○中山会長 時間ですので、ただいまから第4回のデジタル・ネット時代における知的財産制度専門調査会を開催いたします。本日はご多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日は、前回ご議論いただきましたコンテンツの流通促進に関しまして、3名の有識者の方々をお招きしております。
それでは、本日、参考人としてお招きしているお三方をご紹介いたします。
西村あさひ法律事務所の岩倉弁護士です。
染井・前田・中川法律事務所の前田弁護士です。
社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センターの椎名運営委員でございます。
本日はよろしくお願いいたします。
まず事務局より資料に基づいて説明をちょうだいした後、参考人としてお招きしております3名の方々から、それぞれご説明をお願いするという段取りにしたいと思います。
それでは、まず最初に事務局から資料に基づいた説明をお願いいたします。
○吉田事務局次長 それでは、最初に6月18日に知財本部会合で「知的財産推進計画2008−世界を睨んだ知財戦略の強化−」という計画が策定されました。この関連で、前回5月29日にこの専門調査会で「検討経過報告」をおまとめいただいたわけでございますが、その「検討経過報告」につきましては、本日配布しております資料の一番下のほうに、参考資料という形で配布をさせていただいております。
前回の議論におけるいろいろなご意見を踏まえまして、字句の修正などをしたものでございますけれども、この5月29日の「検討経過報告」の中で、早急に取り組むべき課題ということで、4点のご指摘をいただいたわけでございますが、これらの点、それから今後この専門調査会として取り組むべき課題、そういうものが2008の中にどのように反映をされたかということを示したものが資料の1でございます。
資料の1を御覧いただきますと、第4章の「コンテンツをいかした文化創造国家づくり」の中の「デジタル・ネット時代に対応したコンテンツ大国の実現」、またその下の「デジタル・ネット環境をいかした新しいビジネスへの挑戦を促進する」という中の(2)の丸2にネット検索サービスに係る法的な課題というものが取り上げられております。その3行目ぐらいでございますけれども、この点につきましては「2008年度中に法的措置を講ずる」ということでまとまっております。
また、丸3は、コンテンツ配信に伴うサーバー上の複製行為等に係る法的課題のことでございますけれども、これも下から2行目を御覧いただきますと、「2008年度中に法的措置を講ずる」という形にまとめられております。
また、丸4は研究開発における情報利用の円滑化に係る法的課題の解決ということでございますが、これもめくっていただきまして、この文章の最後から2行目のところでございますけれども、「2008年度中に法的措置を講ずる」という形になっております。
また、丸5はリバース・エンジニアリングの問題でございますが、これも同様に「2008年度中に法的措置を講ずる」ということで、以上4点につきましては、今年度中に法的措置を講ずるという形で決定がなされたものでございます。
なお、(3)のところは、今後のこの専門調査会の検討課題にかかわることでございますけれども、1行目の最後のところからちょっと御覧いただきますと、「新たなコンテンツの利用形態を視野に入れた流通促進の枠組み、包括的な権利制限規定の導入も含めて新たな技術進歩や利用形態等に柔軟に対応し得る知財制度の在り方、ネット上の違法な利用に対する対策強化等について早急に検討を行い、2008年度中に結論を得る」という形にまとめられております。
知財計画2008の関係は以上でございますが、続きまして資料の2を御覧いただきますと、前回ご議論いただきました、この「コンテンツの流通促進について」ということでございます。今日も引き続き、このテーマにつきましてヒアリングあるいはご議論いただくということでございますけれども、この資料の2は、前回この専門調査会でいただきました、様々なご意見を少しくくりまして、幾つかの分類に従いまして整理をしたものでございます。
まず2ページのところを御覧いただきますと、「コンテンツの分野ごとの現状等について」ということで、特に問題になるのは放送についての許諾しか得ていない放送コンテンツの問題ではなかろうかと。ただ、その放送コンテンツの中にも様々な種類があるので、また局制作や外部委託のように製作形態の異なるものもあるということで、そういったところにも目を配るべきではないかという話。それから、放送コンテンツのうち、無料放送の場合、一般視聴者は二次利用においてもお金を払う必要はないと考えているのではないかということで、ネット上でこういったコンテンツを流すためにどうするかというもの。また、放送番組の中には、リアルな実態を世の中に流すということが前提に作られているものも多いということで、このような番組の場合、時間の経過により著作権を超えた問題で、これは肖像権とかプライバシーですとか政治信条のようなことでございましょうけれども、そういった二次使用をすることが不適切な場合もある。それから、一次利用者である放送事業者に、二次利用も視野に入れた契約を促進するインセンティブを与えるにはどうしたらいいかという観点が必要ではないかというようなご意見がございました。
3ページ目のところでございますが、「新たな法的措置の導入について」。その下に大きなくくりとして「契約による流通促進について」というふうにくくっておりますけれども、この辺りはそれぞれ共通する部分がございますので、
続けて説明させていただきます。
「新たな法的措置の導入について」という部分につきまして、一般論として、
コンテンツ流通というのは契約とかビジネスが第一の問題で、そこで折り合いがつけば動くもの、そのための環境整備が重要で、インフラ整備のような支援措置的なアプローチで二次利用を促進することが重要ではないかというご意見がございました。
また、それに関連いたしまして、どうしてもビジネスの折り合いがつかない場合について、強制的な措置の導入を検討するに当たっては、そのような措置が合理性を持つのかどうかという実態を踏まえた議論が必要。また、そのような措置を発動した結果、どうなるのかをシミュレーションすることが必要というご意見もございました。
また、法的措置は市場が失敗したときだと思うが、市場が失敗しているのか、
あるいは法的措置を講ずれば、もっと成功する可能性があるのかという見極めが問題となるのではないかというご意見もございました。
また、インターネット上の流通で国を限って流通させるのは、実質的にはほとんど困難で、国際的な側面での取組も重要というご指摘もございました。
また、「契約による流通促進について」というところでは、国際社会から見ると、日本はもっと契約を重視し、問題解決のために契約を活用すべきであると。国際競争力という観点からも、契約を活用する力を向上させていくべき。
あるいは、契約によりどこまでできるかを考えてみて、それで足りないところがあれば、その契約を締結できる、またはしやすいような環境を作るための法制度を検討することは価値があるだろうというご意見もございました。
一方、契約の枠組みで円滑に進めば問題はないが、それがなかなか進んでいないことから法的措置が必要という主張があるのではないかというご指摘もございました。
4ページのところは、まず前回ご議論いただきました3つの柱のうちの2番目の写り込みの問題でございますが、これについては、昔から写真等であった問題だが、最近、こういうケースが爆発的に増えている。一般的なフェアユースのような概念があれば、かなりの問題を解決できるのではないかというご意見でございました。
また、3つ目の「ネット上における一般の人々による創作等について」ということでございますが、これにつきましては、オープンソースのソフトウエアの関係のライセンス、あるいはクリエイティブコモンズのライセンスのような、契約をベースとして自由にその利用ができる環境が広がっていけば、法改正の必要はないのではなかろうかという趣旨で、この面における経営実態の分析や啓蒙活動の現状を把握することが大事ではないか。
また、多数の権利者との契約がどういう形で成立し確認できるかという問題については、契約内容をきちんと告知しておくことによって、法的にはそれに同意があったものとして契約が成立しているとするモデルを活用することができるのではないか。あるいはこういった場合には、そもそも非営利目的に限定するのか、無償に限定するのか、有償あるいは営利目的も含めて多数の権利者が関与する場合について、整理することが必要ではないかというご意見もございました。
また、この面での成功例が乏しいので、どれだけ法制的なニーズがあるのかの考慮も必要ですとか、あるいは権利者がだれか特定するのが不可能に近く、所在不明の権利者の問題よりも難しいという側面もあるというご意見もございました。
その次、5ページのところは、この問題に関連いたしまして、文化審議会の著作権分科会で行われております議論を簡単に説明したものでございます。今年の5月22日に過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会が、中間総括としてまとめたものの中に、これに関連する箇所がございますので、これを紹介しておきたいと存じます。
まず1番目は、多数の権利者がかかわる場合の利用の円滑化の問題でございます。最初の丸は実態ということでございますが、実演家の利用拒否により二次利用ができないという事例は少なく、たとえ許諾が得られない場合でも、その理由は必ずしも不当なものと言えるものではないという分析をしております。
むしろ利用を阻害しているのはビジネスモデルや、あるいは権利者不明の問題ではないかというような認識でございます。また、共有状態にある実演や多数権利者がかかわる実演の利用円滑化のための具体的な方策について、様々な角度から検討を行ったが、明確に効果があると考えられる対応策を直ちに見出すことはできなかったということで、今後引き続き検討を行うということでございますが、その検討された具体的な方策の例をお示ししますと、二次利用を拒む実演家がごく一部であった場合に、一定の要件のもとで実演の二次利用に同意したものと推定したり、実演の二次利用に反対することができないとしたりするような規定を設けるなどの、幾つかの方法が検討されておりますが、なお結論は得られておりません。
2つ目に、権利者不明の場合の利用の円滑化でございますけれども、この場合につきましては、現行の文化庁長官による裁定制度を抜本的に見直し、新たな制度を設けてはどうかという方向で議論が進められております。例えばということで、2行目の真ん中あたりですが、新たな制限規定を設けて調査に相当の努力を払った場合には、一定の表示や通知を義務づけ、事後に使用料を支払うことを条件として適法に利用することができることとするなど、以上のような検討が文化審議会のほうでも進められています。
以上でございます。
○中山会長 ありがとうございました。
次に、参考人の方々からお話を伺いたいと思います。
まず最初に、西村あさひ法律事務所の岩倉弁護士からお話を伺いたいと思い
ます。では、よろしくお願いいたします。
○岩倉参考人 ただいまご紹介にあずかりました弁護士の岩倉でございます。本日は、このように貴重な、光栄な機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。座らせていただいて、お話しさせていただきます。
それでは、私の方で、パワーポイントをご用意いたしまして、また添付資料も配布させていただきましたので、それをもとにご説明させていただきます。
今日は中山先生の調査会でご著名な委員の先生方の前で、また椎名さんや前田先生という、やはりご高名な方々とご一緒にお話しをさせていただいて、本当に貴重な、光栄な機会だと存じております。特に私が今日呼ばれましたのは、多分、私が事務局長をさせていただいておりますデジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが3月に提言をいたしました、いわゆる「ネット法」についての提言に関して、何か話していただきたいということだと思いますので、それについてお話をさせていただきます。ただ、時間が限られておりますので、「提言」自体は添付資料で配らせていただいておりますし、その後にいろいろな方々からネットを通じて、あるいは直接、あるいはいろいろな委員会等で受けましたご質問について、フォーラムとしての回答をQ&Aの形でまとめたものも、あわせて配らせていただいております。それらの部分は割愛させていただいて、もうちょっと大きいところを今日はお話しさせていただければと思っております。
ただ、私自身、そのフォーラムの事務局長を務めさせていただいておりますけれども、「提言」で書いている部分以外は、フォーラムのメンバー全員の了承をとっているわけではないものですから、一部意見にわたるところは私個人の意見だということで、ご理解賜れればと思っております。
1ページ目、パワーポイントを見ていただきまして、今日はちょっと大上段に、このようなのを一弁護士が書くのは大変僣越なのですけれども、「『世界最先端』の『権利者の実質的保護』と『コンテンツの流通促進』に向けた法制度整備の一試論」という副題をつけさせていただきました。これは皆様ご案内のとおり、「知的財産推進計画2007」の中で、デジタルコンテンツの流通促進に向けて一定の方向観が出されたときに使われた言葉を、ここで利用させていただいたものです。これは、私自身が、そのフォーラムで提言をさせていただくのにかかわらせていただいた趣旨として、この時代に、こういう方向が議論されているということ自体すばらしいことだと思うのですが、その結果として、やはり世界最先端の法制度あるいは仕組み、あるいはルールというものができて、そのことによって権利者が実質的に保護され、かつデジタルコンテンツの流通が、ネット上で、非常に促進されるという結果になればいいなという趣旨で参加したことでございまして、その思いをここに込めさせていただいたということでございます。
パワーポイントを1ページめくっていただきまして、まずそもそも論のところで、なぜ私どもが新しい法制度を導入すべきだと、そういう必要があるのだと思ったかというところについてまとめております。一字一句は読みませんけれども、大きく分けて3つぐらいあるのではないかと考えております。
1つは、こういうデジタル時代、インターネット時代において、デジタルコンテンツの取扱い、これが法的にいろいろな困難な問題があるということです。 特に、これはもう釈迦に説法でございますが、著作権、著作隣接権、人格権、パブリシティ権を始め、数多くの権利がデジタルコンテンツの中に重畳的に存在しているので、それらをどうやって取り扱うか。権利集中がなされていれば、その取扱いは非常に楽なわけですけれども、それがなされていない。したがって、現行法制度下では、すべての権利者から同意をとらないと、それが利用できないおそれがあるわけでありまして、必ず同意をとれるという保証はございませんし、仮に得られるとしても、その処理にかかる手間を考えると、割に合わないということが大きい問題ではないかと思います。
これは、私どもの言葉ではございませんが、昨年の経済財政諮問会議で、有識者議員の方々が提出された資料の中には、「貴重なデジタルコンテンツの多くが利用されずに死蔵されている」のではないかとあります。したがって、だれの目にも触れず、結局は権利者にも還元がなされないという状況が生じているのではないかという発言がございましたけれども、それと同じ趣旨なのではないかと思っております。
もう一つ、海賊版と申しますか、不正使用の問題の背景が、実はこれに潜んでいるのではないかということです。コンテンツをできれば適正な価格で適法に入手して見たい、使いたいということが本当のユーザーの考え方なのではないかと思います。ところが、なかなかインターネットで利用しようと思っても、ユーザーが使いたい、見たいと思うものが簡単に手に入らない。適法なものはないのだけれども、どうしてもそれは見たいと思う状況があるわけです。適法に、適切な形で入手できるのであれば、適正な価格を払いたいと思っているユーザーが大半だと私どもは理解しているのですが、それができないがゆえに、ユーザーは、仕方なく違法ではあるけれども、海賊版を用いたり、あるいは不正使用をしてしまうということになっているのではないか。そうであれば、逆に、ルール、法制度ができて、適法なコンテンツの流通が促進されるのであれば、そういうユーザーは喜んで適正価格を払って適法にコンテンツを利用しようということになるわけでありまして、それによって不正使用の問題は激減するのではないかと私どもは考えております。
したがって、違法使用、海賊版の取締りについては、私どもも全く皆様がおっしゃられているのと同様に、強化しなければいけないのだと思うのですが、同時に、現在の消費者のニーズ、「使いたいのだけれども、どうしても使えない。できれば適法に適切な対価を払って使いたいけれども、それができない」というニーズを満たすことによって、仕方なく違法行為に走っているユーザーの行為を減らすことになるのではないかと考えるわけであります。それが、結局はユーザーのニーズということだけではなくて、ユーザーからも新しいクリエーターが出てくる可能性もあるわけでありますし、私どもが今生きているこの時代ではなくて、次の世代のクリエーターがどんどんこの国で、今コンテンツ大国と言われておりますが、本当にこれが未来永劫に続けられるような素地を与えたいというのが、私たちの考え方の一つの原点だったわけでございます。
3番目に、民間の取組、あるいは契約ルールの形成についてですが、先ほど吉田事務局次長もお話になりましたとおり、契約を中心として取り組んでいこうといういろいろな努力が、政府あるいは民間団体等々で行われておりますことを私どもも十分認識しておりまして、それは非常に高く評価すべきだと思っております。それですべてが解決できれば、それに越したことはないですし、話し合いで決まったことであれば、みんなそれを守ろうということになるわけですから、それはすばらしいことだと私どもは本当に思っております。ただ現実としては、利用に関して、あるいはいろいろな諸条件について契約で必ずまとまるかというと、その保証はないわけでございます。これもまた、だれも否定できない話であります。それから現実問題として、契約で、あらゆるコンテンツのカテゴリーについて、あらゆる流通チャンネルについて合意できているかというと、できていないのもまた事実であります。
だからその努力をするなということではないですが、その努力には手間や時間が非常にかかってしまうので、今、日本が置かれている現実の状況からすると、それだけでは遅いのではないか。もっと早く解決したほうが、我が国全体にとっていいのではないかという認識であります。すべてが契約、話し合いだけでは処理できないということのほかに、特に先ほど申しました無名のクリエーターだったり、次世代の、お金もない若いクリエーターたちが、自分でコンテンツを使って、ネット上で配信をする、流通をさせるというときに、そういう人たちは契約の当事者にすらなれない。自分でどこに行ったらいいのか、そういうことも分からない。ただ、配信業者がちゃんと適法に利用できるようなルールができれば、こういう人たちもその仕組みに簡単に乗っかることができます。
先ほど申しましたとおり、契約を中心にルールを作っていこうという取組について、私どもは、高く評価し全くこれを否定するつもりはございませんけれども、今、各国が、デジタルコンテンツの流通、インターネット上の取扱いについて、いろいろな議論をされている中で、今、日本が置かれている立場からすると、デジタルコンテンツのネット上の流通に限定した立法というものを早期に作るということが、オーバーオールに考えて一番効率的で国益にかなうのではないかということを私どもは思いまして、この提案をさせていただいたということであります。
本当に決まり文句のようなことですけれども、とにかく今は何かやらないと遅れてしまう。先ほど吉田さんもご説明になられた検索サービスの適法化に向けた努力、今年の「知的財産推進計画2008」も、これはすばらしいことだと思うのですけれども、これは皮肉では全くなくて、ある私の友人の「今さら、検索サービスを適法にしても遅過ぎる。これを5年前、10年前にやっていれば日本は変わっていたかもしれない。」という言葉がございます。これは、本当に、検索サービスの適法化に向けた努力を否定するつもりは全くなくて、ただそれが5年前、10年前にあれば、もっと早く日本にも検索サービスができていたのではないか。これはだれもわかりません。保証するわけではないですけれども、そのようなチャンスを与えるということ自体が、今の日本にとっては大事なのではないかということでございます。
時間もないので次のページをめくっていただきまして、では新しい法制度、ルールを作るためのポイントは何かということですが、1のところで、私どもがまず第一に思っておりますのは、権利者の権利を十分にリスペクトとして、実質的な保護を図るのが大事ではないかという点です。ここの部分は「ネット法」という言葉自身が非常に誤解をされておりまして、私どもも説明が足りないと反省しておるのですけれども、私どもの思いは、まず権利者の権利を十分に保護するということです。それも、「実質的」な保護を強化することが必要なのだと思っております。それから、ユーザーのニーズを満たし、コンテンツ産業を発達させて、我が国の経済の競争力を高めるという法制度が一番望ましいのではないかと思っております。
その中で、インターネット上の流通というのは、ほかのチャンネルあるいは利用とは、全く違う「特性」があるわけでございます。それは何かと申し上げれば、必ずインターネット上で利用したということの記録、ログが残るということでございます。これを使って、権利者の権利を実質的に保護し、ユーザーのニーズを満たしてコンテンツ産業も発展させるということが大事なのではないかと思っております。
2番目に「収益の適正な配分のために」ということですが、私どもの提言は大きなポイントを先に提案したものですから、細かいところが不明確だとか決まってないではないかというご批判を受けております。それはそのとおりでございますが、私どもとしては、例えば過去の音楽著作権に関するJASRACさんの役割、それからいろいろな協議の経緯、歴史に学んで、かつ、ここに市場メカニズムを導入することによって、今回の私どもの提言のもとで、適正な収益の配分のためのルールを実際にも決めることができるのではないかと考えております。この第2点ですけれども、そもそも利用ができるかどうか分からない、つまり、契約がまとまるかどうか分からないという前提での協議ではなくて、一定の場合には、必ずそのコンテンツが利用できるのだと、あるいは使われるのだという前提のもとで協議してこそ、適正な、本来の現実的な配分の話し合いができるのではないかと思います。
例えば、極論をすれば、100の収益が上がる中で、いや、私にはこれだけ欲しい、これだけ欲しいということで(収益配分しなければならない)合計が120になってしまっては、全然ビジネスにならないわけでございますが、一定の合理的な範囲では必ず使われるのだということであれば、その中で、では合理的な自分たちの収益の取り分は何なのかということを話し合うほうが現実的、効率的な協議ができるのではないかということであります。
また、そういうことを協議する新しいJASRACのような類似の機関には、これまでのJASRACのご努力だけではなくて、権利者のいろいろな組織、団体の英知や経験を導入することも重要なのではないかと思っております。
これを実現させるもとになるものとしては、まず、コンテンツを登録・認証する制度、それから、ネット上の違法行為も含めて、利用したら、必ずそれを補足して課金し、また確実に収益を配分するという還元システムが挙げられますが、こういうものは現実に、既にインターネット上で可能になっているわけであります。先日の自民党のデジタル・ネット時代の著作権に関する小委員会の中で、サイオステクノロジー株式会社という公開企業の喜多社長による、「アメリカでは、もうこういうビジネスは既に始まっている。」という発言もありました。こういうものを使って、1回使用したら必ず支払うというルールこそが、ネット時代で実現させるのに一番なのではないかというふうに考えております。
最後のページでございますけれども、「ネット法」という言葉が、何かネット権者に強大な権利を与えるのではないかというような誤解を招いておりますが、一種のネット許諾権にすぎないわけでございます。ネット権者は、必ず2番目に書きました収益を公正に配分するという、法的な義務を負った権利者であるということと、それから、ネット権者あるいはネット許諾権者が、勝手に裁量で、この人には許諾する、この人には許諾しない、あるいは自分だけで利用するということは全く許されない。現在の著作権等管理事業法のような規定というものを設ければ、それは防げるわけでございますので、公正な取扱いを図ることができるのではないかと思っております。
また、このような仕組みを通じて、権利者の創作へのインセンティブを高めまして、次世代の若いクリエーターを育成し、ネットビジネスが爆発的に伸びれば、それだけ権利者にとっても配分が高まるという仕組みを作りたいと思っております。また、ネット権者に関しては、これは提言にも書いたのですけれども、どうも十分な説明でなかったようですが、私どもの提言している、例えば放送事業者や映画製作者あるいはレコード製作者だけではなく、ネット権者の幅は、そういうような義務を果たせる者であれば、それを拡大するということも考えられるのではないか。以前の自民党の小委員会で、音事協常任理事の株式会社ホリプロ堀社長が「自分たちをネット権者に入れてくれれば、そういうことを考えることはできる」とご発言されたことにも、私は触発されておりますけれども、決して何かの組織やだれかに限るのではなくて、それだけのことができる義務を果たせるし、許諾する権利を実行できる方であれば、ネット権者の幅というのは膨らませることができるのではないかと、私は思っております。
それから、フェアユースの規定化ですが、これはもう私が申し上げるまでもなく、既に大きな議論がされておりますけれども、私が強調しておきたいのは、本当に、インターネット、デジタルコンテンツの世界というのは、ものすごく技術的な進歩が早い。ですから、法律で一つ一つの事柄についてこれを補足していくというのは、なかなか困難です。そういう特性のある分野でのお話なので、幅広いフェアユースの規定が必要なのではないかと思っております。
最後の一言でございますが、ぜひとも、委員の先生方あるいは中山先生始めとして、政府の方々には、現実をぜひ見ていただきたいと思っております。本当に、我が国は、今待ったなしの状態です。デジタルコンテンツのネット上の流通に関する取扱いを、この国で早くルール化して、それをいい形で導入するということが、私どもは国益のために大事ではないかと思っております。今までのように、どこかの国あるいは国際機関のルールで決まったところを後追いするというのではなくて、まさに去年の推進計画で書かれていたように、世界最先端のデジタルコンテンツを流通、促進させて、ひいては権利者、若いクリエーター、次世代の人たちにインセンティブを与えるような制度を導入すべきと思っております。必ずネット時代は参ります。これは皆さんわかっていらっしゃるわけでありますので、そのネット時代が来たときになってから対応するのではなくて、一歩も二歩も先に行ってやるというような意識で、この国が新しい制度を作っていただけたらと願って、最後の言葉とさせていただきます。
本当にご静聴ありがとうございました。
○中山会長 ありがとうございました。
それでは次に、染井・前田・中川法律事務所の前田弁護士にお願いいたします。よろしくお願いします。
○前田参考人 弁護士の前田哲男と申します。本日は、この場で参考人として意見を申し上げる機会を与えていただきましたことを大変光栄に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、私もパワーポイントのレジュメを用意させていただきましたので、
これに基づいて私の意見を申し上げさせていただきたいと思います。
私は弁護士として、コンテンツに関する企業とか団体とか、あるいは著作者の代理人になることが日ごろございますけれども、本日はその立場を離れまして、私の一個人としての意見を申し上げたいと思います。
まず1枚目でございますけれども、もう今さら申し上げるほどのことでもございませんけれども、コンテンツの流通促進の必要性がそもそもどこにあるのかということを簡単に考えてみますと、まず既に製作されているコンテンツは、広く鑑賞できるようにすることが、社会厚生上望ましいということが一般論として言えるかと思います。2番目に、コンテンツの製作に投資あるいは参加した、そして利用に賛成の権利者の経済的利益を保護する意味でも、流通の促進を図る必要がある。また、3番目ですけれども、利用に賛成の権利者からしますと、単に経済的利益を保護されたいというだけではなく、それを離れても、作品として世に残したい、広めたいという気持ちは十分尊重に値するのだろうと思います。他方、利用に同意しない権利者があらわれることもあるかと思います。その利用に同意しない権利者にも、当然保護されるべき利益はあることがあると思いますけれども、必ずしもそれは絶対ではない。上記の各利益との調和のもとで実現されるべきものだと考えております。
レジュメの次のページですが、これは先ほど資料の2で整理していただいたこととほぼ同じことかと思いますが、では具体的に何が問題になるかということですけれども、まず劇場用映画については、現行著作権法29条で権利の集約が図られておりまして、実演家については、いわゆるワンチャンス主義が適用されている。そして、音楽の著作物については、管理事業者が存在しているということから、原作、脚本については若干問題になる余地がないわけではないですけれども、現実としては問題がほとんど生じていないと思われます。
それから、音楽レコードに関しましては、作詞、作曲家の著作権とレコード製作者の著作隣接権と実演家の著作隣接権、この3つが重畳するわけですけれども、実演家の著作隣接権は契約によってレコード製作者に譲渡され一本化されているのが常態であると思いますし、また音楽の著作物については管理事業者が存在しておりますので、その利用に当たって特に問題が生じているとは、私としては認識しておりません。今、主として問題となりますのは、局製作のテレビ番組でありまして、これについては実演家の権利に関してワンチャンス主義が適用されないということがあり、そのことが権利処理が複雑になる一つの要因になっているのであろうと思います。
レジュメの次のページですが、特にテレビ番組の二次利用など、実演家のワンチャンス主義が適用されない場合に、その実演家の権利処理をどうすべきかということについては、現行の許諾権を前提としつつ、集中管理によって解決が可能ではないかということも当然考えられるわけであります。この集中管理による解決は、現行の許諾権を前提としつつ、運用によって合理的な解決を図ろうとするものだと私は理解しておりまして、これは実務の知恵として高く評価されるべき手法であろうと思います。
しかし、どうしてもアウトサイダーの問題は残ってしまうのではないかと思います。具体的には、一部のアウトサイダーが利用に反対する場合、それからそもそも所在不明・連絡不能なアウトサイダーが発生する場合、3番目として、そもそもだれが権利者か分からないという場合が発生し、これらの問題の解決が困難ではないかということであります。
レジュメの次のページでございますが、それではテレビ番組の二次利用を想定いたしました場合に、ネット利用に関する実演家等の許諾権を一律になくすことが適切かどうかということにつきましてなんですが、私としては、ネット流通を促進するために、一定の場合、権利の一元化を図るべきであるという趣旨は理解できると思います。しかし、それには問題点があろうと思います。
1番目として、例えば、ある一人の音楽アーティストの音楽コンサートの中継番組、あるいは歌舞伎の襲名披露中継番組、こういったテレビ番組を想定いたしますと、それが放送されたからといって、その当該音楽アーティストや歌舞伎役者から、ネット利用に関する許諾権を奪うことが適切だろうか。私には適切であるとは思えません。
また2番目の問題点としては、実演家の権利を余り強く制約し過ぎると、出演時にネット利用を制限する契約が広がって、そのことでかえってネット利用に困難を来す場合が生じるのではないかというおそれも、私としては感じます。このように、ワンチャンス主義が適用されない場合において、ネット利用に関する許諾権を一律に実演家からなくすということには、問題があると思います。
レジュメの次のページなんですが、しかし、実演家の権利に何らかの制約を課すことに合理性がある場合はあると私は思います。と申しますのは、コンテンツ製作過程に多数の実演家が製作者との契約に基づき参加している、「参加」という言葉が適切かどうかわかりませんが、自らの意思に基づいて出演契約を締結し、一つのコンテンツの製作に多数の実演家等が参加している、このような意味において自らの意思で参加したという事実があって、それにもかかわらず、実演家の一部の人の利用拒否や所在不明等によって、他の権利者の意思に反してコンテンツ全体の利用が不可になってしまうことには、やはり問題があるのではないかと思います。
こういった場合は、市場原理による合理的な解決は期待できない。権利者の一部が不明になっている場合には、そもそも交渉ができませんから、市場原理による解決はあり得ませんし、また連絡がついて交渉が可能な場合にも、一部の人が反対することによって、コンテンツ全体の利用ができないということになりますと、これでは対等な立場での交渉では不可能、期待できないということだと思います。そういうことから、何らかの制約が正当化される場合があるのではないかと思います。
レジュメの次のページですけれども、では、まず契約解釈による解決ができないかということなんですけれども、特別の規定を設けなくても、コンテンツの製作に参加する契約の解釈として、特段の事由がない限りは完成したコンテンツの利用については相当な対価で許諾し、利用自体には反対しないのが当事者の合理的な意思であるとも言えると思います。もちろん、契約書に二次利用については相当な対価で許諾するというふうに書いてあれば、もちろんそれで問題の解決になると思いますけれども、契約書が作成されない場合も多いでしょうし、過去の作品については、今から契約書を作るということも期待できません。また、契約書がない、あるいは契約書に特段の規定がないとしても、もし後日、裁判になった場合には、こういう意思解釈を裁判所がしてくれるだろうという期待ができるかもしれませんけれども、裁判所はきっとそういう合理的な意思解釈をしてくれるんじゃないかということを、事前に確定的に予測することは非常に困難である。そうすると、何らかの立法的な手段によって解決を図る必要があるのではないかと思います。
レジュメの次のページでございますが、どのような規定が考えられるかということですけれども、テレビ番組の実演家の実演等について、文化審議会でも議論されていると思いますけれども、一般に、いわゆる「共同実演」ではない。分離して個別に利用することが可能なので、共同実演の定義に当たらないだろうと一般には考えられるかと思いますが、共同実演でないとしても、共有著作権に関する著作権法65条3項という条文、これは「正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない」という条文ですけれども、共有著作権に関する著作権法65条3項が想定している状況と、非常に似た利益状況が生じているのだろうと思います。
そのことから、一つのコンテンツの製作に自らの意思で参加した実演家等が多数いる場合においては、それぞれの実演家等は正当な理由がない限り、利用自体には反対することができないとする、ただし相当な対価が発生すべき場合にはそれを受領することができるとすることが合理的ではないかと思います。そして、相当な対価というのはどうやって決めるかということなんですが、これは集中管理団体がある場合には、そこでの徴収額が参考になり、アウトサイダーとの関係においても、その金額が相当な対価になるのではないかと思います。
そして、次のページなんですが、では正当な理由がない限り、利用に反対することができないという場合の正当な理由としては何を想定しているのかということなんですが、この「正当な理由」というのは非常にあいまいな、不確定概念にならざるを得ないわけですけれども、しかし、だからこそ柔軟な解決が可能になるのではないかと思います。そして、何が正当な理由に当たるのか当たらないのか、そのことについて紛争が生じた場合には、最終的には裁判所によって判断されるしかないのでしょうけれども、しかしその前段階として、関係者の協議によって、こういう場合は正当な理由があると考えられるよねと、こういう場合は正当な理由がないと考えられるといった、ガイドラインを策定するということが期待されると思います。
私の考えとしましては、先ほど例として挙げました、例えば、多人数が出演する歌番組でなく、ある一人の音楽アーティストのコンサート中継番組、あるいは歌舞伎の襲名披露舞台中継番組のような場合には、当然その音楽アーティストや歌舞伎役者の意向が優先されるだろうと思います。したがって、音楽コンサート中継番組において、そのコンサートを行っている音楽アーティストがネット配信は嫌だということには、基本的には正当な理由がある。しかし、他方、テレビドラマにおいて主要な実演家が全員利用に同意している状況のもとで、必ずしも中心的な役割を果たしているとはいえない実演家が利用に反対するには、高いハードルを課すべきではないかというふうに思います。
次のページですが、こういった正当な理由がない限り、利用に反対できないという規定を設けることに条約上の問題が生じるかということを考えてみますと、まず共同実演については、既に「正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない」という著作権法65条3項、これは共有著作権に関する規定ですけれども、これが著作権法103条によって、共同実演に準用されております。したがって、共同実演については、正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができないということが、既に実定法になっており、それと似たような状況であると私としては思います。
それから、先ほど申しましたように、多くの場合、正当な理由がない限り、理由に反対しないというのは、当事者の合理的な意思にも合致するのであろうと思います。さらに、条約上、権利制限規定を設けるためには、いわゆるスリーステップテストを満たす必要があると考えられているわけですけれども、実質的に考えましても、このスリーステップテストは満たすであろう。
まず、スリーステップテストというのは3つの要件が必要である。特別の場合であること、通常の利用を妨げないこと、権利者の正当な利益を不当に害しないことの3つでありますけれども、特別な場合の要件につきましては、非常に限定された場合であって、また十分に正当化根拠があると思いますので、この要件を満たすであろうと。通常の利用を妨げないということについては、もともと実演家がコンテンツ著作権者とは無関係に、単独で当該実演を利用するということは基本的にあり得ないわけですので、正当な理由がない限り利用に反対できないという規定を設けたとしても、実演の通常の利用を妨げるということはないと思います。また、相当な対価が発生すべき場合には、実演家がそれを受領できるとすることによって、権利者の正当な利益を不当に害するということもないと思っております。
レジュメの次のページなんですが、権利者不明の場合についてどう考えるかということですけれども、著作権者に関する権利者不明等の裁定制度、これは著作権法67条にあるわけですが、これを実演家に広げたとしても、「裁定」という行政庁の判断を必要とする以上は、実務の要求する迅速さを満たすことは困難ではないかと思います。したがって、裁定という行政庁の判断を必要としないでも、一定の場合、権利侵害にならない利用が可能になるようにする必要があるのではないかと思います。そのための一定の要件を満たしているかどうかは、事後的に判断されると。事後的に一定の要件を満たしていなかったというふうに裁判所に判断された場合には、権利侵害になるということで、そのリスクは利用者が負うということになろうかと思います。
レジュメの次のページなんですが、では一定の要件としてどういうことが考えられるかということなんですが、まず公表されたコンテンツであること、2番目に実演家等がその製作過程に参加しているということ、自らの意思で参加しているということ。3番目として、当然ですが、権利者の不明その他の理由によって、一定の努力を払っても権利者と連絡がとれないこと。
それから、レジュメでは次に括弧をつけておりますが、これを入れるべきかどうか、自分でもまだ考えがまとまっておりませんので括弧をつけておりますけれども、4番目として、先ほど申しました利用に反対できる正当な理由があると判断できる事情が存在しないこと。利用に反対することに正当な理由があるだろうと、それが分かっている場合に、権利者不明だからといって、それでも利用ができるとすることが適切かどうかという問題があると思いますので、こういう要件も書いてみました。
それから、5番目のポツなんですが、利用に当たっての表示義務、これはこういう制度ができた場合には、この制度に基づいて利用していますと。一定金額を支払う用意がありますので、連絡してくださいということを、利用に当たって表示をする義務を課して、それを履行してもらうと。
それから、6番目のポツの、一定のポータルへの情報提供の履行というのは、例えば現在裁定制度を利用するためには著作権情報センターのホームページに権利者を探していますという広告を出すことが行われているわけですが、新しい制度に基づいて利用しましたということを、ある一定の機関のサイトに登録をして、権利者がそのサイトに行けば、自分の実演等が利用されていないかどうかを1カ所で検索可能なようにするということが考えられるのではないかと思います。
それから、次のページなんですが、利用者に現行の裁定制度と同じように、利用の段階で一定の使用料相当額を供託あるいは預託してもらうことを条件に含めるべきかどうかということについては、2つの考え方があろうかと思います。
1つ目のA案は、利用者側が、今は使用料を払うつもりになっていても、将来は倒産とか所在不明になったりすることがあり得る。そうすると、あらかじめ利用者が、自分が相当と考える使用料相当額を、利用時に供託等をすることを義務づけておき、後日権利者があらわれて、その金額では安過ぎるということで争いになれば、その時点で差額を調整するというふうにする案が考えられるかと思います。
2つ目のB案としては、この制度による利用者として想定されるのは当該コンテンツの著作権者であるというふうに考えますと、この著作権者は著作権を持っているということで、それを一つの経済的な担保と考えて、あえて供託等を義務づけないということも考えられるだろうと思います。いずれの案でも、後日現われた権利者と利用者との間で、金額の多寡について争いになった場合には、事後的にそれを裁判所の手続等によって決定する必要があると思います。このレジュメでは「裁判所の非訟手続」と書いてしまったんですが、現行法でも、裁定で定められた補償金額について争いがある場合には、著作権法72条で補償金の額の増減を求める訴えというものが認められておりますので、もし新しい制度を作る場合にも、同じように訴訟手続で最終的に対価の額を決定するということが考えられるかと思います。
以上では、実演家の権利の場合のことを想定しているんですが、テレビ番組のネット利用についてはそれ以外の権利のことも問題となることがあります。例えばインタビューに応じている人の発言内容等が著作物である、その場合はどうするのか、あるいは肖像権の問題。それから写り込み、それから商標権とか意匠権とかパブリシティ権の問題はどうなのかという指摘があります。それについて、簡単に私の考えを申し上げたいと思います。
まずインタビューに応じている人の発言内容等は、これは著作物だと言わざるを得ない。これについては、考えがまとまっていないんですが、実演家と同じように扱って、正当な理由がない限り反対できないとすることも考えられるのではないか。少なくとも不明権利者の場合の措置としては、同じような措置が考えられるのではないかと思います。
それから、レジュメの次のページですが、肖像権についてなんですが、肖像権という権利は、そもそも著作権、著作隣接権とは大きく違っている。それは、著作権、著作隣接権の対象になっているものは、利用が独占権の対象ですけれども、つまり著作物や実演は、権利制限規定に該当しない限りは、基本的には無許諾利用は違法になるのが原則でありますけれども、しかし、肖像権はそうではない。肖像というのは、もともとみだりに、つまり正当な理由なく肖像を利用した場合のみが違法になる。そうすると、「みだりに」という、もともと価値判断の調整弁がございますので、その解釈によって対応可能ではないか。例えばテレビ番組に同意に基づいて出演した人の肖像を、当該テレビ番組をそのままネット配信に利用する場合には、反対の意思が表明されておらず他に特段の事由もないときには、みだりに肖像を利用したことに当たらないと解釈することも、一定の場合可能なのではないかというふうに思います。
それから、商標権、意匠権、パブリシティ権を問題にする考え方もあるようなんですけれども、映像中に例えばトヨタの看板が写り込んでいたというときに、それがトヨタの商標を商標として使用したことには、普通は当たらない。商標権侵害になるのは、商標を商標として使用した場合であると思われますので、私としては、今想定している場面では、商標権侵害の問題というのは、そもそも生じないのではないか。意匠権についても同様でして、映像の中に映り込んでいるものが何かの意匠権の対象になっている製品であることは当然あると思いますけれども、そのような映像作品を作ること、あるいはそれをネット配信することが意匠の実施に当たるとは通常は考えにくいので、意匠権の問題というのは基本的には考えなくてもいいのではないかというふうに思います。
それから、パブリシティ権については、実演の著作隣接権や肖像権以外に、パブリシティ権侵害が問題となる場合があるのかということも、ちょっと私としては疑問で、もともとパブリシティ権が働くのは、専ら著名人の顧客吸引力に着目し、その経済的利益ないし価値の利用を目的とする行為にパブリシティが働くと言われていますけれども、そういった場面というのがあるのかどうか。あるいは逆に、それに当たるような場合には、すなわち、特定の人物の顧客吸引力に着目し、専らその経済的利益ないし価値の利用を目的とする場合に当たる場面においては、そのパブリシティ権者の意思に反して利用を進めていいんだろうかという問題が生じるだろうと思います。
次に、写り込み問題についてなんですが、これは二次利用に際しての問題ではないと思います。写り込み問題は、もともと一次利用の場合も含めて解決されるべき問題であって、コンテンツの二次利用促進の問題とは切り離して議論されるべきではないかと思います。
最後に結論なんですが、一つのコンテンツの製作過程に製作者との何らかの契約を締結して、自由な意思によりその製作に参加している人が多数存在する場合においては、その人は正当な理由がない限り、当該コンテンツの利用に反対することはできないという規定を設けるべきである。その人が不明の場合には、一定の要件を満たすことにより、コンテンツの利用が違法・侵害ではないとするべきである。それから、先ほど申しましたように、商標権の問題とか意匠権の問題とか、パブリシティ権の問題は基本的には考えなくてもよく、肖像権については「みだりに」の解釈で何とかなるというふうに考えますと、以上は著作権法の改正によって実現されるべき課題であるというふうに思います。
以上でございます。ありがとうございました。
○中山会長 ありがとうございました。
次に、社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委
員の椎名様からお話をお願いいたします。
○椎名参考人 よろしくお願いします。座ります。
本日は、このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。ネット権、ネット法といわれるご提案の実演家に関連する部分について、実演家の立場から意見を申し述べたいと思います。
1枚めくっていただきまして、許諾権は実演家にとって最大のインセンティブでございます。許諾権は、実演家がビジネスを行う上で必須のものであるわけですね。実演家は、コンテンツホルダーを含む利用者に対して、自らの実演をライセンスすることによってビジネスを行うわけですけれども、あらゆる商取引がそうであるように、そのビジネスの対価が決定されるプロセスにおいて、許諾権は極めて重要な働きをするわけです。だれしもが今後有望であると考えているネットでのコンテンツ流通について、そうしたビジネス上の基本的な権利について、なぜ実演家は法によって奪われなければならないのかということについて、大きな疑問がございます。
それから、許諾権が奪われれば、実演家は自らの価値を最大化するチャンスを失って、結果コンテンツの消耗を招くと思います。コンテンツは、他の消費財等とは全く異なる価値構造を持っていると思います。それは何かというと、凡庸な1,000のコンテンツの中から、とてつもない購買力を喚起する幾つかのコンテンツが突発的に生まれ出るという特徴を有しておりまして、そこでのサクセスストーリーが次のキラーコンテンツを生み出す最大のインセンティブともなる。通常、このことを「化ける」というふうにも表現するわけですけれども、実演家は自ら出演して化けたコンテンツについて、ネットに流通させる上では何ら交渉する権利を有しないということになります。実演家のネット流通における許諾権を報酬請求権化するということは、そうした価値のサイクルを破壊して、コンテンツの平準化をもたらして、結果コンテンツの大いなる疲弊消耗を招くのではないかというふうに考えます。
それから、許諾権の報酬請求権化は、商取引への行政の介入になってしまうと思います。ネット流通について、実演家がコンテンツホルダー等の利用者との間で、自らの実演に関するビジネスを行う上で、許諾権が報酬請求権化されるということは、行政が実演をめぐるビジネスの一方の当事者に加担することを意味すると思います。そこまでして、コンテンツの安定供給を実現することは、一体だれの利益になるのか。確かに、コンテンツ製作に関するリスクなどはできるだけ負わずに、流せるコンテンツをローリスクで調達したいと考える通信事業者等の利用者にとっては、大いに利益になることと思うんですが、果たしてそのような介入が正当なものと言えるかどうか。国民はコンテンツを疲弊させてまで、コンテンツが安定供給されることを望んでいるんでしょうかということです。
めくっていただきまして、コンテンツホルダーに権利を集中しても利用は円滑化しないと思います。コンテンツホルダーへの権利の集中は、むしろ時代に逆行するものではないかということで、かつてコンテンツホルダーというものはオールリスクを背負うことによって、実演家や様々なクリエーターを専属させて、それらの権利を占有していたわけですけれども、メディアが多様化するに従って専属制度が崩壊し、個々のクリエーターの権利はコンテンツホルダーから解放される方向に推移してきているんですね。それにかわって、契約によってコンテンツホルダーに権利が集約される形が浸透しつつあって、今ここでクリエーターの権利を機械的にコンテンツホルダーに集中させることには何の意味もなく、まさに時代に逆行するものというふうに思います。
また、映画のコンテンツについて、先ほど来少し触れられていますけれども、かつて映画というメディアの影響力が強大であったことの名残として、映画の二次利用について、実演家はその対価を受け取れないというルールが法律に残っております。そのルールが拡大解釈されることによって、一部のテレビ番組を「テレビ映画」と読みかえられて同様の問題が発生しているわけですけれども、今回のネット法においては、その分野においても、ネット流通に関する限り、実演家は適正な報酬を得られるようになるという解釈も成り立つわけです。しかし、こうした問題が、かつてコンテンツホルダーに過度に権利が集中されていた結果、もたらされたものであるという点から考えれば、このようなアプローチは本質的に誤りであるということが言えるんではないかと思います。
それから、コンテンツホルダーはクリエーターに対して圧倒的な優位性を持つわけですね。また、放送事業者については、昨今その寡占状態も指摘され、番組製作者等から番組の著作権の解放を求められたりしております。公共放送という圧倒的な浸透力から来る優位性を持つ放送事業者を初めとして、これらのコンテンツホルダーは総じてクリエーターに対して強い優位性を持つものであって、仮にそれらに権利を集中させても、果たして公正な利益配分が行われるかどうかは疑問でありまして、今回の提案の中でも具体的な方策等が示されておりません。
さらに、そのコンテンツホルダーも、またメディアの一つでございまして、今回ネット権の集中先として挙げられている3種類のコンテンツホルダーは、いずれもネットとは競合関係にある、いわゆる既存メディアに属するものであります。そうした既存メディアにネット権を与えることが、ネットという新しいメディアの発展振興に寄与するなどという考え方は、極めて荒唐無稽であって、特定のメディアに権利を集中させれば、単にそのメディアの権威を維持させようとする方向にしか動かないのが摂理であるというふうに考えています。
ネット流通の阻害要因ということなんですが、ネット権の考え方によりますと、「権利の濫用的な主張のおそれによりコンテンツの流通が阻害される」という表現が使われるわけですけれども、この数年来、そのような主張が一人歩きをしてきた一方で、実際にそのような具体的な事例があるわけではないということが、政府の他の委員会等でも明らかになっていると思います。著作権が犯人であるとする説から始まって、コンテンツホルダー自身が死蔵させているんじゃないかとか諸説があったんですが、この数年来、政府の他の委員会等でも活発に議論されてきた結果、現在では異なる視点が明らかになってきています。
ネットにコンテンツを流通させる上での最大の阻害要因は、ネットにコンテンツを流すことから十分な収益が上がらないという点でございまして、権利者の濫用的な主張などではないわけですね。現に、放送番組の二次利用が進まない原因を検証していく過程において、著作権処理の煩雑さが阻害要因であると主張していたはずの放送事業者の委員から、放送事業者の基本的な立場として、「放送番組の二次利用は、一次利用を棄損するべきではない」との考え方があるという発言までありました。これまでにも様々な放送事業者が、自ら放送番組をネットに流す試みを行ってきておりますが、そこで問題になったのは権利処理の煩雑さなどではなく、ネットに番組を流すことの採算性の悪さという点にあります。採算性が悪い、イコール十分な対価を提示できない、イコール権利処理問題というふうに、堂々めぐりをするわけでありますけれども、放送事業者にしてみれば、ネットに流すなどの努力をするよりはスポンサーをつけて再放送するほうが、よっぽど利益を生むという構造があります。ネットで収益を上げる立場の通信事業者等は何よりもそのことを熟知しておりまして、その結果、コンテンツの安価な確保を実現するために権利者の許諾権の制限を主張するという、全く生産性のない負の連鎖に陥っていると考えられ、今回の提案もその主のバリエーションであるとしか思えません。
そこで、次になぜネットでは採算性が悪いのかという問題でございますが、ここではだれもが知っている事実がございます。すなわち「無料で食べ放題のラーメン屋がある場所に、どのようにすぐれた企画を持ってラーメン屋を開こうとしても、絶対にお客さんは入らない」という厳然とした事実でございます。例えば、自ら放送した番組を放送局はネット上で有料で見せようとしても、動画投稿サイト等で無料で視聴できるものをわざわざお金を出して見ようという人はいないわけですね。ネット上において多くのコンテンツが違法に流通し、そのことにただ乗りしている様々な事業者、事業形態があって、それがもはや常態化しているという状況、そうした問題を何ら解決できないでいるという状況が、コンテンツのネット流通を阻害する最大の要因であって、この問題を解決しないまま行おうとする試みは、すべてつけ焼き刃的なものになるか、また今回の提案のように、だれかに犠牲を強いるというようなものになってしまうと思います。
今回の提案は、そのこと自体は問題点として指摘はしていながら、それに対して何ら具体的な方策も示しておりません。むしろ、そうした面での施策が必要なのであって、米国におけるDMCAなどに学ぶべき点は多々あるのではないかと思います。
最後のページになるんですが、結論として、今回のネット権、ネット法に関する提案をウィン・ウィン・ウィンであると真に受けて賛同する実演家などはおりません。よって、実演家はネット権、ネット法に関する提案に反対をいたします。実演家がネットでの二次利用を望んでいないなどというのは、もはや朽ち果てた都市伝説でありまして、実演家は基本的に対価を得る機会が増大するコンテンツの二次利用を大歓迎する立場にあります。そのために、これまでも二次利用の円滑化に資するために、契約ルールの策定やCPRAや音事協における権利の集中管理化の推進など、様々な努力を行ってきております。今回の提案は、そうした実演家側の取組を無にしかねない、乱暴なものと言わざるを得ないと思います。
さらに、ネットと呼ばれる業界には、ネット上できちんと収益が上がるビジネスモデルを、自らがリスクを負って取り組もうという姿勢が見られないばかりか、コンテンツをより安価に入手するために実演家の許諾権を阻害要因呼ばわりして、その権利を奪うことばかりに血道を上げているという、このような目先のことだけを考えたやり方では、間違いなく結果など出ないし、先ほど来お話ししてきたとおり、コンテンツの疲弊、消耗という極めて深刻な結果をもたらすんではないかというふうに思っています。
よって、実演家は以下の4項目について提言をしたいと思っています。 まず1番目として、権利処理に必須となる権利者情報の保持について、これはコンテンツごとにコンテンツホルダーに、その権利者情報の保持を義務づけるということを法制化する必要があると考えています。これは制度面でのアプローチということになりますが、米国などにおいては、映画のエンドロールなどに見られるように、映画製作者と権利者団体が団体協約等によって権利者情報を共同管理するというような形が見られるんですけれども、我が国においては、権利者団体側の提案に対して、まだまだコンテンツホルダーサイドの十分な協力が得られているとは言いがたい面がございます。権利者不明などの阻害要因をなくすためにも、権利者側の権利者データベースの整備とともに進めていくべきというふうに考えています。
それから、2番目として、同じく制度面でのアプローチとして、米国DMCA法に見られるような、ネット上での様々なルールづくりに関する研究と法制化が必要であると考えています。ノーティス・テイクダウンなど、我が国においてはまだ無策と言える部分で、その米国に学ぶべき点は多いと考えておりまして、動画投稿サイトなどに代表されるネット上で日常化しているフリーライトの問題を、制度や様々な方法を駆使して解決していくことが重要であると考えています。
3番目として、これは民間での取組ということになりますが、何よりも通信事業者等が自らリスクとコストをとってビジネスモデルを確立していくこと、またそれに既存メディアが協力すること、角川さんとグーグルの提携などが代表的なものだと思いますが、ネットと既存のメディアが新たなディールをしていくことによって、新たなビジネスモデルと価値を創出していくことが必要だと思います。また、そうしたビジネスモデルの進捗状況にあわせて、そうしたビジネスモデルごと、あるいはコンテンツごとの契約モデルの拡充も必要であると考えています。そのある種の集約型の契約、権利の集約型の契約モデルの中では、今回のネット権に関する様々なご提案が参考になるんではないかと思います。
以上でございます。
○中山会長 ありがとうございました。
それでは、議論に入りたいと思います。
事務局、参考人からの説明を踏まえまして、ご質問あるいはご意見を伺って
いきたいと思います。なお、お三方も議論に参加していただければと思います。
それでは、時間の都合もありますので、1人五、六分以内ぐらいでお願いいた
します。何かございましたら。どうぞ、中村委員。
○中村委員 質問をさせてください。
この法制度の必要性について、岩倉さんと椎名さんにお伺いしたいんですけれども、まず岩倉さん、先ほど「現実を見ろ」というふうにおっしゃいましたが、私もそのとおりだと思います。法制度を導入すると、それは市場が失敗したということだろうと思うんですけれども、そうすると、市場が失敗したという、この制度を導入する必要性を実証するデータが何かあればと思うんです。例えばブロードバンドの事業者とか映画会社などが、これだけの流通コストをかけているんだけれども、コンテンツが動かないといった、そのような現実を示すようなものがあればお教えいただきたい。
それから、椎名さんにも、その施策の必要性について伺いたいんですけれども、コンテンツが流通しない理由はコンテンツ側とか権利者じゃなくて、通信事業者とか、いわば流通側がリスク、コストをとらないからだというふうなことを指摘されましたけれども、つまり収益が上がればというか、お金が出てくれば流れると。それは制度じゃなくてビジネスとか市場の問題だというご指摘だと思うんですが、だとすると、そういうふうな流通を促すために、制度以外で政策として何かできることはあるのかどうか、どうお考えかということをお聞きしたいと思います。
○中山会長 それでは、岩倉さんから。
○岩倉参考人 すみません、先ほど大上段に「現実を見ろ」などということを申し上げて、本当に僣越なのですけれども、中村先生からのご質問で、確かにこういう法制度、立法化等を考える場合に、きちんとそういうデータを検証すべきだというのはそのとおりだと思います。
先ほど椎名さんからも、そういう例はないというのが真実ではないかというお話がございました。まず、あるかないかと言えば、これは確実にございます。私自身、弁護士としていろいろなビジネスをされようとしている方のご相談を受けていて、守秘義務があるものですから具体的なことを申し上げられないのですが、自民党の小委員会でこのような話が出たときに、「実際の、まだ現実化していないビジネスを、ここで話す人がどこにいるのか」という話もあるように、具体的なところはなかなか申し上げにくいですし、すぐ手許に具体的なデータがあるかと言われればないのですが、あえて抽象化し、今日お話になっているような例に、あえてあわせた例で申し上げるとします。例えば、インターネット上で、まず映画コンテンツを作る。これをインターネット上へ流す場合に、その中に俳優さん、あるいはいろいろな従来のコンテンツを使うだけではなくて、音楽を使う、あるいはだれかの著作権の、あるいは著作隣接権の対象となっているコンテンツを含むというような場合に、これを直ちにネット利用できるかといえば、これはなかなか利用許諾を全員からとることは現実として難しい話であります。これは申し上げるまでもない。そういうものを作ろうとする方が現在いるということは、どなたが考えてもおわかりのことだと思います。
あともう一つ、いろいろな例で、「こういう場においてだれも証言しないではないか」という部分については、率直に申し上げて、そういうことを申し上げられる方が出てこられないというのが現状であって、それこそが現状の本当の問題だと思うのです。なぜならば、そのようなことを発言すれば、現在の法制度が悪いとか仕組みが悪いということではないのだと思いますけれども、その方は多分、その業界にいられなくなるわけでありまして、そのようなことをおっしゃれる状況にないということ自体が、現状の問題なんだと思っております。これでは中村先生のお尋ねに対する答えになっていないだろうということは、よくわかっているのですけれども、私自身の体験に基づく具体的一例で、そのようなビジネスをあきらめて、「では先生、それをもう日本でやるのはやめます」という依頼者の方が、最後に言った言葉を申し上げます。その方は「私はシリコンバレーに行きます。日本ではもうビジネスはやりません」ということを私の前でおっしゃって、今シリコンバレーでビジネスを行っております。
本当に不十分な答えでございますけれども、以上でございます。
○中山会長 椎名さん、お願いします
○椎名参考人 中村先生のご質問に答える前に、今ちょっとお話に出た実例の話、ちょっと逆に質問してもよろしいですか。忘れないうちに質問しないと忘れちゃうと思うので。「許諾が取れなかった」とおっしゃるけれども、許諾が取れなかったということ自体が発生したというのは、よくわかったんですけれども、それはどういう理由で許諾が取れなかったんですか。ひょっとしたら、対価が折り合わなかったんじゃないんですか。
○岩倉参考人それは椎名さんのおっしゃるとおり、対価の問題もございます。権利者、許諾権利者側が求めているものと、利用者側が求めているものに差があってまとまらない場合も確かにございます。
ただもう一つの場合としては、先ほどどこかでお話があったのですけれども、ビジネスをやる以上、無限に時間をかけることはできない。ある一定の、例えば製作予定、日数の中で、それをクリアしなければいけないときに、ある権利者の方に一生懸命お願いをしまして、何とか自分たちのできる最大限のコストの中でご提示申し上げた中で、まずそもそもネット利用は許諾しませんというお話が最初に出ます。それから金額の話を聞いてみましょうということになるわけですけれども、そこに差があるのは当然ながらあり得ることです。ただ、その中で最大限ご提示申し上げた中で、結局ネット利用は全くだめですということで、ほかの代替のものを使わざるを得ないということも現実としてあり得ることでございまして、そういう意味ではケース・バイ・ケースというふうにお答えさせていただければと思います。
○椎名参考人 今のお話にもあったように、とりあえずネットに関するハードルが高いというのは、先ほど前田先生のお話の中にあったように、基本的に実演家のプロダクションとかというのは、ネットに関して警戒感がすごいです。なぜかというと、IPマルチキャストの法改正に始まって、ネットが実演家を標的にしているというイメージがあるからです。だから、ネットの世界とできれば、そでをすり合わずにやっていきたいというふうな意識が芽生えていると思います。これは、別に実演家側が勝手にそう思ったわけじゃなくて、そういういきさつがそうさせているというふうに思います。
それから、今おっしゃったように、じゃあ話を聞いてやろうといって話を聞いて断られる理由は対価なんですよ、やはり。そこで十分な対価を提示できていないから成立しないわけです。対価が提示できないのは、採算性の問題なんですよ。だから、先ほども申し上げた話に収れんしていくんではないかというふうに、今聞いていました。
それから、中村先生からのご質問ですけれども、基本的にここにも提案したように、流通していくための基本情報が整備されていないというところがあって、そこに関してはコンテンツホルダーと権利者サイド両方が協力して、その権利者情報を集約する、あるいはデータベース化していくような取組が必要なんだと思うんですね。
あとは、施策ということから離れますが、ちょっとネット事業者さんを悪く言い過ぎるんですけれども、やはりネット事業者さんがきちっと、大きな企業ですよね、お金もいっぱいあるような。そういうところが、まずコンテンツの製作をしていくような努力をしていく、そういうようなところで、やはりネット側から胸を開いていけば、基本的に先ほど申し上げた敷居の高さというようなことも解決していくと思うし、その中でビジネスモデルもできてくる。ビジネスモデルができれば、おいしいからみんなやりたがる。その中で契約モデルもできていく。契約が、ある種の権利の集約するような形でなっていってもいいわけですね。先ほどホリプロがネット権者になってもいいというのは、まさにホリプロと契約している人たちの権利をホリプロが集約するということで、契約モデルということになるんでしょうけれども、そういうような取組で問題は解決していくんではないかというふうに思います。
○中山会長 よろしいですか。
ほかに何か。では順番に、北山さんから。
○北山委員 ちょっと岩倉弁護士にお聞きしたいんですけれども、端的に言って、ネット法自体の位置付けですね。どのようにお考えなのかということなんですが、さっき前田弁護士のご意見もありましたけれども、著作権法自体の改正ということでは間に合わないのであって、こういう独立のネット法というものを、ネット法という新しい法律を作ったほうがいいんだという、そういうメリットを、そういうところはどういうところに見出しておられるのかということをちょっとお聞きしたいんですが。
○中山会長 岩倉弁護士、どうぞ。
○岩倉参考人 私どもは、ネット法を、デジタルコンテンツのインターネット上の流通に関する部分に特化して、特別法として制定してはどうかという提言をいたしております。それは、一つには著作権法制度がそれなりに歴史を持ち、実務でも固まっている部分がございますので、著作権法の改正だけでは、なかなか、そもそもの仕組みをかえることが難しいのではないかという部分がございます。それから、デジタルコンテンツというものと、それ以外の著作物というものについての取扱いは、いろいろな局面で違うことがあるのではないかと私どもは分析しているものですから、そうであれば、デジタルコンテンツ、経済財としてのデジタルコンテンツのインターネット上の利用に特化した制度というものを、ひとつ取り出したほうがいいのではないかということです。
それから、もう一つは、先ほど前田先生から、ほかの権利との関係では余り心配することはないのではないかというお話がございましたけれども、裁判所に行かないと分からないという問題をまず外しておきたいということです。また、商標権、意匠権に関しては、ほとんどないのではないかということなのですけれども、例えば比較広告だとかいろいろな形で、ネットの中で流通するものがビジネスそれ自体を構成するような場合ですと、商標権、意匠権の行使ということはあり得るのではないかということがあります。いずれにしても、その特別法のもとでは、特別な規律ですべてこれだけで解決できるということが、法的な処理の明確性につながるのではないかと思いまして、著作権法ではなく、それを超えた特別法で規定してはどうかということを提言いたしました。
○中山会長 上山委員、どうぞ。
○上山委員 椎名さんと岩倉さんに1点ずつお聞きしたいんですが、まず椎名さん、先ほど「ネット事業者」という言い方をされましたけれども、具体的にはどういう事業者を想定されているんでしょうか。
○椎名参考人 通信インフラを持っていて、そこで放送番組を流そうというような人たちがいろいろいるわけですよね。具体的な名前を出していいのか分からないけれども、NTTとか、そういった通信事業者を想定して言っています。
○上山委員 一部の大手通信事業者は放送事業者等の有力なコンテンツホルダーと組んでそういった配信事業に乗り出そうとしていますけれども、一方スタートアップ的な中小企業、「ニコニコ動画」などはなかなか許諾が得られないというところが現在の問題点ではないかと思いますので、通信事業者と言っても中を区分して考える必要があると思います。
また補足しておきますと、最近動画について、グーグルとジャパン・ライツ・クリアランスが契約し、適法に配信できる体制が整いました。それから、ニコニコ動画はJASRACと契約しました。ただし、それぞれがまだ他の団体と契約できていないのは、まさに椎名さんのおっしゃったコスト、価格やその他付随的な条件がネックになっているのであって、決して権利者の一部の同意が得られないといったことが理由ではないというふうに理解しております。次に、岩倉先生へのご質問ですが、配布していただいた資料の添付資料の後ろのほうに、条約違反ではないのかというQ&Aで「問題ない」という答えなんですが、これに関しては前田先生のご説明にもあったように疑問がございます。
具体的には、TRIPS協定の13条とか14条、21条などの規定に反しないのか。ネット法というのは排他的権利の差止請求権を奪って対価請求権のみにするということですので、この問題は数年前にリサーチツール特許、あるいはパテントトロール対策で、特許に関して裁定実施権制度をより柔軟に運用できないかといった検討がなされたときにも、TRIPS協定の問題がありました。この種の法改正を考える際の最大の難関だと思うんですが、その点についてどういうふうにご検討されているのかを教えていただければと思います。
それからもう1点、岩倉先生に対してですけれども、椎名さんのご説明にもありましたけれども、ネット権者として想定されているのは、コンテンツ市場においてドミナンス性を有する事業者であろうと思います。例えば、着うたのダウンロードサービスでレコード事業者が共同で子会社を設立してダウンロードサービスを提供し、他の配信事業者に対しては許諾しなかったことケースで、今審判が公取に係属していますけれども、ネット権者の場合はさらに、権利者への対価の配分のための売上高やダウンロード回数等の情報も集約することが前提になると思われますが、そうすると競争法上問題のある要素を含んでいるんではないかなと思うのですが、その点についていかがお考えでしょうか。
○中山会長 では、岩倉弁護士、お願いします。
○岩倉参考人 上山先生からの条約違反の問題はないのかという部分については、実は、私どもネット法の提言をいたしましたときに、大きく言って、3つか4つのご批判があるのだろうと、私どもは理解をいたしました。一つは、椎名さんがおっしゃるような形での、そもそも権利者から許諾権を奪うものではないかという点、もう一つは、条約違反の可能性はないのかという部分、それから3番目に、ビジネスモデルを提示しないと意味がないのではないか、それに関連しまして、配分の協議というのはどういうふうに合意をさせるのかという部分だったと思います。
条約につきましては、実は近々に論稿を出す予定でございます。また、中山先生にもご相談をいたしまして、明日自民党の小委員会のほうでは、東大の小寺先生がその部分についてご説明をされると伺っております。私どもは小寺先生にもご相談をいたしまして、研究をさせていただいたのですけれども、具体的には私どもは、問題となり得るのは、WCT条約と、それからベルヌ条約と、WPPT条約の関係なのではないかと考えております。私どもの提言しておりますところは、デジタルコンテンツのインターネット上の流通に関しての部分でございますので、私どもの提言の範囲は、より具体的には、WCT条約の8条以降とベルヌ条約の6条の2等と、WPPT条約の10条以降の問題ではないかということです。多分、TRIPS協定はそこの上で昇華しているのだと思います。先ほど申しましたとおり、私どもの提言が、私どもの説明不足で誤解されている部分もあるのですけれども、これはひとえに私どもの説明が悪かったのだと反省しておりますけれども、決して、何か強制許諾権を定めるものだとか、それから許諾権を完全に奪うものだということで、私どもはネット権という概念を構成いたしておりません。法的な意味合いとしては、各コンテンツを製作するに当たって、権利者がそれを各コンテンツのカテゴリーごとに放送、録音等に参加した段階で、先ほどの前田先生のお考えの法的構成にもありましたけれども、そのコンテンツが公表される過程に参加していると、その部分については許諾をしているということをベースにいたしまして、各条約の文言上、違反にならないだろうと私は考えております。そもそもその部分について許諾をしないのであれば、そこまで奪ってしまうのは完全に許諾権の侵害になるのではないかと私は思っております。けれども、各条約の条文に従った規定の仕方でネット法というものを構成することができまして、そうであれば、ちょっと私どもの説明が悪いために誤解されておりますが、強制許諾権を認めるものであるとか、完全に許諾権を奪うものであるということではないということが、
おわかりいただけるのではないか。そういう構成ができる形にするのが、私の理解するところの私どものネット法の趣旨でございます。
詳細は、近くあるところで出そうと思っておりますので、ちょっとまた長大なのですけれども、お読みいただければと思っております。
○中山会長 では加藤委員、どうぞ。
○加藤委員 契約で、いろいろな問題を解決できないのかどうか、本当にネット法の導入のようなものが必要なのかという点に関して、岩倉さんと椎名さん、若干重複する点もありますけれども、質問させていただきます。
先ほどの話で、まず岩倉さんからなんですけれども、契約では不十分かとい
う点。契約で、なぜ解決できないかという点。多分、不十分であるということ
だと思いますけれども、なぜ契約で十分解決できないのか、日本にはそういう
特殊な理由があるのか、もし何かございましたら、お答えいただきたいという
ことが一つ。
それから、もしネット法というものを、今ご提案のように作られた場合に、
私はまず最初に思ったのは、なぜインターネットなのか、ネットなのかという
ことです。そういう特別の扱いをすることがですね。といいますのは、「インターネット」と今、我々が言っているのは、一つの技術でありまして、TCP/IPというプロトコルをもとに作られたものであって、将来いろいろな、似たようなネットワークの技術ができていった場合、それではこれもあれもというものがどんどん増えていくような、そういう制度を作るのか。本当にそういう場合ごとに、新しい技術や新しいビジネスを見越して法律をどんどん作っていくような仕組みをお考えなのか、それでいいのかという点が2点目です。
それから、3つ目として、このご提案の中で、適正なライセンス料を決める仕組みを作るということが、一つポイントだと思うんですけれども、その場合に、実は適正なライセンス料といっても、それは当事者間で本来適正であるべきというものはなかなか決めにくいし、それが通常、世の中で幾らが適正化というのは非常に決めにくいものです。我々の知財のライセンス、いろいろな技術のライセンスといった場合に、RANDといいますが、合理的で非差別的なライセンス料というのは、常に議論があるんですね。そういうものをこういう場合にすべて議論をして、問題となればそれが一個ずつ紛争解決のようになっていく仕組みは本当にワークするのかというのが3つ目でございます。
引き続き、椎名さんへの質問なんですけれども、今の質問のある意味では逆の質問です。ご提案が4つございましたが、最後のところでコンテンツごとの契約モデルの拡充を民間でやる、それを上記の3つに合わせてすればいいということですが、これが実際、効果があると思われるのかどうか、実際そういうことを試みて、かなりの解決が得られるのかどうかというのが第1点でございます。
それから、もう一つは、ご提案の2番目にDMCAに見られるような、様々なルールづくりという点でございますけれども、今のDMCAの制度の大きな枠組みは、既に日本でも実際に、インプリメントされていると思います。DMCAの時点以降に、何か新しい問題が出てきて、アメリカでまた起こっている議論を先取りしていくことであるのでしょうか。先ほどの一つの例として、ノーティス・アンド・テイクダウンの例をおっしゃいましたけれども、これも日本流に言うと、アメリカとそんなに私は大きな違いはない制度だと思っているんですけれども、具体的に何か提案いただくことによって、この問題がブレークスルーできるのかについて、伺いたいと思います。
○中山会長 それでは、岩倉弁護士からお願いします。
○岩倉参考人 3つご質問いただきまして、まず第1に、契約で解決をするという方向を追求することだけではなぜだめなのかというところなのですけれども、先ほど私が最初にお話しさせていただきましたとおり、契約で解決できる部分は契約で解決することが私は望ましいと思います。それは、当事者が納得して合意することですから、最も貴重で大事なルールなのだと思います。
問題は、私どもが考えている対象は、デジタルコンテンツのインターネット上の利用、流通でございますけれども、それを契約ですべてカバーできるのかという点でございまして、先ほど椎名さんから対価の問題がまず第一ではないかという話もありました。経済的な問題も含めてですけれども、私どもはそれだけではないと思っておりますが、当事者間で合意できない部分もどうしてもあるだろうと考えております。この場合に、だから利用できないというふうにあきらめてしまうのか。いや、それはもしかすると、それこそ椎名さんの言葉を使えばキラーコンテンツになるものが死蔵してしまって、あるいは若い無名のお金もない、どこにも出ていく機会のないクリエーターがそのようなものを作っているかもしれない。ところが、それがどこにも行く場がない、そういうような方々は、現実問題として、契約というか、協議をする場にも出られないわけです。こういう方々のコンテンツをどうやってインセンティブを持たせてかつ実際に利用できるようにするのか。この国にとって、あるいは文化の発展のために、次の世代にどうやって伝えるのかというためには、契約だけではすべてはカバーできないのだろう。これは多分どなたも否定されないのではないかと思います。そうである以上、私どもは無制限に、無条件で利用できると言っているわけではないわけでございまして、まず発想の転換をして、まず契約が成立しないところでも利用できるようにしようというのが私どもの提言の趣旨でございます。
すべて契約でできるのだということであれば、私どももあえてこのような制度が要るとは思いません。ただ、それができない部分が必ずあるし、合意できない部分をあきらめるというのはもったいないのではないか。将来爆発的な可能性があるのではないかと思っているのが一つの理由でございます。
それから、インターネットはなぜ特別なのかというお尋ねですが、私は文化系なものですから、全く技術に関しては分からないのですけれども、法律家の立場から−私も前田先生ほどではないのですけれども、著作権なり知財のビジネスへの助言をずっとやってまいりまして−法律的に見ても、インターネットの大きな特性というのがあるのではないかと思います。それは先ほどもご説明いたしましたけれども、利用したということについて、何かの仕組み・システムを使えば必ずその利用の記録が残る。したがって、あなたが使ったということを裁判上証明できるログが残るので、必ず権利者がそれの対価を利用者に対して請求できるような仕組みができるという点において、インターネットというのは(これまでのチャンネルに比して)特別なのではないかと思います。
もちろん、今までの例えば電波だとか何だとかというものから見て、インターネットはまだ一つの途中の技術なのかもしれないですけれども、私が理解する限りにおいては、適切なシステムを構築しさえすれば、それについては必ず利用を追跡することができる。私は詳しくはわかりませんけれども、先ほど引用させていただいた自民党の小委員会でサイオステクノロジー株式会社の喜多社長によれば、適法に利用したものは当然簡単にログが残るけれども、違法行為についても必ず記録をとることができる。もちろん、それについてどれだけのコストをかけるかとか、そういう部分は問題があるそうですけれども、必ず記録が残るということです。これは従来、JASRACさん等がやっていた包括契約がそのままけしからないという趣旨ではないのですけれども、今後のインターネット時代、デジタルコンテンツが流通していく時代では、一使用に関しては一ペイメントをするのだということが、やはり公正な取扱い方のベースになるのではないかと思います。そうだとしますと、インターネットは、場合によっては、特殊な流通チャンネルなのだという位置付けをしていいのではないかと私どもは思っております。
それから、本当に適正な価格が決められるのかというお尋ねですけれども、これも私どもの提言の説明が不十分で、適正な配分の比率であるとか、配分のやり方についても法律で決めるということを言っているのではないかとも思われております。それで、今回用意したパワーポイントに若干お書きしたのですけれども、実は、私どもが提言したものが仮に実現した場合には、もしかすると、本当は、椎名さんがおっしゃっているようなアプローチに基づく成果と余り変わらないのではないかとも思っております。そもそも私どもは、許諾をとらないとすべて進まないという前提をひっくり返しただけでありまして、実際には、具体的に私どもの提言のもとでどういうビジネスが行われるかと言えば、それぞれのコンテンツを適切に認証できるような、登録システムを使って、かつ、先ほど申し上げたような、利用について記録が必ず残り、課金ができるようなシステムを使って、それをワークさせていくわけなのです。その配分に関しましては、先ほどちょっとJASRACさん類似の組織みたいなことをお話ししましたけれども、従来の音楽著作権であれば、JASRACさんが果たしたような管理事業的な役割を─市場原理ですので、一つではなくて幾つかの団体、組織が果たしたほうがいいと思うのです。その組成に関しまして、私ども提言をしておりませんけれども、先ほど申しましたように、いろいろな権利者団体の方々の英知も経験も含めて作っていけばいいのではないかと思っているのです。そこの場で、前田先生がおっしゃられたように、従来の取扱いをベースに、参考にしながら、お互いにまずこれは利用できるのだという前提のもとで協議をしていただくということで、配分についての合意をし現実化させることができるのではないかと考えております。そういうような仕組みであれば、何が適正なのかということは、当事者間でおのずと決まってくるのではないかということです。利用できるか、できないかわからないというところから駆け引きでやるよりは、まずそういうところから現実的な配分の仕方というものを協議するのがいいのではないかと考えております。
以上でございます。
○中山会長 それでは、椎名さんお願いします。
○椎名参考人 契約モデルということで言うと、音楽に関しては、音楽レコードに関しては、もう既にネット配信に関しては、ほぼコンテンツホルダーのレコード製作者に集約されているという実績ありまして、そういうようなものなんだと思うんですけれども、ここで考えなきゃならないのは、どんどん自動に使っていいよと、幾らでも使っていいよという人たちが山ほどいるわけです。そういう人たちは恐らくもう判子を押せと言ったらすぐ押すと思うし、それでオーケーになるわけです。問題は、キラーコンテンツなんです。それに関しては、やはりその人たちは対価を求める権利もあるだろうし、露出をコントロールしなければならないニーズもあると思うんです。そこのところをネット権でびしゃっと規格に押し込められちゃったらしようがないんじゃないですかということを申し上げているので、やはり大多数の人たちが契約の中へ入っていくということは容易に考えられると思うので、それもできればコンテンツごとになっていたほうがわかりやすいと思うんです。コンテンツの特性というものがあるから。そういう形をとっていけば、何もネット権によらなくてもいいんではないですかという趣旨で書きました。
それから、DMCAというのは、僕も専門家ではないので詳しくはないのですが、我々の今問題として、ネット上でコンテンツがただであるということを解決するのはどうしたらいいのかということで、ネット上でのルール作りというのが必要なんではないか。アメリカに比べて進んでいるのか、遅れているのかというのは僕もよく分からないんですけれども、例えばノーティス・テイクダウンの問題とか、アクセスコントロールの問題とか、そういうようなことをいろいろ組み合わせて、ネットで投稿して、ただでそれを見れるという状況を何らか抑止していく。そこからお金を取りなさいとか、あるいはグーグルなんかは、広告モデルなんか使って有料化するという努力をしていますけれども、そういうようなことを制度面である程度、パイレーツはやめましょうよというケアがないと、ここから先に対価を生む構造には進んでいけないんじゃないかなという意味で書いたつもりです。
○中山会長 大渕委員、どうぞ。
○大渕委員 岩倉参考人と前田参考人がそれぞれご提案をされていまして、先ほどはご自身の提案を中心にご説明いただいたのですが、それぞれの他の方のご提案についてどのようにお考えかということをお聞きすると、違いその他がわかりやすくなるのではないかと思われますので、手短で結構ですので、お二方にお伺いできればと思いますが。
○中山会長 ちょっと答えにくいかもしれませんが、前田さんからお願いします。
○前田参考人 ネット法につきましては、映像著作物に関しましては、もともとワンチャンス主義が働くものがあって、先ほど椎名さんからもご指摘ありましたけれども、ネット法がワンチャンス主義の適用あるものについても配分を義務づけていると考えるのかどうかというのがよくわからなくて、もし、そこが配分を義務づけるということだと、今度は映画製作者からの反発も強いだろうなと想像いたします。
それから、ワンチャンス主義が適用されないものについて、実演家から一律に許諾権を奪うということはやや過激に過ぎるような印象を私は持っておりまして、実演家が利用に反対することに正当な理由がある場合とない場合があって、その柔軟な解決をしていく必要があり、一律に許諾権をなくすということについては、やや難しいものがあるのではないかなと思います。
それから、先ほど特別法なのか著作権法なのかという問題については、私としては多少肖像権の問題が引っかかるという気はしているんですけれども、肖像権については解釈の余地はあり、「みだりに」の解釈で対応可能な部分もありますし、やはり基本的には実演と著作物の問題ですので、著作権法改正で対応するのがいいのではないかと思っております。
○中山会長 岩倉弁護士、お願いします。
○岩倉参考人 前田先生のご提案については、まだ評価するだけの十分な勉強をさせていただく時間がなかったのですけれども、まず一つ今のお話で、著作権法改正だけで十分ではないかという部分については、著作権法の改正で解釈できる部分があることはそのとおりだと思いますし、できる部分を改正して実態の問題をすべて解決できるのであれば、それは望ましいことだと思います。ただ、先ほど申しましたとおり、従来の著作権法のもとで存在しているいろいろな理解、解釈、慣行、これが今後のネット時代においてコンテンツを流通させていく上での解釈に何らかの悪影響を与えないかどうかというところを非常に私どもは心配しております。ですので、むしろ実際そこまで必要があるかどうかというところは前田先生のご指摘の部分も含めて、さらに私どもも勉強させていただこうと思うのですけれども、インターネット上のデジタルコンテンツの流通、それから利用に関する部分だけを取り扱う、いわば産業法としての取扱いをするほうが、いろいろな意味で真っ白なところから決めるものですからよろしいのではないかというのが私どもの基本的な立場でございます。
それから、前田先生のご提案は、著作権法に基づいて非常に緻密にお考えになられているのではないかとお話を伺いながら考えておりますけれども、少し細かいところは別といたしまして、先ほど申しましたとおり、本当にインターネットは特別なのかという部分については、自分がビジネスをやっているわけではないですし、コンテンツと呼ばれているもの、アーティストが作ったもの、実演するもの、こういうエンターテイメント関係のものはファンとして本当にそれがないと生きていけないものではないと堀社長はおっしゃっておりましたけれども、私はないと生きていけないぐらい大ファンなのです。けれども、そういうものが今後この国の文化・経済を発展させるもとになるものなのであれば、一つ爆発的に日本が将来、このネット時代で世界をリードするための法制度を用意するのが大事なのではないかと私は思っておりまして、そうであれば、従来の枠組みにとらわれないで、その流通、あるいは利用の促進のために、一番いい枠組みを最初から用意することが望ましいのではないかと考えるものです。従来の考え方にとらわれず、他方、私どもの思いとしては、そうすることによって、ネット上のコンテンツの利用・流通が促進されて、ひいては権利者が非常に実質的に保護を受け、それによってまた新しい次世代のクリエーターがインセンティブを受けるということを目指すほうがいいのではないかということで、もともとの部分の発想を変えたほうがいいのではないかと思いまして、提言をさせていただいたということでございます。
○中山会長 ほかに。
上野委員、どうぞ。
○上野委員 それでは、岩倉先生に3点、それから前田先生に1点お伺いできればと思います。
まず1点目は、ネット法の適用範囲についてであります。ご提案によりますと「デジタルコンテンツ」というもののインターネット流通に限定するというふうに書かれておりますので、ネット法の適用を受けるためには「デジタルコンテンツ」であることが必要になろうかと思います。そうしますと、「デジタル」形式であるということが大きな意味を持つことになるようでありますけれども、これは現時点で既にデジタル化されているコンテンツであるということが必要になるのでしょうか。例えば、古い映像フィルムのように、現時点ではデジタル化されてはいないコンテンツであっても、今からデジタル化すればこの法の適用対象になるという理解でよろしいでしょうか。もしそうだとしますと、これは結局ほとんどすべてのコンテンツがネット法の適用対象に含まれるということになりはしないかということでございます。もちろん、現状のご提案では、さしあたり「映像と音声等」に限定することにしておられるようですけれども、デジタル化すれば適用対象になるというのであれば、「映像と音声等」であればすべてのものが含まれることになるのではないでしょうか。にもかかわらず、他方では、このご提案の中で、「伝統的な著作物」というものと「デジタルコンテンツ」とを区別することがあくまで前提とされているようにみえる箇所が散見されますので、まずはこの点についてお伺いできればと思います。
2点目は、収益の分配についてであります。これにつきましては、ご提案の中でも今後の課題とされておりますので、具体的にどのような内容になるかはその検討次第ということになろうかと思います。ただ、ここで「収益の分配」という言葉が使われているということからいたしますと、単純に考えますと、収益が上がれば分配するというふうに聞こえるわけですけれども、これは従来の著作権法にある補償金請求権のようなものとは異なるということでよろしいでしょうか。例えば、著作権法33条には教科書に著作物を掲載する場合の補償金請求権が定められておりますが、これは教科書を出版する場合は、許諾を得ずに他人の著作物を掲載することができるけれども、その際には補償金を支払わなければならないということで、これは収益があがるか否かにかかわらず、あらかじめかかるコストということになっております。これに対して、ネット法における「収益の分配」というのは、そういった補償金請求権とは異なるように聞こえるわけですけれども、そのように理解してよろしいでしょうか。これが2点目です。
それから、3点目にネット権の内容についてであります。ネット権者にネット権というコンテンツを利用する権限を与えることになりますと、現状と比べますと、従来の著作権や著作隣接権を制約することになろうかと思います。こうして制約される権利としましては、まず実演家の著作隣接権が含まれることははっきりしておりますけれども、これに加えて、放送番組についてであれば、例えば放送作家といった原著作物の著作者が有する著作権法28条の権利なども入ってくることになりましょうか。さらに、放送事業者の権利も制約されるということになるのではないでしょうか。と申しますのは、放送事業者が仮にネット権を得たといたしましても、これと同時にライセンス義務、すなわち応諾義務を負うということになっている以上、放送事業者は当該コンテンツについて著作隣接権等を持っているとしましても、そのネット利用について独占状態を保持することができなくなるのではないかと思います。そうだといたしまと、放送事業者は、ネット権は得るけれども、従来の複製権や送信可能化権といったものは制約され、それらは禁止権としての機能を実質的に失うことになりはしないかと思うのでありますが、このような理解でよろしいかどうかお伺いできればと思います。
以上が岩倉先生に対してでありまして、次に前田先生に対して簡単に1点だけお伺いしたいと思います。
前田先生のご提案は、共同著作物の要件を満たさない結合著作物のようなものであっても、もともと結合させる意思があったようなものであれば、共有著作権に適用される著作権法65条と同様のルールを適用しようというご趣旨だと思います。これは、結合著作物に関するドイツ著作権法9条の規定とも似ているように感じられ、これはかつて文化審議会でも議論したことがあり、興味深いところではあります。ただ、ご提案の対象は「デジタルコンテンツ」に限られず、すべてのコンテンツを対象にしているというふうに理解してよろしいでしょうか。例えば10人で論文集を作ったとか、あるいは3人で教科書を分担執筆したとかいうような場合、これは結合著作物ということになるわけですけれども、「正当な理由」が認められるかどうかはともかくとして、ご提案の立法論の対象になると考えてよろしいでしょうか。
よろしくお願いいたします。
○中山会長 では、岩倉弁護士お願いします。
○岩倉参考人 ただいま3つご質問いただきまして、1つ目がネット法の適用範囲ということでございまして、コンテンツの側から定義するという、上野先生がおっしゃられたような考え方もあると思うのですけれども、この部分については申しわけございません。まだ完全に詰めておりません。ただ、これはほかのメンバーと協議したわけではないので、私の私見でございますけれども、私の理解しておりますところの私どもが提言した内容というのは、先ほど申しましたとおり、インターネットで流通できるという状態を特別なものというふうに取扱いまして範囲を定めるものでございます。ですので、コンテンツから定義をするという形もあるかもしれませんけれども、逆にインターネットで流通できるものという方向から定義していく形が十分あり得るのではないかと思います。
では、そうすると、先ほどのご質問のように、インターネットとは何か。そのようなものはまだ途中のものであって、というような議論があるのかもしれません。そこはまたさらに検討しなければいけないと思いますけれども、私自身が理解しておりますところの私どもの提言の適用範囲というのは、インターネットで流通利用できるものを取り扱うのだと、そこが適用範囲であると。そこから、逆にコンテンツなり、対象となるものを定義することもできるのではないかと考えております。
2番目の収益の分配は、ネット・プロフィットが出ないと払わないということではございません。私どもの趣旨は、ビジネスとして最終的にネット・プロフィットが出なくても、正当な使用の対価は払わなければいけないというものです。補償金請求権と同じかどうかというのは、法律の構成にもよるのだと思いますけれども、私どもが「収益」と申しましたのは、できれば、プロフィットが出る状況でどんどん回っていき、それによってコンテンツも非常に爆発的に利用され、流通することが望ましいと思うものですから、そういう言葉を、前向きなポジティブな意味で使ったわけなのです。けれども、当然ながら先ほど申しましたとおり、私どもの前提というのは権利者に実質的な保護を与えるものだと考えておりますので、最終的なビジネスを行ったものがネット・プロフィットが出ない限り、収益を配分しないということではなくて、先ほど申しましたとおり、ワンユースに関して、ワンコピーに関しては、必ずワンペイメントがなされる。その前提を定めるものだということで、私どもは提言いたしております。
3番目に、ネット権が制約する権利の対象は何かというご質問かと思いますけれども、まず上野先生もご理解いただいていると思うのですけれども、私ども先ほども言い訳をしながらご説明しましたけれども、説明が非常に不十分で、またネット法とかネット権という言葉がひとり歩きした部分もございますが、ネット権は、従来の感覚でいう独占権を与えているものでは決してございません。今日のパワーポイントの最後のページにも書きましたとおり、その趣旨はいわばネット許諾権でございまして、ネット上でコンテンツが流通するのを利用しよう、あるいは流通させようという人がいたときに、それを許諾する権利でございます。もちろん、自らも許諾されるといいますか、自らも利用できるのでネット権者という言い方をしたのですけれども、上野先生ご指摘のとおり、ネット権者は、逆に、ライセンスを受けたいという人から適正な要請があった場合にはこれを許諾する義務を負う方向で私どもは考えておりますので、ネット権者が権利を独占するものではないというのは、まずそのとおりでございます。
したがいまして、ネット権者の有しているネット権が何かの権利を害するということを私どもは意図しているわけではございません。今申し上げた法的構成のもので、従来の権利者の権利が制約されることは、おっしゃるとおり存在すると思います。放送作家の権利がその部分に関しては確かに制約されることはあり得ると思いますので、椎名さんたちがおっしゃっている実演家の権利だけではなく、ネット上でコンテンツが流通される過程において、現行著作権法上コンテンツについて存在する権利がある一定程度影響を受けるのはそのとおりでございます。
以上でございます。
○中山会長 それでは、前田参考人、お願いします。
○前田参考人 結合の意思を持って結合された結合著作物をも広く対象に考えているのかというご質問だったと思うんですが、私が想定しておりますのは、映画製作者に代表されるような、あるコンテンツの制作に発意と責任を有する制作主体となる人がいて、その制作主体との契約によって、多数の人が出演等を行っているという場面を主として想定をしております。ですから、3人の意思に基づいて3人の論文集として発表した場合に、1人が正当な理由がないと論文集の発行に反対できなくなるということを想定しているのではなく、一つのコンテンツがだれかの発意と責任によって制作され、それについて経済的リスクを負っている人がいるというようなタイプの著作物について、制作に参加している人が多数いるという場面において、その参加者は正当な理由がなく利用に反対ができないということにすればいいのではないかなと考えております。
○中山会長 それでは、宮川委員。
○宮川委員 私から岩倉先生に1点と、それから前田先生に1つご質問をさせていただきたいと思います。
まず、岩倉先生への質問は、先ほど上野先生の岩倉先生へのご質問、3番目とほぼかぶっていると思うんですけれども、ネット権者というのが今のところ、
私が伺っている限り、映画製作者、放送事業者、レコード製作者という方たちが権利の主体として挙げられているようですが、これはデジタルコンテンツのネット上の流通を促進するという意味では、むしろ伝統的なメディアであって、
ネット事業者、コンテンツを流通させようという業者さんとはある意味では対立し、ある意味では協調していくような立場にある方も多いかと思います。そのような場合に、ネット権というものを作ったとしても、本当にネット上でデジタルコンテンツの流通が促進されるのだろうかというところに前々から関心がありました。今日いただいた資料の中で岩倉先生がご用意してくださった資料3−1の4ページ目を拝見しますと、ネット権というのは許諾権というふうに書きながらイコールネット許諾義務ということが明記されていて、さらにその中にはネット権者以外の者もネット権者から許諾を得て利用できるし、ネット権者による恣意的な許諾拒否等は許されないと、そういう文章が追加されています。この点について、上野先生のご質問とかぶりますが、どのようにお考えになっているのか先生のご意見を伺いたいと思いました。
それから、前田先生に対するご質問なんですけれども、先生がご用意くださった資料3−2の表紙の次から枚数を数えまして4枚目にネット利用に関する(実演家等の)許諾権を一律になくすことが適切かというタイトルのもとで、2として実演家の権利を余り強く制約し過ぎると、出演時にネット利用を制限する契約が広がり、かえってネット利用に困難を来さないかという問題提起がなされております。私もこの点については非常に関心がありまして、これはネット権の創設でも、あるいは著作権法の改正であっても、たとえ法律が変わっても、特別な契約で、例えばネット権は(ネット権者に)あるけれども、私の出演のネット利用については特別に許諾をとってくださいという実演家の方、あるいはその他の権利者の方があらわれるのではないかと思っておりました。また、今回、前田先生がご提言されているように、正当な理由がない限り、コンテンツの利用に反対できないという著作権法の改正があっても、実演家の方は私から許諾をとるようにというような契約を結ばれる可能性もあるのではないかと思っております。前田先生のお考えでは、(実演家の権利を制限する著作権法の規定は)いわゆる強行法規的なもので、正当な理由がない限り拒絶できないというのは、個別の契約を乗り越えて効力を有するものだというところまでお考えになっているのかという点を伺いたいと思います。
よろしくお願いします。
○中山会長 では、岩倉弁護士、お願いします。
○岩倉参考人 私へのご質問は先ほど上野先生からご質問いただいたところと確かにオーバーラップしている部分があると思いますけれども、手短に申し上げますと、私どもの提唱しておりますネット権、ネット法の考え方、提言のもとでは、ネット権は決して独占権ではございません。したがって、従来のメディアにこれを持たせることで従来のメディアの権利を強化するとか、あるいは逆に、目的とは反対にネットの流通が促進されることにならないのではないかということはなくて、むしろこの「提言」の4ページに書いてあるのですけれども、ネット権者の範囲に関しては今後検討していくべきだと思います。記載が不十分だったのですが、むしろ収益の配分義務を実際に行うことができる、あるいは各コンテンツのカテゴリーにおいて、それぞれどういうような権利者が関係していて、だれに払わなければいけないのかというようなことをきちんと人を配置して、あるいは投資をして、そういうシステムを回すことができるのは、この3者がまず典型なのではないか。だれにでもネット権を与えると、逆に収益を必ず配分すると言っても、それは画餅に帰してしまうと思います。例えば放送コンテンツであれば放送事業者、音楽のコンテンツであればレコード製作社等であれば、既に一部、先ほどもお話がありましたとおり、実際になされている部分もあるわけでございますので、収益の配分義務の実現というのはこういう人たちこそできるのではないかということから、私どもはこのように提言しました。むしろ、これをできない人たちは、ネット権者から許諾権を受けて、ネット上の権利の利用・流通を行う立場に置けばいい。そのかわり、応諾義務というのは、それなりのきちんとしたアプリケーションがないといけないわけですから、必ずお金を払うのだとか、どういうものに使うのだとか、利用したものについて適切に情報を提供するというようなことを約束させればよいわけでございまして、そうすれば、権利者にも必ずお金がいくような回り方をするだろうと思うのです。したがって、従来のメディアだからどうこうというのではなくて、私どもが提言しているシステム、仕組みというのが実際回るためにはだれをネット権者と呼んだらいいのかという観点から私どもは機能的にアプローチしたつもりでございます。
以上です。
○中山会長 前田さん、お願いします。
○前田参考人 ネット法では、個別に実演家の許諾を得る必要があるという契約を締結された場合、それを無効とすることは、恐らく岩倉先生も考えておられないのではないか。つまり、契約によるオーバーライドができるというふうに考えておられるのではないかと私は想像しておりました。私が申し上げました、「正当な理由なく反対ができない」ということにしたとしても、どんな場合でも反対ができる、どんな場合でも実演家の許諾を得なければいけないという契約が仮に締結されたとすれば、その契約を一律無効ということはできないだろうと思います。ただ、例外的に権利濫用とか公序良俗に反するとか、そういったことで、個別の具体的事例の中で、全く利用に反対する理由がないにもかかわらず、反対をする、契約があるから正当な理由がなくても反対ができるのだという主張に基づいてコンテンツの利用の差止請求等がなされた場合には、それが一般論として権利濫用等に当たるという余地はあるのではないかと思っています。ただ、法律にオーバーライドする契約を一律に無効とするというほど強いものとするのは、行き過ぎであろう。あくまで個別具体的な判断になるのではないかと思います。
○中山会長 時間も押しておりますが、何かほかに。
どうぞ、音委員。
○音委員 今までのお話とは違う視点で岩倉参考人と前田参考人に質問させていただければと思います。本日のテーマは、コンテンツの流通の促進についてということで、基本的には既存のコンテンツがどういうふうに多様に流通するのかというお話がメーンで出てきたかと思うんですが、もう片方で岩倉参考人のペーパーの中で3ページ目ですけれども、1億総クリエーター時代にかなうようにするということで、先ほど若いクリエーターたちがどんどん出てくる。それから、ほかのところでもクリエーターの育成というお話が出てまいったかと思います。そこでなんでございますけれども、つまりこのご提案のネット法を新たに作ることによって、新たにクリエーターたちがどれだけ育っていく環境ができるのか、そのあたりのところをどういうふうにお考えなのか。または、ネット法に限定、デジタルコンテンツに限定をして、ネット法で。そこの部分で十分なのかどうなのか。そこのところをどういうふうに考えていらっしゃるのかということをお聞かせいただければ。
それから、全く同様の問題なんですけれども、前田先生のほうのペーパーの
中では、このあたりのことは余り触れられていないかと思うんですが、既存の
著作権法改正することによって、クリエーターたちを育成することにどういう
ふうにつながっていくのか。またそのあたりのことをどうお考えなのかという
ことをお聞かせいただければと思います。
○中山会長 それでは、岩倉さん、お願いします
○岩倉参考人 この専門調査会が指向されているのが既存のコンテンツの流通・促進だけなのだとすれば、確かにネット法はそれを超えている部分があると思います。既存のコンテンツのみならず、これから作られるコンテンツをいかに流通促進させるだけではなくて、いかにそういうものを作らせるか。特に次世代のクリエーターになるべき人たちに、それこそキラーコンテンツになるような、爆発力のあるようなものを作るインセンティブを持たせることができるかということを、私どもは中心の課題の一つとしておりますので、既存のコンテンツだけをとらえて私どもは考えておりません。
その部分ではもしかすると、本調査会の目的とちょっと違う部分があるのか
もしれませんので、お許しいただければと思っております。
それで、1億総クリエーターといっても、実はそれ程みな作っていないのではないかというお話はあると思います。素人が作っても本当にそのようなものが流通するのかというところはあると思うのです。ただこれは分からないお話でございまして、ちょっと会社の名前を出していいのかわかりませんが、アメリカの世界的な動画共有サイト等で素人のコンテンツが爆発的にアクセスを受けて、プロフィットを生み出したということもございますし、あるいはもう既にアメリカ・ヨーロッパでは本当にどこのメジャーレーベルにも所属していないようなアーティストたちが作った映画、あるいは楽曲が、その動画共有サイト、世界で一番大きい動画共有サイトに載りまして、非常に爆発的な、何千万のアクセスを記録して、それがまた今度メジャーの目にとまって映画になった、あるいはCDになったというような例は、今続々と出てきているわけです。こういう人たちにそういうような活躍の場を与えられるようにするためにも、既存の枠組みだけでは多分だめなのだろうと私どもは意識しまして、提言をした次第でございます。
あと、インターネット上のデジタルコンテンツだけで十分なのかどうかという点については、これは十分ではないかもしれません。ほかの形でのそういう文化や、あるいは若い人たちに夢を持たせるというためには、ネット上のコンテンツだけでは足りないかもしれませんが、少なくともその部分はこれから日本にとって重要なのではないかという趣旨なのです。それから、若い人たちが今非常にテレビを見なくなったとか、いや、結構見るではないかという議論がありますので、全員がインターネットしか見なくなるとか、使わなくなるなどということを私は申し上げる気はないのですけれども、インターネットは相当程度は重要な分野なのではないかと思っております。そうであれば、このような特別立法を作るというのも日本の国益のためには非常に重要なことなのではないかと思いまして、権利者の方々、あるいはクリエーターになる方々へのインセンティブにもつながるということで提言した次第でございます。
以上です。
○中山会長 前田さんお願いします。
○前田参考人 ご指摘いただきましたとおり、私の提案は直接的にはクリエーターの育成を目指したものではないと思います。しかし、コンテンツの流通が促進され、それによって市場が膨らみ、パイが大きくなることによって、結果としてクリエーターが活躍できる場面が増え、対価を得られるチャンスも増えるという意味では、結果的にはクリエーターの育成につながるという面があると思っております。
○中山会長 最後に大谷委員、お願いします。
○大谷委員 ありがとうございます。ほかの委員がよい質問をしてくださったので大分質問が減りました。1つ岩倉先生にお伺いしたい点があります。前田先生のご意見との大きな違いで著作権以外のものも処理するといったところに特徴がおありだというふうに受け止めております。この場合、ワンコピー、ワンペイメント、そこで得られた収入を配分するという考え方なんですけれども、結果的には著作権以外の様々な肖像権とかパブリシティ権、それからそれ以外の産業財産権も含めた権利処理を行うということになります。そうすると、本来は権利の種類が増えていけば、実際にワンコピー、ワンペイメントというよりは、全体的に獲得しなければいけない収益というか、支払わなければいけない金額の総体が増えていくのが通常の権利処理の在り方だとは思うんですけれども、これはいったん集めたものを配分するという考え方で全体が構成されているので、そもそもそういう産業財産権なり、知的財産権の根本的な発想と相いれない部分があるのではないかという疑問を持ちましたので、それについてのお考えがあれば、聞かせていただきたいと思います。
それからもう一点は、椎名さんのほうなんですけれども、幾つかある中で3
点ほど教えていただければと思っております。
1番目に、許諾権が奪われた場合に、コンテンツの平準化が発生して、キラーコンテンツが出にくくなるというご意見を出されていらっしゃいます。例えば発想を変えて、例えば成功報酬型の資金回収方法ですとか、そういった新たな取組というか、ビジネスモデルを実演家の側から提案するということも可能ではないかと思いますので、必ずしも価値サイクルが破壊されるという形で動いていくのではなく、コンテンツの平準化という結論は自明のものではないのではないかと一つ思っております。
それから、ちょうだいしている資料の4ページ目で採算が悪いという話で、違法コンテンツの問題というのは原因の一つに常々挙げられているものなんですが、最大の要因であるということをおっしゃられているので、やはり因果関係などについて、何らかのデータをお持ちであればそれをお示しいただきたいということがございます。
そして、最後でございますが、いただいている資料でご提言いただいている中に、何よりも「通信事業者等が」と述べておられ、通信事業者を一番念頭に置かれているように見受けられます。資料にも、リスクとコストをとってビジネスモデルを確立すると書かれているんですが、そもそも通信事業者が設けられない現在ビジネスになっているとのご説明がございました。その中でリスク、コストをとれというのは、多分なかなか厳しいご要請ではないかなと思っておりまして、やはり制度全体としてリスクを低減させるために、実演家の側から何か考えていらっしゃることがあれば、それもお伺いしたいと思いまして、この3点をご質問とさせていただきます。
終了間際になって、こんなにいろいろ質問いたしましてすみません。
○中山会長 岩倉弁護士、お願いします。
○岩倉参考人 私へのご質問は、配分ルールの合理性といいますか、適正であるのかどうかということですが、まず著作権以外の部分もカバーしているのは、私どもはそういう理論的な適用可能性があるのではないかというふうに思いましたからなので、少し前田先生の分析とは違うかもしれません。が、私どもの提言では、フェアユースの規定を置くことを同時に提言しているものですからすべてのものについて対価を払わなければいけないということではなくて、そのビジネスの中で、前田先生の言葉を使えば、リスクをとってビジネスを行ったものとして、そのものが払うべき対価として何かの権利が利用されたのであれば、その権利には収益を還元すべきだろうとは思うのですけれども、そうでないというものについては、フェアユースの規定でそれを処理するということを私どもは考えております。
それから、そういう対象になる権利が増えていくと、従来の考え方とは違うのではないかというご指摘に関しましては、そうかもしれません。私どもの考え方は、あくまでまずそれは利用できるのだという前提で、そうすると、そこから上がってくる収益について、権利者に適正に配分していきましょうという考え方でございますので、確かに積み上げ方式ではなくて、配分方式で私どもは考えております。
ただし、配分の利用、仕方等につきましては、先ほど申しましたとおり、私どもの提言する枠組みの中であれば、例えばJASRACさんのような機関を複数作って、その中で、まず、それは利用されるのだという前提で各権利者の配分を現実的に協議していただいて、それはまた一定の一つのルールではなくて、それぞれの機関ごとにルールがあってもいいと思いますし、いろいろなやり方があってもいいと思うのですけれども、そこで決まったルールのもとで配分されることを考えておりまして、そういう意味ではご指摘のとおり積み上げ方式ではないということでございます。
以上です。
○中山会長 椎名さん、お願いします。
○椎名参考人 まず、平準化の話なんですけれども、例えばそんなに有名じゃない人が放送番組出てくださいと。放送番組出た結果、めちゃくちゃブレークしたと。それをネットに流そうとする段になって、いいや、ネット権はうちにありますと言って、放送事業者がネット権を行使するわけですよね。そこで放送事業者と実演家の間には許諾権はありませんから、実演家側に許諾権がありませんから、そこで成功報酬を幾ら得たいと言っても差止めはできないわけですよね。そこの価格交渉ができなくなるという意味でインセンティブを奪うといったという意味です。
それから、採算性が悪い実例を示せということなんですが、これはちょっと名前出していいのかどうか分からないですけれども、ネット上で放送局が番組を流そうという試みを今まで幾多もやっているわけですね。トレソーラというふうな幾つかの局が集まって集合体でそういうことを検証したこともありますし、個社でも第二何とかというふうな形でやったりといったケースもありますが、いずれもやはり放送をするというビジネスモデルに比べて圧倒的に採算性が悪いということで具体的な数字は持っていないんですが、そこで目論見がついえている事実は幾らもあると思います。
最後に、通信事業者が採算性が悪いところでなおかつリスクをとれというのは無理なんではないかということのご指摘なんですが、ここで言う通信事業者というのは、例えばインフラを有しているような人たち、実演家側から見ますと、放送と通信は同じだから、同じように権利制限をしなさいとか、今までさんざん言ってきた人たちがいるわけですよね。そういう人たちは、自分のインフラを持っているわけですよ。例えば、インフラを定価で計上すれば、それはビジネスモデルは崩れるのかもしれないけれども、インフラを所有していること活用して、広告モデル作るとか、幾らでもやりようはあると思うんです。部外者が他人のインフラを使ってやるよりは、はるかに有利なんではないかという意味で、リスクとコストをとって自らやったらビジネスモデルが開けるんではないかと、そういうふうに申し上げたわけです。
○中山会長 ありがとうございました。かなり時間を超過して申し訳ございませんけれども、本日、委員、あるいは参考人の方々からちょうだいしたご意見を整理いたしまして、さらに議論を重ねてコンテンツの流通促進につきましては本専門調査会としても一定の方向性を出すようにしたいと思っております。
次回は、コンテンツの流通促進に関する議論はいったんお休みいたしまして、いわゆるフェアユースに関する権利制限規定の在り方について、検討をするという予定でおります。
それでは、本日はこれをもちまして終了したいと思います。この調査会の第5回会合は、7月10日木曜日の15時から本日と同じこの会議室で開催する予定でおります。本日はご多忙中、長時間ありがとうございました。
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