日経フォーラム第28回「アジアの未来」晩さん会 岸田総理スピーチ

更新日:令和5年5月25日 総理の演説・記者会見など

 内閣総理大臣の岸田文雄です。「アジアの未来」の盛大な開催を心からお喜び申し上げます。
 アジアのリーダーの皆さん、ようこそ日本にお越しくださいました。この晩さん会でアジアのリーダーの皆様を前にお話しさせていただく機会を頂き、大変光栄に思っております。
 皆様をお迎えするに先立って、この日曜日、私が議長を務めたG7広島サミットが、無事、閉幕いたしました。
 歴史の転換点を迎える中で、世界が直面する様々な難しい課題に、正面から向き合った今回のサミットは、歴史に残るものとなったのではないかと感じています。
 G7広島サミットの歴史的意義をあえて申し上げるならば、次の3点だと思っています。
 第1は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持と強化です。国際社会がよって立つ、人類普遍の原則の重要性を再確認し、これをG7の意志として、力強く世界に発信できました。
 また、ウクライナ支援と対ロ制裁、自由で開かれたインド太平洋、また経済安全保障といった取組において、G7の結束と連帯を一層強化することができました。
 第2に、G7と、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々を含む国際的なパートナーとの関与の強化です。インドネシア、ベトナム、インド、韓国など8か国の首脳と7つの国際機関の長をお招きして、食料・エネルギー問題や気候変動等のグローバルな課題について、G7との連携や協力を強化できたことも重要な成果です。
 そして、ウクライナのゼレンスキー大統領をお招きして、招待国を交えた拡大会合を開催し、議長として、次の4点について、見解の一致を取りまとめました。すなわち、1つ目はすべての国が、主権、領土一体性の尊重といった、国連憲章の原則を守ること、2つ目は対立は対話により平和的に解決することが必要であり、国際法や国連憲章の原則に基づく、公正で恒久的な平和を支持すること、3つ目は世界のどこであっても、力による一方的な現状変更の試みを決して許してはならないということ、4つ目は法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くということ、以上の4点です。
 グローバルサウスと呼ばれる国々の首脳も参加する場で、このような点について認識を一致させることができたことは、現下の国際環境の状況を鑑みれば、正に、歴史的な、大きな意義があったと考えています。
 そして、第3に、広島という平和を象徴する場所で、核兵器による威嚇ましてやその使用はあってはならないというメッセージを、強く発信することができたことです。
 G7初の独立文書として「核軍縮に関するG7広島ビジョン」を取りまとめることができました。「ヒロシマ・アクション・プラン」の実践を通じ、現実的で実効性のある取組を継続・強化してまいります。
 G7を被爆地広島で開催した大きな狙い、つまり、世界のリーダーに被爆の実相に触れていただき、それを世界に発信してもらうという目的も果たせました。参加したすべての首脳や国際機関の長に平和記念公園を訪れていただき、広島という街が体現するメッセージを全身で受け止めていただいたと感じています。
 今回のG7サミットに続き、本年後半の主要な国際会議も、また、アジアを舞台に開催されます。
 広島サミットの成果は、インドネシアで開催されるASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議や、インドで開催されるG20首脳会合などにつなげていきます。
 そして、本年12月には、日ASEAN50周年を記念する特別首脳会合を東京で開催いたします。広島サミットの成功の熱気もそのままに、本日御列席の皆様の御協力を頂きながら、我々アジアのより良い未来に向けて、共に歩みを進めていきたいと考えております。
 ここで、日本が提唱した自由で開かれたインド太平洋、FOIPについて触れたいと思います。
 FOIPは、放置すれば分断と対立に向かいかねない国際社会を、協調に導くための指針となる考え方です。
 自由とは、各国が、その大小に関わらず、自らの主権に基づき自由に意思決定ができることであり、自由であるためには、法の支配が不可欠です。また、開かれたとは、多様性、包摂性、開放性といった理念を尊重することを意味しています。
 価値観を一方的に押しつけない、特定の国を排除しない、といった考え方を皆で共有し、実践していくことが重要です。分断を生み出さない、自由で公平・公正な経済秩序のためにも、他国を威圧したり、不透明・不公正な開発金融によりいわゆる債務の罠(わな)に陥れるようなことは認められません。
 近年、ともすると、自由主義対権威主義、あるいは先進国対途上国といった二項対立構造を強調し、世界の分断を煽(あお)るような言説、行動も見受けられます。
 日本は、アジアの包摂的かつ持続的な成長に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を擁護します。
 本年3月に、私は、「FOIPのための新たなプラン」を発表しました。その際申し上げたインド太平洋流のアプローチは、FOIPの協力を進めていくための重要な考え方です。
 インド太平洋流のアプローチとは、多様な価値観、文化、歴史を受け入れ、相手を尊重し、相手に寄り添い、対話を通じて協力を推進し、様々な課題に、現実的・実践的に対処していく、というものです。
 日本は従来から、こうした考え方を大切にしてきました。心と心の触れ合う関係を築き、対等なパートナーとして協力してきた、日本のASEAN外交。正に、インド太平洋流のアプローチの実践そのものです。
 日ASEAN関係は、今年、50周年を迎えます。相互の信頼と尊重によって強固に結びついた、今日の日ASEAN関係を考えるとき、このアプローチの有効性と意義は、証明されています。
 その確信があるからこそ、私は、総理就任以来、アジアを中心に、世界の多様な国々の首脳と膝を突き合わせて議論を行い、様々な声を伺うとともに、相互の信頼関係を醸成してきました。
 そうした訪問の成果は、今回のG7サミットでの議論に、十分に活(い)かすことができたと思っています。グローバルサウスが直面するエネルギー・食料危機、気候変動問題、質の高いインフラ整備、ユニバーサルヘルスカバレッジなど、多くの課題について、G7が一致して行動することを確認することができました。
 こうしたインド太平洋流のアプロ―チにより、日本ならではの形で、アジアの平和と安定、そして繁栄に、貢献してまいります。
 次に、「アジアの未来」を築くために、具体的にどのような行動を起こしていくべきなのか、ということを申し上げたいと思います。
 キーワードは、イコールパートナーシップに基づく多層的な連結性の実現と、それらのつながりを通じて、日本とアジアが、また政府と民間セクターなどが、それぞれ手を取り合ってアジアの未来を共に創っていく、共創だと考えています。
 日本は、アジアの国と、幅広い分野でのつながりと人的交流により、切っても切れない関係を築いてきました。それは今も、拡大・深化を続けています。
 例えば、経済。日本といえば、自動車、製造業、というのがこれまでのイメージだったと思いますが、今や、それに加えて、ダイソー、無印良品、ユニクロ、一風堂、イオン、ドンキホーテなど、アジアの街中で、より生活に身近なところにも、日本発の商品やサービスが広がっています。
 そして、日本に来る外国人旅行客の大多数は、アジアからのお客さんです。新型コロナで落ち込んだ人の往来は、コロナ前の水準を取り戻しつつあります。
 例えば、スポーツ。皆さんは、2018年から5年間にわたり、サッカーのカンボジア代表のGMを務めた人が誰か、知っていますか。本田圭佑という、日本サッカー界のスーパースターです。逆に、タイのチャナティップ選手など、ASEANのスター選手も、日本のサッカーリーグであるJリーグで大活躍しています。
 また、韓国のドラマは、日本で大人気ですが、最近では、タイのドラマも日本で人気を博していると聞いています。逆に、日本のドラマやアニメも、アジア各国で人気を博していると聞いています。
 ASEAN各国の政財界の方が最も信頼する国は日本だというシンクタンクによる調査結果があるとも聞きました。これまでの歴史を通じて築きあげてきた信頼が、日ASEAN関係の基盤となっています。
 この基盤の上に、日本とアジアの強固な関係を支える、経済、スポーツ、文化、芸術など、幅広い分野でのつながりや人的交流を、一層深めてまいります。
 そして、未来に向けた新たなつながりを創ることにも、力を注(そそ)いでまいります。
 成長著しいアジアは、世界の一大消費市場になりつつあります。一方で、貧富の差や、交通渋滞、金融・情報・エネルギーインフラの脆弱(ぜいじゃく)性など、多くの社会課題にも直面しています。
 消費市場としての魅力と、社会課題解決への強い熱意が、この地域を、一大イノベーション拠点へと変えようとしています。
 日本とアジアは、このイノベーションの分野で、新たな関係を築いていくことができると確信しています。
 例えば、手数料なし、銀行口座なしでも使えるデジタル通貨。カンボジアで使われているバコンと呼ばれるこのシステムを実現したのは、日本のスタートアップでした。カンボジア国立銀行の30代、40代の若い幹部たちの情熱が、日本で生まれたばかりのスタートアップの斬新なアイディアと結びつき、銀行の支店がない農村部の人たちにも、広く金融サービスの恩恵をもたらしました。
 このバコンは、タイ・マレーシアなど、近隣諸国との国境を越えた取引にも利用され、人々を、便利に、そして豊かにし、イノベーションの新たな地平を開こうとしています。
 先日、日本が音頭を取る形で、シンガポールにおいて、シンガポール、日本の大企業と、アジアのスタートアップを結びつけるピッチングイベントを開催し、大変好評を博しました。
 国境を越えたイノベーションの連鎖を生み出すことで、第2、第3のバコンを生み出していけると考えています。
 スタートアップならではの、斬新なアイディアと、挑戦を続ける開拓精神こそが、エネルギー、気候変動、災害、ヘルスケアなど、様々な分野で新たな時代を切り拓(ひら)く原動力となると信じています。
 その舞台は、南アジア、ASEANから南太平洋の島々に至るまで、広大なエリアに広がっています。インド太平洋は、正にイノベーションのニューフロンティアなのです。
 このニューフロンティアに挑戦するスタートアップを、日本は、米国、豪州、ニュージーランドなど、FOIPの考え方を共有する国々とも協力しつつ、力強く応援していきます。
 ASEANの企業と、日本企業が協力してアジアの社会課題を解決するためにイノベーションを共創するアジアDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取組も一層進めます。
 最近では、アジアで生まれた成果を、日本に持ち帰り、日本が、ASEANの力を借りて社会課題を解決する機会も増えてきました。
 様々な社会課題に直面するアジア。この社会課題を成長のエンジンに転換することができれば、無限の可能性を持つ地域だと感じています。
 社会課題を成長のエンジンに転換する。これは、私が推し進める新しい資本主義の考え方そのものです。この考え方の下で、人に着目したアプローチを大切にしながら、多層的な連結性を高め、アジアの未来を共創していく。
 こうした、アジア未来共創に向けた幅広い分野でのイニシアティブを通じて、アジア各国との協力を更なる高みへと引き上げることで、皆さんとともに、自由で開かれたインド太平洋の更なる繁栄に向けた基盤を強化していきたいと考えています。
 様々なつながりを生み出すイノベーションが、スマートフォンで言えばアプリだとすれば、貿易投資、デジタル、グリーンを巡るルールや、インフラ整備、経済安全保障などは、それらのアプリを動かすために必要なOSに当たるものです。
 70年代からの日本の投資をきっかけに、ASEAN各国が生産能力を高め、ASEAN経済共同体を実現、そして日本も一緒になって、米国、中国をつなぐアジア経済統合を進めてまいりました。
 活発な経済活動のためには、自由で公正な経済ルールが不可欠です。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、RCEP(地域的な包括的経済連携)を始め、ASEANが域内、域外と進めたFTA(自由貿易協定)のネットワークがそれを支えてきました。
 IPEF(インド太平洋経済枠組み)は、1年前に立ち上げた、新たな経済枠組みです。ちょうど今、米国デトロイトで、IPEFの交渉が行われています。日本はアジアの一員として、アジアと米国の橋渡しをしつつ、有意義な成果を実現していきたいと考えています。
 デジタル分野では、日本が提唱し、今般のG7広島サミットで合意したDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の具体化に向け、東アジア・ASEAN経済研究センター、ERIAにデジタルイノベーションセンターを立ち上げ、アジア域内の、信頼性のあるデータ連携、サプライチェーンの高度化に取り組みます。
 グリーン分野で取り組んでいるのが、「アジア・ゼロエミッション共同体」構想です。広島サミットで、エネルギー安全保障、気候危機、地政学的リスクを一体的に捉え、各国の事情に応じた多様な道筋のもとでネット・ゼロという共通のゴールを目指す、つまりOne Goal、Various Pathwaysの考え方を、共有しました。
 G7広島サミットの機会には、ベトナムのチン首相に、日本が誇る世界初の水素輸送船を見学していただいたと聞いています。水素サプライチェーンの中核を担う船です。
 日本は、培ってきた水素やアンモニアなどの脱炭素技術や経験を活かしながら、具体的プロジェクトを積み上げ、この構想を実現し、地域のパートナー国のエネルギー移行を支援していきます。
 広島サミットでは、経済安全保障について、初めて独立したセッションで議論を行いました。この分野での声明を取りまとめ、「強靭(きょうじん)で信頼性のあるサプライチェーン原則」に一致いたしました。国際法を順守し、自由で公平、互恵的な経済・貿易関係を促進すること、また経済の相互依存関係を武器として利用しないこと。日本は、こうした原則を世界に広げ、国際的なパートナーの国々と共に、グローバルな経済的強靭性を強化する。そのために、中心的な役割を果たしていきます。
 また、G7が結束して、グローバルサウスのインフラ整備に取り組んでいくことも確認しました。民間資金を呼び込みながら、スマート工業団地、地域の連結性を高める鉄道や道路などの交通ネットワーク、エネルギー移行に向けたインフラなどの整備に、取り組んでまいります。
 これらの取組は、強固な国と国の関係の上にこそ、花ひらくものです。
 新たなFOIPプランの中で、協力の重要地域として挙げた、東南アジア、南アジア、太平洋島嶼(とうしょ)国、そして、日本の重要な隣国である韓国との協力について、申し上げたいと思います。
 第1に、東南アジアとの協力の深化です。先ほども触れたように、日ASEAN関係は、今年、50周年を迎えます。この半世紀、日本は、一貫して、ASEANの中心性、一体性を支持してきました。また、FOIPと多くの原則を共有するAOIP(インド太平洋に関するASEAN・アウトルック)推進に向けた協力を進めてきました。
 文化のWA、ジェネシスといった、魅力ある文化・人的交流の支援も引き続き行っていきたいと思っています。また、ASEANの若手起業家などを日本にお招きし、「日ASEANヤング・ビジネス・リーダーズ・サミット」を開催し、次代を担う新たなつながりを創っていくことにも取り組んでまいります。
 本年12月の日ASEANの特別首脳会議の機会には、日ASEANの次の50年を描く新たな協力のビジョンを打ち出し、次のステージへと進めてまいります。
 第2に、南アジアとの連携強化です。FOIPの新たなプランで打ち出したベンガル湾・インド北東部の産業バリューチェーン構想は、ハード・ソフトの連結性支援に加え、民間投資を促進し、バングラデシュやインドと協力しながら、地域全体のビジネス・産業の育成を目指すものです。日本の産業界の利益にもなる、様々なプロジェクトを具体的に進めていきます。
 昨年、日本との外交関係樹立70周年を迎えたスリランカは、インド洋のハブでもあります。日本はスリランカの債務問題への対処において、債権国間の議論をリードしてきました。引き続き、債務再編の取組にも貢献し、スリランカが一刻も早く成長の軌道に戻れるよう、引き続き取り組んでまいります。
 第3に、太平洋島嶼国との協力も、これからますます深化させていきたいと考えています。
 クック諸島のブラウン首相を始め、パラオ、フィジー、ツバルなどの首脳と、会談を重ねています。気候変動による海面上昇やハリケーンなど、太平洋島嶼国地域が抱えるリスクに寄り添い、手を差し伸べて、脆弱性の克服を共に行っていくことも重視しています。
 同地域の安定的な発展は、我々の利益でもあるからです。来年、日本が主催する太平洋・島サミットに向けて、取組を一層強化していきます。
 最後に韓国との協力です。私はユン大統領と共に、12年ぶりとなるシャトル外交を再開し、G7広島サミットの機会を合わせ、この2か月で3回の首脳会談を行いました。FOIPの実現について、かみ合った議論を行うことができたと感じています。引き続き、日韓間で緊密に意思疎通を行いながら、具体的な協力を進めていきたいと思っています。
 私自身、外務大臣時代も含め、アジアの国を数えきれないほど訪問してきました。その度に、アジアの熱気や活力を強く感じ、その熱気や活力が、確実に、それぞれの国を、社会を、そして暮らしを、変えてきました。その軌跡を目の当たりにしてきました。アジアはこれからますます、発展していくでしょう。
 日本はアジアの一員です。アジアを訪問し、皆さんの温かさや、ホスピタリティに触れる中で、心からくつろげる時間を過ごしたときに、そういった思いを一層強くいたします。
 日本は、これからも、アジアの多様性を尊重し、寄り添いながら、良きパートナーとして、この地域の未来を、皆さんと共に、切り拓いてまいります。
 結びになりますが、本日、お越しくださった皆さんの、御健勝、御発展を祈念いたしまして、スピーチを終わらせていただきます。
 本日は、誠にありがとうございました。

関連リンク

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