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第1回知的創造サイクル専門調査会 議事録


1.開 会:平成17年11月2日(水)13:00〜15:00
2.場 所:知的財産戦略推進事務局会議室
3.出席者:
【委 員】 阿部会長 板井委員 加藤委員 下坂委員 妹尾委員 田中委員 中山委員 前田委員
【事務局】 荒井事務局長 藤田事務局次長
4.議事
  (1)開会
  (2)会長の選任
  (3)専門調査会の運営について
  (4)今後の進め方について
  (5)知的創造サイクルに関する課題について
  (6)閉会


○荒井事務局長 それでは、ただいまから「知的創造サイクル専門調査会」の第1回会合を開催させていただきます。
 本日は、御多忙のところ御参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、内閣官房知的財産戦略推進事務局長の荒井でございます。後ほど、委員の互選により、この専門調査会の会長をお決めいただきますが、それまでの間、議事の進行を務めさせていただきます。
 この専門調査会の趣旨は、お手元の資料1のとおりでございます。
 「1 知的財産戦略本部令(平成15年政令第45号)第2条の規定に基づき、知的創造サイクルの戦略的な展開に係る課題に関する調査・検討を行うため、知的創造サイクル専門調査会(以下「専門調査会」という。)を置く」。このようになっております。よろしく御審議のほどお願いいたします。
 今回は、委員の初顔合わせの会合でもございますので、最初に、今回、委員をお願いいたしました先生方を御紹介させていただきたいと思います。
 資料2の名簿をごらんいただきたいと思います。五十音順でございます。
 阿部委員でいらっしゃいます。
 板井委員でいらっしゃいます。
 加藤委員でいらっしゃいます。
 久保利委員でございますが、本日は所用のため御欠席されています。
 下坂委員でいらっしゃいます。
 妹尾委員でいらっしゃいます。
 田中委員でいらっしゃいます。
 中山委員でいらっしゃいます。
 八田委員でございますが、本日は所用のため御欠席されています。
 前田委員でいらっしゃいます。
 もうお一方、吉野委員でございますが、本日は所用のため御欠席されています。
 それでは、次に会長の選任をしていただきたいと思います。資料1に戻っていただきたいと思います。
 3にございますように、専門調査会の会長は、委員の互選により選出していただくこととなっております。どなたか、御推薦をお願いできますでしょうか。
 どうぞ。

○田中委員 会長として、阿部先生を御推薦申し上げたいと思います。

○荒井事務局長 いかかでしょうか。

(「異議なし」と声あり)

○荒井事務局長 それでは、皆様方の御意見で阿部委員が会長と決定いたしました。ここからの議事の進行は、阿部会長にお願いいたします。
 よろしくお願いします。

(阿部委員、会長席へ移動)

○阿部会長 阿部でございます。大変、重い役を仰せつかりまして恐縮いたしております。精一杯努力させていただきますので、御協力のほどよろしくお願い申し上げます。
 それでは、早速でございますが、できるだけ時間を有効に使わせていただくようにさせていただきたいと思います。これから議事に入らせていただきますが、議論に入ります前に、本専門調査会の運営について定めたいと思います。
 運営については、資料1の6をごらんいただきたいと思います。資料1の6にございますように、運営については会長が定めることになっております。そこで、具体的な運営でございますが、この点につきましては、資料3をごらんいただきたいと思います。
 ここに「知的創造サイクル専門調査会の運営について(案)」というのがございます。議事は原則公開とすること。
 会議終了後は発言者名を付した議事録及び配布資料を公開すること。
 専門調査会の審議に必要があると認めたときは、参考人を招致すること。
 知的財産戦略本部員は、本専門調査会にオブザーバーとして参加することができること。 その他、必要な事項は会長が定めるという案でございます。
 また、公開の手続につきましては、資料4をごらんいただきたいと思います。なお、本日はあらかじめ事務局より、各委員の御了解をいただきまして、傍聴希望者の陪席を認めておりますことを申し添えます。
 また、急な事情により、私が本専門調査会に出席することができなくなった場合には、会合の議事進行をしていただく方をその時点で選び、お願いすることにいたしたいと思います。その点も含めまして、この資料3、4について御承認をいただきたくお願いを申し上げますが、いかがでございましょうか。

(「異議なし」と声あり)

○阿部会長 よろしゅうございますか。ありがとうございました。
 それでは、議事に入らせていただきます。
 まず、本専門調査会の進め方について、事務局から説明をしてもらいます。藤田次長、お願いします。

○藤田事務局次長 事務局次長の藤田でございます。よろしくお願いします。
 資料5に基づきまして、御説明を申し上げます。
 今後の進め方でございますが、まず「1.主な検討項目」の案でございます。
 大きく3つございまして、第1に「創造・保護・活用分野に関する課題について」ということで「I.創造分野」では、「(1)大学等における知的財産の創造」、「(2)企業における質の高い知的財産の創造」、
「II.保護分野」では「(1)模倣品・海賊版対策」「(2)特許審査の迅速化」「(3)世界特許の実現」「(4)特許出願による技術流出の防止」「(5)デザイン・ブランドの保護強化」、
 「III.活用分野」では「(1)国際標準化活動の強化」「(2)中小・ベンチャー企業支援、地域における知財戦略」。
 そして「IV.創造・保護・活用分野の連携」ということを検討項目として掲げてございます。
 第2に「知財人材育成のための総合戦略」でございます。
 第3に「知財の広がりに対応した国際ルールの構築」でございます。
 2としまして「今後の進め方について」でございますが、専門調査会において、こうした主要検討項目について検討いただきまして、とりまとめがなされたものについては、その内容を公表していただきたいということでございます。
 次のページでございます。「3.当面の日程と議論の進め方」でございますが、本日は1回目でございますので「検討項目の確認」「知的創造サイクルに関する課題について」ということで、広く御議論をいただければと存じます。
 第2回目は11月30日で、特に「知財人材のための総合戦略」を中心に御議論をいただければと思います。
 第3回目は12月21日でございまして、ここでは「知財の広がりに対応した国際ルールの構築」について御議論をいただければと存じます。
 4回目が、来年の1月30日でございまして、推進本部ができてから3年になりますので「推進計画2003−2005の実施状況のレビュー」をしていただくと共に「知的創造サイクルの推進方策について」を御議論いただき、2月17日の5回目に「これまでの議論のとりまとめ」をしていただくということで考えております。
 ただし、これはあくまでも現時点での暫定的な案でございますので、今後、この調査会での議論の進捗状況によりまして変更があり得ることもお含みいただきたいと存じます。○阿部会長 ありがとうございました。
 ただいまの説明について、何か御質問等ございますでしょうか。
 もし、よろしければ、こういった進め方かつスケジュールで検討を進めることにいたします。勿論、途中でいろいろ弾力的に対応する必要が生じたときは、議論をさせていただきたいと思います。
 それでは、次に移らせていただきます。
 「知的創造サイクル専門調査会」ということでございますが、実は今までこの知的財産戦略本部ができてからも、かなりの取組みあるいは提言をしてきたわけでございます。今日は、初めての方もおられますので、若干復習を兼ねまして事務局から今後の課題、これまでの状況等について説明をしてもらいたいと思います。
 それでは、藤田次長から資料6−1、6−2を使って説明をしてください。

○藤田事務局次長 まず、資料6−1でございますが、知的財産戦略のこれまでの取組みの概要でございます。
 2002年2月に、小泉総理が施政方針演説で知的財産を活用して国際競争力を強化することを国家の目標としますというふうに表明をされました。
 次の2ページ目でございますが、この総理の演説を受けまして「知的財産基本法」が制定をされ、この基本法に基づきまして、総理を本部長とする「知的財産戦略本部」が設置をされております。全閣僚と有識者の方々に御参画をいただいております。
 この知的財産戦略本部におきまして、知的財産推進計画を2003、2004、2005と、過去3回策定しております。「主な成果」は下に書いてございますが、これは後ほど簡単に説明を申し上げます。
 1枚めくっていただきまして「知的財産推進計画の5本柱」でございます。
 1に知財の創造。
 2に知財の保護。
 3に知財の活用。
 4にコンテンツビジネス。
 5に人材の育成。
 という、大きく5本の柱となっております。
 次のページでございますが「『知的財産推進計画2005』のポイント」でございます。
 1 模倣品・海賊版対策の抜本的強化。
 2 世界をリードする知的財産制度の構築。
 3 中小・ベンチャー企業を支援。
 4 官民による戦略的な国際標準化活動。
 5 文化創造国家づくり。
 6 知的財産人材育成の総合戦略の推進。
 7 産学官連携の加速化。
 といったポイントが主たる項目となってございます。
 これまでの成果でございますが、今、阿部会長からお話がございましたように、非常に多岐にわたっておりますが、ごく1部を例示的に御紹介申し上げます。
 第1が「知的財産高等裁判所の発足」でございまして、本年4月から東京高裁の特別の支部として「知財高裁」が発足をいたしました。
 次のページでございますが、全国43の大学で知的財産本部が設置をされております。また、全国で41のTLOが設置をされております。
 次のページでございますが、偽物対策、すなわち模倣品・海賊版対策の強化ということです。
 ・水際対策の強化。
 ・外国市場対策。
 ・政府対応窓口の一元化。
 ・関係省庁連絡会議の設置。
 といった対策が講じられてきております。
 次の8ページでございますが「特許審査迅速化の取組」といたしまして、特許審査の順番待ちの期間を短縮するという目標を掲げまして、そのために「任期付審査官の大量採用」あるいは「従来技術調査の外注拡充」といった措置を講じてきております。
 次の9ページでございますが「医療分野における特許保護の拡大」について御検討をいただきまして、特許庁の審査基準を改定し、ここの赤い文字で書いてございます「医療機器の作動方法」あるいは「医薬の新しい効能・効果を発現させる方法」といったものの権利を保護するというふうにしております。
 次の10ページでございますが「コンテンツ振興」ということで、例えば、国においては「コンテンツ促進法」を制定いたしました。あるいは民間におきましては「コンテンツ関係専門職大学院設置」あるいは「エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク設立」等々の対応が既になされてきております。
 最後のページでございますが、法律という視点から申し上げますと、既に累次の国会におきまして、21本の関連の法案の成立を見ております。
 以上が、これまでの取組みのごくごく概要でございますけれども、次に、この専門調査会における御議論の言わばたたき台、素材として、今後の課題も含めまして、資料6−2を説明申し上げます。
 項目ごとに1枚の紙になっておりますけれども、1ページ目は「I.創造分野」、特に大学でございます。
 「1.これまでの取組」といたしましては、先ほど申し上げた、全国でTLOあるいは知財本部が誕生していること。各種の学内ルールが整備をされてきていること。特許料の減免等の措置が講じられていることでございます。
 「2.今後の取組」の例示でございますけれども、大学等における知的財産の創造をより促進するために、例えば、強く広い特許を取得・活用する戦略の構築、あるいは大学における総合的な体制の整備等を掲げております。
 さらに知的財産を軸とした産学官連携として、産学官連携をより進化するために、例えばプロジェクト型の共同・受託研究の推進なども案となり得るのではないかというふうに書いてございます。
 次の2ページ目でございます。「(2)企業における質の高い知的財産の創造」でございますけれども、御案内のように、日本の企業は出願の件数は高い水準にございますが、登録に至る割合は必ずしも高くない、あるいは活用されていない特許が多数存在しているという問題が指摘されてございます。
 これまで、企業経営者や実務者の方々と特許庁の幹部が意見交換をして、量から質への特許戦略の展開を促すといった措置を講じてきております。
 「2.今後の取組」でございますけれども、より一層知財戦略、事業戦略、研究開発戦略が一体となった経営戦略に取り組んでいただく、基礎研究の担い手である大学と企業の連携の取組みを一層促す、あるいは特許登録率の低い企業名の公表、国際出願の利便性の向上等の追加的な措置を検討すべきではないかというふうに例示をしております。
 次の3ページでございます。「U.保護分野」でございますけれども、模倣品・海賊版という問題が、大変に日本の産業界にとっても、あるいは世界においても深刻な問題となっております。不正な利益が犯罪組織やテログループの資金源になっているというような指摘もございます。
 「1.これまでの取組」でございますけれども、在外公館等における機能が強化され、新たに侵害状況調査制度が設けられております。また本年のイギリスのサミットにおきまして、小泉総理より模倣品・海賊版拡散防止条約が提唱されています。 
 「2.今後の取組」として、こうした措置が一層強化され、活用され、あるいは条約につきましては、その議論を加速すべきではないかということでございます。
 次に、4ページでございます。模倣品・海賊版の水際対策、すなわち日本に入ってくるのをどうやって防ぐかということでございますが、これまで、毎年、関税定率法の改正によりまして、ここに書いてございますようなさまざまな措置を新たに導入し税関における取組みを強化をしてきております。
 また、不正競争防止法に違反する物品につきましても、輸入差止申立制度の創設が認められることとなりました。
 「2.今後の取組」でございますけれども、例えば水際での侵害判断について、専門家の御意見を聞けるような制度的な仕組みを整備すべきではないか。第三国で積み替えられて輸出されるというようなこともございますので、日本に入ってくるものだけではなくて、日本から輸出されるもの、あるいは日本を通過するものについても、水際で取り締まる制度を整備すべきではないか。
 模倣品・海賊版の個人輸入や個人所持が、現状では法律で明示的には禁止されていないわけでございまして、そうしたものの禁止についても検討すべきではないかということでございます。
 次のページは「インターネット・オークション」の問題です。インターネット・オークションが模倣品・海賊版の取引の温床となっており、消費者の健康や安全を脅かすような事態ともなっているという問題がございます。
 「1.これまでの取組」ですが、特定商取引法という法律の運用の強化、あるいはオークション事業者による自主規制といったことが既になされておりまして「iii)取組の成果」というところがございますけれども、偽ブランド品の汚染率は、この自主規制等の措置によって非常に低下をしているという実績が出ております。
 「2.今後の取組」でございますけれども、特定商取引法の法執行の強化、あるいは今はこうした自主的な規制が功を奏しているように見受けられますけれども、今後、オークションサイトの拡散化、あるいは出品形態の巧妙化等によって、侵害の判断が難しいケースが増加する懸念もございまして、更に必要があれば、必要な措置を講ずべきではないかということでございます。
 6ページの「(2)特許審査の迅速化」でございます。
 先ほど申し上げましたように、特許審査の順番待ちの期間が大変に長いということが問題とされております。
 「1.これまでの取組」といたしましては、特許審査の迅速化のための法律を制定いたしまして、例えば従来技術調査の民間機関への外注、あるいは特定登録機関制度の導入等の措置を講じてきております。更に、先ほど申し上げましたけれども、任期付の審査官の採用ということで、年間98名ずつの審査官の増員も認められております。
 ただ、iii)のところにございますけれども、審査の順番待ちの期間は、必ずしも短縮されておりません。これは審査請求期間が短くなったという要因もあるわけでございますけれども、2004年度の処理件数は23万6,000件であり、それに対して審査請求の件数は38万件であったということで、順番待ち期間は改善されていないという現状でございます。
 「2.今後の取組」でございますけれども、こうした特許審査の迅速化に向けた取組みを更に強化するために、具体的あるいは効果的な対策について御議論をいただきたいということでございます。
 7ページは「(3)世界特許の実現」でございます。これも今、御説明申し上げました特許審査の迅速化とも非常に関係する項目でございますけれども、企業活動のグローバル化が急速に進んでおりまして、世界的に特許の出願が増加している中で、究極的には、世界で統一された特許システムの構築が求められているのではないかということでございます。
 「1.これまでの取組」としては、各国制度あるいは運用の調和のための取組、あるいはサーチ・審査結果の相互利用の推進ということで、特に日米欧の三極間では、サーチ・審査結果の情報を共有するためのシステムが稼動をしております。更に、去年の11月には、日本が「特許審査ハイウェイ構想」を提案いたしまして、これはある国の特許庁で審査が終わっている場合には、その審査結果によって、別の国の特許の早期審査を簡易な手続で受けられるという構想でございます。
 「2.今後の取組」ですけれども、今、申し上げた「特許審査ハイウェイ構想」を更に発展させて、他国の特許庁の審査結果が制度的に利用されるような仕組みを整備すべきではないか。あるいは三極間の特許相互承認の実現を目指して、具体的な方策を検討すべきではないかということでございます。
 8ページは「(4)特許出願による技術流出の防止」でございまして、企業の生産技術等のノウハウが、防衛出願として大量に特許出願されていることによりまして、特許審査の遅延を引き起こすと共に、公開公報を通じて海外への技術流出を生じさせているという懸念が指摘されております。
 これまで、ここに書いてございますような場で議論が行われてきておりますけれども、「2.今後の取組」としまして、特許出願以外に企業がノウハウを防衛する手段として、先使用権という制度があるわけでございますが、必ずしも使い勝手がよくないという御指摘がございます。したがって、これを改善する必要があるのではないか。あるいは先使用権を立証するための何らかの簡便な制度について検討を進めるべきではないかということでございます。
 9ページは「(5)デザイン・ブランドの保護強化」でございまして、デザインの創造あるいはブランドの活用を通じて、価値の高い商品、サービスを提供する環境を整備するということでございます。
 既に、さきに行われた今年の通常国会におきまして、商標法が改正をされまして、いわゆる地域ブランドという制度が導入をされております。また、意匠制度、商標制度につきましては、それぞれここに書いてございますような審議会等におきまして、今、検討が行われております。
 「2.今後の取組」でございますけれども、デザイン・ブランドの保護を強化するために必要な制度改正を早急に実現すべきではないか。あるいは特に模倣品対策の観点から、権利侵害行為への「輸出」の追加など、意匠権・商標権の効力の拡張について検討すべきではないかということでございます。
 10ページは「III.活用分野」でございます。
 第1が「国際標準化活動の強化」ということでございます。標準には、デファクトとデジュールと両面あるわけでございますけれども、日本はこの両方の分野において、いずれも対応が十分ではない。それが産業競争力向上の制約となっているという指摘がございます。
 「1.これまでの取組」ですが、昨年6月に「国際標準化活動基盤強化アクションプラン」が策定をされまして。また、本年4月には日本規格協会に「国際標準化支援センター」が設置をされております。また、公正取引委員会がパテントプールについての考え方を公表しております。
 「2.今後の取組」でございますけれども、ISOやIECといった組織におけるさまざまな委員会の幹事ポストあるいは議長ポストの一層の獲得を図るべきではないかということです。日本は、ほかの先進国に比べて大変数が少のうございます。
 それからアジア諸国との連携を強化すべきではないかということです。
 国際標準化活動の中核を担うべきは企業でございますので、人材の育成、配置、処遇等に格段の取組みを促すべきではないか等々のことを例示をしてございます。
 11ページは「(2)中小・ベンチャー企業支援、地域における知財戦略」ということでございまして、日本の産業の基盤的技術を担っている中小企業、あるいは雇用の創出に貢献している中小・ベンチャー企業は、知的財産を創造し、有効に活用できる環境を整備する必要があると言われております。
 「1.これまでの取組」といたしましては、本年7月に日本経団連が中小・ベンチャー企業の知的財産権を尊重することをうたった行動指針を策定しております。また、経済産業省が、いわゆる「知財駆け込み寺」の整備を開始しております。
 地方公共団体におきましては、既に14の都道府県で知財戦略が策定されておりまして、更に多くに県において策定中あるいは策定予定の動きがございます。
 「2.今後の取組」ですけれども、中小・ベンチャー企業の審査請求料、あるいは特許料の減免制度の抜本的な拡充を図るとともに、こうした手続を使うに当たっての申請のための手続の簡素化を図るべきではないかということです。
 また中小・ベンチャー企業が弁理士や弁護士にアクセスしやすいように情報を提供する仕組みを整備するべきではないかということ、さらに弁理士が、中小やベンチャー企業にさまざまの配慮をしていただくように促すべきではないかというようなことでございます。
 12ページは「IV.創造・保護・活用分野の連携」でございます。
 今、ここまで御紹介申し上げましたように、創造の分野、保護の分野、活用の分野で、それぞれ制度整備ははなり進んできておりますけれども、いわゆる知的創造サイクル、創造から保護、保護から活用、そしてまた活用されたものが創造に生かされていくというサイクルを、より早く、大きく回すための方策が求められているのではないかということでございます。
 例えば「2.今後の取組」でございますけれども、2つ目の点のところを御紹介しますと、審査順番待ち期間の増大や先端技術への法制度の対応の遅れによって、創造されたものが十分に保護に回っていかないということ。
 特許流通市場が未成熟なことによって、保護されている権利がうまく活用に回らないということ。権利活用による資金調達の困難性ということで、活用されながら、それが新たな創造を生み出すためのリソースとして十分に使われないことといった、それぞれのサイクルの要素間のボトルネックとなる問題を特定して、重点的な対策を講ずべきではないかというようなことでございます。
 13ページは「<2>知財人材育成のための総合戦略」でございます。何と言っても、知財制度を支えるのは、多種多様な専門家の方々でございます。
 「1.これまでの取組」として、エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク、あるいは弁護士知財ネットの発足等の動きがございます。
 弁理士人口の拡大、資質の向上が図られてきております。
 2004年以降に設置された法科大学院では、すべての大学院で知財の関連の授業科目が設けられております。
 「2.今後の取組」でございますけれども、推進計画の2005におきまして、知財人材育成のための総合戦略をつくるべきであるということが盛り込まれております。この総合戦略を早急に策定して、その実施を推進すべきではないか。
 その際、国際競争力のある人材、あるいは知財の活用に必要な人材の育成などに十分配慮すべきではないかということでございます。
 最後のページでございます。「<3>知財の広がりに対応した国際ルールの構築」ということでございまして、知的財産という制度が非常にいろいろな場面で議論されるようになってきております。
 「1.これまでの取組」のところの(1)をごらんいただきますと、例えばエイズ薬などの必須医薬品へのアクセスの問題、生物遺伝資源の権利化の問題、伝統的な知識とかフォークロアの取扱いの問題等々、さまざまな議論がWHOとかFAOとかいろいろな場でなされるようになってきております。
 また、先進国の間におきましては、先進医学あるいはバイオやソフトウェア政策等と知財政策との関係が問われるようになってきております。
 推進計画2005では「世界をリードする知財制度の構築に向けて取り組む」というふうに盛り込まれております。
 「2.今後の取組」といたしまして、途上国への配慮も含めて、知財政策と他の国際的なフレームワークとの調和に関する検討を進め、我が国の基本的な考え方を明らかにするとともに、国際的なコンセンサスづくりに貢献する等の対応が必要ではないかということでございます。
 ちょっと長くなりましたけれども、御説明は以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 ただいま、事務局から説明してもらいましたように、今後の取組ということで、それぞれの項目ごとに案を出していただきました。しかしながら、これは当然のことながらたたき台でございますし、先生方のお考えはこれと相当に違っている部分もあるのではないかということが想像されますので、今日は初回でもございますので、先生方の日ごろお考えになっておられることを順次承りたいと思っております。大変恐縮でございますが、「あいうえお」順で御意見をいただければと思います。できれば、3分ぐらいで御発言いただければいいと思いますが、弾力的に対応していただいて結構でございます。
 板井委員から御発言をいただければと思います。

○板井委員 私は10年前まで東京大学の薬学部の研究者をしておりまして、今は小さい研究開発型の企業なんですけれども、経営をしております。
 私の会社は、物を製造、販売するというのではなくて、情報、知識、方法、ノウハウといったものをつくり出して売るという、典型的な知財で成り立っている会社です。ですから、それらを利用した事業をやっているということで、今回の会議には大変強い関心を持っております。
 私は方法論とか、特にソフトウェアにする前の理論、理論と方法論の間ぐらいのところが大変得意だったので、その辺の特許を自分自身でも多数出願しておりますし、会社としてもその方法を使って開発した医薬化合物とか医薬の候補化合物についての物質特許、用途特許等多数所有しております。
 近年の経験で言うと、特許侵害裁判を経験しました。タンパクの結晶構造を用いて論理的に薬を設計していくといった技術の中で、非常に重要な技術なのですけれども、ドイツの国立研究所が特許を侵害して、アメリカのベンダーがそれを国際的に売り、その代理店として日本の某社が市販をしたということで裁判を起こしまして、5年かけて地裁、高裁と闘って、今年6月に最高裁の勝訴を確定いたしました。
 欧米での侵害も明らかでして、米国での特許はもっと幅広く抑えておりますので、多分戦えば勝てると思っていますけれども、ただ、ベンチャーですので訴訟費用とか手間を考えると、なかなか訴えることができません。
 実際に、これを仮処分のところからやりましたら、決着までに5年ぐらいかかるんです。そうしますと、実質的には差止めはできなかったも同然というような感じになってしまいますので、知財裁判の迅速化が非常に重要かなと思います。
 そういうことで、こういう会議で我が国の知財戦略を決めていただけるということに大変大きな期待を抱いておりまして、私自身、今、ここで案としてお示しいただきましたことに対して、一つひとつについて少し意見はあるので、またそのときに述べさせていただきます。ちょっと長くなりましたけれども。

○阿部会長 ありがとうございました。では、そのときにまたお願いするということで、加藤委員、お願いします。

○加藤委員 私どもは、遺伝子工学の技術を使って、遺伝子治療の商業化や研究試薬の製造販売などを行っておりますが、その結果、アメリカのバイオ企業と頻繁にぶつかり合います。
 そこで学んだことは、彼らは、研究者自身が特許に慣れているということです。一方、日本のTLOから大学の技術の売り込みを受けることがよくありますが、私どもは欧米のTLOとのやりとりに慣れておりますので、非常に当惑するぐらい稚拙なことが多いです。ですから、残念ながら、我々も含めてバイオではアメリカに負けているのです。気が付いてみると、アメリカに、日本を含む世界で一網打尽の基本特許を取られ続けているのです。日本の先生方の多くは、アメリカの先生方と比較して大変淡泊で、研究に興味はあるけれども、ビジネスや特許のことはわからないという表現をなさっています。それでは困るので、その辺りのトレーニングといいますか、刺激し合う会合をつくらないといけないと思います。
 IT関連の先生方は特許に関してしっかりやっておられる方もいらっしゃいますが、バイオにおいても研究者をもっと特許に向ける必要があると思います。バイオにおいて、根幹をなしている基本特許の一つにPCR法に関する特許があります。これは、アメリカのベンチャー企業の1人のドクターが開発したのですが、ロッシュ社がその特許に関する権利を取得して世界に猛威を振るっており、現在もその状況が続いています。大手企業からみるとわずかと思いますが、当社はこのPCR技術のライセンス料として毎年約5億円支払っています。しかも彼らは非常に巧妙で、特許が途切れないように次々と関連技術の開発や特許出願を行っています。このような特許戦略に関しては、日本はまだまだで、結局、海千山千の経験を持つ方々を集めて戦略を練らないと、各企業で個々に行っているだけでは負け続けると思います。
 我々はアメリカの先生からLA−PCR法に関する特許の譲渡を受けました。PCR法の欠点は数千塩基程度までしか増幅できないことですが、LA−PCR法は一万塩基を超える長いものが増幅できます。当社はこの技術の特許を保有していますので、PCR法のライセンサーであるロッシュ社も、LA−PCR法に関しては当社のライセンシーです。当社は全世界でLA−PCR法に関するロイヤリティー収入が年間約2億程度ありますが、当社のPCR関連の収支を考えますと、3億円程度マイナスです。実際に事業を行っておりますと、特許戦略や基本特許の重要性を身に染みて感じております。結局、一企業では全てを解決できないので、大学の先生方に言葉としての知的財産ではなくて、荒っぽい実践の世界をどうやって経験・理解してもらうかが重要と思います。
 一方、日本の企業はアメリカ企業のようにあつかましい特許の取得を行っていないと思います。いろんな意味で、日本人のこのような淡白さは遺伝子的な要因があるのではと思うこともあります。当社は中国に子会社を設立して10年以上経過していますが、中国人を見ていましたら、アメリカと同様に、感心するところがあります。要するに、大変抽象的ですが、粘着的な特許戦略をつくらないと駄目ではなかろうかと考えています。
 以上です。

○阿部会長 ありがとうございます。
 では、下坂委員、お願いします。

○下坂委員 では、粘着的にまいります。先ほどの創造サイクルに関する課題中、4つばかり、審査の迅速化と世界特許とデザイン・ブランド、人材育成について申し述べます。
 審査の迅速化に関しましては、順番待ち期間に対する取組みは、先ほど資料6−1の8ページの御説明にありましたように、2003年に26か月、2013年には11か月にということになっておりまして、権利保護基盤の専門調査会でも特許庁の方からいろいろお約束をいただいているんでございますけれども、現在も審査の順番待ち期間というのが26か月で、審査着手待ち件数は、約六十一万件に及ぶと聞いております。2008年には、審査着手待ち期間がもっと長くなりまして、その山場を越せば別ですが、最長になるのではなかろうか。それで、ただいま任期付審査官の登用やアウトソーシング活用などで特許庁が大変な努力をされていることは、私ども弁理士は身近で、大変よく拝見させていただいていて感謝しているところですけれども、日本の国際競争力との関係もありますので、今後とも一層の特許審査迅速化に向けた総合的な取組みをお願いしたいと思います。
 なお、弁理士会としましては、審査迅速化は極めて重要な課題であると認識しておりまして、その促進に積極的に協力するめに、明細書の明確かつ完結な記載につきましては、現在、弁理士会研修所において、弁理士向けの基本テキストの改訂を行っておりますし、年末にはこれの成果を出す予定でおります。
 また、推進計画に記載されております、出願人が弁理士を選択する際の情報開示の充実は、11月1日から弁理士会ホームページで公開する予定で作業を進めてまいりました。事務所の料金情報なども掲載されているところがございますので、是非一度ごらんいただきたいと思います。
 世界特許につきましては、4月の本部会合でも発言しましたけれども、三極の出願中で日本から米国と欧州に、米国から日本と欧州に、欧州から日本と米国に出願されている重複的出願は、延べ20万件近くもございます。これらについて、三極特許庁がそれぞれ重複審査を行っているのが現状ですが、今日、配布されました資料にもございますように、第1庁で特許になった出願の審査結果を第2庁において、簡易な手続で早期審査を受けられるようにする提案などは、日米間の審査機関の調整なども必要になってくると思われますので、更に詳細を詰めていただきたいと存じます。その際、使用言語についても是非御配慮をお願いしたいと思います。英語と日本語の問題でございます。
 次に、デザイン・ブランドの問題ですけれども、推進計画2005に記載されている意匠制度、商標制度の整備については、産業構造審議会の小委員会において検討が行われていると聞いております。諸外国との制度調和やユーザーフレンドリーな制度の構築に向けて、来年の国会に意匠法、商標法の改正を上程できるよう検討を加速化していただければ、大変ありがたいと思っております。また、当専門調査会でも検討すべき点があれば、是非取り上げて欲しいと存じます。
 なお、弁理士会では、9月20日に知財事務局に商標政策についてという提言を行わせていただきました。推進計画では、全般に特許制度などに対する提言が非常に多いのですけれども、商標につきましては余り多いとは言えない状態でございますので、是非一度御検討いただきたいと思います。
 私どもが出しました項目は、不使用登録商標の整備に関する問題、商標の資産価値の啓発、海外での商標保護の支援、質権設定などの登録免許税の低額化と、譲渡担保の登録、権利移転の迅速化、特許商標庁への名称変更などなどが入っております。
 次に人材育成でございます。知財人口を倍増させる計画につきましては、特許庁が外部に検討を依頼されたと聞いております。弁理士については、弁理士法施行後、5年を経た見直しの中で、現在、検討がなされているところでございます。各界で必要とする知財人材につきましては、本来的に必要な知財人材の内容やその育成手法について精査し、合理的かつ長期的な育成計画を立案する必要があると考えます。そのためには、ユーザーの意見や、全国各地域の意見を反映させるよう、各種団体の意見も取り込んで、本専門調査会においても是非検討をお進めいただきたいと考えております。
 以上、4項目でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。妹尾委員にお願いしますが、資料7−1に資料をつくっていただいていますので、もしよろしければこれをお使いいただいてお願いいたします。

○妹尾委員 ありがとうございます。
 東京大学の先端科学技術研究センターで知財マネジメントスクール及び技術経営の責任者をやっております妹尾でございます。私が今から述べさせていただくのは、そういう人材育成の現場で感じたこと、特に知財そのものというよりは、知財を活用したマネジメントを学習していただくスクールを実践している中での経験、特に40代のエグゼクティブレベルや50代のディレクターレベル、いわゆる学生や院生ではなくて、実務家や専門家の育成を図っている現場から感じたことを述べさせていただきたいと思います。あるいは企業において知財マネジメントの指導をしている中で、どんなことが問題点であるか感じていることを述べさせていただきます。
 知的財産戦略はいろいろ動いてきましたが、今日は私の専門の人材育成というより、そこを通じた話を、特に3点指摘させていただければと思います。
 第1が「技術経営に基づく『事業戦略への知財マネジメントの組み込み』」を強化しなくてはいけないのではないかということです。そもそも、知財サイクルが動くということは、国の産業競争力、企業が頑張って社会へ貢献するという知財立国を目指すものだと思います。しかしながら、一部を除いて、企業のほとんどは言葉の上での知財の重要性は認識しておりますが、まだまだ事業戦略あるいは研究開発戦略への知財マネジメントの組み込みがなされているとは言い難い状況だと実感しております。私はこれを「IP in」と称しておりますが、「IP in」がまだ全然なされていないということが実態だと思います。
 特に、どういうことかというと、私は「戦略的選択肢」と呼んでおりますが、平たく言えば「あの手この手」を知らないということです。先ほど加藤先生がおっしゃった、海千山千が全くいないという状況で、非常に淡泊な「この手」しか知らないという状況が多いわけです。これは、技術経営における事業戦略と知財マネジメントの関係に関する研究を、私ども研究者がまだ十分できていないという反省をしなければならない一方で、その研究を進めなければいけないという課題を示されているわけです。
 例えば、経営の学会において、正式に知財経営分科会がある経営の学会は1つもございません。知財学会にようやく我々経営関係の人間が入ってきたというような状況です。その状況の中では、先ほどの海千山千を育てるためのノウハウあるいは知識もありません。それを早く培って、大企業はもとより中小・ベンチャーの経営者、管理者の教育に展開することが急務ではないかと思います。
 そのときに、知財創造サイクル自体をマネジメントする人材が必要であるということが言えると思います。個々の創造、保護、活用という分野にはそれぞれ専門家がいるのですが、それを一貫してマネジメントできる、言わばプロデューサー的人材が必要ではないかという御指摘をさせていただきたいと思います。
 知財のサイクル自体を強化するためには、先ほど下坂先生がおっしゃったとおり、弁理士さんだとか、あるいは知財部員が頑張っていらっしゃるわけですが、ただ、従来の知財関係者というのは「科学技術」と「知財法務」には強いんですが「経営商務」に関しては極めて弱いという状況です。その意味では、知財マネジメント自体が強くなっていく必要があると思っております。
 地域の話が出てまいりましたが、地域だとか中小というときには、どうしても弁理士をはじめとする関連人材を増やすという話になりがちです。が、そうではなくて、むしろそういう地元の企業が知財を知るという以前に、そういった企業の経営を指導する地元の商工会だとか、中小企業診断士だとかといった方々が全く知財を理解していないというのが現場の実態です。ですので、そういう方々の理解度の向上が急務であります。また、繰り返しになりますけれども、理工系の学生への知財教育は始まっておりますが、経営系の学生あるいは教員自体への知財の理解はほとんどなされていないというのが実態です。もうそろそろここに踏み込んだ方がいいのではないかというふうに思います。
 次のページでございますけれども「(2)国際競争力を高める創造的な研究開発基盤づくり」を進めるべきだということです。ここで私がちょっと懸念しておりますのが(ア)に書いてありますとおり、企業がやはりどうしても過度な競争戦略、いわゆるナンバーワン戦略に基づいている限り、画期的な創造は難しいのではないかと、私はかなり悲観的にみております。特に、最近の株主の短期利益追求とサラリーマン経営者のように任期が決まっている方々がどうしても当面の成果を出すことにいそしんでしまいます。その結果、長期的であることが必要な独創的な分野に入れないという嘆きをいろいろな場面で伺います。
 この点、本来、大学というところや、あるいは国の研究機関というところは長期的なものを手がけることが可能なはずです。これもなぜかこの知財だとか産学連携の表層的なブームの波に押し流されて、どうも手前の短期的なものに突進してしまうというきらいがあります。同時に、余りにも研究の範囲をがちがちにしますと、研究者の本来の想像力の源である「遊び」のような部分が失われてしまうのではないかと懸念しております。
 (イ)のところで、これは強く指摘させていただきたいのですが、「研究ノート」の問題がいよいよ出てくるのではないかという懸念を持っております。この「研究ノート」は、リサーチノートないしはラボラトリーノートと呼ばれております。やはり分野別に温度差は確かにあります。化学だとかバイオの分野では非常に重要でありますし、電気の方ではそれほどではないかもしれません。けれども、訴訟が起こったときには、やはりエビデンスとしての意味がありますので、相当重要であることは変わりありません。
 一方で、インベンターシップと申しますが、だれが発明にどれだけ寄与したかということの証拠としてこれも必要です。しかし、これらについて、日本の企業あるいは大学は丸腰であるという状態なのです。丸腰の状態をこういう公の席でばらしていいものかどうかというのはありますが、これを突かれますと相当な問題が起きるという懸念をしております。
 ただし、一方で、あるところの調査によりますと、リサーチノートをきちんとやっている研究者はやはりそれだけ研究成果も高いという相関があるという報告もなされております。なので、創造活動を活性化するためにも、研究者のリテラシー訓練としてリサーチノートをつける教育が必要ではないかと思います。
 (ウ)と(エ)については、以前から皆さんがお話しされている問題かと思います。
 3番目に、ここで私は新しいコンセプトとして「知財民度」ということを御提案させていただければと思っております。
 知財立国である以上は、すそ野が広く山が高くなければいけません。それは、知的財産、創意工夫を尊ぶという国民の民度が試されているものではないかとも言えるでしょう。オリジナリティーを尊ぶ「知財民度」を図るために、各種の施策がもうそろそろ検討されてもよいのではないかと思いますが、この点については人材育成と絡んでおりますので、次回、議題だということなので、ここは省略させていただこうと思います。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。早くその後を伺いたいような気持ちもしますけれども、次は田中委員ですが、田中委員も資料をいただいております。お願いします。

○田中委員 では、表紙をおめくりいただいて、資料の2ページ目をご覧下さい。
 ここには、一般的なことが書いてあります。今まで各界の努力によりまして、知的財産制度が急速に整備されてきたという評価をしております。これから作成される「知的財産推進計画2006」においては、今まで抜けていた部分等も加えて継続的に制度整備を進めることが必要かと思います。もう一つは、今までいろいろな活動が行われてきているわけですが、その活動の実態調査をきちんとやり、手は打ったけれども、実際はあまり進んでいない部分についても加速を図っていく必要があると考えております。
 3枚目から具体論になりますので、これは後ほど説明させていただきます。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 それでは、中山委員、お願いします。

○中山委員 各論につきましては言いたいことがいっぱいありますけれども、それは各論のところで申し上げます。知財戦略大綱から始まってこの数年間に知財に関する世論も激変し、あるいは企業や大学の意識も大いに変わったと思います。
 また従来では考えられなかったような大量の知財関連の法改正が行われまして、少なくとも国内法的に見れば、かなり法整備は進んでいると思われます。私も40年近く知的財産法の研究をしておりますけれども、こんな変化は初めての経験であります。
 そういう意味では法制度的には大体大きな点においては一段落したと思いますけれども、後は実際的にはどうなんだと、やる気はどうか、意識をどう高めるか、企業の心構え、政府の施策、そういう問題は勿論残っているわけですけれども、法制度的には、勿論若干残りはありますけれども、かなり終わったと考えております。
 残された問題はやはり第1は模倣品・海賊版の問題だろうと思います。これは極めて大きな問題なんですけれども、主として海外での問題ですので、これは法制度というよりは外交問題であり、あるいは行政問題であると考えております。
 ただ、この模倣品・海賊版が国内問題となるのは、海外から流入する品をどう押さえたいいかということですが、これは既に税関でかなりの法整備が進んできておりまして、これがどうなるかということはもう少し時間を見て、じっくり見極める必要があるだろうと思います。
 一部には税関にアメリカのITCのような機関をつくるべきである、準司法法的な機関をつくるべきであるという意見もありますが、私はこれには賛成できません。法的に見てもアメリカの制度は日本になじまないという点はあるわけですけれども、それはさて置くとしても、例えば、ITCに提訴しようと思ったら莫大な金がかかります。中小企業にとって大変な負担となり、多分中小企業はほとんど利用できないシステムになるでしょう。それよりは、やはり行政処分として行政機関内に簡易な手続を設ける、そしてもう一方では訴訟とつなげるということを考えていくべきだろうと思います。
 途上国問題、これは知的財産に関しては戦後一貫して途上国問題というのは一番大きな問題だろうと思っております。先進国としては途上国に対して強行一本槍というわけにはいかないわけであります。知的財産制度というのは元来は先進国のクラブの話です。知的財産制度は第2次世界大戦前からあるわけで、当時はほとんど先進国しかなく、あとはみんな植民地ですから、そういう先進国クラブの話だったわけですけれども、戦後、植民地が独立をして以来、知的財産制度を巡る先進国と途上国の対立は深刻を極めまして、知的財産分野に関しては条約の成立はもう不可能というような様相も呈して組ました。
 ところが御存じのとおり、WTO、これは知財だけではなくて農産品等も含めた一括的な協定ですから、これでうまく一応はまとまったように見えたんですけれども、しかし、所詮は知的財産制度というのは先進国に有利にできております。これは同じルールを適用すれば圧倒的に先進国が有利になることは明らかでありまして、したがってTRIPSができたとしても南北問題は常にくすぶっております。
 具体的には先ほどの資料の一番最後のページにありましたけれども、生物資源の問題であるとかフォークロアの問題という点において、途上国はいろんな主張をしている。それは我々の持っている知的財産システムから考えますと、とても考えられないような発想であり、とても乗ることはできないというように見えるわけですけれども、しかし、考えて見ますと我々先進国が100年程度しか持っていないこの制度でもって、途上国も含めて未来永劫それで行けるかという点は、真摯に受け止めてみなければいけない。例えば、石油や鉱物資源のような有体物でしたら強引に国有化して国が取り上げてしまうということもできるわけですけれども、知財という情報はそうは簡単にはゆかない。しかし大きな目で見れば、それに似たような現象も起きております。大げさには文明の対立というようなこともあるわけです。
 したがって、我々のシステムには相入れないけれども、途上国の主張にもやはり真摯に受け止めて、すぐには勿論解決しないんですけれども、検討していく必要があるだろうと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。
 では、最後に前田委員ですが、前田委員にも資料をいただいています。

○前田委員 東京医科歯科大学と東京農工大学の方の産学連携に関わらせていただいていますので、そこの大学の実例を使いまして、お話させていただきたいと思います。 1枚めくっていただきまして「大学における知的財産戦略」についてお話しさせていただきます。大学における知的財産の特許出願に関しては一元管理が大分できるようになってまいりましたし、特許の出願数も昨年度は5,000件という数字が出ていると聞いておりまして、どこの大学もある程度整備されてきているように聞いています。
 でも、大学というところは自分たちで製造することができません。特許は、使っていただかなければ世の中に貢献することができないわけですから、明確に戦略を持って出していかないと使える特許にならないという問題があります。
 今、いろいろな大学で知的財産本部が競っています。特許の数もたくさん出てきておりますが、企業の方々に必要と思われるような、世の中に貢献できるような特許を出せるような形にするためには戦略が必要です。
 これは私が個人的に考えているものです。この「Bigな大学」というのは、いわゆる総合大学とかネームバリューのある大学を示しています。このような大学は大企業と包括連携等を組むことも簡単ですし、多面的な形で企業と連携し、様々なプロジェクトをつくっていくのは、有効な方法かと思われます。またネームバリューがありますので、基礎的研究にもお金を出していただくことは十分可能かと思われます。
 それに対して「地方の大学」が同じことをやろうとしましても、やはり難しい面がありまして、地元の企業に必要とされるような形で大学はあるべきだと思っています。例えば、北海道で海産物を使った研究などは、かなり企業の方に喜んでいただいている例もありますので、地域と連携という方法も良いのではと思っています。
 また、私が関わらせていただいている東京農工大学も東京医科歯科大学もこの3番目の「特徴を持っている大学」という形になると思います。東京農工大学の場合は獣医学科を含めた農学部と工学部がありますので、農工融合という形ができます。
 また、東京医科歯科大学は医学、歯学、あと工学系の先生がいらっしゃいますので、医工連携も活発に行うことができます。
 具体的な例で説明させていただきたいと思います。これは東京医科歯科大学の医工連携の例を示したもので、再生医療への応用例です。皮膚に印刷の技術を使って血管を転写しようというものです。今までも、医学系の研究者と製薬会社は当然のように産学連携がなされていました。でも、日本の技術力の非常に高い精密機器の会社と医学系研究者を結び付けることで、今までなかった新しい発想の技術がたくさん出てまいります。その1つの例ではないかと思っております。これは現在3億円程度で共同研究を行なっている案件です。
 次のページに移りまして、「医工連携の多用なスタイル」についてご説明させていただきます。これも東京医科歯科大学の例ですが、初めから企業と共同研究をして共同出願をしていく場合、また、大学オリジナルで考えて、それを企業に共同出願していただくという場合と異なるパターンを示しています。なぜ大学がオリジナルで考えたものを企業と共同出願していったかは後で説明させていただきたいと思いますが、今、文部科学省の方から柔軟な契約ということを認めていただいておりますので、とにかく大学の研究が産業界にうまく使われるということを大前提として、いろいろな形で共同出願、共同研究ができるのではないかと思い、日々契約を行なっております。
 次に、東京農工大学の例をご説明します。最近、多くの大学で行われております、いわゆる包括連携とは少し違いますが、1つの連携の形であると思いますのでご紹介いたします。平成14年、経済産業省から34億円の助成を受けて、まだ、独立行政法人化する前に東京農工大学のキャンパス内に建物を建ててもらい、12社の企業の方々と様々な専門の先生とで共同研究を行ない、オールプラスチックの液晶ディスプレイの開発をしているという例です。このようにテーマを決めて、産と学、さらに省庁の枠を超えての産学連携というのは非常に有効なのではないかと思っています。
 共同研究は契約時から戦略が始まっているといえます。独立行政法人化前は共同研究の契約というのはひな形が決まっていて、一本化されておりました。今は柔軟に契約していいということになっておりますので、共同研究を始める段階から両者にとって、いわゆるWin−Winの関係を築けるような、どちらにとってもメリットのある契約を結んでいくことが後々、先生の研究が世の中に出ていく早道ではないかなと思っております。特許の在り方を、一番最初に明確にしておくことが必要で、共同研究の際に出てきた発明はどう扱うのか、どのような形でその特許を広げていくのか等、ある程度契約で決めいくことができますので、柔軟な契約を結ぶことが大切です。
 先生の研究が核となる重要な特許を含んでいて、どんな強い条件をもすべて飲んでもらえる場合もあります。また、企業からサンプルをもらって実験させていただいているような先生もいらっしゃいます。この場合も同じ契約書を出して共同研究を結んでくださいと言ってOKする企業の方はいらっしゃいません。
 ですから、やはり特許や研究の質で契約は全部決まっていくと思いますので、柔軟な対応というのは大変重要だと思います。
 先ほどお話ししました、大学の発明であるにもかかわらず企業に権利を半分お譲りし、共同出願した例についてご説明します。大学の知的財産本部やTLOというのは、情けないことに資金もありませんし、人も少ないです。先ほど、加藤委員がおっしゃっていましたように、本当に最先端を走っている大学でも大変貧弱です。その中で、これからすごく重要で核となるであろう特許を守っていくことはたいへん難しく、お金もかかります。海外の企業と対等に戦うべく、大企業の経験やノウハウに助けていただくのも戦略の一つと考えました。
 これから大学の特許というのは取っただけでは意味がありませんので、その辺が大変大きな問題になってくるのではないかと思います。また、かなりの金額で半分、権利譲渡致しましたので、収入面でも助けていただいています。
 私が、今やらせていただいていますような、企業と大学を結び付ける人間は、優れた橋渡し役が必要不可欠です。この文は、私が個人的に書いている内容ですが感度が鋭く、多方面にものを見ることができる人が、この産学連携に関わっていかないとうまくいかないのではないかと日々感じております。企業の利益を追求していかなければいけない状況と、先生が研究しやすい環境を両立させなければなりません。
 また、大学の先生と言いますのは、先ほど加藤委員がやはりおっしゃっていましたように、儲けることより研究をすればいいでしょうという淡白な面があります。それを何とかお金につなげようと根気強く、あちらから攻め、こちらから攻めして、先生を怒らせずに、うんと言って追加実験をしてもらうという技術は、かなりのコミュニケーション能力のある人でないと難しいのではないかなと思っています。このような人材を育てる必要があると思います。
 今、東京医科歯科大学も東京大学の先端研と同じように文部科学省の振興調整費をいただいて、人材養成を行っています。いわゆる目利きを育てるということで、バイオテクノロジーの講義、実習、日本および海外のパテントの講義を入れています。そして、一番時間をかけていますのがバイオビジネスで、これはベンチャー立ち上げに苦労した方やノウハウをお持ちの先生から講義をいただき、実際に小グループで討論をしたりして身に付けていただくというような授業を行わせていただいています。お陰さまで、社会のニーズが非常に高いようで、定員の5倍の応募があり、弁護士や弁理士の方々、大学教授の方々を生徒にお迎えしてプログラムを行なっております。
 また、特許侵害等のこれから起こり得るであろうリスクへの対応、資金面の不備への対策が急務であると重ねて申し上げます。さらに、資料には書いておりませんが、人材の安定雇用といいましょうか、優秀な人材を雇用しようとしても、整備がなされていないために、質のいい人材確保の難しさも課題があることをつけ加えさせていただきたいと思います。
 最後に、情報の流出について述べさせていただきたいと思います。大学での国内出願5,000件というのがありますが、その多くが海外出願されていないと聞いております。公開特許広報を眺めているのが、アジアからのアクセスがたいへん多いとも聞いておりますので、情報の海外流出にもなるのではと危惧されます。
 ちなみに東京医科歯科大学はもともと絞って出していますので件数は少ないのですけれども、8割近くは海外出願を考え、JSTにお願いしてPCTで出していただいております。分野によっては事情が異なろうかと思われますが、もともとバイオ・ライフサイエンス分野は日本だけ押さえても仕方がない状況もありますので、外国出願比率が高くなるのは必至といえます。
大学のTLO関係の方にお聞きしますと、JSTの市場性能調査のところに引っかかる特許が少なくて、それだけ外国出願がたくさんできないんですというお話も伺うことがあります。しかし、市場性の少ない特許をたくさん取っても、余り意味がないのではないかなと思っていますので、出願数の大学ランキング等はいかがなものかなと思っています。
 これは一部の意見ですが、大学と企業で今、包括連携が進んでいます。民間と民間であれば、利益追求でどう組もうと自由だと思いますが、国立大学の場合、ある一定の企業と包括連携をしたとき、その組織における利益相反というのは本当に大丈夫なのかというのは、若干、懸念点が残ります。 また、包括連携をしたことで、そのコンペティターと組んでいる先生が研究しにくくならないのか等、包括連携はメリットもありますが、上手にやらないとデメリットもあるのではないかと思っています。
 以上です。

○阿部会長 ありがとうございました。
 久保利委員からメモをいただいていますので、大変御苦労ですが、藤田次長の方から1分か1分半ぐらいで御紹介ください。

○藤田事務局次長 資料7−4でございます。本日は御欠席の久保利委員からの御意見でございまして、「地域、中小・ベンチャーによる知財の活用推進について」ということでございます。
 真ん中の辺りに「意見の趣旨」というところがございますけれども、「中小・ベンチャー企業、地方公共団体が知財の活用を行うためには、必須のインフラとして企業内・行政内に弁護士、少なくとも知的財産権に理解のある法務専門家を採用することが必要である」ということでございます。
 「意見の理由」の1として「組織内に知財や法律の専門家がいなければ知財専門家を活用することは出来ない」。
 2として「中小企業や地方公共団体の法的能力はすこぶる脆弱であり、法的権利の塊である知的財産権を取り扱える段階にはない」。
 次のページでございますが、3として「今こそ中小企業や地方自治体の法律能力増強の好機である」ということで、法科大学院が全国で74も発生し、あるいは司法試験の合格者も増えている、というような背景についてお触れになっておられます。
 最後の「4.まとめ」として、「このような企業サイド、自治体サイドの現実と新規法曹の発生を十分に検証して、当専門調査会は、知財立国の為の重要インフラである法曹への新しい活躍の場の提供と中小・ベンチャー企業、地方公共団体の知財戦略を結合させる推進計画を至急提言すべきである」という御提案でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 私も意見を申し上げなければいけないんですが、時間の関係で端折って申し上げますと、先ほど、中山先生がおっしゃっていたことの一部に重なるんですけれども、我が国の知的財産戦略はアメリカのような先進国に対するもの、これは非常に重要なんですが、これをどう進めていくかということに加えて、これまでも御議論があった、中国など、言わば追い付け追い越せで強力に後から追ってくる国のさまざまな知的財産ですね。
強力に追ってくるという部分はわかりやすいんですが、もともとトラディショナルなさまざまな知財、例えば、自然の草をどう医療に利用していたかというようなことになりますと、価値観が全く違っている世界があるわけですが、それをアメリカ的にやるとブルトーザーで全部踏んでしまうというような事例も幾つか出ていますので、日本として、どういう戦略を持っていったらいいか。これら多面的なことについて、是非御議論をいただきたいと。簡単に答えは出ないかもしれませんが、いろんなメッセージを出していくことに意義があるのではないかと私は思っております。
 私の意見はともかくとしまして、今日、事務局で説明してくれました、資料6−2の中身について御議論をいただかなければいけないんですが、既に何人かの委員の方は中身について、もう御発言をしていただいておりますので、繰り返し言っていただく必要はございませんが、必ずしも個別項目で御発言をしていただいていない先生方もおられますので、どこからでも結構でございますので、御発言をいただくということにお願いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。どこでも結構でございますので、挙手をしていただければ。 では、田中委員から、お願いします。

○田中委員 先ほど、具体論の部分を省かせていただきましたので、幾つかのポイントにつきまして、説明したいと思います。
 まず資料の3ページ目をご覧下さい。最初は産学連携等とも密接に関係する「基本発明の創出」のことです。日本には比較的基本特許が少ないということが言われております。私どもの社長もよく話していますが、DupontあるいはP&G等のアメリカの優れた企業は自社で生み出した技術をベースに事業展開しています。日本の企業もまさに自社技術をベースに事業展開しないと、事業基盤そのものが弱体化してしまうと思います。事業基盤をより強固にするには、日本の場合には今、産学連携という動きが非常に大きくなっておりますので、新しい技術を自社だけで生み出すのではなく、産学連携を積極的に活用して新しい技術を生み出すことも大切なことだと思います。
 私どもキヤノンの事例では、事業の根幹を支えている発明というのは大体10年に1個ぐらいしか出ていません。最初のものは、複写機、LBPに採用されたNP電子写真方式の発明で、1965年に出願されています。今、インクジェット事業は非常に大きく育っておりますけれども、バブルジェットの基本発明は1977年に出願されています。いずれも当時の中央研究所で生まれた発明です。
 「SED」ディスプレーは、来年発売が予定されているキヤノン独自の新しいディスプレーですが、この基本発明は1986年に出願されています。来年の発売時期には出願から20年が経過してしまいますので、基本発明の特許は切れてしまうわけです。
 発明協会さんの今年の全国発明表彰において恩賜発明賞を戴きました、X線デジタルカメラの基本発明は1994年に出願されております。
 キヤノンはアモルファスシリコンに関して1970年代から研究を行ってきておりますが、その中で一つのアプリケーションとして考えられたのが、このX線デジタルカメラ用のセンサーです。X線デジタルカメラは比較的実用化が早かった部類になりますが、そうは言いましても、世の中のお役に立つまでに10年ぐらいかかっております。
 キヤノンにおいては、新しい技術を生み出すのに、自社だけでやるのではなく、産学連携も積極的に活用する動きをしています。そのためにいろいろな工夫や整備をして、研究開発を加速しております。
 一つは研究開発投資の増額です。それから、一番大事なことですが、大学と企業の研究者の交流を促進するということです。産学連携という仕組みだけではなかなかいいものが生まれてこないのではないかと考えておりますので、いろいろな工夫をしている訳です。企業はアプリケーション、あるいはニーズはよく知っているし、大学の方はシーズを持っておられるわけですから、それを逸早く融合させていくことが大事であります。このときに大切なことは、先ほど紹介しました事例のように、事業の大きな柱として成り立つものは精々10年に1つぐらいだということです。ですから、産学連携と幾ら騒いでも簡単に基本発明が生まれてくるわけではないという認識も必要だと思います。
 したがって、継続的な努力と支援をきちんとやっていくことが大切なのではないかなと思っております。
 次は「模倣品、海賊版対策」です。幾つかのポイントだけ説明します。アジア地域も技術の進歩とともに、その模倣品、海賊版から自分のブランドで出すサードパーティー品という方向にどんどん移っております。
 模倣品、海賊版のときには商標、意匠権の権利行使で対抗できます。これは行政でも対処することが可能です。しかし、自分のブランドで互換性のあるものを出された場合には、まさに特許権で対抗しなければなりません。
 私どもでもいろいろな戦略を展開しておりますが、国内だけでなく海外においても、権利行使ができる特許をいかに確保していくかが課題となっております。ややもすれば特許権をたくさん持っていることを誇るような会社もありますが、特許もこれからはまさに権利行使できなければ何の意味もないということです。
 キヤノンの場合、消耗品についても知財戦略を再構築したところです。製品設計した後に特許性のある部分を探し出して出願するという考え方に基づくものではなく、回避技術も含めてアイデアを徹底的に出し合って、その中で必要なものを戦略的に特許出願し、出願したアイデアをベースに製品設計を行なうというものです。
 しかし、このように権利行使を前提とした特許権取得をきちんとやっても、エンフォースメント面での課題が残ります。国内では権利の不安定性が感じられます。御存じのように、無効審判を起こした場合に、無効になる特許権というのは半分ぐらいあります。今まで年金を払って権利維持してきたことは一体何なんだ、極論を言えば、冗談半分に年金返してくれといいたくもなる訳です。大企業の場合には、たくさんの特許がありますから、何とかカバーできるにしても、中小企業で虎の子の権利がもし無効ということになると大変なことになります。このことは該当の企業にとっては深刻な問題であると思います。この辺についてもきちんとしたメスを入れていく必要があると思っております。
 私どもは、意匠権による訴訟を中国で最近起こしましたが、アジアにつきましては、まさに司法制度整備の遅れもありまして、まだ特許権で訴訟を起こせる状況にはないと判断しています。どのように、裁判所で判断されるか予見性が低いという問題があるからでございます。
 インターネット環境での問題点ですけれども、今の世の中というのは、規模は小さいにしても、個人が容易に業として行えるような状況にどんどんなってきています。
 したがいまして、いろいろなバランスを考える必要がありますが、個人輸入ですとか個人所持ですとかの問題についてもある方向性をきちんと見つけていかなければいけないのではと認識しております。
 5枚目が、特許審査の迅速化です。特許庁も迅速化に精力的に取り組んでいただいておりますが、請求期間も3年に変わったということで、一気に請求数が増えて38万件にもなったと聞いております。ついては、任期付審査官をきちんと100人ずつ500人まで採っていくということを改めて2006年の計画の中にも明記し、審査の迅速化に努力していただきたいと思います。
 2つ目は、やはり厳密な審査の維持・強化というのをしていただきたいと思います。従来に比べまして、ますます権利行使の機会が増大しているわけでございまして、安定した権利でなければ特許登録になっても何も意味もないということになります。
 アメリカは残念ながら審査のレベルが低下してきているのではないかと懸念しています。中には英語がしゃべれない人も審査官として採用されているとも聞き及んでいます。レベルの低い審査官のもとでいい加減に審査されて特許が登録になることがあるわけです。ところが、アメリカの場合にはプロパテント政策で、一度特許になったものを無効にするには大変な努力が必要です。日本の場合には逆で、何か簡単に無効になってしまうという、プロパテント政策だとか言いながら、全然違った方向に向いているのではという感じがしないでもないわけです。
 3つ目は、先行技術調査の充実です。審査請求件数が非常に増大しておりますので、企業も先行技術と同じものを審査請求しない努力が必要であると思います。つまり、先行技術と同じものを審査請求するのは、みんなで非常に大きな無駄をしているということになるわけです。私どもは検索ツールもそろえて、でき得る限り重複出願はしないように努力しているところですが、必ずしも全部の企業が検索ツールをそろえられるわけでもないと思います。
 したがいまして、先行技術調査をもっと簡単に行えるようなツールを開発、提供して、みんなで先行技術と同じものは出願しないようにという努力を促すことが必要なのではないかなと思います。
 次に、6ページをご覧下さい。技術流出問題です。特許出願による技術流出というのは、まさに非常に大きな問題だと思っております。今日も私どもの本社の研究開発本部に行きまして、課長以上に対して講演を行ってきました。その中で、皆さんは研究開発を秘密だ秘密だと言っているけれども、その一方で、事細かに記述した特許出願を大量に行なっているので、その結果、特許の公開公報からみんな筒抜けになっていますよと注意を促してきたところです。
 権利として確保するものはまさに出願すべきですが、審査請求をしないものは控えるべきであり、そのために全力を挙げて手を打っていくべきだという話をしました。ただし、特に生産技術におきましてはそういう手を打ったとしても、これは国内法治の問題がございますが、中国の生産工場内で知られた技術を、いわゆる日本で言う冒認出願的なものとして出願されたとしても権利になることがございますので、先使用権をもう少し拡充して、きちんとした対処ができるようにしていただければ、出願件数もそれなりに少なくなって、技術流出も減るのではないかと思っております。
 ちょっとここの主題から外れるかもしれませんが、日本の企業もEMSですとかを活用して生産が行なわれるケースも出てきております。したがって、メーカーが自身で生産しない研究開発部門を持った高級商社に化しているということがあるのではないかと思います。ちょっと言葉は悪いとは思いますけれども。
 ここにありますように、研究開発をして、後はアジア地域の企業に生産をしてもらうことがあります。そのときの生産委託契約等の中で、ノウハウを初めとした技術の取扱いがどうなされているのか危惧しています。きちっとした歯止めがない限りはどんどん技術流出が起こっているわけです。
 3つ目は、海外生産会社からの技術流出の懸念です。実はこれが非常に大きな問題でして、私どもの会社の者が社長として赴任すると、当然日本人ですから、日本と全く同じような会社経営をします。つまり、みんなで情報をオープンにして、みんなで図面を見合って、いろんな知恵を出して新しい知的財産を形成するということでございます。これが日本のよさでございますけれども、人の流動性の高いアジア地域において同じようなことをまさに行なっていますので問題が起きるわけです。人の流動性の高い地域における工場運営のやり方の教育やルールの策定が必要であると思います。ただ単に、営業機密云々と唱えているだけでは充分な対処はできないと思います。
 私どももいろいろな議論を重ねて、今では見学ルートもきちんと設定して、見学に供してもいい部分しか見せないようにしています。また、ときどき不良パーツが出ますけれども、それはそのままの形で捨てないようにしています。従来はそのままの形で捨てておりましたので、ひょっとしたら模倣品、海賊版の町工場に流れていたのではないか、あるいはひょっとして純正品として市場に出ていったのではないかというような冗談とも取れないようなことを社内では話していることもございます。
 みんなで議論し合いながら、いろんなルールをつくっていく必要があると思います。ただ、技術漏洩、営業機密が問題だと言っているだけでは対処にはならないと思っています。
 最後のページになりますけれども、国際標準と言いますのは、私ども企業にとりましては大変大きな問題でして、国際標準として決められた後、原理特許を保有しているということで、金集めに回っているという事例が幾つも見られます。
 このような状況において、まずは、日本も積極的に国際標準化を目指す努力をしなければいけないと思います。ただ、研究開発者は標準化に関して疎いわけですから、標準化活動というのに長けた人たちといかに研究開発者の人たちとをマッチングさせて事に当たらせるという努力、あるいは仕組みが必要だろうと思います。
 2つ目はデファクト標準のことです。わざわざ、面倒な手続きや、時間をかけてデジュール標準にしなくても、デファクト標準で充分であると考えてデジュール標準にする必要はないと判断しがちですが、手抜きをすると、ほかの規格が新しく出てきてそちらが採用されるという事例もたくさんあります。
 3つ目はまさに国際標準と特許問題です。これは日本の中だけでパテントプール云々と言っていても始まらないわけでございまして、WIPO、WTOあるいはTRIPSの中で少しずつ議論をする機運というのが出てきているようですが、これにつきましても日本が積極的に参画して、ある方向性をつくっていかなければならないと思います。まさに、特許は産業発展のためということが、逆に特許が各企業の足を引っ張って産業の発展を阻害しているという状況になってしまうのではないかと危惧しています。
 ちょっと長くなりましたが、以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 それでは、ほかの委員の方から御発言をいただきたいと思います。個別事項でどこでも結構でございますが、時間が迫っておりますので、できれば簡潔に御発言いただければありがたいと思います。
 妹尾先生、どうぞ。

○妹尾委員 創造分野から活用にいたるところまで、技術移転というのがこれからやはり重要になってくると思いますが、特許流通を行うということよりも、むしろ技術移転そのものが効果的に行われて、今まで研究開発はされたけれど死蔵されている技術をいかに事業化を通じて社会貢献できるか。ここの仕組みをやはりきちんとしなければいけないというのが根底にあると思います。
 そのときに技術移転をする仕組みがどうなっているかという、今の実態を申し上げますと、幼稚かもしれませんけれども大学のTLOで頑張っているという話も一方であるんですが、大企業だとか中小企業が自ら持っている技術を移転するために出すような具体的な場が実は不足しているということがあるのです。
 大きな企業は皆さん研究所を持っていますが、研究所は大体郊外です。それこそ横須賀だとか武蔵野だとか厚木だとか、そういうところに企業は技術を使いたければ見に来いとおっしゃるんです。ところが、技術の移転先はある意味でお客さんですから、顧客第一主義を言う一方で見に来いと言うのは、一種の矛盾です。
 その意味で、技術移転関係の企業や大学と、その技術を使いたい方々、例えばTLOだとかベンチャーファンドだとか、そういう関係者が集合・交流するのはやはり都心部であるはずだと私は考えています。私はこれを「先端技術の産直市場」と呼んでいるんですが、技術の産直市場を常設的に開けるような形にしたい、そこで技術移転ないしはそれに付随する特許流通みたいなものが行われる段階に来ているのではないかなと思います。
 私は現在、秋葉原の再開発のプロデュースをしておりますが、先日、つくばの研究機関の63の先端技術について、2日間ほど秋葉原で市(いち)を立てました。これは江崎先生が委員長でやられたのですが、従来と全く違う反応が出てきたということが特記できると思います。
 と言うのは何かと言いますと、従来、つくばの中でやっていると技術者同士の技術の褒め合いに終始していたんです。私はこれを学級新聞と呼びました。それではいけないと。ところが、先日、秋葉原に出しましたら、技術を生む人と技術を使いたい人の間で、かなりの交流になりまして、すごい案件が幾つも動き出しているのです。こういうような技術移転の常設拠点みたいなものを政策的に整備、あるいは誘導することができないのかなと。 もう一つは、そういうところで技術関係、あるいは知財関係の人材交流ができるような拠点もつくるべきではないかなと。次回お話できたらと思っているのですが、残念ながら知財関係の人材は広い意味では交流を全然していないのです。弁理士会は弁理士会、知財部員は知財部員、特許庁は特許庁だけということですし、経営系の人間と交流するような機会がないのです。教育の拠点、交流の拠点、市場的な技術移転の拠点。そういったようなものが政策的に整備されていけば、一つの核になるのではないかなということがありますので、問題提起と御提案をさせていただきました。

○阿部会長 ありがとうございました。人材については、また次回御議論いただきたいと思います。
 ほかの先生方、いかがでしょうか。どなたでも結構でございます。どうぞ。

○板井委員 技術移転は大変重要かと思うのですけれども、移転する以前の問題として、特許を出していると、全部登録されてしまうような気になってしまうことが多いと思うのですけれども、実は登録されたとしても更に闘えるかどうかの方が重要なんですね。それで、権利が守れるかということを考えて明細書を書かなければいけない。特に自分の経験から言いますと、出すことで自己満足してしまって、実はどういうところに侵害が発生するだろうかという配慮が足りていなかったためにすごく苦労をしました。そういうことで、やはり特許というのは出願するときから闘いが始まるんだという認識をすごく徹底して教えるということも重要ですし、そういう弁理士さんを育てないといけないと思います。
 そのためには、まず技術の理解も重要ではないかと。そうしないと強さと広さというのは両立しませんので、勿論、経営戦略とも関係があるのですけれども、とにかく明細書を書くための適切な助言というのはできないし、強い権利を持つことができないと思います。
 そういうことで人材育成にも関係あるのですけれども、多様な専門分野の人材を特許を支援するチームの中に入れていく必要があるのかなと思いますし、1人の人間がもし複数の領域を知っていれば、もっといいわけです。
 アメリカなどはもうちょっと日本よりも広い領域をカバーしている理科系の人材が多いんです。しかし、日本の場合は狭い領域、すなわち、高校から大学への受験を一生懸命やって、その後がずっと大学院を出るときにまで何年も同じ領域しかやってこないという人間が多いので、やはり少し広いサイエンスの世界がわかる人間も育てておいて、そういう方々が弁理士になってくれるといいなと思っております。
 もう一つは、翻訳とかそういった問題もすごく重要で、私どもは英語以外は外部に全部依頼してしまうので、本当のことを言うと、どんなふうに訳されているか全然わからないまま各国の権利化を行っていますが、本当にこれが争いになったときに闘えるのかどうかというのがわからなくて、多分キャノンさんのような大きなところでは逆翻訳もやっていらっしゃるとは思うのですけれども、そういったところまでちゃんと配慮しないと特許というのは守れないんだなということを感じておりまして、移転とか活用という以前にまず強い特許をつくるということをできるような人材養成をやっていただきたいなと思っております。

○阿部会長 どうぞ。

○中山委員 今のと同じ問題なんですけれども、私は法律家ですので特許を侵害という側面から見る癖があり、今、板井委員や田中委員のおっしゃったとおり、侵害訴訟に耐え得る特許が必要だという点は本当にそのとおりだと思っております。しかし弁理士さんの話を聞いておりますと、これは下坂先生に聞いた方がいいんですけれども、膨大な特許の中の争いになるのはごくごく一部であり、そういった意味で全部の出願を丁寧に侵害訴訟に耐えうるように書いていたのではコストが合わないから、値段は上がりますよ、どうしますかという話なんですけれども、その辺はどうなんでしょうか。

○下坂委員 以前、独立する前におりました事務所に法律部と特許部というのがございまして、特許部はとにかく出願を創出していかないといけない。半分以上が英文だったものですから、いろいろな方が入られたら、寝たら天井に英語が毎日毎日浮かぶというような、弁理士になって鍛えられていったんですけれども、弁理士の方は例えば、100件もしくは500件出しまして、その中で侵害だからと法律部に移動するのが500件に1件、もしくは1,000件に1件。その中の1つの明細書に翻訳のときにアフターフィッチという2ワーズを抜かして翻訳をしたものがございました。それが後から権利範囲にえらく響きました。
 当時の法律部と特許部は大変な対立になりまして、我々は法律部を食わしてやっているんだと。だけれども、法律部にしたら、それさえちゃんと入れておけばそれはないじゃないかというようなことで。結局それは何も内部で争うことではないのに争ってしまったということがあります。1つの事例として挙げさせていただいたんですが、そういうところはあります。
 長い間で弁理士をやっておりまして、最近、人材の不足を痛感しています。というのは、あるこういう分野の特許を取扱うということで募集をかけましても、なかなかそれに向いた人がいない。先ほどおっしゃったように、以前は弁理士1人がかなり広範な範囲をカバーしていたのですが。
 私どもが先輩から教わったのは、弁理士は発明者ではないから発明をする必要はなく、むしろ発明をしてはいけないということでした。それで拒絶にでもなったらどうするんだということだったんです。弁理士はその発明を理解して明細書を書けばいいということから、技術分野もかなり広範にできたんですけれども。最近で大変だったのはビジネスモデルが出ましたときに、あの出願の場合は従来の電気の人にお願いをするということで、やっていったんですが、電気の方は従来の典型的な特許と違いますので、これは女・子どものやるものだということで。大変だったというのがございます。バイオも何も今、取扱い分野が狭くなっていますので、狭い分野の人を大勢事務所で雇わないといけない。そうしますと、その分野の事件がないときにどうするかというような問題もいろいろ出ます。
 どちらかと言うと弁理士事務所というのは零細企業です。ここでは「権利保護基盤の強化に関する専門調査会」以来、針のむしろには座っているんですが、どちらかと言うと中小企業よりも小さいんです。大体が一人弁理士事務所でございまして、その方たちがどのように対応していくか。例えばネットワーク化でやっていくか。
 ところが、コンフリクトの問題もあるということから、悩みながら今やっているところではあります。できるだけ御期待に沿えるように、今はたくさん合格させていただいておりますので、我々も今、変わっていく過渡期にあります。事務局長から100年の歴史をもつ弁理士がまだ過渡期かと叱られるそうですが、大変辛いところもありまして、できるだけいい優秀な弁理士がたくさん出るように努力をしていきたいと思います。

○阿部会長 そういう傾向というのはアメリカも似ているんですか。

○下坂委員 アメリカはパテントアトーニーというのがいますが、狭い分野かどうか。彼らは常に訴訟を考えて、裁判で証人席に座らせられたときのことを考えて明細書を書くと言っているんです。それは大変尊敬すべきいい態度だとは思うんですが、料金が全然違います。 例えば、1か月に3件も書けば、もう事務所経営ができるような料金です。アメリカから拒絶理由が来ましたときに、私どもは意見書を出しますときに、こういう趣旨の意見書を出せという指示はいたしません。というのは、向こうでその人たちが、例えばA4で4ページぐらいの意見書を出しましたら、それだけでもう何十万という請求書が来ます。日本のお客様にそれはなかなか請求できない。ということで、日本で英語で意見書をつくりまして、これを提出してくれということでやる。出願もそうです。そうしますと、向こうではチェック代だけで済む。
 それから、私どものシステムと違うところは、手紙を送るとレシーブしましたと。レシーブしたお金、それからドケットしましたと、ファイルに要したお金、それらのお金は秘書などの手数料なんです、それから内容をチェックしましたとそのお金、全部項目立てできますから、大変なお金になります。タイムチャージという制度です。
 だから、3件ぐらいで事務所経営ができるのであれば、私どももすごい頑張れるかとは思うんですが、なかなかそこのジレンマがございまして、弁理士のエゴだけではなくて経営という面から悩みがあるというところがございます。

○中山委員 やはり世界で一番大量の出願をしていることが要因でしょう。日本の経済規模を勘案するとやはり出願数は外国と比べると多すぎることに原因があるわけで、それではやはり出願もラフになり、審査は遅れます。審査もラフになります。無効も出ますという。これは悪循環などではないかと思うんです。 アメリカのいわゆる弁理士はパテントアトーニー、つまり弁護し資格を有しており、弁護士が書いていますから、当然それは訴訟を考える傾向になると思うんです。

○阿部会長 わかりました。
 では、簡単にお願いします。

○前田委員 大学の特許の場合、先生の論文をいただいて、そのまま弁理士の方にお渡しして特許にしている大学がございます。本当に、企業が使いたい、製品になるような特許というのは、なるべく権利範囲を広くして、本当に使うところは実施例ではわざと隠し、工夫を行なっています。そこは他社に使ってほしくないため、あえて最高値は出さないはずです。企業の特許は、鼻薬も書かない場合もあるような状況と比較して、大学での特許は論文を元にしていますので、一番いいデータが出て、それをそのまま特許にしてもらうのですから、大変狭い範囲でしかも最高の記録が出たところが特許になるという状況です。このような技術丸出しで、しかも国内特許しか取っていない、1年半たったら全部海外の方に見られてしまう、このままではいけないのではないかなという状況をとても危惧しています。
 東京医科歯科大学の場合は、ベーシックな特許の場合でも、先に企業を見つけようとします。企業を先に見つけて、そこの方と一緒に考え、どこまで範囲を広げて、企業が使えそうかを考えながら、広げた分だけお金も高くして、交渉を行なうという形を取っています。やはりそうでないと製品化へと結びつく特許は取得できないと考えております。

○阿部会長 ありがとうございました。
 そろそろ時間が来たんですけれども、加藤さん、何か付け加えていただくことがございましたら。

○加藤委員 今おっしゃっていたようなことを毎日やっていますが、結局、特許紛争をやっていますと、弁理士や弁護士に協力をあおぐ必要があります。アメリカは先発明主義ですので、当社では実験ノートを克明に取らせています。アメリカ企業との特許紛争では、特許出願日以前の実験ノートが出てくる場合があります。つまり、さんざん争った後に最後の最後で出してくるので、お手上げです。それで一遍に逆転を食らうこともあります。これは日本と違うので言ってもしようがないのでしょうが。我々の聞き知ったアンチセンス技術に関する特許紛争の事例では、アンチセンスの発明をしたと言ってノートを出してくるのですが、そこには実験データはなく、単に「ビバ・アンチセンス(viva antisence)」と書いてあるだけです。それを持って我々はそのコンセプトを先に発明していたということを平気で言ってきます。それを覆すためには、当然相手側も教授を呼び出して、法廷で反論をやらせてというように、延々議論をやるそうです。
 このようなこともありますので、我々もアメリカでの特許紛争に備えて実験ノートを徹底的にきっちりと取らせていますが、日本では先願主義ですから、関係ありません。
 結局このような経験を通じて、我々は強くなりますし、次第にずるくもなります。このような状況ですので、特にバイオの分野において、アメリカから日本への特許出願に対しては、特許庁に、がんとしてやってほしいと思います。そのためには結局は人材集めだと思います。

○阿部会長 わかりました。いろいろ御意見は尽きないところですが、予定の時間がまいりましたので、本日の会合はここで閉会させていただきたいと思います。委員の皆様には、今日御発言していただいた分は結構ですが、補足の御意見があろうかと思いますので、メモで事務局まで御提出をいただければと思います。
 いつまでお願いしたらいいですか。

○藤田事務局次長 それでは、もし御意見がございましたら、2週間後の11月16日を目途にお送りいただきたいと存じます。

○阿部会長 限られた時間の御発言ですので、是非御提出をいただければありがたいと思います。
 次回の専門調査会ですが、先ほどアナウンスがございましたけれども、11月30日水曜日10時〜12時に、本日と同じこの会議室で行います。
 なお、最初に申し上げましたように、次回は知財人材育成の総合戦略を中心に御議論をお願いしたいと思っております。
 今後の専門調査会の検討を行う上で参考とするために、幅広く国民の皆様の御意見を行うべく、パブリック・コメントの手続を行いまして、そこで出された御意見も当専門調査会の検討の参考にしたいと考えておりますので、あらかじめ御了承いただければと思います。
 また、本日はいろいろ御意見いただきましたけれども、次回以降、更に議論を深めていただくために、参考人からの意見をも伺いたいと考えております。その際、参考人の人選については会長である私に御一任をいただきたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」と声あり)

○阿部会長 ありがとうございました。それでは、そのように進めさせていただきます。 事務局、何かございますか。よろしいですか。
 それでは、どうもお忙しいところ、ありがとうございました。