令和4年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示
卒業、おめでとう。伝統ある防衛大学校の卒業式に当たり、我が国防衛の中核を担うこととなる卒業生と御家族の皆様に、心からお祝い申し上げます。
卒業生の多数は、2000年に生まれ、平成最後の月に本校に入校した世代だと思います。生を受けた時、自衛隊員としてのスタートラインに立った時が、ちょうど歴史の節目に重なったことになります。
そして今も、世界は歴史の分岐点を迎えています。昨年2月にはロシアによるウクライナ侵略が始まりました。
また、我が国の周辺国・地域においても、核・ミサイル能力の強化、急激な軍備増強や力による一方的な現状変更の試みが一層顕著になっています。
「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」その強い危機感の下、我が国は、ロシアに対する強力な制裁とウクライナ支援を実施してきました。
ウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙です。私自身、先日ウクライナのキーウを訪問して、ゼレンスキー大統領との間で首脳会談を行い、祖国と自由を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐への敬意を伝えました。
また、ブチャを訪問し、犠牲者への献花を行うとともに、ロシアの暴挙により悲惨な体験をされた方々から直接話を聞く機会を得ました。ロシアによる侵略の惨劇を直接目の当たりにし、これを繰り返さないために、このロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない。こうした決意を新たにしたところです。
我が国は、本年のG7議長国であり、今年から国連安保理非常任理事国を務めています。
ロシアによるウクライナ侵略が続く中、力による一方的な現状変更の試みを断じて許さず、ウクライナに対する支援とロシアに対する制裁を着実に実施し、法の支配に基づく国際秩序を堅持する必要があります。
ゼレンスキー大統領にも直接伝えましたが、議長国として、今年5月の広島サミットなどの機会を通じて、G7の結束を主導し、G7として法の支配に基づく国際秩序を守り抜くという決意を示したいと思います。
このように、国民の命や暮らしを守り抜く上で、まず優先されるべきは、我が国にとって望ましい国際環境をつくるための外交努力です。
自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や原則を重視しつつ、日米同盟を基軸とし、多国間協力を推進する、積極的な外交を展開していくことが不可欠です。
同時に、外交には裏付けとなる防衛力が必要です。
私は、昨年この場で申し上げたとおり、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定しました。
戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行いました。
このシミュレーションも踏まえて、必要となる防衛力の内容を積み上げました。
例えば、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化。あるいは、宇宙・サイバー・電磁波等の新領域への対応や継戦能力の強化。いずれも待ったなしの課題です。
今後5年間で防衛力を緊急的に強化し、我が国の抑止力・対処力を一層向上させていきます。
3文書は、その内容が現実のものになって、初めて完成します。これらの政策を戦略的かつ持続的な形で、着実に実行していきます。本日卒業し、自衛官となる皆さんが早速取り掛かる大仕事です。
その上で、我が国は、我が国だけで守れるものではありません。米国でさえ、一国で自国を守ることは困難な状況にあります。同盟国や同志国との連携は不可欠です。
米国とは、1月の日米首脳会談で安全保障分野での協力を含む日米共同声明を発表し、日米同盟の抑止力・対処力を強化する決意を新たにいたしました。
豪州とは、昨年10月に安全保障協力に関する新たな共同宣言を首脳レベルで発出しました。
英国やイタリアとは、次期戦闘機の共同開発プロジェクトが始まりました。史上初めて、戦闘機を欧州の国々と作っていくこととなります。
韓国は、国際社会における様々な課題への対応を協力していくべき重要な隣国です。現下の戦略環境に鑑み、安全保障面を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化していきます。
ASEAN(東南アジア諸国連合)とは、その主導する枠組みにおける中心性・一体性を支持しつつ、戦略的寄港、共同訓練などを通じ、各国との協力・交流を強化します。
このように、同盟国・同志国との関係は一層強固なものとなっています。その上で、その関係に魂を込めるのは皆さんを始めとする自衛官です。
卒業生の皆さんは、本日、自衛官としての新たな一歩を踏み出します。軍事専門的知見や技術を磨くだけでなく、高い倫理観と使命感を持って任務に当たることが求められます。
世界が歴史の分岐点を迎える中、自衛官となる皆さんが背負うものは、極めて大きい。民主主義国家における実力組織のスタンダードとも言える、プロフェッショナリズムに徹し、国防という崇高な職務に邁進(まいしん)して、国民の負託に応えてくれることを期待しています。
また、人の組織である自衛隊にあって、ハラスメントはその根幹を揺るがすものです。これから自衛隊の中核を担っていく皆さんは、この点を改めて認識してください。
留学生の皆さん、慣れない異国の地でこの日を迎えられたことに敬意を表します。同期との友情が、将来、母国と日本との絆として花開くことを期待しています。
そして御家族の皆様、卒業して任官する諸君が、後顧の憂いなく職務を全うできるよう、私も全力を尽くすことを誓います。
最後に、卒業生を育て上げた久保学校長をはじめとする教職員の皆様に敬意を表するとともに、平素より防衛省・自衛隊への御支援を賜っている御来賓の皆様に深く感謝申し上げて、私の訓示といたします。
令和5年3月26日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 岸田 文雄