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第2回 医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会 議事録


1.日 時:15年12月5日(金)10:00〜12:00
2.場 所:知的財産戦略推進事務局 会議室
3.出席者:
【委 員】井村会長、秋元委員、上田委員、片山委員、北村委員、見城委員、澤委員、田村委員、平田委員、広井委員、森下委員
【参考人】岩尾医政局長、小野特許技監、岡野東京女子医科大学教授、大野旭メディカル技術最高顧問
【事務局】荒井事務局長
4.議 事:
(1) 開会
(2) 先端医療技術を巡る現状と課題について
(3) 討議
(4) 閉会


○井村会長 おはようございます。それでは、ただいまから「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」第2回の会合を開催させていただきます。
 お忙しい中をお集まりいただきまして、大変ありがとうございました、本日は前回申し上げましたとおり、2人の方に参考人として出席をしていただいておりますので、まず御紹介を申し上げたいと思います。
 東京女子医科大学の岡野光夫教授です。

○岡野参考人 岡野です。よろしくお願いいたします。

○井村会長 それから、旭メディカル株式会社の大野邦夫技術最高顧問です。

○大野参考人 大野でございます。よろしくお願いいたします。

○井村会長 お二人には、後ほど説明をしていただいて、また討議にもできたら参加をしていただきたいと考えております。
 それでは、本日は最初に前回欠席された、片山委員と平田委員から、この専門調査会の検討課題について、少し御意見を伺いたいと考えております。
 その後、北村委員、岡野参考人、大野参考人の順でそれぞれ御意見を述べていただくことにしたいと思います。
 前回は、上田委員、森下委員からお話を伺いまして、私もわかったつもりではありますけれども、何となくまだすっきりわからないところもいろいろございまして、今日後でお二人から追加の御意見をいただくことにしたいと思っております。
 それでは、まず、片山委員、お願いします。

○片山委員 弁護士の片山でございます。よろしくお願いいたします。
 前回の記録を拝見すると、すごく活発な議論がなされておりまして、今日何を申し上げようかと思ったんですけれども、私自身は知的財産権の侵害訴訟やら、あるいは契約、ライセンスのいわゆる実務家でございますので、そう大した話ができるわけではないと思います。
 ただ、この10年ぐらい前からでございますけれども、企業のトップから、特に国際的な関係で知的財産の戦略というか、そういうことを御相談受ける機会が増えてまいりました。それは明らかではございますが、現在では企業のトップにとってこういう知的財産は特許部長マターですというふうに任せておくわけにはいかない時代になってまいりましたので、そういうことが影響しているんだろうと思います。
 そういう目で、特に外国との比較というような目で日本の制度を見ますと、どこが日本の企業が強くて、どこが弱いんだろうかというようなことを考えるようになります。
 直観的に日本の企業が強いと思いますのは、やはり従業員の方々、組織に属している方々が、末端まで企業と非常に一体感がありまして、デパートの店員さんまで自分の会社のことを思って、日々何か改善なり、工夫なり、こうやったらもっとうまくいくんじゃないかということを考えておられるというのは、これは何といっても日本の企業の強いところである。あるいは、日本人の強いところであろうと思うわけです。
 外国はこれに比べまして、当然のことですけれども、それぞれの社員のファンクションがはっきりしておりまして、あなたは発明をする人、あなたはそれの下働きをする人というようなことで、区別が非常にはっきりしているように思います。
 特許制度というのは、どうも日本人のこういう性格にある意味ではぴったり当てはまっているんではないかと思います。企業の中で提案制度、あるいはTQC等がありますけれども、一つひとつの小さい工夫が積み重なって、たくさんの提案が出てまいりまして、その中からいいものが選ばれて発明として出願されるというような過程が、どの会社にもございます。
 そのために、逆に日本では非常に出願の数が増えまして、特許庁の方でお困りであるということは、歴史的にはあるんですけれども、ただそこはやはり日本のいいところではないかという感じがいたしました。
 この会で是非、ちょっと違った側面ですけれども、お伺いしたいと思いましたのは、医療の現場、例えば病院等で、その辺りがどんなふうになっているのか、あるいは特許制度を導入した場合に、それがどんなふうに機能していくのかということに興味がございます。
 先端医療の先端の話に比べますと、大変に瑣末な話のようにも思いましたが、あえて御紹介申し上げたのは、どうも発明というのは、確かに非常に大きな投資を全体としてかけて出てくるというようなものもあれば、特に日本人が得意なのはその周りを一つひとつ工夫をしていって改良を重ねていく。一つひとつをとると小さいことかもしれないけれども、実際のアプリケーションにとっては非常に重要な位置を占めるということが、経験則上あると思いますので、あえて御紹介いたしました。
 以上でございます。

○井村会長 ありがとうございました。今、最後におっしゃったポイントが、実はこの専門調査会の大変大きな課題ではないかというふうに思っております。
 それでは、平田委員、お願いいたします。

○平田委員 平田でございます。私は、協和発酵の会長をしておるわけですけれども、今回この委員に選ばれたことを考えますのに、1つには井村先生のやっておられるバイオテクノロジー戦略会議の委員をやらせていただいていたこと、また弊社の場合主に医療に関する領域では、医薬品が中心でございますが、診断薬部門の事業もやっているということがございます。
 先端医療につきましては、いわゆる胎児性の幹細胞以外に、成人の体の中にいろんな多分化能を有する幹細胞、幹の細胞というものが同定されております。これが治療上非常に大きな有用性、潜在的な有用性を持っているということで、いわゆる再生医療とか、幹細胞を使った新しい薬ができないかということで、弊社も少し研究をしておるわけです。
 そういう観点で意見を言わせていただければと思います。
 一般的に知的財産権の付与ということに関しましては、やはり何と言っても最近の非常に急速なライフサイエンスというか、生命科学の進歩というものを逸速く社会に還元する体制作りが大事だと考えております。患者さんはいろんな面で本当はまだ十分な治療を受けているとはいえないわけで、そういう患者さんによりよい治療を早く提供することが、やはり一番重要ではないかと思います。
 そのためには、やはり新しい研究や開発が奨励されて、促進されなければならず、同時にフェアな、適正な競争環境というものが保障されるということが一番大事なのではないかと思います。
 そういう面からこの知的財産権というものの役割をとらえていけば、いろんな問題も解決できるのではないかと思います。
 前回調査会における委員の先生方の議論の中でも、まず医師の医療行為に対して、治療法方特許が束縛するんじゃないかという懸念がございましたけれども、これはアメリカでも医師の医療行為については必ず免責するとか、そういう前提をしっかり確認しておけば、その問題は余り議論をしなくてもよろしいのではないかと思います。
 もう一つは、特に新しい先端医療の場合、当然医師が患者に医療行為をするわけですけれども、その研究開発の過程を含めて、医師だけではなかなかできないわけです。やはりそれを取り巻くいろんな協力体制が必要でございます。単に先端医療機器があればよいという問題ではなくて、いろんな意味で研究、技術開発、それを実際にアプライする場合もやはりチームとしてこれが初めて可能になるのではないかと思います。
 そういう意味では、医師の医療行為は免責する一方、他のチームの、多分に企業がこれに関与するわけですけれども、そのチームのインセンティブを妨げないといいますか、むしろ奨励するという視点でこの知的財産権を付与する必要があろうかと思います。
 もう一つは、今まさに国際的な、非常に大きな競争下にあるわけでございまして、フェアな競争というのは、国内だけの問題ではなくて、国際間でも担保されなければいけませんので、いわゆるハーモナイズした、標準化した競争環境というのが必要であろうと思います。例えば再生医療の場合、私どもの実際の研究成果である、ある幹細胞を特定して、それを医療にアプライしようとする場合に、アメリカの場合には非常にこれにまつわる技術というものが知的財産権として認められております。そうしますと、日本ではそれが認められてない状況下では、やはり研究開発に対する奨励といいますか、それをモチベートする環境が整っていないということで、やはり競争力の強化にはならないわけでございます。
 もう一つは、新しい産業を起こすということが、これからの日本にとっては非常に重要なわけでございますけれども、例えば新しい産業、再生医療という面についても、やはりなかなかそういうインセンティブがないと、技術開発が奨励されないという要素があるわけで、是非そういう視点からこの問題を考えていきたいと思います。
 以上でございます。

○井村会長 ありがとうございました。
 それでは、早速北村委員から、まず御意見を伺いたいと思います。3人の方から伺いたいものですから、時間の方よろしくお願いいたします。

○北村委員 国立循環器病センターの北村でございます。私は、ライフサイエンスとか医療に関する知的財産の専門家ではございませんが、医療のモノとしてではなくて、医療プロセスの特許というものを検討しようということですが、この問題がモノに比して非常に遅く出てきているということは、人を対象にした医療というものの特殊性と、こういう特許というものの組み合わせにかなり難しい問題があるがゆえと存じます。こういう委員会が開かれ、かつ各国々でも違った対応になってきているのはその結果だと思います。私個人の医師としての立場からの意見ということを申せということでございましたけれども、人の意見もその立場によって影響を受けることは事実でございますので、少し国立循環器病センターの取り組み、その他をちょっと御紹介させていただきつつ、私の考え等々を申し述べさせていただきたいと思います。
 国立循環器病センターは、御存じと思いますが、厚生労働省の病院と研究施設を持っていまして、井村先生始めライフサイエンスの総合科学技術会議の諮問を受けて、厚生労働省でも本日御出席されております岩尾医政局長、あるいは高倉課長等の下で、本年3月にはこういう「医療機器産業ビジョン」というものを提出しております。

(PW)
 こういったものの実行使命を受けたナショナルセンターとしての取り組みは、私から何でございますが、大変積極的に医療技術の産業連携というものにも取り組んでいるのが現状でございまして、平成13年、14年ごろから特許の取得率はうなぎ上りに増加しています。これの功罪と申しますか、有効性というものについては、また別の機会があろうと思います。

(PW)
 更に国立循環器病センターの英語の名前が、頭文字を取りますと、NCVCという略語になるんですが、これを本年商標マークとして登録いたしまして、既に世に4つの品物を出しております。これは輸血の管理ソフトですが、半年ばかり前に出しましたが、日本の大学で10か所以上に採用されております。この小型の模型人口肺は、日本国内では市場2位のシェアを持っております、今、アメリカ、ヨーロッパに展開しているところであります。
 これは大日本インクという会社、これは大日本商事という会社、これはトヨタのアイシン精器というところと一緒に協同開発してきたものです。人工心臓の補助駆動装置ですが、これは今、薬事申請中でございまして、もうすぐ通していただくと思っています。ヨーロッパ、あるいは韓国からもかなり引き合いが来ております。
 それから、新しいヘパリンをコーディングした膜の開発です。こういったものをやっておりまして、まず私の姿勢も決して特許化、産業化への努力を惜しむものではございませんし、反対意見の持ち主でも決してございます。
 ただ、医療において、どういうことをモノと違う特許として認可していく場合にお考えいただきたいかということを、ちょっと申し述べさせていただきたいと思います。

(PW)
 そもそも医師の免責ということが、先ほども出ておりますが、それを抜きにいたしますと、この医療行為と特許というものは、弊害が多いということで、1999年にはノーという結果を、世界医師会総会(WMA)の方で決められているのは御存じと思います。
 そこで、米国と同じように、医師、あるいは医療機関が、この医療プロセス、医学的手法を用いる場合、特許権侵害としないという形で行ってはどうかというのが、この会の趣旨ではなかろうかと思います。根本的に医師が行う医行為というものと、経済活動としての特許というもののややこしいところは、医師が医学的手法で特許を取り、自ら起業し、(今、国は医師のベンチャー起業を推進しております)それを利用する医学的手法を、自らその医師が患者に行う場合、医行為の原点とされます、適切な医療を提供する倫理上の義務を前提とした患者と医師の信頼関係というものに、歪みが生じないのかということが、一番の大きな点ではないかと思います。これは決して医療行為そのものだけではありませんで、モノに対しても同じような歪みが生じるとも言えます。従って、これを余り追及すると根本論から進まなくなってしまうこともありますが、しかしもしも経済活動としての医師の行為と人道的・倫理的な医師と患者との信頼関係が拮抗するような場合が生じたならば、やはりこちら(人道的・倫理的信頼関係)を優先すべき上位に置くべきものであろうと考えます。
 ですから、その認可のときのプロセスには、かなりモノと違った形での審査の在り方も必要ではなかろうかと考えるわけであります。

(PW)
 今からの新しい医療、例えばこれは総合科学技術会議で、私も委員をさせていただきましたし、井村先生の方で取り行われました、医療ナノディバイス、DDSのようなものでは、1つ投与法とか、体の一部分に集積する、そのものの原理、システム、手法、投与法、そういったものが確立されますと、これをがんに効かすのか、動脈硬化に効かすのかというやり方で、非常に後が容易になってしまいます。しかしながら、膨大な努力と経費は、ここの部分にあります手法の問題にあるわけでありまして、こういったことからいいますと、包括的な医療プロセス、あるいは医学的手法の特許は、確かに必要なものがあろうというふうに考えます。

(PW)
 実際、この4府省連携のナノバイオニック産業振興の中では、厚生労働省も入ってやっておりますが、この中にも到達目標には、新しい投与方法の提供が入っています。これは、いわゆるモノではなくて、今、我々が議論しているような手法の特許を考えようということが、既にうたわれております。これがドラッグデリバリーシステムであります。

(PW)
 もう一つの大きなナノバイオニックの方の取り組みは、ナノディバイですけれども、ここでもこういう文章が入っていまして、系統的な開発、こういったところから決してモノ単独ではなくて、治療システム、そういったものの特許も必要であるということは、既に厚生労働省、文科省も含まれて、経産省、農林水産省の4府省で進行している大型プロジェクトでも唄われています。こういったことはやはり手法特許に合うべき部門ではなかろうかとも考えています。
 ただ、そのときに、モノと違ってどういうことを一緒に御勘案いただきたいと感じますことを、幾つか申させていただきたいと思います。
 例えば、ロボットによるテレサージャリーシステム、こういうものの特許を取るときに、どれだけの条件づけをするのかと云うことです。この特許を取るためのいっぱいのプロセスがありまして、それに認められた、少なくとも前臨床研究のレベルでの成果がなければならないということは承知しておりますけれども、やはり上流特許に相当いたしますので、同時の多発したこういうプロジェクトがロボットの方から入る人、あるいは、電送システムから入る人、こういったところがたくさん入ってくるわけです。そうすると、この上流特許の重みが非常に大きいので、どういう条件づけで上流特許として認めるのか。でないと、両システムを合わせる場合に、多くの会社が参画して入っている場合に、上流特許の取り合い合戦が激烈化することはもう目に見えておるわけで、そこをどのように、個々の特許等々をどの程度持ったところに認可するか、こういうプロセスはモノ単独よりも、やはり難しいのではないかと思っております。

(PW)
 これは事務局から出たものですが、上流特許取得の条件がたくさんあることはわかりますが、やはり基本的な特許なくして、個々の特許なくして上流特許を認めるのか、それをすると概念特許としての大きな問題で、ほかに競争的な環境をつくろうという目的がかえってある他社の参入を防ぐということになりはしないかといふうな気もするわけであります。
 ですから、どういう条件で上流特許を認めるかということも、1つ検討課題ではないかと思います。

(PW)
 もう一つ難しいのは医療というところでありますが、これは医者が患者に行うものが医療で、そのプロセスというのは手法であります。ここには、倫理的・人道的な関係があるわけですが、ここに経済的関係が入ってまいります。先ほどちょっと申し上げましたところです。
 それともう一つ別の観点からは、患者はモノと違いまして、いろんな病態と個体差があります。
 しかも、その施術者は今、社会の問題にもなっています、いろんな技術力の差のある医師が取り組んでいきますと、結果はいろいろ変わってきまして、同じ特許のある医療手法を用いたところで、結果はばらばらになる可能性もあります。この点を強調しますと、医師が成し得る身体活動、技能が大きな影響力を持つ医療プロセス、医学的手法は、特許になじまないものとして、代表が手術ですけれども、これは特許化しないということを、始めから皆さんも前提に入れておられるわけです。しかし、ものによって違うでしょうけれども、この医療プロセスの特許において、特許のある技術を用いる場合に、やはり手術等と区別できない部分が存在し得るということです。
 もう一つは、医療に用いる特許には、安全性と特許とは、関係がないとおっしゃる方もおられるようでございますけれども、医療における特許に安全面とか倫理面を考慮せずにいいのかというところもあります。

(PW)
 結局、このモノと医療プロセス、あるいは医学的手法というものでは、問題が発生したときに、対象が患者さんですから、命ですから、対応する仕方をどのように考えるかということも、やはり考えておく必要があるのではないかという気がいたします。というのは、特許のある商品になります治療法を用いて患者を治療した医師は免責されていますけれども、今の世の中はこの医師そのものが社長さんになれる、企業の主体になれるわけでありまして、その技術が自らが劣っていると知りながらも、販売活動にかこつけて行うと、そういった基本的な問題のところではやはり上流には、医師の人道・倫理感が働かなければならないということ。そして、問題が発生した場合には、薬に対しては今は御存じのように薬事法、あるいは副作用報告、被害救済、モノではPL法というもので責任と、それを用いた医師の技術、知識に応じて、責任が発生しているわけですが、今度は特許という言わばお墨付きを与えた医学的手法を用いても、先ほど申しましたように、患者対象が異なりますから、うまくいかない人がたくさん出てきます。死ぬ人も出てきます。
 そういったときに、やはりそれは医師だけの技術の責任に負わせられるのか。特許承認の方法を用いたではないかとならないか。特許とは関係ないと言えるかもしれませんが、やはり医療技術上は個々の医師が責任を取ることになると思います。
 ですから、医師は経済的には免責されても医療上は個々の責任においてのみ行うのかということも、ちょっと考えておく必要があるんではないかという気がしてなりません。

(PW)
 最終的には、やはり医療側から申し上げさせていただきますと、この上位の2点です。経済界から言いますと、勿論この2点、3点が重要だと思いますけれども、まず患者に不公平、不利益にならない。それから、患者の医師への信頼を損なわない。これを上位に置いた上で、経済活動としての推進策を講じると。しかし、その具体的な例はばらばらでありまして、先般御2人の再生医学の大家から御報告のありました手技の部分で、例えば注射をする、あるいは皮膚を切り取るというようなものの特許としての意義がわからなかったんですけれども、更に高度な技術として、新しい手法というものに対しての意義はあると思います。ここで特許という経済性だけを強調されますと、やはりこれが医学的プロセスという特殊な特許ですから、人道性とか安全性が欠如していく。
 例えば、高倉室長がよく申されるのは、自殺の幇助機というものの特許を認めたと、それは殺人の道具にもなり得ると。そういったものを認めるのかと、経済感覚からだけ言えばOKでも、やはり公序良俗に反するというようなこともあります。一つひとつの特許を申請する前にはモノと違った、医療者を含めたような組織も含めての検討をした上での慎重な特許認可という姿勢が要るんではないかというふうに感じております。
 以上であります。

○井村会長 どうもありがとうございました。
 少し時間の都合で、3人続けて御意見を伺った上で議論をすることにしたいと思います。それでは、続きまして、岡野先生、お願いいたします。

○岡野参考人 東京女子医大の岡野でございます。今、先端医療ので、どんなことが起きているか。また、細胞が薬になるような時代になってきましたので、医療が変わり始めているわけです。少しそんな話をさせていただきながら、この国に今、先端医療を使って治らない患者を治すような社会をどうしたら実現できるかという観点で、少し私の考え方を紹介させていただきます。

(PW)
 私たちのグループでは、角膜移植の再生医療をスタートさせています。黒目と白目の間に輪部という部分があるのですが、ここからわずか2ミリ取って、そして1つの細胞シートを培養して作製致します。この培養皿に新しいテクノロジーがあり、温度を下げるだけで培養した細胞シートを壊さないで剥離し、目に張り付けるという新しい治療が実現しました。

(PW)
 温度で特性を変化させる特殊な培養皿の上に、37℃で、輪部より2ミリの細胞を採取し1つの角膜のシートをつくります。そして、このドーナツ型のサポーターのメンブレンを乗せて、20℃に下げるだけで、このシートが端から剥離を始めるわけです。今までは、酵素を使わないと細胞を培養皿から取れませんでした。したがって移植できるような細胞シートというのは取れなかったのですが、この温度応答性培養皿できれいな細胞シートが取れます。
 このときに、細胞シートの片面が天然のたんぱく質の接着たんぱくが付いているのです。ピンセットで取り上げていきますと、細胞シートが全部取れてくるわけです。こういうことができますと、片面についているたんぱく質がのりになっていますから、いろんなところに移植できます。特許はこういう培養皿で取れます。また、細胞のシートで取れます。しかし、これをどういう治療に使うかというのは、ものすごく膨大な研究開発費を使いながら取ることができません。

(PW)
 例えば、私たちは阪大の眼科と、今、臨床を始めています。62歳のザルツマン変性症という患者さんに再生治療をしました。角膜の上皮の細胞が失われているために、結膜組織が入ってきまして、血管が中に入って、結果としてこのように濁ってきて、ほとんど見えない人に手術するわけです。(PW)
 外科的に結膜組織を上から切り取ってしまえばいいわけです。これをこのまま切り取ればもう見えます。その後、先ほどの角膜細胞シートを取ってきて、上から乗せてしまえばいいわけです。これで完全に治ってしまいます。既に、12人の人たちに再生治療し、100%成功しております。正に、革命的な治療技術ができ上がっているわけです。
 ところが、私たちが日本でやっている限り、こういう技術は特許を取れません。それから、世界中で今、私のところに見に来ており、注目されていますが、この国で新治療を進めるということで、社会に最先端の治療を支援するシステムが弱いため、苦労せざるを得ないという状況にあります。
 糸で縫う必要はなく、細胞シートを貼り付けるだけで治ってしまうのです。

(PW)
 これはもう1年経っているんですが、1年経ってもきれいな目を保持しています。こういう革命的な技術が今できている時代に、昔のままの方法で進んでいっていいのかどうかを考える時代が来たように思います。

(PW)
 これは、シャーレの中に心筋組織を作ったものです。4層の心筋細胞シートを重層化させて組織を作り、これを、コラーゲンのメンブレンの上に乗せています。ごらんいただくようにこのシャーレの中で、グルコースと酸素を入れるだけで動き続ける、このような心筋の細胞シートが世界で初めてできています。今、私たちはこういう心筋組織を、すべての細胞がシンクロナイズ、同期して動くような組織を作ることができます。グルコースと酸素を入れればこの組織は動き続けるわけです。

(PW)
 こういうものをつくって、心臓の心筋梗塞部分に張り付ける治療を、阪大の松田教授、澤助教授と一緒にやっています。これは1つの例なんですが、梗塞の動物モデルをつくりました。2週間後に心臓の拍出量が45%に落ちているのですが、2層のシートを張り付けると64%に回復します。
 ここのところに細胞の2層シートを張り付けた部分ですが、心臓の動かなかったところが動くようになってくるわけです。拍出量も上がるようになります。細胞シートのパッチを張ることによって、心筋梗塞の治療ができるという時代が、今まさに目の前に来ております。


(PW)
 こういうことが、今年の『Nature』で紹介されまして、「The beat goes on」ということで、再生心筋の組織を背中に入れますと、1年以上こういう心筋シートが動いていまして、オリジナルの心臓と背中の心臓の両方の心電図が撮れることになります。そんなことがテクノロジーとしてできる時代が来たわけです。

(PW)
 私は、医療特許の意義に既に先端と先進を分けて使っておりませんので同じ意味でご理解下さい。
 国際競争力を強化するためには、先端医療研究をやる人たちにインセンティブを与え、あるいは支援をしていかないと、今後国際的に競争していけないと思います。
 それから、医工連携といいまして、今、医療現場にいかにハイテクを持ち込むかというのは、1つの課題であります。
 産業を創出していかないと、この国はペースメーカー1台つくれない国になってしまったのです。どの企業もペースメーカーはつくれるわけです。ところが、自分でつくれるのですが、患者に使える完全な安全を保証できるペースメーカーは1台もつくれない国になったのです。このまま体制、制度を変えないと、ハイテク治療は私は幾らつくっても、何も使えないことになります。そろそろ考えるべき時期が来たということです。
 医師がテクノロジーとしていろいろ格差があった場合に、こういうテクノロジーを入れることによって、かなり均一な、そして高度な医療にしていくことができます。こういう先端医療の情報化を促進して、目に見える、患者に見える治療、患者が選んでいける治療の社会をつくっていかないと、高度な医療社会は実現できません。

(PW)
 治療用具の輸入と国内生産を見ていただきますと、日本という国はペースメーカーが100 %つくれないのです。全部今、ペースメーカーは輸入品を使っているわけです。
 人工関節、人工骨は、80.7%。
 ステントとか血管の修復材料は、99.9%輸入です。
 人工血管、96.1%輸入。
 創傷被覆・保護材は、73.9%輸入。
 カテーテル、そういうのもみんな多くが輸入です。
 今、私たちにテクノロジーがないのならいいんですが、テクノロジーを持っていながら、医療に使える国にしてないというのが最大の問題だろうというふうに思います。

(PW)
 医療はお金がかかるかかると言いながらも、アメリカは輸入に比べ輸出が過剰になっています。治療器、医療器が、青い方が輸出、こちらのえんじの方が輸入です。アメリカは、圧倒的に輸出超過の国であります。ですから、ある程度医療がかかっても、輸出で外貨を稼いできています。
 日本は全部こちら側が輸入で、こちら側が輸出ですから、すべて輸入超過になっていますから、この部分をほかの産業で稼いで、ここに投入しなければ、この国の医療は維持できなくなってきます。

(PW)
 特許の件数を調べてみますと、この辺は診断の部分なんですが、こちらの治療の部分を見ていただきますと、ここの黄色い部分がアメリカの出している特許件数です。それから、このえんじのところが日本です。そして、ここがヨーロッパです。圧倒的に治療器に関しては、アメリカが優勢の時代をつくっています。これがなぜなのかを本気で考えなければなりません。産業がものすごくプリミティブですし、現実に特許も全然出てきてないわけです。これは、今の特許法の問題とどういうふうにリンクしているのか、もう一度考えてみる必要があるだろうというふうに思います。

(PW)
 今、御説明してきましたように、低分子の医薬が安定なものが薬であるときには、薬を合成あるいは抽出して、その薬で特許を取れば、それでよかった時代から、今度はたんぱく質、遺伝子が薬になり、さらに細胞とか組織が薬になる時代になってきています。どうやって細胞を取ってくるかとか、どうやってこの細胞を管理して、安全に増やしていくかとか、どうやって輸送するかとか、、どうやって移植するかとか、そういう新しいテクノロジーが実際の治療に必要な時代になってきているわけです。
 ところが、今までの低分子の薬でつくってきた特許の考え方を、そのまま新しい時代に対応させていきますと、多くの問題が出てくることになります。

(PW)
 製造メーカーは、細胞の加工とか培養で特許が取れます。
 それから、細胞の採取機器、移植機器、こういうものは特許を取れます。ところが、細胞を採取する方法とか、投与する方法とか、治療する方法、移植・手術する方法、こういうものは取れないわけです。この手術をする方法なんかも、これから心臓に心筋シートのパッチを貼り付けて治療する際に、いちいち開胸しないでも、外側から穴を開けて入れるような治療法を開発しようと思っても、特許を取れないと、そういうのをやるインセンティブがなくなってしまうわけです。
 ですから、全く新しい時代が来ているのに、それに対応できていないというのが、私の考えているところであります。

(PW)
 日本は医療というのが、医師と患者の世界すなわち目の前の患者をどうするかを医療の社会としているわけですが、アメリカはテクノロジーをタイムリーに持ち込むということを含めた、5年後、10年後の医療をどうするかを含めた領域全体を医療にしているわけです。ですから、逆にこういう医療に使うテクノロジーを考えますと、医療の開発の中で出た情報が今度は産業分野にフィードバックがかかってきますから、医療以外の領域で産業自身が、医療との関連の中で、どんどんグレードアップして先端化していくわけです。ですから、アメリカはこの全体を医療という社会にすることによって、新しい産業を育てて、ハイテクを育て、そして医師を支援するという立場で、医師ができるだけ高度に、医師の質の違いに関係なく高度な治療ができるような支援をするという立場で体制を整備しています。アメリカはこの全体を医療社会として産業を育てております。日本は、全くここに手が付いてないわけです。

(PW)
 今までの産業上のシーズを医療ニーズに合わせる、すなわち、医師がああいうのが欲しい、こういうのが欲しいといって、それを工学側が持っていくステージがあるわけです。いまだに、日本は医工連携といってもこのステージなんです。このステージは、テクノロジーを従来の延長線上でしか描けないわけです。ところが、世界は今、全く新しいものをつくり出しているテクノロジーに進化しているんです。それは、このシーズとニーズがマッチングして、ここに融合ということが起きているのです。このバイオメディカルエンジニリングという学部が、アメリカでは30年前に50大学で、学部、学科ができております。現在では、100 近くの大学が、このバイオメディカルエンジニリングというのをつくって、医療とテクノロジーを合わせる教育をきっちりして、そして産業を育てるということをやっていまして、新テクノロジーの創出、治療のブレイクスルーを追及しているわけです。そして従来型のタイプから次世代型に治療を変えていこうということをやっているわけです。

(PW)
 これは先ほど申し上げましたので、心筋のパッチなんかをつくる場合です。 

(PW)
 こういうアメリカのカテーテル治療器ですと、細胞をこういうカテーテルを利用し、骨格筋の細胞を心臓に直接に注入するという特許が成立します。

(PW)
 DDSの例で見ると、薬で集積して、温度をかけたときにのみ薬を出す薬物デリバリーと局部加温の両方のテクノロジーをマッチングさせるようなところに関しては、それぞれの分野でしか特許が取れませんので、なかなかダブルターゲッティング、薬と医療機器の相乗効果をねらったようなシステムは発達しません。

(PW)
 私は、こういうテクノロジーを先端医療に応用するときに、開発へのインセンティブを効果的に与える事が重要と思います。先端治療の方法の開発というのは、膨大な開発資源、人、資金、時間が必要なので、これを投入する決断のできる仕組みをつくることが緊急の課題と考えています。その中に治療の特許法は1つの有効な方法であると思っています。
 それ以外に、薬事とかPL法の見直し、医工連携、こういうことを開発したり促進したりさせながら新治療の開発のインセンティブを上げて、先端治療を達成していく社会をつくらないと、日本は国際的に競争できません。

(PW)
 先端治療の開発のバリヤーに関し、アメリカの場合を御紹介したいと思います。アメリカはPL法の対応を特別な処置をしております。何か問題が起きたときに、日本は製造をした人が責任を取るようになっているのですが、アメリカの医療の場合に関しては、例外規定をつくっておりまして、社会が負担するようにし、効果的な治療開発にどんどん使えるようにしています。
 薬事規制なんですが、病院の中に新しいテクノロジーを使えるような仕組みをつくっていまして、まさに医療テクノロジーの新システムを構築しております。治験が効果的にしかも早くでき、治療特許を認め治療テクノロジーが活発に進められる体制を整備しているのです。
 そして、医工連携をもう30年以上にわたって促進し広範な領域での専門家を養成しています。

(PW)
 私は、以上の観点から「特許化による問題点と解決法」ということでまとめました。治療法の特許については特にだれでも利用が可能な仕組みを制度化することが重要です。医療の高騰イメージがありますが実は、効果が高く、再発が少ないために、治療費の低減が可能であると思います。
 この医療費の高騰イメージというのは、誤解で、本当は違うように思います。
 ハイテク医療のみ特許化し、完成度の高い治療情報を伝達する開発インセンティブを上げ、特許化し開発競争を促進するということで、世界に闘える社会をつくっていったらいいと思います。

(PW)
 「特許化の範囲」は、以上のように考えておりますが詳細な議論が必要です。

(PW)
 先端医療に関して、私が今日メッセージとして、医師による医療行為が阻害されないというのは、もう北村先生と全く同意見でありまして、ただ医師はだれでも、治療特許を利用でき、その対価を支払うことを考えております。やはり開発した人にロイヤルティーを払えるようなインセンティブをつくることが大切でこの辺についてはまた議論していただいたらと思います。
 私は、この新しい治療方法や、アイデアを実現した医師、研究者を保護、支援する社会をつくらなければ、先端医療は促進されないということを言いたいわけです。全く新しいことをやらないで、従来のままをやっている人たちが評価されて、非常に大変な先端医療に取り組む人たちを支援しない社会で、だれが新しいことをやるのかということを指摘したいと思います。
 どうもありがとうございました。

○井村会長 どうもありがとうございました。最先端の話をしていただいたわけですが、次に大野さん、お願いします。

○大野参考人 旭メディカルの大野でございます。私は、人工臓器とか血液浄化システムのような、人工臓器の分野で、特許問題も含めて、長年技術開発に従事してまいりまして、最近は人工臓器や移植医療に取って代わる可能性のある再生医療の実現に、産業界の立場で今、取り組んでいるものでございます。

(PW)
 まず、一般的なことから始めさせていただきますが「企業・産業にとっての特許の意義」といいますのは、ここに挙げましたように、企業にとって特許は基本的技術財産の一つであり、技術優位性を確保するための重要な手段ともなり、さらに、研究開発成果を商業化するための投資に対する保証機能を果たす、また産業にとって、特許は技術の公開と情報の共有化に対する限られた独占付与により、産業の活用化と発展を促す、ということで、これは、特許法にうたわれていることそのものでございますが、そういうことを通じて知的財産権というのは、国の実力、競争力、さらには財産の一つともなり得るものだと思います。

(PW)
 では「医療関連企業・産業にとっての医療方法特許の意義」とは何か、今、問題になっている医療特許の意義はどういうものなのかということを整理してみますと、先ず、治療方法に特徴がある発明であっても、モノ特許の出願しかできないということになると、その発明の本旨を生かせない、ということになります。
 そういう特許が認められますと、発明の本旨を生かした特許が可能になるということになります。
 次いで、方法特許は、方法でしか表現し得ない発明の権利化を可能にいたします。
 また、方法特許が認められますと、ベンチャー企業としての知的財産戦略の幅と厚みを与えることができまして、ベンチャー企業への資金導入も促進されるだろうというふうに思います。
 さらには、方法特許が可能になりますと、関連する更に新しい医療技術、医薬品、あるいは医療機器に関する新しい発明を生み出す可能性がある。
 産業界の立場から見ますと、こういうところに医療の方法特許の意義があるというふうに見ております。
 医療に関する特許の意義を理解していただくために、新しい医療技術の開発のプロセス、特許取得、資金の関係を整理してみました。開発のプロセスとしては、こういった基礎から販売に至るまで、いろいろなプロセスがございます。臨床研究を経て、治験があって、承認申請があって、承認されて初めて販売され、そして患者さんに使われるようになります。 それについて、モノの特許について考えてみますと、基礎研究の段階からモノの特許というのは可能になりますが、医薬品なんかの場合にはそういう形で出されるのが多いんですが、実際治験なんかで使われるようになりますと公知になりますので、そこから先は特許性が失われます。しかし、投与法のような方法特許が認められれば、治験とか、その後の使用を通じていろいろ方法特許の発明というのが考えられます。
 もう一つ、新しい医療技術としての方法特許が可能になった場合に、まず方法で出願する。そういたしますと、そのコンセプトに基づいてどういうものを開発する必要があるかということで、モノ特許ができる。医療機器なんかの場合ですと、医療方法があって、その目的に使える医療機器を開発することが多うございますが、そういった形でモノの特許ができる。
 モノから特許が出ますと、先ほどのような同じ考え方で、さらに新たな方法特許が可能になるということになります。
 その開発の過程で、費用として投入する資金を見てみますと、右側の三角形になります。開発の後半に行くほど大きくなる。一方、国の支援というのは、大体この前半、現在ここの部分に限られているということでございまして、結局特許を持つことによって、後半のより大きな資金投入に対する保証機能を果していることになります。特にベンチャー企業については、そういった意味合いが非常に強いということがございます。

(PW)
 治療方法に特徴がある発明と申しますのは、事例を挙げさせていただきますが、モノの特許ではなくて、方法特許として出すと初めて発明の本旨が生きてくるという事例、これは実は前回の森下先生のお話された遺伝子治療の特許を挙げさせていただきますが、もとの発明はこういった一つの発明で、PCT出願されております。アメリカの特許ではHGFそのものは公知で、投与方法に新規性があるという前回のお話でございましたけれども、これを見る限り筋肉内に投与することからなる、HGFが有効な疾患を治療する方法ということで、発明の本旨を表現していると思われます。
 一方、日本の特許は同じPCT出願でありますが、これはHGF遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とする筋肉内投与薬であって、動脈疾患を治療するための医薬、としてクレームしています。これは、発明の一部を、方法・用途限定のモノとして表現しておりますが、これはその後ほかの疾患への応用等も、個々に別途特許出願の必要があると思いますが、そういうことになりますと出願費用、あるいは維持年金の費用もばかにならないだろう思います。

(PW)
 次は、方法特許が可能になれば、今度は方法でしか表現し得ない発明の権利化が可能になるという事例でございますが、これは目の疾患の治療方法特許の事例でございますけれども、私自身がいろいろ関わった特許の事例でございまして、具体的には網膜の黄斑変性症という病気で、有効な治療薬はございません。
 この特許は、患者から血液を体外に導出して、プラズマフェレーシス治療、これは後で御説明いたしますが、その治療法で処理して、その処理した血液を患者に戻すことからなる、眼疾患の有効な治療法ということでクレームされておりますが、この体外循環によるプラズマフェレーシス治療自体は、もう20年以上前から広く使われておりまして、既に多くの関連特許がございます。本件は、適用が新規だということで、米国では特許になっているということでございます。

(PW)
 そのプラズマフェレーシスにおける「体外循環治療法の概念図」でございますけれども、これは患者さんから血液を体外に導出して、血液の血球成分と血漿成分、液体の部分を分けて、その血漿中から病気の原因になる物質を除去する、それでまた患者さんに戻すとい治療法でございます。
 これは、20、30年前に始まったときは、患者さんの血漿を廃棄して、献血による他人の新鮮凍結血漿を代わりに入れるということで、感染リスクがあったということですが、その後いろいろな血漿成分分離器とか、これは膜とか吸着剤ですが、こういったものが開発されるようになりまして、感染のリスクがなくなったという治療法でございます。

(PW)
 実はこの方法特許を使って、ベンチャー企業が生まれたというケースでございますけれども、こういったプラズマフェレーシスは既に公知であると。それを黄斑変性症の治療に適用したと、この治療方法は米国のみで特許になると。これは日本、欧州では、特許にできません。
 この米国の特許をベースにして、米国の医師がベンチャー企業を設立いたしまして、この発明した医師は欧州、ドイツの医師でございまして、私どもはその研究を支援したという立場にあるんですが、そういったことで実際特許になったのは米国であったと。そのせいかどうか、とにかく米国では医師がベンチャーを設立して治療法を始める。それから、FDAの認可を取得するということで、私どもメーカーとしては、こういった治療法に適した、更に精度の高い製品を開発するということをやっておりまして、今後の事業展開としてはそういった機器の販売ですとか、ライセンス、そういったところを通じていろんな展開が期待されているところでございます。

(PW)
 これは、方法でしか表現し得ない発明の権利化を可能にする事例で、別の事例ですが、C型肝炎ウイルスの除去・減量方法で、これはC型肝炎の治療法の施行方法のみに特徴があるという事例です。あとそれを医薬と施行方法とその薬剤併用に特徴があります。これは、方法でしか表現し得ない発明ということになります。

(PW)
 もう一つ、挙げさせていただきますが、これはがんの治療法です。PDTという、光線力学療法というか、こういった治療法と、それからリンパ球を活性化するという方法を組み合わせたものです。
 この出願では、製剤、細胞医薬というものも併せてクレームしておりますが、これは用途限定で、治療方法と製剤のクレームの両立てでやっているということがわかります。これは日本で出願されております。
 日本の企業がこういう特許をだんだん出してくるようになったと、そういった方法特許で出さざるを得ない、そういうニーズが高まってきているということであろうと思います。

(PW)
 次は方法特許が可能になりますと、新しい医療技術を生み出す。それから医薬品、医療機器を生み出す例として1つ挙げさせていただきますと、これは体外で治療用たんぱくをコードするようなDNA断片を挿入して、それを体内において治療効果を持つ量の治療用たんぱくを発現するヒト細胞としてヒトに導入することからなる、治療用たんぱく投与のプロセス。これは言うなれば体外で行われる遺伝子治療の基本特許に当たります。この特許は、基本のプロセスをクレームしているだけで、疾患、細胞、遺伝子、ベクター、タンパク、投与法の何も特定されていません。
 再生医療の手法も一部この中に含まれてくると思いまずか、この特許が出されて、これを引用している特許を調べてみましたら、これは各種疾患への遺伝子治療の応用特許というのは、大学とかベンチャーから42件出てきました。全部で引用しているのが214 件ありましたが、そのうち42件、こういう各疾患への応用という形で出ております。
 もう一つは、周辺関連技術の特許として、ここでは使われるDNAも細胞も遺伝子もベクターも、どれも投与方法が特定されておりませんが、そういったものをいろいろ研究して、数多くの周辺の関連特許というのは生まれてきていまして、これらは研究所とかベンチャー企業からもいろいろ出ております。

(PW)
 そういうことで、この特許の波及効果として、1つの遺伝子治療技術の一大集積が形成されたと。その結果、先端医療の実用化、新規医療産業創出が促進されることになります。このような特許が、日本から生まれなかったのは何故なのか、考える必要があると思います。


(PW)
 近代の医療というのは、いろんな近代の技術によって、産業技術を含めていろんな技術によって支えられています。20世紀は材料技術とエレクトロニクスが主役で、主体がハードなのでモノ特許ではカバーできたと思うんですが、これからの21世紀はバイオテクノロジー、IT、ナノテク、こういったいろいろな新しい、医療に使える技術が出てくると思いますが、こういったものは、基本的にハードもさることながらソフトがより重要になってきておりまして、そういう中では、方法特許の必要性というのはますます高くなることは確実であります。

(PW)
 まとめといたしまして、これは企業あるいは産業の知財戦略上のポイントとして考えられる点をまとめましたが、今までご説明したような新しい治療方法を発見した場合に、日本でも特許は取得できるようにすべきだと。それによって、インセンティブが高まり、ベンチャー育成、そういったことにもつながります。
 ただし、権利行使については、医師の患者さんに対する医行為を人道上妨げないようにすべきであって、それ以外は制限されるべきものではないと思います。
 また、方法特許に対する間接侵害が医療機器の場合ですと、どの範囲に及ぶかということについては明確にしていただく必要があるだろうと思います。
 もう一つ、ベンチャーを含めた企業が医師と共同研究開発や試験を行っている段階では、これは先行特許があっても侵害になりませんので、これはどんどん研究すべきです。
 それから、実際には、企業では、この研究開発段階から特許戦略をいろいろ考えております。
 さらには、機器製品を販売するためには、当然ながら基本特許や関連特許というのを保有している企業との権利関係を十分詳細に調査した上で、必要であればライセンス交渉等を行うとか、そういったアクションを取るわけでございまして、こういった先行者の権利を尊重するというのは、当たり前のことであるというふうに思います。

(PW)
 最後のスライドですが、間接侵害とか、いろいろ侵害関係のことは出てまいりましたけれども、後で御質問でもあれば使おうと思っていましたので、ここでは省略させていただきます。 以上です。

○井村会長 どうも大変ありがとうございました。時間を短縮していただいて申し訳ありませんが、ここで少し議論をお願いしたいと思います。
 3人の方から、それぞれ方法特許というんですか、あるいはソフトウェアに関する特許についての御意見をいただいたわけですが、どなたに向けた御質問でも、あるいは御意見でも結構ですからお願いをしたいと思います。
 どうぞ。

○澤委員 岡野先生にちょっとお伺いしたいんですけれども、ザルツマン変性症12例、もう既におやりになってということで、これはもう制度の上では、高度先進医療にも入っているんでしょうか。

○岡野参考人 まだ、医師の治験ということで、手術室の横に培養室をつくって、そこで医師が自分で細胞を培養して自分で治療する。すべてを医師が負担してやっている段階です。
 ですから、これから高度先進の申請をしたいと考えております。

○澤委員 それは何か国の補助か何かを受けてやっておられる研究ですか。

○岡野参考人 今のこれに関しては、開発段階までは国のいろいろな研究援助は受けております。

○澤委員 それで、院内のIRBだけでやっているということですね。

○岡野参考人 そういうことです。

○澤委員 もう一つお伺いしたいのは、これは生物由来製品に後々なるんだろうと思うんですけれども、ドナーの方、一番最初の細胞を得られた方というのは、これが知的財産を将来的に持つであろうというようなこともきちんと説明なさってもらっているんですか。

○岡野参考人 そうですね。

○澤委員 わかりました結構です。

○井村会長 ほかはいかがですか。先生の心筋再生を人でやるとすると、心筋の細胞をどこから取られるのか。現在では、一人の患者さんでの一連の医療行為になりますね、さっきの角膜もそうですけれども、そうすると日本ではまだ特許の対象にはならないだろうと思うんですが、その辺は。

○岡野参考人 最初の臨床は、今、筋芽細胞、シングルセルをダイレクトに注射していますが、シートにして入れますと、100 %有効に移植できます。ですから、細胞シートを利用すると表面に張り付けることができますので、きわめて効果的な再生治療ができます。また、心筋細胞に関しては、今、骨髄から誘導かけたり、ESから取るとか、細胞ソースのところと、将来リンクさせてというふうに考えております。

○井村会長 いかがでしょうか、どんな問題でも結構です。
 どうぞ。

○田村委員 北村先生が5ページの下の方で、特定の一連の技術開発には、莫大な努力、経費が必要であるけれども、一旦完成すると、その後、別個のDDS、ナノデバイスの開発が容易になるというふうにお書きになられています。これは、方法特許になるかどうかが今議題になっている、ある特定の治療方法を誰かがファーストランナーとして開発したときに、その後、それに関連する医療機器などについては、セカンドランナーは割と容易に参入できることを北村先生が提示なさっているのですが、具体的に岡野先生や大野さんの方で、こういった御自身の経験、あるいは御自身の周辺の経験でセカンドランナーの方が割と容易に入ってきたようなケースがあるかどうかお知らせいただけると大変参考になるのですが。

○岡野参考人 新しいコンセプトというか、新しい手法で治療するときには、やはり安全性を確かめたり、膨大な実験をやっていきます。そうしますと、培養した細胞がどのぐらい安全かとか、そういうことを見ること自身に、やはりお金をものすごく使うのですが、2番手になれば、それは既に安全が確認されていることに関しては追いかけられますので、1番手にはやはりものすごい負担がかかります。特に新しいことをやろうとしたときには負担がかかるというふうに思います。

○大野参考人 私の場合ですと、資料の10番がそのケースに当たるかと思いますが、新しい概念による、そういう方法特許して基本特許がつくられた場合、この場合は、体外遺伝子治療の特許でございますけれども、これは請求範囲が書いてありますように、かなり広範な範囲になっているということはおわかりになると思いますが、これを使っていろんな疾患に応用するという研究がその後もどんどん出てまいります。これは大学でもアメリカの主な大学がほとんど参画している。
 それから、周辺関連技術のいろんな細胞とかベクター、そういったことについてもいろんな特許が出ておりまして、こういうところは新しいコンセプトを1つ提示されますと、それに触発されて次から次へといろいろな技術が生み出されてくる。
 この場合は、これを出された先生は、患者さんのリンパ球を取ってきて、それを活性化して体内に戻したりということを長年やっておられて、それだけでは不十分だからその中に遺伝子を導入して、がんをやっつける効果を高めた上で患者さんに戻すということを発明されて、そこの部分を特許にされた。それをかなりこういう基本的な形で出されているわけですね、初めての概念ですので。でも、その後は、その概念に基づいていろんな特許が生まれてきていると、それがこういったアメリカの体外遺伝子治療における大変強い競争力といいますか、産業を生み出す源になっているというふうに私は思います。

○井村会長 ほかにありますか、どうぞ秋元委員。

○秋元委員 岡野先生と大野先生にお聞きしたいんですが、プレゼンの内容は非常に私どもと似通ったというか、非常に同じような立場かもしれませんが、1つ岡野先生にお聞きしたいのは、先端ということに限定されて特許を与えるべきだろうと。
 もう一つ、大野先生の方は、新しい治療法というものに特許を与えるべきだろうと。いわゆる治療法とか、薬物療法、こういうものは新しく見出したものなんですが、それが先端であるかどうか。もう一つは、新しい治療法であるかどうかという、この線引きが非常に難しいかと思うんですが、岡野先生のお考えになっておられるような先端という意味と、それから大野先生がお話になされた新しい治療法という、この辺の線引き、この辺をどういうふうにお考えになっておられるか、ちょっとお聞きしたいんですが。

○岡野参考人 私は、日本にいろんなテクノロジーがあるのですが、特にエレクトロニクスは日本はものすごく強いわけです。でも、1台のペースメーカーもできないという社会をつくってしまったわけです。やはり、そういう技術統合が全くできない国にシステム上なってきてしまったわけです。そこをつなげることを手当てできるようになったらいいなというふうに考えています。
 ですから、ほかにあるテクノロジーを医療の中に持ち込んだり、それから融合テクノロジーとして何か新しい発見、発明ができた治療法に関しては特許化を認めていっていいのではと考えております。
 従来型の概念とか、コンセプトの延長線上であるようなもの、これは恐らく特許にならないと思うのですが、余りそういうところに関しては手当てしなくてもいいと考えています。
 そういう意味で、先端医療というのは、医学と工学の技術統合を誘発するという意味で、きわめて重要であり、そのようなフィールドに限って特許を認めても良いと考えております。

○大野参考人 私が先端医療分野における発明の特許保護についてと言っていますのは、これは先端医療分野について特に重要であるという意味で、先端医療分野という言葉を使っておりますが、実際にこういった方法特許を発明されて、出願される立場、それをまた審査される立場からいいますと、何が先端で何が先端でないかという区分けは、実際上、私は難しい、ほとんど不可能だと思います。
 そういう意味では、私の考え方としては、特許を付与するところで、先端医療と、非先端医療というような、頭のところで区分するんではなしに、むしろこの後の先ほどの話に出てきましたが、特許権の行使の部分、効力をどう発揮させるかという権利行使の部分で考えるべきであろうと。医師の先生方が、一般に免責されるというんであれば、何も先端医療を区分する必要は多分ないんであろうというふうに思います。そういう意味で、私は先端医療という言葉は使っております。

○井村会長 さっき黄斑変性症のプラズマーフェレーシスが特許になっているというお話だったんですが、プラズマーフェレーシスそのものは昔からやられているものです。
 これが、もし医師が免責されるとなると、特許はどういう価値があるんでしょうか。黄斑変性症にある医師がプラズマーフェレーシスをやっても特許侵害にはならない。 

○大野参考人 この場合、アメリカの特許法における医師の免責条項がございますが、その中にバイオテクノロジー特許等は、そのまた例外で、お医者さんにも権利効力が及ぶということになっていますが、今の事例の場合に、それが米国特許法において、お医者さんに対する権利行使の例外に入るのか、あるいは例外にないのか、私はそこまで実は詰めておりません。
 基本的な特許はドイツの先生の特許ですが、それの改良特許をまたアメリカの先生が出しているという形で、この分野のいろんな医療技術としての改良開発は、その後、進んでおります。
 その先生自体は、ドイツの先生の実施権を得てやっているわけですので、基本的にはなるべく自分でやりたいんだろうというふうに思いますが、ただ、これは患者さんのニーズとの関係で、広がるものであれば、それはほかの先生も当然やられるようになるだろうし、それをとめるということは、私は特許権の濫用にもなるかと思いますし、そういった形で、権利行使の部分で解決すべき問題ではなかろうかと思います。

○井村会長 どうぞ片山委員。

○片山委員 医療機器メーカーと、お医者様との間の共同研究というんでしょうか、これをデマンドの方から見て、どういうことをやればいいかというインプットをする、そういうお話があったように思うんですが、その場合に、それでうまく開発ができて、仮に方法特許として成立したという場合なんですけれども、何ていうんでしょうか、開発をされる病院側、お医者さん側のインセンティブといいましょうか、それは岡野先生がちょっとおっしゃっているように、報酬請求権のようなものがあれば、その報酬請求権で将来お金が入ってきて、更にその次の開発にお金が投入できるということになると思うんですが、そうではない場合、医師の行為はすべて免責されるというふうにした場合に、医師側のそういう共同研究をするインセンティブというのは、どこにあるというふうになるんでしょうか。

○岡野参考人 やはり目の前の患者を治すということが、ある意味では医師にとっては、至上命題と思います。もうけるとか、何かよりも、目の前の困っている患者を治したいと、それがあるわけです。だけど、そのときに、やはり膨大な資源を投入しないと、それをコンファームしていけないときに、産業化できるとか、ほかに頑張った人にリワードのシステムができていれば、新しい治療に取り組む医師や研究者にいろいろな支援する仕組みができ多様化するわけです。アメリカは、やはりそういう多様な支援システムをつくって、目の前の患者と同時に5年後10年後の患者を治すことに挑戦し、頑張る人を支援するということをやっていると思います。
 ところが、日本は、何も新しい事はしないで待っていて、だれかやった人のまねをしてやった方が楽ですし、時間や金を使う必要がないとなるとなかなか開発するインセンティブがなくなってしまうわけです。そうすると、目の前の患者と同時に将来の患者を治したいというものすごい意思の強い人のみが何かをやるという、そういう社会になってしまうわけです。ですから、そこを何か考えていかなければいけないんではないかというふうに私は思っております。

○井村会長 どうぞ。

○上田委員 今の御質問に対するお答えになるかもしれません。
 基本的には、岡野先生が言われたように、ある特殊な道具を使わないと治せないような高度医療をやる場合に、産業界、あるいは企業のサポートは技術的に不可欠になります。そのときに、医師にとって今、目の前にいる自分の患者さんを治すというのが、勿論最初の動機なんですけれども、そういう患者さんは日本中、世界中にいるわけですね。自分の前にいる人たちに使う高度技術、あるいは道具を私自身がつくって治療するといっても限りがありますので、先ほど言われたように、自分の患者さんよりもっとスケールアップしたような、たくさんの患者を治すということになると、これは企業の参入がないと恐らくできないだろうと。そこら辺がお医者さんの動機であって、企業とリンクして矛盾しないんだろうと思います。

○片山委員 こんな考え方でもよろしいんでしょうか。例えば、現在はそういう研究費というのは国からの補助だとか、そういうものでかなりの部分が賄われている。
 それを例えば、こういう制度をつくったとした場合に、ベンチャーキャピタルだとか、いわゆるそういう民間のお金がそちらの方へ入ってきて、それで研究が促進されると、そういうようなお金の回り方がし出すであろうというような考え方でよろしいんでしょうか。

○岡野参考人 もう少し全体的に見ますと、アメリカのNIHが3兆円程度使っているわけです。日本は科研費とかで、最近は2,000 億ちょっと超えたぐらいになっていると思いますが、それがここ1年だけではなくて、何十年もそういう時代が続いて今日に至っております。
 そうすると、やはり新しいことを考える人たちを支援する仕組みを米国はきっちりつくっているわけです。
 それに対して、日本がようやくアメリカと競争できるような、そういう時代になってきたときに、競争できるような社会システムをこれからどういうふうに構築しなければいけないのかというときに、この問題もそのワン・オブ・ゼムだというふうに私は認識しています。ですから、何か小手先だけではなくて、かなり総合的なアメリカとの競争をこれからきちっとやれる仕組みが必要で、そうしないと日本の医療はアメリカの後追い医療となり、内外価格差など大きな問題を抱えています。ペースメーカーなんかですと、やはり2倍ぐらいのお金を出して日本の方は医療費を使っているわけですから、そうすると、何かその辺をもう少し、今、簡単に解決するのでなく、何かもう少し制度的に新しい骨組みを考えていく必要があるのではないかなというふうに私は考えております。

○井村会長 しかし、今の質問と関連して、特許がもし取れれば、それがやはり企業なりベンチャーが参入するインセンティブにはなり得るわけですね。

○岡野参考人 それはものすごい強いインセンティブになると思います。

○井村会長 どうぞ。

○見城委員 大変すばらしいプレゼンテーションをありがとうございました。勉強になりました。
 それで、大変基本的なところなんですけれども、例えば、ご説明のありましたペースメーカー1台つくれないという状況は、既にあらゆるところに特許が押さえられていて、技術はあるけれども、つくれないということなんでしょうか。ライセンス料をたくさん払わなければならないとか。

○岡野参考人 そうではなくて、日本はPL法というのがありまして、何か問題が起きたらつくった人が責任を取らなくてはならないのです。
 そうすると日本の大会社は、すべて体に使うようなものは怖いからやめてしまいなさいという安易な結論を出してしまいます。一方、アメリカはサイエンスとしてきっちりやりながら、そして問題が起きたときには、つくったところというよりは、できるだけ社会全体でカバーできるような、そういう仕組みもつくっていますし、それからそういうことをどんどん開発するところに支援できる仕組みを持っていますので、新しいチャレンジのできる研究者たちを、タイムリーにきちんと支援して、高度の先端医療をつくり上げているというふうに私は見ております。

○見城委員 では、まず、製造者の責任という、その問題がどう制度として確立できるか、ある意味ではフリーハンドで、企業とか、ベンチャーが入っていって、できれば新しいものをつくろうという意欲にそれが結び付くかというところが1つあるわけですね。
 あと、こういうふうに後れを取っているということを御指摘されましたが、それで突如として最先端医療の分野では、ここで今、日本が特許の保護できちんとした制度をつくって、最先端医療で技術と結び付いていけば、アメリカとは大変な格差が先ほどのグラフでもございましたが、ああいう部分を飛び越えて、例えばアメリカと並んでいけるということなんでしょうか、アメリカなどが着手していないという意味でできるのでしょうか。その辺りの空白がわからないんですが。

○岡野参考人 そういう領域が、今、日本の中にたくさんあります。ですから、個人的に医師の特別措置の範囲の中で、自分の患者だけを治すということから、それを産業にして、日本中の人を治すためには、やはり社会的な仕組みが必要なのです。
 その仕組みが、今、日本がどういうふうにもう一度再構成するかという、特に先端医療の部分というのは、細胞や先端テクノロジーをどういうふうに使うかについて、しかも安全にどういうふうに使うかというところに、今、政府はどんどんお金を使い始めているように思います。良い方向でやり始めています。ですから、そういうことをどんどん加速しながら、特許の問題もその中の一つですし、それから先ほどのPL法、すなわち製造物責任などどのように運用するかとか、それを総合的に見てどのように改革していくかが必要ではないかというふうに考えています。

○井村会長 どうぞ。

○大野参考人 2つ申し上げたいんですが、1つは先ほどおっしゃられた、なぜペースメーカーが日本で生まれなかったかというのは、勿論特許の問題もあろうかと思いますが、今、一番大きな問題は、そういったペースメーカーに使われるような、いろんな半導体ですとか、そういう材料ですね、そういう部品材料を供給するメーカー、これは日本は大変高い技術力を持っています。そういうものを扱えば、ペースメーカーはできるはずなんですが、実際にそういったものをつくろうとして、医療機器として埋め込みで使うものをつくるということで、そういった部材のメーカーに供給を求めますと拒絶されます。やはりPLのリスクというものを恐れて、経営者は特に風評被害を恐れますね、企業としての信用を失墜ということを恐れて、そういったものには使わないでほしいと。したがって、研究までは出すけれども、商業化の段階では供給できないというような態度を取るところは多うございます。こういう問題は一つ解決する必要があるだろうと思います。ただ、これは特許の問題とは直接の関係はございません。
 それから、先ほどそういう特許を認めれば、日本で先端医療がどんどん実用化されるのかというお話ですが、例えば遺伝子治療の分野では、かなり格差が付いていて、森下先生は頑張っていらっしゃいますけれども、なかなか追いつくのは難しいかもしれません。
 ただ、再生医療の分野でございますと、私は研究開発のレベルでは、日米の間にそんなに大きな格差はないと。ただ、それが実用化の段階になるに従って、どんどん格差が広がっているというのが現状でございます。
 その1つが、特許が認められないために、企業のインセンティブがなかなか働かないと。勿論、いろんなところからの資金導入がアメリカのようなシステムになっていないとか、いろんな問題があるかと思いますが、それから薬事法等、そういった規制の問題もあるかと思いますけれども、とにかく研究のところまではいいところ行くんですが、そこから先で格差が付いてしまうというのは、日本のこういった分野の実態ではないだろうかと、私は常々そういうふうに考えております。

○見城委員 そうしますと、ノーベル賞などを取られる方が、結局、ほかの分野ですけれども、日本では研究をこれ以上できないのでといって、例えばアメリカへ渡ってしまいますが、現在、やはり医療の先端技術、またはそういったドクターとしてなさる医療行為の方でも皆さん出てしまわれる方は多いんでしょうか。

○大野参考人 医療行為として、お医者様が海外に行かなければいけないケースというのは、特許法による制約ということではないと思います。そういう問題としてはないと思うんですが、実際にそういったものを事業としたい、実用化してビジネスにしたいと考えておられる人の中には、日本でやっていたんではだめなので、アメリカの方に行ってやられているというベンチャーは私は知っておりますし、森下先生のところも既にアメリカの方でいろいろ活動を開始されていると、そういったことは既に行われていると思います。

○井村会長 それでは、森下委員、平田委員、北村委員の順番でお願いします。

○森下委員 ちょっとこれに関係してなんですけれども、私自身は、基礎研究のレベルは日本もアメリカも余り変わらないと思うんです。ペースメーカーを含めて、機械工学というのも確かに後れはあるんですが、先端的レベルは高いと。
 ただ、実用化のところの差が付いたために、日本は遅れているように見える。これは、言われたように、やはり大企業の方が入ってくるというのが非常にリスクが高いためです。
 前回私どもが説明した治療方法も大企業に持ち込んだんですけれども、やはり自分たちでやるのは非常にリスクが高くて怖いと。アメリカも実は似たような状況なんです。先ほどのペースメーカーとか、あるいは医療機器も大手の会社で開発しているというけれども、実際は非常に少なくて、やはりベンチャーなりが開発していって、商品として出たものを大手企業が企業ごと買ったり、商品を仕入れていくと。それは、やはりベンチャーの場合は、自分たちが出した商品なので、やはり世の中へ出していきたいと。そこに対しては、リスクを背負ってでもものにしていきたいという思いが非常にあるわけですね。
 そういったような仕組みが日本にできないと、やはり大企業側というのは、社員がたくさんいますから、ある程度確実なものしかやっていけないと。日本は、そこのところで先進医療を実用化するところの、結局エンジンになる人たちがいないというのが実情だと思うんです。それは、アメリカの場合はベンチャーがそれをやっていると。その根拠としては、やはり特許が与えられるので、ある程度企業としての勝算が小さいながら立ってくるんです。
 日本は、やはりそこのところが、今のところ非常に欠けているんではないかと。逆にそこができれば、日本でも欧米に負けないようなものが私はできると思うんです。

○見城委員 1つだけ、今のはみんな提供する側からの話であったと思います。リスクを負わないで、みんなベンチャーがやってくれて、開発できればという提供してくださる側のお話だったんですけれども、患者の側からですと、このままでいく、治療代ですね、最新のいろんなものをやっていただく場合と、ベンチャーが入って日本が特許を取って生産できるようになって、治療していただくのとでは、やはり治療費等が安くなるんでしょうか。それから治療が受けやすくなるということでしょうか。

○森下委員 2つあると思います。1つは、やはり値段として安くなると思います。もう一つは、アメリカで受けられる治療が今まで日本では受けられないことが非常に多いんですね。というか、アメリカへ出たものをだれかが日本に入れない限り、日本人の患者さんが受けられないわけです。
 そこで、何もインセンティブが働かない、だれも要らないと、あるいは日本ではものつくらないと。そうじゃなくて、やはり日本で出た技術を日本人が最初の恩恵を受けたければ、やはりある程度そういう仕組みをつくって、いい医療を早く出すための制度をつくっていかなければいけないと思います。
 今、アメリカでは、いろんな新しい医療が出てきているのに対して、日本ではそこのところが出てこないというのは、仕組み的に出ないような状況になってしまっていると。
 逆に言うと、医療行為の特許化が認められて、そういうふうなベンチャーが起こりやすくなれば、新しい医療が出る可能性というのは非常に増えてきますから、患者さんに取っては今まで受けられなかった革新的な医療を受けるチャンスが増えてくるというふうに思います。

○井村会長 医療費の問題はショートレンジで見るとの、ロングレンジで見るのとかなり違いますね。新しい技術だと高いということはあるだろう。それによって、だらだらと長い間治療しなくてもよければ、結局、いろんな社会的損失とかいろんなものを含めると、安くつくということもあるわけです。その辺は単純には言えませんね。

○見城委員 数字だけではないということですね。


○井村会長 そうですね。介護とかいろんなことでお金が要るわけで、例えば森下先生の治療法で歩けない、介護が必要だという人が、もし血管を再生させることによって歩けるようになったら、介護費用は要らなくなりますから、かなりオーバーオールで考えないといけない。1つだけ見てこれは高いとか安いとかいうのは、問題があるだろうと思うんです。

○平田委員 知的財産権を付与するということには皆さんからいろいろ出ましたように、当然新しい技術開発を促進すると同時に、フェアな競争関係もつくり、そして、大きな課題ですが投資リスクも一応ヘッジするということが必要になると思います。
 更には、日本等の多くの国では重複研究という無駄を特許として公開することによって、無駄を防げるといういろんないいことがございます。
 それと、一つ懸念されることとしては排他性と言いますか、上流に特許があった場合に、その下流のいろんな改良発明というものに対するむしろマイナスのことも考えなければいけません。
 そういうことで余り過大に上流技術に包括的な特許を付与するというのは、社会福祉上、それなりに判断されるべきで、これは運用面でしっかりやっていかなくてはいけないと思います。このような運用面の課題はありますが、制度的には私は権利を与えるプラスの方をより重視すべきだと思うんです。

 大野参考人への質問ですけれども、先ほど新しい基本特許を付与することによって、むしろ下流のいろんな研究が促進されると言われましたけれども、私が危惧するのは、こういう上流に基本的な概念特許がありますと、当然特許というのは法的に排他力があるわけですので、下流について実施できないという、要するに法的な侵害リスクがあるわけです。 私は上流の基本特許については一定の対価で実施できるという仕組み、例えば裁定実施権というようなものの必要性について、知的財産のいろんな委員会で申し上げているんです。先ほどのご説明の場合にはそういう排他性という弊害はむしろなかったというふうにお聞きしたんですけれども、具体的にはそういうことでよろしいんでしょうか。

○大野参考人 基本的にはそういった弊害よりもプラスの面の方が大きいと思います。ただ、このアメリカの先ほど挙げました体外遺伝子治療方法の特許と申しますのは、たまたま最初の特許の出願人がNIHであったということで、基本的にはライセンスを受けやすい状況であったと思います。実際にここからライセンスを受けてやっているベンチャーが幾つもあると聞いております。
 ただし、私ども企業の立場で、こういう基本特許があった場合に、それに関係するような開発をやる場合には、当然基本特許の存在というのは、事前に研究開発の段階からそれはわかっていれば認識をして、その対策を立てます。それについてライセンスを受けるのか。そういうようなことも事前に準備しながら事を進めていきますので、排他性を絶対的な権利として振り回されてだめになるということは私はないと。基本的に特許というのは、経済的価値を持って判断されて、取引されるべきものだと私は考えております。

○平田委員 確かに基本特許を覆す新しい技術を生み出せばいいんですけれども、往々にして侵害リスクがある場合、そこを避けて違うことをやろうということになりがちです。

○大野参考人 それは3つくらいあるかと思いますが、避けるか、あるいはつぶすか、あるいは買うか。そういったことでいろいろ考えなければいけないところがあると思います。

○井村会長 その辺が医療の現場にいる者にとっては非常に心配なところなんです。特許をコンセプトでかけられてしまうと非常にやりにくくなるということで心配なんです。北村委員、手を挙げてられましたが。

○北村委員 井村先生おっしゃったことに似ているんですけれども、結局、先ほども申しましたけれども医療手法というものはどんどん組み合わせと、現場では特に医師は何をしても免責になるという、どんどん新しく更新し、変革する。そうすると、どのレベルで新しいとして、また上流特許に対抗するために特許申請を取りたくなりますね。どういう基準を設けるかということは、これをつくっていただくときに、非常に大事なことだと思うんです。
 もう一つ、今は医師でも大学の研究者たちのベンチャーは国策として進めておりますし、そのものを売り出す会社の役員職と研究者が併任がある。岡野先生も森下先生もそういう立場におられるかもしれませんが、米国ではこれは当たり前になっておりますけれども。心臓のある弁なんですけれども、その企業の役員を兼ねている先生の病院はやたらに弁置換が多い。査察が入っているわけです。
 それは明らかに、先ほどちょっと申しましたように、研究者と医者と医療の施工者そして企業の社長さんというものとが同じ人物の組織として生まれてくることになるわけです。そこでよくそれを考えておかないと、今のような事例も起こり得ると。決してその弁が他の弁よりすぐれせていることはないんです。しかしながら、その使用率が極めて高いということもありまして、そうすると、企業としての販売、あるいは特許を取って販売している会社の重役を兼ねている医師は、外部からその医療について審査するとか何かしないと、アメリカでも実際に起こってきているわけです。そこが医療の難しいところだと思うんですが、それも運用論という形になるかもしれませんけれども、これはやはりつぶしてはならないところで、基本特許がありますと、どんどん特許が取れない状況にあるところでは、実質的にはもう劣化した技術でありながら使われる。特許がつながっている間はかなりの部分を改変しても特許料を支払わなければいけないのかとか、新しい会社をつくられないのかとか、そういったこともあるのでないか。

○井村会長 特許の範囲をどうするかというのが1つの課題になりますね。

○北村委員 先ほどのペースメーカーの岡野先生の事例は、余りこの会議では適切ではないのかと。今、大野さんも言われましたけれども、多くの違う問題が包含されていて、いわゆる包括特許、技術特許、司法特許という領域の問題とは限らないんです。

○岡野参考人 私が言いたかったのは、今、何も手を打たなければ、これからこの国で出てくる先端医療は実現されないということです。

○北村委員 しかし、それは特許を取ってもね。

○岡野参考人 ですから、特許のこととか、PLのこととか、新しい治療開発に総合的に取り組むことが重要と考えています。

○北村委員 周辺のことの改善を含めてということであればよく分かります。

○岡野参考人 この特許の問題はチャレンジする人に対するインセンティブを上げる社会にしていく中の1つのことだと私は考えているのです。
 開発意欲の強い研究者をきちっと支援できる社会システムにしないと、ペースメーカーのような問題はこれからずっと起きると思います。

○澤委員 一番最初に北村委員が、世界医師会宣言のことを触れられた。「医療プロセス特許に関するWMA声明」は1999年にアメリカ医師会からの提出で採択されています。その世界医師会の中に社会科学部会という機構がありまして、それが調査しますと、やはり医療費は上がるんです。アメリカでは体験上上がっていると。これは当たり前の話で、新しい技術が入るということは、ライセンス料やロイヤリティ以外に特許裁判費用を保証するための医師の保険費用などの新しいコストが発生するということ。それは患者さん側の負担になるか、あるいはやっている側の負担になるかの差だけの違いで、医療費そのものは間違いなく上がっていくということ。
 もう一つここで忘れてはいけないのは、アメリカでは非常に簡単に医者がベンチャーになると言いますけれども、アメリカは医師のコード・プラクティスが非常に厳しくて、コンフリクト・オブ・インタレスト、利益相反という倫理規範が明確に述べられている。例えば生物医学の研究、あるいは臨床研究の場合は、全く株式を公開するときも、研究結果が出版その他で公平に公表されてからじゃなければ、研究員その他の株の受託ができないとか、ものすごく細かいモラルのルールが徹底している。
 臨床研究では、目下研究対象となっている企業、スポンサーとの実質的な結びつけを全て開示しなければならない。NIHからたくさんの補助費が出ているけれども、それに対してアメリカは研究者に対する説明責任が非常に厳しいのも事実です。上院審査会でものすごくやられますので、そういったことも含めて、例えば国が今、補助金を出して医者でありベンチャーでありというのをもし推し進めているのであれは、そこにはまず第一にコンフリクト・オブ・インタレストにのっとった行動規範が必要でしょう。利益相反のガイドラインもきちんと守らなければいけない。そこが今、日本では非常に自由と言いますか、曖昧、アンフェアにやられているんじゃないか。そういう行動規範を定める制度こそ先に必要じゃないかと思うんです。

○井村会長 それは特許の問題とダイレクトには関係ないわけで、むしろ産学連携とかベンチャーということと非常に関係が深いわけです。その辺りについては、別途にいろんなところで議論がなされていて、利益相反もかなり厳しく考えないといけないということは言われております。

○澤委員 続けていいですか。

○井村会長 あと2人意見を言っていただかないといけないで後でお願いします。

○澤委員 すぐ済みますよ。どうしてもお聞きしたい。やはりどれだけのことを、提供する患者さんに対してあるいは被験者に対してもそうなんですけれども、どれだけのことを現在の研究者たちがきちんと説明しているかどうか、ドナーや被験者がどれくらい知財に関して理解しているかどうかということはものすごく大事なことなんじゃないかと思うんです。
 今、国民は新しい医療を勿論、希求しているんですけれども、同時に安心できる医療が求められている。そんなとき、日本で例えばムーア事件みたいなことが起こった場合、これは本当に取り返しのつかないことになってしまうんじゃないかと思うんです。それは先生、特許と非常に関係があるところだと、知財と非常に関係のあるところであると私は思います。

○井村会長 それは前回北村委員も指摘された点でして、引き続き議論をしたいと思いますが、とりあえず今日は前回の続きとして、上田、森下両委員に準備をしてきていいただいているので、そのお話を伺った上で、また時間があればもう一度議論をいただくということにしようかと思います。
 それでは、上田委員からお願いします。

○上田委員 ただいまのお三方の医療行為特許に関する総論、その背景について、伺ったわけですけれども、私は各論について、再生医療の、特に培養皮膚の移植方法に関する具体的事例について御報告申し上げます。
 前回若干説明が足りなかったと思いましたものですから、発言をさせていただきます。先に申しましたように、再生医療の本質と言いますのは、細胞を移植して患者さんを治療する。すなわち薬の代わりに細胞を使うということです。そのことの結果として、低侵襲手術が可能になってまいりましたということを申し上げました。その具体的事例として、やけどの治療に皮膚、表皮細胞を移植する方法が開発されまして、これがアメリカで特許化されております。それが資料4でございます。
 この方法は、熱症治療の実に重要な点を突いておりまして、やけどの患者さんは、可能な限り迅速に、そして広範囲に適当量の細胞を移植するということが救命率の決定的な要因になっておりますので、その具体的な移植方法が極めて大きな要素になります。
 そのことを可能にしたのが、このスプレー型細胞移植法というものでございまして、この図に書いてございますように、高圧ガスでフィブリン、これが次のクレームのところの解釈のところで書いておりますけれども、フィブリンと細胞とトロンビンという3つのものを瞬時にガスで放出することによって、患者さんの潰瘍表面に細胞を移植するということを実現したわけでございます。
 このことが実現されるためには、細部のデータがございまして、詳細な説明を読んでみますと、チューブの直径、流速、細胞の数、フィブリンの濃度、トロンビンの濃度等について詳細なデータをつくっておりまして、実施例をつくるための具体的な研究が行われたんだということが十分うかがえます。
 こういったことを考えますと、やはり医者が自分の工作室でやるには到底このことはできないわけでありまして、結果として、日本にはこの方法は入ってきておりません。
 したがいまして、その部分で患者さんがスプレー型細胞移植法の恩恵を受けていないということになります。結論として、こういった医療機器が開発されるためには、企業あるいは技術者の協力なくしてはなり得ないわけでありまして、このスプレー型は1つの典型的な例かと思い、事例を出させていただきました。
 以上でございます。

○井村会長 これは全体に特許がかけられているんですか。この機械だけではなくて。

○上田委員 違います。全体でございます。

○井村会長 それでは森下委員。

○森下委員 私の方は前回の説明で不十分でわかりにくい点があったかと思いましたので、資料5を見ていただければと思います。
 今回私どもが発明しました内容に関して、アメリカと日本でどのような形で実際に成立しているかというのを書いたのが1枚目の図なんですがアメリカを見てわかりますように、先ほど大野参考人からも説明がありましたように、HGFが有効な疾患を治療する方法という形で、下に動脈疾患以外に脳梗塞、糖尿病、疾患αというのが書いてありますが、こうしたような疾患に対して、クレーム内で書いておきますと、かなりカバーすることができる。ですから、ある意味、非常に広範囲な疾患を1つの特許でカバーができる。
 では、日本はどうなるかと言いますと、動脈疾患を治療するために医薬という形で、剤という形になりますので、こういうクレームになってきます。結果として我々が何をやっているかと言いますと、動脈疾患という中に何が含まれるのか。これは非常に解釈が難しくなりますので、やはり実際に企業として活動する、あるいは実際に自分たちの特許を有効にするためには、脳梗塞や糖尿病という具体的な疾患の特許というのを押さえていかなればいけない。特許を押さえるためには、当然具体的な事例、動物実験等のデータが必要ですので、それぞれ別にやっていくということになります。
 結果的に何が起こるかと言うと、2枚目の表になりますが、1つは、我々が出したものに基づいて、ほかの方がたくさん新しい特許を出してくる可能性がある。それをできるだけ早く押さえたいという意味では、研究開発リスクを増やしてでも、ほかの疾患に関する適用というのを早く押さえていかなければいけない。逆に言いますと、出したはいいけれども、結果的に役に立たないということが十分起こり得る。
 もう一つは、2番目に書いてありますが、初期段階で研究開発コストが非常にかかりますし、特許出願そのものをこまめに出していかなければいけないということで、コストが増大していきます。これは研究者にとっても非常に大変ですし、それから大学の機関特許という形で、特許も大学から出す形になりますけれども、恐らく大学ではこういう個々の小さい特許、防衛特許に対してはカバーしてくれないという事態が起こり得るだろうと。
 そうしますと、特許を出したはいいけれども、全体が十分カバーし切れないということが十分あり得るんじゃないかと。
 もう一つ、ここには書いていませんけれども、この特許の仕組みというのは非常に複雑なので、これを大学の研究者に理解しろというのが無理じゃないか。結果として起こることは、大学の研究者か出すのは狭い範囲内しか出せないだろう。そうすると、実際上は出したことによって、かえって不利益をこうむると言いますか、むしろ出さないで、ほかの人が真似できないような形にした方が有利じゃないかという発想もあり得ると思うんです。その意味では、一般の研究者の人が特許をこれから出してもらわなければいけないですし、出すべきだと思いますので、特許に関してわかりやすい整理をしなきゃいけないんじゃないか。その中で運用なりを十分考えなければいけないというのは、北村先生、あるいは平田委員が言ったとおりだと思うんですが、全体としてはわかりやすいシステムに移行しいかない限り、なかなか研究開発そのものが進んでいくということは難しいじゃないかというふうに思います。
 正直ここまでの知識に達するのに10年くらい私自身かかっていますので、1年、2年でそういうのを理解しろと研究者に要求するのは基本的には私は無理だと思うんです。その場合、アメリカの場合は非常にわかりやすいシステムになっていますから、研究者に対してはやさしい特許制度だとは思います。

○井村会長 ありがとうございました。それでは、どうぞ。

○小野特許技監 特許庁の小野でございます。先ほどから先生方の御議論をお聞きして、今回のワーキング・グループの目的でございます、方法そのものに特許を与えるかどうかに関して、いろいろな御議論があるということが大変よくわかりました。
 先ほど何人かの委員の方から御意見が出ておりますように、非常に広い概念的、包括的な特許と、それから実際の治療方法等が、後発研究の阻害にならないようにという御懸念が出ている点に関しましては、別に方法の特許に限らず、今あります物の特許でも同じような問題が出ております。先ほど森下先生から御指摘があった点は個別案件なので、直接のお答えは避けさせていただきますけれども、物の発明におきましても、遺伝子を特定の治療方法に医薬として使うという考え方におきまして、日本の場合、いわゆる疾患を特定しなければ特許にならないということではございません。日本でも、あくまでも先行技術との関係でどこまで許されるかが判断されます。つまり、基本的に初めての場合、そこからの改良の場合、さらなる改良である場合ということによって、許される形態が変わってくるということでございます。
 先ほど大野委員からございますように、NIHが初めて行った遺伝子を注入する治療方法という非常に基本的な場合ですと、特に疾患を特定しなくてもいろいろな疾患に使えるということになるかと思います。 この図に関しましても、血管を再生させるという機能を現すことに関して、先行技術が全くなければ、現在の用途発明の考え方におきましても、広範な許し方はできるということでございます。
 それから、アメリカと日本の審査では、引用される文献が若干違っているために、結果が異なる場合があるという問題もございます。
 あと、用途の発明に関しましては、日本では剤という物の形になっておりますけれども、むしろヨーロッパ等では、医薬の製造のために使用する方法という、ある意味の方法に擬制して許しているという違いがございます。しかし、実際の権利の中身としては同じようなものだと思います。

○井村会長 森下先生の場合には筋肉内に投与するという方法に関しては、日本では特許は認めていないわけですね。

○小野特許技監 そういうことでございます。

○井村会長 その辺が違う。

○小野特許技監 ただ、疾患を特定して、幾つかに分けて特許を取らなければならないという御指摘がございましたけれども、もし、先行技術がなければ、そのような必要はなく、広い機能で特許を取得することができます。 広範で概念的で、包括的な特許が取得できるかどうかということに関しては、カテゴリーの問題なのか、基本的な発明か改良発明かに起因する問題なのかという点は分けてお考えいただきたいということでございます。我々としては、治療方法としてどうなのかということを検討することでございますが、本質的な問題は、今ある物や方法、用途の発明でも同じような問題があるということだけを御指摘させていただきます。
 ありがとうございました。

○井村会長 ほかに何かございますか。

○森下委員 確認なんですけれども、小野技監の方にお願いしたいんですが、特許の条件として、北村先生の御指摘の中で、私自身は特許になりにくい要件を言われたんじゃないと思ったのが、1つは再現可能性の欠如です。再現ができないものに関しては、特許が取れないと私自身は理解しているんですけれども、それで正しいかどうかという点。
 それから、人道性に関する公序良俗の違反ですね。それに反したものは取れないと理解しているんですけれども、この点に関してその理解でいいかどうかです。そこを教えていただきたいんです。

○小野特許技監 1点目でございますけれども、再現性に関しましては、第三者が再現することができれば特許は与えられるわけでございまして、再現率が高いかどうかということは問題ではないと理解しております。
 一番有名な例は、ミキモト真珠の場合でありますが、再現率が非常に低うございました。しかし、これは第三者がやっても再現できるということでありましたし、非常に新しい考え方でもありましたので、特許は認められております。10回やって10回できなければいけないということではございません。第三者が客観的に再現できればいいということでございます。
 それから、安全性の問題に関して、治療法というのは外してお答えさせていただきます。安全性に関しましては、特許そのものが安全性に絡むような技術に関しては、当然公序良俗が問題になります。
 例えば毒薬とか武器そのものは、特許の対象にしておりますが、先ほどほかの委員からお話がございましたように、それを用いて人を殺す方法とか、そういう目的のものになりますと、まさに公序良俗の問題が生じてまいります。そういうものには特許は認められません。 薬等に関しましては、最終的には安全性について厚生省の認可が得られないと、市場に出せないという点がございますので、特許の審査段階で、安全性そのものを直接審査することはございません。ただし、安全性そのものが問題になるようなものに関しては、我々も公序良俗に反しているとして考えているということでございます。

○井村会長 安全性の問題も非常に重要な問題だと思いますが、これについては、また別の参考人の方からいろいろ御意見を伺って、我々としてまとめていきたいと思っております。
 今日は3人の人から非常に貴重な御意見をいただき、ありがとうございました。方法特許の必要性というのは、かなり理解はできてきたつもりですが、まだ医療の現場との関係でいろいろ整理しないといけない問題があるということは、北村委員の言われたとおりでありますし、これからもう少し議論を深めて、その辺のことをやっていきたいと思っております。
 それから、私も総合科学技術会議におりまして、日本のいろんな医療関係機器のことを考えますと、輸入はどんどん増えていっている。輸出は増えない。
 それから、体内に適用するような機械はほとんどが輸入であるという現状を考えますと、それの研究を推進しないといけないということで、明年度からかなりの研究費を出す予定です。しかし、これは特許はそのうちの1つの問題にすぎないわけで、いろんなレギュレーションの在り方とか、先ほどお話があったPL法を含めて、損害保証をどうするのか。いろんな日本の社会の中の難しい問題がたくさんあるわけです。そういうことは、ここの主要なテーマではないと思いますけれども、特許に関連してであれば、議論をすることは重要ではないかと思っております。
 それでは、時間どおりに終わってほしいということでございますので、今日はこの辺で終わりたいと思いますが、事務局から次の予定につきまして、確認をしていただけますでしょうか。

○小島次長 事前に委員の先生方には日程を調整させていただいておりますが、資料6のとおり、3回目、4回目、5回目の日程と時間を一応設定させていただいていますが、これでよろしいでしょうか。

(「はい」と声あり)

○小島次長 ありがとうございました。

○井村会長 これは一応設定してあるわけですね。資料の6ですね。よろしゅうございますか。何か予定につきまして、なければ本日の専門調査会これで終わらせていただきます。次回は12月18日、かなり押し詰まってから申し訳ありませんが、午後1時から、この場所で開催いたしますので、できるだけ御出席をいただきたいと思います。
 それから、岡野参考人、大野参考人には、今日はお忙しい中を本当にありがとうございました。最後まで議論に加わっていただきまして、感謝しております。
 それでは、これで終わらせていただきます。