っていただくような努力をする。それから、実際に出てきたものの処理を促進していく。さらに、 (1)、 (2)を進めるために必要な基盤の強化、人材の面あるいは情報の面、こういったもので基盤をつくっていくことを今後やっていく必要があると考えております。この政策の中で、法律の改正を必要とするものにつきましては、関係法律を包括的に束ねて改正をする法律を次期通常国会に提出したいと考えております。
 この3本柱に沿って、10ページをお開きいただきますと、法律のイメージと今の施策の内容を左右に対比しております。まずは、出願・請求構造の適正化という点で、私どもはなるべく企業の方に絞っていただきたいと、出願者の方に審査請求を厳選していただきたいとお願いして、先ほど御紹介したように、請求手数料の引き上げを行ったわけですけれども、こういうムチの面ばかりではなくて、アメといいますか、逆に、事前にしっかり調べて、それを調査レポートの形で添付していただいたものについては料金を減額する。これは逆に、ついてきたレポートが審査に役に立つと同時に、事前にそうやって調べていただくと、その段階で、やめようというものが出てくる。こういうことを期待しているわけでございます。
 それから、そのための情報の提供、発信は、私どもとして充実していかなければならないだろうと思っております。例えば広報なども、もっと迅速にインターネットあたりで発信できるようにするといった、情報機能の発信の拡充もやっていくということでございます。もう一つは、実用新案制度の魅力を向上させたいと考えております。現在、実用新案というのは1万以下の出願数になっているわけですけれども、これについて、保護期間の延長、特許との間で一定期間移行できるような措置等の検討を今しておりまして、特許出願に行っているものが実用新案に移るというのは、審査負担はトータルとして軽減できると考えているわけでございます。
 11ページを見ていただきますと、拒絶されているものを見ますと、結構、調査可能な技術で拒絶されているもの、それもかなり古い技術で拒絶されているという実態があるわけで、こうしたものを審査請求前にみんなが調べられるようにする、あるいは、調べるようにすることが必要なことだろうと思っております。
 12ページは、先行技術を審査請求前に行った場合の審査請求料の減免のスキーム図を書いてあります。現状は、審査請求があって、審査をする段階で特許庁が工業所有権協力センターという指定調査機関がございまして、そこに先行技術調査を外注しております。その審査処理の促進という側面から、右にございますように、こういった外注機関も現在の工業所有権協力センター以外にも増やしていきたいと思っております。それと同時に、これと同じようなレベルの調査を事前に出願人が審査請求前の段階でやって、レポートを付けてきたものについては、審査請求手数料の減免をしたいということでございます。
 次の13ページでございますが、審査処理の促進という点につきましては、一番大きいのは、今後5年間、毎年 100名の任期付審査官の採用を行って、とにかく人手をたくさんかけて滞貨を一掃するということでございます。これは法律事項ではございませんが。もう一つは、今申し上げました外注の拡充のためには、現在、指定調査機関について、公益法人の要件とか法定されているものを緩和して、多数の民間調査機関が参入できるようにしていきたいと思っております。それから、弁理士の方についても、複数の弁理士がやる場合に、その担当弁理士の方を明確化していただく等のこともお願いしたいと思っております。
 最後になりますけれども、今申し上げましたようなことを、さらに実現していくためには、人材面、情報面の基盤を強化していく必要があると考えております。そのために、現在、特許庁の中にございます研修機能、情報システム関連の業務、こういったものを独立行政法人の工業所有権総合情報館に移管するということをしたいと。単に業務を庁から出して独法に移管するだけではなくて、これを機に、庁内向けサービスのみならず外部向けのサービス、要するに、人材育成面、情報発信面での二面性を持って機能を強化していきたいということでございます。
 以上の法律事項をまとめまして、各種法律の改正がいろいろ必要になってまいります。これをまとめまして、特許審査迅速化法という形で次期通常国会に提出したいと考えているところでございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 今、御説明をいただきましたが、委員の皆さんのお手元に、推進計画の抜粋がございまして、特許審査迅速化法については、 (1)、 (2)、 (3)の (1)だけに書いてあるわけですが、 (2)、 (3)も密接に関連した上での特許審査迅速化法ということで、今の御説明もそういう趣旨だったと思いますので、 (2)、 (3)も含めて御検討いただくことになろうかと思います。
 御質問、御意見がございましたら、どうぞ。

○竹田委員 第1回の委員会で事務局長から御説明をいただいたのは、さきに成立した裁判の迅速化に関する法律のような、いわば精神規定的なものをこの特許審査迅速化法に盛り込むのだという趣旨の御説明を聞いていたと思います。今の特許庁が考えている審査迅速化法は、そういうものとは違っていて、具体的に13ページにまとめられているのでしょうけれども、こういう具体的なものを盛り込んだ審査迅速化法をつくるという趣旨であると理解してよろしゅうございますか。

○迎総務部長 そうです。

○荒井事務局長 言った立場から申し上げますと、今は特許庁からそういうお話があったのですが、知財推進計画をつくるときにこういう議論が出てきて、そのときの考え方は、裁判迅速化法というものが出て、今までは日本の裁判は非常に時間がかかっているということだったので、それで裁判迅速化法をつくって、関係者がみんなで協力して裁判を早くしようということでできて、それが非常に効果を上げ始めているということがございましたので、特許についても、そのアナロジーで特許審査迅速化法をつくって、そしてみんなで協力する体制をつくっていったらいいのではないかということで推進計画になったわけでございます。したがいまして、精神規定だけでつくるということではなくて、裁判迅速化は2年以内という目標があって、そこに向かってやっていくということでしたので、特許審査迅速化法もそういう目標を作って、そこに向かってみんなで協力していくという考えです。
 ただし、それを実現するためには、具体的に幾つかの法的手段があるので、それは一緒に直していったら良いということです。今、手段の部分だけ特許庁から御説明があったので、それでいいかどうかを御議論していただいたらいいと思います。

○竹田委員 特許庁の方にもう一つ御質問したいのですが、今、荒井事務局長からの話にもあったと思いますけれども、裁判の迅速化に関する法律というのは、訴訟手続きを2年以内のできるだけ短い期間で終了させるということがあるわけですね。そのような規定を特許庁がイメージしている具体的な総合施策の中に盛り込むことについては、どうお考えになっていますか。

○迎総務部長 その点については、私どもも何か目標を持って取り組むべき重要課題だという点については全く異存はないわけでございます。したがいまして、先ほども申し上げましたように、まず24か月をゼロにするという大きな目標を持ってあらゆる努力を傾けていかなければならないと思っているわけでございます。
 ただ、正直申し上げまして、例えば、さきの通常国会で審査請求の手数料を倍にしたということですけれども、これがどれくらい効いてくるものかとか、こういった不確定性もあるわけでございます。それから、例えば、審査官の数が諸外国に比べて少ないということで、先ほど申し上げましたように、任期付審査官の拡充とかいったことをやっていく必要があると思っているわけですけれども、こうした政府の人員とかは毎年の予算で決まるようなものでございます。したがいまして、こういった法律で何か、24か月を何年以内にどうするかとか、確定的に決めることがなじむか、適当かという点については議論があるところだろうと思っております。
 もう一つは、先ほど申し上げましたように、今の24か月をゼロにすることを目指すといいましても、スッと減っていくわけではございませんで、逆に、審査請求期間を7年から3年に短くしたことの影響が出てくるわけで、例えば、よく法律などで、5年先の目標とか言いますけれども、それくらいの期間ですと、逆に延びていく状況になるわけでございます。こういったものを目標という形で世の中にお示しすることが、果たして元気がでるような話なのかとか、そのような問題もあろうかと思っております。もちろん、目標を持って最大限の努力をするという点については、私どもは全く異論はないのですが、それを法律で規定するとか、法律に基づいて規定することが適当かという点については、私どもは、ややネガティブに考えております。

○野間口委員 先ほど滞貨の話が出ましたけれども、私どもは滞貨を増やしている原因をつくっているのであれですが、私どももそれなりに努力しているつもりですし、ここ何年か特許庁の方で改革・改善をやっていただいて、許された範囲内で創意工夫をいろいろやっていただいたと私どもも思っておりました。その結果を踏まえて、具体的な構想を出していただいたことは、我々としては評価しております。
 我々の方も、先行技術調査、出願した後、審査請求をする段階での絞り込み等、日本の現状を考えて、できるだけの協力をしたいと思っておりまして、それと国際競争の場で知的財産を生み出す力を外国に負けずにやっていく、国内も含めてですけれども、お互いにコンペティターに負けずにやっていくということとのトレードオフでございまして、こういうことをやっていただきながら、私どもの企業の活動も吸収しながら、全体としては滞貨を一掃して迅速な審査ができるようにやっていただくというのは、非常に良い方向に行くと思います。できたら、目標年限を決めてやっていただきたいのですけれども、実際は、生き物ですから、なかなかそうはいかないだろうなと。官民挙げて協力し合うことが必要かなと思います。
 一つだけ質問させてください。12ページで、大変目新しく感じましたのは、出願する前に先行技術調査をすることは、今や一般の企業は徹底してやるようにしているのですが、特許庁の方で、審査をおやりになる前で、先行技術調査を指定調査機関を使っておやりになると。これは、審査を始める段階でしょうか。それとも、公告の段階でしょうか。

○迎総務部長 これは、我々が請求されたものの審査を始める前に、記載されておりますように、指定調査機関にサーチを依頼するというものでございます。

○野間口委員 それでは、出願人が事前に行ったものと、特許庁で独自におやりになるものと、両方の先行技術調査をもって審査されるということでしょうか。

○迎総務部長 今現在は、出願人が御自身または外のサーチ機関等をお使いになってされたもの出願されてくるわけですけれども、それを、我々としては、指定調査機関でさらにしているというのが現実でございます。そこを、今提案しておりますのは、見直し後の方では、我々が信頼できるサーチレポートをつくっていただける指定調査機関に、もし、そういう余裕が出てきた場合、そちらに出願人が直接依頼して、そのレポートをお持ちになった場合は、品質等が信頼できるならば、我々もそれを利用できるということがございますので、それに相応した分の料金の減額等を検討していきたいということで御提案しております。そのためには、やはり指定調査機関を複数化し、そういうところを日本国内に増やすことが重要であるということで、今、それについて検討しているわけでございます。

○野間口委員 将来的に、日本国として、両者の連携、データベースの充実が図られていくと、抜本的な解決につながるのではないかという希望が持てるなと思って聞かせていただきました。

○迎総務部長 基本的には、こういう調査をやる機関が、これとこれとは同一の機関と思っておりまして、まさに、今、工業所有権協力センターなり特許庁がやっているような先行技術調査のデータベース、あるいは、やり方が、より日本に広く普及していって、それで出願される方も同じように調べて、ということでノウハウが均一化してくると、審査もスムーズにいくと考えております。

○小野特許技監 1点付け加えさせていただきますと、IPCC等は日本の公報の検索が中心ですが、今回、そういう法改正をしたときに、実は、外国のデータベース、例えば化学メーカー、製薬メーカーがよく使っております、化合物が新しいものかどうかということを調べるデータベースは世界共通でございます。そういうものは、我々がやっても、恐らく企業の方も同じようにやられていると思いますので、その検索の標準化ができ、それに基づいた調査ができる組織ができますれば、そういうところは我々も出願人も自由に使えると考えられます。
 実は、これは日本だけの特徴ではございませんで、例えばアメリカの特許庁でもそれが通用するような仕組みができないかということで、日米、それからヨーロッパを入れた特許庁の間でそういう検討もしております。したがいまして、同じデータベース、検索手法を広めていくことが、我々の負担を軽減して迅速化するだけではなくて、出願人の方の負担も軽減するということにつながるのではないかという趣旨で、こういう法改正を進めたいと考えております。
 以上でございます。

○阿部会長 それでは、竹田委員、どうぞ。

○竹田委員 今のお答えでわかりました。質問としてはありません。

○阿部会長 それでは、ほかの委員の方、どうぞ。

○久保利委員 今の御説明に関連してですけれども、確かに、目標とか進路の進み具合をコントロールすることは難しいかもしれないのですけれども、精神規定だけ書いて、例えば裁判迅速化法でも、2年という目標が書かれなかったら、たぶんあまり意味がある法律とは言えなかった。逆に、そういう点で言うと、何年でこれくらいにというのは、どこまで正確に書くかは問題ですけど、やはり目標を書かない法律では、特許審査迅速化法にはならないのではないかと思います。したがって、私としては、その目標をどうつくるかというのは、もちろん特許庁の意見も聞かなければいけませんけれども、これまた特許庁が一所懸命におやりになっていても、今のような状態になっているのを変えようという国家的戦略ですから、これも大変心苦しいのですが、やはり特許庁もまな板の上のコイではないか。
 したがって、そこに目標とか何とか全部ゆだねるわけにはいかなくて、ある程度、こういう努力目標でやっていこうよと。そのためには、これだけの予算も付けろよと。その結果として、モニタリングはこうやっていこう、そのための組織もつくりましょうよ、ということで立法するしかないのではないか。例えばアメリカであれば、サーベンズオックスレーみたいに、アメリカのコーポレートガバナンスがおかしいとなったら、SECが弱いからだ、SECにどうするんだ、具体的に予算を増やせと、何百億円も一挙に増やすということを法案でつくるわけです。日本の制度ではそうはならないのかもしれませんけれども、少なくとも、何年間でこれをゼロにするように努力せよ、そのためにはこれだけの手当はしよう、それが逐次進んでいるかどうかはモニタリングしよう、その制度はこういう組織だ、というくらいまで書き込めるような迅速化法があるべきではないかと、私は意見として申し上げたいと思います。

○阿部会長 ほかにどうぞ。

○竹田委員 特許庁が提示している具体的な施策は、それはそれで意味があると思っていますけれども、今、久保利委員がおっしゃったことに関連して申し上げますと、具体的にこれらの施策が全部スムーズに実現できるかどうか。例えば、予算上、そういう措置をとれといっても、実際上、それで予算上の措置がとれるものではない。法律で書けばとれるものだったら、定員法の改正でも何でも、私は総合科学技術会議で前から言っているのですけれども、審査会の質の向上と量の増加が不可欠だと。では、定員法を改正して増員すればいいではないかといっても、実際上はそれがなかなかできないわけです。ここで審査官の定員を、これは臨時的な 500名ということですけれども、これを恒常的に定員それだけ増やすことを迅速化法で書けば当然増えるものだったら、それは大変結構だと思いますが、そういうことは今の日本の法制度の中ではまず不可能であることは、久保利委員もよく御承知のことだと思います。そういう意味では、具体的な施策がどこまでできるかということが問題であり、現実の見通しが立たない状況で期間を限定するという考え方には反対です。
 もう一つは、滞貨を一掃するためにいろいろな施策を講じて早くやりましょうということは賛成ですけれども、一番困るのは、審査の質が落ちるというか、拙速になることです。審査制度には各国でいろいろな制度がありますけれども、実際にこれだけプロパテントで権利が強くなってくればなるほど、本当に特許に値するものだけが許可されなければならないわけで、そのためには、厳正的確な審査も一方では必要なことで、その両輪の中で、どういう法律をつくっていくかという視点が絶対に不可欠であると思います。

○荒井事務局長 審査待ち期間をゼロにするという目標自体は大事なことで、私も賛成です。ただし、日本の場合、審査請求制度があって、さらにまた3年げたをはいているというか、ほかの国よりも遅れぎみになるということも一つの事実としてあると思います。
 それから、きちんと目標をつくってやっていく。裁判迅速化法のいろいろなものを勉強させてもらいましたけれども、やはりそういうことでみんなが協力していくことができること自体効果が大きいわけですから、ああいう成功例を見習っていったらいいのではないかと思います。
 ただし、今、竹田委員からのお話のとおり、そのために各種の手段が十分かとかいろいろなものがありますので、さらに加えて、中期目標とか中期計画とかいうものも法的につくって、こういう目標でそこに向かってやっていく。しかし、そのためには、毎年、どこまで進んできているか、何が足りないから遅れているかとか、そういうことを分析して目標に向かっていく。それを国全体として取り組んでいくという法的な枠組みをつくって、技術開発もスピードの時代ですので、ぜひこの目標に向かってやっていくように、法的にもしっかりした目標をつくる。中期目標をつくる。そういう仕組みをつくったらいいのではないかと思います。

○阿部会長 ほかにいかがでしょうか。

○下坂委員 14ページに、審査官の大量採用ということがありまして、今、手段として提示されましたいろいろな方策があって、特許庁には大変がんばっていただいておりまして、私どももできる限りの協力を弁理士としてもしなければないというところです。
 任期付き審査官を2004年に採用して2016年まで、これを処理することによって、2016年ごろには滞貨がだいぶ減るだろうということですが、今から8年の後、10年の後、滞貨ゼロが14年後ということでしたら、息の長い話ですが、その息の長さで、しかもその目標を持続するという裏付けはどういうものでおやりになるとお考えでしょうか。

○迎総務部長 息の長いものをどう持続するかというのは、そもそも知財基本法という法律があって、そういう中で、政府全体としての推進計画も受けて、私どもとして、こういう迅速化のための総合施策をつくっていく、なおかつ、法律を提出して国会にも説明するということであるわけですから、それが途中で、人も10年ということで来ていただくわけですから、朝令暮改みたいに方針が変わるとか、そういうことは、現実問題としてもあり得ないし、許されないことだと思います。
 それから、今、法律で目標をというお話もございましたけれども、今の話とはちょっと関連するのですが、いわゆる国としての施策の方向を鮮明にするという意味での方向は、まさに知的財産基本法で一つ示されているわけですし、例えばそれに基づいてこうした本部みたいなものもできているわけでございまして、そこで何か、私どもの審査の状況について、いろいろと見ていかれるとかいうことについては、例えば政策の持続性が御心配ということであれば、そういうこともされたらいいのではないかと思いますが、それを、法律で目標をガチッと決めるようなことで担保するというのは、ちょっとなじまないのではないかと申し上げているわけでございます。

○久保利委員 そういうお気持ちはわかりますけれども、なじまないというなら、裁判を2年でやれというほどがよほどなじまないわけです。あのなじまないものも、みんなで努力して、何とかそこに持っていこうよということでやっているわけですから。なじむ、なじまないというのは、やってみなければわからない。やらなければいけないことだったら、もちろん正確な、何年でこうするということはなかなか難しいと思いますけれども、努力目標でもいいわけですが、目途とか、例えば、これまでにこれくらいの計画をつくって、この計画についての審議あるいは審査はこういう組織が見るとか、何かそういう、第三者機関もかませて、評価もしながらやっていこうという立法が必要です。
 努力されることはよくわかるのですけれども、その中で、具体的な数値目標の影も形もなくて、ただがんばりますみたいなことでは、逆に予算もつけにくいだろうし、具体的な進行状況も見えにくいのではないか。国民に見える形でおやりになるためには、もう少し工夫の余地といいますか、考え方があるのではないかという気がして、その一つの例として裁判の促進の話をしました。それと全く同じだと申し上げているつもりはありませんけれども、そういう流れを何か踏まえたお知恵が特許庁にもおありではないかと思って申し上げているわけです。

○迎総務部長 すぐに裁判とパラレルに考えられるのですが、裁判というのは、まさに裁判手続きの期間ですね。それは、我々特許で言えば、特許の審査官が、滞貨で待ち時間があって、始めてから1人がだらだらと抱えるのはけしからんというのはわかりますが、待ち時間の滞貨の話は、それは裁判とはちょっと違うのではないかということが一つ。
 もう一つ裁判と違うのは、裁判というものは、まさに多数の、訴える人、防衛する人、いろいろな参加者がいろいろ協力して短くしていくという面があって、もちろん、出願人に抑えていただくということはあるわけですが、それは間接的で、審査というのはまさに我々の中でやる話なので、そこは本当に、さっき申し上げたように、いろいろな工夫はするけれども、人とか人力をどれだけ投入するかにかかわるところが大きいところがあります。
 もう一つは、三権分立の中で、国会が裁判所に何か目標を付与するという話と、私ども行政府が、自分たちで積極的に行政府の仕事を縛ってくれという法律を提出するというのは、意味付けがちょっと違うのではないかと思う次第でございます。

○久保利委員 今の、冒頭におっしゃった2点については、裁判で言えば、今のようなケースは、第1回の口頭弁論の期日が入らないで2年たつようなものでありまして、最低な状況だと思います。
 2番目の、裁判はいろいろな人が関係するからそうだというのは、そのとおりです。今回のところは、むしろ特許庁の審査の開始が遅いのですから、審査官を増やしたり、いろいろな工夫をすれば、ほかの人のことを考えないでどんどんできるという点では、裁判の迅速化よりももっと易しいということであって、これもできない理由にはならないと思います。
 以上です。

○阿部会長 ほかにいかがでしょうか。

○中川委員 今のことに関連した質問です。要するに、この案が出てきたということは、裏返すと、審査期間、あるいは、審判請求があったときの不服申立ての審理の期間が長いかどうかは、特に問題ではないと認識されているということですか。

○迎総務部長 そうです。

○中川委員 待ち時間だけが問題であって、審査時間は十分に短い、待ち時間だけだということですか。

○小野特許技監 補足させていただきますと、2点の問題がございまして、中川委員が御指摘のように、確かに今は待ち時間が長うございます。請求されるものに対して審査能力が足りないということで、今、増員をお願いしているわけです。
 審査の場合のもう一つの問題点は、先ほど、10年もかかるじゃないかというお話ですけれども、やはり、今現在出願されている内容は非常に高度化しておりますし、専門分野ごとにかなり違っております。したがいまして、それだけのいろいろな分野の人間を採用し、研修をして育てていく、従いまして十分な効果が出るには時間がかかります。そういう意味で、今、最大限こういう形で努力しようということを考えております。
 現状は、むしろ、審査に入ってからの期間が短く、今は大体最初の調査及び審査には半日ぐらいでやっていますが、諸外国から見ても、バイオを含め、非常に高度なものをよくできるということをいわれています。むしろそこは十分に対応していく必要があるのではないか。海外で、競争力があり、しっかりした権利をつくるためには、将来的にはそこに十分時間をかけていきたいと思っております。
 先ほど総務部長が申し上げましたように、この4〜5年の間は、インとアウトの乖離が非常に厳しゅうございます。どちらかというと、延びる方向にターゲットとしてはなります。それは、請求の急増に対して、採用しても一人前になるのに時間がかかるからです。先のことを考えると、むしろそれをしっかり育てたいと思います。したがいまして、その中で、我々としては、本当に必要なものを優先的に、早期審査とかいろいろな工夫をして、我が国の出願人の方の競争力が衰えないように工夫しながらやっていきたいということを考えております。
 そういう意味で、現実的には、まず待ち時間をなくするための人員体制を早期に確保したい。その他の手段もいろいろ工夫していきたい。制度的にもまだ工夫の余地があるということで、こういう形で知恵を絞って対応していきたいと考えております。
 以上でございます。

○中川委員 待ち時間だから、これは特許庁がいくらがんばっても不可抗力の部分がある、だから目標年限は出せないという御主張だと理解してよろしいですか。

○小野特許技監 そのように考えております。

○山田委員 私も、方策は出ていて、非常にいいと思いますが、企業の経営者として感じるのですけれども、費用対効果といいますか、それを明確にしていただいた方がいいと思います。効果は目標ゼロということですけれども、それに対して、 500名採用してどう速くなるか、いつからどのような効果が出るのかとか、ゼロ目標はいつの時点で達成されるのかということを、法律でうたうかどうかはわからないのですが、企業だと、そうしたものが出てこないと稟議を通らないと思います。そういったものを定量的に示していただいた方がいいと思います。

○阿部会長 だいぶ時間が過ぎたのですが、特に御発言ございますか。

○高林委員 審査というのは、始まってしまうと非常に速いというお話がありましたが、今、裁判官の判断と裁判所調査官の補助という関係が、司法制度改革でも議論されておりますので、審査官と外注の指定調査機関との関係についてお伺いしたいと思います。只今のお話では、外注の指定調査機関は、今は一つしかないものを、今後は民間に委託していこうということでしたが、出願前に調査する機関と、出願後に調査する機関も共通であって民間のものもあって、そこから審査官にレポートが提出されるわけですが、そのレポートというのは、先行技術の調査ということですけれども、例えば新規性とか進歩性とかいう問題になりますと、新規性や進歩性があるかないかという辺までかなり踏み込んだものになる可能性があるのか、ないのかということをまずお尋ねしたいおと思います。それと、仮にそれがあるとして、最終的に審査官は裁判官のような判断者の立場になるのであれば、それとレポートの作成機関が民間の調査機関であるということとの関係といいますか、その辺をどのようにお考えになっているのかをお伺いしたいと思います。

○小野特許技監 今現在行っているICPPに対するサーチ外注の基本的な考え方は、今、御指摘のように、まず新しいかどうかということ、これは、何を調べるか、どういう調べ方をするかという標準化が確立しております。その中で最大限探していただくということです。
 それに関しまして、まるまる新規性を否定できる先行技術文献である、これは組み合わせれば進歩性を否定できる先行技術文献であるという考え方も研修いたしまして、まずそういうサーチをしていただく。特に今、効率化を非常に進めておりますのは、単にレポートだけではなくて、そのレポートをつくる際に、対話型ということで、サーチャーと審査官が対話することによってサーチ範囲の確認、内容理解の確認、必要があれば追加サーチを指示するということで、審査官が本来やるであろうことを指示することによって、的確なサーチをしていただき,その指示をした後は審査官は別の仕事をやりますので効率を上げていくということでございます。
 そういう過程で、そのノウハウが十分伝わったチーチャーが集まっている機関ならば、その対話が仮になくても、レポートの質がかなり上がってきているのではないか。それで有効利用できるということでございます。あくまでも最終判断は、裁判官と同じように、審査官が最終的にそれを判断するという切り分けをしております。

○阿部会長 時間がだいぶ過ぎましたので、若干まとめさせていただきますと、これにつきましては、特許審査迅速化法案(仮称)を2004年の通常国会に提出することが推進計画ですので、問題は、どういう中身の、どういう内容の法律にするかということを御審議いただくということで来ているわけですが、その確認でよろしゅうございますね。
 そうしますと、今日いろいろ御意見をいただきましたが、委員の方はまだ十分におっしゃっていない可能性もありますので、御面倒でも、事務局の方で各委員の方とコンタクトしていただいて、それもあわせて事務局の方でとりまとめ案をつくっていただく。これは経済産業省から法律を出されるということだと思いますので、もちろん特許庁と調整をしていただくということで、その結果をここで改めて御議論いただくことにさせていただきたいと思いますが、それでよろしゅうございますか。
 それでは、オーバーしましたけれども、本日は終了させていただきます。
 特許庁のお2人には、どうもありがとうございました。よろしくお願いします。

○迎総務部長 どうもありがとうございました。

○阿部会長 若干確認をさせていただきますと、先ほど申し上げましたが、知財高裁の創設につきましては、本日の御議論も含めて、論点がほぼ出そろっているのではないかと思いますので、次回の最終的なとりまとめを目指して事務局に整理をお願いするという大きなお仕事を先ほどお願いしましたが、それが1点。それから、今の迅速化法(仮称)につきましては、先ほど申し上げましたようなことで、事務局で案を整理していただくといことで、次回御議論を願う形にさせていただきたいと思います。個別にいろいろ御相談があると思いますので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、来年以降のスケジュールに関しまして、資料8を御覧いただきたいと思います。ここに、第5回及び第6回の専門調査会で、模倣品、海賊版対策について御議論いただくということであります。この日程はぜひ押さえていただきたいと思いますが、実は、私は、第5回になるかどうかというのは、今日御議論いただきましたテーマが、次回うまくまとまればという前提ですので、そこはお含みいただきたいと思います。
 それでは、これにて閉会をさせていただきたいと思いますが、次回は、12月11日、木曜日の午後4時からでございます。
 本日は、長時間にわたってありがとうございました。