○阿部会長 それでは、ただいまから知的創造サイクル専門調査会第9回を開催させていただきます。本日も御多用、御多忙中のところを御参集いただきありがとうございました。 御案内のように、昨年の11月に荒井事務局長から小川事務局長に交代をされました。本日は小川局長が出席していただく最初の専門調査会ですので、皆さん御存じだと思いますが、改めて御紹介をさせていただきます。
○小川局長 昨年の11月、事務局長を拝命いたしました小川でございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。
○阿部会長 また、本日は参考人の方においでいただいておりますので、最初に御紹介をさせていただきます。知的財産人材育成推進協議会会長、発明協会理事長の川田洋輝様でいらっしゃいます。川田参考人には、後ほど推進協議会の活動について御紹介をしていただく予定でございます。よろしくお願い申し上げます。
それでは、議題に入らせていただきます。第1は、知的創造サイクルに関する課題であります。本日は、活用分野と人材育成分野についてであります。
まずは先ほどちょっと御紹介をさせていただいた川田参考人から活動状況について御報告をお願いしたいと思います。資料3を御用意していただいております。よろしくお願いいたします。
○川田参考人 知的財産人材育成推進協議会の会長を仰せつかっております発明協会理事長の川田でございます。本日は、参考人として御招致いただきましてありがとうございます。
昨年1月に、この専門委員会で知的財産人材育成総合戦略というものを御決定いただきました。これを受けまして、昨年の3月にお手元の資料3の最後の別添に記載の団体が協力し合いまして、知的財産人材育成推進協議会というものを発足させていただきました。吉野委員にもこのメンバーになっていただいているところでございます。12月には、これに加えて知的財産研究所がオブザーバーとして加わっております。
協議会には組織として作業部会も設けまして、活発な活動を展開いたしております。妹尾委員にも、作業部会の幹事として御尽力をいただいております。
人材育成総合戦略の中では、10個の重点施策が盛り込まれております。昨年12月に作業部会におきまして、民の立場からこの重点施策のレビューを行いましたので、協議会の活動報告を兼ねましてこのレビューについて御紹介させていただきたいと存じます。
お手元の資料3をごらんください。これの1から10までの番号は、人材育成総合戦略の10個の重点施策に対応しているものでございます。時間の都合もございますので、簡潔に項目を絞って御紹介させていただきます。目を通しながらごらんいただければと思います。 まず第1でございますが、これは協議会の設立に関するもので、先ほど述べたとおりでございます。
2につきましては、日本弁理士会と東京理科大学知的財産専門職大学院で共同研究を実施いたしました。
3について、日本弁理士会では弁理士に対し、先端技術の研修を実施いたしております。
4について、発明協会では知的財産アドバイザー、知的財産ライセンスコーディネーター、知的財産管理コンサルタントの育成を開始いたしました。
5について、知的財産研究所ではさまざまな視点を有する人材の育成を目指し、「IIP知財塾」というものを行っております。
6について、日本知的財産協会では実務家を中国へ一定期間派遣する滞在型の研修を新たに開始いたしました。
7について、「弁護士知財ネット」では知財弁護士のネットワーク化を進めるとともに、地域における拠点づくりを進めております。
8について、日本知財学会が2006年8月に社団法人になり、12月には人材育成に関する分科会が設立されております。
9について、放送大学において知的財産の講座が開設されることとなりました。
10について、知的財産教育協会では知的財産検定の法定検定化を目指し、取り組みを進めております。
その他、11で記載しておりますが、工業所有権情報・研修館では人材育成総合戦略の趣旨を踏まえ、人材育成事業の今後の在り方について検討を行っております。
以上、簡単でございますが、人材育成総合戦略のレビューを紹介させていただきました。このほか、協議会では普及啓発活動の一環としてシンポジウムの開催など、今後も各団体の連携の下、日本の知的人材育成を盛り上げてまいりたいと考えているところでございます。一生懸命やっていきたいと思っております。以上でございます。
○阿部会長 どうもありがとうございました。重要なお仕事の取り組み状況について御紹介をいただきました。
それでは、引き続きまして資料1について事務局から説明してもらいます。藤田次長、お願いします。
○藤田次長 それでは、資料1をごらんいただきたいと思います。今日は分野ごとの検討といたしましては3回目でございまして、活用と人材分野についての資料を取りまとめてございます。
まず活用ですけれども、1ページですが、「企業の知財経営の促進」ということで四角の中に書いてございますけれども、知財を活用した企業経営の重要性が強調されているわけですが、なかなかその実践は容易ではないということで、それぞれの企業にとって最適な知財活用の方法を選択するときに参考指針とできるようないろいろな成功、失敗事例というものをまとめてみてはどうかというのがこの項目でございます。
次に、3ページをごらんいただきたいと思います。「企業グループにおける知財経営の促進」でございます。(1)の「背景」の最初のところに書いてございますけれども、2004年12月の信託業法の改正によりまして知的財産の信託が可能となりまして、既に幾つかの企業ではグループ企業内の信託というものを始めております。
ところが、次の4ページをごらんいただきますと(3)の「参考」のところに表がございますけれども、実際にグループ企業内信託を行おうとしますと、このようにいろいろな書類の届出やら申請が地方財務局あるいは特許庁に必要とされております。
しかしながら、まだこの制度は始まったばかりということもございまして、必ずしもどういう書類を届け出ればいいのかという様式が定まっていないということで、実際にこの制度を利用している企業からは、まだまだ使い勝手が悪いという御指摘がございます。したがって、そうした必要な書類等のサンプルをきちんと整備し、ウェブサイト等で活用、公表してはどうかということでございます。
次に、5ページをごらんいただきたいと思います。「未利用の知的財産の活用の促進」ということでございまして、5ページの真ん中に表がございますけれども、特許庁が調査をいたしましたところ、産業財産権の利用率ということで、例えば特許権では利用率は48.2%ということで半分は使われていない。ただし、ここで利用と言っておりますのは自己実施、それから他者にライセンスを供与しているものでございますので、いわゆる防衛的に特許を保持しているものはここに入っていないわけでございますけれども、それにしても残り50%の中には必ずしも持っている必要がないものが相当程度含まれているのではないかと推測されるわけでございます。したがいまして、(2)の@にございますように、企業が明確な目的を持たずに漫然と保有している権利が生じないように、定期的な知財の棚卸し・再評価というものを奨励する。
あるいはAにございますように、開放する意思のある産業財産権につきましては、いろいろなウェブサイトでございますとか、あるいは工業所有権情報・研修館のデータベース等によって公開することを促していく。
更に次のページの頭のところでございますけれども、そうした公開情報のURLを一覧にして、探したい人は簡単に探せるようにするということでございます。
次に7ページですけれども、「国際的な知財ライセンス活動の円滑化」ということでございます。企業活動が国際化するにつれまして、日本の親会社から海外の子会社にさまざまな知財のライセンスを行う、あるいは契約を結ぶということがあるわけですけれども、必ずしもこれまでのところきちんとした適切なライセンスの対価というものが評価されていないのではないか。あるいは、移転価格税制という税制があるわけですけれども、これは海外子会社との取引において子会社でない普通の対等な相手と同等の取引価格によって取引をするように、それに反するものについては税をかけますという制度でございますけれども、昨今、突然何百億円もの更正処分が日本の企業に税務署からなされ、あるいはそれが新聞で大きく報道されるというような事案が相次いでおります。
そういう背景がございますので、8ページでございますけれども、(2)の「具体的方策」の@といたしまして、企業に対して海外子会社等にライセンスする知的財産について取引条件を明確に取り決める契約の締結を促す。あるいは、Aといたしまして、移転価格税制の運用に当たって適正な独立企業間価格、独立企業間というのは子会社ではない対等なというか、独立した企業を相手とした場合の価格でございますけれども、その価格による所得計算を促す。
それから、事前確認制度という制度がございます。※のところで注として説明してございますけれども、あらかじめこういう算定方法でやりますということについて税務当局からお墨付きを得られれば課税はされないという制度でございますが、聞くところによりますと申請をしてから確認してもらうまでに2年から3年を要している。今でも200件くらいの滞貨というか、順番待ちをしている案件があるというようなことでございますので、せっかくこういう制度をつくっていただいているわけですから、より使い勝手をよくしていただくということもあるのではないかということでございます。
次に、10ページからは中小ベンチャーでございます。まず最初でございますけれども、10ページの(1)の「背景」のところに書いてございますが、昨年の7月に全国の3,000か所の商工会及び商工会議所に、いわゆる「知財駆け込み寺」という相談窓口ができたわけでございます。ここでその相談に応ずる方々というのは商工会や商工会議所におられる経営指導員と言われる人たちで、日本じゅうで全部合わせると9,000人くらいいるわけですけれども、この経営指導員の方々は普段は経理とか税務とか労働とか、さまざまな相談、指導に携わっておられまして、知財の専門家ということでは必ずしもないわけであります。したがいまして、せっかくつくった駆け込み寺がしっかり機能するように、下の方の(2)の@にございますが、経営指導員の知財に関する知識を向上させるための講習会の開催や指導を行うということ。
それから、次の11ページをごらんいただきますと、下半分に絵がございます。知財に関する相談ができる組織あるいは相談に応じてくれるさまざまなアドバイザーの方々というのは、こういうふうにいろいろでき上がってきているわけでございますけれども、必ずしもきちんとネットワーク化されていないところがございます。
一番数が多いのは一番上にあります知財駆け込み寺でございますので、まずは身近な相談窓口としてこの駆け込み寺を利用してもらう。そこで済めばいいわけですけれども、問題が複雑な場合であったり、専門家の力を借りる必要がある場合には都道府県レベルの拠点を活用する、あるいは更にそこから問題の種類に応じて発明協会とか、あるいは海外で権利侵害されてどうすればいいのかということがあれば、例えばJETROに相談をするとか、あるいは地域の大学と一緒に研究をしたいけれども、どういうところがあるんだろうかということであればTLOを紹介する等々、問題の性格に応じて的確な窓口が紹介されるように、中小企業の方々に使い勝手をよくしてもらおうという趣旨でございます。 次の12ページは「弁理士・弁護士情報の整備・開示」ということでございまして、既に特に弁理士さんにつきましては「弁理士ナビ」というものがございまして、さまざまな情報を開示されておりますけれども、更にその範囲を広げていただこうということで、具体的には13ページの(2)の@が「弁理士情報の整備・開示」ということで、「弁理士ナビ」において専門分野とか、あるいは業務の実績等について開示の義務化を検討する。それから料金等々、これはなかなか義務化というのは難しいかと存じますけれども、できるだけそうしたものも記載するように促す。
Aは弁護士情報でございます。これまた弁理士と弁護士で事情が異なる点があるわけでございますけれども、「弁護士知財ネット」等が整備されてきているわけですので、できるだけさまざまな情報をこちらでも開示をしていただければということでございます。次は15ページでございます。中小企業やベンチャー企業に対する支援制度の利用の拡大ということでございまして、具体的には16ページをごらんいただければと思いますけれども、(2)で「具体的方策」というものがございます。
その前に(3)に「参考」とございますけれども、既に中小企業に対しては例えば料金の減免制度、先行技術調査を支援する制度、あるいは早期審査制度等々の優遇措置というか、支援制度があるわけでございますが、この件数をごらんいただきますと必ずしもその割合が多くないということがございます。したがいまして、上の「具体的方策」の@ですけれども、せっかくあるこうした支援制度を大いに利用していただけるように説明会、相談会などで紹介をしていく。
それからAでございますが、特許の取得あるいは維持の負担経験策としてユーザーが特許の取得や維持にどれぐらい、あるいはどういうところでお金がかかっているのかを分析した上で、その負担軽減方策について更に検討をしていく。あるいは、現行の中小ベンチャー企業に対する外国出願の助成制度を更に拡充をする。
Bは、地方公共団体でも支援を強化していただくということでございます。
ちなみに、地方公共団体の支援策につきましては17ページに表がございますけれども、さまざまな県あるいは市町村においてさまざまな支援制度が整備されてきております。 次に、19ページをごらんいただければと思います。「知的財産を活用した地域の振興」ということで、最初は「意欲的な取組を進める地方公共団体に対する支援強化」ということでございます。今、さまざまな地方自治体において知財戦略を策定したり、あるいはその実現に向けた取り組みが進められているわけでございますけれども、事務局と私どもで見るところ、大変熱心にやっておられるところと、必ずしもそれほどでもないところとあるわけでございます。
国のいろいろな支援事業というものが(3)に項目だけ書いてございますが、いろいろな知財に関する地域への支援事業はあるわけですけれども、予算も限られている中で広く、薄く、まんべんなく、すべての地方自治体に均等にこういう事業を行うよりは、むしろ意欲的な取り組みを進めている都道府県や都市に対して、重点的にこういう事業を投下して、成功モデルをつくって、それの普及を促していくというのも一つのやり方ではないかということでございます。
ちなみに、事務局で承知している範囲で申し上げますと、例えば意欲的な取り組みを進める県の例といたしましては愛知県あるいは宮城県、長崎県、鳥取県などが例示できるかと思います。
次は21ページでございます。「地域の支援人材の確保と実践的サービスの提供」ということでございますが、これは過去、本専門調査会でも意見が出たところでございまして、(2)の@の「全国規模での人材データベースの整備」ということで、2行目の後ろの方でございますが、大企業で知財関係部局を経験した方々、その他知財に関し知見を持った方々のデータベースの整備を促して地域で大いに活用していただいてはどうかということでございます。2007年問題というようなことが言われ、団塊の世代で、企業の現場で今まで経験をたくさん積んできた方々をもう一度活用させていただければということで、そのためのデータベースをつくるということでございます。
そのほか、22ページでございますけれども、支援人材に対する研修、あるいはBですが、各地域の支援人材のネットワークの構築、あるいはCで支援チームの派遣等々により、地域の知財活動をより活性化をしていってはどうかということでございます。次に、23ページで「人材の育成と国民意識の向上」でございます。
第1は研修機関間の情報交換、相互協力ということでございまして、(2)の@にございますように研修機関間の連携を強化して、例えば1行目のところにございますが、異なる職種の知財専門人材が議論し合う研修の実施など、研修相互間の相乗効果を発揮できるような連携を取ってはどうか。
それからAでございますが、人材の育成に関するさまざまな情報を集約されたウェブサイトの設立を考えてはどうかということでございます。
次に26ページでございます。「学会の活用」ということでございまして、「(2)具体的方策」の@は「自然科学系等の学会において知的財産の分科会等の設立を促す」ということで、現に情報処理学会ですとか日本機械学会などにおいてこういう動きが出てきているわけでございますけれども、自然科学系の学会でそこの研究者の方々に是非その知財に対する意識を高めていただくということであります。
Aは、知財系の学会において人材の育成手法についての研究をしていただくということであります。
最後に28ページ、「子供の頃からの知財教育の推進」ということでございます。29ページの「参考」をごらんいただきますと、例えば一番上には少年少女発明クラブ、これは発明協会が実施している事業でございますが、全国に192のクラブがあって、9,000人以上が参加をして、工具の使い方ですとか、基礎工作の技術の習得ですとか、いろいろな事業をやっております。そのほかにも、特許庁あるいは文部科学省等々のいろいろな事業があるわけでございますけれども、こうした創造性をはぐくむ教育と知財教育の充実を促していく。地域の工作教室等の課外活動において、大いに知財教育も充実をしていっていただきたいという趣旨でございます。
ちょっと長くなりましたけれども、説明は以上でございます。
○阿部会長 ありがとうございました。それでは討論に入りたいと思います。どなたでも結構でございますので、挙手をお願いしたいと思います。
では、加藤委員どうぞ。
○加藤委員 成功例と失敗例を公開することは非常に面白いと思います。1つの例として当社のケースを申し上げます。知財の活用という場合、ライセンスインとライセンスアウトの話が多いのですが、特許を買い取るということも有効なのです。犯罪捜査、ゲノム解析や診断分野に使用されているPCR法は、ロッシュ社が特許を保有しています。PCR法は遺伝子増幅技術であり、遺伝子工学分野の基盤技術の一つですが、PCR法の欠点は短い塩基配列しか増幅できないことです。アメリカのワシントン大学のバーンズ博士が、PCRの欠点を克服できる新しいLA−PCR法を開発し、当社に売り込みに来ました。
そのときの値段は言えませんが、かなり高額で、当時はLA−PCR法はまだ広まっていませんでしたので、その知財価値の評価が難しくかなり迷いましたが、結局その特許を購入しました。 その結果、PCR法の特許保有者のロッシュもLA−PCRのライセンスを受けており、現在当社がLA−PCR法のライセンス供与を行ったのは18社にのぼります。現在も有効で収益をあげ続けています。
それから地方公共団体の支援についてですが、京都市には目利き委員会というユニークな委員会があります。目利き委員会では、京セラの稲盛名誉会長、日本電産の永守社長、それから私などの経営者や先生方が委員となり、ベンチャー企業の事業プランを知財も含めて評価してABCのランク付けを行っています。Aのランクをもらった会社は京都市の企業支援融資や補助金を受けることができます。最近の成功例では、ファーマフーズが目利き委員会でAランクの認定を受け、その後東証マザーズに上場されました。目利き委員会では、事業性・技術力はもちろん、ベンチャーで事業を進めるために後ろだてとなる知財も厳しくチェックされます。知財のための知財ではなく、商売をするのにどんな知財を持っているのか、その知財を含めた技術力の水準は、といった観点から様々な質疑応答を行いますので、ユニークな委員会じゃないかと私は思っております。このようなことは様々な都市でもやっておられると思うんですけれども、このような取組みに関する情報を集めて御紹介いただければよいかと思います。以上です。
○阿部会長 ありがとうございました。これは、これから集めるわけですからどんどんそういう情報を収集してもらう必要があるんじゃないでしょうか。成功例はいっぱい出してくださるのではないかと思いますけれども、失敗例はどこまで出してくださるかわかりませんが、失敗例も大切ですね。ありがとうございました。
では、田中委員どうぞ。
○田中委員 成功例、失敗例を出すというのは大賛成でございますけれども、そのときいろいろ出てくる数字についてどのように考えていくか、ということを押さえておかないといけないという感じがします。
具体的にお話をしますと、キヤノンの場合、ライセンス収入の面では昨年でも二百何十億あるわけですけれども、ライセンス収入が高いことがいいことかどうかというのは視点によって異なります。私の立場から見たら、ライセンス収入はゼロの方がいい。なぜかというと、キヤノンのシェアが100%になれば、ライセンス収入はゼロになるはずだからです。他社にシェアを取られているから、その分がライセンス収入になっているわけです。
メーカーの立場で言えば、そういうことが言えるわけです。全く事業をやっていない部分についてライセンス収入が得られるというのは、これはこれで非常にいいことです。このように立場、立場で数字の持つ意味というものが全く違ってくるということもよく理解しておかないといけないと思います。
数字の持つ意味という観点で言えば、同じことが5ページにもあります。知的財産の活用の促進ということで、「背景」のところに他の産業財産権の利用率も50%台にとどまっている。つまり、とどまっているから何となくこれは悪いんだというようなニュアンスが見えてしまいます。活用していくという方向性について私は賛成ですが、企業の場合には研究開発をしてから事業になるまで5年、あるいは15年、20年かかるわけです。ですから、その間、研究開発をして知的財産権を貯めているわけです。それで、実際に事業になったときに、その貯めてきた知的財産権で事業をプロテクトするという考え方になるわけですから、逆に言ったら50%も利用しているというのは驚異的です。つまり、今やっている事業の実施形だけしか特許にしていないことになります。極論を言えば、将来に対しては何も手当てをしていないことになります。このような企業はつぶれてしまうのではないか。私どもでも、本社系の研究開発部門の場合には数%くらいの実施率になっていますし、事業部の場合には千差万別ですけれども、30%から50%くらいです。ですから、全社で見れば多分30%くらいしかないと思います。活用していくことについては大賛成ですが、50%台にとどまっているという、いかにも利用率が低いと悪いんだというようなニュアンスは避けた方がいいという感じがいたします。
○阿部会長 大学などだともっと低いですね。
○田中委員 そうだと思います。
○阿部会長 それから、今の御指摘は数字をどう理解するかということを注意しなさいということだと思います。
今、成功例、失敗例の話が出ましたけれども、板井委員からこの辺で御発言がありましたらどうぞ。
○板井委員 特許について中小ベンチャー企業に対するいろいろな支援策があるらしいのですが、その一部しか知りませんでした。それらの制度は十分に利用されていないようなのですが、そういう制度があることを広く知ってもらうためにはまず特許庁のホームページをわかりやすくしたらいかがかと思います。例えば、中小ベンチャー企業支援の制度としてこんなものがあるという一覧に飛べるようにしていただくのがいいと思います。特許庁に行けば確かにちゃんとしたパンフレットもあるし、いろいろな御説明が受けられるのですけれども、地方の方や余り特許に慣れていない方が特許庁に行くのもまずホームページで予備知識を得てからというのが効率的です。
中小ベンチャー企業というくくりでは、大企業間の格差に比べて、知財に対する知識とか取り組み方にすごく大きな企業間の格差があります。その格差を承知した上での施策をお願いしたいと思います。例えば東京都の特許出願に関わる助成金等の説明会にいくと特許出願イコール特許化と思っているような人たちもいっぱい来ていると聞いています。そういう初心者レベルの人には出願から、審査、成立、維持のプロセスとか、期間とか、大まかな費用とかをわかりやすく書いたものが必要でしょうし、例えば当社のようなバイオベンチャーですと、グローバルな競争が必須ですので、殆どの場合国際出願をしていろいろな国での特許化を狙いますが、そうするとコストの問題以外にも、いろいろな問題が生じて苦労しています。各国への審査対応の手間もかかるし、各国に審査対応をしているうちに成立させたときのクレームも相当違ってしまうなど、あとあと複雑で苦労することになります。是非世界特許の実現とか審査基準の共通化の実現に努力していただければと思います。
○阿部会長 ありがとうございました。失敗例、成功例というよりは、中小企業に対してなかなかまだわかりにくい情報提供を、ウェブサイトを使って上手にやってほしいという御意見かと思います。
では、前田委員どうぞ。
○前田委員 中小ベンチャー企業の支援について、先日、日本企業のイノベーション活動に関して、海外との比較した調査を報告していただいた研究会に参加しましたので、そのときのお話をさせていただきたいと思います。
日本でのイノベーション活動はどのような状況かということを大中小企業に調査した結果を、OECD加盟国とEUのメンバーのイノベーション調査とを比較したものでした。当然ながら、大企業はイノベーション活動がたくさんなされているであろうと想像しました。結果から申しますと、大企業、小企業は海外の比率とそれほど違わないようですが、中企業のところの数字が他国に比べて小さいことが気に掛かりました。
この調査は、研究者の数に因らず1社は1社でカウントしていますので、大企業は数が少ないですから、研究開発している人数というわけでありませんが、小さい企業というのは生き残りに必死で、オリジナリティーを生み出さないと生き残れないということもわかっている企業があります。従って、イノベーション活動を一生懸命やろうという気持ちがあるということが数字に表れていました。
それに対して中企業というのは、ある程度の人数を雇用し会社を守っていかなければいけないということが先行し、ですから、守りに入ると言いましょうか、特許費用にどれだけ出せるのですかという話が出てしまいがちで、イノベーション活動が、小企業に比べると、どうしても小さな数字が出てしまうのは仕方がないかという感じがしています。けれども、それは裏を返せば費用的な問題や人的なものがもっと手当てされれば本当はもっとやりたいということを意味しているのではないかと思われます。
私のよく知る企業で、鈴木総業という会社がありまして、球面印刷の関係では世界シェアを8割以上持っていて、世界各国の自動車会社の印刷技術に使われています。また、低反発のゲル、所謂、卵を何階からか落としても割れないというゲルの技術も、この企業はやはり持っていまして、多くのスポーツシューズのクッション材になっています。この鈴木総業は、規模は決して大きい会社ではありませんが、特許にとても長けている方が1人いて、1人で800件以上特許を持っています。特許戦略を緻密に組み、20年経った特許が古びないようにどんどん更新されているという実情があります。
小さい会社でもオリジナリティー重視で行なわれているところもありますが、ある程度の規模になってくると、気持ちはあるけれども従業員の生活もあるので、研究開発に十分にお金は回せないだろうという気持ちがどうしても出てきてしまって、中企業のところが日本は一番イノベーション活動の数字がほかの国よりも劣っているという形として調査結果に表れてしまったのではないでしょうか。
是非とも、ここでいう50名から250名からなる中企業においてのイノベーション活動をやれるような施策がどんどん出てくるといいのではと思いました。
また、中小企業への支援策が充実されるということは、産学連携が進み、大学で生み出されたイノベーションも産業界で活用できるようになると思います。敷居が高いと思われがちな大学ですが、中小企業の方が良いプランを持って見えたら、独法化後の現在では、聞いてくださる先生も結構いらっしゃいます。大学の側にお金を付けるのも産学連携の施策の一つですが、中小企業の側にお金を付けて、そのプランを大学へ持ってきていただいて連携を取るというのも一つの手段という感じがしています。
○阿部会長 ありがとうございました。経済産業省は中企業というのは特別な何か施策の対象になっているんですか。
○小川局長 それは難しいですね。中小企業基本法に定義があって、それぞれの法律でもって若干の出入りがありますけれども、そこをとらえて税・財政とか、そういった意味での支援をやっていますから、およそ中堅企業とか中小企業で大きくなったところという形ではやっていないです。個別には少しにじんでいるところはございますけれども。
○阿部会長 今の御発言のようなことについて、そのアンケートを少し分析する必要があるかもしれません。そのうちというか、事務局の方に教えていただければと思います。
では、妹尾委員どうぞ。
○妹尾委員 すみませんが、首にコルセットを巻いているもので声がよく通らないかもしれません。まず、今の中小ベンチャーの方のお話で3点ほどコメントさせていただきたいと思います。
1点目は11ページですが、いわゆる知財駆け込み寺が全然使われていない。今、来る前に東北のある県に問合せをしましたら、設立以来1件も来ていないというお話だそうです。これはニワトリと卵の関係ですね。要するに、知財がそこにないのではなくて、知財を活用しようというところまでレベルアップしていない。だから駆け込み寺もない。駆け込み寺が充実していないからこうだという。つまりニワトリと卵のどちら側から始めるかという話です。ここの体制の整備のイメージですが、やはり原則をきちんとした方がいいのかなという感じがします。いわゆる問合せをするときの原則が3つあって、1つ目はワンストップサービスであるであるということですね。2つ目はクイックサービスである。3つ目はフルセットでウェルバランスであるということです。駆け込み寺がワンストップですべてを受け入れて、それをクイックにレスポンスし、なおかつ背後のネットワークを使ってフルセットでウェルバランスをした状況である。これはコンセプトで言えば一種のナビゲーションです。なので、ここの駆け込み寺の人にベーシックな教育をするというときに、単なる知財の教育だけではなくて、どこへどうナビゲートしていったらその人たちがうまくカウンセリングだとかコンサルテーションを受けられるか。そこまで見た人材育成のやり方の方が望ましいと思います。これが第1点です。
第2点は、15ページです。中小ベンチャーの支援をするというのは大変いいことだと思うんですが、現場におりまして、あるいは現場の企業をお手伝いする機会が大変多い者として感じるのが、意外と中堅が困っているという点です。つまり、大企業は知財部もしっかりしている。中小ベンチャーはある意味では大変だけれどもいろいろやりながら、しかし知財マネジメントをやっている暇もない。それで、本来、中小から中堅になる、あるいは中堅から伸びようとしているクラスのところが、知財部はないけれども、知財担当者を兼務でも置きつつ知財を活用すべき段階にきている企業なんです。ここに対する支援策というのが実はぽんと空白地帯になっているのです。そこからの悩みというものを聞くことが多いわけです。ですので、もちろん中小ベンチャーへの支援は良いのですが、世界的なことをやる世界的中堅企業みたいなものに育つ一歩手前くらいのところへ是非支援の目を向けていただけたらいいと思います。
3番目は17ページのところです。地方公共団体と連携してそれが二重、三重に支援されると良いというのは理屈ではそうなのですが、この表をごらんになっておわかりのとおりものすごくばらつきがあります。単に形式的とは言いませんけれども、この程度の少額のお金をもらってどうするのというものが結構、山のようにあります。これはいわばうちはやっているよということにしかすぎなくて、実質的な意味を持っていない。
ちょっときつい言い方で自治体の方には申し訳ないんですけれども、いわばやっていますよというエクスキューズになっているに過ぎないということです。中途半端なレベルの支援であれば、実はあってもなくても余り変わらない。逆に、それが使用されないと困るから、ねえねえということで一生懸命使用実績を増やすための消耗戦みたいな役人の方のお仕事になってしまうというところは、やはりもう卒業して良いのでは、という感じがします。
これも、意外にいろいろなところで聞く話なんです。特に秋葉原におりますと、秋葉原関係の中小企業さんが来ましてこういうことを嘆いていらっしゃることが多いので、中小ベンチャーに対してはこの3点をコメントさせていただきます。
○阿部会長 ありがとうございました。17ページについては多分おっしゃったとおりというと失礼なのかもしれませんけれども、そういう事例が多い。これは今やはり押せ押せどんどんできていますので、その中身がどれだけきちんと成果につながっているかという調査をしながらという段階にそろそろきたのではないかというのが多分、委員の御指摘だろうと思います。
それから、さっきの中堅企業というのは前田委員の言われた中企業と重なるところも、少し切り口は違いますけれども。
○妹尾委員 ちょうど中小企業法で定められたものが中小企業であるという枠があって、それをちょっとでも超えてしまうと全然支援の対象にならないわけです。そのクラスが皆やはり困ってしまっています。
○阿部会長 では、八田委員どうぞ。
○八田委員 多少、今ここでいろいろ提案されていることに対して水を差すような意見を申し上げたいと思います。今まで議論されたように、地方や中小企業への支援や、未利用の知財活用の促進の支援が提案されています。それから議論では出てきませんでしたが、例えば移転価格税制で難しいものを支援してあげることも提案されています。
これらの支援サービスは基本的には皆、民間の企業ができるはずです。それだけ需要があるのならば何で政府がわざわざ出ていかなければいけないのだろうか。しかも、政府がやると、10万円だとか、5万円だとかというようなものをつくって、本当にお茶を濁して免罪符を取るだけの目的でやるわけです。
ところで、先ほどおっしゃったようなウェブページを整理して、どういう支援策があるかを少なくとも一目で見られるようにするというのは、格好よくする必要も何もない。ただ集めればいいわけで、こんなものは比較的安くできる。それは政府であるがゆえに非常にやりやすい。それは政府の役割だと思うんです。
しかし他の提案に関しては、それから一歩出たものを民業圧迫と言われる危険を覚悟しつつ、官が出ていくべきなのか。どういうものに関しては、むしろぐっとこらえて手を引くべきなのか。そこの理屈の上での整理がないんです。全部押せ押せという感じですので、そこがもう少しあると、なるほどというものになるのではないかと思いました。以上です。
○阿部会長 ありがとうございました。多分そのとおりだと思うんですが、私もある座談会で有名な政治家を前に、政府のやるべきこととやるべきでないことを分けましょうという話をしたらえらいけげんな顔をされたことがありました。現実にはなかなか難しいかもしれませんが、いつもそういう認識を持ちながらやるということは少なくとも重要なことではないかと思いますが、十分考える必要があると思います。
では、久保利委員どうぞ。
○久保利委員 今の八田先生のお考えに近いのですが、ここに書いてあることは決して悪いことではないんですが、コストパフォーマンスを考えてみると多分この17ページに載っている支援制度を実施するために、その県庁なり市役所にはそれなりの人がいて、机を持っていて、それに使われるコストというのは、実にここに出てくる上限5万円とか10万円というものよりもはるかにベーシックなコストがかかっているのではないか。
その意味では、私もやはりナビができて、いろいろな情報が一つのプラットフォームに入っていればいいんですがそうなっていません。だから、どこにいけばいいかということが今はわからない。板井先生でさえも、どこへどういっていいかわからないということになっているわけで、それがわかるようになったらそこへいくのは敷居か高かろうが低かろうが、自分のビジネスなんですから当たり前ではないか。
中小企業というけれども、中小であればあるほど知的財産権に依拠する部分が多分多いはずなので、大会社でキヤノンさんが、あるいはホンダさんがとおっしゃっても、そこはものすごい製造工場を持った上でプラス研究開発特許というものがあるわけですが、何人かで始めたときにはその中における単なるものづくりの下請けならば別ですけれども、新しい産業を起こしていこうという意欲に燃えているならば、きっと知的財産権の部分の価値のウェートは相当に高いのではないか。
そうしたら、そのための労力といいますか、探す労力あるいは試しに弁護士を使ってみるという金銭負担は当然です。私はあらゆる情報というのは自分でやってみなければいい情報はこないわけでございまして、例えば会社法にしても、M&Aにしても、いい弁護士がどこにいるかというのは皆、命懸けで探して回っているわけです。
そういう意味で言うと、情報を差し上げるということは大事だし、弁護士会としてもできるだけの情報は出したいと思いますけれども、そのために日弁連として人を抱えて、場所をつくってというわけにはなかなかいかない。あとは各弁護士事務所がオープンになったらそこへ自分の足で飛んで行って交渉するなり、もっと安くとお願いしてみたり、いい知恵を出させてみたり、競争させてみたりということをなさるという原点を押さえた上でいろいろな協力をしましょうということならばわかるんですけれども。何か根っこが抜けていないかという点が支援策全体を見て気になることなので、あえて申し上げました。
○阿部会長 ありがとうございました。情報公開についても御意見を出されていたと思いますけれども、あとお1人かお2人どうぞ。
では、下坂先生どうぞ。
○下坂委員 3点と、1つ質問をさせていただきたいと思います。
1つは、まず20ページでございます。今、久保利委員は大変上手に概括的におっしゃって、私もそれは大変賛成でございますが、私の方からもうちょっと具体的に申しますと、20ページに「アクションプランの例」というものがございます。―その中の「人材」のところに「県の知的所有権センターに」という項目がございまして、そこに弁理士、弁護士、企業OBを置くことなどが、かなり具体的なアクションプランの例として書かれております。
他方、これと相対いたしまして、中小・ベンチャー企業のところに弁理士の項目、弁護士の項目がございまして、12ページの2つ目の黒ポツに出てくる小委員会ではは、「開示の義務化と開示すべき事項の範囲について法令に明確に位置付けることが必要であるとされた」というところがございます。この項目は報告書に書かれているのでが、この報告書では、例えば弁理士としての業務の実績、専門分野、研修の自己履歴とか、支払い方法とか、いろいろなもの、かなりのものを開示しないといけないというようになっています。これが知的財産政策部会弁理士制度小委員会、産構審なんですけれども、そちらの方でかなり詳しく書かれております。ここではそれが中小企業のところに、さらりと書かれている。産構審の方は知財に関する専門職としての多様なユーザーニーズへの対応として書かれております。
何が心配かといいますと、私どもこのようなことが、法令で規定されたりしますと罰則規定が大変厳しゅうございまして、産構審の方の発表では詐欺でもないのに悪質と書かれているのですが、更にそれが悪質な場合には産業大臣による罰則があるというふうにも書かれております。 日本弁理士会は知財専門職を主張しておりますので、中小企業への協力にはやぶさかではないし、現にいろいろとやっているのですが、、この中の人材の項目を見ますと、弁護士は知財ネットでよいとしておりまして、弁理士との書き振りが余りにも違いまして、両方とも専門職だと言うにはひいきがあり過ぎるのではないかと考えます。
弁護士知財ネットのホームページを引きますと、各支部の方に先ず振るようになっておりまして、例えば東北地域での相談というものがあれば、そこに連絡窓口というものがありまして、そこに振ればいい。それから、料金は基本1万円ということが書かれております。私どもの方は料金を全部載せろとかいろいろあるのですが、弁理士の料金は非常に複雑でございまして説明がないとわからないというところもございます。
中小企業に関して、弁理士は協力していくというのはこれからもでき得る限りやっていきたいとは存じますけれども、余りにも厳しくして大勢が経産大臣の罰を受けるようになりますと弁理士全体の評価にもつながりますので、是非その辺りは御考慮の上、文章をお出しいただきたいと思います。弁理士会は現在支部の充実を図っておりますので、弁護士と同じような対応でもいけるのかもしれません。
2番目は開放特許についてですが、5ページと23ページに開放特許について書かれております。1つ伺いたい質問は、この開放された特許に関しては年金が減免もしくは軽減されているのでございましょうか。
○阿部会長 今、事務局に答えてもらった方がいいですか。
○下坂委員 わかればお願いいたします。
○藤田次長 軽減されておりません。
○下坂委員 そうしますと、開放特許の促進のためには、もし特許庁が少々減免してもつぶれることがないということでしたら、これをもっと開放しやすくするためには、開放した人の特許料金を少し減免したらどうかと考えます。
例えば、中小企業が特許権者のところへ行きまして、いろいろとロイヤリティの交渉をいたしますと、かなり高いレートが申し込まれます。そうしますと、中小企業としてはそれは払えないし、自社の特許は持たないしということで大変苦労をしている。どうやって迂回をして権利回避をするかということで苦労をしていて、迂回は権利侵害のおそれが十分あるからとアドバイスをしたりするのでが、ともかくそういう苦労をしております。
もし減免で大企業がたくさん持っておられる特許を開放されたならば、大企業もそのロイヤリティを中小企業が申し込んだ場合に下げていただけるのではなかろうかと考えます。そうしますと、大企業は中小企業にばかり支援して余り自分たちにメリットはないというお考えもあるかと思いますが、ここで減免されることによって支援を進めていただけるのではないか。少しは支援になるのではないかと考えます。
もう一点は、早期審査です。これに関しましては16ページに書かれていますとおり、、早期審査は数が増えておりません。その理由といたしましては、幾つも相談は受けるのですが、申請の条件がございまして、自分が使っているか、もしくはライセンスをしているかということや緊急性が要求されます。緊急性というのは警告状を受けたときとかいろいろあるのですが。例えば商標に関して言えばその中の要件の一つに外国出願をしている場合というものがございます。
これからベンチャーで立ち上げようという方の場合には、その会社を立ち上げるに当たって、会社の名前が先ず重要ですから、それを急いで審査してもらいたいときにはその準備がかなり整っていることという条件が必要になります。その立証はまた大変難しくて、なかなか思うように早期審査の申請が出せない。
ではどうするかというと、必要でもないのにイギリスに出願をして、外国出願をしている場合という条件を満たしたりします。そこで、この条件をもう少し現実に見合ったものに変えていただけたら、出願人に合った条件、特許、実用新案、意匠、全部同じでございますが、と思います。再御考慮いただければもっとこれが促進されるのではなかろうかと考えます。以上です。
○阿部会長 大変難しい問題をたくさん出されましたが、弁護士と弁理士のサークルのさまざまな歴史的慣行、違いみたいなこともあるので、どこまで同じような文言にすべきかというのは難しいところですけれども、おっしゃるようなことが現実の御意見としてはあるのだろうと思います。
それから、大企業と中小企業のメリット、デメリットの問題を余り深くやるのが私はいいかどうかわかりませんが、これも非常に難しい問題だと思いますが、少し事務局で考えてもらいたいと思いますので、また御相談をさせていただきたいと思います。
では、短目に最後にお願いします。
○妹尾委員 人材育成のところで、やはり発言をさせていただきたいと思います。簡単に3点ほど申し上げます。
21ページの地域の支援人材のところで、団塊の世代の方々が退職したら大企業で知財に関わった方を中小、地域に活用しようということなので、全体としてはいいと思うのですが、気に触る方がいたらおわび申し上げますが、この世代はいわゆる「特許部の時代」を過ごした方がほとんどで、知財をどう企業、経営に活用するかという知財マネジメントには余り慣れていない世代の方々です。なので、この方々が単に特許部にいたから頼りになるということでデータベースによって送り込むというのは避けた方がいい。やはりその中から使える方と言っては失礼ですけれども、そういう方を登録するようにしないと、いつものようにデータベースをつくって、それを見て中小企業を信じてはまたダメだったという話になりかねない。従って、ここでの人選は注意深くされた方が良いと人材育成の観点からは思います。
2点目が、28ページの「子供の頃からの知財教育の推進」に関することです。これは昨年度の人材戦略をつくるときも皆さんの御関心の高かったところで、我々も現場で鋭意取り組んでいます。1つ政策提言をさせていただきたいと思うのは、川田理事長が今日はお見えになっていますが、この中の29ページにあるとおり「発明クラブ」が全国に192あり、参加者が9,000人を超えています。一方、従来3,300あった市町村が平成の大合併で1,800強になりました。この状況をとらえますと、各自治体に1つずつ発明クラブがあっても良いのではないかと思うわけです。したがって、192の10倍計画になりますけれども、全国の自治体でそれぞれ子どもたちが学んだり、わくわくしたりできるような発明クラブないしは発明クラブ的なものを全国展開することを推奨するのはいかがでしょうか。
ただし、発明クラブを全国一律、統一のフォーマットでやるとなると、またおかしな話になるので、それぞれの地域、地域の事情に合わせて設立する。例えばある県は高校の先生方が頑張ってやるとか、ある自治体では企業さんがスポンサーになって頑張るとか、多種多様なやり方を工夫する。それによって、全国で子どもたちが発明に接するないしはわくわくできるような母体をそろそろ整備してもいいのかなと。ちょうど数が10倍ぐらいなので発明クラブ10倍を是非奨励したいと思います。
3点目は御報告というか、先出しの話ですけれども、現在特許庁と御一緒に人材育成の次の段階として、現在の弁理士や知財部員等、知財のコア業務をされている方を支援する方々のプロ化を図るための民間検定の整備について研究を進めています品質の担保、当人たちの学習意欲の促進とプロの自覚ということです。更にそれが結果的に関連人材の人材流動の促進というところへつながれば良いと思っています。そういう検定認定あるいは民間資格ということでの人材育成の支援の検討を現在やっております。次回ぐらいに御報告できると思います。以上、3点でございます。
○阿部会長 ありがとうございました。まだ御意見がいろいろあろうかと思いますが、時間の関係でとりあえずこの辺で打ち切らせていただきます。この後、御議論いただきます知的創造サイクル推進方策の取りまとめの作業の際に、いろいろ御意見を踏まえさせていただきたいと思いますし、次回までにいろいろ修文をさせていただく予定ですので、また御相談をさせていただきたいと思います。
発明協会の要望もございましたが、今日はお忙しいところ川田参考人においでいただきました。御退出されます。本日はお忙しいところおいでいただきましてありがとうございました。
(川田参考人退室)
○阿部会長 それでは、次に移らせていただきます。第2の議題で、知的創造サイクルの推進方策(案)であります。前回までの御議論あるいは寄せていただきましたパブリックコメント等を踏まえ、事務局で案を作成してくれました。資料2に基づいて、藤田次長から説明をしてもらいます。お願いします。
○藤田次長 資料の2に基づいて御説明を申し上げます。
これは、これまで本専門調査会において一度お諮りしたもの、ただし活用、人材のところは今日お諮りしているものがそのまま入っておりますけれども、それを集約したものでございまして、原案でございます。次回の会合で専門調査会として取りまとめをいただければと考えておりまして、そのためのたたき台と御理解いただければと思います。したがって、一度この調査会で議題となったものでございますので、ほんの一部だけ思い出していただくというくらいの感じで簡単に御紹介をしたいと思います。
まず7ページでございます。ここからが「知的財産の創造」でございますけれども、まず大学の関係ですが、「(1)大学等の知財活動の体制整備に対する支援を充実させる」というようなことが書いてございます。
次の8ページは大学やTLOの関係ですが、「(1)大学知財本部とTLOの一本化・連携強化を進める」等の項目がございます。
次に9ページで、「知財を活用して戦略的にイノベーションを創出する」ということで、例えば「(1)イノベーション創出に向けた活動に知財戦略を組み込む」ということ、あるいは(3)でイノベーションの妨げとなるような仕組みを改革するといったことが書いてございます。
次に10ページ、産学官連携に係る人材の確保・育成ということで、例えば「(1)産学官連携に係る業務の魅力を拡大し、若手人材を育成する」、あるいは(3)国際的に戦える知財人材を大学等で育成するということでございます。
11ページからが、保護の分野でございます。1が特許審査・審判の迅速化、充実ということで、例えば「(1)特許審査の迅速化のための取組を着実に実施する」、あるいは「(3)拒絶査定不服審判における審理の迅速化と充実を図る」、これは特許審査の迅速化を図っている中で不服審判の件数が増加してくることが予想されますので、それを踏まえて審判の例えば経験者を含む外部能力の活用ですとか、あるいは前置報告書というのはちょっと技術的ですけれども、前置報告書による審尋の実施等々、要するに審判の審理の迅速化あるは充実を図ろうということでございます。
13ページは「企業による戦略的な特許出願を推進する」ということで、例えば(1)で「企業の出願戦略策定に役立つ情報の提供を拡充する」ということで、後半のところにございますが、ウェブサイト上で各企業のより詳細な情報の加工、抽出あるいは経年比較等を可能にする「特許戦略ポータルサイト」を開設してはどうかということが書いてございます。
14ページは「利用者の利便性を高める」ということで、(1)は固定URLサービスの提供範囲の拡大ということで今、大学に限ってサービスが提供されている固定URLサービスを順次、提供範囲を拡大していく。あるいは、(2)は意匠の関係でございますが、公知意匠データベースの公開を行うということでございます。
15ページは世界特許システムの構築に向けた取り組みの強化ということで、例えば(1)のワンアプリケーションというのは日米欧三極で共通のアプリケーションフォームにしていくということでございますけれども、これを更に推進する等が書いてございます。
次の16ページは意匠・商標の適切な保護の推進ということで、例えば(1)ですけれども、昨年施行されました地域団体商標の適切な手続の推進というか、出願する方々のより利便性を高めるというようなこと、円滑化を図るというようなことが書いてございます。 17ページからは農林水産分野の知財戦略ということで、(1)は農林水産分野の知財情報を一元化していろいろなデータベース化を図っていくということ。あるいは(2)で育成者権の保護を強化するということ。
次のページで(3)では、農業の普及指導員が全国で9,000人くらいおられるということですけれども、こうした普及指導員の方々に知財についてしっかりとした知識を持っていただくということであります。
次に19ページでございます。「模倣品・海賊版対策」ということで、(1)は日本が提唱した条約の構想の早期実現を図るということ。(2)の@は著作権法における「親告罪の見直し」。
次の20ページでございますが、Aは海賊版の広告行為を権利侵害とする法制の整備、あるいは(3)でネットオークションの事業者の迅速な対応を促進するための制度導入というようなことが入っております。
ここまでが前回までの議論でございまして、22ページからは知財の活用と人材等でございます。これは今日お諮りした資料の、いわば要点がこちらに移してあるだけでございまして、説明は重複いたしますので省かせていただきます。
なお、先ほどの活用の中で中小企業施策についていろいろ御議論がありましたが、事務局としてどういう考え方で資料をつくっているのかということだけ一言御紹介させていただきたいと思います。
基本的な考え方として、やはり知財の分野でも中小ベンチャー企業はハンディキャップを持っている。そのハンディキャップを国が政策として埋めるということは基本的に必要なことなのではないだろうか。それがまた日本の経済活動というか、経済社会全体の活性化にも資するのではないでしょうか。
例えばホンダでもキヤノンでも、最初はベンチャー企業だったんだろうと思うんです。経済合理性に基づいてマーケットで競争させれば必要なものは民間がやるはずだという御議論はございましたけれども、マーケットに全部任せろと言えばおよそ国の中小企業政策というのは要らないという議論にもなりかねないかと思いますし、現にアメリカでも特許制度をめぐる中小企業に対するいろいろな支援制度はむしろ日本より手厚いくらいやっているわけでございます。
ただ、具体的な施策が小粒だとか、ばらまきになっているのではないかとか、あるいは有効性を検証すべきだという御議論はもっともなものもあるわけでございまして、そうしたものについてさっき阿部会長から御指摘がありましたように、しっかり検証しろということは事務局としても確かに必要なことだと考えている次第でございます。
○阿部会長 八田委員、どうぞ。
○八田委員 ホンダとかキヤノンは中小企業だったときに、国の支援を得て技術開発したのですか。ソニーはどうですか。日本では、自力でやった企業が伸びたじゃないですか。○藤田次長 それは、一概にそうとも言えないのではないでしょうか。例えば、今NEDOとかいろいろなところで国の研究開発の助成事業はございますけれども、そうしたものを生かして伸びている企業もたくさんあるかと思います。
○八田委員 国支援がなかったら伸びなかったという証明がないのです。一方で、ホンダやキヤノンは何もなくてちゃんと伸びているのです。もちろん理由があるのならば、国がどうしても支援しなければいけないという理由があればいいのですが、中小企業はアメリカでもやっているから支援するというのは理由にはならないと思います。基本的には民でできることは民でという方針はやはり堅持されるべきだと思います。
そこにちゃんとした理屈があれば何でもやっていいですけれども、それだけで官がやれば役に立つだろうというのではさっぱり理由になっていないと思います。
○藤田次長 ちょっと言い方が適当ではなかったかもしれませんが、民でできるものを民でやるというのは全くおっしゃるとおりだと思います。マーケットに完全にゆだねられない部分について政策的にゆがみをただすというか、あるいはそのハンディキャップを埋めるような政策を打つということと理解しております。
○阿部会長 非常に本質的なところですが、国がどこまでやるかというのは一つの常に議論していく限界みたいなものを認識しながら議論していくということは必要だろうと思うんです。オーバーしてやった方がいい場合もあるかもしれませんが、それはむしろ何か特別の事情のあるときなのだろうと思います。なかなか難しいところで、できれば私としては個別のところでそういう御意見をいただくと、もう少しかみ合うのではないかと思いますので、よろしくお願いします。
○小川局長 そういうことで私どももおこたえしていきたいと思いますし、また考えていきたいと思いますが、1つだけ申し上げたいのは、官民の役割分担というものを意識しながら我々は作業してきたつもりであります。
その上でざっと見ていただくとおわかりいただけるかもしれませんけれども、結局利用者が、国民とか、産業とかが決断なり選択をしやすくするように環境をどう整備するか。そちらをかなり突っ込んでやったつもりでおります。例えば、情報を幅広く入手できるような仕掛けをつくる。利用者の使い勝手のいいような情報を提供する、あるいは提供する各機関を連携させるとか、ポータルサイト、ワンストップサービス、そういうことを色濃くやる。
ただ、さっき次長も申し上げましたが、我々は今述べた基本的な考え方に立っておりますけれども、地域とか中小企業という議論では、従来からの考え方もございますから、それとの間でぎりぎりここは必要ではないかという思いでまとめてきたということです。あとは個別の議論でやらせていただければと思います。
○阿部会長 是非個別のところでいろいろ御議論いただきたいと思いますが、余りこの議論をしていると時間を取られますので、重要なことでありますが、どこでも結構でございます。
では、中山委員、前田委員の順番でお願いします。
○中山委員 19ページの下の方の「著作権法における「親告罪」を見直す」というところですけれども、前回議論がありまして、見直すべきであるという意見も多々ありましたが、私は疑問を呈したわけです。
これはいずれ文化審議会の著作権分科会の方に回っていって議論すると思いますけれども、かなり重要な問題でありまして、ここでできなかったような問題も多々議論をしなければいけない。特許権と違いまして、著作権は創作主義が採用されており、創作すればそれだけですぐ権利が発生しますので、何が著作権かよくわからないという面があります。そのような状況において、非親告罪化するとどういう問題が起きるかという点を十分検討しなければいけませんので、このように断定的ではなくて検討の余地が残るような文章にしていただければと思います。
○阿部会長 ありがとうございました。それでは、前田委員、吉野委員とどうぞ。
○前田委員 2の項目である「大学等やTLOの知財関連活動を強化する」について意見を述べさせていただきます。
大学知財本部やTLOの、人材の流動化を促進させることがとても大事だと思います。知的財産本部整備事業に採択された機関や先進的大学は、この3年間でかなり特許の出願・管理、そして諸々の契約について整備されてきたと思います。管理に関しては弁理士や企業の知財部出身者が学内に入ることに因って整いつつあり、契約も企業の方と上手にケース・バイ・ケースで契約を結ぶなど、まだよちよち歩きではありますけれども、大分できてきたのではないかと思います。
今後は、助成を受けなかった大学等、地方の小さな大学にもイノベーションというか、新しい発明はたくさんあるわけですから、このような大学に今まで整備をされた方々がそちらを立ち上げることが好ましいのではないかと思います。また、この3年間でかなり整備をされてきた学校というのは、ライセンスが得意な方や経営と知財の関連性をきちんと見ることができる人、または若手を入れることが、今後の大学の知財戦略に必要なのでないかと思われます。各大学の状況により、必要な人材が変わってきているのではないかと思いますので、効率的に人材が流動化されれば良いかと思います。
先ほど、団塊の世代の大企業の方がお手伝いするということがありましたけれども、企業の方が大学に入って、企業の感覚で大学の支援をするというのはそれほど簡単ではないです。大学の文化と企業の文化は全然違います。3年、4年かけてやっと何とか大学なりの特許が出てきたのではないかと思っていますので、そこで培ったノウハウというのは、今まで立ち上げに尽力した方々が、今度、知財整備を必要としている大学に行くことが好ましいと考えています。企業と大学は違うけれども、やはり知財をうまく活かしていこうねという感覚で、今までの43機関にあったような形のものを、全国レベルに展開していけば良いですし、ある程度、契約や特許の管理ができてきた学校というのは、もっと、いかに企業の方に上手に使っていただけるかとか、知財戦略をどのようにうまくやるかなどに長けている人材の層を厚くしていくべきなのではないかと思っています。
先ほど議論になりました、中小企業支援を官がやるか民がやるというきちんとした切り分けは私も大事だと思いましたが、官の支援策について意見を述べさせていただきます。東京医科歯科大学の例を1つ挙げさせていただきますと、最近サプリメントのメーカーさんが大学の先生と組みたいというお話がありました。サプリメントのメーカーさんに医科歯科大がバックについていると思われると、それは特許性があるだけで、安全性を充分に精査したわけではありませんので難しい面もあります。関わり方というのはすごく難しいのですが、やはり医学系大学と組むことによって、いかがわしいものがいかがわしくなくなっていくというか、本当に効果があるのかどうかという検証ができるようになっていきます。
いろいろな助成が付くことで、今まで大学と組もうともしなかったところが連携でき、クリーンな形でいろいろなものが世の中に出てくるようになっていくと考えられますので、小さな会社に助成が付くというのは決して悪い方向ではないのではないかと思います。
また、東京農工大学の方も良い形で連携ができています。この大学は、ニッチマーケットについて中小企業と組んでの産学連携が大変活発で成果を上げている学校の一つです。農工大TLOは初年度から黒字、2年目から4%の配当金を出していて、かなりの部分が国の助成金をいただいて回っている会社です。マッチングファンドをたくさん採択していただいて、実際にベンチャーを起こしてという繰り返しで利益を上げていますので、最大限、国のお金を有効活用して回っているという学校といえます。このように、お金の付け方によってはうまくいくのではないかと思っています。
○阿部会長 ありがとうございました。知財本部とかTLOのない大学がたくさんあって、大ざっぱに言うと75%くらいないわけですが、確かに密度は薄いかもしれませんけれども、そこにあるいい仕事をどうやってピックアップしていくかというのは非常に大きい仕事で、私もいろいろなところに出張しておりますが、これまでの推進計画の中でもっとこうした方がいいということがあったら是非御指摘をいただいて、いろいろな方策があるんですけれども、先ほど板井委員がおっしゃったように意外にそういう大学から見るとよくわからなかったりするところもあるかもしれません。ありがとうございました。
それでは、吉野委員お願いします。
○吉野委員 多分この専門調査会のスコープを超える変な話を申し上げるんですけれども、海外で企業のブランドマネジメントというのがだんだん大事になってきているんですが、海外ではかなりそれが難しい場合が結構あります。
例えば、一番端的にわかりやすいのは中国です。全部漢字を使えということになっていまして、漢字の功罪で漢字があると中国読みなんですね。したがって、会社の名前から、人の名前から、そもそもブランドの一番基本である名前みたいなところを向こうの人たちは呼んでくれないわけです。「ホンダ」と呼んでくれないし、「ヨシノ」と呼んでくれない。
よくよく考えると、日本も呼んでいないんですよね。中国の都市であるとか、人の名前を日本読みでしか呼んでいないわけです。したがって、こちらが文句を言ってもしようがないんだけれども、いずれにしてもグローバルな共通なブランドマネジメントがなかなかできにくいということがありまして、ブランドというのは商標が一番知財ということでは関係するんでしょうけれども、非常に難しい面があって、私に提案があるとすると難しいのはしょうがないんですが、金大中さんがキムデジュンさんになったころから韓国の人たちはもう韓国読みで今は呼んでいるわけですね。
それで、中国は都市名も人の名前もいろいろなことは日本読みでやっているわけですから、これはやはり日本が率先して直していかないと、西洋人と話していても通じないんです。重慶なんて言っても西洋の人はそんなことを言っていないで、チョンチンとか言うわけです。
したがって、知財とどういうふうに関係しているのかはわかりませんけれども、メディアの人たちもいらっしゃるから、そろそろ中国を中国読みで呼んであげるようなことをしないと、韓国の人は我々の名前は日本読みで言ってくれます。韓国読みというのはないんです。したがって、世界に通用するような話になっていかない。そろそろそういう時期ではないんですかということをメディアの人もいらっしゃるから、この専門調査会の話かどうかわかりませんけれども、そんなことを少しだけこの場を借りて申し上げたいと思っています。
○阿部会長 そういう御発言を伺うと、全くそのとおりですね。大問題ですね。専門調査会の仕事かどうかというのは、最終的には総理の前で本部会合のときにこれをやらせてくださいと言って、やれと言われればできるんだろうと思いますけれども、余り簡単に引き受けるとすごい難しい問題ですから、とてもこのメンバーではできないということにもなりますけれども、確かにそういうことはありますね。
○加藤委員 当社は中国に子会社を2つあります。それで最初に困ったのは吉野委員の言われるように、大連市の子会社の社名の一部に「たから」を入れようと考えましたが、良い意味をもつ当て字が見つかりませんでした。結局「宝」を使用しましたが、これでは「バオ」と発音され、全く別の会社のように聞こえます。また北京市の子会社でも社名の一部に「宝」を使用しようとすると、「宝」という漢字を使った会社が他にあるという理由で、「宝」の後に「日」を加えざるを得ませんでした。このように、やむなく従っているのが実情だと思います。
中国の企業が日本に会社を設立する際は、このような社名の制約はないのでしょうか。
○小川局長 商標登録はできます。
○吉野委員 会社の登記はアルファベットはできないでしょう。
○小川局長 私が申し上げたのは、法人登記ではなくて商標登録です。
○加藤委員 吉野委員がおっしゃるように日本でもさまざまな角度から制度などの見直しを検討すべきだと思います。
○吉野委員 ただ、中国ではまだ多くの人たちがアルファベットを読めないんです。だから、世界共通のものをアルファベットで書くというのは必ずしも企業にとってもいいかどうかわからないんです。だんだん読めるようになるんだろうと思うけれども。
○加藤委員 ところが、中国ではアメリカの企業のものはそのまま素直にアメリカのまま付けています。これはどういう差かなと思います。
○吉野委員 それは読み方が同じということでしょう。
○加藤委員 英語でやっていますね。米国の製薬企業も、英語をそのまま付けています。
○吉野委員 それは一般の人は読めないんです。
○加藤委員 だから、記号だと思っている。
○田中委員 商標と会社名称とは峻別されていますので、キヤノンでももちろん商売のときはローマ字で書いていますけれども、会社登記は漢字です。ですから、チアノンという発音になってしまいます。
○吉野委員 中国はますますパワーを持ってくるわけでして、どういうふうにそういうものに対処していくかというようなことは……。
○阿部会長 私は、この専門調査会にあいませんからやめますという簡単な発言は余りしたくないのですが、ではどうするかと言われると答えが今ぱっと出てこないんですが、非常に大きい問題提起なので、申し訳ないけれども、事務局で少しどうしたらいいか考え方の整理をしていただきたいと思います。 ○小川局長 現状はどうなっているかですね。どうしたらいいかというのはちょっと難しいかもしれませんが、今どうなっているかは調べてみます。
○阿部会長 そうしてください。それで、できればどうしたらいいかにそのうちつなげていくということも念頭に置いて、確かにおっしゃるように例えば英語ですと昔だと漢字に全部置き換えるわけですね。中国はどういう漢字を使うかというようなことを向こうが決めるわけで、日本と中国の間は複雑なんですね。どうもありがとうございました。
では、田中委員どうぞ。
○田中委員 今日も前半に出ておりましたし、後半の方でも24ページの「国際的な知財ライセンス活動を円滑化する」という部分は、移転価格税制問題と関連して出てきています。もちろん知的財産関係のライセンスの促進というのは非常に大事なことで、全力を挙げてやっていかなければいけないと考えておりますが、移転価格税制ということになりますと、非常に複雑な問題があります。
海外における販売子会社に対してのいわゆる再販売価格の問題、それから多分ここで指摘されているのはどちらかというと海外の生産会社に対して十分に利益を回収していないのではないかという問題です。知的財産に関わる、そういう無形資産の供与に対してライセンス料を回収していないというのが一番大きいポイントで、新聞等でも最近すさまじい金額を国税庁が追徴したというような記事があったりします。大きい問題はあるわけですけれども、これについては、無形固定資産というものの評価そのものを正面からきちんと出して議論をするという形に持っていくのか、それとも移転価格税制という形で対処していくのかという両方の考え方が出てきます。
我々も、販売子会社に対しては90年代からキヤノンのグループの中でのルールをつくって対処しています。生産子会社に対しましては2002年にグループ全体をカバーするようなルールを作り、いわゆる残余利益方式ですべて対処して大きな問題を出していないのですけれども、確かに中国等におきましてはアウト―アウト取引、つまり生産子会社がその地域の販売会社に出していくような場合にはかなり高率のロイヤリティを徴収しているものもあります。これも中国政府当局がきちんと認めてくれるかとか、そういう問題もすべて絡みます。必ずしも無形資産で明確に何%だとか、というような対応にしていくのがいいのかどうか。ちょっと難しい問題が存在するだろうと思っております。
したがって、この推進計画2007で「国際的な知財ライセンス活動を円滑化する」という部分について記載することは一向に構わないと思いますし、企業グループ内においてもきちんとライセンス契約を締結していかなければいけないというのも適切だと思うのですが、移転価格税制との関係をどのように考えていくかということだと思います。無形資産そのものの評価、それからそれのライセンシングのときに何%取るのが妥当であるかとか、正面切って議論してしまうと非常に難しい部分が出てくるという感じを持っております。
○阿部会長 今の御意見についていかがでしょうか。特に移転価格税制ですが。
○吉野委員 知的財産が、移転価格を決めるときのケースによるかもしれませんが、大きな要素でない場合もありますね。自動車みたいに総合的なものは割と低いんです。むしろ投資額だとか、いろいろな企業のお互いの、相手国と本国との間の活動の貢献度を基に決めていくというような仕組みですから、余り知財のライセンスを全面にとらえて移転価格税制と結び付けるのはリスクが大きいかもしれません。もちろん移転価格税制の中の一要素になっているとは思いますけれども。
○田中委員 キヤノンの場合もそうですけれども、残余利益方式でやって、それでバイバックでキヤノンインクに持ってきたときと、アウト―アウト取引をやるときの差額というのは必ず出ます。その分を何で埋めるかと言ったら、ライセンス契約を結んで、かなり高率のロイヤリティでその差分を埋めるということを行っていますので、キヤノンの場合には知財部門が関与するわけです。ただ、基本的な考え方として、今、出ている移転価格税制問題そのものは知財部門だけでハンドリングできる話ではないと思います。
ですから、その辺をうまく切り分けて議論していかないと混乱を起こしてしまう可能性があるということでお話をしたわけでございます。
○阿部会長 ありがとうございました。今の点について何か御意見はございますか。
○中山委員 私はこの文章はこれでいいと思います。私は税法が専門ではないので詳しくは見ていませんが、トランスファープライシングは極めて難しい問題を含んでいまして、到底ここで議論できるような問題ではないと思います。知財だけでも特許と商標と違いますし、あるいはノウハウとか営業の指導だとか、もろもろのことに目配りする必要があります。したがって、これ以上ここでトランスファープライシングの問題に突っ込むことはできないのではないかと思います。ライセンスを一生懸命やりましょうという、そこまででよろしいのではないかと思います。
○阿部会長 久保利委員、どうぞ。
○久保利委員 これは文章の方には書いていなかったんですね。先ほど資料1の8ページですか。御説明のときに、たしか事前確認制度というものが2、3年かかるということで、この趣旨は要するにもっと早くやってやれよということをおっしゃるためにこの24ページの文章はつくられているのかなと。
即ち、事前確認をする中で、一体知的財産権の評価をどういうふうにしたらいいか。そのときに、税務当局に事前確認する制度があるんですよ。その制度が実はうまく機能していないから、結果的に移転価格税制の問題についても余りいい影響を与えていませんよねというふうな趣旨なのかと私は理解をしていたのです。そうだとすればこの周知を図り、あるいはもっとスピードアップをするということだけであれば、少なくとも知的財産権というのは評価が非常に分かれやすいものなので、そういう意味では私は2、3年かかるという御説明をさっき聞いたときに、はじめて、それならばよくわかるというふうに理解をしたのです。でもここに2、3年もかかる。遅い。と書いてはいけないんですね。
○藤田次長 久保利委員のおっしゃるとおりでございまして、私どもも知財の切り口からだけで移転価格税制全体について論じられるとは考えておりませんが、知財という観点から運用基準を明確化していただく、あるいは事前確認制度がもっと円滑に使われるようになれば、もっと日本の知財というものの価値がしっかり評価をされ、あるいは日本の企業にとって混乱がなくなるというか、予見可能性をもう少し高められるようなことが考えられるのではないかという趣旨でこれは書かせていただいたものでございます。
○田中委員 キヤノンの場合には、私が委員長をしておりますグローバル製品法務推進委員会という委員会を経営会議に直轄して持っていまして、その製品法務推進委員会の中で、例えばPLワーキンググループですとか、移転価格税制ワーキンググループですとか、二十幾つのワーキンググループを運営しています。移転価格税制ワーキンググループは移転価格税制について検討しています。その中で、生産子会社に対して移転価格税制問題についてどのように対処していくかというものをガイドラインとして発行し、事業部、海外生産会社のすべてに配付して統一を図って対応しております。
バイバックでキヤノンインクに持ってきて各販売会社を経由する場合には、ロイヤリティや研究開発費を上乗せしますから全く問題ないわけですが、アウト―アウト取引で生産会社がその地域の販売会社に直接下ろさなければいけないという時に問題になる可能性があります。その場合、原価は非常に低いわけで、そのまま販売会社に下ろしたら問題になってしまいます。極論を言えばその差分を日本に持ってくる場合にはロイヤリティという考え方しかありません。
ですから、基本的には生産子会社とライセンス契約を結びまして、それでロイヤリティという名目で本社にお金を持ってくる。そのときに、まさに移転価格税制が関係してきます。中国はもっと落とせ、日本はもっと持ってこいという綱引きが始まるわけですけれども、手段としてライセンス契約を結ぶことになります。それから、ロイヤリティの費用を日本に持ってくるということになりますので確かに知的財産というものがそこに関係するのですが、極めて漠とした考え方で関係してきます。
残余利益方式で一括して考える場合にはいいんですが、明確に特許の分は幾ら、ノウハウの分は幾ら、あるいは研究開発で負担した分は幾らと、残余利益分というものを細分化して残余利益分割の考え方で細かく分けていこうとすると、それぞれの無形資産に対してロイヤリティ何%と、細かく全部定義づけてカウントしていかなければいけない。これは非常に難しい問題になってしまいます。
ですから、キヤノンでは基本的にガイドラインをつくってすべて対処しておりまして、中国の場合には中国当局とお互いに議論をしながら認めてもらうという形でやっています。
○阿部会長 ありがとうございます。全般的に具体に書いてある提案と、問題提起の色彩が強い提案といろいろありまして、問題提起の色彩が強いものは具体まで書いた方がわかりやすいのですが、そこまでやるとさまざまな検討をしないと書けないということで、今回とりあえず問題提起しておこうというような項目のところといろいろあります。そこで、これは是非もう一回お読みいただいて、こうした方がいいということがありましたら文章をメモか何かで御提案をいただきたいと思います。後でそうお願い申し上げようと思っていましたけれども、今、申し上げたようなところは温度差がいろいろあるような気がいたします。では、その問題提起をやめればいいかというと、やめるとそういう認識が日本の国の中になくなってしまうこともやはりマイナスかという気もするので、私としてもちょっと複雑な思いをしながら、少し大胆でもあった方がいいかなという理解をしているところも何か所かあります。そういう点についても、また具体的に御意見をいただければありがたいと思います。
ほかの点は、いかがでしょうか。大体よろしゅうございますか。
それでは、大変ありがとうございました。今日は結論を出す会ではございませんで、次回の専門調査会において知的創造サイクルの推進方策を決定するという予定になってございます。したがいまして、本日の御議論を踏まえて事務局で修文等、努力をしてもらいますけれども、いろいろと追加の御意見があるのではないかと思いますので、来週中という区切りをつけて申し訳ないのですが、事務局まで御提出をいただけると大変ありがたいと思っております。そういうことでよろしゅうございますか。
それでは、事務局においては本日の御議論を踏まえてさらなる案文を修正するとともに、委員の方々及び関係省庁とも調整をして、次回の専門調査会に修正案を提出していただくということでお願いをしたいと思います。
まだ5分ほど時間がございますが、特に御発言がなければこれで閉会をしたいと思いますが、よろしゅうございますか。
それでは、次回の専門調査会ですが、2月26日14時から16時にこの会議室で行います。 では、どうもありがとうございました。
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