○大路参事官 それでは、おそろいでございますので、ただいまからデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の第1回会合を開催させていただきます。
本日は、ご多忙のところご参集いただきまして、本当にありがとうございます。
私は内閣官房知財事務局参事官をしています大路でございます。後ほど委員の互選により、この専門調査会の会長をお決めいただくことになっておりますが、それまでの間、議事の進行を務めさせていただきたいと思います。
まず、素川事務局長からごあいさつを申し上げます。
○素川事務局長 失礼いたします。事務局長の素川でございます。
委員の先生方におかれましては、ご多様中のところ、今専門調査会の委員をお引き受けいただきまして、まことにありがとうございます。
知財戦略本部におきましては、昨年度、コンテンツ・日本ブランド専門調査会と競争力強化専門調査会におきまして、調査・検討を進めてまいったわけでございます。
この中で、例えば「デジタル時代におけるコンテンツ振興のための総合的な方策について」という取りまとめにおきましては、ネット時代に対応した新しい知財制度等を構築するというテーマに関しまして、知財制度に係る検討課題がいくつか掲げられているところでございます。また、「オープン・イノベーションに対応した知財戦略の在り方について」という取りまとめにおきましても、オープン・イノベーションを支える基盤の一つといたしまして、外部情報を利用しやすい創造環境の整備というテーマに関係いたしましても、知財制度に係る具体的取組の提言がいくつか行われているところでございます。
このように、2つの専門調査会からデジタル化、ネットワーク化に対応した知財制度の在り方に関する提言がありました。こういうことから、これらを統合的に、また集中的に検討するために、去る3月の知財戦略本部会合におきまして、配付しております資料の1にありますように、既存の2つの専門調査会との連携を図りながら、新たに「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」を設置することが決定されたわけでございます。どうか委員の先生方におかれましては、デジタル化、ネットワーク化の利点を最大限生かし得る知財制度の構築に向けた検討を行っていただきますようにお願い申し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大路参事官 それでは、今回は委員の初顔合わせの会合でもございますので、最初に今回委員をお願いをいたしました方々をご紹介させていただきたいと思います。資料2の名簿をご参照ください。
名簿順に従ってご紹介させていただきます。
上野達弘委員でございますけれども、本日は所用のためご欠席でございます。
大谷和子委員でございます。
○大谷委員 大谷でございます。よろしくお願いいたします。
○大路参事官 大渕哲也委員でございますが、本日は所用のため、ご欠席でございます。
続きまして、音好宏委員でございます。
○音委員 音でございます。よろしくお願いいたします。
○大路参事官 加藤幹之委員でございますが、本日は所用のため、ご欠席でございます。
上山浩委員でございます。
○上山委員 上山と申します。よろしくお願いいたします。
○大路参事官 北山元章委員でございます。
○北山委員 北山でございます。どうぞよろしくお願いします。
○大路参事官 東倉洋一委員でございます。
○東倉委員 東倉でございます。よろしくお願いします。
○大路参事官 苗村憲司委員でございます。
○苗村委員 苗村でございます。よろしくお願いいたします。
○大路参事官 中村伊知哉委員でございます。
○中村委員 中村でございます。よろしくどうぞお願いします。
○大路参事官 中山信弘委員でございます。
○中山委員 中山でございます。よろしくお願いします。
○大路参事官 宮川美津子委員でございます。
○宮川委員 宮川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大路参事官 それでは、引き続きまして、会長の選任をしていただきたいと思います。資料1をご覧ください。
その4にございますように、専門調査会の会長は、委員の皆様の互選により選出をしていただくことになっております。どなたかご推薦をお願いできますでしょうか。
中村委員、お願いいたします。
○中村委員 ここは知的財産戦略本部委員でもある中山先生が適任だと存じますので、推薦いたします。
○大路参事官 それでは、中山委員というご発言がございましたけれども、いかがでございましょうか。(拍手)
それでは、中山委員を会長ということで決定をいたしたいと思います。
ここからの議事の進行につきましては、中山会長にお願いいたしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○中山会長 ご指名でございますので、会長を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
この問題はこれからの知財行政の根幹にかかわる問題で、非常に重要な問題でございますので、慎重なご審議をお願いしたいと思います。
それでは、本調査会の運営に関する事項は資料1の7にありますとおり、会長が定めるということになっております。そこで、資料3をご覧ください。
ここにありますとおり、本専門調査会の議事は原則として公開とすること、会議終了後は発言者名を付した議事録及び配布資料を公開すること、それから、専門調査会の審議に必要があると認めるときは、参考人を招致すること、その他必要な事項は会長が定めることとさせていただきます。
また、本専門調査会の公開手続につきましては、資料4のとおりとさせていただきたいと思います。
また、急な事情によりまして、私が本専門調査会に出席することができなくなった場合には、会合の議事進行をしていただく方をその時点で選びましてお願いをするということにしたいと思います。
以上の諸点につきまして、何かご質問等ございましたらお願いいたします。
このような具合で進めさせていただきたいと思います。
それでは、まずは今後の調査・検討の進め方につきまして、お諮りをしたいと思います。
事務局の方から説明をお願いいたします。
○吉田事務局次長 それでは、資料7をめくっていただきたいと存じます。1枚紙のものでございます。
そこに「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会検討スケジュール(案)」が示されております。
一番最後の行にありますように、この専門調査会は今年の年末までに取りまとめを行うということを目指して、集中的なご審議をお願いしたいと考えております。当面、3回の会合につきましては、お手元にありますように、既に日時等を調整させていただきまして、提示させていただいております。今日は第1回の会合でございますので、後ほど資料5に基づきまして説明させていただきますけれども、委員から全般にわたりまして、さまざまなご意見や問題提起などをいただければと考えております。
第2回の会合では、今日の第1回目の議論を踏まえまして、委員のご意見を事務局で整理し、また関係機関等における検討状況なども参考資料として付した上で、今後取り組むべき論点の整理をしていただきたいと存じております。第2回と第3回、この2回を通じまして、その中で早急に取り組むべき課題、少し時間をかけて、年末までに取り組む課題、そういったあたりの整備もしていただきたいと考えております。6月の中旬に知財本部で知的財産推進計画2008が策定される予定でございますので、早急に取り組むべき課題につきましては、何とかそちらにも盛り込めるような、そのような審議をお願いできれば幸いと考えております。それ以降、第4回以降につきましては、月1回程度の頻度で開催をさせていただきたいと考えております。
以上でございます。
○中山会長 ただいまのスケジュールの説明につきまして、何かご意見とかご質問ございましたらお願いいたします。
よろしいでしょうか。
それでは、本専門調査会におきましては、資料7のようなスケジュールで検討を進めていくということにしたいと思います。
それでは、次にデジタル・ネット時代における知財制度の在り方につきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○吉田事務局次長 資料5をご覧いただきたいと存じます。
これは今回第1回の会合に向けまして、事務局で議論のたたき台という形でまとめたものでございます。
最初に、「検討の背景」がございます。これは先ほど素川事務局長から説明いたしましたようなことでございますけれども、改めて見ていただきますと、デジタル化、あるいはインターネットの普及、ブロードバンドの進展、そういったものが大きな変革を起こしているわけでございます。新しいネット関連ビジネスですとか、コンテンツ・ビジネスの創出といったことも起こってまいります。また、国際競争力といったことを考えますと、こういったデジタル技術のメリットを生かして、どのような新たなネットビジネスの発展につなげていくのか、あるいは創作・研究開発の基盤を確立するのかというあたりも課題になってくるわけでございます。
欧米諸国におきましては、こういう問題を国家戦略として位置づけまして、多くの課題について取組を行っているところでございます。
一方、我が国におきましては、これまでの取組もございますけれども、まだまだ十分ではなくて、社会全体としてデジタル情報やネットワーク機能を十分に活用し得る環境を提供できてないのではないかというご指摘もあるわけでございます。
そこで、今回の専門調査会のご議論をお願いすることになってまいりますけれども、2の「論点」で、今日は全体の議論ということでございますので、あえてこういった立て方をさせていただきました。
「論点1」はデジタル・ネット時代における著作権制度の役割をどのように捉えるべきかということでございます。これは「論点2」のどういったところに問題があるのかということと結びついてくるテーマだと思いますので、この後ご意見などをいただく際には、論点1、2とあわせてご意見をいただければ幸いだと思います。
「論点1」のところでは、著作権制度の役割といったところで、古典的な議論としては、精神的所有権といった捉え方をして、この場合には創作者の権利を最大限尊重する。その一方で、権利の制限ということについては、抑制的で必要最小限にすべきではないかと、こういった考え方があるわけでございます。
一方で、今度は創作へのインセンティブを増すというのが著作権制度の役割ではないかという立場もあるわけでございます。創作者の利益の保護がさらなる創作を生み出して、文化や産業を豊かにするということになるわけでございますけれども、文化の発展という大目的の実現のため、創作の源泉としての創作者の利益を保護しながらも、社会全体の文化的活力の向上発展調和を重視すべきではないかとなるわけでございます。
「論点2」のところで、ここはデジタル・ネット時代の進展の中で著作権制度が不適合を起こしている点はどこにあるのか、またその具体的な問題はどこに生じているのかという切り口でここは記載をしております。
問題の例ということで、6つほど書いております。
まず、(1)では、現行の著作権制度は例えば出版ですとか、あるいは放送ですとか、そういった単一の利用方法というのを前提として制度が構築されていて、いわゆる最近のワンソース・マルチユースといった利用状況、そういったものに対応していないのではないかということでございます。
これが具体的な問題ということになりますと、著作物の二次利用などを円滑に行うための権利管理システムや権利制限の在り方という問題につながっているかと思います。
(2)では、デジタル・ネット上の豊かな情報を活かした新しい利用方法に対応していないのではないかということでございます。
この関係では、研究開発などを目的とするデジタル著作物のインターネットなどを通じた収集や共有、保存、そういったことに対してどうかということでございます。また、さらには図書館等における情報のデジタル化、あるいは大学等におけるeラーニングなど、デジタル環境を活用した教育・文化事業の円滑な展開という観点ではどうなのかという問題もございます。
それから、(3)のところは、通信技術上の不可避的な取扱い、あるいは著作権保護の技術の位置づけが明確ではないのではないかということでございます。その対象になるのが検索エンジンをはじめネット関連ビジネスの多くで技術的な過程では不可避的な複製などが生じてくるわけでございますけれども、それがどうも法的に解決されてないのではないかということであります。
それから、2つ目はセキュリティ対策ソフトや暗号ソフトなどの技術開発をする際に、リバースエンジニアリングといった問題が生じてまいりますけれども、この取扱いについて必ずしも明確ではないという問題も出てまいります。
(4)は最近とみに注目されているものでございますけれども、投稿サイト、あるいはブログなどで他人の創作物を相互に利用し合いながら創作するケースなど、新しい創作形態への対応が明確になっていないということであります。具体的には、投稿サイト等における個人の著作権管理の在り方ですとか、あるいは最近言われる言い方としましては、「1億総クリエーター時代」ということがありますけれども、それが到来している時代環境に対して制度が的確に対応しているのだろうかという問題もあろうかと思います。
それから、(5)のところでございますが、新たな技術やビジネスモデルの出現に際して、柔軟に対応しうる規定がなく、新たな動きが萎縮しがちであるという問題点もあろうかと思います。
ご存じのとおり、現行の著作権制度の上では権利制限規定は個別的・限定的な規定方式をとっておりまして、何か新しい利用方法が出てきて、それが著作者の権利を害しないのではないかと思われても、なかなかそういう制度の方がうまく対応できてないという問題もございます。そういうところから、技術や環境の変化に柔軟に対応できるような制度、そういったものをそろそろ日本でも導入すべきではないかという議論がございます。このあたりの議論は、実は上の(4)などとも結びついてくる部分になるわけでございまして、投稿サイト、あるいはブログなどで他人の著作物をお互いに利活用しながら、創作がどんどん展開していくというようなことが出てまいりますけれども、そういったときに著作権法上の概念で申しますと、翻案といったことも絡んでまいりますけれども、そういう問題をどうとらえるかという問題もここに含まれてこようかと思います。
それから、(6)でございますが、これは違法な利用に対する対策の問題でございます。
ネット上の違法コピーの氾濫に対して技術的な手段による対応ですとか、あるいはインターネットサービスプロバイダー、こういった関係者の役割などをどのように考えていくのか、またこれは国際的な視野で考えることが必要でございまして、外国のサイトからどんどん無断で流されるということについてどうするのかという話も入ってまいります。
3ページ以降は、この専門調査会の検討にかかわって、この知財本部の下にございます2つの既存の専門調査会で行いました報告などの関係部分の抜粋でございます。これはご覧いただければと存じます。
それから、もう一つ参考資料というのをとじておりますが、これは詳しくはご説明いたしませんけれども、今後いろいろとご検討いただく際に参考になればということで整理したものでございます。
1ページめくっていただきますと、これから10ページまでは日本を初めとしてドイツ、フランス、イギリス、アメリカの順序でそれぞれの著作権法の中で、表でどういった権利がどういう人に与えられているのかということ、それからその裏側でそれに対して権利の例外といいましょうか、権利制限としてどういうものが設けられているのかというのをそれぞれ一覧できるような形で整理したものでございます。これは個別にご説明しますと、時間がかかりますので、省略をさせていただきますが、総じて申し上げますと、権利の関係につきましては、条約との関係もございますので、おおむね世界各国で認められております権利は共通しているものが多うございます。一方、権利の制限ということに関しましては、共通している部分もございますけれども、それぞれの国の独自のものも見受けられるということでございます。
あと11ページをお開きいただきますと、これは条約の関係でございます。11ページが著作権に関しますベルヌ条約と96年に作成されましたWCTのそれぞれ内容を示しております。
この中で、ベルヌ条約の欄の下の方をご覧いただきますと、複製権にかかる権利制限がございますけれども、権利制限の基準といたしまして、スリーステップテストがございます。通常の利用を妨げずということ、それから著作者の正当な利益を不当に害しないということ、それから特別な場合であると、こういう場合には国内法によって権利制限を定めることができるということがございますので、権利制限措置を考える場合には、ここの基準との照合を考えなければいけないということでございます。WCTでは、この複製権に関する基準だったものが著作権全般に広げられたということが書かれてございます。
12ページは、今度は著作隣接権関係のものでございまして、ローマ条約とWPPTの2つを掲げておるところでございます。
それから、13ページをご覧いただきますと、これは最近のヨーロッパ、あるいはアメリカにおきます動きを整理したものでございます。ヨーロッパでは、2001年に情報社会に対応するための著作権指令が策定されまして、欧州域内の著作制度のハーモナイゼーションを図ってきておるところでございますけれども、今年の1月に発表されましたこの欧州委員会のレポート、「欧州単一市場におけるクリエイティブ・コンテンツ・オンライン」といったタイトルの報告書でございますけれども、ここの中で4つの課題の提示がされております。
1つは、コンテンツの利用可能性というところでございます。それから、これはEU域内の国を越えての話でありますけれども、多国間使用許諾、多国間ライセンスの問題でございます。それから、DRMシステムの相互互換性と透明性の問題、ページをめくっていただきますと、適法な提供と海賊行為に対する対処といった問題が課題として掲げられてございます。
こういう課題につきましては、ヨーロッパでは今後それを議論する場といいましょうか、オンラインコンテンツプラットフォームといったものを設けまして、そこでどのような対処をするかという議論が行われると聞いております。
そのほかの課題としましては、保護期間をどうするかという課題ですとか、あるいは私的複製に関する補償金制度の議論、そういったものもございます。
それから、15ページをご覧いただきますと、イギリスの動きでございますが、2006年の12月に「ガワーズ・レビュー」が発表されました。イギリス政府は、現在この「ガワーズ・レビュー」の報告をもとにいたしまして、著作権法改正案の準備をいろいろと進めているというところでございます。
この各論のところで論点がいくつか出ておりますけれども、このあたりは我々の問題意識とも少し似た部分があるなということでご紹介させていただきますと、1つは遠隔教育の話でございます。それから、その次が保護期間に関する問題でございます。それから、一番下の黒丸は私的複製の例外ということで、プレイスシフトの問題を取り上げております。
それから、16ページをご覧いただきますと、研究目的の例外ということでございます。
研究目的のための私的複製ということ、これまで文芸、演劇、音楽、美術と、そういうものにつきましては、研究目的のために複製をするということは可能であったわけですけれども、それ以外のものについてどうかということがあったわけです。今回のこの勧告の中では、今申し上げました4種類の著作物以外のものにつきましても適用すべきであるという勧告になっております。
それから、図書館の問題、さらにパロディの問題、そしてオーファンワークスという権利者不明の著作物についての対処の問題、それからP2P対策の問題、こういったものが課題として上げられております。
また、今年の2月には「クリエイティブ・ブリテン」という名称で報告書がまとめられておりますけれども、その各論の中では、最初の黒丸でございますけれども、違法ファイル交換対策として、ISPと権利者間の協力を求めるための立法措置の在り方といったものが掲げられているということでございます。
17ページはアメリカの動きでございますが、アメリカでは現時点では具体の議論が進展してないのですけれども、オーファンワークス、著作者不明の著作物の動きというのがございます。過去に法案が議会に提出されたということはございますけれども、そのような事情で今のところ取り下げられておるということでございます。見てみますと、ヨーロッパといいましょうか、イギリスにおいても、アメリカにおいてもオーファンワークスの議論が関心を集めているということが見てとれるかと思います。
それから、19ページでございますけれども、これはコンテンツの円滑な流通促進のために民間レベルでいろいろと試みられております自主的な取組の例でございます。
権利の集中管理でございますけれども、著作権等管理事業法に基づく事業者が、今現在では36事業者となっております。分野別の事業者はその下に掲げてあるような状況でございます。
その下にそれぞれの団体の委託者数が掲げてございます。いわゆる小説ですとか、そういった原作の関係では、日本文藝家協会がありますが、ここの委託者数が約3,000人ちょっとということでございまして、全体の文藝家の方の中で言いますと、一握りとなってまいります。
脚本では、日本脚本家連盟、これは1,800ちょっとでありますが、脚本の世界では比較的カバー率が高いということでございます。
それから、音楽は、日本音楽著作権協会を筆頭といたしまして、いくつかの団体があるということでございますが、90%と書いておりますのは、いわゆる音楽の作家といいましても、アマチュアの方も入れますと非常に膨大なものがございますので、少しそういったところまで広げても、9割程度は拾っているんじゃなかろうかということでございます。
それから、20ページのところはレコードの関係でございますが、レコードは日本レコード協会が9割を越える管理率でございます。
それから、実演については、日本芸能実演家団体協議会の実演家著作隣接権センターが約3万1,000を越える委託者数を持っております。右側に備考がございますけれども、このCPRAと日本音楽事業者協会、いわゆる音事協、これは非一任型でございますので、個別に処理をしなくてはいけない部分がありますけれども、それを合わせますと約70%の管理率でございます。ですから、3割程度がまだ委任をしていないという実態があるということであります。
コミックなどのレンタルの関係では、これは95%の管理率という形になっております。
こういった著作権等管理事業、いわゆる集中管理団体での処理が広がりを見せている部分はございます。出版物の対応の関係、これは先ほどのコミックレンタルの関係でございます。
それから、放送番組の二次利用に関しましても、日本芸能実演家団体協議会、いわゆる芸団協による一任型管理事業の開始ですとか、あるいはレコード協会による一任型管理事業の開始ということで、これは一昨年ぐらいから始まっております。
それから、21ページをご覧いただきますと、契約によってこれまで違法だったものを適法にしていこうという動きでございますけれども、動画共有サイトとの運営事業者と音楽著作権管理事業者との間の利用許諾契約によって、投稿サイトにおける音楽の著作物の利用ということについて、適法な環境をつくっていく動きがございます。ここ載っておるような感じでございます。
それから、放送番組のネット配信につきましても、これは特に実演家の権利をどのようにしていくかというのが大きな課題でありますけれども、日本経団連に設置されました「映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会」で、昨年の2月に「放送番組における出演契約ガイドライン」が策定されまして、本年2月にもその修正が行われておりますけれども、今これで二次利用も含めた契約の促進が図られつつあるということでございます。
22ページをご覧いただきますと、その関係もございますが、過去の放送番組等のネット配信に関しまして、NHKでは積極的な取組を進められているということでございます。
また、日本経団連の取組の一つの成果といたしましては、その下にあります権利者不明に関する取組ということで、不明の実演家について、芸団協のCPRAが窓口となって対応を行うということも広がりつつあるということでございます。
それから、23ページのところは、コンテンツ情報の集積と開示ということでございますけれども、最初にご紹介しますコンテンツIDというのは、これはコンテンツの関係でコンテンツ情報からそれを権利者、あるいはその利用者、さらには許諾情報、そういったものを含んだ許諾コードといったものを付ける技術、これが国際標準化されております。これを使って今後の権利管理に生かしていくことができてくるのではないかということでございます。
また、その下のコンテンツ・ポータルサイト、これはコンテンツ情報の発信ということでございますけれども、日本経団連で取組をいただきまして、実際にはNPO法人映像産業振興機構(VIPO)が運営を担当しておりますけれども、昨年の6月からコンテンツ情報の開示サービスがスタートをしているということでございます。
以上をこの議論に関連する事項かと思いましたので、ご紹介させていただきました。
○中山会長 ありがとうございました。
次に、事前に資料を提出していただいております東倉委員にご発言をお願いいたします。
○東倉委員 資料6−1をご覧ください。
私は全員出すものと勘違いしまして、資料を用意させていただきまして、この事務局の整理していただいた問いかけに対して、思いつくままをここに意見として書いたものです。
論点1に関しましては、丸1、丸2、丸3とありますが、1番目については著作権制度というものが非常にわかりにくいものになっていると、これをどうするかということが一つの問題であるということで、丸2につながってきますが、簡単に使える電子化されたもの、こういう場合はどのようになるんだというようなことは、すっと見られるような、そういうような仕組みがあればいいなということで、そういうことが書いてあります。
それから、3番目に、これは私は重要な視点だと思ったんですが、作者の利益ということが金銭面だけに限定されず、ほかの何がインセンティブなのかということをいろいろと検討・試行してみるということが重要じゃないかと。インセンティブについては、いろいろあり得るんじゃないかと、問題をちょっと細かく申し上げる時間はありませんが、そういうことで、よく考えてみると。
次に、論点の2にいきまして、1番目が皆さんよくご承知のダウンロードやストリーミングというようなものがますます盛んになっているわけですけれども、このパッケージングというものに非常に費用負担がかかると。その費用負担が重いということがこういうデジタルマーケットの阻害要因になっているのではないか。
丸2としまして、コンテンツの不正流通、不正利用の防止ということには、トレーサビリティということが重要になるわけですけれども、どんどんトレーサビリティというようなものが入ってくると、個人購入財としての私的利用というところまでコントロールされるんじゃないかというようなことが心配だと。
論点1の精神的所有権ということに関連するのですけれども、著作物を他人に勝手に使われたくないということは当然でありまして、断れば使っていいのかということで、だれが著作をなし得たかということが著作者にとって重要であり、それをどこまでも追跡して、わかるようになっているという仕組は、技術的には今は可能でありませんけれども、ゆくゆくは可能になるのではないかということで、その点は非常に大事じゃないかと思っています。
それから、3番、4番、5番というのはここに書いてあるとおりでして、あまり細かく説明しても時間がございませんので、これを読んでいただくということでお願いいたしたいと思います。
○中山会長 ありがとうございました。
なお、本日ご欠席の上野委員から資料6−2の「知的財産制度専門調査会(第1回)への意見」としてご意見を書面でちょうだいしておりますので、その旨ご紹介申し上げます。
それでは、残り時間は議論に移りたいと思います。
先ほど事務局から説明がございました資料5や、あるいは東倉委員、上野委員のご意見も踏まえまして、資料5−1の論点1、論点2に示しておりますデジタル・ネット社会における著作権制度の役割や改革すべき問題点等について、ご意見をちょうだいしたいと思います。
最初に、自由にちょうだいしたいと思いますけれども、後から全員にもご意見を賜りたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
何かご意見ございましたら、お一人五、六分ぐらいでお願いをしたいと思います。いかがでしょうか。
では、最初から順番にご意見を伺っていきたいと思います。
五十音順で大谷委員から、5分間でお願いいたします。
○大谷委員 十分に整理できていないところがございまして、少し散漫なお話になってしまうかもしれませんけれども、事務局でご用意いただいている論点の1からの順番で発言させていただきたいと思います。
まず、論点1ですけれども、今日配付されている上野委員のご意見に非常に共感を覚えております。著作権制度の性格づけということで、著作者の権利というものを憲法の基本権に由来するとした上で、著作者、創作者と利用者との調整を担当する役割ということで位置づけられています。どちらかというと事務局でご用意いただいたものは、創作者側の観点での権原の位置づけとなっており、著作権制度全体の役割ということでは、特にこれからデジタル・ネット時代ということを考えますと、著作者、創作者イコール利用者であり、利用者がまた創作者になるというように、相互性があるという特徴を踏まえる必要があると思います。
また、これまでの文化的な著作物の蓄積の在り方というものを考えるとき、既存の著作物の著作権侵害にならない程度の模倣ということを源泉としながら、新たな知的資産を生み出してきたという長い歴史がありますので、そういう利用者との調整の役割ということに非常に共感を覚えたということを申し上げておきたいと思います。
次に、論点の2のほうでございますけれども、不適合という言い方が適切かどうかはわかりませんけれども、具体的にいくつか最近気になっている問題点を申し上げたいと思います。
1つは、東倉委員からもご指摘があり、また事務局で整理したペーパーにも既に記載していただいていることですけれども、権利処理の仕組がなかなか整っていない部分がありまして、関係者のご努力もあって進みつつあると思いますが、特に新たな権利について、特に過去につくられた著作物について、その後にどんどん著作物の支分権が増えてまいりまして、公衆送信権なる新しい権利ができたときに、その権利についての許諾が過去になされていなかったり、またその契約の使用許諾のスキームが不十分であったために、そこがカバーされていないといったものについて、事後的に許諾を得なければいけない権利処理が二重、三重に必要になるといったものについて、管理コストが非常に大きいという問題を解決しなければいけないと考えております。
その延長線上にもあるのですが、例えばケーブルテレビなどで有線テレビジョン放送法では、区域外への再送信ということを認める規定がございます。実際、民放の事業者とケーブル事業者との間で協議をしながら、その区域外再送信について放送事業者の同意を得られれば再送信が可能となりますが、その同意がなかなか得られず、放送のデジタル化という局面を迎えて、区域外再送信の同意を得ることが難しい状況があちこちで見られております。
その理由の一つとして、これは放送事業者の方がよく言われるのは、著作権の権利処理がなされていないということです。ただ放送法における区域外再送信の同意ということと著作権処理は一応別問題ですので、別問題として処理していくものの、著作権の権利処理が十分に行われていないということは、今後のビジネスの進め方やそれから著作権者に対する利益の還元という点で、アンバランスな状態が今現在としては温存されてしまっているのではないかと考えられます。
この問題に解決をつけないと、デジタル放送を全国あまねく利用していただける状態というのがなかなかやってこないのではないかと危惧されるということでございます。
また、同様に新たなデジタル・ネットの関係で、コピーワンスに対するダビング10とか、新たなスキームも提案されておりますけれども、それを支える権利処理の仕組みについて、これからますます議論が必要だと思っております。
ほかにもいろいろ思いつくところはございますが、以上でございます。
○中山会長 それでは、音委員、お願いいたします。
○音委員 ありがとうございます。
私も論点1、2、順番に思うところを申し上げさせていただければと思います。
私自身の専門のメディア論、メディア産業に関しての調査・研究をしている立場からいたしますと、特にこの論点1に関しましては、上野先生のペーパーでご指摘のとおり、精神的な所有権に関して、第一義的にはここを確保しなくてはいけないということは、もちろんそうなのでございますけれども、もう片方でこの事務局のほうでご用意いただきました丸の下のほう、文化政策的アプローチについてですが、その創作へのインセンティブというところからすると、どうも日本の今のメディア状況等を見ておりますと、クリエイティビティといいますか、やる気を出せるような状況に本当にあるのかどうなのかということについては、少し検討する必要があるのではないのかと考えます。つまり片方で精神的な所有権というものを重視しつつも、もう片方で非常に大局的な状況の中で創作者達がよりやる気が出せる、文化を創っていけるような気持ちになれる状況というものを、より一層提示する必要があるのではないのかなと思います。
どうも特に私が研究対象としておりますメディア産業を見ておりますと、プレーヤーたちがいつも同じような人たちで占められており、新規参入がなかなかしにくい状況があるのではないかと思われます。そのあたりを政策的に広げていけるような仕組を考えなくてはいけないのではないかと考えます。それが先ほど大谷委員がおっしゃったデジタルによって生み出される状況かと思います。
その延長線上でということで、論点2でございますが、いろいろあるかと思うんですけれども、さまざまなプレーヤー達の参入に当たっての障壁ですとか、それについて手続きに時間がかかるですとか、それから、業界内でのある種の商慣習のようなものが前面に出ることによって、ビジネスはもちろん、文化的な活動の展開において、「足かせ」と言ってはやや言葉が強いかもしれませんけれども、ブレーキをかけるような状況があるのではないか、もう少し柔軟な展開ができるような状況を、政策的につくるべきなのではないのかと思います。
とりあえずは以上でございます。
○中山会長 それでは、上山委員、お願いいたします。
○上山委員 私はちょっと違った観点から、競争の促進の必要性を日ごろの仕事の中で感じております。例えば、今日本では、ニコニコ動画が視聴時間ではグーグルを抜くぐらいの人気を博していますけれども、あれが今訴訟になった場合に適法なサービスとみなせるかというと、必ずしもそういう状況にないと思われます。
それはなぜかというと、伝統的なコンテンツホルダが権利を保有していて、彼ら自身は決してビジネスはうまくいっているわけではないけれども、将来自分たちがビジネスを展開できる素地をつくっておくために、新規事業者を参入させたくないという意図があるんではないかと思われるような実態がありますし、現に数年前にはソニー・ミュージックエンターテインメントが着うたのダウンロードサービスに関して、主要な5社が共同して会社をつくってビジネスを開始しましたが、これについては現在審判が係属中です。こうしたケースはこの業界では他にもあるのではないかと思われます。
一方でまた、そういった独禁法の問題にはなっていませんけれども、テレビの録画代行サービスだとか録音した音楽の保管サービス、こういったものも今、裁判所ではかなり厳しい判断が下されています。
そういったことを考えますと、新規事業者がコンテンツサービス市場にどんどん参入できて、市場規模全体が拡大していくといったふうな観点からの整理の在り方も検討が必要ではないかと感じております。
以上です。
○中山会長 それでは、北山委員、お願いします。
○北山委員 私は論点1と、それから論点2の中の(5)に限って意見を述べさせていただきます。
まず、論点1に関してですが、著作者の権利と利用者の利用の便宜との調和を図って、最終的には文化の創造発展に寄与するという点では多分異論はないんだと思うんですね。ただ、その際に強調するところはどこかという程度の差が生じると。私は、日本の社会は、そういう創造物、無体財産権に対する評価が非常に低い、なかなか価値を認めようとしないというのが一般的だと思うんですね。
そういう意味で、まだ今の時点では、著作者の著作権という権利の重要性というものをやはり強調しておいたほうがいいのではないかというように思います。これは別に著作権に限らず、特許・実用新案等でもそうなんですけれども、でき上がったものを見て、それは何だ、これは大したことないじゃないかという判断をすぐするんですけれども、それを創造する過程での努力は余り評価しないという社会の風潮は、私は今も変わっていないと思います。
そういう意味で、論点1について言えば、究極的には、最初に言いましたように、権利者と利用者の利益衡量をして、より利益の大きい方を保護するんだと思うんですが、やはり著作者の権利という側面を重要視しておいたほうがまだ今の時代はいいと思います。
それから、論点2の(5)の点なんですが、これは、多分出席者の皆さんとは多少意見が異なるかもわかりませんが、理想としては、こういう柔軟に対処する規定があるほうがいいんだという方向に議論がいくんではないかと私は思いますが、実際は、裁判の場を考えると、こういう個別的・限定的な規定があるほうが適正・迅速な裁判の確立という裁判の目的からすると実際はやりやすいと。
ちょっと極端なことを言いますと、著作権という、権利だけを規定しておいて、あとは権利の濫用とかフェアユースというような一般条項によって権利の制限をするという、そういう規定の仕方をしておくと、ここに書いてあるように、非常に柔軟に対処できます。時代が変わっても、その中でいろいろなものを当てはめることはできますから、柔軟な対応はしやすい。
しかし、実際の裁判において権利濫用とかフェアユースという、そういう抽象的な規定のもとで裁判をやる場合と、個別具体的にそれぞれについて、図書館利用とか、いろいろ条文がありますから、そういう条文が具体化されているもとでの裁判をやる場合を比較すると、やはり個別具体的な、限定的な規定があるほうが、原・被告、当事者はもちろんのこと、裁判所としても非常に審理がしやすいと思います。
大まかな点では2点だけ、今、強調させていただきます。
○中山会長 それでは、苗村委員、お願いいたします。
○苗村委員 先ほど、資料5でご説明いただいた内容そのものにつきましてはすべてそのとおりだと思いますが、1つ、ここに明示されていない、実際には当然のこととしてあるのが、インターネットのグローバル性といいますか、国境を超えた情報流通、情報共有の場としての性格だと思います。
当然、日本の知的財産権制度を考えるときには、国内での現状、それから課題、また国策としての今後の制度の在り方を議論するわけですが、デジタル・ネットという一般論とは別に、インターネットというものを具体的に考える場合には、現実的に国境を意識した制度なり運用、契約、あるいは技術というものが有効ではないのではないかという点がこれに絡んでくると思います。
ところで、論点1ですが、ここにご指摘のように、まさに2つのアプローチがある、それをどちらか一方だけにするということは不適当だと思いますが、インターネット上では、やはりこの2つのうち後者の文化政策的アプローチ、より多くのコンテンツをつくり、流通させ、活用することによって文化や産業を豊かにするということがむしろ優先されるべきだと思います。
しかしながら、従来の著作権法の理念は、どちらかといえば前者の精神的所有権という考え方によっているわけで、その両者のある種の矛盾をどう解決するかですが、私は法律の専門家ではないので、困難かもしれませんが、例えば、現在の日本の著作権法で定められている公表権というのをもう一度2つに分けて、インターネット上における公表権とそうでない従来のメディアにおける公表権を分けることができないか。
つまり、インターネット上では、ある種の、いわば特区のような制度の違いを設けた上で、そのインターネット上で公表するということは、当然従来のメディアで公表する場合とは違う使われ方をする。それを許容するという意味で、著作者が自らの、まさに精神的所有権として、ネット上での公表も認めるのか認めないかを決定できるという一つのたがをはめることによって、一度ネット上で公表されたものについては、あくまでも2番目の文化政策的アプローチを優先するという、そういうような制度設計ができないかなというのが私の仕事的な発想です。
論点2も、その延長で申しますと、やはりインターネット上での利用について、ここにあるような問題点を含めてすべて検討する必要があると思いますが、1つだけ、私のおります大学という環境で取り上げますと、やはり教育における、あるいは研究における利用ということについて、今までどうも研究、議論が後回しになっていたような気がしますが、実際に若い人たちがこれからますます新しいコンテンツを開発し、またビジネスを起こしていくためにも、教育現場、研究現場でのコンテンツ保護の在り方がどうかということは、できるだけ早く方針を決めることが必要ではないかと思います。そうしないと、結局自分の身の回りでどうなっているかということについて、余りにもリスク、危険が多い中で、ビジネスを新たに提案するということはあまりにも彼らにとって危険過ぎるという時代が続いてしまうのではないかという感じがします。
そういった意味で、アメリカのフェアユースは、若い人たちが少なくともある種の哲学的制約条件のもとで自由にやっていいという勇気を与える制度としてはうまく動いていたんではないか。日本は、そういった意味では、若い人にどんどん抑制をさせるという制度になってしまっていたような心配をしております。
以上です。
○中山会長 では、中村委員、お願いいたします。
○中村委員 私は、制度の内容自体よりも、その周辺の問題について2点申し上げます。
1点目は、幅広いアプローチが必要だということです。
論点2の(4)、(5)などは、私は非常に重要な問題だと思っておりまして、私は包括的で柔軟な規定にしていってよいと考えておりますけれども、しかし、その場合、それは法制度だけではない幅広いアプローチが求められるということを念頭に置く必要があるだろうというふうに思います。
例えば、柔軟な制度にしていきますと、これは先ほどの北山委員のご指摘を逆さまにいいますと、紛争や利害の調整をする機能を非常に高めなければいけないということであって、例えばガイドラインを策定・充実させていくとか、司法の機能、あるいはADRの組織を充実させるという措置が必要になってくるという、そういうアプローチも重要になるというのが1点ですし、また、場は違いますが、総務省の情報通信審議会では、今、コンテンツ取引市場をつくる、そういう手段で著作物の流通を促進するという政策が議論されております。これはデータベースをつくって情報を共有するという、そうした制度のアプローチではない、知財のインフラをつくるということを支援する政策でありまして、今日配られた参考資料の最後のページに書いてあるようなものもそういった例だと思います。そのようなアプローチも同時並行で大事になってくるということです。それが1点です。
もう一つは、この委員会の趣旨と外れるかとは思いますけれども、法案との関係について少し申し上げます。
今、知財、あるいはネットの表現に関する2つの法案が議論をされています。一つは、インターネット上の有害情報を規制するという法案です。これは、自民党の青少年特別委員会で議論されている内容は、有害かどうかの基準を国の委員会がつくって行政が介入する。また、そのインターネット、サイトの上で有害な書き込みがあったら削除する義務を負う。これは新聞社のサイト、放送局のサイト、あるいは私の書いている日記のようなものも対象になるということですし、携帯のフィルタリングは、親が同意しても子供は外せないという、そういう内容でありまして、こういうのが導入されると文化や産業に大きな影響が及ぶだろうということで、私自身は反対の立場なんですけれども、こういった案のほかにも、自民党のほかの部会で議論されているものもありますし、民主党でも議論されている案があると。いずれにしろ、議員立法で法案が提出されるのではないかというふうに聞いています。
一方で、これも情報通信審議会で、今、情報通信法の議論が始まっています。そこでは、ネットの表現について、表現の自由を最大限に確保して、行政が介入しないという方向で議論が進んでいますが、政府の方針としては、2010年に法案を提出すると言っていますけれども、それでもより慎重な議論が必要ではないかという指摘を受けております。
しかしながら、議員立法で法律が通っていきますと、そういった政府の議論は無意味なものになってしまうと、そういう条件がつきます。
もう一つは、ネットの著作権に関する法案についても議論が今行われています。これは、放送事業者や映画製作者に権利が与えられて、権利者の許諾権を制限する内容だと仄聞しておりますけれども、ここでその内容の是非を論評するものではありませんけれども、これは議員立法での成立が目されていると聞いております。
そういった法案が、こういった場での、今ここでしているような場での調整や審議がなく通っていくということであるならば、こういった委員会での議論というのはどういう位置づけになるのかということを考えておく必要があると思います。
今後もこういった事例、いろいろ出てくると思いますし、議員立法が活発になっていくというのは望ましい面もあると思いますけれども、そうした法案の動きと当方の政府の委員会との関係をどういうふうにしていくのかというのも一つの論点になるのではないかというふうに考えます。
以上です。
○中山会長 それでは、宮川委員、お願いいたします。
○宮川委員 各委員からいろいろなご指摘がありましたし、資料5でいただいております各論点として、その項目分けされた問題点については、いずれも今まで議論が続けられてきた点だと思っております。
私もこの論点1と2について分けて考えておりましたが、私は弁護士といたしまして、あるときは著作権者側、そしてあるときは利用者側、メディア側に立って著作権の侵害、あるいは著作権に関する紛争解決に関与しております。
そうしますと、著作権の保護という視点、あるいは自由な利用の促進という視点、この2つの視点が対立する場面にも遭遇してくるわけですが、そのような状況を経験してまいりますと、著作権制度あるいは著作権法というものが、むしろ公正利用のルールとか権利の範囲の明確化といったルールづくり、権利者と利用者の間のルールづくりをしていく役割を持っているという点をもっと強調してもいいのではないかと考えております。
そういう意味では、上野委員がこの資料6−2で論点1について述べられているような、調整役を担うというものとして著作権制度をとらえるという考え方に私も法律家としては共感を持つものであります。
それから、2つ目の論点といたしまして、デジタル・ネット社会の進展の中で、著作権制度が不適合を起こしているというのはどこにあるのかという点を私も考えさせていただいたのですが、まず、現状の分析として、デジタル・ネット時代ということで、複製や頒布がより容易になっており、これまで、個人の方の利用というものが限られた範囲でおさまっていたものが、ネットを通じて個人の行為が影響を及ぼす範囲というのが非常に拡大されてきている。そして、今まで私的利用と言われていたものが、果たしてどこの範囲までが私的利用と言えるのかというところが非常にわかりにくくなっているのではないかということを感じております。
そのような状況にありますと、著作権者の方々は、著作物の流通を促進しよう、文化の発展のために利用を促進しようと言われましても、違法な複製や頒布ということを防止することができない以上、やはり侵害が怖くて、なかなか流通を促進しようという声には賛同を示されないお気持ちもわかるように思います。
その場合、東倉委員のご指摘があったように、侵害させない、あるいは侵害を発見する、あるいは防止するということで、技術的な解決が図れる問題もありますが、さらに、違法行為を防止するという意味で、著作権法、著作権制度の役割というものも大きな役割があるのではないかと思っております。
また、この論点の中にもフェアユースという問題が、一般的な規定の問題が挙げられておりますが、私も、先ほど北山委員がおっしゃったように、一般的に権利濫用、あるいはフェアユースという問題で権利制限について規定をつくろうという話になりますと、一体何が著作権者の権利濫用、あるいは利用者側のフェアユースかという点は、結局裁判にならないとわからないということになりまして、現実の利用の際には利用を萎縮してしまう、あるいは使用許諾も萎縮させてしまうということになって、実際の場面ではうまく働かないのではないかと思っております。やはり現在のように、個別具体的な権利の規定、あるいは具体的な権利制限の規定というものを時代に合わせながらつくっていくというのが、先ほど申し上げたルールづくり、あるいは調整役という著作権制度の役割の一つではないかと思っている次第です。長くなりましたが。
○中山会長 ありがとうございました。
私も何か一言言ってよろしいでしょうか。
○吉田事務局次長 もちろん。
○中山会長 司会が言っていいかどうかわかりませんけれども、私が見るところでは、著作権法というのはかなりビジネスロー化していると思います。難しいのは、完全にビジネスローだと言ってしまえば話は簡単で、それなりにやりようはあるのですけれども、従来型の創作形態、従来型の利用形態・流通形態も健在である、つまり両者が混在しているというところが問題を複雑化していると思います。
しかしながら、ビジネス化しているというこの状況を無視することはできないと思っております。つまり、著作権法があるからこのビジネスはやってはいけないという、そういうものが余りに多いと、これは日本の国益に反する。
例えば検索エンジンなどは、日本でだめと言ったところでアメリカでやればいいわけですから、日本からアメリカに産業が逃げる、あるいはタックスヘブンのようなところへ逃げていけばいいということになってしまい、結局日本は産業を失ってしまい、著作物も無断で利用される、こういう状態になりますから、そこを何とか正常なビジネスに組み込んでいくことが必要と思われます。つまり、著作権法がビジネスを邪魔してはいけないという、そういうことが必要だと思います。これに対しては、権利者団体等からの、反対も強いようですけれども、究極的には、利用されなければ利益を生まない。利益を生まなければ著作権者にも利益は還元されないので、あとはどうやって還元すべきかという点を議論すべきだと私は思っております。
そういう意味で、この上野委員の言っている調整的な役割、私は大賛成なのですけれども、ただ、憲法まで持ち出す必要はないように思っておりますし、歴史的に見てみましても、精神的所有権、あるいは自然権的なアプローチというものは、確かにありましたけれども、その本質は何かというのはもう一回考えてみる必要があると思います。
私は、歴史家ではないので古いことはよくわかりませんけれども、もともと著作権というのは出版社の利益のために生まれてきて、フランス革命で自然権的なアプローチが出現したようです。しかし、本当にそうなのかというのは最近では研究が進んでおりまして、そうではないのではないか、という見解もあるようです。つまり、国王が付与してきた独占権に対して、ブルジョワジーが自己の利益を主張するために持ち出した正当化論議である、つまり、自然権的な議論を持ち出さないとなかなか自分を正当化できない、ということです。実際は当時台頭してきたブルジョワジーがビジネスを守るための理論武装としたのではないか、ということです。つまり、著作権は自然権であるという主張も、当時の政治・経済状況を反映したものである、という点を見逃してはいけないと思います。
憲法とか自然権とか言い出しても、大きな意味はないと思います。私は著作権というのは非常に人工的な権利であって、時代時代によって調整機能が変わってくる。インターネットがある時代とない時代では全然違う、では今はどうかということを議論してもらえればよろしいのではないかというふうに思います。
個々的な問題はいろいろありまして、これから議論していくわけですけれども、今恐らく一番大きい、皆さんの頭にあるのはフェアユースだと思います。このフェアユースはこの場でもいろいろ議論が出ましたけれども、フェアユースという規定自体が良い制度であるか否か、という点は議論しても始まらないと思います。フェアユースの規定は、一方では法的安定性はないわけですが、他方では柔軟性があるという利点はあります。利害が両方あるわけで、アメリカでは曲がりなりにもうまくいっている制度ですから、絶対だめということはできない。しかし、この一般条項を置くということはどういうことかというと、今日本の流れである行政から司法、事前審査から事後審査へという流れの問題だろうと思います。つまり、自分の権利は自分で裁判で勝ち取っていくという気持ちが企業あるいは日本人にあれば、恐らくこの制度はうまくいくだろうと思います。
例えば、アメリカのフェアユースで一番有名な事件はソニーのベータマックス事件ですけれども、あれはソニーが10年かかって勝ち取っているわけです。一審では勝って、二審では負けて、三審では5対4で辛うじて勝っているという、極めて危ないところで勝った事件です。そのためにソニーは10年という歳月と莫大な費用をつぎ込んでいる。こういう決意が企業にあれば、恐らくフェアユースはうまくいくだろうと思います。あるいはグーグルの検索エンジンビジネスも、フェアユースらしいんですけれども、実は訴訟がいくつも起きています。それに対してグーグルは法廷で勝ち取るという決意のもとに莫大な投資をしています。日本の企業がそういうつもりになれば、恐らくフェアユースはうまくいくだろう。つまり、日本人の訴訟観といいますか、訴訟をどう見るかという、そこにかかってくると思います。単に法的安定性があるとかないとか、あるいは柔軟性があるとかないとか、それだけの問題ではなく非常に大きな問題を含んでいると思います。
日本の法律にも一般条項はあるわけで、例えば民法の離婚の規定も、具体的離婚事由を挙げたあとに「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」というのがありますし、あるいは著作者人格権でも、著作権法第20条2項4号にも一般条項めいたものがありますし、あるいは民法の790条だって、けしからんことをやったら金払えということしか書いていないわけですから、ある意味では一般条項なわけですね。
それから、もう1点だけ言いたいのは、条約についてです。著作権法の改正をしようとすると、すぐに条約という問題に絡んできます。ベルヌ条約というのは実体的な規定をたくさん持っていますから、条約に違反することはできないので、これは非常に大きな問題だろうと思います。
私は国際法の専門家ではないのでよくはわかりませんけれども、どうも日本の著作権法の関係者の条約観というものはちょっとおかしいのではないかという気持ちはしております。つまり、条約というものと国内法というものを同じような方法論で解釈しているのではないかと思います。日本は憲法でもって条約優位、つまり法律より条約が無条件で優位になっています。あまりこのような国はないんではないかと思うんですけれども、とにかくそういう憲法があるので、そのせいかもしれませんけれども、しかし、条約は国内法とは全然枠組みが違う、なぜならばエンフォースメントが違うからだと思っております。著作権問題はWTOのTRIPS協定に入っているわけですけれども、ではWTOを各国が一体どのような態度で臨んでいるのか、つまりどの程度真剣に守る気があるのか、という問題になってくるわけです。
日本で言えば、WTOでいえば、例えば、ウイスキーと焼酎では商品が異なるので税率が違うのは条約違反ではないと主張しましたが、負けたわけです。それからすれば、ビールと発泡酒で税率に差を設けることなどはWTO上は真っ黒(違反)ですね。しかし、世界じゅうのどこの国も文句を言わない、文句がなければ何の問題もない。文句を言ってきたら、それでWTOのパネルで争って負ければアピールすればよい、さらにそこで争って負けたら、始めて料率を変えればいいし、あるいはもっとひどいことを言えば、負けたって制裁を受ける覚悟でそのとおりで通してしまえばいい。アメリカのバード修正条項などはまさにその例ですね。あまり好ましいこととは思えませんが、制裁よりもその法律が国益にかなうとすれば、あえて制裁を選ぶという道もありうる。わが国も、ILOの勧告などは真剣に守る気はないようですね。条約といっても、すべての条約のすべての条項につき、同じであるとはいえませんが、条約とはそういうものだと思うんですけれども、どうもこれを国内法と同じように絶対化して理解をしているように思えます。
これ以上の細かい点は、国際法、あるいは国際経済法の専門家の意見も聞いてみなければわからないんですけれども、とにかく国内法と国際法は違うんだということには留意する必要があるように思えます。
司会が長くしゃべり過ぎては何ですので、あと残り、いろいろ議論をしていただきたいと思います。
どうぞ、ご意見ございましたらお願いしたいと思います。
東倉委員、何か今の議論を聞いてほかにつけ加えることはございませんでしょうか。
○東倉委員 特にはありません。
○中山会長 よろしいですか。ほかにございませんでしょうか。
今一番議論が出たのはフェアユースですけれども、何かこれについてもっと補足なり、あるいはご意見ございましたら。
宮川委員、何かございますか。
○宮川委員 私もフェアユースの規定に意味がないと断ずるものではなくて、一般条項があって、その中からある程度具体化したものが横に具体的な条項として並んでいくという、そういう生み出されていくものがあってもいいのではないかと考えます。ただ、フェアユース一本だけでは、やはり先ほど会長からご指摘あったように、やってみないとわからないというところで、日本人的にはまだ少し早過ぎるのではないかなという考えを持っているものです。
○中山会長 フェアユースの規定を設けるべきという人は大勢おりますけれども、恐らくフェアユース一本でいくという人はあまりいないんのではいかと思います。仮にフェアユースの規定を設けるとしても、現在の制限規定は残して、最後にフェアユース的な規定、いわゆる小さい一般条項を設けるという主張だろうと思います。これはこれからの議論でどうなるかわかりませんけれども、恐らくそういうことを考えている人が多いと思います。今の離婚条項ですね、あのようなスタイルになるのではないかと思います。それにしても、アメリカは200年ぐらいの判例の積み重ねがあって、その判例の中から出てきたものをフェアユースとして規定しているわけで、判例の積み重ねがないのに、単にフェアユースだといわれると裁判官がフェアを体現しなければならないという面もあるわけで、確かに大変な面はあるんですけれども、大いにその辺を議論してもらいたいと思います。
どうぞ。
○上山委員 インターネットビジネスのことを考えると、フェアユースの規定は必要不可欠だろうと私は思っています。例えば、今の日本の著作権法だと、例外規定が明記されていない限りは違法ということになります。したがって、常識で考えれば、サーチエンジンによるデータベースの蓄積を違法だという人はいないと思うのですが、日本の著作権法に当てはめて考えれば、やはり違法であると言わざるを得ない。それが適法になって、日本にサーバーを置いてビジネスができるようになるためには、何年間も権利者団体等の意見を調整して立法化されるのを待たなければいけない。そうなったら、インターネットビジネスの世界は完全に負けてしまいます。
また、最近アメリカで出されたフェアユースに関する判例として出たのが、グーグルで画像のサムネイルを載せるのが問題となったケースがあります。あれは、日本の判例の基準ですと、同一性を感取できるものであれば複製だということですから、あんな小さいサムネイルであっても著作権侵害であるということになると思われます。したがって、今警告を受ければ消さざるを得ない。そういう状況が本当にいいんだろうかというと疑問があります。このようなケースがこれに限らず次から次へと出てくると思います。
ヨーロッパとか日本のような制定法の国では、法律を変えるのは判例よりは時間がかかりますから、また中山会長がおっしゃったように、グーグルのようにこれはフェアユースでいくんだという形でリスクをとってビジネスをやるということがフェアユースの世界ではできますけれども、今の日本の法律のもとではできない。そこがビジネスをやる、新規に市場に参入していこという事業者からすると非常に大きな壁になっていると感じています。
○中山会長 おっしゃるとおりで、恐らく今のインターネットビジネスは時間との勝負だと思うので、早くやってくれなければならないという面があります。そのような観点からは、一般条項があり、まずビジネスを行って、問題があれば後から裁判で勝負をつけるというのはメリットがあると思います。
他方、これは私の意見ではなく、ニマーというアメリカの有名な学者の本を読んでみますと、例えばソニー事件、10年かかっていますよね、日本は毎年のように法改正をしている、ひどいときは年に2回やっている、すぐに法改正にかかれば10年は掛からない、どっちが早いか分からない。つまり、フェアユースの規定も絶対的なものではなく、場合によっては無駄な訴訟を誘発する、というデメリットもあるというぐあいに書かれておりますし、そこら辺のことを十分議論してもらいたいと思います。特に、古い時代のフェアユースの持っている機能とインターネット時代に持っているフェアユースの機能というのは違うと思うので、そこら辺を議論してもらえればというふうに思います。
ほかに何かございますか。
どうぞ、北山委員。
○北山委員 僕も今、宮川弁護士が言われたことと基本的には同じ趣旨なんですが、例えば離婚のときだって、不貞行為があったら離婚する、婚姻を継続しがたい理由があったら離婚するといった場合に、だれが見たって不貞行為という具体的規定の方が審理しやすいことは間違いないわけですから、まず具体的な定めをやって、最後に抽象的な定めをすると。
著作権の制限規定の仕方も、今までどおり個別的な規定をしておいて、最後にフェアユースを規定すると。それは僕は反対する気持ちは全然ございません。
ただ、そういう規定を設けるときに、すぐ抽象的な規定のほうに逃げ込むような解決になってはいけないんで、やはりその前になるべく個別具体化することに努力していって、逃げ場のないところだけ抽象的な規定を使うと。まして、日本の場合は、アメリカと違って、フェアユースというのは判例上まだ明確には認められていないわけでしょう。そういう中では、今言ったように、安易にそこへ逃げてはいけないということだけを僕は言いたいんです。
規定の仕方としては、今言ったように、離婚と同じような規定をしていただいても結構です。今ある制限規定のほかに加えて、フェアユースの規定を最後に置いていただくのは結構です。そのときには、そういう問題がありますよと。だから、それはなかなか使わないような規定の仕方をして、例えば実際の裁判で積み重ねて判例法が形成された場合には、その内容をなるべく具体化して規定していって、最後に何も使えないときにフェアユースが使えるような規定の仕方をしておいていただければ僕は何も反対はしないと、こういう趣旨でございます。
○中山会長 ほかに何かございましたら。
どうぞ、大谷委員。
○大谷委員 フェアユース関係では、議論の方向性が落ちつくところに落ちついてきているような感じがします。要するに、例示的列挙の権利制限条項に置きかえるということは、長年のソフトウエア産業、それから電子産業の分野では常に課題となっていたところです。この関係で、古くて新しい問題ということでは、この論点2のところの(3)に出していただいているリバースエンジニアリングについての法的な論点の明確化ということです。一定のリバースエンジニアリングについては、フェアユースという規定で解決できるのではないかという議論もかつてあったわけですけれども、やはり、北山委員などもおっしゃるように、できるだけ個別具体化していく努力を重ねながら、フェアユースの規定も同時に置くというような中では、できるだけ個別具体化していくべき論点の一つにこのリバースエンジニアリングが依然としてあるのではないかと考えております。
といいますのも、技術のプラットホームがインターネットを利用するということで変わってきておりまして、従来、ホストコンピュータ、メーンフレーム上に構築したソフトをまた新しい環境にて同等の動きをするように、また新しい機能を強化しながら移しかえていくという、その再構築事業というのが現在のソフトウエア産業の核であり、大きなビジネスのもととなっている部分です。その中で、ここでは、セキュリティ対策ソフトというものをとりあえず挙げていただいておりますけれども、一般的なアプリケーションを含めても、過去のそういうソフト資産を現状のプラットホームに置きかえていく試みの中で、インターオペラビリティを確保するためのインターフェース情報の解析、それに伴う一時的な複製の問題というのは、かえって現在の問題になっているのではないかと考えております。その点でも、やはりフェアユースの話が出てしまうと、どうしても個別論点についてはフェアユースがあれば解決するということになりがちですけれども、具体的な権利制限規定としての追加も同時に議論していただきたい点として考えております。
○中山会長 資料にもありますとおり、フェアユースの規定のあるアメリカでも個別的な規定はたくさん置かれておりますし、フェアディーリングのあるイギリスでもっとたくさんあるということで、今、大谷委員おっしゃるとおり、フェアユースをつくれば個別規定は要らないという意味ではないということだと思います。
ほかに何かございましたら。
どうぞ、上山委員。
○上山委員 今の判例でフェアユース的な考え方がないかというと、私は必ずしもそうではないと考えています。例えば、カタログに掲載された写真の一部に小さく作品が映っていた場合にそれが複製権侵害に当たるのか否かが問題となった事案で、その程度のものは「複製」に当たらないという理由で、複製概念のところで侵害に当たる場合を絞っている判例があります。
また、中山先生の教科書では、リバースエンジニアリングの過程で一時的に行われる複製は著作権法の「複製」に当たらないという見解が述べられています。これはいわゆるフェアユース的な考え方だと思いますので、現在の判例の流れとフェアユースという方向性は必ずしも矛盾しないんだろうと考えています。
○中山会長 おっしゃるとおりで、フェアユースに該当するから違法性はないということを正面から認めた判決はないという、そういうことだと思うんですね。私も最近教科書に書いておきましたが、フェアの観念というのは、これは別に著作権法特有の問題ではなく、民法を始め、あらゆるところにあるはずでそれを現在は規定がないために複製概念をはじめいろいろな概念の中にフェアネス的な要素を取り込んで解釈した判決というのはいくらでもあります。今上山委員がおっしゃったのは照明カタログに関する「雪月花」事件だと思いますが、それ以外にもいくつかあります。
したがって、日本にはフェアという観念がないということではなく、フェアユースだからという理由だけで侵害にならないということはないというだけで、フェア的な観念は当然あるだろうと思いますね。
したがって、それを小さな一般条項として規定するか、という問題になってくると思うんですけれども、そのような規定があれば、「雪月花」事件などにおいては、裁判官はやりやすいかもしれないですね。
ほかに何かございましたら。
よろしいでしょうか。初日ですから、ジャブの応酬ぐらいで今日のところはよろしいかと思いますけれども、よろしいですね。
どうぞ、遠慮なくお願いいたします。
○上山委員 何度も何度も申しわけありません。
この論点2の(4)のダウンロードサービスのような事業については、ダウンロードサービスを行っている事業者からすれば、我々はプロバイダであり、プロバイダ責任制限法が適用され、著作権侵害の責任は負わないんだと考えることになります。
一方で、権利者は、いやいや、あなたたちこそがカラオケ法理でいえば権利侵害の主体であるということで、ビジネス的にはグレーゾーンだと思われます。
これについては、特許法の間接侵害に相当する規定がどうあるべきかという議論が必要で、そうでないとダウンロードサービスのプロバイダような新しい事業者にとって事業の安定性が非常に低くなるという問題があるのではないかと思っております。
○吉田事務局次長 今ご指摘のいわゆる間接侵害の問題をこの検討対象から外すということではございません。間接侵害は、ある意味ではそういったビジネスを展開していく上で、間接侵害に関する考え方が明確でないがゆえに、どうしてもそういう効果が減ってしまうというような指摘もございますから、それも当然検討の中に組み込んでいっても結構だと思っております。
○中山会長 おっしゃるとおり、古くは中部観光事件以来、それからもちろんカラオケ判決もそうですが、それ以後ますます複雑化しているものですから、昔だったら、キャバレーが楽団を雇ったとか、比較的見えやすい事件だったのが、最近ではどこで何が行われているか外部からは見えにくいような間接侵害的な事件が多いものですから、非常に重要な問題だと思いますけれども、それも問題に一応入っていると考えてよろしいですね。
○吉田事務局次長 いろいろな問題がこれまでも提起されており、それに知的財産推進計画の中でも、その問題についてある程度方向性を示しながら具体に法律改正をするのであれば、例えば著作権法の改正ですと文化庁の仕事になってくるわけですけれども、そういうところで具体の検討課題として明確化し、要請をしているものもあったりいたします。
次回は、今現在どういった検討が行われているのかというようなこともまた提供させていただきながら、まさにこの専門調査会でどういうところに焦点を置いて議論をしていったらいいんだろうかというあたりのご検討をいただきたいと思います。
そういう中で、今のご指摘の間接侵害についてはどういったものが行われているかというあたりの情報提供をさせていただきたいと思っています。
○中山会長 ほかに何かございましたら。
どうぞ、苗村委員。
○苗村委員 質問かコメントか、自分でもよくわからないんですが、先ほど、中山先生がおっしゃったアメリカにおけるフェアユース判例の代表であるソニーのベータマックス事件などをきっかけとしてといいますか、考えますと、当時、私実はアメリカにいて、いろいろな人の話を聞きながら思ったことなんですが、ベータマックスを含めて、ビデオテープレコーダーというのが日本では著作権侵害ではないと考えられていた。私、当時、著作権法の解釈については全くの素人でしたからわかりませんが、関係の方がそう言っておられる。アメリカでは、一般的な理解は著作権侵害であるというふうに思われていた。それを10年かかって覆したというのが私の理解なわけです。
当時、それ以外にも恐らく類似の例があって、新しい技術がいろいろな形で新しいコンテンツビジネスを起こすときに、日本は比較的自由度があった。アメリカはまだ法律上の規定が必ずしも明らかでなくて、フェアユースだけがあった。それをベータマックスがある意味で突き破ってくれたわけですが、ある意味では日本がそういう新しいビジネスの先進国であったというのが私の当時の認識だったんです。アメリカではそれはできないものですから、アメリカのメーカーはいわゆるビデオディスクを販売してみて、当時、ビデオディスクの販売をしていた企業が、日本は著作権制度が遅れているからテープなどができるけれども、アメリカはできないんだと盛んに言っていたのを聞いて思い出しました。
ところで、今見ますと、どう考えても日本は著作権制度がそういう新しいビジネスを起こすのには非常に難しい形になっていて、アメリカは、インターネットの中では特にいろいろな、自由度があるのか、あいまいさがあるのかよくわかりませんが、いろいろなことが行われている。
そこで、質問になりますが、やはりこの調査会として、別に結論を出さなくてもいいんでしょうけれども、どのあたりに置こうとしているのか。せめてアメリカ並みにコンテンツビジネスがどんどん広げられるようにしようとするのか、むしろその一歩先をいこうとするのかによって、大分対応が違うなと。現状は間違いなく日本はおくれているわけです。せめてヨーロッパ並みにしようとするか、アメリカと同じに立つのか、昔のように日本がむしろそういう関連のビジネスが進められるようにするのか、何かそこら辺の目標設定をしないと、なかなかこの問題は議論できないなという感じがいたしました。
以上、質問だかコメントだかわからない発言で申しわけございません。
○中山会長 昔は日本のほうがよかったというのは、おそらくその当時の問題が私的使用目的の複製という日本では明文の規定があった問題であったために日本のほうがやりやすくて、アメリカはフェアユースで戦わなければいけなかったためにやりにくかったということだろうと思います。しかし、現在、私的使用目的の複製を超えた問題になってくると、今度は日本には立法がないからアメリカのフェアユースのほうがやりやすいという話だろうと思います。今後どうするか、まさにそのことでこれから議論を大いにしていただかなければならないと思います。別にアメリカを超えてもちっともそれは構わない、超えてはいけないということはないと思いますけれども、大いにこれから議論をお願いいたします。
ほかに何か意見ございましたら。
それでは、予定時間を若干残しておりますけれども、本日の会合はこれで閉会にしたいと思います。
デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の第2回会合は、5月9日金曜日の13時から、本日と同じ知的財産事務局会議室で開催をする予定でおります。
次回は、本日ちょうだいいたしましたご意見を整理いたしまして、6月に決定される知的財産推進計画2008に反映できるよう、緊急に対処すべき事項などについて集中的に検討してまいりたいと思います。
本日はご多用中ありがとうございました。
これで終了いたします。
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