沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会提言の実施に係る有識者懇談会報告書

沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会提言の実施に係る有識者懇談会報告書

平成12年5月31日


目次

1 沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会提言の実施に係る有識者懇談会の活動

2 沖縄懇談会事業の概要

3 事業の評価

(1)沖縄懇談会事業の目的に照らした事業評価
(2)沖縄県としての見方

4 米側に要望すべき事項

5 チーム未来

6 今後の沖縄懇談会事業の運営等に関する提言

(1)沖縄懇談会事業の着実な実施に向けての政府に対する要請
(2)施設運営面におけるフォローアップ
(3)今後のチーム未来の展望
(4)いわゆる「アメラジアン」問題への取り組み

7 附属資料
資料1「有識者懇談会の開催状況」
資料2「沖縄懇談会事業の概要」
資料3「第3次沖縄振興開発計画の施策との整合性(沖縄県)」
資料4「県産業策とプロジェクトとの整合性(沖縄県)」
資料5「広域的視点からの事業(沖縄県)」

1 沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会提言の実施に係る有識者懇談会の活動

 内閣官房長官の私的懇談会である「沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会提言の実施に係る有識者懇談会」(以下「有識者懇談会」という。)は、平成9年6月9日、沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会(以下「沖縄懇談会」という。)の提言に基づき、その提言の進展振りについて確認するためのフォローアップ機関として設置された。

 有識者懇談会は、

を検討課題として、検討期間は、平成9年6月から2年間(平成11年5月、1年間の延長を決定。)とされた。

 有識者懇談会では、基地所在市町村に対するプロジェクトに関する助言などを効果的に行うため、作業部会を設置し、基地所在市町村振興のための特別プロジェクトの目的である、

を念頭に、事業内容等を審議し、プロジェクトの効果的な推進に努めてきたところである。

 有識者懇談会は、平成9年6月17日に第1回を開催して以降、最終回の平成12年5月31日に至るまで、合計8回にわたって、各委員の積極的な参画を得て審議を行ってきた。その間、作業部会においても現地ヒヤリングを含めて11回にわたって精力的な検討が行われた。(資料1参照)

 3年間にわたる有識者懇談会の指導的な役割の下で、25の米軍基地所在市町村の全てにおいて、沖縄懇談会事業の方向性が概ね示される状況に至った。

2 沖縄懇談会事業の概要

 沖縄米軍基地所在25市町村に係る37事業46事案のうち、11事案については、既に事業若しくは施設整備(一部を含む)を完了している。
 その他の今後推進されるプロジェクトを含めて、事業の方向性を概略すると、46事案中、26事案は観光・リゾートを中心とした県内外の人の交流を促進する事業となっており、最大の比重を占めている。また、11事案は、子どもの育成、高等教育の充実、生涯学習活動の展開といった人の育成に係る事業を推進する事業である。7事案は、インキュベート施設などの産業支援関連事業や試験・研究、作る漁業振興など地域の産業振興を目的としている。残る5事案のうち、2事案は市街地の再開発による魅力のある地域づくりをねらいとしている。(一部重複事案あり)
 詳細内容については、資料2に掲げた。
 これらの事業の評価については、次にふれることとする。

3 事業の評価

(1)沖縄懇談会事業の目的に照らした事業評価

 沖縄懇談会事業の定量的な評価を行うことは、容易ではないが、25の対象市町村全てにおいて沖縄懇談会事業の方向性が示された現段階において、沖縄懇談会事業の提言を踏まえつつ、評価分析を行うことは、有益と思われる。
 このため、今般、できる限り中立的な評価分析が可能となるよう、民間調査機関に「沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業に関する効果調査」を委託し、調査分析を行ったところである。
 同調査分析の結果概要は、次のとおりである。
  1. 調査方法
     調査は、沖縄懇談会事業の市町村別計画書に当たり、また、現地でのヒアリング調査を行い入手したデータを基に行われた。具体的には、経済波及効果、社会波及効果という二つの異なる側面から、事業の実施効果を評価することとした。
     経済波及効果については、産業連関表の沖縄地域内表をベースに作成したモデルを基に、沖縄懇談会事業の内容に合わせて、前述のような形で得たデータも使用しつつ、所得増加量、雇用増加量の把握に努めた。その計算に際しては、沖縄県経済の産業構造、沖縄懇談会事業の特性を十分に勘案した。
     社会波及効果としては、人材育成と人的交流の二つの側面から、その効果を測定する努力を行った。その内、特に、人的交流の効果については、交流そのものの効果を定量的に測定することが困難であることから、交流自体に意義があることを前提に、その交流内容の類型化及び規模を分析することとした。
     このように、本件調査の基本は、各市町村の想定している事業実施による集客数などのデータであり、あくまで、各事業が、各市町村が考えている計画にしたがって着実に実施された場合の効果についての調査結果であることを念頭に置く必要がある。

波及効果分析

波及効果分析のフロー

  1. 経済波及効果
     本評価分析においては、事業施設建設に伴う建設経済効果とともに、施設完成後、当該施設を活用して行う事業の事業波及効果をあわせて分析した。

    ア 分析結果は、建設経済波及効果に比べて、事業波及効果の方が、より大きく、かつ、永続的な効果を持つことを示している。        

    イ 県内生産額に関しては、多くの事業関連施設の完成・運用開始を迎える平成13、14両年度には、それぞれ年間765億円、912億円の誘発生産額をもたらすと予測され、その後、ほぼ年間800億円前後の生産額増加を生むと推計される。この様な生産の増加に対応して、付加価値面でも平成13、14年を境に年間500億円台の所得増加を誘発し続ける。

    ウ 生産の増加に伴う雇用については、沖縄懇談会事業の建設に関わる雇用とこれらの事業運営活動からの波及効果によって全産業部門に間接的に生じる雇用とを総合すると最終的には年間約9,200人の雇用が県内で誘発される計算となる。沖縄懇談会事業による雇用の対完全失業者比率(失業解消率)は、将来の完全失業率が近年と同水準にあるとすると平成19年度には20.4%に達する。

    エ 平成9年度から19年度までの11年間の地元市町村負担分を合わせた総投資額が事業費ベースで974億円であるのに対し、誘発生産額は3,839億円と約4倍の所得増加を生み出す。これは極めて高い政策効果を示しており、海外の途上国における公共事業実施による収益率の例などと比べても、特に高いものである。
     その理由としては、まず建設経済波及効果に関して、投資のうち用地費に充当される部分が少ないこと、地元調達率の高いものが多いこと等の背景があり、更に事業経済波及効果が加わることにによるものと考えられる。

経済効果要約表等

経済波及効果

  1. 社会波及効果
     社会波及効果とは、地域住民の活性化、人心の活性化ということであるが、ここでは人材育成、人的交流の両面から分析を試みることとした。

    ア 人材育成
     人材育成に関する事業は、職業訓練の性格に近いものと生涯学習の性格に近いものの二つに分類される。

    主な人材育成関連事業

     職業訓練の観点からは、まず、沖縄懇談会事業が県民、地元企業のニーズに合致しているのか評価する必要がある。既に、実施され、利用できる調査結果によれば、県民、地元企業とも情報処理・活用能力、語学力の二つの分野が、自分あるいは従業員に不足しており、社内で育成をするのは不可能であると考えていることが伺われる。次表にあるように沖縄懇談会事業の多くが、情報関連、語学の分野に及んでいることは、この様な実態を踏まえたものとなっていると言える。
     ヒアリング等を基に計画段階での事業開始後10年間の職業訓練による人材育成人数は次のとおりとなる。

    職業訓練的教育事業

     沖縄における高失業率の背景として、専門人材の需給のミスマッチが指摘されている。効果的な専門人材の育成は、それ自身が雇用促進効果を生むものと推測される。
     こうした視点から、人材育成による雇用促進効果を計算することとしたい。
     情報関連学科の就職率の状況、琉球大学の工学部の就職率などの統計を基に、控え目の数値を用いることにより、現実的な形で雇用促進効果を試算すると、各事業開始後10年間の雇用量は計6,930名となる。これは、琉球大学全学部の10年間の卒業就職者数に匹敵するものとなっている。
     また、育成される人材のかなりの部分が、情報関連であり、過去の調査によれば、このような人材を潜在的に求める企業は県内では、比較的新しい企業であることから、これら新しい企業にも育成された人材が供給されることで、県全体の産業構造変革にも寄与する。

     生涯学習については、本件事業の生涯学習、趣味の講座受講者は、10年間で25万人にものぼり、単純に1年間に直すと2.5万人となるが、これは平成11年度の県高校、専修学校、短期大学在学者数67,292人の37%に相当する。
     その他、名桜大学関連では、本件事業により、人材育成の観点からも多くの有用な施設が出来、大学の教育・研究活動の一層の充実に直結するものとなっている。これは、大学の評価や就職にも良い影響を与えるものと考えるが、現段階で、定量的な評価は困難であり、控えることとしたい。

    イ 人的交流
     人的交流の評価には様々な方法があろうが、ここでは、沖縄懇談会事業を、@県内の交流により地域連帯感を向上させるもの、A県外との交流により観光宣伝効果があるもの、B海外との交流により国際化の効果のあるもの、の3つに分けた。
     最も事業数として多いのが、県内の交流を主の目的としたものであるが、具体的にはレクリエーション、学習を内容としたものが最も多い。最終年度(平成19年度)における県内の交流数は116万人と推定される。
     次に、平成19年度の県外との人的交流数を見ると約83万人と予想される。これは、平成10年度の沖縄全体の観光客総数の約20%に及ぶものであり、観光リゾート分野の発展に与える影響は大きい。

目的別県内人的交流数

 海外との交流事業の比重は大きくないが、沖縄懇談会事業では、「ワールドパートナーシップフォーラム名護」が県内で開催の平成10年度国際会議の海外参加者数第10位に入り、その成功を示した。金武町のハワイ学童との交流、北谷の米軍基地内大学を利用した交流などは、新しい視点からの国際交流として注目される。

  1. 結論
     このように、今回の調査分析を通じて、本件懇談会事業は、その経済波及効果が大きく、また、社会波及効果においても、人材育成、人的交流の両面で、大きな効果を与えるものであることが明確になったと言える。
     ただし、冒頭にある通り、これは、現在の各市町村の計画にしたがって事業が着実に実施されることを前提としたものであることに留意する必要がある。
     以上のような、効果分析が現実のものとなるためには、各市町村及び各運営主体が、計画に沿ってしっかりと事業活動を推進していくことが不可欠である。今回の調査分析は、ソフト事業の重要性を数量的に実証したものといえる。

(2)沖縄県としての見方

 沖縄懇談会事業は、そもそも、県内の米軍基地の所在する市町村について、基地の存在による閉塞感を緩和することを目的として、有識者懇談会で議論、承認されてきたものであり、県の施策と直接に関連する形で、計画、実施されてきているものではない。しかしながら、市町村の経済を活性化し、若い世代に夢を与える、継続的な雇用機会の創出、「人づくり」、近隣市町村を含めた広域的な経済振興、環境保全に役立つといった沖縄懇談会事業の各目的自体が、県の従来及び今後の施策とも深く関連している。
 以上を踏まえた上での、県の沖縄懇談会事業の全体像に対する評価は次のとおりである。
 各事業の地理的分布を見ると、本島北部地域で7市町村22事案、中部地域で11市町村14事案、離島において6市町村9事案及び那覇市1事案の25市町村46事案に及んでいる。
 事業内容については、以下に述べるように現在、県で推進している「第三次沖縄振興開発計画」及び「マルチメディアアイランド構想」、「産業創造アクションプログラム」、「農林水産業振興ビジョン・アクションプログラム」の諸構想と照らし合わせて、その目指すところと合致しており評価できる。

  1.  主要プロジェクトを第三次沖縄振興開発計画の施策分野に対応させた表(資料3)のとおり、プロジェクトの内容は、同計画のおおよその施策分野に及んでいる。
     産業の振興開発の中では、恩納村の「北西部四村観光連携型養殖場整備事業」は、四村連携型という新しい試みによる生産基盤の整備及び流通・加工体制の構築等により、恩納村、伊江村、伊是名村、伊平屋村の水産業振興は基より本県水産業全体の活性化に資するものである。
     観光・リゾート地の形成及びレクリエーションの振興に資するものは、多くの事業があるが、宜野座村の「かんなタラソセンター整備事業」、仲里村の「海洋性健康保養施設『バーデハウス久米島』整備事業」は、健康・保養地の形成により、観光客の需要増大を図る拠点施設の形成に役立つ内容である。
     観光客の受入体制の整備では、恩納村の「ふれあい体験学習センター整備事業」は、地域の伝統文化を活用した、観光客の多様なニーズに対応できる新たな展開となりうる。
     南の国際交流拠点の形成の文脈では、金武町の「移民体験航海事業」は、具体的な交流そのものがその内容である。
     都市の総合的整備に資する事業として嘉手納町の「市街地再開発事業」が、合理的な土地利用を図り、計画的な市街地の整備を進め、快適な街づくりに資するものである。
     農村の総合的整備では、東村の「村民の森施設整備事業」は、豊かな自然を生かした観光・リゾート地域の形成を促進して、地域資源を活用した地域特産物の開発など観光産業との連携を図り、就業機会の確保に資するものである。
     教育及び学術・文化の振興では、活力ある地域社会と豊かな県民文化の創造を図り、生涯学習社会の形成を基軸に国際性豊かな人材の育成を目指す県の施策と合致する方向の事業が多く見られるが、ここでは、特に、全県を対象とした青少年の健全育成に資する事業として沖縄市の「こども未来館及びその周辺施設整備事業」に注目したい。
     離島の振興にあたる事業は、渡名喜村の「渡名喜伝統集落を活かしたむら興し整備事業」のような伝統分野を活かしたものから、石垣市の「エコ・観光情報流通活性化事業」のような新しい分野まで、様々であるが、離島の特性と住民の創意を活かして、各島々の可能性を十分に発揮することを基本とした産業の振興を図る内容となっている。

  2.  県の主要個別構想と各事業との対応については、資料4に詳しくあるとおりである。
     「マルチメディアアイランド構想」においては、沖縄における情報通信産業の振興・集積による自立的な経済発展をその目標の中心に置いているが、名護市の「名護市マルチメディア館」、嘉手納町の「マルチメディアタウン事業」は、まさにこの目的と合致するものであるし、これら直接に情報通信を扱った事業以外にも人材育成など他の分野の事業でも高度情報通信技術を意識した内容が見受けられる。
     「産業創造アクションプログラム」は、地域内の経済の潜在力を有効に活用して域内産業を振興することを原則としているが、沖縄懇談会事業の中には、県の新しい産業のコンセプトとに合致したものが見られる。例えば、本部町の「産業支援センター整備事業」や具志川市の「青少年育成国際総合交流センター整備事業」などは、企業化・グローバル化及び新産業創造の支援に資するものである。
     「農林水産業振興ビジョン・アクションプログラム」は、自由貿易地域制度と国際化に対応した重点品目の生産振興、そのための流通・加工対策と人作り・基盤づくり、農林水産業の多面的機能を活かしたむらづくりを目指すが、読谷村の「亜熱帯農工業研究・試験場整備事業」、与那城町の「あやはし館整備事業」の展開は、振興ビジョンの推進に資するものと考える。

  3.  更に付言したいのは、資料5にあるとおり、本件事業の多くが、広域的振興を直接の目的とした連携事業であったり、産業創出による経済活性化、観光振興、人材育成、環境保全などを通じて広域的地域活性化等に資する内容であり、広域的視点からも大きな意義を有していると考える。

 県としては、これら地元の内発性を重視する視点から提案された各市町村のプロジェクトの着実な推進が、基地の存在による閉塞感を緩和するとともに、本県の大きな課題である経済の自立化や地域経済の活性化、またそれを担う人材の育成、若者が将来に向かって夢を持ちうる特色ある地域づくりが図られ、県土の均衡ある発展が可能となるものと期待している。
 なお、事業期間は概ね7年程度と考えられているが、大半の市町村のプロジェクトはまだ緒についたばかりであり、今後プロジェクトの円滑な推進のため、県としても適切な指導・助言を行うこととしたいと考えているが、国においても引き続き積極的な支援と協力を願いたいと考える。

4米側に要望すべき事項


 市町村からは、基地が市民生活に及ぼす圧力や影響を緩和するために多くの要望が寄せられ、政府が日米合同委員会等の適切な場で米側と折衝することが求められた。現在までの具体的進展状況は以下のとおりである。

(1)「泡瀬通信施設」の制限水域の解除

 本件は、沖縄市が沖縄県等と共に、同市の沿岸海域(中城港湾泡瀬地区)を埋め立てて開発する計画を進めていたところ、埋め立て予定水域の一部が、米軍泡瀬通信施設の制限水域に重なっており、該当部分の制限水域解除が求められていた。
 政府は米側と鋭意調整に努めた結果、同通信施設の機能を維持しつつ、地元の開発事業を可能にする方途として、当該水域の日米間の共同使用が検討され、これにつき、沖縄市、県等の了解が得られた。
 これを受け、平成11年9月、日米合同委員会において、当該制限水域を共同使用することが合意され、埋立工事に係る米側との調整はすべて了した。

(2)「キャンプ・ハンセン」における植栽

 本件植栽は、金武町が地域の緑化意識の高揚及び現地米軍と地元との相互理解を目的として米軍と共同で植栽事業を進めることを要望していたものである。日米間の調整の結果、米側は地元の要望を理解し、平成10年2月、日米合同委員会において植栽の実施について合意された。これを受けて金武町は、同月、キャンプ・ハンセン内において、同町及び現地米軍関係者等を招き、植栽記念行事を実施した。これに続き、金武町は米軍の協力を得て、現在まで毎年、地域の緑化意識の高揚、及び現地米軍と地元との相互理解に資する事業として、政府の委託を受けた本件植栽を継続している。

(3)基地内通行

  1. 「キャンプ桑江」における北谷町庁舎への出入りのための道路
     北谷町は、キャンプ桑江に所在する同町庁舎へのアクセス道路として、複数のルートを確保する計画を有しており、個々のルート毎に順次計画を進め、日米間の共同使用を要望している。
     米側は、平成9年来、基本的に理解を示し、大枠について北谷町と現地米軍において調整を了していた。この中で、北谷町は具体的なルートを選定し、共同使用の実現に向け、土地所有者の同意取り付けに努めているところであり、この同意が得られれば、共同使用の実現に向けて日米政府間で手続きを進めていくこととしている。
     有識者懇談会としては、土地所有者の同意ができるだけ早く得られることにより、具体的な進展が図られることを期待したい。

  2. 「キャンプ瑞慶覧」における児童の基地内通行
     本件児童のための基地内通行については、既に米側の基本的了解を得ているところでもあり、今後、北中城村が考えるスクール・バスによる通行について村側の具体的検討を待って適切に対処することとする。
     有識者懇談会としては、村側の検討結果が示され、具体的な進展が図られることを期待したい。

(4)「キャンプ瑞慶覧」における水源の利用

 北中城村は、土地改良用水確保のため、キャンプ瑞慶覧内の水源を利用することを計画し、米側は、平成9年来、本件水源の利用につき基本的に了解していた。
 北中城村は、平成10年5月に水利組合の了承及び県の財政補助を取り付けたが、その後、種々の理由により、米軍施設・区域の外の水源を利用することを決定した。このように本件について、当初の計画とは異なる形であるが決着済みである。

(5)地元との良好な関係維持

  1. 「金武ブルー・ビーチ」の週末開放
     金武ブルー・ビーチの週末開放については、政府として金武町及び米軍側と鋭意調整を重ねており、ビーチでの安全管理、施設の管理責任などの実施上の問題につき検討するため、現在、試験的な開放を実施することについて、関係者間で話合いを進めているところである。
     有識者懇談会としては、試験的な開放の実現により問題点の整理がなされ、さらなる進展が図られることを期待したい。

  2. 沖縄の在日米軍と地域社会との関係
     沖縄における在日米軍を構成する各軍が、県内において「良き隣人」関係の更なる発展のために多大な努力を継続している。とりわけ海兵隊の努力は重要である。海兵隊は、地元との関係を発展させるために、平成9年にG5(外交政策部)を設置し、また、沖縄における各海兵隊のキャンプに地元との関係を担当する部署も設置した。
     これらの部署には、地域社会との「良き隣人」関係の構築に資するような適切な能力を有する人員が配置された。

5チーム未来

(1)チーム未来誕生の経緯

沖縄懇談会事業の市町村における検討にあたっては、意欲ある若手の人材を選抜するなどの方法により、地域住民の意見を効果的に反映させることが望まれるとの視点から、第2回有識者懇談会(平成9年9月29日)において、そのための組織として「チーム未来」の設置が提案された。 この提案を受けて、平成9年12月に北谷町、勝連町及び嘉手納町において最初のチーム未来が発足し、その後、残る各市町村においても順次発足し、平成11年度末には関係25市町村全てにチーム未来が設置されるに至った。

(2)チーム未来大会の開催

  1. チーム未来大会開催の経緯
    第4回有識者懇談会(平成10年10月7日)において、「チーム未来大会」の開催が提案された。平成11年5月、13市町村のチーム未来の委員代表が集まり、第1回発起人会が開催され、「チーム未来大会」の意義について活発な意見交換がなされた。その後、数回にわたり各市町村チーム未来の委員代表による議論が行われ、10月17日、第5回発起人会において、12月18日に名桜大学でチーム未来大会を開催することを前提に調整を行うことが確認され、また、大会運営のための組織として、チーム未来大会実行委員会が発足した。
    実行委員会において関係者に対する協力要請及び説明会の開催等、大会開催に向けての準備を進めた結果、大会の開催が正式に決定された。

  2. チーム未来大会
    チーム未来大会は、平成11年12月18日(土)、名桜大学においてチーム未来大会実行委員会が主催し、沖縄県、関係市町村及び名桜大学の共催により、各市町村のチーム未来委員、関係市町村長等約250名におよぶ多数の参加を得て、また、有識者懇談会からも島田座長以下6名の委員が参加して開催された。
    大会では、島田座長の基調講演、「熱く変われ」をテーマとした全体フォーラムに続いて、「地域資源を活用したまちおこし」、「地域発信まちおこし」、「県外とのネットワーク等によるまちおこし」、「こんな提案どうですか」をテーマとした4分科会が開かれ、具体的な事例による意見交換が行われた。分科会後、唐津委員の講演等に続いて、最後に大会宣言を採択し、大会は終了した。
    大会宣言では、次の3点がうたわれた。
    この大会の模様については、後日、「チーム未来〜21世紀沖縄を描く〜」として、RBC琉球放送により沖縄県内でテレビ放映され、大きな反響を得たところである。

  3. チーム未来沖縄県協議会
    チーム未来大会の大会宣言で採択されたチーム未来沖縄県協議会(以下「県協議会]という。)の設立に向け、平成12年3月11日、県協議会設立準備会が発足した。
    同準備会においては、県協議会の目的及び役割について、以下のとおり確認された。
    <目的>
    <役割>
    なお、5月27日、かでな文化センターにおいて、第2回チーム未来大会が開催され、最後に「チーム未来ネットワーク沖縄(仮称)」の発足を決定し、大会を終了した。

6 今後の沖縄懇談会事業の運営等に関する提言

(1)沖縄懇談会事業の着実な実施に向けての政府に対する要請

 平成9年6月の有識者懇談会の発足以来、今日までの3年間で、25の全ての米軍基地所在市町村から事業の提案があった。また、37事業46事案のうち、これまでに、既に11事案が事業若しくは施設整備(一部を含む)を完了している。
 しかしながら、これらの中には、相当大規模な事業や、12年度または13年度から新たにスタートする事業も多々あり、沖縄懇談会事業全体を眺めてみた場合、むしろ事業のピークを迎えるのはこれからである。
 このため、今後の事業の着実な実施を図るため、政府に対し、主として次の点を要請したい。
  1. 事業期間(7年間)の延長
     沖縄懇談会事業は広範多岐にわたっており、その中には、事業の性格や規模においてこれまでに当該自治体が経験したことのないような事業も少なからずあるため、この様な事業の実施に当たっては、事業の開始後、当初の事業期間の延長を余儀なくされることも少なくない。
     例えば、嘉手納町は市街地再開発事業を実施中であるが、事業規模が大きいことや沖縄県における市街地再開発事業の前例が少ないなどの事情もあり、当初予定していた平成15年までの完了は、現時点で見る限り、不可能となっている。
     このような、大規模な事業や従来の補助事業の枠組みでは例を見ない事業などについては、事業の完了を確保するため、全体の事業費の範囲内で、当初予定していた7年間の事業期間を概ね5年程度延長するなかで弾力的な取扱いができるようにすべきである。
     政府においても、これを踏まえた適切な対応を期待する。

  2. 所要の予算の確保
     極めて厳しい財政状況の中で、年度毎の沖縄懇談会事業予算は、その時々の財政状況等を勘案しながら決定されることになるが、事業の着実な実施を図るために所要の予算の確保が行われるよう、政府に要請する。

  3. 市町村に対する助言
     沖縄懇談会事業は、地元市町村がこれまで実施し得なかった、ユニークな、また未経験な分野の事業が多い。今後、調査等の進展により予期し得なかった計画変更等が生じることも考えられるが、政府においては、これまでの3年間にわたる有識者懇談会における議論を生かし、適切な助言を行うなどの的確な対応を期待する。

(2)施設運営面におけるフォローアップ

 今後、沖縄懇談会事業の進展により、逐次、整備された施設を活用しての各種事業が開始されることとなる。
 3の「事業の評価」でも述べたとおり、各市町村の事業が計画通り実施された場合の経済波及効果や社会波及効果は相当のものが期待できるが、当初計画した通りの効果を得るためには、今後、施設の整備に続く事業活動の展開そのものがますます重要になる。
 沖縄懇談会事業は、本来地元市町村の要望によるものであり、施設等の完成後の施設運営に当たっては、地元市町村が責任を持ってこれに当たることが基本であると考える。
 しかしながら、沖縄懇談会事業が、地元市町村が従来の枠組みでは実施し得なかった新たな事業や未経験の分野の事業が多くを占めていることを考慮すれば、その施設完成後の所期の効果を発揮するために、特に施設運営のソフト面について、例えば次のような、何らかの工夫が必要ではないかと考えられる。
  1. 政府の対応
     政府においては、沖縄懇談会事業の今後の推進にあたって、沖縄懇談会の提言及び本報告を十分踏まえ、事業が所期の成果をあげるものとなるよう、施設運営段階においても市町村からの相談に親身に応じるなど、適確に対応していくことをまず強く要請する。

  2. チーム未来の活用
     市町村における沖縄懇談会事業の方向づけにあたっては、チーム未来の提案が生かされてきたところである。これまでのチーム未来のメンバーを見ても、各層の年齢層にわたり、また様々な職業から構成され、金融、建設、放送、公共サービスなど様々な分野での専門性を有した人材を包含している。
     沖縄懇談会事業の今後の展開を考えるとき、行政のアウトソーシングという観点からも、行政組織外の人達の持つ知見やノウハウを施設運営の段階においても活用することが有用であると考える。そのために各市町村においては、チーム未来の地位の制度化、予算、担当者の明確化を要望したい。

  3. 有識者懇談会OBによる助言
     有識者懇談会は、沖縄懇談会の提言を実現するために、平成9年以来3年間にわたって検討を続けてきた。有識者懇談会の委員は、この間の事業の採択等についての論議を通じ、沖縄懇談会事業について知悉している。
     今後、事業運営については、各市町村が責任を持って取り組むことを期待するが、有識者懇談会委員の知見を活用する観点から、沖縄懇談会事業の節目の時期に、有識者懇談会OB会を開催することにより、何らかの形で市町村に助言を与えることができるのではないかと考える。県及び市町村の協力を得て、OB会を開催し、沖縄懇談会事業のフォローアップの一助とする方向について、政府の検討を要請する。

  4. 沖縄県の対応
     県土の発展を図るという県政の立場から、沖縄県においても、本事業の今後の展開についてのフォローアップを期待する。

(3)今後のチーム未来の展望

 チーム未来は、5で述べたとおり、各市町村が沖縄懇談会事業を検討するに当たって、若い人達など民間の各層から新鮮なアイデアを求めるために設置されたものである。これは、市町村の各種事業のプランニングにおける、行政のアウトソーシングの試みとして広く注目されるところとなった。有識者懇談会は、このようなチーム未来の活動を高く評価するものであり、今後、沖縄懇談会事業のPLAN、DO、SEEの各段階に活用されること及びチーム未来的活動が沖縄における米軍基地所在市町村以外の地域の活性化のためにも貢献することを強く期待したい。
  1. 全県チーム未来への発展
     上述のとおり、チーム未来は、基地所在市町村であるか否かという垣根を越えて、行政への民間活力の活用を中心とした、一つの地域おこしとして、注目される試みとなった。
     沖縄は今、21世紀への新たな発展の基礎を築く重要な節目の時期を迎えている。沖縄の今後の発展を考えるとき、沖縄経済の自立化が課題となる。経済の自立化とは、言うまでもなく、高い成長力を持った民間経済の構築を意味するものであり、それは地域の断面で見た場合、地元関係者が中心となった自主的な地域おこし、地域産業おこしの重要性を示している。
     こうした課題への取り組みを考えるとき、チーム未来的なグラス・ルーツの発意や努力が極めて重要な役割をになうものと考える。
     チーム未来は、沖縄懇談会事業の方向づけの中で生まれた新しい取り組みであるが、こうした視点に立ったとき、その有用性はひとり米軍基地所在市町村に限られるものではなく、沖縄全ての市町村において有用な活動といえる。
     チーム未来的活動が、このような地域の活性化に直結していく上で、NPO的活動としてそれを担う人々の努力が重要であることは論をまたないが、それとともに市町村の行政においても、そうした外部人材の積極活用の視点を持って、人材を含めた多様な地域資源の柔軟な活用によって、地域の活性化や産業の創出を進めるといった発想と取組みが重要であると考える。このための環境を整備するため、チーム未来協議会に対する県の支援の制度化、所要の予算措置や県連絡担当者の任命を要望したい。

  2. 沖縄懇談会施設の運営等への参加
     沖縄懇談会事業の目的を達成するためには、施設等の整備のみならず、その後の健全な施設運営が何よりも重要である。このため、(2)でも述べたとおり、アイデア作りから沖縄懇談会事業に関わってきたチーム未来が施設運営に参加し、民間におけるそれぞれの専門性やコスト意識などを生かしながら、市町村及び施設の運営主体と一緒になって、施設運営の特にソフト面について知恵を出していくような在り方も一案と考える。市町村における検討を要請する。

  3. 「チーム未来の家」の整備等
     チーム未来のより広範な活動に伴い、各チーム未来間の情報交換、情報の集約・発信等の活動拠点が必要になるものと思われるが、そのための「チーム未来の家」の整備について、昨年12月のチーム未来大会で大会宣言として要望が行われた。               有識者懇談会としては、この件について従来から議論を重ねてきたところであるが、大会宣言も踏まえ、第7回の有識者懇談会において、「チーム未来の家」として、那覇市の「NAHAぶんかテンブス」の中に所要のスペースを確保する方向で基本的な了承を得たところである。
     この整備に当たっては、単に施設の整備のみならず、チーム未来のメンバー達が泊まり込んで夜を徹しての議論を可能にするなどのこれまでの公共施設にはない施設管理上の柔軟性が是非とも必要であると考えており、このための宿泊、炊事、電子情報を共有するための情報通信インフラの整備等を要望したい。
     また、沖縄懇談会事業によって整備される施設の中には、NAHAぶんかテンブス以外にも、チーム未来の活動のため活用が可能な施設が少なからずあると思われるが、このような施設の設置者に対しても、チーム未来のための柔軟な利用が可能になるような配慮を期待するところである。

(4)いわゆる「アメラジアン」問題への取り組み

 米軍人・軍属と沖縄の女性の間に生まれた重国籍児(いわゆる「アメラジアン」)をめぐる問題への対応については、広い意味で米軍基地から生じる問題の一つとして、有識者懇談会においても何度か問題提起があった。
 この問題については、従来からの要望を踏まえ、既に文部省をはじめとする関係省庁、沖縄県及び地元自治体で次のような措置が講じられてきたと承知している。  しかしながら、依然として、なお取り組むべき課題が残されていると考える。
 有識者懇談会としては、本件を米軍基地所在市町村の抱える問題として無視し得ないものであると認識しており、今後の課題のうち、いわゆる「アメラジアン」の児童・生徒を受け入れている民間組織である「アメラジアンスクール・イン・オキナワ」の環境改善については沖縄懇談会事業の枠組みによる対応の可能性について、今後、政府と県及び地元宜野湾市が連携して検討していくことを特に要望するものである。
 また、相談窓口活動の充実についても、米側の協力を得るなかで、政府及び県の連携による充実、強化をあわせて要望する。
 なお、政府においても共通の認識のもとで、平成12年5月14日、森総理の沖縄訪問の際、いわゆる「アメラジアン」問題に対する前向きな対応を表明されたところである。有識者懇談会としてもこの表明を歓迎するとともに、その対応の早期具体化について重ねて要請する。