マレーシア訪問に際しての石破総理による国営ベルナマ通信社への寄稿文
マレーシアの皆様、Selamat Tahun Baru(あけましておめでとう)。
昨年10月に日本国総理大臣に就任して以降、最初の二国間の外国訪問として、マレーシアを訪問しています。本年ASEAN(東南アジア諸国連合)議長国という重責を担うマレーシアを訪問でき、大変光栄です。
マレーシアと日本は共に貿易立国かつ海洋国家であり、基本的な原則や価値を共有しています。2023年12月に二国間関係を「包括的・戦略的パートナー」に格上げし、今や協力は、安全保障、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、国際場裡(じょうり)における連携といった広範な分野で強固になっています。対立と分断が進み不透明性が増す国際情勢の中で、法の支配を重視する日本とマレーシアが自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて協力していくことは、両国及び地域の平和と繁栄にとって非常に重要です。私とアンワル首相との首脳会談では、こうした認識の下で、「包括的・戦略的パートナー」としての協力関係をアップデート・重層化していく考えです。
日マレーシア関係の基礎は、人と人との交流です。1982年にマレーシアが東方政策を開始して以来、約2万8千人ものマレーシア人が日本で学びました。また、マレーシア日本国際工科院や筑波大学マレーシア校を通じた協力も行っており、未来の日マレーシア関係を担う高度人材がここから巣立っていくことを期待しています。教育に加えて、文化・経済交流も重要です。本年4月に開幕する大阪・関西万博では、マレーシアには「調和で未来を紡ぐ」をテーマにパビリオンを出展いただきます。多くのマレーシアの皆様に来日いただき、未来を体験できる万博を観覧したり、ビジネス・マッチングを進めていただくことを期待しています。
経済分野では、日本は、長年にわたり、マレーシアにとって主要な投資国及び貿易相手国であり、共に発展してきました。マレーシアのLNG(液化天然ガス)や半導体は、今や日本の生活に欠かせないものとなっており、特に、2011年の東日本大震災の直後、日本のLNG需給がひっ迫する中、ペトロナス社が被災地に速やかにLNGを供給してくれたことは忘れません。マレーシアが進める「マダニ(MADANI)政策」における持続可能性やイノベーションといった理念は、日・マレーシアで共通するものです。今回の訪問では、サプライチェーンの強靱化やレアアースといった新たな分野を念頭に、日・マレーシア経済関係の進展を確認する考えです。また、経済成長著しい東南アジアにおいて、脱炭素化・エネルギー移行は大きな課題であり、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指すマレーシアとともに、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想を通じた脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障の同時実現を図っていきます。加えて、日本の優れた脱炭素技術を導入し、炭素クレジットの創出を通じて両国の排出削減に貢献する二国間クレジット制度(JCM)の協議を加速し、早期署名を目指したいと考えています。さらに、マレーシアでは近年洪水が大きな問題になっていると伺っており、治水に知見のある日本として防災分野でどういった貢献ができるかアンワル首相とも議論したいと思います。
地域・国際情勢に目を向けますと、昨今、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢等、安全保障環境は厳しさを増しています。世界中のどこであれ、力や威圧による一方的な現状変更の試みは許されません。日本は、世界を分断や対立ではなく、協調に導くために取り組んでいます。太平洋とインド洋の二つの海の結節点に位置するマレーシアと海洋安保・海上保安分野で協力を強化することは、自由で開かれたインド太平洋の実現に資するものです。かかる観点から、我が国はOSA(政府安全保障能力強化支援)、ODA(政府開発援助)及び自衛隊や海上保安庁による協力を通じてマレーシアとの連携を強化しており、これを継続していきます。また、日本の最新技術を活(い)かしながら、サイバーセキュリティ分野でも協力していきます。
日本は、国際・地域社会の諸課題の解決に向けたASEAN議長国たるマレーシアのリーダーシップに対する支援を惜しまない考えです。特に中東情勢については、日本としても、ガザ地区において危機的な人道状況が続いていることを深刻に懸念しており、2023年10月7日以降、パレスチナの人々に対し、計約2億3,000万ドルの人道支援を実施しています。また、かねて日本は熱帯での農業に知見のあるマレーシアと共に、パレスチナにおける農業復興を支援してきました。日本はパレスチナ支援の独自のイニシアティブとして、「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」を2013年に立ち上げましたが、マレーシアと共にこの枠組みを最大限活用し、中東情勢の安定化に貢献したいと考えています。
2025年の私の外交は、ここマレーシアで本格始動します。今後もマレーシアの経済的・文化的魅力に惹(ひ)かれ、日本から多くの人々がこの地を訪れることでしょう。そうした多様な交流を通じ、日・マレーシア関係が一層発展していくことを確信しています。