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日本・セルビア共同声明(仮訳)


 菅直人日本国総理大臣閣下とボリス・タディッチ・セルビア共和国大統領閣下は、2011年3月8日、日本政府の招待によりタディッチ大統領が初の公式訪問を行った機会に、首脳会談を行った。
 両首脳は、民主主義、自由、法の支配及び人権といった基本的価値に特に重点を置きつつ、両国関係の現状と見通しにつき議論し、グローバルな課題について意見交換を行った。
 両首脳は、両国の潜在力を最大限活用するため二国間関係を進展させ、国際的諸課題への取組みにおける協力を強化するとのコミットメントを確認した。
 幅広い分野にわたる友好的な会談の結果、両首脳は以下の共同声明を発出した。


1.二国間関係の強化,西バルカンの平和と安定の強化

  1. 両首脳は、西バルカンの平和と安定におけるセルビアの重要な役割を再確認した。両首脳は、西バルカンの平和、安定及び発展における日本の貢献の重要性をも強調した。
  2. 両首脳は、西バルカンの平和と安定は日本企業のビジネス機会を増大させるとの認識を共有した。
  3. タディッチ大統領は、セルビアの欧州への統合に向け、改革を引き続き進める意図を表明した。菅総理は、大統領の意図を歓迎し、セルビアの努力を引き続き支援することを伝えた。
  4. タディッチ大統領は、セルビア国民を代表して、日本国民に対し、セルビア国民の福祉に著しい貢献を果たした日本のODA供与について、深い感謝の意を表明した。
  5. 菅総理はタディッチ大統領に対し、セルビア政府からの要請に基づき、日本政府として「ニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置建設計画」に対し、円借款を供与する意図を表明した。セルビア側は、本プロジェクトへの円借款の供与を受けるため、全ての必要な措置をとる。
     両首脳は、本プロジェクトが、セルビアにおける安定した電力供給を確保しつつ、大気汚染の防止に大いに貢献することを強調した。両首脳は、本プロジェクトにより、発電所からの汚染物質がより高いレベルで除去され、エネルギー効率が実現することを期待する。両首脳はまた、公害を克服する過程で蓄積された日本の先進的技術及び経験が効率的かつ適切に用いられることを期待する。
  6. タディッチ大統領は、国連安全保障理事会決議第1244号への支持を再確認し、国連総会決議第64/298号に従い、ベオグラード・プリシュティナ間の対話を行う用意があることを表明した。
  7. 両首脳は、ボスニア・ヘルツェゴビナの3つの主要民族間及び2つのエンティティ間の一層の理解、同国の領土の一体性並びに主権が、西バルカンの平和と安定の不可欠の要素であるとの見解を共有した。この文脈で、両首脳は、ボスニア・ヘルツェゴビナの政治的指導者達が、デイトン和平合意を含む関係の国際約束に従い、責任ある行動をとることを期待する。タディッチ大統領は、セルビアがボスニア・ヘルツェゴビナの長期的安定のため、引き続き建設的役割を果たすことを確保するとの決意を表明した。
  8. タディッチ大統領は、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)に協力するとのセルビアのコミットメントを果たす意志を再確認した。菅総理は、法の支配といった基本的価値に関するタディッチ大統領の努力を賞賛した。
  9. 両首脳は、2010年12月の両国関係当局間による警察協力に関する覚書を歓迎し、この分野における協力の重要性を再確認した。
  10. 両首脳は、2011年3月の日本機会工業連合会のセルビア訪問を歓迎し、両国における投資機会について民間部門の関心を高めることの重要性を認識した。この文脈で、両首脳は、タディッチ大統領訪日時中に東京で行われるビジネス・フォーラムや他のビジネス関連行事を歓迎した。
  11. 両首脳は、特にセルビアが締結している自由貿易協定に鑑み、セルビアにおけるビジネス機会が増大しつつあることに留意し、行政手続の迅速化や透明性と予見可能性の向上といったセルビアにおける投資環境の一層の改善が外国投資を促進するであろうとの見解を共有した。
  12. 両首脳は、双方向の旅行者数を増加させることにより、両国民間の人的交流を促進すべく努力を行う意志を表明した。
     この関連で、菅総理は、セルビアが日本国民に対して行っている短期査証免除を前向きなものとして評価した。また、2011年5月1日から、バイオメトリック旅券を所持するセルビア国民に対して短期査証免除を導入するとの日本政府の決定を確認した。タディッチ大統領は、この決定を歓迎しつつ、査証免除はセルビアのバイオメトリック旅券を所持する者のみに適用されるとの事実について認知度を高め、査証免除の円滑な運用のために必要な対策を講じることを約束した。
     タディッチ大統領は、セルビア側として、日本を観光先として一層促進する用意があることを表明した。
  13. 両首脳は、両国国民の相互理解の促進に向けた文化交流と双方の語学に関する教育の重要性についての見解を共有した。この関連で、タディッチ大統領は、セルビアにおいて日本の伝統及び現代文化に対する熱意と関心が高まっていることを指摘し、昨年JICAによりセルビアに派遣されたシニア・ボランティアの活動を賞賛した。菅総理は、日本語教育を含む文化交流の強化に向け、セルビア側と協働していく用意があることを表明した。
  14. 両首脳は、WTO協定への加入に関する日本・セルビア間の二国間交渉が妥結したことを歓迎し、加盟に向けた残りの交渉が早期に妥結することへの希望を表明した。両首脳は、WTOにおけるルール及びコミットメントを遵守し、保護主義に対抗する意思を再確認した。両首脳は、内容面で野心的かつバランスのとれた、多角的貿易体制の強化に資するドーハ開発アジェンダの早期妥結に向け、協働する意思を共有した。

2.国際的諸課題に関する協力
  1. 両首脳は、気候変動、核軍縮、核兵器不拡散、世界における軍事費の削減、人間の安全保障についての共通理解の醸成等の、国際社会の主要懸案事項について意見交換を行った。
  2. 両首脳は、メキシコにおいて開催された国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)及び京都議定書第6回締約国会合において採択されたカンクン合意を歓迎した。両首脳は、カンクン合意に基づき、すべての主要経済国が参加する、全世界規模で気候変動に取り組むための包括的かつ法的拘束力のある枠組みの構築という目標に向けて相互協力を継続することで一致した。両首脳は、南アフリカで開催されるCOP17において、成功裏に成果を達成すべく建設的に協働するという決意を再確認した。
  3. 両首脳は、国際社会において人間の安全保障に関する共通理解を醸成するために協力すること、また、気候変動、貧困、保健等の国際的諸課題に対処し、すべての個人が恐怖と欠乏から免れ、尊厳をもって生きることができるような世界を築くに当たっての効果的なツールとして、人間の安全保障の概念を推進することが必要であることを強調した。
  4. 両首脳は、核リスクの低減の重要性を再確認し、核軍縮・不拡散における協力を強化することを決定した。両首脳は、昨年5月の2010年NPT運用検討会議において採択された行動計画の着実な実施及びIAEA追加議定書の普遍化に向けて協力するとの共通のコミットメントを表明した。
  5. 両首脳は国連安保理をより代表性、正統性、実効性の備わったものにし、21世紀の国際社会の現実に応えたものにするため、安保理改革につき意義ある成果を達成するとの願望を共有した。また、両首脳は、安保理改革に関する政府間交渉に引き続き積極的に取り組んでいく用意があることを表明した。タディッチ大統領は、ニューヨークでの第70回国連総会会期中に行われる2015年安保理非常任理事国選挙(任期:2016−17年)への日本の立候補に対し、セルビアの支持を表明した。菅総理はセルビアの支持への感謝の意を表明した。タディッチ大統領は、国連、とりわけ国際の平和と安全の維持において一層高まる日本の役割を評価した。
  6. タディッチ大統領はまた、2010年9月に菅総理が第65回国連総会ミレニアム開発目標(MDGs)首脳会合において発表した、2011年からの5年間で、保健分野において世界エイズ・結核・マラリア対策基金への当面最大8億ドルの拠出を含む50億ドル、教育分野において35億ドルの支援を実施するとの「菅コミットメント」を賞賛した。
  7. 両首脳は、行った者、場所及び目的の如何を問わず、あらゆる形態のテロ行為を非難した。
  8. 両首脳は、2005年の六者会合共同声明及び関連の国連安保理決議に従った形で朝鮮半島の非核化を達成することの必要性を強調した。両首脳は、国連安保理決議第1718号及び第1874号が全ての国連加盟国により着実に実施されることの重要性を改めて表明した。この関連で、両首脳は、2010年12月の国連総会及び2010年3月の国連人権理事会で採択された関連の決議に従い、人権状況が改善されるべきことを再確認した。

3.結語
  1. 両首脳は、上記の諸点についての進捗状況をレビューし、両国間の協力を拡大するため、局長級による日・セルビア定期政務協議の次回会合を開催するよう事務レベルに指示を行った。
  2. タディッチ大統領は、近い将来、セルビアを公式訪問するよう菅総理を招請した。

2011年3月8日、東京において

     菅 直人                      ボリス・タディッチ
   日本国総理大臣                 セルビア共和国大統領