フランス、ブラジル及びパラグアイ訪問等についての内外記者会見

更新日:令和6年5月4日 総理の演説・記者会見など

【岸田総理冒頭発言】

 今回の訪問を終えるに当たり、所感を申し上げます。国際社会が緊迫の度を高め、歴史的な転換点を迎えている現在、私は昨年のG7広島サミットの成果を土台としつつ、各国と具体的な協力関係を築き上げるため、常に二つの点を意識し、首脳外交に当たってきました。
 まず、各国と共に法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く姿勢を毅然(きぜん)と示すとともに、その連携の輪を広げていくこと。その際、それぞれの国が抱える課題や事情に寄り添ってきめ細かく日本ならではの対応を行うこと。今回の訪問においても、これらの点を念頭に臨みました。
 まず、日本が10年ぶりに議長国を務めたOECD(経済協力開発機構)閣僚理事会です。OECDの強みは、民主主義と市場経済という共通の土台を持つ38か国がメンバーとなり、さまざまな分野でのルールやスタンダード形成を行っている点にあります。また、2,000人を超えるエコノミストを擁し、その豊富なデータや分析力も強みです。日本は60年間にわたり、そうした議論に積極的に参加をしてきました。
 とりわけ今回は、議長国として「変化の流れの共創」というテーマの下、気候変動、デジタル・AI(人工知能)、自由貿易、経済安全保障等の課題について議論を主導しました。
 今回、私から特に安全安心で信頼できるAIの実現に向けた取組を強化するため、49か国・地域の参加を得て、「広島AIプロセス・フレンズグループ」の立ち上げを発表できたこと、また、脱炭素社会の形成に向けた閣僚対話をOECDと共に立ち上げられたことは重要な成果であると考えています。
 加えて、今般、インドネシアとタイが加盟に向けて動き出したことは画期的です。10年前、私が外務大臣を務めていた時代に、OECDと東南アジア各国との関係を深めるプログラムを立ち上げましたが、日本の努力がようやく成果を出しつつあることは感慨深いものがあります。
 そして、パリを訪れたこの機会に、フランスのマクロン大統領との首脳会談も行いました。ウクライナや中東、東アジア情勢等の国際情勢についてじっくりと議論を行うとともに、二国間関係については日仏部隊間協力円滑化協定、いわゆるRAAの正式交渉開始という具体的な成果を発表することができました。
 昨日・本日は、私が総理に就任してから初めての南米の訪問先として、ブラジル、パラグアイへと移動してきました。この両国を始め、中南米には鉱物、エネルギー、食料を含め豊富な自然資源があり、若者の人口が多く、大きなポテンシャルを有する国が多くあります。一方で、その多くの国が格差や貧困等の社会課題を抱えていることも事実です。
 こうした観点も踏まえ、本日、日本の総理として10年ぶりとなる対中南米政策スピーチを行いました。この演説では、中南米諸国を、「人間の尊厳」が守られる世界に向けた「道のり」を共に歩む、かけがえのないパートナーと位置付けました。そして、その実現に当たり、多様な「道のり」を尊重しながら、日本と中南米が取り組むべき具体的な協力のビジョンを発信しました。
 ブラジリアでは、ルーラ大統領との間で共同声明を発表し、「戦略的グローバル・パートナー」として一層連携を強化することを確認しました。また、本年のG20(金融・世界経済に関する首脳会合)リオ・サミットの成功に向け、飢餓・貧困、エネルギー移行と持続可能な開発、グローバル・ガバナンス改革といった優先課題について協力することを確認しました。
 来年のCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)は、ブラジルのベレンで開催される予定です。気候変動対策を重視するルーラ大統領とは、この度、「日ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ」を立ち上げるとともに、ブラジルのバイオ燃料、合成燃料等に関する高いポテンシャルと日本の先端技術等を結び付けて、世界のカーボンニュートラルの実現に貢献するべく、「ISFM(アイスファム:Initiative for Sustainable Fuel and Mobility)」の設立に合意しました。
 私にとって初めての訪問となったパラグアイも、競争力のある労働力や豊富な資源、良好な投資環境と高いポテンシャルを有しています。ペニャ大統領とは、今年で105周年を迎える両国の友好協力関係を確認しつつ、経済関係の強化などについて協議を行いました。また、台湾承認国であるパラグアイと東アジアを含む国際情勢についても率直な意見交換を行いました。
 中南米諸国にある300万人を超える日系社会との連携強化も重要な課題です。今回、ブラジリア、アスンシオン、ここサンパウロにおいても、若い世代を含む日系人の方々と意見交換を行いました。
 南米各国における日本に対する信頼は日系人の方々がこれまで、その勤勉さをもってたゆまぬ努力を積み重ねてこられた証(あかし)です。この礎を将来につなげるためにも、今後3年間で中南米の日系社会との間で約1,000名の人的交流を行うことを発表しました。
 今回の訪問のもう一つの大きな意義は、経済ミッションの方々に同行いただいたことです。ブラジル・パラグアイ合わせて約50社の日本企業と、JICA(独立行政法人国際協力機構)、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)、NEXI(株式会社日本貿易保険)、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)などの政府系機関の幹部に集まっていただきました。交流強化のため、大学からも参加いただきました。その結果、気候変動対策や農業、鉱物資源、保健、そのほか多岐にわたる分野で、約50件の協力文書が署名されました。パラグアイとは伝統的な協力の域を超え、宇宙分野でも協力覚書が署名されています。
 今回、非常に充実した日程をこなすことができ、結びに当たり、温かく迎えてくださった皆様方には心より感謝を申し上げます。
 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持強化し、「人間の尊厳」を守る世界を実現する、この根源的な共通の目標に向けて、日本は中南米諸国を含む各国に対し、多様性・包摂性のある日本らしい、きめ細かい協力を行っていきます。今後も、「平和国家日本」だからこそ進めることができる、協調の国際社会に向けた首脳外交に全力で取り組んでまいります。私からの冒頭の発言は以上です。

【質疑応答】

(NHK 小口佳伸記者)
 NHKの小口と申します。よろしくお願いいたします。
 私から外交について質問させていただきます。今、冒頭、今回の訪問の実績、成果について述べられましたけれども、今回、取り分けフランスでは、OECDとグローバル・サウスの一角である東南アジアとの懸け橋になりたいというお話をされましたし、その後、フランスから遠く離れた、グローバル・サウスを占めるこの南米を訪問先として選ばれた。こういったことを考えますと、今回の訪問というのは、対中国ですとか、対ロシアというのを意識したグローバル・サウスとの連携強化というのが主眼にあったように感じました。今後、この訪問の成果をどのようにいかして、このグローバル・サウスとの連携を発展させていくお考えなのかをお聞かせください。
 また、そうした対中国を意識した外交を広げる中で、今月下旬、26日、27日にも中国と韓国を交えた日中韓の首脳会談をソウルで開くという話が聞こえてきています。このタイミングで東アジアをリードする両国とどういった議論をするお考えなのか。また、この覇権主義的な動きですとか、海洋進出を強める中国とバイの個別の首脳会談は行うのか、行うとすればどういったことを直接訴えたいのかお聞かせください。
 そして最後に。このブラジルはでは今度G20サミットが開かれます。総理、昨年インドも行かれていましたが、そういうグローバル・サウスの代表国ですとか、国際社会で重要な役割を担う国がG20サミット参加してきますけれども、ルーラ大統領とも飢餓や貧困での協力を確認したとのお話でしたが、日本としてどういう役割をここで担っていきたいとお考えかお聞かせください。

(岸田総理)
 まず冒頭申し上げたとおり、今回の3か国訪問に当たりまして二つの点、これを意識したということを申し上げました。二つの点、すなわち、各国と共に法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く姿勢を毅然と示し、その連携の輪を広げるということ、もう一つは、その際にそれぞれの国が抱える課題、あるいは事情に寄り添ってきめ細かく日本らしい協力対応を行う、この二つを意識し、今回多くの成果を上げることができたと考えています。
 特にグローバル・サウスとの連携という観点から、今回の訪問は大変有意義であったと感じています。OECDでは、東南アジア諸国の成長・発展に向けた「伴走者」となるよう、日本としての新しい取組、これを立ち上げることを確認しました。
 また、ブラジル・パラグアイの訪問においては、経済関係のみならず、エネルギー移行、あるいは気候変動、こうした幅広い分野で具体的な協力を進展させることも確認できました。
 さらには、今申し上げたような国際秩序を維持・強化し、そして「人間の尊厳」を守る世界を実現するという目標に向けて、日本らしい多様性、あるいは包摂性のあるきめ細かい協力を行うこと、これを本日の対中南米政策スピーチにおいて、広く発信いたしました。今後、本日のスピーチで打ち出した政策に基づいて、中南米諸国との間で幅広い協力を進めていきたいと考えています。
 このように、グローバル・サウスとの関係、連携強化ということにおいて、様々な成果が挙げられたと感じています。
 そして、日中韓サミット、あるいは日中首脳会談について御質問がありました。日中韓サミットや日中首脳会談について、今現在、日程等、何ら決まったものはありませんが、我が国としては、引き続き議長国である韓国の取組、これを支持しながら、こうしたサミット等の開催に向けて3か国で調整を続けていきたいと考えています。
 そして、もう一つG20についてですが、G20については本年ブラジルが議長国を務めるわけですが、昨日ルーラ大統領との間において、G20における優先課題について幅広く議論を行っています。日本としては、昨年のG7広島サミットの成果を踏まえつつ、ブラジルと連携をしながら、G20リオ・サミット成功に向けて、引き続き協力をしていきたいと考えています。以上です。

(TVBAND オリヴィア・フレイタス・リマ・モンサント記者)
 総理、こんばんは。私の名前はオリヴィア・フレイタスと申します。TVBANDです。
 日本は、非常に環境問題とか気候変動の問題とかアマゾンの問題について懸念しています。日本は1970年と80年代に、ブラジル内部中西部において、JICAのセラード計画を実施し、ブラジルにおける大豆の栽培を行って輸出することによって、世界への食糧供給増大を実現するという奇跡を起こしてくれました。
 今日、日本は、ブラジルをパートナーとして、日本のテクノロジーを使って、ブラジルの環境問題のあるところ、例えばアマゾン地域の持続可能な開発というのを日本の進んだテクノロジーを使って解決しようというお考えはありますでしょうか。

(岸田総理)
 御指摘のとおり、日本はセラード計画を通じて、かつて「不毛の大地」と呼ばれた広大な土地を豊かな穀倉地帯に変えることに協力いたしました。その結果、ブラジルの大豆生産量、これは飛躍的に増加し、今やブラジルは世界有数の大豆輸出国になっている、こうした今日の状況につながっています。
 そして、アマゾンについて御指摘がありましたが、「世界の肺」とも言われる、アマゾン地域の持続的な発展、これについては、日本にとっても他人事ではないと思っています。日本にとってもアマゾンの発展は重要な目標であると考えています。
 日本は、アジアの国では初めて、アマゾン基金への拠出を実施いたしました。また、今回、「日ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ」、これをルーラ大統領と共に立ち上げました。日本は先進的レーダー衛星、あるいはAI技術等の活用を通じて、アマゾンの違法伐採対策に協力するなど、引き続きアマゾン地域の持続可能な発展に向けて貢献を続けていきたいと考えています。以上です。

(日本経済新聞 秋山裕之記者)
 日経新聞の秋山です。内政について伺います。
 政治資金問題については、政治資金規正法を今国会で成立を目指すということですが、野党との調整が多く考えてですね、総理がかねて主張している3点に加えて、例えば、旧文通費の使途公開など実施するお考えはありますでしょうか。
 また、憲法改正については、公約してきた今の自民党総裁任期中の実現というのは難しくなっているように見えますが、今国会の間に発議案を取りまとめるお考えはありますか。
 また、9月の総裁選で再選を目指すお考えはありますか。
 政治資金問題で国民の政治不信が高まっていることも踏まえ、今国会中に衆議院を解散して信を問うお考えがありますでしょうかよろしくお願いします。

(岸田総理)
 政治資金規正法については、まずは再発防止に向けた改正が喫緊の課題であり、今国会中の改正に向けて全力を挙げていきます。さらに、それ以外の論点についても、ゴールデンウィーク明けから政治改革特別委員会での議論に資するように、6日の帰国当日にも、党の政治刷新本部のメンバーと面会し、さらに、何をすべきか改革の方向性、これを確かなものにしていきたいと考えています。
 その中で、旧文通費については党に対し支出可能経費の確定、そして支出の公開の在り方など、残る課題について、各党各会派間で議論を再開するよう、既に指示を出しています。早期に結論を出せるよう、各党と議論を行ってまいります。
 また、憲法改正について御質問がありました。内閣総理大臣の立場からは、憲法の議論の進め方等について直接申し上げることは控えなければなりませんが、自民党総裁として申し上げるならば、任期中に憲法改正を実現したいという思いは、いささかも変わりはないと考えています。
 そして自民党としては、この条文起草のための期間を各会派の理解を得て設置し、憲法改正原案を作成するという党の方針に則って取り組んでいるところであり、時間的制約がある中でも、一歩でもこの議論を前に進めるため、最大限努力していきたいと考えています。
 そして、解散総選挙ですとか、あるいは総裁選挙といった政治日程についても御質問がありましたが、これは従来から申し上げておりますように、政治改革の実行、あるいは経済対策など先送りできない課題、さらには、外交も含めた内外の諸課題について、全力で取り組んでいく。これに専念していく。このように申し上げています。こうした課題について結果を出すことが重要であると考えており、それ以外のことについては、現在考えてはおりません。以上です。

(ニッポン・ジャー ホドリーゴ・メイカル運営局長)
 私はニッポン・ジャーというメディアのホドリーゴ・メイカルと申します。
 総理、日本政府は、日系社会については先人達が残してくれた宝であり、レガシーであると捉えていると思います。しかし、現在は日系6世まで誕生しています。日本の祖先との関係が彼らには少し薄れていると思います。
 日本政府は、日系6世を始めとするこのような若い世代に何を期待するのでしょうか。また、どのように彼らとの関係を強化していきますか。総理もアニメを好きだと聞いておりますが、いかがでしょうか。

(岸田総理)
 今回訪問したブラジリア、アスンシオン、さらにはここサンパウロ、いずれの都市においても、この日系人の方々の生の声を聞く機会を設けていただきました。
 各国で様々な分野において、日系人の方々が活躍されているということ。これは日本と中南米を結ぶ大切なきずなであると考えています。また、中南米諸国の日本に対する信頼や尊敬を醸成する礎になっている、この日系人の皆さんの活躍は、こうした信頼や尊敬の礎にもなっている。このように考えており、一層日系人の方々との連携、強化していきたいと考えています。
 そして、その中で御指摘のように世代交代が進む中、若い世代の日系人の方々との関係強化、これは重要であると、私も認識をしています。今回も若い日系人の皆さんと懇談する機会を頂きました。文化、ビジネス、さらには社会貢献、様々な分野で多くの方が活躍されている、こういったお話を聞いて、感銘を受けさせていただきました。
 こういった若い世代の日系人の方々とのきずな、これは今まで以上に太く、そして強いものにしていきたいと思っています。こうした思いから、今回、中南米の日系社会の皆さんとの交流の新しいプログラムを立ち上げた次第です。すなわち、今後3年間で約1,000名の方々の交流を実現する、こういった方針を明らかにさせていただきました。
 私は総理に就任して以来、「人への投資」、これを政策の柱の一つに掲げてきました。日本と中南米をつなぐ日系人の方々の活躍を、今後とも力強く後押しさせていただきたいと考えています。以上です。

関連リンク

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