第79回国連総会における岸田内閣総理大臣一般討論演説

更新日:令和6年9月28日 総理の演説・記者会見など

 第79回国連総会において、岸田総理の一般討論演説を山﨑国連大使が代読しました。

【演説全文】

 議長、御列席の皆様、世界は歴史の転換点にあります。この歴史の大きなうねりが、この3年間の特徴であり、そして今後の数年間を規定するでしょう。私は、このような時期だからこそ、分断と対立を乗り越え、国際協調を進める必要がある、そのために我々は原点に立ち返るべきであると強調してきました。2022年は「国連憲章の原則と法の支配」、2023年は「人間の尊厳」に光を当て、国連を中核とする多国間主義を擁護すべきと訴えてきました。
 ウクライナ侵略は今なお続き、パレスチナ・ガザ情勢も深刻です。残念ながら、分断と対立はむしろ深まっています。困難な時代にあって、国際社会をつなぎ、連帯を深めるため、我々は基本に立ち返るべきであるとの私の立場は変わりません。国際社会が協調する上で、「法の支配」と「人間の尊厳」は、引き続き鍵です。
 本日、「法の支配」を強化し、「人間の尊厳」を守るため、国際社会をつなぐもう一つの原点として、国内・国際双方のガバナンス強化の重要性を訴えたいと思います。
 未来サミットにおいて、我々は、現在と未来の世代のため、行動を取ることを決意しました。若者・未来世代・女性が活躍できる、包摂的な社会を国際社会全体で築き、誰一人取り残さずSDGs(持続可能な開発目標)を達成する。この大きな目標に我々は共感しました。この目標の実現には、ガバナンスが重要であることにも皆が共感するでしょう。私は、このような共感が、国際社会のあらゆる構成員が責任を共有し、その責任を果たす上での基礎であると思います。
 私の今年のメッセージを端的に表せば、共通の責任に支えられた包摂性あるガバナンスです。
 議長、未曾有の危機と課題に立ち向かい、「法の支配」と「人間の尊厳」を守り、強化するため、日本は国際社会の一員としてガバナンス強化の一翼を担っていきます。
 第1に、繁栄の基礎を提供する国際の平和と安全を実現するためのガバナンスの強化、です。
 来年、国連創設80周年を迎えます。国連を、喫緊の平和・安全の課題や、新しい時代のニーズに対処できるよう変革する時にきています。
 既に2年半以上に及ぶロシアによるウクライナ侵略は、法の支配に基づく国際秩序にあからさまな挑戦を突きつけ、その根幹を揺るがしています。北朝鮮の核・ミサイル開発や、ガザ情勢、アフリカにおける紛争・テロなど、対処すべき課題が多くあります。
 国際社会は、国連、特に安全保障理事会が信頼性と透明性を有し、責任ある役割を実効的に果たすことを切望しています。
 未来サミットで世界の首脳は、安保理を緊急に改革する必要性があるとの力強く明確なメッセージを発しました。これに誠実に応えるべく、統合された改革モデル作成や文言ベース交渉早期開始が不可欠です。これに当たって、アフリカ・グループ含め、大多数の国が常任・非常任理事国議席の双方拡大を求めていることを強調します。
 国際社会の現実を反映した、途上国を含む代表性や実効性の高い安保理を実現するため、各国と協力してまいります。
 また、国際の平和と安全に総会が果たす役割を重視してまいります。
 「法の支配」に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、世界の平和と安定、繁栄を確保していくことが、未来世代のためにも必要です。
 私は、このような思いから、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を推進してまいりました。FOIPのビジョンは国連の目的とも合致するものです。このビジョンを共有するパートナーの輪を広げ、共に国際社会の様々な課題に共創の精神で取り組んでいきます。
 国内のガバナンス強化も国際の平和と安全、繁栄に不可欠です。日本は、これまでも、人間の安全保障の理念に基づく人間中心の国際協力の先頭を切ってきました。
 我々は、SDGs達成に向けた国際社会全体での取組を加速化しなければなりません。
 また、紛争の長期化による人道状況の悪化を食い止めるためには、「人道・開発・平和」の取組を相互に連関させ、紛争の根本原因に対処することが重要です。
 日本が安保理議長を務めた今年3月には、平和構築・紛争予防に関する公開討論を開催しました。「人道・開発・平和の連携」(HDPネクサス)をより一層促進するためにも、招集力(convening power)を持つ平和構築委員会(PBC)の機能及び安保理との連携を強化すべきです。
 これらの取組を推進するに当たっては、女性、若者、地方の視点を取り込んでいかなければなりません。
 女性・平和・安全保障(WPS)は、平和構築や災害復興プロセスに女性が参画し、主導的役割を果たすことにより持続可能な平和を達成しようとする取組です。女性の能動的な参画を可能とするガバナンスがあってこそ、その意義が高まります。
 こうした包摂的な社会の構築のためには、未来を担う世代を育て、彼らが様々な取組をけん引できるようにすることが重要です。このため、日本は、ジェンダー分野をけん引する次世代の育成プログラムを立ち上げる予定です。多様性に富み、新たな課題にも対応できる柔軟で強靱(きょうじん)な将来社会を実現すべく、ユースの育成、若手研究者の研究支援・ネットワーク構築、次世代のためのフォーラム開催に取り組みます。
 また、地方の視点も重要です。日本としても、地方にある元気な老舗やスタートアップを含む企業が持つ優れた技術を活用し、社会課題解決にも資する事業を推進し、地方と海外の経済に強固なプラスの循環をもたらすことができないかと考えています。
 各国の民間投資や国内資金の動員を下支えする観点からも、国内ガバナンスは持続可能な発展の基礎です。同時に、各国が持続的成長を達成することが、国際社会全体の持続可能性につながり、国際ガバナンスはこれを後押しできるのです。このように、あらゆるレベルのガバナンスを重視すべきです。
 第2に、国際社会が直面する新たな課題への対応にも、皆が責任を共有して、新たなアプローチで共に対処していこうではありませんか。
 まず、被爆地広島出身の私のライフワークである核軍縮・不拡散についてです。グテーレス事務総長は、昨年公表した「新・平和への課題」の勧告として、まず、核軍縮・不拡散を掲げました。国際社会の長年の努力に反し、今、世界は核兵器数の減少傾向が逆転しかねない瀬戸際にあります。地政学的状況の変化と国際社会の分断・対立の深化により、核兵器のもたらすグローバルなリスクが再び顕在化している状況を我々は直視しなければなりません。
 この深刻な懸念の下、「核兵器のない世界」の実現に向けた現実的かつ実践的な取組を強化すべく、私はこれまで、「ヒロシマ・アクション・プラン」の下、核軍縮の取組を着実に実施してきました。今年3月、安保理議長国の日本は、核軍縮・不拡散に関する安保理閣僚級会合を開催しました。23日にはこのニューヨークの地において、FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)フレンズの立ち上げ会合を主催しました。
 来年は、広島・長崎への原爆投下から80年の節目の年を迎えます。唯一の戦争被爆国である日本の使命であり、全ての核軍縮措置の原点として、被爆の実相への理解を促進するための取組を一層強化いたします。また、2026年NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議に向けて核軍縮の歩みを少しでも前へ進めてまいります。
 また、北朝鮮の非核化に向け、関連する国連安保理決議の完全な履行を含め、国際社会と一層緊密に連携していきます。我が国としても、引き続き、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。
 新興技術の急速な発展も、軍縮・不拡散の取組に新たな課題をもたらしています。新興技術の更なる発展を見据え、日本は、人道と安全保障の視点を勘案した、バランスのとれた議論を通じ、主要国を含め、広く国際社会において共通の認識が得られるよう、自律型致死兵器システム(LAWS)に関する国際的なルール作りに積極的かつ建設的に参加していく考えです。
 新たな課題には、デジタル技術もあります。未来サミットでグローバル・デジタル・コンパクトが採択されました。デジタル技術は、世界の未来を大きく変える力を有しています。人間の尊厳を守り強化するデジタル協力が不可欠です。
 デジタル技術の中でもAI(人工知能)については、その機会を最大化しつつリスクを軽減するための国際ガバナンスの形成が急務です。日本は、広島AIプロセスを通じて、安全、安心で信頼できるAIの実現に取り組んでおり、国連における議論にも積極的に貢献していきます。
 地球規模課題への対応が喫緊となる中、国際開発金融機関(MDBs)の改革も新たな課題として浮上しています。各機関の特性や理事会等における議論を反映したMDBs改革の更なる進展に貢献します。
 また、途上国の膨大な資金需要に対応するための民間資金の動員や、途上国が直面する債務問題も喫緊の課題です。国際的なルールやスタンダードを遵守した透明で公正な開発金融が今こそ必要です。
 気候変動問題も、国際社会全体が取り組むべき人類共通の重要な課題です。我が国は、新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題として気候変動問題を位置付けました。2050年ネット・ゼロ達成に向け、着実に行動しています。
 気候変動対策は、経済成長やエネルギー安全保障と両立するよう、多様な道筋の下で、全ての国が一緒になりネット・ゼロという共通の目標を目指すことが重要です。
 このような考え方を具体化する取組として、我が国は、AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)構想を提唱しました。アジア地域において、脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障を同時に実現するため、アジア各国と協力を進めています。
 私が今年訴えたいことは、共通の責任に支えられた包摂性あるガバナンスの重要性です。これは、多様な国々との連帯を前提とするものです。
 私は、昨年のG7広島サミットにおいて、G7を超えたパートナーへの関与の強化を一つの柱に据えました。その後ASEAN(東南アジア諸国連合)やインド、太平洋諸国、本年G20議長国を務めるブラジルを含む中南米諸国等との意見交換を通し、途上国国内での人間の尊厳を守るガバナンス強化の後押しを進めてきました。
 特に包摂的ガバナンス強化に取り組んでいるアフリカは、その果実も取り入れつつ、若い人口に支えられ、ダイナミックな成長を実現しつつある地域です。その一方で、紛争・テロや難民・避難民の発生等、平和と安定に関わる課題に加え、貧困、雇用創出、脆弱(ぜいじゃく)な経済・社会インフラ等の人間の尊厳に関わる課題も引き続き存在しています。
 平和と安定、そして持続可能な開発を実現するため、ガバナンスの強化が変革のテコとして重要です。また、成長につながる経済変革のためには、人材への投資、そのための国内外の資金動員が不可欠です。
 日本は、アフリカの長年のパートナーとして、財政管理や貿易円滑化の支援など、国内外の資金動員に資するエコシステムやガバナンス強化を支援してきました。また、民主主義の定着・強化のための選挙支援や、行政・司法分野の能力強化、さらに未来を共に創るためのコミュニティ間の対話、若者・女性を含む住民の政治・復興プロセスへの参画や生計強化を後押ししてきました。
 来年、首脳級会合であるTICAD9(第9回アフリカ開発会議)を横浜で開催予定です。アフリカの、そして、グローバルな課題に対する革新的解決策をアフリカの友人達や国連と共に創り上げていきます。
 その一環としても、後発開発途上国がLDC(後発開発途上国)卒業後も円滑に持続可能な発展を遂げられるよう、WTO(世界貿易機関)決定を踏まえ、更なる特恵的な措置について検討を進めてまいります。
 議長、今年の国連総会で皆で共感した未来に向けて、国際社会全体でガバナンスを強化し、法の支配や人間の尊厳が守られる、包摂的な社会に向けて、共に歩もうではありませんか。
 国連の果たす役割は大きく、国際社会が期待しています。日本も国連加盟国として、この歩みに貢献してまいります。
 御清聴ありがとうございました。

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