シルク・ドゥ・ソレイユで舞うシンクロ五輪メダリスト(2018年春夏号)

「白鳥の湖」を水中で表現する北尾氏。

北尾スペンドラブ佳奈子

1982年、京都府生まれ。立命館大学在籍中からシンクロナイズドスイミング日本代表。2004年アテネ五輪、2005年モントリオール世界水泳で団体銀メダルを獲得。2006年よりシルク・ドゥ・ソレイユのメンバーになっている。

 北尾スペンドラブ佳奈子氏は20歳でシンクロナイズドスイミング(現在の公式名称は「アーティスティックスイミング」)日本代表に選出され、1日10時間におよぶ厳しい練習を乗り越え、2004年アテネ五輪の団体で銀メダルを獲得した。翌年モントリオール世界水泳でも銀メダルを獲得し、周囲からは次の五輪での金メダルが期待されたが、代表生活4年で引退を表明する。

「O」のシンクロナイズドスイミングチーム。後列の右から4人目が北尾氏。

 「メダルを手にすることはできたが、自分が思い描いていたシンクロナイズドスイミングを全うできたとは思えなかった」と彼女は語る。

 自分ならではのスタイルを追求したい。そんな思いを抱えて引退表明した数週間後、彼女はシンクロナイズドスイミングのパフォーマンスを組み込んだショーのオーディションが、東京で開かれることを知る。主催者はモントリオールに国際本部を置き、伝統的なサーカスに大道芸やオペラなど多様な要素を取り入れたショーを世界で展開するシルク・ドゥ・ソレイユだった。

 オーディションで表現力や身体能力、何より新たなことに挑戦する姿勢を評価された彼女は、単身カナダに渡り、ダンスや音楽などの訓練に参加することになる。

 人間の身体能力の限界を追求するようなショーで知られるシルク・ドゥ・ソレイユには、世界中から一流のアスリート、大道芸人、ダンサー、スタッフたちが集結していた。

「O」は、フランス語の「eau(水)」に基づくネーミング。ステージが一瞬にして巨大なプールに替わるという大胆な仕掛けがある。

 「それぞれが自らを高めつつ、互いに敬意を持って一つにまとまり、より良いショーをつくり出す努力をしている。この調和の素晴らしさに衝撃を受け、訓練にのめり込んだ」と振り返る。

 訓練期間の途中で、彼女はネバダ州ラスベガスのベラージオホテルで常時公演されている「O(オー)」というショーに抜擢された。1998年初演で、創造性や芸術性の高さが絶賛され、シルク・ドゥ・ソレイユの名声を一層高めた作品だ。

 「初めて出演し、スタンディングオベーションを浴びた時、全身が震えるほどの感動を覚え、確かな手ごたえを感じた。『O』は見る人によってさまざまな解釈が可能な奥の深い作品で、毎回、心地よい緊張感を持ち、新鮮な気持ちで楽しく演じている」

 実力が認められた彼女は、今や「O」の看板パフォーマーの1人だ。ラスベガスに生活の拠点を置き、週5日、1日2回の出演の合間を縫って、競技者としての練習も欠かさない。

 北尾氏は「これからも大好きなシンクロナイズドスイミングについてさらに深く知り、可能性を追い求め、観る人に感動を与え続けたい」と微笑む。

競技者としての訓練も継続している。2017年の世界水泳選手権では米国代表としてビル・メイと組み、混合デュエットに出場。銅メダルを獲得した。

シルク・ドゥ・ソレイユのリガー(舞台装置担当)の夫と結婚、もうすぐ3歳になる息子と共にラスベガスでの充実した生活を楽しんでいる。

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