令和3年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示
本日、防衛大学校の卒業式に当たり、卒業生の皆さんに、心からお祝いを申し上げるとともに、ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙が起きるなど、厳しさを増す国際情勢の中で、これからの我が国防衛の中核を担う皆さんに、一言申し上げます。
今般のロシアのウクライナへの侵略により、国際社会が、長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹が、脅かされています。
事態の展開次第では、世界も、そして我が国も、戦後最大の危機を迎えることになります。
我が国は、これまでロシアを厳しく非難するとともに、G7を始め、国際社会と連携して、事態の展開に合わせて、機動的に、厳しい制裁措置を講じてきています。
私自身、先日対面形式で開催されたG7首脳会合に出席し、G7の力強い結束を国際社会に改めて示しました。インド、カンボジア訪問でも、力による一方的な現状変更は、いかなる地域においても許してはならないことを確認しました。
また、我が国は、侵略と戦い、祖国を守るため、懸命に行動するウクライナの国民への強い連帯を示すべく、断固たる決意で、ウクライナに対する支援を行ってきています。自衛隊も、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、非常用糧食などを提供しました。
今の我が国を含む国際社会の選択と行動が、今後の国際秩序の趨勢(すうせい)を決定づける。そうした大きな時代の転換点を迎える中で、国際社会が一致して、力による一方的な現状変更に毅然(きぜん)と対抗していかなければなりません。
そして、今回のような力による一方的な現状変更を、インド太平洋、とりわけ東アジアにおいて、決して許してはなりません。この点は、我が国の今後の外交・安全保障の観点からも極めて重要です。
皆さんも、こうした危機意識と情勢認識をしっかりと持ちながら、我が国の存立を全うし、国民の生命と財産を守り抜く、この政府の最も重大な責務の一端を担っていってほしいと思います。
現在の国家安全保障戦略は、約8年前に策定されました。この8年で、ロシアによるウクライナ侵略は言うまでもなく、我が国を取り巻く安全保障環境は劇的に変化し、格段に厳しさを増しています。
北朝鮮は、高い頻度で弾道ミサイル発射を繰り返し、最近では新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)まで発射しています。中国は、東シナ海、南シナ海で一方的な現状変更の試みを止めることなく、むしろ深刻化させています。
厳しい現実を前に、皆さんの先輩方は、ミサイル防衛、東シナ海での警戒監視、スクランブルなど、緊張感を一瞬たりとも途切れさせることなく、日々、最前線で任務に当たっています。昨日は、海上保安大学校の卒業式に出席しましたが、自衛隊と海保との連携も、一層重要になっています。
こうした中で、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の策定は、喫緊の課題です。ウクライナ情勢を含め、我が国が直面する厳しい現実から目を背けることなく、これら3文書の検討を加速してまいります。
そして、我が国の領土、領海、領空、国民の生命と財産を断固として守り抜くために、あらゆる選択肢を排除せずに検討し、防衛力を抜本的に強化していきます。
卒業生の皆さん、現在の国際社会では、どの国も、1国のみで自国の平和と安全を守ることは現実的ではありません。いわば、リアリズムの一環としても国際協調が求められる時代であり、私が進める「新時代リアリズム外交」は、正に、そうした状況を踏まえたものです。
とりわけ、今回のような危機の最中にあっては、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有するパートナーとの具体的な協力を強化していくことが極めて重要です。
唯一の同盟国である米国とは、地域の平和と繁栄の礎である日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくことで一致しており、この点、私自身、バイデン大統領との会談でも、しっかりと確認してきています。新たな国家安全保障戦略などの策定においても、両国の戦略を完全に整合させるべく、緊密に議論を行っていきます。
豪州とは、本年1月に私とモリソン首相が日豪円滑化協定に署名しました。これにより、両国の安全保障・防衛協力が更に促進されていきます。
欧州各国も、昨年の英国の空母クイーンエリザベスの初来日に象徴されるように、艦艇を相次いで我が国周辺に派遣し、インド太平洋地域への強いコミットメントを示しています。
このように、我が国と同盟国・同志国との協力は、新たな段階に入っています。同盟関係やパートナーシップは、単に結んで終わりではありません。常に、その絆(きずな)が強固なものであり続けるよう、絶えず、努力を積み重ねていくことが必要です。
皆さんは、こうした安全保障協力の要です。同盟国・同志国との絆を育む担い手となってください。
留学生の皆さん、厳しい教育・訓練を経て、遂にこの日を迎えられたことに、心からの敬意を表します。我が国での学びを余すことなく母国に持ち帰り、皆さんが、我が国との協力の架け橋となること、また、共に、国際社会の平和と安定に貢献していくことを強く願います。
御家族や関係者の皆様、卒業生は、皆、頼もしい姿に成長しました。日頃から、皆様が彼らの大きな支えになってくださったことに心から感謝を申し上げます。厳しく、そして崇高な任務に就く彼らが、万全の環境で職務に当たることができるよう、最高指揮官として全力を尽くしてまいります。
そして、初めての卒業生を送り出す久保学校長以下、学生を立派に育て上げた教職員の皆さんに、深い敬意を表します。
卒業生の皆さん、厳しさを増す国際情勢を前に、国民の自衛隊への期待や思いは、より一層強くなっていると考えます。
「事に臨んでは危険を顧(かえり)みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応える」
今一度、この宣誓を胸に刻み、皆さん一人一人が、国民の命と平和な暮らしを担う砦(とりで)であるという強い自覚を、決して忘れないでください。
そして、国民の信頼と期待に常に応える自衛隊であり続けるよう、崇高な任務に皆さんが全力で当たることを期待して、私の訓示とします。
令和4年3月27日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 岸田 文雄