徳島県における「関係人口」創出の先進事例視察
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。(『関係人口』ポータルサイトより)
ふるさとづくりの推進を担当する秋葉内閣総理大臣補佐官は、令和2年1月24日に徳島県神山町及び上勝町を訪問し、「関係人口」を増やすことに成功している両町の先進事例を視察しました。
1.神山町視察
神山町に到着し、町長の後藤正和さんらと「かま屋」で昼食をとりました。「かま屋」は、地域の食材を使い、それを地域で食べるという「地産地食」のコンセプトを推進する「フードハブ・プロジェクト」によって運営されています。直近の「産食率」は56%で、食堂で提供される食材の半分以上は神山町でとれたものでした。利用客の多くは、噂を聞きつけて県外から訪れた人たちでした。
その後、神山つなぐ公社の杼谷学さん、西村佳哲さんに町内をご案内いただきました。芸術活動のために神山町に移り住んだ奥様と一緒に来日したアイルランド出身のご主人が、「神山ビール」というブランドを立ち上げ、地ビールを醸造・販売されていました。また、本社が恵比寿にあるプラットイーズ社(放送業)のサテライトオフィスである「えんがわオフィス」を見学しました。築約90年の古民家を改修してオフィスとして利用しており、中ではテレビの番組情報の編集作業などが行われていました。
神山町では、全国に先駆けて平成17年から町内で光ファイバー網が整備されていたことから、サテライトオフィスを含めた企業の進出が進み、令和元年7月現在で17社の誘致に成功しているとのことでした。
「とくしまサテライトオフィス」に移動し、神山つなぐ公社の杼谷さん、認定NPOグリーンバレーの大南信也さんから、人口が5300人しかいない神山町が、どのようにして「関係人口」を創出することに成功したのか、これまでの経緯を教えていただきました。
神山町では平成11年から「アーティスト・イン・レジデンス」というイベントを開始し、これまでに23か国から70名を超える芸術家を招聘し、町内に芸術作品を制作してもらうという取組を行ってきました。こうした取組を続けるうちに、平成14年頃から神山町の魅力に惹かれた芸術家たちの移住が始まったそうです。移住した芸術家の方が使用している作業場も見学しました。
また、「ワークインレジデンス」というプロジェクトでは、空き家を改修し、町の将来のために必要と思われる職種を特定し、起業家らを逆指名で呼び寄せ、店舗等として活用してもらっています。こうして生まれた新たな人の流れが、さらにユニークな技能をもった人材を呼び寄せ、地域内の経済循環に貢献しているとのことでした。
今後は、神山町全体を実践のフィールドとする「神山まるごと高専」が令和5年に開校する予定で、若者世代の増加が期待されています。
2.上勝町視察
上勝町は、平成15年に「2020年までにごみをゼロにする」という「ゼロ・ウェイスト宣言」を全国で初めて掲げました。同町では、生ごみ以外のごみは家庭で洗浄した後、町内に一か所のごみ集積所である「日比ヶ谷ごみステーション」に各自が持ち込み、45種類に分別を行うことになっています。こうした町民の皆さんの努力の結果、上勝町では今までにごみ収集車が走ったことがなく、平成28年度においてはリサイクル率81%を実現しました。上勝町は、ゼロ・ウェイストを同町のブランドとして確立し、起業家や視察者などを町外から呼び込むことに成功しています。
RISE & WIN Brewing Coは、ゼロ・ウェイストをコンセプトにしたブリュワリーです。廃棄対象になる上勝特産の柚香の皮を香りづけにつかったクラフトビールなどを販売しています。建物自体も、ゴミ集積所にあった建具や家具を再利用して設計されていました。
「日比ヶ谷ごみステーション」に隣接している「くるくる工房」では、町内で不要になった衣類や布類、鯉のぼりを使って町内外の作家さんがリメイク商品を作って販売していました。
キャンプ場のパンゲアフィールドに移動し、代表の野々山聡さんから、上勝町の持続可能な地域づくりの様々な取組についてご説明をいただきました。野々山さんご自身が運営されているパンゲアは、エコツアーや教育観光を企画し、自然の楽しさ、不思議さや、かけがえのなさを異日常サービスとして提供することで、「サスティナブルツーリズム」を提案しています。
カフェポールスターは、Uターン者である東さんが、ゼロ・ウェイストをコンセプトに立ち上げたカフェです。メニューの多くで、食材の皮を剥かずに使うなど、無駄のない調理方法にこだわっています。また、洗面所にはごみとなる紙ナプキンを置かず、利用客にハンカチ持参を呼び掛けています。独自のインターン制度を行っており、カナダなど海外からの人材も受け入れているとのことでした。
最後に町長の花本靖さんと意見交換をさせていただきました。上勝町は、高齢化率が5割を超え、人口は1500人ほどの四国で一番小さな町です。このような小規模な町で地域を活性化させることの難しさやご苦労についてお話を伺いました。