NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議における岸田内閣総理大臣一般討論演説
スラウビネン議長、私は、今回のNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議に強い危機感を持って、やって参りました。
外務大臣として参加した2015年会議の決裂以降、国際社会の分断は更に深まっています。特に、ロシアによるウクライナ侵略の中で核による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念しています。
「核兵器のない世界」への道のりは一層厳しくなっていると言わざるを得ません。
しかし、諦めるわけにはいきません。被爆地広島出身の総理大臣として、いかに道のりが厳しいものであったとしても、「核兵器のない世界」に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。
そして、その原点こそがNPTなのです。
NPTは、軍縮・不拡散体制の礎石として、国際社会の平和と安全の維持をもたらしてきました。NPT体制を維持・強化することは、国際社会全体にとっての利益です。この会議が意義ある成果を収めるため、協力しようではありませんか。我が国は、ここにいる皆様と共に、NPTの守護者として、NPTをしっかりと守り抜いてまいります。
「核兵器のない世界」という「理想」と「厳しい安全保障環境」という「現実」を結びつけるための現実的なロードマップの第一歩として、核リスク低減に取り組みつつ、次の5つの行動を基礎とする「ヒロシマ・アクション・プラン」にまずは取り組んでいきます。
まず、核兵器不使用の継続の重要性を共有すべきであることを訴えます。ロシアの行ったような核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはなりません。長崎を最後の被爆地にしなければなりません。
次に、透明性の向上です。これは、あらゆる核軍縮措置の基礎です。核兵器国に対し、核戦力の透明性の向上を呼びかけます。とりわけ、核兵器用核分裂性物質の生産状況に関する情報開示を求めます。これはFMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始に向けたモメンタムを得る上で重要な一歩であると考えます。
第三に、核兵器数の減少傾向を維持することです。世界の核兵器数は、冷戦期のピークから大きく減少しましたが、今なお1万数千発の核兵器が残されています。「核兵器のない世界」に歩みを進める上で、この減少傾向を継続することは極めて重要です。
全核兵器国の責任ある関与を求めます。この観点から、一層の削減に向けた米露間の対話を支持し、また、核軍縮・軍備管理に関する米中間での対話を後押しします。
CTBT(包括的核実験禁止条約)やFMCTの議論を、今一度呼び戻します。CTBTの発効を促進する機運を醸成すべく、9月の国連総会に合わせて、私は、CTBTフレンズ会合を首脳級で主催します。また、FMCTの交渉の早期開始を改めて呼びかけます。
第四に、核兵器の不拡散を確かなものとし、その上で、原子力の平和的利用を促進していくことです。
北朝鮮による新たな核実験が行われる懸念もある中、日本は、国際社会と協力して、北朝鮮の核・ミサイル問題に取り組んでいきます。また、イラン核合意の遵守も実現されておらず、日本は、対話の進展に向けて積極的に貢献していきます。
原子力の平和的利用は、原子力安全と共に進めるべきものです。この度のロシアによる原子力関連施設への攻撃は決して許されるものではありません。日本は、2011年の事故の教訓を基に、被災地復興や廃炉に関連する様々な課題に取り組みます。国際原子力機関始め国際社会と協力し、内外の安全性基準に従った透明な取組を進めます。
第五に、各国の指導者等による被爆地訪問の促進を通じ、被爆の実相に対する正確な認識を世界に広げていきます。この観点から、グテーレス国連事務総長が8月6日に広島を訪問することを歓迎します。
また、国連に1千万ドルを拠出して「ユース非核リーダー基金」を設け、未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらい、核廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワークを作っていきます。
「核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を高めるため、各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら、「国際賢人会議」の第一回会合を11月23日に広島で開催します。
また、2023年には被爆地である広島でG7サミットを開催します。広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさないとの力強いコミットメントを世界に示したいと思います。
私は一羽の折り鶴を折って、ここに持ってまいりました。広島平和記念公園の「原爆の子の像」のモデルになった佐々木禎子(さだこ)さんが折り続けた折り鶴は、今や世界中で平和と「核兵器のない世界」を祈る象徴となっています。志を同じくする世界中の皆様と共に「核兵器のない世界」に向けて歩みを進めてまいります。
ありがとうございました。