APEC首脳会議出席に際しての石破総理によるエル・コメルシオ紙への寄稿文
太平洋を越えた日本とペルーの団結の絆~未来に向かって~
2024年11月15~16日にリマで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議の機会に、初めてペルーを公式訪問できることを大変嬉(うれ)しく思います。APECは1989年に発足しましたが、現在、アジア太平洋地域は、世界人口の約4割、貿易量の約5割、GDP(国内総生産)の約6割を占める「世界の成長センター」です。日本は、アジア太平洋地域の発展に歩調を合わせながら、この地域の貿易・投資を促進するとともに、持続可能な成長と繁栄に向けて様々な経済・技術協力を行ってきました。
ペルーは、日本にとって、中南米で最も早く外交関係を樹立した国であり、日ペルー関係は、昨年国交開設150周年を迎えました。また、ペルーは、第二次世界大戦後に日本が独立を回復して国際社会に復帰した際、これを力強く支持してくれた国でもあります。こうした長きにわたる友好関係を有する日本とペルーは、今日、価値や原則を共有する「戦略的パートナー」であり、また、経済・投資面でも重要なパートナーとなっています。今回の訪問においては、両国の関係を更に発展させるべく、今後の幅広い協力を見据えたロードマップをボルアルテ大統領と採択する予定です。
ペルーには日本国外で3番目に大きい約20万人の日系コミュニティがあり、今年は日本人がペルーに移住して125周年に当たります。ペルー社会が日本人移住者を包摂性を持って迎え入れ、125年にわたって日系社会と共に歩んでくれていることに感謝します。“Orgullosamente peruano, soy nikkei ”(注:私は誇り高きペルー人です、また、日系人でもあります。)とあるように、日系社会の皆様が、ペルー社会の一員として、その発展に多大な貢献をされ、また、日本とペルーの架け橋としても活躍されていることを喜ばしく思います。私は、今回の訪問を通じ、日系社会との更なる連携の強化を確認するとともに、そのような人的絆(きずな)を通じても、両国間の絆を深化させたいと考えています。
日本とペルーはまた、このアジア太平洋地域においてルールに基づく自由で公正な経済秩序を維持・拡充するため、共に努力する同志でもあります。両国は、WTO(世界貿易機関)を中核とするルールに基づく多角的貿易体制を一貫して支持するとともに、APECが掲げるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)アジェンダを通じて地域の経済統合に関する議論を進展させるために努力してきました。また、二国間の経済連携協定だけではなく、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)にも共に参加しています。
我々は大きな変化の時代を生きています。各国の内政や外交を様々な分断や対立が蝕(むしば)み、ウクライナでの戦争や中東情勢を始めとした地政学リスクは、アジア太平洋地域の成長の基盤である法の支配に基づく国際秩序を揺さぶっています。こうした中で、本年、APECの議長であるペルーが「エンパワーメント(Empower)」、「包摂(Include)」及び「成長(Grow)」という3つのテーマを掲げたことは、非常に時宜を得たものです。ペルーが、本年5月、APECで初めて貿易・女性担当大臣合同会合を開催し、包摂的な経済成長の重要性を訴えてきたことに日本も共鳴いたします。包摂性は、日本が取り組んでいる「自由で開かれたインド太平洋」の中核的理念の一つであり、また、日本が長年提唱してきた「人間の安全保障」にも深く通ずるものがあります。
私の故郷である鳥取県にルーツを持つ、日系ペルー人の詩人フアン・デ・ラ・フエンテ・ウメツは、次のように詠(うた)っています。
「怖いけど毅然(きぜん)として、
世界が始まる坂道を登って、
古い自由を手放してください
そしてこの新しい自由を受け取りましょう。」
日本は、国際社会を分断と対立ではなく協調に導くため、これからも、ペルーを始めとする志を同じくする国々と共に歩んでいきます。
来年、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに日本において大阪・関西万博を開催する予定であり、ペルーからもパビリオンを出展いただく予定です。ペルーの皆様にも是非御来場いただき、日本が世界と共に描く未来を体験して貰(もら)いたいと思います。
最後に、ペルー国民の皆様の御多幸と、相互理解と相互尊重に基づく友好関係が末永く続くことを心より願っています。