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第5回知的創造サイクル専門調査会 議事録


1.開 会:平成18年2月17日(金)14時00分〜16時00分
2.場 所:知的財産戦略推進事務局会議室
3.出席者:
【委 員】阿部会長 板井委員 加藤委員 久保利委員 下坂委員 妹尾委員 田中委員 中山委員 八田委員 前田委員 吉野委員   
【事務局】荒井事務局長 藤田事務局次長
4.議事
(1)開会
(2)知的財産基本法の施行の状況及び今後の方針について
(3)知的創造サイクルに関する重点課題について
(4)自由討議
(5)閉会


○阿部会長 まだお2方お見えにならないですけれども、定刻でございますので始めたいと思います。今日は、全員御出席ということでございます。御多忙中のところ、誠にありがとうございます。
 それでは、最初に「知的財産人材育成総合戦略」から入らせていただきます。前回のこの会議におきまして、最終的な文言の調整については会長一任という御了解をいただいたところでございます。資料1のとおりに、取りまとめができました。
 なお、前回、下坂委員からいただきました御指摘で、会長の判断に任せるということでございましたが、31ページをごらんいただきたいと思います。1行入れさせていただきました。直ちに答えが出るというのは少し重いところがございますので、3にありますように「弁理士の実務能力向上のため、研修のあり方等について検討を行い、結論を得る」ということにさせていただきましたので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、「知的財産基本法の施行の状況及び今後の方針について」を議題とさせていただきます。これも前回、御討論いただきました。それから、総合科学技術会議の方の知的財産戦略専門調査会において、特に大学に関係する部分であるとか、科学技術に特化したことを検討させていただいておりまして、以前からこちらにドッキングさせていただくような整理になっていますので、今回も事務局においてそういった調整をしていただきましたし、また委員の皆様方の御意見、関係省庁の意見等を調整して報告書案として取りまとめができたわけであります。
 なお、総合科学技術会議の方の報告書はどうなっているかということでありますが、今回参考資料として添附をさせていただいております。
 それでは、今回取りまとめてくれました報告書案について事務局から説明をお願いします。

○藤田事務局次長 資料の2に基づいて御説明申し上げます。前回お配りした案から変更になっている部分を中心に御説明申し上げます。
 まず1枚目でございますけれども、知的財産基本法の施行の状況、それから今後の方針についてという本部への報告は、知的創造サイクル専門調査会、すなわちこの専門調査会と、それからもう一つのコンテンツ専門調査会との連名で本部に報告することになってございますので、日付の下に両専門調査会の名前を並べて書いてございます。
 同様に1ページの「はじめに」のところの下3行でございますけれども、本報告は基本法の施行の状況と今後の方針について、知的創造サイクル専門調査会及びコンテンツ専門調査会の検討結果を取りまとめたものであるとしてございます。
 2ページ以降が法の施行の状況でございまして、1番が「主な成果」ということでございます。(1)が「知的財産の創造」ということで、第1に「大学等や企業における知的財産の創造」ということで、この3年間のさまざまな取組ができるだけ具体的に書いてございます。
 2つ目の丸が、「知的財産を軸とした産学官連携」でございます。
 次の3ページをごらんいただきますと「知的財産の保護」ということで、最初に「紛争処理機能の強化」ということで知的財産高等裁判所の発足等を紹介してございます。
 2番目が「特許審査の迅速化」のための法律の制定等でございます。
 3番目に「知的財産権制度の強化」ということで、医療関連行為の特許法の在り方等の取りまとめ等を紹介してございます。
 一番下が「世界特許システムの構築に向けた取組の強化」です。
 次のページをごらんいただきますと、「模倣品・海賊版対策の取組の加速化」、「模倣品・海賊版の外国市場対策の強化」、「模倣品・海賊版の水際での取締りの強化」等を書いてございます。
 次の5ページ、「模倣品・海賊版の国内での取締りの強化」、「模倣品海賊版に関する官民の連携強化」。
 そして(3)が「知的財産の活用」でございまして、最初が「知的財産の戦略的活用」、2つ目の丸が「中小・ベンチャー企業の支援」、次の6ページの一番上が「知的財産を活用した地域振興」。
 それから(4)は「コンテンツをいかした文化創造国家への取組」ということで、ここの部分は別途コンテンツ専門調査会で検討いただいたものを合わせるということを想定しております。
 (5)は「人材の育成と国民意識の向上」ということで、「知的財産関連人材育成の総合戦略の推進」、「知的財産専門人材の量的・質的拡大」、「知的財産専門人材の育成機関の整備」等について紹介をしてございます。
 7ページの2番は、この3年間に制定あるいは改正された知財の関連の法律の一覧でございます。
 8ページは「施行の体制」ということで、内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚及び民間有識者が参画した官民一体の知的財産戦略本部の体制は有効に機能してきたということで、13回の本部会合あるいは4つの専門調査会、3つのワーキンググループ、延べ44回の会合、10本の報告書を取りまとめた。それから、13回に及ぶパブリックコメントなどにより国民の意見を聴取することをしてきたということを紹介してございます。
 9ページからが「今後の施行の方針」でございますが、この「基本的な考え方」の部分は前回お配りした資料と変わってございません。
 11ページからが「重点項目」ということで、これからの3年間に重点を置いて取り組むべき項目について紹介してございます。大きな柱立ては前回の会議の資料と変わっておりませんけれども、四角の下にそれぞれ「主な課題」と書いてございまして、前回の資料はむしろ今こういう問題がまだ残されているという書き方になってございましたけれども、今回の資料はむしろこうしたことを実現していく、あるいは目指していくという書き方になってございます。
 最初の1番目が「国際的な展開」でございまして、世界特許システムの実現、諸外国に対する知的財産重視への働きかけ、模倣品・海賊版拡散防止条約の実現、国際標準化活動の推進、これは前回委員から御意見がございまして書き加えております。それから、国際公共政策に係る議論への参画など、グローバルな視点に立った知的財産戦略を展開するということでございます。
 次の12ページをごらんいただきますと、2つ目の柱が「地域への展開及び中小・ベンチャー企業の支援」ということで、「地域ブランドの振興、地方公共団体の地域財産能力の強化などにより、知的財産活動の地域への展開を図るとともに、中小・ベンチャー企業による知的財産の活用を支援する」ということで、「主な課題」の2つ目の丸の2行目でございますけれども、前回の会議で御指摘がございました「公設研究試験機関等が、それぞれの役割を適切に果たしつつ、相互の連携を強化するための具体的方策を推進する」とございます。
 その次の丸も前回御指摘のあったところでございまして、「地域における知的財産の創造活動や事業化を促進するため、知的財産に精通した地域の専門家を養成、確保する」としてございます。
 3番目が「大学等における知的財産の創造と産学連携の推進」ということでございます。ここの部分は特に先ほど阿部会長から御紹介がございました、総合科学技術会議の知財戦略専門調査会からいただいている意見を取り入れた記述になってございます。
 四角の中だけ読ませていただきますと、「大学等において、優れた研究開発成果が数多く生み出されるよう環境を整備するとともに、得られた研究成果を戦略的に保護し、産業界で活用するための取組の一層の推進を図る」ということで、以下課題が書いてございます。
 次の13ページの上から2つ目の丸でございますけれども、前回の会議で御指摘がございまして、大学の知財本部とTLOの在り方について必ずしも一貫した姿勢で記述をされていないのではないかという御意見がございましたので、このように改めました。「各大学における産学連携の方針や知的財産に基づくライセンス収入や共同研究・受託研究の獲得状況など、大学毎の個別の事情に応じ、大学知的財産本部とTLOの連携のあり方の評価・分析を行い、総合的な体制整備を推進する」ということでございます。
 4番目の柱が「出願構造改革・特許審査の迅速化」でございまして、「国内出願偏重の出願構造を改め、国際的な特許取得戦略を推進するとともに、先行技術調査のための検索ツールの提供により質の高い特許出願を促す。また、特許審査の迅速化により、権利の早期確定による産業の安定した発展に貢献する」ということでございます。
 次の5は「コンテンツの振興」ということで、これもコンテンツ専門調査会において別途検討してございます。
 次の14ページは6で「日本ブランドの振興」、ここの部分もコンテンツ専門調査会において別途検討しております。
 7が「知的財産人材の確保・育成」ということでございまして、「知的財産人材育成総合戦略に基づき、国際的融合人材の育成など、長期的かつ計画的に、知的財産人材の質・量両面における充実を図る」ということで、「主な課題」の2つ目の丸のところ、これも前回御指摘いただいたところでございますが、「弁理士の実務能力を高めるための方策を検討するとともに、知的財産取得のサポートだけでなく、知的財産を活かした経営や事業化の助言など幅広い活動を行えるよう能力の拡大を図る」。
 次の丸も御指摘いただいたところでございますが、「知的財産活動のグローバル化にかんがみ、国際的に戦える知的財産人材の育成を進めるとともに、多様な言語に関する翻訳者や海外文献のサーチャーなどの育成を図る」。
 それから一番下の丸、これも御指摘をいただいたところでございます。「国民全体の知的創造能力と、他人の知的財産を尊重するマインドを育むため、知的財産に関する教育及び普及・啓発を進める」となってございます。御説明は以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。以上のように、お陰様でまとめることができました。
 本報告書案につきましては今、説明の中に出てきましたように、本専門調査会とコンテンツ専門調査会という2つの提案ということになりますので、調整が多少出てくるかと思いますが、そういったことをさせていただいた上で知的財産戦略本部会合に報告することとなっております。したがいまして、本件の最終的な取りまとめ、本部会合への報告につきましては、私とコンテンツ専門調査会の牛尾会長に御一任いただければありがたいと思います。そういうことを前提に本報告書案をお認めいただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。

(「異議なし」と声あり)

○阿部会長 ありがとうございました。それでは、そうさせていただきます。
 それでは、次の議題に入らせていただきます。「知的創造サイクルに関する重点課題について」でございます。これも、前回御議論をいただきました。それを踏まえながら、事務局において個別に先生方の御意見も伺い、関係省庁とも調整をして報告書案をつくってくれました。藤田次長からお願いします。

○藤田事務局次長 それでは、資料3に基づきまして御説明申し上げます。これも、前回お諮りした資料から変更点を中心に御説明申し上げたいと思います。
 まず5ページをごらんください。「創造分野」で「(1)知的財産を活用した研究活動を促進する」の 3)で「研究ノートの導入を奨励する」でございます。「発明者・発明日の明確化や、研究活動における不正防止のため、研究ノートの積極的導入と、その記載・管理方法についての研修を奨励する」ということでございます。
 次の6ページでございますが、(3)の 3)で「共同研究・受託研究を円滑に推進する」というところでございます。「共同研究や受託研究を円滑に推進し、研究成果の有効な活用が図られるよう、共有に係る特許権の第三者へのライセンスに関する現状と問題点を調査する」としてございます。
 次の7ページ、(2)の 2)でございます。ここも御議論があったところでございまして、「特許庁全体としての処理効率を向上するための審判の在り方について検討する」ということで、「我が国における審判事件数は、欧米に比べはるかに多く、その処理には多大な人的資源を要している。特許庁全体としての処理効率を向上する観点から、審査の上級審である審判の的確性担保に留意しつつ、審判との基準の統一など審査の一層の充実による審判事件数の適正化や、効率的な合議体審理の運営方法の検討など、今後の審判の在り方について検討を行う」としてございます。
 次に9ページでございます。「特許の出願構造改革を推進する」の「(1)国際化時代に相応しい出願構造を実現する」ということで 1)でございますけれども、「各企業の海外事業戦略に見合った出願戦略を促進する」。「特許審査迅速化・効率化推進本部において、我が国全体としてグローバル出願を3割とする目標が掲げられていることも踏まえ、海外事業規模の大きな企業にあっては、海外出願比率を更に高めるなど、企業の海外事業戦略に見合った出願戦略を促す」としてございます。
 次の10ページ、(3)でございますけれども、ここも御議論があったところでございます。「企業の出願行動に関する情報を提供する」ということで、「企業における特許出願戦略を策定するにあたって参考となる情報として、事業規模別、産業分野別に、海外出願比率や出願に対する特許率等の情報を提供する」としてございます。
 次に11ページでございます。「特許審査の安定性を確保する」の(3)でございますけれども、「無効審判の蒸し返しを防止する」ということで、「同一人またはその関係者等が、実質的に同一の理由により無効審判の請求を繰り返すといった無効審判の蒸し返しを防止するための方策について、審判を受ける権利との関係にも留意しつつ検討を行う」ということで、前回の御意見を踏まえて修文をしてございます。
 次に、12ページでございます。「ユーザーの利便性を向上する」の(1)のところでございますけれども、「より良い特許情報の利用環境を提供する」ということで「提供される情報の拡充、全文テキスト検索機能の追加など特許電子図書館(IPDL)の機能強化を図る」、「国内特許文献と外国特許文献を共に検索できるシステムを提供する」、「大学等の研究者が、論文等の科学情報と特許情報を共に検索できるシステムを提供する」、「審査官端末を利用できる環境を提供する」、これは外部の方がということですね。それから「審査官の検索ノウハウの公開と検索に関する研修を実施する」ということで、御指摘を踏まえて修文をしてございます。
 それから、少し飛びまして15ページでございます。「技術流出を防止する」の(1)の 1)で「先使用権に関するガイドラインを作成する」ということで、「先使用権制度が有効に活用されることにより、ノウハウを防衛的に出願する必要はなくなるよう、先使用権の認められる要件・範囲を明確化するとともに先使用権の立証手法の実例等も紹介したガイドラインを早期に作成し、周知徹底を図る。また、その後生じた課題や判例を注視し、特許制度の下、先使用権が有効に活用されるよう努める」としてございます。
 それから、今度はずっと飛んでいただきまして23ページでございます。「標準化活動を強化する」ということの下の(1)の 2)でございます。「標準化の成功及び失敗事例・工業会や企業の国際標準化への取組を分析・公表する」。「工業会や企業の国際標準化活動への取組を促すため、標準化活動の成功事例と失敗事例を収集・分析し、公表する。また、工業会に対しては、ISO等の国際標準化機関における幹事取得数や国際標準化のための会議への参加者数等に基づき、国際標準化への取組を評価し公表する。企業に対しては、研究開発、知的財産及び標準化の一体的活動に関する組織体制や具体的な活動の評価を行い、参考となる事例を公表する」としてございます。
 それから、同じ24ページの「(3)標準化活動を行う人材を育成する」ということで、この 2)でございますが、「教育機関による標準に関する教育を強化する」ということで、「標準化に関する理解を高めるため、理工系の大学、大学院、技術経営プログラムや経営学修士(MBA)プログラム等において」、ここの「経営学修士」のところを追加させていただきました。
 それから、最後に26ページです。「中小・ベンチャー企業支援、地域における知財戦略を促進する」ということで、「(1)審査請求料、特許料の減免対象の拡大と要件の簡素化を図る」。「中小・ベンチャー企業を対象とした審査請求料、特許料の減免制度の対象を拡大するとともに、適用対象となる要件を簡素化することにつき検討し、必要に応じ法改正等制度を整備する」。
 「(2)外国出願費用の助成を拡充する」。「中小・ベンチャー企業が海外への特許出願・商標出願等を行う際に必要となる出願費用、翻訳費用、海外弁理士費用の助成等、海外出願に重点を置いた支援の在り方を検討し、必要に応じて対策を講じる」としてございます。
 以上、前回の資料からの変更点を中心に御説明を申し上げました。

○阿部会長 ありがとうございました。このように取りまとめができたわけでございます。この報告書案につきましては、事前に委員の皆様方の御了解をいただいていると事務局から報告をいただいていますので、本日専門調査会として御決定をいただいて、2月24日に予定されております本部会合に御報告をさせていただきたいと考えます。
 そういうことで、報告書案について専門調査会としてお認めいただくということでよろしゅうございますか。

(「異議なし」と声あり)

○阿部会長 ありがとうございました。それでは、そのようにさせていただきます。
 次に、自由討議に入らせていただきたいと思いますが、最初に前回前田委員、加藤委員から御質問がありまして、事実確認を宿題になっていたものがございましたので、事務局から御紹介ください。

○藤田事務局次長 まず前田委員からの御指摘でございまして、JSTのベンチャー支援助成金を利用する際に、JSTに対して特許の独占的通常実施権または専用実施権を設定しなければならず、大学側として自由なライセンス戦略が立てられないという問題があるという御指摘がございました。
 本件はJSTの補助事業のうち、独創的シーズ展開事業という事業の委託開発に関するものでございます。この事業は一般的な補助事業と異なりまして、もともと大学が持っておられる優れた研究成果というか、シーズを利用して、その開発を企業等に委託するというものでございます。その企業が開発に成功したときに、その企業がその特許の実施が可能となるように、新技術の所有者である大学から、まずJSTに特許の実施権を設定の予約をしていただいて、そしてその開発が成功したときにはJSTから、その開発を実施した企業に通常実施権を許諾するということになっております。
 それからもう一つ、加藤委員からの御指摘がありました文部科学省から出ている補助金による研究プロジェクトで開発された技術については、独占的なライセンスが受けにくいという問題があるということでございますけれども、JSTの場合には広く技術の普及を図るという観点から、原則的には非独占的なライセンスを行うということを原則としている。ただし、排他的な契約の方が技術の普及につながる場合など、合理的な理由がある場合には優先的な実施許諾も可能であるということでございます。
 ちなみに、平成16年度にはそうした優先実施契約の実績が10件あるそうでございます。この優先実施契約の場合には、優先的な実施を行う期間を設ける。例えば3年から5年くらいだそうでございますけれども、そういう期間を設ける場合も多いけれども、その期間終了前に再度協議を行い、延長することも可能であるということでございます。
 以上、前回の宿題を調べた結果でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。我々も一緒に勉強させていただきました。
 それでは、次に移らせていただきたいと思います。先ほど御決定いただきました「知的財産基本法の施行の状況及び今後の方針について」が次回の本部会合に諮られまして、今後の中期的な政策の方向、これから3年程度を考えておりますけれども、そういった方向が決定されることになっております。
 また、先ほど御決定いただきました「知的創造サイクルに関する重点課題について」が本部会合に報告され、これに基づきまして知的財産推進計画2006の策定が開始されるということになると考えております。このように2つの報告書、資料2と3を元に知的財産推進計画2006の策定が開始されることになるわけですが、本専門調査会の方は本日の会議をもちましてひと区切りということになります。また、別なことについてお諮りすることがしばらくたってからお願いすることになる予定でありますけれども、とりあえずひと区切りということでございます。そこで、特に推進計画2006策定に向けまして各委員より追加的な御意見をこの場で伺っておきたいと考えております。
 それでは、まず事務局から推進計画の策定に関して例年どういう流れで策定にこぎ着けたかということについて御紹介をしていただきたいと思います。

○藤田事務局次長 それでは、御説明させていただきます。今後の流れでございますけれども、2月24日の本部会合においてこれからの動き方が決められる予定でございますが、例年でございますと、2月24日の本部会合で推進計画の策定に向けた議論を行った後、4月から5月にかけまして、知財本部は総理大臣を本部長として全閣僚、それから10人の有識者本部員の方々から成り立っているわけでございますけれども、その有識者本部員の方々により構成されます有識者会合を2度ないし3度開催をいたしまして、推進計画の内容の詳細について御審議をいただくというのが通例でございます。
 また、その過程で政府部内、各省との調整も行われます。そうした御議論、調整を経まして、5月末か、あるいは6月の上旬ぐらいを目途に推進知財本部をもう一度開いていただき、推進計画を決定するというのが例年の流れとなってございます。

○阿部会長 ありがとうございました。そういうことで、この専門調査会は一たんお休みになるわけでありますけれども、有識者の方々による有識者会合でこれまで御検討いただいた資料2、資料3等を元にして推進計画の議論をしていただくわけでありますし、ここにも有識者会合のメンバーの方が何人かおられますけれども、是非この専門調査会で各委員より御意見をちょうだいしておきたいということでございます。
 全員の方からお話を伺いたいと思いますので、できれば手短にお願いしたいと思います。どの方からでも結構でございますけれども、手を挙げていただければと思います。

○前田委員 資料2の2ページ目にございますように、大学の国内特許は大変増加しました。一方、海外出願は1.2倍ということで、今後増加していく方向になっていくのではないかと思います。JSTの方で手厚い助成がなされておりますので、徐々にではありますが、国内出願だけでは技術の流出につながるので、大学においても海外にも出していこうという雰囲気になっておりまして、海外出願が増えていくことが予想されます。
 私たちが一番気にしていることは、その後の権利行使のサポートについてです。自分たちの出した特許が海外に行きますと、必ずや侵害の警告文がきたり、自分たちの特許の守りに入るための調査等、多額のお金がかかります。また、専門の人がどこの大学にもいるわけではありません。ですから、どうかそちらの方への助成を手厚くというか、付けていただけたらと思います。海外に出しただけでは守っていけなくなりますので、それが日々やっていて一番心配なことです。
 あとは、大学の知的財産本部というのは企業で言えば各事業部にくっ付いている小さな特許グループみたいなものです。大学の場合は力がありませんので、中枢機能といいましょうか、束ねるような機関が存在して、警告文を出されたり、またこちらから警告を発したりする場合の力になっていただけたら良いかと思っています。侵害を受けた際に、何億でも闘うのか、それとも数百万円でとりあえず片付けてしまうのか等、方針を決める際の拠り所が存在すると、大学の知的財産本部は助かるのだと思います。
 最後に、加えさせていただきますことは、現在、知的財産本部整備事業が5年間ということで助成がなされていますが、それがあと2年で終わることについてです。当然、特許は自分たちの資産ですから大学の中で間接経費等で補って賄っていかなければならないことと理解しておりますが、外部人材を登用して文化を変えるといいましょうか、ビジネスということにうまくつなげるというのは、大学の文化からするとなかなか難しいことだと思います。できれば外部人材を入れるための助成のような形であり続けられると、企業経験者等が大学の中で柔軟に動けるようになるのではないかと思います。大学の事務の方から見ますと、今までいけなかったこと、やったことのなかったことをしなければいけないことが日々ありますので、私たちは煩わしいブラックリストに載っているメンバーのような感じを受けている方もいらっしゃられるように見受けられます。そのような人たちを積極的に自分たちが雇い入れようというのはとても大変なことだと思います。ですから、これは外部人材を登用するために使われるんですよというような助成があっても良いのではないかと思っています。

○阿部会長 ありがとうございました。知的財産のさまざまな施策が進んできますと、先生がおっしゃられたような課題が切実に出てくるということであろうかと思います。
 では、加藤委員どうぞ。

○加藤委員 全然違う話で恐縮ですが、近年市場が急速に拡大しているのが機能性食品の分野です。この分野に様々な企業が参入していますが、我々も長年注力してきております。私が感じますのは、食品由来のある成分の生理活性、及びその成分を含む食品という特許は通るんです。
 ところが、日本の場合、薬事法がありますので、単に食品として販売する場合はその生理活性には言及できず、せっかく特許を取っても使いようがありません。ですから、このような特許は出願でき成立させることもできるけれども、特許は公開されますので、海外では、例えば他社の食品の機能性のデータなどを使用してインターネットで自社の商品を宣伝しているようです。日本では薬事法のためにそれができません。
 だから、何も薬事法を改正する必要があると申しているのではなく、ほんの短期間でもそれを見つけたグループには何かのインセンティブを与える方策を検討しないと、研究しても損だということになりかねないのではないかと思います。その辺はこの委員会とはなじまないかもしれませんが、日本だけでも約1.2兆円の健康食品市場があり、拡大していくことが予想されますし、海外でも市場が拡大している重要な分野かと思います。
  ですから、一度深く追究していただきたいと思います。

○阿部会長 推進計画2006には入らないかもしれないけれども、その後のということですね。ありがとうございました。
 板井委員は今のことも含めて、ほかのことでも結構ですけれども、どうぞ。

○板井委員 中小ベンチャー企業の立場としましては、中小ベンチャー企業は、大学以上に資金、人材もない。それから、東京で仕事をしているという意味ではかなり有利な方かと思うんですけれども、地方だともっと不便だと思います。ですから、そういったベンチャー企業を支援していくためには、やはり先行技術の調査とか、いろいろなユーザーの利便性向上のサービスというものは非常に必要かと思います。
 特にウェブ経由でいろいろなことができるというのは、わざわざ上京して調査しなくてもいいとか、地方に弁理士さんが展開していたら、よりいいのではないかと思います。今回の答申に入っているのでそれはいいんですが、今、国際出願の率なども問われているようですけれども、世界特許の実現まではまだまだ時間がかかるという段階かと思うのですが、日米欧だけでも審査基準を統一して相互承認ができるようにしていただけると、うちのようなベンチャー企業にはいいかと思います。
 ヨーロッパではどういうクレームが通っていたかしらとか、すぐそういう話になるんですね。いろいろな特許事務所とのやり取りで、全部成立し終わってもそういう問題はありますし、途中でも日本ではこれが成立し、アメリカではこういう書き方で成立しということで1つの特許が全部ばらばらなんです。そういうものも非常に手がかかっているということです。
 それからもう一つ、海外出願をすごく奨励されているようなのですけれども、先ほど前田委員が言ったように、実は侵害に対してどうするかという問題が全く我々自身も対策が立たない。明確に侵害がわかっていて、日本では裁判で勝ったりしていても、海外をやろうと思うとそういう裁判に余りにお金がかかったり手間がかかり過ぎるということもあったりして、なかなか手がつかないので、では何のために出願しておいたんだということになってしまうんです。何の意味もないんです。そういうことがあって、弁理士さんの海外研修とか、あるいは海外での紛争、係争処理での事例研究とか、そういったことも考えていただけたらと思っております。
 最後に、制度面では本当にこの3年だけではなくて、関係者の方々の努力で随分よくなってきたのではないかと思うんですけれども、知財立国というのはもう少し広い意味でとらえていかなければならないわけで、結局私どもなどで考えていますと、幼児からの教育という語学教育からロジカルな考え方を主張していくこととか、それから理科系人材ですね。今は余り増えていないんですけれども、そういった面と、それから複数分野ですね。理科系もやりつつ法律もわかるとか、工業所有権法がわかるとか、そういった複数領域を持った人間をつくるとか、そういった面からも時間がかかると思うんですけれども、各省庁の協力を得て是非一番いい方向に持っていっていただきたいと思っております。

○阿部会長 ありがとうございました。日米欧は中小企業に限らない大きい問題ですが、特に中小企業としては大学も大変ですけれども、中小企業と似ているところはあるかもしれませんね。大学は零細企業があるかもしれませんけれども、大企業でも苦労されているわけですから、そこは更に深掘りをしていく必要があると思いますが、海外特許の侵害問題も大学と似ているところが大きい。大学が一番プアーな例かもしれません。
 今の紛争の事例集というのはどうですか。

○荒井事務局長 今まで体系的に勉強していませんから、海外のものはもう少し調べてみようかと思います。今のはいい御提案だと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。それでは、吉野委員どうぞ。

○吉野委員 今、言われたこととも関係しますし、既に基本方針などにも入っていますけれども、海外との関係の中で政治だとか、あるいは政府ベースで主として発展途上国の知的財産問題をもっと推進していく。日本からの支援が必要な国もいっぱいあると思うので、そういうことをもう少し強力にやっていただきたい。
 最近、中国を始めアジアの国々が経済活動が活発化するにつれて侵害問題というのは非常に多い。したがって、個別に対応していくだけではとても間に合わないという感じがいたします。したがって、もっと政府間でこういうことの認識、体制の整備、それから実際のエンフォースメントみたいなことがもう少し進むように強力にやっていただきたい。したがって、この専門部会とか知財本部でのいろいろを施策を実行していただくことは当然として、更にその上のレベルで世界の、特にアジアの状況というものを大きく変えていくような取組を是非お願いしたい。

○阿部会長 まだまだ足りないということで、そのとおりだと思います。もっと強力にということを何回かおっしゃって、これは日本としてのまさに重要な柱だと思います。
 ただ、若干書かせていただいていますけれども、途上国でも模倣品をがんがんつくれるポテンシャルのある国と、模倣品もつくれないところの知財をどう考えていくか。その辺と両方ありますね。

○吉野委員 出す方と、それから受ける方で、受ける方は必ずしも技術は要らないわけですね。そういうところの認識とか、体制とか、そういうものの整備と両方必要だと思うんです。例えば、中国でつくったものがどんどんほかの国にもいってしまう。そちらでもどんどん受け入れてしまうというようなことが現実に起こっています。

○阿部会長 ありがとうございました。重要な御指摘で、日本の国の利害に非常に密接に関係あるところだと思います。
 それでは、田中委員お願いします。

○田中委員 今のところにも関係しますが、今回、重点項目ということで国際的な視点での項目が幾つか整理されて挙がってきています。資料3の推進方策の中においては、T創造分野、U保護分野、そして最後のYに国際ルールの構築とうまくまとめられています。しかし、例えばリサーチツールについては、国内だけではなくて海外における問題とも絡んでくると思います。それからパテントトロールといいますか、パテントテロリストの問題に対してもどう対処していくかというのは、国内だけではなくて当然アメリカですとか海外の動向も見据えた上で国内の制度構築をしていく必要があると思います。
 商標にしましても、具体的な施策のところで触れられておりますが、場合によっては世界統一商標制度みたいな形に持っていった方が案外使い勝手がいいのではないかと考えています。海賊版とか模倣品とか国際的に解決していかなければいけない課題への制度構築などは、やればやるほど増やしていく必要に迫られます。したがいまして、国際的な展開の部分、あるいはそれぞれの具体的な項目の中での国際的に解決していかなければいけない視点を整理して、また、それぞれの進展状況、あるいはどういった形でそれに対処していくのか等の観点から整理をして進めた方がいいと思います。
 といいますのは、このような課題はものすごく広範にわたりますから、一社で対応するのは大変な労力が要ります。我々企業としてはアメリカのいろいろな企業と情報交換し合いながら、アメリカの制度をどのように変えればパテントロールに対抗できるか考えていくべきです。また、これはとんでもない話になるかもしれませんけれども、訴えている会社はどうせ小さいから、場合によっては皆で金を出し合ってその会社を買ってしまうとか、アメリカ人の場合にはそういうとんでもないアイデアも出して、対抗しようとしたりもします。
 ですから、そういう情報交換をしながら何か対抗策を協力して考えていくべきと思うわけです。もちろんパテントトロールにしても権利行使をすること自身は特許法上許されているわけですが、ただ、プロパテントの行き過ぎみたいなものに対してどのように対処していくかという視点で考えていくべきだと思います。
 いずれにしても言いたいのは、このような国際的な問題を少しマトリックス的に全部整理した上で一つひとつきちんと対処していけるようにした方がわかりやすいかなということでございます。以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。御指摘のとおりだと思うんですが、田中さんのお話を伺って振り返ってみますと、やはり内向きの議論が多過ぎるかなと。内向きも大切なんですけれども、今のような整理を常にしながらやっていくのは重要なことですね。

○田中委員 基本的にはそういうこともやりながら、国内の制度整備というものを何かレファレンスを持った上で、むしろこういうふうにした方がもっといい制度になるのではないかと考えていった方が全体的にいい方向に進むのではないかと思っています。

○阿部会長 ありがとうございました。では、久保利委員お願いします。

○久保利委員 欠席が続いて、どうも申し訳ありませんでした。今、田中さんのおっしゃったことは、本当にそうだなと私は思うんです。前田先生もおっしゃっていましたけれども、要するに紛争が起きる、訴訟が起きる、リーガルという問題で、せっかく特許を取ってもそれがどうやって経済的に生きていくかというときに必ず訴訟、法律という問題があるわけです。
 それで、アメリカで理科系で弁護士になる人が多いのは、ある意味で言うと経済のソフト化の中で特許を発明し、それを知的財産として生かしていくというのと、訴訟をやってもうけるということは実は産業のソフト化という点では同じことなんです。ですから、訴訟自体がビジネスなんです。そういう意味で言うと今、田中さんがおっしゃったように、小さい会社でうるさい人がいるからそれを買ってしまおうというのは当たり前の話であって、決してとんでもないことではないと私も思うんです。
 そういう感覚も持たずに、法律が大変で、そのお金をどこかで助成してよということばかり考えていると、なかなかそれはアメリカには出ていけないんだろう。むしろアメリカの弁護士とジョイベンを組んで、この特許を守り切ったらおまえに権利の1/3をやるよというふうな、それ自体をビジネスにしていくような発想がないと外では通用しないのではないか。
 したがって、国内では本当に過疎の地域の弁護士たちもしっかり知財をやれとか、国内の内向き部分としては当然あり得る話でありまして必要なことなんですけれども、インターナショナルに考えていったときに知的財産権というのは実は法的な部分のサポートがなければ財産たりえないんです。
 だから、リーガルのそういうパワーと理系の発明というものとが常にセットでいかないと勝てない。だからこそ、逆に言うとアメリカには2万人も3万人ものパテントアトニーがいるということになって、日本には非常に数が少ない。いわばビジネスになっているリーガルというものと、日本の場合にはビジネスになっていないリーガルというものと、この違いが恐らく国内の問題と海外の問題で訴訟問題がえらく異質に見える原因ではないか。 したがって、もうグローバルな企業になっているホンダとかキヤノンとかはそれを十分経験してこられたけれども、大学はそれができるか。あるいは、わかっているか。あるいは、中小・ベンチャーはわかっているかというと、そのことがまずわかっていないのではないか。それで海外に行って大けがをして帰ってきたり、非常に無防備で行って失敗するということがある。だから防備したいとおっしゃるわけです。
 しかし、そのときのリーガルの活用の仕方というのは、単なる助成ということだけではないと思います。助成も大事だし、こういうリストがあるとか、こういう事務所がいいとか、それは多分情報提供としてあり得るんだと思いますけれども、そこの活用の仕方はもうひと工夫、ふた工夫、次のこういう専門調査会でも結構ですから、中山先生の御意見などもお伺いしながら少しリファインする必要があるのかなという印象を今、受けました。
 皆さんがおっしゃっているのはごもっともなんだけれども、アメリカにおける訴訟社会の在り方と日本を混同してしまうと、ちょっと違うかなという気もしたものですから、余計なことですけれども、申し上げました。

○阿部会長 では、お名前が出ましたのでどうぞ。

○中山委員 今の久保利先生のお話は全くそのとおりだと思います。特許というのは弱肉強食の世界なのです。したがって、特許の世界のプレイヤーになろうとする人間は、大学であろうが、中小企業であろうが、それなりの覚悟を持っていかなければいけない。どうも日本を見ていますと、お上の助けをくださいという部分が多すぎるように見えます。
 官が出てゆくべき部分もあります。久保利さんがおっしゃったように、例えば特許情報の検索をしやすくしてやるとか、その他もろもろの一般的な情報とか、そういうものを与えるというのはもちろん大事です。
 しかし、個別の具体的なケースにお金をちょうだいということはやるべきではない。やっても、それは企業体質を弱めるだけです。むしろさっき久保利さんがおっしゃったような意味で、自分の力を付ける、そちらに仕向けなければいけないです。うっかり援助をするということは、その仕向けるインセンティブをなくすことにもなりかねない。 だから、官が何をどこまでやるかということを十分議論する必要があるだろうと思います。
 それから、2番目は人材問題です。これはあちこちの要求を聞いていますと、スーパーマルチ人間が欲しいとしています。法律もわかる、会計もわかる、技術もわかる、あれもこれも全てわかる、そんな人間はいるわけはないんです。そんな人間を教育できるわけもない。数年前に知的財産専門職大学院のモデルカリキュラムというものを私が委員長でつくったことがありますが、理想的なカリキュラムなどは到底できないです。法律だけやろうと言っても大変なことなのに、やれ理科系だとか、会計だとか、経営だとか、そんなことは絶対できないです。
 しかし、そういうものを欲しいからいろいろ研修会をやるとか、セミナーをやるとか、盛りだくさんに書いてありまして、セミナーの開催自体は結構なことですが、本当はその前に教えることのできる人をきちんと養成して時間をかけてやる、10年は覚悟でやるということが必要だろうと思います。今、急に知財ブームになりましたので、言葉は悪いですけれども、はっきり言わせてもらうと、にわか専門家、えせ学者が満ちている。うっかり研修をやると、その不見識を拡大再生産することになりかねない。あるいは、どこにでもあるような教科書に載っているような薄っぺらい知識を伝授する。あるいは、賞味期間が極めて短い知識を教えておしまいにするということになりかねない。
 今、日本で研修の先生をやっている人の中に知的財産とは何か、知的財産の本質は何かと聞いて答えられる人が何人いるか。余りいないんです。したがって、この報告書の教育についての文章はこれでいいんですけれども、やはりじっくり地道にやっていく必要があるだろうと思います。
 3番目に、恐らくこれから世界の知的財産制度というものは南北問題がかなり大きな軸になっていくだろう。これは前々回に八田先生と議論した点ですけれども、経済理論的な問題は別といたしまして、南北問題というのは必ず出てくるし、なかなか経済理論どおりに進まない。これは前回議論になったフォークロアとか、TK(トラディショナル・ナレッジ)の保護等は我々から見ると不合理な制度かもしれませんけれども、途上国は何も持っていないわけですから、そういうものも含めて、一方では援助し、一方では侵害をちゃんと取り締まっているという要求をする。侵害だけ取り締まると言っても、それで食べている人に対して死ねと言うのに近いわけですから、やはり何か一緒にやらなければならないだろう。途上国問題を忘れてはならないと思います。

○阿部会長 誠にそのとおりだと思いますけれども、八田先生の名前が出ましたのでお願いします。関係ないことでも結構ですのでどうぞ。

○八田委員 以前にも申し上げたことですけれども、もう一度強調させていただきたいことが2つございます。
第1は、エイズの薬や、インフルエンザの薬のタミフルを途上国に対して優遇料金で利用してもらうかどうかに関してです。
技術とか音楽とかいった情報は、経済学でいう公共財です。すなわち、他人が消費するとしないとに関わらず、同じように消費できるというものです。この点で、ハンバーガーやアイスクリームのような普通の財と違います。公共財は、ただで誰でもが使えるようにすべきだというのが大原則です。なるべくそういう人間のつくったものを多くの人が使うことが望ましい。
しかし新作の技術や音楽を関しては、この大原則を破って、知財として守ります。その理由は、ただただ技術開発をしてもらいたい。新しい知恵をつくってもらいたいという目的のためです。従って、その目的さえ達成されれば、全部ただにするというのが大原則だと思うんです。
 この視点に立つと、今までは、一律に決めていた特許料とか特許期間というものを見直す必要性が認識されます。例えば、非常に大当たりした技術や薬品について、これだけもうけたら、特許による保護を打ち止めにして、早めに無料公開するということを最初から明確にしておく事で、十分な技術開発のインセンティブを与えながら、公共性を最大限に活用することが可能になります。そういうようなことをすると、鳥インフルエンザが流行りそうなときには、タミフルからのもうけが予め決めた水準に達しない部分を国が支払い、特許権を買い上げて、あとはただで公共財にして、途上国を含めた全ての国で活用することが可能になる。このような制度の下では、国がいくら負担すべきかが予め明確になります。
 ところが、今はある薬品が大当たりしたら、それを発明した製薬会社は無限にもうけられるという仕組みなわけです。このような制度改革に関しては、日本としても世界に先駆けてそういうイニシアティブを取るというようなことがあっていいのではないかと思います。
 第2は、日本の技術者を国費でもって、アメリカのロースクールに留学させる制度の新設です。最先端の情報というのは文献では入らないと思うんです。先ほどいろいろな判例のリストを国が公開すべきだというお話がありました。しかし、最新のアメリカの地方裁判所の判例について、その背景を説明し、解釈が与えられていなければ、使い勝手は良くないでしょう。結局は向こうの弁護士さんがそれを商売の道具としてやるくらいのものでなければ実際には役に立たないんだろうと私は思います。ただ機械的に日本国政府がそれを調べても、ほとんど実用には役に立たないのではないか。
 そうすると、その最新の情報というのは文献ではなく、結局は人的なネットワークと商売を通じて売ることになります。ところが、商売を利用しようにも人的なネットワークが厚くなければ何をどう使ったらいいのかも分からない。
 このまえ、私は日本の技術者をなるべく国費でもって弁護士、アメリカのロースクールに留学させるような奨学金制度を創るべきだ。その人たちは日本に帰ってこなくていいから、向こうでさんざん働いてもらい、日本と向こうのローファームとの人的なコネクションをつくるべきだと申し上げました。今度は逆に日本のロイヤーで奇特な人がいて、エンジニアリングを向こうで勉強したいという人がいたら、それに対して奨学金を用意することも考えるべきだと思います。
 何でもマーケットに任せておけと言いそうな経済学者が、奨学金については、銀行ではなく、国がやれと言う理由は、銀行は、人間以外のものへの投資に関しては、担保を取れるけれども、人間への投資に関しては担保が取れない。したがって、銀行が金を貸してくれないんです。だから、自信があって後で返せると思っても銀行は金を貸してくれない。人間に対する投資というのは非常に特殊な事情があるから、市場が失敗するわけです。市場の失敗を克服するためには、国がさまざまな形で市場に介入すべきです。それによって知財に関する厚い人的なネットワークが出来ると、日本の企業も利用できるようになりますし、日本のロースクールも活性化すると思います。

○阿部会長 ありがとうございました。八田委員の御意見は反論する方はいるかもしれませんけれども、貴重な内容を含んでいることは確かだと思います。
 では、妹尾委員お願いします。

○妹尾委員 私は経営の人材育成の世界からこちらの世界に入ってたこともあり、今回人材育成に関する総合戦略がちゃんとできたのが何よりうれしいと思っています。
 というのも、ここ数年、知財人材育成が一気にブーム、焦点になったのは大変いいことだと思うのですが、ただ、そのときに一番感じられたことは先ほど中山先生の御指摘にもありましたとおり、人材育成をする人材がいないということです。それがこの分野の特徴だと感じました。経営教育の世界では既に人材育成をする人材を育成するというスタイルがかなりできています。
 特に知財の教育のスタイルが、前にも御指摘させていただいたように、30年前だなということがあります。それを総合戦略でどれだけリカバリーできるかということが今後の課題ですね。私もその責任を負って一生懸命やりたいと思っていますが、同時に経営教育の方法論での遅れということにも気が付きました。それは何かというと、経営教育の中に知財が全く入っていなかった、ということです。これを自覚して、先ほど久保利先生がおっしゃったような世界で通用する国際的なビジネスができる人を育てなければならないと思っています。
 そういう意味では、今までの知財の世界というのは技術と法律を結ぶという部分だけだったのですが、それに経営やビジネスというものが入った三者の関係を動かせる人材を育成しなければいけないと考えます。
 確かに中山先生のおっしゃるとおり、スーパースターを育てることはできない、イチローはやはり自然に出てくるものだと思いますが、裾野が充実しない限りイチローは絶対に出てきませんので、地道な努力をしていくしかないと思っています。それが第1点です。
 第2点は、それをやっていくうちに困ってしまったことが幾つかあります。そのうちの1つが、先ほどから出ている事例とかについてです。知財関係の方はやはり知財をやられているだけあって口が非常に堅くていらっしゃるので、特に失敗事例というものを出していただけないのです。我々がよく、どうやれば経営と知財がうまく組み合わさって成功したか、失敗したかというお話を伺おうとしても、企業の方々はなかなかお話くださらない。
 いわゆる消費財ビジネスで成功した場合は皆さん、宣伝も兼ねてたくさん雑誌に載せていただけるのですが、そうでないところは我々が教育教材をつくろうとするときに大変難しいことになります。もうそろそろ時期的にそういうことも話してくださるようになればいいと思っています。政策的にどうできるかという話ではありませんけれども、そういうような問題点があります。
 3番目は若干冗談です。こういう人材育成をやっていると面白い縦割りの言葉遣いというものに随分出会います。例えば、教育という言葉はやはり文科省が中心で、厚生労働省になりますと訓練、経産省になりますと研修と言います。私は今、警察省の委員もやっていますが、警察省では教養と言います。これは先日、教養ではなくて研修というふうにようやく直していただきました。人材育成という言葉が省庁横断的に使えるようになったのでほっとしているというのが実態です。
 例えば、大学に関する産学連携の場合、経済産業省がアドバイザーと言い、文部科学省はコーディネーターと呼ぶ。実際に必要なのはプロデューサーですが、そういうような用語一つで縦割りが全部見え隠れするような状況を早く超えて欲しいものです。
 それから、例えば特許に関連すると、産業財産権と変えたにもかかわらずいまだに工業所有権情報・研修館と言っている問題があります。これは学生に質問されても答えようがないです。
 さらに、このような言葉の違いの問題だけではありません。今後研究ノートをどうやって管理していくかが課題でだされたわけですが、大学での研究者の研究ノートの管理は文科省の管轄ですが、企業さんの研究ノートの指導は経済産業省になってしまいます。だけど、共同研究の場合はどちらがどう指導をすればいいかという話が必ず出てくるでしょう。
 これは別に文句を言っているわけでもなくて、半分冗談で申し上げているわけですけれども、今後これらを推進するときに知財戦略本部が横断的なところでの指導力を是非是非発揮して、そういう違いがあってもそれを乗り越えるようにできたらと思います。
 今日のことは別に提言とか、そういうことではなくて感想であります。

○阿部会長 ありがとうございました。我々もいつも苦労をしているところですから。
 では、最後に下坂委員お願いします。まだもうちょっと時間はありますけれども、とりあえずの最後ということです。

○下坂委員 まず人材育成総合戦略は先回いろいろ述べさせていただきまして、会長一任にさせていただきました。今日御提出いただきましたことを大変感謝申し上げます。また、御努力いただきました事務局の皆様方にも厚く御礼申し上げます。
 なお、人材に関しましては4月に産構審の方で知財政策部会に弁理士制度小委員会が設置されて、研修制度を含む弁理士資格付与の在り方というテーマだけではなくて、それを筆頭にテーマが幾つか1年間かけて行われると聞いております。今日追加修正されました1、2、3でございますが、31ページのCのところでございますけれども、その方策を総合的に御検討いただきまして、日本弁理士会が強く希望しております弁理士登録前研修制度なども含めて、幅広く御審議いただければと心から願っております。以上はお礼でございます。
 2点目は、先ほど中山委員からえせプロフェッサーの不見識再生産という言葉が出たのですが、確かに知財というのはプロフェッサーが増えておられませんね。いわゆる中山流プロフェッサーでございますが、なぜ増えないのか。これは言われ続けてもう2、3年たっていると思うのですが、今度はそのことも検討していただけたらいいんじゃないか。
 ただ、知財の場合にはかなり実務的な面というものも必要でございまして、産業に直結する部分がございますから、理論だけというよりは今いろいろお教えいただいている方たちの存在価値というものは非常に大きいところがあるのではないかと思います。
 それから、先ほどアメリカ側のいろいろな侵害訴訟などの話も出ましたけれども、侵害訴訟とか出願の異議申立てがアメリカ人の場合などはえらく高いんです。アメリカの方で商標1件の出願に異議を申し立てられまして、アメリカの代理人がばさっと契約書を送ってまいりました。そこには、事務所のチーフがこれを扱います、と述べてあり、その料金は1時間600ドルです、それにアシスタントロイヤーを2名付けます、その料金がアワリーチャージ、いわゆる時間制で370ドル、もう一人が350ドル、それからサーチャーが付きます、それが幾らと、そういう契約書が送られてまいりまして、それでこの異議には1,000万円は覚悟してください、最初のイニシャルフィーとして100万円を入れてください、よければこの契約書にサインをして返送くださいとありました。異議申立てでここまで大きいのは初めてなんです。というのは、相手の異議申立人が大変有名な団体らしゅうございまして、それと闘うのにはこれくらい要るということです。
 異議を申し立てられた日本側の会社も大きい会社ですが、1日で結論が出まして、異議を受けるのはやめた、ということになりました。アメリカの場合、非常にアワリーチャージが高いんです。ただ、反面、日本側に言えますことは、日本人がサービスというものはただだと思っているところが余りにも強過ぎる。ところが、知的財産というのはサービスの塊みたいなもので目に見えませんから、日本人は物でしたらどういう物でもお金を出すことをいといませんけれども、見えないものに対してはいといます。昔からサービスをいたしますということはイコールただでございますということでして、御近所の電器屋さんだって取り替えたヒューズの部品代は取るけれども、自分が2時間もかけて直した時間の費用はゼロで、いやいやサービスでございますとなどといいます。これが日本は徹底しております。
 そうしますと、知的財産で闘おうというような場合には時間だけが費やされてまいりますので、そこに対する企業なり個人なりの理解がなければ十分な調査とか、十分な闘いとかというものができません。金額的にも大きくなるんですが、アメリカに比べれば10分の1、20分の1、30分の1というところです。
 そこで私がお願いしたいのは、知的財産の効用普及、これは非常に大切なことですが、そのとき、知的財産というものは物ではない、いわゆる思想であり、サービスであるというようなことから、日本人のサービスに対する観念というものも同時に変えていただきたいと考えております。いろいろなところでしゃべるときには、電球を取り替えたらただではありません。サービス料はかかりますよ、というようなところから始めているのですけれども。日本人はかなり徹底してサービスはただという認識です。そこはアメリカなどとはすごく違います。
 アメリカの高いのは、いいことか悪いことか、これは先ほど申しました事例からも、守りたくても守れないという状況が出てまいりますから、あそこまで高くなくてもいいんじゃないかという気はしております。だけれども、日本は安過ぎるんじゃないかという気もしております。
 だから、いろいろそこの面もこれから検討して考えていきたいと思っているところでございます。今でも高いと言われている弁理士からいうのは恐縮ではございますけれども、意見を出させていただきました。以上です。

○阿部会長 ありがとうございました。ひと当たり御発言いただきましたけれども、自由討論ですのでもう少し時間を取らせていただきますので、是非追加的に御発言いただきたいと思います。
 では、田中委員お願いします。

○田中委員 知的財産立国に向けてということで、教育ですとか、今、下坂先生のおっしゃった話ですとか、いろいろな議論がされていますが、やはり知的財産権という話と、知的財産そのものの話というものをはっきり区分けして議論していかないととんでもないことになってしまうのではないかと思います。
 企業における知的財産活動というものは、知的財産権だけが対象ではないんです。今は機密漏洩についてどうだ、あるいは技術流出についてどうだ、ノウハウ管理についてどうだ、あるいはブランド力はどうだといったように、そういったものも含めて全体の知的財産、あるいは無形資産というものに対して気を配っていかなければ、企業における、本当にいい意味での知的財産活動にはなり得ないと私は思っています。
 結局、企業においては知的財産をいかにハンドリングしていくかが大切なことなんです。ですから知的財産権という法律上の知識と、企業の中における知的財産活動とは、場合によったら共通点は余りなくて、法律を知らなくても知的財産活動はできる部分も実はたくさんあります。
 知的財産権の話と知的財産そのものの話を、教育の場においても、今、下坂先生の言われた料金の話の場にしても、区分けして考えていかないととんでもない議論になってしまうのではないかという感じがちょっといたします。以上です。

○阿部会長 ありがとうございました。企業に限らず大学もそうでして、大学は大げさに言えばすべて知的財産を相手に仕事をしているようなものなんですが、知的財産権というものはごく一部ですので、そこはいわゆるパテントにならないような知的財産に関していろいろなことがあるわけですけれども、まずそういう人間の創造活動から生まれてくる知的財産一般に対して、もっと多とする雰囲気をつくる。大学はもともとそうでなかったら価値がないんですけれども、若干寂しい方向に時々いきそうな気がして心配になるところです。
 それから、ついでに少し独断的なことを申し上げますと、中山先生がおっしゃったプロフェッサーの話ですけれども、最近は知的財産に限らず、いろいろなプロフェッサーが出てきて、これは私はある意味でいいことなんですが、ある意味で水準が下がっているんじゃないかという気も時々するんです。
 ただ、例えばコンピュータにしろ、原子力工学にしろ、最初は専門家がいないわけですから、いろいろな専門家が集まってきて学科をつくったり、専攻をつくったりするわけですのでやむを得ない面もあるんですけれども、広がるということは非常にプラスでありますが、できれば水準が下がらない形を是非望みたいという気持ちも残りの半分はあるわけで、そこはいつも葛藤になるんですけれども、勝手なことを申し上げて恐縮でございます。 では、プロフェッサーが2人いますので、どうぞ。

○中山委員 私が申し上げたのは、プロフェッサーももちろん含むんですけれども、プロフェッサーだけではなくて知財の教育に携わっている人一般という意味で申し上げたのです。
 プロフェッサーについてはもちろん阿部先生がおっしゃるとおり、大分インフレが起きていまして、プロフェッサーだけでははっきり言って信用できないという面もあるわけです。
 それから、下坂先生がおっしゃった2、3年もたつのに何でプロフェッサーが増えないか。これは当たり前なんです。私はそれが言いたかったんです。つまり、プロフェッサーなどというものは2、3年では育たないんです。10年から15年たたなければだめです。東大法学部で言いますと、専門家になりたいという人を見つけてきて3年から5年かけてやっと助教授にして、それから5年から10年でやっと一人前の専門家になる。
 私が言いたいのは、そういう息が長い教育が必要だということです。プロフェッサーが必要だから明日からすぐプロフェッサーができるかというと、それは無理ですよ。だから、今後10年間ずっと、あるいは15年間ずっとこういう運動を地道でもいいから続けていきましょうというのが私の言いたい本音で、ブームでにわか専門家が出て、それで終わってしまうというのではいけませんよ、という趣旨なんです。

○阿部会長 では、久保利委員お先にどうぞ。

○久保利委員 それはエンタメロイヤーとか、知財弁護士というのもそうなので、要するに今までこれしかいないから急に増やせと言う。勉強したいと言う人を増やすことはできるわけです。そういう意味で、関心を持つ人がたくさん増えてくれるという点では大変いいわけです。しかし、それでは昨日、今日、エンタメロイヤーズネットに入ったからそれがすぐ明日から使えるかというと、そんなことはないわけで、やはり何年もかかります。 ただし、それは始まらなければ何年待っても始まらないわけで、始まれば実はプロフェッサーがいれば育成はもっと簡単になりますから、必死で2、3年やればそれはそれなりに使えるようになっていく。それで、さっき奨学金の話も出ましたけれども、日本というのは少子化だとか、どんどん人口が減るとか言っている割には、少数でもいいから優れた人を出していこう。それから、1人でスーパーマンみたいな人はいないんですから、そうすると研究開発でも優れた人、リーガルでも優れた人、ビジネスでも優れた人というのをとにかくつくっていこうという動きになって当たり前だと思うんです。そういう意味では奨学金の話もそうで、私は日本の大学生あるいは院生を含めて低学力で低学歴だ、全国、全世界のリーダーに比べると相当力が落ちると思っているんです。
 この水準を上げる必要があるのであれば、やはり相当のコストをかけなければいけない。その意味ではエンタメロイヤーズネットに皆、入ってきてくれるけれども、ではどうやってその研究をしましょう、新しい契約書のひな型をつくりましょう。皆、勉強だからそれはやりますけれども、しかし、これが全く著作権も何もなくてどこかへ差し上げてこれだけ皆で勉強しても、それがどういうリターンになって返ってくるのかということがないとインセンティブがない。やはり補助金をもらうとか、何らかの権利をいただけるとか、名前が売れるとか、そういうものがないと皆やる気にならない。
 その点で、中町君という弁護士がカリフォルニアに行ってもう7、8年になります。カーク・アンド・エリスという大ローファームのパートナーになって、珍しいことですが、日本に帰ってこないでそのまま頑張っているわけです。バイオをやったり、コンピュータをやったりしてきたわけですけれども、そういう知的財産弁護士として、日本人がどんどん向こうで活躍しなければダメです。科学者は既にそうなっている。彼等がセットになってきたときに、やはりインターナショナルに認められるのではないか。そのための必要な奨学金とか、学ぶためのコスト、さまざまなインセンティブというものは、私は国が国家戦略で出すべき大事な問題ではないか。
 それが結局、ひいては大学の前田先生のところにもリターンがいくでしょうし、板井先生のところにもいくだろうしというふうに私は思うので、そう短兵急に言ってもだめだけれども、始めなければ何も始まらないという点では、この3年間というのは始めたということがとても立派だ。これを続けることが大事だと私は思います。

○阿部会長 今おっしゃったことは人材育成教育一般に言える非常に重要な視点で、第3期の科学技術基本計画の基本政策の議論ともかなり重なる。エンタメロイヤーのことはやっていませんけれども。
 では、順番で妹尾委員、前田委員お願いします。

○妹尾委員 今の御議論で1つ指摘させていただきたいのは、プロフェッサーと言ったときに2つの意味があるということです。1つは中山先生みたいな日本の学問の権威でいらっしゃる方がアカデミックなプロフェッサーをどうやって再生させるかという話と、もう1つはプロフェッショナル教育ができるプロフェッサーをどうするかという話です。つまり両方あるんですね。
 それで、今、日本では知財アカデミックのプロフェッサーが足りないのか、知財プロフェッショナルを育てるプロフェッサーがいないのか、というと両方足りないわけです。それで、どちらかというと、今、法科大学院その他で中山先生の御努力があっていろいろ知財アカデミックの系統での教育がずっと動いていますが、一方で、本当に経営に資するような人や知財プロフェッショナルを育てるプロフェサーがいない。これが大問題だと思うんです。
 知財プロを育てる人は、教える人ではなくて、むしろ学ばせる人です。そうすると、先ほど言ったようなケースなども全部ないといけないという話になる。こういった点をやはり区分けしないと、この手の議論が少しごちゃごちゃになりかねないと思います。
 それからもう一つは、先ほどのインフレーションを起こしているという話ですけれども、これは実務家教員の問題です。弁理士さんだとか、特許庁の方だとか、あるいは知財協の方が大学で知財教育をやるからと講師で呼ばれるわけですけれども、そのときに教員としての授業法のトレーニングが全くできていない。で、まねごとで知財法だとか、特許法の35条の解釈をするとか、そういう話になってしまう。実務家教員の方に求められているのは実はアカデミシャンのまねごとではなくて、実務家としてプロフェッショナル教育をするということが一番なのです。そうでないと実務家教員としての価値がないわけですから、そういうところの基盤づくりや人材育成をしないといけない。
 それで、政策的な誘導という意味では、先ほどの個々の案件に公的なものが入るではないのですが、基盤となる人材育成のところは国の全体の仕事なので、これは政策的なものがどんどん入ってきて応援をしていただくことが重要かと思います。
 それで、教育の話で話題を1つご提供します。今回ここで御議論された中で放送大学だとか、あるいはe−ラーニングを使ったらどうかという話がありました。お陰様でそれらは動き出しておりまして、関係者の皆さんがこれに呼応してくださって、現在放送大学とe−ラーニングで全面展開の準備が始まりかけています。
 ただし、ここで重要なことは、こういった動きは、いわゆる私が言う「知財民度」、国民全体の底上げの部分であって、先ほど久保利先生が強調されたトップクラスのエリートの教育ではないという点です。そこのところについてはもう一つ何か手を打たなければいけない。それが今後の課題になると思います。人材育成は時間がかかるので、まず始まったことが重要でがんがんやりますけれども、上の方を引っ張るリーダー層をどうやってつくるかという政策、施策のところが次にやはり出てこないといけないという感じを持っております。

○阿部会長 ありがとうございました。いろいろ多面的に整理してやっていかなければいけないということと、ある意味ではロールモデルが出てくるといいのかもしれません。若い人がやはり将来に対して見通しなり、夢が持てるということが欲しいわけですから。

○妹尾委員 阿部先生のご指摘のとおり、ロールモデルができて、この業界のキャリアパスが見えてきて、そしてこの知財分野はエンタメロイヤーも含めて何かすごいなと思って、若い人たちがたくさん入ってくれると嬉しいわけです。人材育成の話というのは、とかく今いる人の育成をついつい考えてしまうのですが、一番重要なのはその領域が魅力的で次の世代の優秀な人が入ってくれる状況をつくることです。なので、阿部先生のおっしゃるとおりだと思います。

○阿部会長 では、お待たせしました。どうぞ。

○前田委員 大学にたくさんお金を付けて大学が特許を取るようになりました。本当にそれは企業の製品化への貢献になっているのかという疑問の声は皆さんからあるかと思います。日々業務を行っていて感じることは、大学が最後まで特許を持っていて、企業の方が以前よりも使いにくくなるという、決してハッピーじゃないケースも存在するということです。
 私は、売り切ってしまう特許もあって良いと思います。自分たちの大学で必ず特許を持っていて、ライセンスで企業に使っていただくのではなくて、特許自体をお売りしたり、もしくは半分権利を大企業に持っていただいて、リスクは企業の方に持っていただくというような方法も選択肢のひとつと考えています。
 最後に、私どものように企業の人が大学に入ってきて文化をちょっとずつ変えられたのは、助成金をいただいて、このような制度ができたからだと思います。医科歯科大学というのは医学系の学校です。私のような人間が入るということは、知的財産本部整備事業のような助成がなかったら絶対あり得なかったと思います。思いのほか抵抗無く受け入れてもらえまして、医工連携が進んで、結果として数億の共同の研究などを印刷会社さんとやらせていただいたりしています。過去には論文発表等で公開になって特許として成立しなかったものでも、迅速に適切な企業と手を結ぶことで技術が有効に活かされるようになります。
また、医学系などの閉ざされたところに新しくビジネスという感覚を入れることに役立ったのではないかと思いますし、外部人材を入れていくことで、共同研究等をより活発に行えると確信しています。是非、助成を続けていただけたらと思っています。
 また、今、私がいただいている人材養成の方のプログラムで、ワシントンの方にある特許弁護士の先生のところにインターンシップで1人学生さんを派遣しています。例がなかったことのようで、大変行かせることが難しかったですが、やはりいろいろなところにお金が付くからこそ新しいことがやっていけるのだと思います。大学にお金を付けたことは失敗だったのではなくて、開かれた大学、または、論文を発表してしまって本来企業の方が製品化できるものが死んでしまうことのないように、私たちは入っているというような考え方で、決してロイヤリティを増やすためだけではないということからも、是非助成をし続けていただけたらと思っています。

○阿部会長 ありがとうございました。先生のお話を伺っていて、私も今、大学ではなくてたまたま政府の末端のはしくれにいるんですけれども、研究者も含めて政府の施策のネガティブな面ばかりいろいろなところで主張されるので、プラスの面を先生のように、あのお陰でこういうことがこういうふうに変わりましたとか、そういうメッセージがもっとどんどん出てくると、政府の関係者は皆、もっと張り切ってやるんじゃないかと思うんです。新聞を見てもだめなところばかりで、だめなところはもちろん直してもらわなければいけないんですけれども。

○前田委員 今まで医大でしたら私のように立派な大学を出たわけでもないですし、お医者さんでもないのに、センター長で任せ切って好きにやっていいよということはあり得なかったと思うんです。そういうことを自由にさせてもらっている医科歯科大学に感謝でもあるし、文化は違うのでとても大変なんですけれども、やりがいもありますし、今までつながっていなかったところをつなぐというのはある意味で社会貢献ではないかと思ってやっています。

○阿部会長 ありがとうございました。もう少しお話を伺ってもいいですが、いかがでしょう。よろしゅうございますか。
 それでは、たまに少し早く終わらせていただいてもいいかと思っておりましたので、今日いただいた御意見を2006の議論につなげさせていただきたいと思いますし、ある部分は2006ではなくて2007以降になるものもあろうかと思います。本日、一応先ほど申し上げましたようにひと区切りとなりますが、先生方の御意見をそういうふうにつなげさせていただきたいと思っております。お忙しいところを御協力いただきましてありがとうございました。
 なお、今後は2006をつくることに専念させていただきますが、それが終わって一段落した後でまたこの専門調査会を再開することになる予定でございます。今後の予定につきましては、後日事務局を通じて御連絡をさせていただきますので、引き続きよろしくお願いします。
 何か事務局でございますか。

○藤田事務局次長 特にございません。

○阿部会長 それでは、どうもありがとうございました。