第74回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説

令和元年9月24日
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 議長、議長の下、国連は創立75周年を祝います。
 私はこの際、私の国、日本が、国連の理念を奉じ、その目的に対し力を尽くそうとする点において、揺るぎのない足跡を残してきたことを、御想起願いたく思います。
 設立以来3四半世紀を経た国連には、安全保障理事会の変革を主眼とする構造改革が必須です。早期の実現を目指したく思います。
 また日本は、2022年の選挙に立ち、再び多くの国の支持を得て、安保理非常任理事国を務め、国連理念のさらなる実現に力を尽くしたいと念じています。皆様の、力強い御支援を賜りますように。
 さて日本では、新たな天皇陛下が御即位になり、天皇御自身で内外にそれを宣明なさる儀式が、来月22日に迫りました。
 200内外の国、機関から元首や首脳がお越しくださり、新たな御代の始まりをことほいでくださること、よろこび、これにすぐるものはありません。日本国民は、これを無上の機会とし、日本が世界に対し負う役割に、改めて思いを致すことでしょう。
 私の国では、長く続いた経済の不調が国民の関心を内に向かせた時期は、過去のものとなりました。
 今、正に熱戦が続くラグビー・ワールドカップ、来年東京が開く、オリンピックとパラリンピック、大阪一円がホストする万博2025と、日本の暦には、世界との強い絆(きずな)を意識させ、人々の目を外へ、未来へ向かせる日付が特筆大書されています。
 国連理念の頼れる担い手が、新たな世代において、つくられつつあるのだと御理解ください。
 来年4月に日本にやってくる会議のことも、記憶に留めてください。
 国連薬物・犯罪事務所が主体となって5年に1度開く、通称コングレス、国連犯罪防止刑事司法会議は、その第14回を京都で開きます。
 同会議を、欧州以外で初めて日本が開いたのが1970年でありましたから、50年ぶり。桜が盛りの京都は、法執行の専門家たちをよろこんでお迎えすることでしょう。
 今申し上げたことは、世界と関わる上で、日本が何に重きを置くかと密接な関連を有します。
 人間一人ひとりの力を育てることを一義とし、ゆえに教育を重んじる。ひたすらそれを続けるところに、日本は、世界になし得る貢献の神髄を求めて今日に至ります。
 今度京都に集まる法執行の専門家にしても、一度限り呼び集めるのでなく、継続して育てるところに、日本は自らの役割を求めました。
 つとに1962年、日本は犯罪防止の知識向上を主眼として、国連初の専門機関を東京に建てました。
 国連アジア極東犯罪防止研修所と命名し、犯罪学者として世界的に令名のあった故ノーバル・モリスを初代の長として発足した同機関は、本年9月末までに、膨大な卒業生を生んでいます。
 その数5,900人以上。内訳は例えばアジアから、2,949人、アフリカから678人です。
 去る3月のことです。東京を訪れたマララ・ユスフザイさんは私の目を真っすぐに見て、最低12年の教育を受けないと、現代技術を使いこなすのは難しいというのに、その機会をもたない少女が1億人もいると述べました。
 全ての少女が中等教育を経た場合、その世界経済に対する寄与は30兆ドルにも上ると、彼女は言います。
 マララさんをお呼びしたのは、6月私が主宰するG20大阪サミットを前に、女性と少女に力を与える政策に光を当てておきたいと考えたからでした。
 女性がその持てる可能性を思うさま発揮できたなら、世界はそれだけ輝きを増します。当たり前ではありませんか。今女性の労働参加率が顕著に伸びた日本は、その当然の事実を日々感じています。
 G20(金融・世界経済に関する首脳会合)が首脳宣言と付属文書の両方で、マララさんの主張を汲(く)むことができたのは私のよろこびです。
 全ての女児及び女性に対して包摂的で質の高い教育を推進するのだと、私たちは誓いを立てました。日本はこの努力において、常に先頭を走りたいと念じています。
 御紹介したいのは、タンザニアの事例です。
 私がちょうど30歳になろうという頃、東京のマラソン大会に出ては圧倒的能力を見せつけたランナーに、ジュマ・イカンガーという人がいました。日本を第二の故郷と思うイカンガー氏は、祖国タンザニアに帰国後、日本政府の援助組織JICA(国際協力機構)で、広報大使になります。そこに日本から赴任したのが、伊藤美和という、行動力に富む女性でした。
 2人は力を合わせます。伊藤さんは日本企業13社から協賛金を得て、そして、イカンガー氏は未来のオリンピアンになりそうな女子を探して開催にこぎ着けたのが、同国史上初の、女子陸上大会でした。2017年11月のことでした。
 近くに住む女子小中学生1,000人を、観客席に招きました。ただ見物させたのではありません。彼女らには若年妊娠を防ぐための教材が渡されました。これを読ませる目的もあったのです。
 東北東にキリマンジャロの高峰を臨み、マサイの人々などが住む地域、タンザニアのアルーシャに、2016年の1月、日本人の手によって開校したのはさくらの名を冠する女子中学校です。
 生徒たちに安心・安全な環境を与えるため、学校はあえて全寮制。最初24人だった生徒が今年春には162人に増えました。
 日本政府は、資金で応援しています。しかし運営は、日本と現地のNGO。STEMを教え、望まない妊娠をいかに防ぐかを教えます。
 私はまたカンボジアでも、ある日本の事業家が、全く自分一人の発案で、教育向上に努めているのを知っています。
 日本から経験豊かな理数科教師を送り、カンボジアでこれから教員になろうという若い男女のコーチをさせるのです。名付けて国境なき教師団。
 私は、誰の承認を求めるのでもない、純粋に内発的動機から、日本の民間の人々がこうしてタンザニアで、カンボジアで、若者の、とりわけ少女の教育に進んで尽力する様を見て、心洗われるものを覚えます。
 日本政府は、サブ・サハラのアフリカ諸国やアジアの国々を対象として、今後3年、少なくとも900万人の子供と若者に充実した教育を提供します。
 スリランカでは、小学生にいわゆるe-ラーニングが、ルワンダでも、インターネットをいかした理数科教育の拡充を図ります。
 しかしこれらは、むしろ民間の人々の努力に大いに触発されての事業だと言わねばなりません。
 議長、私は本議場において一般討論に立つこと、今回で連続7度目です。この間一貫して、女性と少女の力をつける大切さ、ヘルスケアを万人に普遍のものとする意義を強調してきました。
 本年もこの両議題に関しては、別の会議で発言をいたしました。
 同時に、今申しましたような日本の貢献にありますとおり、教育をひたすら重んじるところに、日本の対外関与はその神髄をみるのだと強調したいと思うのです。日本はFP。フォスター・パワーたらんと望みます。
 終わりに臨んで、短く3点申します。
 第一。北朝鮮について。
 トランプ大統領のアプローチを、日本は支持します。首脳同士が胸襟を開き、未来に光明を見て目前の課題を解こうとするやり方は、北朝鮮をめぐる力学を変えました。
 私自身、条件を付けずに金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う決意です。
 拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、国交正常化を実現するのが不変の目標です。
 第二。中東情勢への懸念を共有します。
 サウジアラビアの石油施設に加わった攻撃は、国際経済秩序を人質にする卑劣極まる犯罪でした。
 私は、イランの最高指導者ハメネイ師が私に直接言った核に関する3つの否定、すなわち持たず、作らず、使わないことをファトワーにし徹底したという言明を、貴いものと思います。
 今朝も、ローハニ大統領と通算9度目の会談をいたしました。
 大国イランに、その豊かな歴史からする叡智(えいち)に基づく行動を求めることは、私の変わらぬ役割です。
 第三に、そして最後に、マルチの枠組みと、グローバリズムを、日本は格差を減らすためにこそ用います。
 TPP(環太平洋パートナーシップ)、日EU・EPA(経済連携協定)に続き、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が、日本の牽引力によってまとまろうとしています。
 世界は、もっとつながる。貧困から抜け出す人が、それだけ増えます。
 私は近年G7とG20、3度のアフリカ開発会議を主宰し、マルチの枠組みにその役割があることを、再々証明してまいりました。
 質の高いインフラ、自由で開かれたインド太平洋が、国際社会の辞書に加わったことなど御想起いただければと思います。
 日本が開くアフリカ開発会議TICADは本年その第7回において、ニューTICADに生まれ変わりました。
 今後アフリカを語る言葉は、すべからく投資と成長を語るべきだからです。
 現に、併行して開かれたビジネス・フォーラムは、アフリカと日本の事業家たちであふれ、熱気に満ちていました。新しい投資の案件、新規のプロジェクトが盛んに生まれていることを、私も感じ取れました。
 アフリカの変化は、私たちを、勇気づけてくれます。やはり、世界は、変わる。私たちの努力によって、変えることができる。本会堂が、その決意を確かめ合う場だと申し上げて、私は討論を終えようと思います。御清聴ありがとうございました。

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