FMCTフレンズ・ハイレベル立ち上げ会合における岸田総理挨拶

更新日:令和6年9月23日 総理の演説・記者会見など

【岸田総理冒頭挨拶】

 御列席の皆様、本日はお集まりいただき、感謝申し上げます。
被爆地広島出身の私が、外務大臣時代から、また総理就任以降も一貫して取り組んできた核軍縮外交の総仕上げとして、本日、参加国を代表する皆様と共にFMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)フレンズを立ち上げることができ、大変嬉(うれ)しく思います。
 来年、我々は、人類初の核実験、そして広島・長崎への原爆投下による惨禍を目撃してから80年を迎えます。私の地元・広島には、被爆者の「核兵器のない世界」への願いを象徴する「平和の灯」がひとときも消えることなく燃え続けています。
 約60年前、国連総会において、米国のケネディ大統領は、全ての人間が、いつ切れてもおかしくない、か細い糸でつるされた核というダモクレスの剣の下で暮らしていると述べ、核廃絶の緊急性を訴えました。その後、1993年、同じ国連総会の場において、クリントン米大統領は、米ロ及び関係国による協調を通じて、この剣を下ろし、未来永劫(えいごう)封印すべく取り組む、と述べました。
 そして現在、ポスト冷戦期と呼ばれた時代は既に過ぎ去り、我々は、国際社会が分断と対立を深める、戦後最も厳しく、複雑な国際安全保障環境に直面しています。人類の頭上にか細い糸によって吊(つる)されたこの剣が再び大きく揺れ動きつつあるのです。
 我々は、冷戦期以来からの核兵器数の減少傾向が逆転しかねない瀬戸際に立っています。一部の国による、不透明な形での核戦力の急速な増強は、他の国をも巻き込む軍拡競争に火をつける可能性があります。
 グテーレス事務総長が提唱した「新・平和への課題」は、既存の軍縮機関の停滞とその再活性化の必要性を指摘しました。私も、この停滞が続いては、世界は益々分断の度を強めていくのではないか、と危惧しています。
 核軍縮・不拡散の礎石であるNPT(核兵器不拡散条約)体制は、失うには大き過ぎる人類共通の資産です。
 この体制への信頼を維持するため、我々政治的指導者が今、先頭に立つ必要があります。
 そうした思いから、私は、自らNPT運用検討会議に出席し、「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表しました。そして、昨年5月に発出した「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」においてもFMCTへの政治的関心を再び集めることを全ての国に求めました。
 FMCTは、核兵器の量的向上の制限をかけることで、世界的な核兵器数の減少傾向を維持していく枠組みとなるものです。クリントン大統領がこの構想を提唱してから30年、専門家たちはFMCTの技術的な要素について議論を重ねてきました。
 今こそ、専門家の議論を形にする、交渉開始のための強い政治的な意志が必要とされています。FMCT交渉の早期開始に向けたモメンタムを生み出すことが、2026年のNPT運用検討会議に向け、NPT体制の維持・強化につながるものと確信しています。
 約80年前、広島・長崎の被爆者の方々は、「人間の尊厳」を奪う、核兵器の恐ろしさを直接体験しました。その皆様も既に御高齢に達しています。「核兵器のない世界」への願いとともに、被爆の実相を改めて、世界に、そして次世代に広めていくことが必要です。
 来年、広島・長崎被爆80年の機会に、「被爆者等の海外派遣」、「被爆地訪問」、「対外発信の強化」の三つの柱を据えた被爆の実相への理解促進に取り組む予定です。その上で、我々世界の政治的指導者には、いつの日かダモクレスの剣を未来永劫(えいごう)封じる、という責任を有していることを認識しなければなりません。
 私は、被爆地広島出身であり、唯一の戦争被爆国である日本の責任ある政治家として、引き続き「核兵器のない世界」に向けた現実的な歩みを支えていくことを心に誓っています。そして何よりも、「平和の灯」がその役割を終え、消灯される日が訪れるよう、核軍縮に向けた取組を前に進めていきたいと考えています。
 我が国は、ここに集まられているFMCTフレンズ創設メンバーの皆様と協力しながら、このイニシアティブを推進させていきます。皆様、共に取り組んでいきましょう。御清聴ありがとうございました。

【岸田総理締めくくり挨拶】

 FMCTフレンズ創設メンバーの皆様、本日は立ち上げ会合にお集まりいただき、改めて感謝します。皆様からFMCT交渉開始への支持拡大に向けた意欲を直接伺い、大変心強く思います。
 スタッフからは常々、挨拶は短く、と注意されますが、こと核軍縮についてはどうしても欲が出てしまいます。
 来年の被爆80年を見据え、そして、2026年のNPT運用検討会議に向けて、我々は、NPT体制が核軍縮・不拡散体制の礎石であることを実際の行動によって示す必要があります。国際安全保障環境が益々厳しさを増す今だからこそ、我々は、このNPT体制の下で核軍縮を前進させていかなければなりません。
 FMCTフレンズは、まさに3つのC、すなわち停滞するFMCT交渉開始に向けた、関係国の間の対話のコア(core)となり、利害の対立する国々との間のコミュニケーター(communicator)となり、そして対話を加速させるカタリスト(catalyst)となることが期待されています。
 被爆地広島出身の一市民として、私には、核廃絶に向けた強い願いがあります。同時に、唯一の戦争被爆国である日本の責任ある政治家として、私は日本が「核兵器のない世界」に向けた現実的かつ実践的な取組を進めていく使命を負っていることも認識しています。
 NPT体制は、核兵器国、非核兵器国が広く参加する唯一の、「核兵器のない世界」に向けた、ユニバーサルな枠組です。その下で、現実的な取組を一歩一歩進めていくことが今こそ求められています。その中でも、FMCTは正に無くてはならないものだと確信しております。
 FMCTフレンズ創設メンバーの皆様、なんとしてもFMCTの交渉開始にこぎ着けることができるよう、引き続き共通の目標に向かって共に取り組んでいきましょう。ありがとうございました。

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