第52回自衛隊高級幹部会同 安倍内閣総理大臣訓示
本日、我が国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するに当たり、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。
冒頭、この夏の豪雨災害によりお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りします。そして、被災された全ての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い生活の再建に向けて、全力を挙げてまいります。
本当に頼りになった。正に知事の言葉どおり、全国から集まった最大で3万3,000人を超える諸君が、炎天下、行方不明者の捜索、道路の啓開、支援物資の輸送、給水や復旧作業、入浴や給食の支援に当たりました。
少しでも早く被災者を救いたい。その一心で、隊員諸君は、土砂降りの中、濁流につかり、重い泥をかき分け、実に2,284名の命を救いました。
私も現場にあって、被災された方々から自衛隊への感謝の声を数多く伺いました。涙を流す方もおられました。自衛隊は、被災された皆さんに寄り添い、心の支えとなった。間違いなく被災地の力となった。
今後ともリーダーたる諸君が先を読んで判断し、先手先手で柔軟に事に当たっていくことを期待しています。
遠く灼熱(しゃくねつ)のソマリア沖・アデン湾にあっても、世界の平和と安全のため、今日も隊員たちが汗を流しています。24時間、365日。国民の命と平和を守るため、極度の緊張感の中、最前線で警戒監視に当たる隊員たちが、この瞬間も日本の広大な海と空を守っています。東シナ海では、北朝鮮に対して国連安保理決議の完全な履行を求めるべく、自衛隊の総力を挙げて、瀬取り防止のための監視を行っています。
つねに国民の心を自己の心とし、一身の利害を越えて公につくす。50年以上受け継がれる自衛官の心構えの精神を実践し、国民の負託に全力で応える諸君を、私は大変頼もしく誇りに思います。
国民のために命をかける。これは全国25万人の自衛隊員一人一人が自分の家族に胸を張るべき気高き仕事であり、自分の子や孫たちにも誇るべき崇高な任務であります。
幹部諸君。それにもかかわらず、長きにわたる諸君の自衛隊員としての歩みを振り返るとき、時には心無い批判にさらされたこともあったと思います。悔しい思いをしたこともあったかもしれない。自衛隊の最高指揮官、そして同じ時代を生きた政治家として、忸怩(じくじ)たる思いです。
全ての自衛隊隊員が、強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える。これは、今を生きる政治家の責任であります。私はその責任をしっかり果たしていく決意です。
我が国を取り巻く安全保障環境は、5年前に我々が想定したよりも、格段に速いスピードで厳しさを増しています。あるがままを見つめ、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、最善を尽くさなければならない。
私は、総理就任以来、現実を直視した安全保障政策の立て直しを進めてきました。しかし、これまでの成果の上に安住することは許されません。
今や、サイバー空間や宇宙空間、さらには電磁波の領域など、新たな領域で優位性を保つことが、我が国の防衛に死活的に重要になっています。もはや、陸・海・空という、従来からの区分にとらわれた発想のままでは、この国を守り抜くことはできません。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用した防衛体制への変革は、もはや待ったなしです。新たな防衛力の完成を10年や15年かけて実現するようなスピード感からは、完全に脱却しなければなりません。
幹部諸君。今までの常識はもはや通用しない。これまで諸君が培ってきた優れた知見の上に、過去にとらわれることなく、現実、そして未来に目を凝らしてほしいと思います。
この冬に策定する新たな防衛大綱は、我が国の安全保障の将来を決定づける、極めて重要なものとなります。安全保障の現場を熟知する幹部諸君は、変化し続ける現実を直視し、真に必要な防衛力の在るべき姿について、これまでの延長線上ではなく、大局観ある、大胆な発想で考え抜いてほしい。新たな大綱が、今後の我が国の防衛政策の確固たる礎となるよう、全力を尽くしてください。
私も国民も、諸君を頼りにしています。このことを肝に銘じ、職務に一層邁進(まいしん)してもらいたいと思います。
一昨年、そして昨年と、私は、適者生存という言葉と共に、組織はしなやかでなければならない。女性活躍はその試金石である、と繰り返してきました。本年8月、女性初の海賊対処部隊の指揮官が誕生しました。遠くソマリア沖・アデン湾、最前線の現場で、今日も部隊指揮に当たっています。女性初となるF-15戦闘機のパイロットの誕生もうれしいニュースです。統合幕僚監部では、新たに小野打泰子(おのうちやすこ)空将補が報道官となり、7つある部長級将官ポストのうち、2つが女性によって担われることとなりました。女性が活躍できる場は着実に広がっています。これからもその歩みを止めず、意欲と能力のある女性隊員の登用を積極的に進めてください。
今、我が国は、少子高齢化という、国難とも呼ぶべき社会構造の大きな変化に直面しています。防衛省・自衛隊においても、男性、女性を問わず、育児や介護により、時間や移動の制約のある隊員が増えていく中、全ての隊員が能力を存分に発揮し、働き続けられる環境をつくることは、喫緊の課題です。防衛省・自衛隊が、国民の命と平和な暮らしを守るに足る精強な組織であり続けるために、今こそ働き方改革を断行しなければなりません。長年定着した組織文化を変えることは容易ではありませんが、徹底的に仕事のやり方を見直し、確実に改革を前に進め、成果を出していく必要があります。その成否を左右するのは、ここにいる高級幹部の諸君一人一人の強いリーダーシップにほかなりません。長時間労働の慣行を必ず打ち破る。大いに期待しています。
困難なときこそ、真価が問われると言います。厳しさを増す我が国周辺の安全保障環境、かつてないスピードで進む少子高齢化は、正に諸君の力が試されるときであります。
幹部諸君。国民の命と平和な暮らしを守るという重責をかみしめ、気骨を持ち、前例にとらわれることなく絶えず自らを変革し続けることで、この難局に立ち向かってください。私と日本国民は、常に、諸君を始め全国25万人の自衛隊と共にあります。その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。
平成30年9月3日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 安倍 晋三