【菅総理冒頭発言】
本日は民間外交推進協会、金川千尋会長をはじめ、関係者の皆さんの厚意に甘えて、こうした私の外交に関する講演の場をつくっていただきました。言うまでもありません。いつの時代でも外交は重要でありますけれども、今日の世界はまさに「歴史の分水嶺」とも言える時代にあり、我が国にとって、世界にとって外交の重要性はより一層高まっております。
そういった中で、総理大臣という立場で国民の皆さんに直接、外交に絞ってお話をする機会は、そう多くはありません。また同時にそうした機会を通して、世界の皆さんにも私の考え方、日本の考え方をお伝えする。そのことも大きな意味があるのではないか。このように考えまして、年初に当たって、こうした形での講演会を開いていただき、出席をさせていただいたところであります。いずれにいたしましても、来週には国会が始まりまして、内外の問題についても施政方針演説などでしっかりと申し上げますけれども、今日は私の個人的な思いも含めて、外交・安全保障に絞って、私の考え方を御披露させていただきたいと、このように思っているところであります。
21世紀のこの時代というのは、かつて米ソ二極構造の時代に比べて、極めて複雑な時代になったという思いは、多分皆さんが一致して考えられるところではないでしょうか。特に近年、中国やインドといった多くの新興国が台頭してきて、世界のパワーバランスも大きく変わり始めました。例えばG7と呼ばれる先進諸国の世界のGDPに占める割合も、20年前には3分の2以上を占めていた。68%であった。それが今日では53%、半分程度になって、G20と呼ばれる国々の力が大変大きくなっております。
また、グローバリゼーションという言い方は従来からされておりましたけれども、それに加えてIT技術の発展などもあって、かつてない世界の変化、あるいは金融や多くの経済関係が国境を越えて、網の目のごとく張りめぐらされている。また、ウィキリークスに一種象徴されるように、いろいろな情報が一瞬のうちに世界を飛び交い、そして、そのことがそれぞれの国の政治にも直接に即座に影響するような時代になってまいりました。
更に言えば、国家という単位を超えたテロリストの活動や、一方では地球環境問題、生物多様性問題といった問題も重要な課題になってまいりました。そういった中で、このグローバリゼーションの今日は、私たちにとって、世界にとって大きなチャンスを私たちに与えてくれていると同時に、不透明性をもたらしている。このことも言わざるを得ません。このような時代にあって、チャンスをきちんと生かすことができるか。そして、不透明性から来るリスクをきちんと抑え、抑制することができるか。外交において、これまで以上の高い構想力と対応力が求められている。このように考えております。
そういった時代にあって、2011年の年初に当たり、私はまず5つの柱を軸にして、外交・安全保障に関する考え方を申し上げていきたいと思います。第一の柱は、日米同盟、日米基軸。第二の柱は、アジア外交の新展開。第三には、経済外交の推進。第四には、地球規模の課題への取組。そして、第五の柱としては、我が国自身の安全保障環境に対しての的確な対応。この5つの柱について、順次お話を進めてまいりたいと思います。
第一の柱、日米基軸については、もう多くを申し上げるまでもなく、我が国にとって最も重要な二国間関係であると同時に、この日米の同盟関係は我が国とアメリカにとって大きな意味を持ち、貢献をしてきただけではなくて、アジアの地域あるいは太平洋地域にとっても一つの安定要素、公共財として評価をいただいている。このように考えております。そういった意味で、この戦後65年間の中における日米同盟に対して、我が国の国民の大多数は積極的な支持を表明していただいておりますし、政権交代にかかわらず、変わることなく維持強化されるべき関係であると、このように考えております。
この日米同盟は安全保障面だけではありません。経済、さらには人材・文化の交流を含めたさまざまな面での深化を更に進めていくことが必要であります。人間関係というものは、同盟関係も同じでありますけれども、一旦いい関係になれば、それが永久に続くと思いがちであります。しかし、やはりそれを維持するには互いの努力が必要であります。私も結婚して40年になる妻がいますが、努力を怠ると大変厳しいしっぺ返しを受けるところであります。
こう考えますと、日米同盟におきましても、例えば二十歳にも満たない若い自衛隊員や海兵隊員がいざというときには血を流す覚悟で任務に当たっていただいていることを忘れてはなりません。私はこれからもこうした思いで、日米同盟関係の深化に向けて、今年前半に訪米を予定いたしておりますけれども、その際にオバマ大統領との間で、21世紀の日米同盟のさらなる深化を遂げたビジョンを共につくり上げ、示していきたい。このように考えております。
この日米同盟を深化させる上で、沖縄の普天間飛行場の移設について、粘り強く取り組んでいくことが大変重要だと考えております。普天間問題については沖縄の県民の皆様に対して大変混乱をもたらし、あるいはその気持ちを深く傷付けた経緯になったことを改めてお詫びを申し上げたいと思います。先月、私は沖縄を訪問し、沖縄県民の皆さんが感じておられる痛みについて、改めて考えてまいりました。沖縄には今も在日米軍基地の74%が集中し、多くの県民の皆様に負担を強いております。特に沖縄が本土に復帰した以降も、本土の米軍基地がかなり削減する中で、沖縄の基地があまり削減されないで今日に至っている。このことは政治に携わる者として、沖縄の皆さんに対して大変申し訳なく、慚愧に堪えない思いがいたしております。
その一方で、現在のアジアの安全保障環境は、北朝鮮の核開発問題など非常に厳しいものが現在も続いております。日本の安全保障のためには、日米安全保障条約を堅持すべきであり、米軍基地が日本国内に存在することは必要であると私は考えております。
他方で、人口密集地帯にある普天間飛行場の危険性は一刻も早く除去しなくてはなりません。それに加えて、在沖縄海兵隊の要員約8,000人の皆さんとその家族9,000人のグアムへの移転、さらには嘉手納以南の施設区域の返還、これらは沖縄の基地負担の軽減につながるものであり、是非とも実現をしていきたいと考えております。
沖縄の米軍基地の存在が日本全体の安全を支えている事実がある以上、沖縄の痛み・負担を国民全体で分かち合うという不断の努力が必要であります。本日も、嘉手納での訓練をグアムに一部移すことを日米で合意いたしました。更に米軍基地の負担について、沖縄以外の地域に住む国民の皆さんにも理解と協力が得られるよう、この場を含め、あらゆる場を通じて働きかけをしてまいりたい。このように考えているところであります。
第二の柱として、アジア外交について申し上げたいと思います。
アジア太平洋地域は、経済発展の段階も、民族、人種、価値観など、実に多様性を持っております。しかし、その中で、今や世界の歴史の中でも、このアジアの地域が大きく飛躍しようとしております。この地域の多様性が対立という形ではなくて、むしろ活力、ダイナミズムの源となるよう協調体制を築くことが、この地域の長期的な発展のために是非とも必要であります。そのために私は、中国、韓国、ロシア、さらにはASEAN諸国、豪州、インド、そしてアメリカといったアジア太平洋地域の国々の間での協力を、我が国としても積極的に推進する努力が必要だと考えております。
それぞれの国と同時に、APECや東アジア首脳会議、ASEAN地域フォーラムなどの地域協力の枠組みを活用して、重層的な協力関係を強化してまいりたいと考えております。開かれたネットワークの構築に向け我が国が努力をすること、そのことは、我が国にとっても勿論、国益につながりますけれども、それらのアジア太平洋諸国にとって「ウィンウィン」の関係をつくっていく、そのことにつながると考えております。
そこで、個々の国との関係について触れていきたいと思います。
まず、中国との関係であります。近年、台頭著しい中国は、世界と地域のために重要な役割を果たしつつあります。その一方で、透明性をやや欠いた国防力の強化や海洋活動の活発化には懸念を抱かざるを得ない部分も存在しております。昨年起きた事件も極めて残念な出来事でありました。
しかし、両国の歴史は、まさに日本の歴史が始まってから2,000年を超える期間、日中は一衣帯水の隣国として交流を続けてまいりました。両国の間には一時不幸な時期がありましたけれども、長い歴史の中では政治、経済、文化といった広い分野で活発な交流が行われてまいりました。
特に今年は、中国が近代化を始める曙となった辛亥革命から100周年を迎える記念すべき年であります。この革命では、現在、中国の国父とも言える孫文をはじめとする、日本にもゆかりの深い人たちが大変重要な役割を果たされました。梅屋庄吉という日本人がこの孫文氏を助け、親友として長く献身的に尽くしたという関係も、これは我が国だけではなく、中国においても認められていただいているところであります。
こうした意味で、両国の関係を政治や安全保障といった分野に限らず、さらには経済という分野に限らず、文化的な面、経済的な面、そして国民相互間の交流を更に一層深めていく努力が必要だと、このように考えているところであります。そういう中で、両国がアジアにおいて、特に世界においても国際的な主要国として責任ある役割を分かち合う、そういう関係として、更に「戦略的互恵関係」を深めてまいりたいと考えております。そのためには首脳同士のホットラインだけではなく、党間交流、そして先ほど申し上げたような民間の交流を更に深めてまいりたいと考えております。
次に、日韓新時代について申し上げます。
日本と韓国の関係は、両国の間で多くの都市が定期便で結ばれており、日帰りで気楽に往復が可能な一日文化圏という関係になっております。伝統的な文化や言語の近似性に加え、最近ではファッションやアニメなど、互いの流行をそれぞれが関心を持ち、国民の間の親近感もかつてないほど強まっております。まさに名実とも最も近い隣国となっております。
昨年は日韓併合から100年の節目の年でありました。過去の植民地支配では、韓国の人々は国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷つけられました。私は昨年の夏の総理談話で、こうした多大の損害と苦痛を与えたことに対して改めて痛切な反省と心からのおわびの気持ちを示したところであります。そして、そこで示した精神に立脚し、未来に向かって新たな協力を誓い合ったところであります。昨年3月には韓国哨戒艦天安号の沈没事件など、朝鮮半島をめぐる地域的な安全保障の問題、そして日韓間の自由貿易の推進、これらのためには日韓両国が地域や国際社会で共同して果たす役割がますます大きくなっていく上での超えていかなければならない、協力していかなければならない課題であると思っております。
私は昨年6月に就任して以来、李明博大統領とは既に3度の首脳会談と、3度の電話会談を行い、個人的にもいろいろな話をしてまいりました。そうした深い信頼関係をしっかりと結びながら、李明博大統領とともにさまざまな分野で日韓間での具体的な協力を今後も積み上げ、それによって真の日韓新時代を築いてまいりたいと考えております。
一方、北朝鮮情勢についてであります。
昨年の11月の韓国延坪島への砲撃事件や核兵器開発に直結するウラン濃縮活動の公表、これらはいずれも北東アジア地域のみならず世界の平和と安定を脅かすものであります。日本は核、ミサイルや安全保障の問題について、日韓、そしてアメリカを加えた日米韓の連携を強化して、そして北朝鮮に対してこのような挑発行為を止め、北朝鮮がすべての核兵器と核計画を放棄するとした2005年の六者会合共同声明を履行するよう、強く求めてまいります。引き続き拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交正常化を追求してまいります。拉致問題は日本国の主権に関わる問題です。先日も拉致被害者家族の皆様から直接話を伺い、この問題の早期解決に向けた決意を新たにしたところであります。一刻も早く被害者をすべて日本に帰国させることができるよう、全力を尽くしてまいります。
次にロシアとの関係であります。我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという基本方針に基づき、粘り強く交渉をしてまいります。領土問題はオールジャパンであらゆる情報や知恵を集め、それをもとに問題解決に当たっていくべき問題だと考えております。メドヴェージェフ大統領との間では、領土問題解決のための協議と経済協力のための協議を、首脳同士を含め進めていくことで合意をいたしております。こうした協議を通じ、ロシア政府が、領土問題の解決がロシア自身の長期的な国益にも大きく寄与する。そういう認識を持っていただくようになることが重要だと考えております。そうした展開が望ましい展開になると考えております。日露両国の協力関係が一層拡大するよう取り組んでまいります。
次に、日本という国は言うまでもありません。四方を海に囲まれた海洋国家であります。アジア太平洋の豊かな海域の恩恵にあずかってまいりました。この海域は地域全体の豊かさの根源でもあります。一方でこの豊かさゆえに海洋権益をめぐる争いが近年顕在化し、地域の不安定要因となりつつあることは看過してはなりません。日本の権利は正々堂々と主張しつつ、アジア太平洋のこの地域が「平和な海」であり続けるよう、紛争を未然に防止する海上ルールをつくるなど、そういった面での主導力を発揮してまいりたいと考えております。
また、海洋の自由航行のみならず、私的所有権、宇宙空間やサイバー空間といった新たな公共空間における共通のルールづくりも、積極的に推進したいと考えております。そのためにもアジア太平洋地域における多層的なネットワークを活用してまいります。
次に、第三の柱として経済外交の推進について申し上げたいと思います。我が国では最近、海外に留学する若者が減少するなど、やや内向きな傾向が強まっております。私は昨年6月に内閣が発足したときに、20年間近く続いている日本の閉塞状況を打破し、元気な日本を復活させなければならない。このように痛感をいたしました。その鍵は精神的にも経済的にも国を開いていく。我が国は150年前、明治維新で国を開き、そして65年前に敗戦の中から新たに国を開き、それぞれの時代に新たな前進を遂げてまいりました。そして今日において「平成の開国」を成し遂げること。今年を平成の開国元年と位置づけて、その実現に取り組んでまいりたい。これが私の内閣の基本的な今年に当たっての考え方であります。日本の国の命運をかけて進まなければならないと思っております。
具体的には開国というものには多くの要素がありますけれども、経済面を中心に申し上げれば、貿易や投資、人材交流の自由化の促進であります。WTOドーハ・ラウンド交渉妥結による国際貿易ルールの強化に努め、包括的な経済連携を推進する。これが日本が世界と共栄をしていく最良の手段と考え、従来から推し進めてまいりました。また、昨年合意したインド、ペルーとの経済連携協定を着実に実施していく。豪州との交渉を迅速に進めていく。EU、韓国及びモンゴルとの経済連携協定交渉の再開、立ち上げを目指してまいりたい。さらには日中韓自由貿易協定の共同研究を一層推し進めてまいりたいと思っております。
それに加えて、協議参加の検討を始めておりますTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は米国をはじめとする関係国との協議を続けており、今年6月を目途に交渉参加について結論を出したいと考えております。また、法人実効税率の5%引き下げも開国をにらんで決断をいたしました。
併せて農業の再生も急務の課題であります。日本の農業者の平均年齢は66歳に達しております。耕作放棄地も40万ヘクタールと埼玉県の広さを超える規模に拡大をいたしております。結果として日本の農業は貿易の自由化が進む進まないにかかわらず、このままでは衰退の一途を遂げてまいります。私はこれまでの農業の「守り」による改革から、例えば米や野菜を作る。作るだけでなく、それを消費者に届け、場合によってはレストランを通じて多くの人たちに提供する。そういった6次産業化を含めた「攻め」の姿勢に転換し、若者が希望を持って農業に参画できるようにいたしていきたいと思っております。「平成の尊農開国」。つまり農業を尊び、国を開くという意味での尊農開国をともに推進しようではありませんか。
昨年11月に議長を務めたAPECでは均衡ある成長、あまねく広がる成長、持続可能な成長、革新的成長、そして安全な成長という目標に合意をいたしました。これに基づき中長期的な課題としてアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を併せて目指してまいりたいと思います。また、空の自由化の推進も前進をいたしております。つい昨日、また1つ門を開きました。シンガポールとオープン・スカイの実現に合意をいたしました。既に昨年11月には米国との本格的なオープン・スカイ協定を締結し、12月末には韓国とも実現に合意をいたしております。今、我が国は着実に国を開きつつある1つの証左だと思っております。
官民一体のインフラ輸出についても一言申し上げます。多くの新興国にとってインフラこそがこれからのさらなる成長、さらなる発展の大きな鍵になっております。
一方、我が国には、インフラを整備する上で必要な技術と、そして資本を持っているわけであります。
そういった意味で、新興国と我が国の間の相互補完関係をしっかりとつなぎ合わせることが、新興国の発展にとっても、そして、我が国がそうした国々のエネルギーを日本に受け入れることにとっても大変重要であります。
昨年は、私はベトナムのズン首相と三度にわたって会談などを繰り返しました。その効果もあったと思いますけれども、原子力発電の分野で、日本では初めて、昨年10月、ベトナムでの原発第二サイトの建設工事の受注を認めていただき、併せてレアアースの面でも契約に実現をすることができました。今後の大型案件でも多くの閣僚が積極的にトップセールスの形で世界に出かけているわけでありまして、こうした日本の得意な分野を積極的に新興国あるいは先進国の更なる発展につなげ、そのエネルギーを我が国につなげていく、このことを積極的にやっていきたいと考えております。
特にそういう分野の中で、天然資源の確保も極めて重要なことだと考えております。レアアースなどの鉱物資源は次世代エネルギー関連産業などを支える資源として重要性がますます高まっております。
例えば昨年のそうしたベトナムに限らない、インドやモンゴル、カザフスタン、カナダ、オーストラリア、そうした国々との資源における共同開発の協議の進展が見られました。
私は、特に印象的でありましたのは、南米ボリビアの大統領とお話をした中で、ボリビアは世界の約半分近いリチウム資源を有しております。そのリチウム資源をできれば、付加価値を付けて世界に供給したい。そこで、私はリチウム電池の技術を持つそういう人たちをミッションで送りたいと言いましたら、大統領が大歓迎だと言ってくれました。
また、ボリビアからは、若い学生さんを京都大学で2人受け入れていただきました。こういった技術なり、そういったものの勉強にも当たっていただいております。こういった意味で、我が国だけが、そういう国々から何かを買って有利に進めるというのではなくて、それぞれの国にとっても付加価値が付く、そして、我が国にとっても大きな国益につながる、そういう関係を築いてまいりたいと思っております。
第四の柱として、地球規模の課題への取組を申し上げたいと思います。外交、安全保障政策の中で、日本の地球規模での国際貢献は、私は大変大きなものがあると、このように感じております。
特に昨年、首相に就任して以来、多くの国々のリーダーと面会をいたしました。そういう中で、アフリカ、中東、東南アジアあるいは中南米、そうした国々の発展途上国の指導者の皆さんから、日本の長年のODAなど、そうした経済協力あるいは技術協力は、自分たちの国が成長していく上で、安定していく上で、非常に大きな効果を上げたと、そういう感謝の言葉を数多くいただきました。
私はややもすれば、日本では第一次湾岸戦争の折の、金は出したけれども人は送らなかったということがトラウマになっておりますが、しかし、戦後65年間の長きをわたって振り返ってみると、そうした平和的な形での多くの国々に対する貢献、まさに日本国憲法の理念に沿ったそういう貢献というものが、決して間違ってはいなかったということ、私は、そうした多くの途上国なり新興国の皆さんの言葉の中に感じたところであります。
昨年は、国連において、私もミレニアム開発目標などについて演説をさせていただきました。そして、保健分野と教育分野での新たな貢献を「菅コミットメント」という形で表明いたしました。幅広い関係者の連携強化のため、本年中にMDGsの国連首脳会合のフォローアップのため、国際会議を日本で開催するべく準備を進めております。
アフリカには、2012年までのODAを倍増し、民間投資倍増支援など、TICADWと呼ばれる、この国際的な公約を、こういう形での公約を着実に履行してまいります。
また、アフガニスタン、パキスタン支援も積極的に協力してまいります。特にアフガニスタンには、農業支援、インフラ整備、再統合プログラムなどを着実に実行することを支援してまいりたいと思います。中東和平に資するべく、パレスチナ支援も努力をしてまいります。
次に環境問題での貢献策であります。我が国は環境大国として、省エネルギーあるいはクリーンエネルギーの技術を世界も高く評価をしてくれております。
こういった産業技術面に加え、国際的なスタンダードといったソフト面の貢献も必要だと考えております。
CO2削減など、地球温暖化対策や、名古屋議定書の採択に至った生物多様性保護などで日本のイニシアティブは国際的に高く評価をされております。
さらに、こういった分野でのリーダーシップをしっかりと果たしてまいりたいと思っております。
気候変動枠組条約締約国会議(COP)など、既存の環境対策の枠組みに加え、特にアジアの環境問題について新たな国際的構想を提示いたしたいと思っております。
既に外務省などの関係省庁にその検討を指示いたしております。私は、このCO2問題では、例えば一人当たりのCO2排出というものを、国際的な基準にしていけばどうかということを、従来から申し上げております。アメリカでは、一人当たり約20トン、日本やドイツでは、一人当たり約10トン、中国では約4トン、インドでは約1トン強、そして、世界の平均は約4トン一人当たりの排出と、現在なっております。2050年までにこれを半分にしようとすれば、一人当たり人口増を一応考えないとしても、2トンまで下げなければなりません。
そうすれば、アメリカは10分の1、日本は5分の1、中国も半分には引き下げなければなりません。そういう共通の目標を掲げて、こういった気候変動の地球の目標を掲げて努力を進めていくことが重要であろうと、このように思っております。
核軍縮、核不拡散への取組について、唯一の被爆国として核兵器のない世界の実現に向け、引き続き国際社会の取組の先頭に立ってまいりたいと思います。
我が国は、国連総会に核軍縮決議を提出し、核廃絶に向けた国際社会の関心を喚起してまいりました。民主党政権になって、米国もこの決議の共同提案国になっていただき、圧倒的多数の支持を得て採択はされております。これから4月にかけ、私が協力をお願いした、非核特使の皆さんが、被爆体験を語るため、世界各国を訪問する予定にもなっております。
こういった課題に積極的に対応するため、これまで同様、これまで以上に国連を重視してまいりたいと思います。
国連の安保理改革について、長く議論が継続をいたしております。私は、ただ日本が経済力が多いから常任理事国になるべきだ、なりたいということだけではなくて、やはり核兵器を持たない国が常任理事国に存在するということの持つ意味は、世界の核軍縮にとって大きな意味がある。そういう役割りを果たすためにも、我が国が安保理常任理事国になっていくことについて、全世界の皆さんの理解をいただけるよう努力をしてまいりたいと思っております。
最後、第五番目の柱として、現在の日本を取り巻く安全保障の課題に対して、日本自身が的確に対応する。このことを申し上げたいと思います。昨年末、安全保障と防衛力の新たな指針として、新しい防衛計画大綱、新大綱の下での専守防衛、非核三原則など、防衛の基本方針を堅持しつつ、我が国自身の努力や同盟国、国際社会との協力を進めること、こういったことを再確認する新しい防衛計画の大綱を定めました。
日本の防衛とともに、地域や世界の平和と安定や人間の安全保障の確保に貢献するとともに、こういったことも安全保障の目標といたしております。
特にこの中で、冷戦時代から継承されてきた「基盤的防衛力構想」からは脱却をして、そして即応性と機動性を強化し、高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築することを、この中に盛り込んだところであります。いかなる危機にも迅速に対応する体制を整備してまいりたいと思います。適切な規模の防衛力を着実に整備し、一方、真に必要な機能に資源を集中して、防衛力の構造的な変革を図ってまいりたいと思います。限られた資源で、より効果的な防衛体制を作るということであります。南西地域を含む警戒監視、洋上哨戒、防空、弾頭ミサイル対処などの機能を重点的に整備してまいりたいと考えております。
今日、我が国の平和と繁栄は、地域や世界の安定と密接不可分であります。私たちの国、あるいは近隣だけが平和ならいいという一国平和主義では成り立ちません。地域や世界の平和のため、我が国ができることについて、先ほど申し上げたODAや国際貢献なども含めてやっていかなければなりません。民主党政権になって、国連PKOに対しても、そのルールの中で許されたものについては積極的に対応していきたいと考え、従来50人程度であった派遣人員も現在は380人を超える派遣の状況になっております。今後も開発援助等に加え、国連平和活動、さらにはソマリア沖を含めた海賊対処活動、災害救難活動などの分野で、我が国にふさわしい貢献を促進してまいりたいと思います。
最後に、この5つの柱についてお話を申し上げた中で、私にとっての今日の日本、今日の世界に対して、思いを一言だけ申し上げたいと思っております。私の生まれた山口県には、吉田松陰という偉大な精神的な指導者が明治維新の折にいたことは皆さん御承知のとおりであります。松陰は、時局に臨んで何もしない為政者を厳しく指弾した志士でありました。「志士の尊ぶところは何であろう。心を高く清らかにそびえさせて、自ら成すことではないか」。こういう言葉を、松下村塾の塾生にあてて残しています。
今、2011年に生きる私たち、そして特に政治家という立場で、より大きな責任を持つ私たち、あるいは私自身、今の時代に生きる政治家として成すべきことを成していく。そのことがまさに必要だと、このように考えております。
大変な難題の多い日本の政治、あるいは国際情勢でありますけれども、このような覚悟を持って日本外交を進展させるために、私自身全力を挙げて邁進したいということを、今日お集まりの皆さんの前でお誓いを申し上げて、私の講演とさせていただきます。
御清聴、どうもありがとうございました。
【質疑応答】
(司会)
総理、誠にありがとうございました。大変恐縮でございますが、もしお許しいただけるのであれば、会員の皆様から総理のお考え、御意見をお伺いしたいという声が多数来ております。時間の関係もございますので、大変僭越ではございますけれども、私が会員の皆様に代わって1、2御質問させていただいてよろしゅうございましょうか。
(菅総理)
はい。
(司会)
ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。
総理は、昨年の6月に総理に御就任以降、数多くの首脳会談をなされてまいりましたが、それぞれの会談の内容というのは、おのおの異なるものがあったかと思うのでありますけれども、これらの会談を通して、どのような実感、お考えをお持ちでございましょうか。できましたらお話しいただければと思います。
(菅総理)
まず、私は昨年の1月に財務大臣になりまして、そして6月に総理大臣に就任いたしました。財務大臣の折にも、国際会議がかなりありましたが、その後も国際会議や多くの世界のリーダーの皆さんとお会いいたしました。まだ、財務大臣から数えても1年余りの時間ではありますけれども、しかし、何度かお会いしている間には、それぞれの気持ちがわかるようになってまいりました。そういう点で、まず会う、そしてできれば何度も会う機会を持つことが、日本外交にとっても極めて重要なんだということを感じております。
それに加えて、先ほども申し上げましたけれども、多くの発展途上国や新興国にとって、日本は自分たちが目指すモデルだということを言われています。そして、自分たちが支えてもらったそのことに大変感謝をされております。そういった意味で、私は日本はそういう新興国の兄貴分として、これまでしっかりとした活動をやってきたという誇りをもっともっと持っていいのではないか。そしてその誇りを、過去のものにするのではなくて、さらにこれからもそういった国々に応援していく、その応援が逆に我が国自身の成長にもつながっていく。こういう関係は、十分につくり得る。こういったことを多くのリーダーとお会いして強く感じたところであります。
(司会)
ありがとうございます。
最後にもう一問だけお願いいたします。皆様御案内のとおり、まさに米中首脳会談が行われたところでございますけれども、総理は我が国の外交にとって重要な日米関係、日中関係をどのように今後お進めになっていくのか、そのことについてできましたらお話しいただければと思います。お願いいたします。
(菅総理)
日米関係については、先ほどかなり時間を割いて申し上げましたが、私は日米関係、現在オバマ大統領とも3度にわたる首脳会談をさせていただきまして、コミュニケーションがしっかりできている、将来の方向についてもしっかりと話し合いの土俵ができている。そういうふうに理解いたしております。
中国との間では、もともと良好な関係が続いていたわけでありますが、昨年の尖閣沖の漁船衝突事件などによって、それが一時期揺らぎました。このことを踏まえて、やはり政治・経済といった分野だけではなくて、国民的なレベルでの深い人間関係、あるいは社会関係というものをつないでいくことが必要ではないか。お隣の国、韓国との間でも、かつてはいろいろ難しい問題がありましたけれども、今日はそれを超えた良好関係が進展している。中国との関係も、そうした国民的なつながりをより深める努力を一方でしながら、経済、そして政治の関係においても「戦略的互恵関係」をより深めてまいりたいと、このように考えているところであります。
(司会)
どうもありがとうございました。