読売国際経済懇話会(YIES)講演会 岸田内閣総理大臣講演

更新日:令和3年12月22日 総理の演説・記者会見など

 今日は、ただ今375回とお聞きいたしましたが、読売国際経済懇談会、歴史と伝統あるこの懇談会に講師としてお招きにあずかりました。心から厚く御礼申し上げます。
 私も今、内閣総理大臣に就任し、仕事を務めておりますが、本当に今年後半、様々な動きの中で、目まぐるしい変化の中で苦労し、年末を迎えています。
 私が、自民党の総裁選挙に立候補を決断してから4か月が経つわけですが、8月26日に自民党の総裁選挙に立候補することを表明させていただきました。ついこの間のような気がいたしますが、それから、激しい総裁選を経て、9月30日に自民党の総裁に選ばれ、そして10月4日の日に、第100代の内閣総理大臣に指名されました。
 その時点で、既に日本の衆議院議員の4年の任期はほぼ終わりに来ていた、一刻も早く選挙を行わなければ政治空白を生じてしまう、こうした状況にありました。政治空白をできるだけ短くしなければいけない、コロナの感染の状況ですとか、あるいは与野党の様々な駆け引きですとか、様々な観点からいろいろ考えた末に、就任してから10日で衆議院を解散いたしました。おそらく日本の総理大臣で、就任して10日目に衆議院を解散した、あまり前例はないのだと思います。
 そして選挙に突入した。マスコミの皆様方の予想ですと、自民党はとても過半数はいかないと、厳しい予想の中にありました。もしあのとき、私が選挙に負けていたら、結果として第100代総理大臣は30日余りで終わってしまったのだと思います。日本の歴史を振り返りますと、最も短い内閣、昭和20年の東久邇宮(ひがしくにのみや)内閣、54日間ということでありますから、あの選挙、もし自民党が負けて私が退陣すれば、私は日本国で最も在任期間の短い総理大臣として名を残すところでありましたが、幸い多くの皆様方の御理解、お力添えを頂きまして、マスコミの予想に反して、261議席、絶対安定多数を自民党単独で得ることができた。結果として、私は第101代の総理大臣に就くことができて、今日まで政権を維持させていただいているということであります。
 衆議院を10日で解散する、選挙に打って出る、政治家としては大きな賭けではありましたが、その結果として選挙において、実質的に勝利を得ることができた、そして政権を得ることができた、そして今となっては就任してから54日間は過ぎているでしょうから、最短内閣の危機を乗り越えて、今日に至ることができた、こういったことでありました。
 そして、内閣総理大臣として、コロナ対応ですとか、経済対策ですとか、さらには外交・安全保障、様々な課題に挑戦させていただいているわけですが、その中で一貫して思いますことは、様々な政策判断において、何を物差しにするのか、やはり最後は国民の皆さんのために何が最善なのか、こういったことではなかったかと思っています。
 国民の皆さんに、たとえ負担をお掛けするとしても、必要なことであれば決断する。また、一度決まった政府の方針であったとしても、状況の変化があれば、前例にとらわれず、躊躇(ちゅうちょ)することなく、柔軟に対応する。これが私の基本的な方針でありました。 
 こうした方針の下に、様々な課題に取り組んできたわけですが、今日はこうしてお時間を頂きました中で、まずは直近の国民の大きな危機であります新型コロナ対策について申し上げ、あわせて、日本の経済再生の要であります新しい経済モデル、私は新しい資本主義という言葉を使っておりますが、この新しい資本主義について、そしてさらには外交・安全保障、こうした課題についてお話しさせていただきたいと思います。

 まず、最初の新型コロナ対策ですが、この対策を行う中で、今一番の関心事は、新しい変異株、オミクロン株ということであります。
 こうした新しい変異株の情報が届いたのは先月末でありましたが、私は即座に、この変異株、どれだけのリスクがあるのか、実態が分かるまでは慎重の上にも慎重を期さなければならない、最悪の事態を想定して水際対策を考えなければいけない、そういったことで、外国人の新規入国停止という、G7の中でも最も厳しい水際対策を講じさせていただきました。水際対策のレベルを引き上げたわけであります。
 これは、リスクがはっきりしない以上、念には念を入れて、臨時・特例の措置ということで講じたわけでありますが、現時点でもなお、オミクロン株の感染力、あるいは重症化リスク、科学的な評価はまだ確立したとは言い難い状況にあります。
 このため、この厳しい水際対策、年末年始の状況を見極めた上で、先を考えなければいけない、こうしたことを申し上げています。是非引き続き、この水際対策、しっかりと継続した上で年末年始の状況を見極め、その上でその先を考える、こうした態勢を続けさせていただきたいと思います。
 しかし一方で、国内の感染封じ込め策、これも強力に進めていかなければならないということで、国内においては全ての感染者に関して、オミクロン株の調査、ゲノム解析を行う、こうしたことで、早期の探知を徹底する、これを実行しています。加えて、オミクロン株の濃厚接触者については、自宅待機要請ではなくして、14日間の宿泊施設での待機を要請する、こうした対策を講じて、国内における感染封じ込め策を徹底しているということであります。
 それに加えて、先週金曜日、予防・検査・早期治療の包括強化策を発表いたしました。ポイントは、3回目のワクチン接種の前倒し、無料検査の拡充、そして経口治療薬、口から飲める治療薬の普及ということであります。こうした予防、検査、そして早期治療の流れを一層強化し、感染の拡大に備えていかなければならない。そしてさらには、これは感染対策の全体像として示したところでありますが、万が一、感染が広がってきたとしても、今年の夏、毎日、日本においては新規感染者数が2万数千という事態が生じたわけですが、あのときの感染力の2倍の感染力が示されたとしても十分対応できる医療体制ということで、3万7,000の病床を確保する、医療人材も医師3,000人、看護師3,000人、この緊急事態に当たってはそういった人材をすぐ動員できる体制を、今確立しているということであります。こうした水際対策は、引き続き維持しながらも、国内の感染封じ込め、また国内における様々な感染拡大に対する備え、これをしっかり進めているという状況であります。こうした体制の中で、今後オミクロン株の状況をしっかり見ていきたいと思っています。

 そして、こうした体制を続けていくわけですが、その間、コロナ禍によって、暮らし、あるいは仕事、事業、本当にお困りの方も大変多いということで、先日、事業規模78.9兆円のコロナ克服・新時代開拓のための経済対策を策定し、その裏付けとなる補正予算、一昨日成立させていただいたということであります。感染にしっかり備えながら、共に御協力いただく国民の皆さんの仕事、暮らしを守るための経済対策、これもしっかり用意しながら、国民一体となって、この国難に取り組んでいく体制を作らせていただいているということであります。多くの皆さんに、こうした体制に対する御理解も頂きながら、絶えず最悪の事態を想定しながら、こうした国難に立ち向かっていきたいと思っているところであります。
 そして、こうしたコロナへの備え、体制の下に、コロナとの戦い、なんとしても勝ち抜かなければならない、戦い抜かなければならないと思っていますし、間違いなく、私たちが力を合わせれば、このコロナ禍、戦い抜ける、勝ち抜けると信じております。
 是非、国民の皆さんと共に、もう一踏ん張りして、できるだけ平時に近い経済社会活動を取り戻す、そういったところに持っていきたいと思っています。そして、そうしたできるだけ平時に近い経済社会活動を取り戻すことができたならば、私たちの経済社会の活力、活動を再び取り戻す、再生する、こうした取組に歩みを進めていかなければなりません。
 日本の経済再生に取り組んでいかなければいけないわけですが、その際に、私は新しい資本主義という、新しい経済モデルについて申し上げさせていただいています。
 この考え方の基本はどういうことかと言いますと、人類が生み出した資本主義というもの、これはそもそも、市場を通じた効率的な資源配分と、市場の失敗がもたらす外部不経済、この二つの微妙なバランスを常に修正することで、進化し続けてきた、こうしたものでありました。市場によって効率的な資源配分を行う、一方で過去において、公害を始めとする市場の失敗がもたらす外部不経済への対応が求められた、この二つのバランスをいかにとっていくのか、いかに修正していくのか、そういったことによって進化を続け、そして経済の原動力となってきた、これが資本主義でありました。
 そして、今の資本主義、1980年代から新自由主義的な政策が採られてきたというわけでありますが、市場や競争に任せれば、全て上手くいくという新自由主義的な考え方は、1980年代以降、経済の主流と、世界の主流となってきたわけでありますが、この資本主義、世界経済の成長の原動力となった一方で、資本主義がグローバル化する中にあって、様々な弊害も顕著になってきたと言われています。 
 市場に過度に依存したことによって、格差や貧困が生じてしまったのではないか、あるいは、自然に負荷を掛け過ぎたことで気候変動問題が深刻化した、こういったことが指摘されています。
 そして今、世界中の国で、こうした弊害に対応するために、新しい資本主義のモデルを模索する、こういった動きが始まっています。
 背景には、こうした新自由主義的な考えが生んだ格差や貧困の拡大が、分厚い中間層の棄損を生み、分厚い中間層によって支えられて育まれてきた健全な民主主義が脅かされている、民主主義の基盤が今脅かされている、こういった危機感があるのだと思います。
 アメリカにおけるビルド・バック・ベター、EUにおける次世代EU、こうした政策は、この弊害にしっかりと目を向けながら、新たな資本主義モデルを模索する動きであり、私の新しい資本主義という考え方も、こうした米国やEUにおける動きと軌を一にするものであると考えています。
 一方、世界を見回すと、資本主義は、権威主義的な国家を中心とする国家資本主義と呼ばれる経済体制からの強力な挑戦に直面している、こうした状況にあります。こうした挑戦に対抗していくためにも、我々は、自ら資本主義をバージョンアップしなければいけない、こうした問題意識もあります。
 かつての資本主義の進化の動きは、いずれも欧米発の動きでしたが、私は、我が国において新しい資本主義という考え方を実現することによって、今回の進化においては、是非、我が国が世界をリードしていく、こうしたことにつなげていきたいと思っています。こうした思いで、世界の首脳とも問題意識を共有しながら、グローバルな議論を積極的に展開していきたいと考えているところです。
 そこで、私の新しい資本主義、どこが今までと違うのか、何が特徴なのか、衆議院・参議院の予算委員会でも随分、野党側から尋ねられたところであります。
 新しい資本主義、これは当然のことながら、成長と分配の好循環を実現して、持続可能な経済を実現する、こういったことであります。これは今までも言われ続けてきたところです。しかし、この成長においても、分配においても、市場や競争に任せるのではなくして、官と民が協働して、あるべき成長や分配、これをしっかり考えていく、こうした体制を考えることが大事なのではないかと思います。
 新しい資本主義においては、市場の失敗、あるいは外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略、そして分配戦略の両面から、資本主義の仕組みの中に埋め込んで、そして、資本主義がもたらす便益を最大化していく、こういったことを目的としています。
 成長ということを考えても、正に今日本の、そして現代社会の弱点を強みに変えていく、こういった発想が求められているのだと思います。
 日本においても、デジタル化、なんでこんなに遅れているのか、あるいは世界においても、気候変動、大きな課題になっています。また、経済安全保障、これからの国際社会を考えると経済安全保障の考え方が大事だ、こんなことも言われています。
 こうした、今指摘されている問題点、これを強みにしっかり変えていかなければならない、そして、こうしたデジタルやグリーン、あるいは経済安全保障、こういった分野を強みに変えていくために、政府が様々な支援、あるいは財源、こういったものを用意し、そして、方向性はこっちだと大きな市場を指し示し、そこに多くの民間の企業、関係者が投資することによって、そういった分野を拡大していく、結果として弱点を克服する。
 先ほど申し上げました、資本主義の弊害、気候変動、こういったことをとっても、気候変動によって、我が国はカーボンニュートラルを目指す、これは社会全体が大きく変化していかなければいけない。そのために国としてもしっかりとした環境整備を行っていく、そして民間に思い切って投資してもらう、この分野が成長の大きなエンジンになっていく、正に弱点が強みに変わっていく、こうした流れを作ることになるのではないか。
 このように様々な弱点を強みに変える成長戦略を官民協働で考えていく、これが市場任せではない、競争任せではない、新しい資本主義であるというふうに思いますし、また分配ということについても、成長の果実を一部の人間が独占するのではなくして、幅広い国民、また大企業だけではなくして、中小企業、大都市だけではなくして、地方、こうした幅広い分配が行われる、こうした分配を考えていく。そしてその分配が次の成長につながっている流れを作っていく。この際にも、是非官民が協働して、しっかり分配を考えていかなければならない。
 分配において最も大きなポイントは、国民一人一人の所得、給与ということです。所得、給与をしっかり引き上げるために、まずは、今打ち出しているのは、国としても公的価格と言われている看護、介護、保育、あるいは幼児教育、こうした方々の給与、国が決められる給与、これを引き上げていく。これを呼び水として民間の皆さんにも、来年の春闘に向けて、3パーセントの給与引上げをお願いしている、もちろん、コロナ禍を乗り越えた好調な企業の皆さんにこうした給与の引上げをお願いする。
 そして、そのための環境整備として賃上げ税制を用意する、あるいは大企業と中小企業の下請け関係、しっかりとした利益を確保できる、こうしたサプライチェーンにおける利益配分をしっかりと実現できる、こうした仕組みを考えていく。こういったことを通じて、給与の引上げを実現する。
 この給与、人への分配というのは、かつてはコストというイメージが強かったわけですが、人への分配は、コストではなくして、未来への投資であるという発想に基づいて、しっかりと分配を行っていく。昨今、デジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション、大きな変化の波にある。こういった中にあって、新たな価値の源泉として創造性やイノベーションを生む、人こそがますます重要になっているということでもあります。
 こういった点からも人に対する分配、これをしっかり行い、そしてそれを消費につなげて、それを次なる成長につなげていく、こうした取組が必要なのではないか。こういったことを先ほど申し上げました、新しい資本主義というのは市場の失敗や外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両方から資本主義の仕組みの中に埋め込んで、様々な課題に挑戦し、国際社会と共に、格差、分断、あるいは気候変動、こうした資本主義が生み出した弊害にしっかり向き合っていく、こうした経済を考えていくべきではないか、こんなことを申し上げているところです。
 是非、世界の潮流において、日本発の資本主義のモデル、これをしっかりと訴えることによって、新しい時代の世界経済をリードする、こうした気迫で取り組んでいきたいと思っています。

 そしてもう1つ、今日申し上げなければいけないのが、外交・安全保障の問題です。
 外交・安全保障については、従来から申し上げていますが、私自身、1つ目の柱としては、自由とか民主主義、法の支配、人権、あるいは自由貿易、航行の自由、こうした私たちの世界がこれまで大事にしてきた普遍的な価値と言われている価値観、これを大事にしながら、日本が外交を進めていかなければいけない。これをまず1つ目の柱として申し上げています。
 そして2つ目の柱として、今、気候変動問題を始め、地球規模の課題が山積しています。気候変動問題、あるいは核軍縮・不拡散、さらにはコロナ対応を始めとする医療分野における課題、また気候変動に伴って、防災ということも地球規模の課題として、世界の大きな課題になっています。
 こうした地球規模の課題に、しっかり貢献することをもって、日本の発言力、存在感をしっかり示していく、こうした外交を進めていく、これが2つ目の大きな柱だと申し上げています。
 そして3つ目の柱、これは厳しい安全保障環境の中で、我が国の国民の命、暮らし、そして我が国の自由・独立をしっかりと守るための外交・安全保障、これをしっかりと進めていかなければならない。自らの国民の命や暮らしをしっかり守っていく外交・安全保障、これが3つ目の柱だと申し上げています。
 今、国際情勢、大きく変化しています。私が外務大臣に就任したのは2012年でしたが、あれから10年経とうとしています。世界は大きく変化しています。そして、その変化の中で、我が国は外交を進めていかなければならない。外交・安全保障の巧みなかじ取りと、そして安定政権の確立が以前にも増して求められている、こうしたことを強く感じます。
 私自身、政治家として育ってきた宏池会(こうちかい)という政策集団は、昔から、リアリズムの外交、こういったものを掲げてきました。日中国交正常化に取り組んだ大平外交。あるいは、PKO(国連平和維持活動)法案に取り組んだ宮澤政権。こうした宏池会の歴史を振り返りますときに、私もリアリズムの外交をバックボーンに受け継ぎながら、複雑化する21世紀の国際情勢に対して、未来への理想の旗をしっかり掲げて、主体的な外交をしっかり進めていきたいと考えています。一言で言うならば、新時代リアリズム外交、こうしたものを進めていきたいと考えております。
 そして、そのための柱が、先ほど言いました、普遍的な価値と地球規模課題、そして我が国の国民の命や暮らしを守る、この3本であると思っています。
 普遍的な価値を守る。自由、民主主義、人権、法の支配、こうしたものを守っていく。私の内閣においても、例えば、人権問題に取り組むために、中谷元国際人権問題担当総理補佐官を任命させていただきました。こうした普遍的な価値をしっかり守っていく、こうした覚悟を示した一例でもあると思っています。
 また、そもそも我が国が訴えた、自由で開かれたインド太平洋という考え方、今や国際社会において広く知られるようになりました。こうした、自由で開かれたインド太平洋構想、インド太平洋地域における平和と安定において、大変重要な考え方であるというふうに思いますし、この地域における自由な航行、あるいは自由貿易、これを守るためにも、こうした考え方、これからも大事にしていかなければならない。
 その中で基軸になるのは、これからも日米関係でありますので、私自身、できるだけ早く訪米して、日米首脳会談を実現したいということで調整しているわけです。
 こうした取組を通じて、かたや先ほど経済の議論の中でも、国家資本主義と言っていいような動きがあるということを申し上げましたが、外交の世界においても、中国やロシア、こういった国々と我が国はどう向き合っていくのか、普遍的な価値を背景としながら、しっかり考えていかなければならないと思います。
 言うべきことはしっかり言う、これは当然のことでありますが、その一方で、隣国であります中国、ロシアと、日本は安定的な関係もしっかり維持していかなければならない。少なくとも対話は維持していかなければいけない。この複雑なかじ取りを求められる、これが普遍的な価値を背景とする外交ではないかと思っています。
 2番目として、地球規模の課題ということで申し上げるならば、例えば気候変動、これは国際社会の大きな課題である。日本としても2050年カーボンニュートラル、大きな目標を掲げて、しっかり貢献しなければならないわけですし、また、核軍縮・不拡散、核兵器のない世界ということについても、私は政治家として、この理想をライフワークとしております。ですので、私の地元、広島出身で被爆2世でもあります、寺田稔(みのる)衆議院議員を、こうした安全保障、特に核軍縮・不拡散問題担当の総理補佐官として任命し、これから行われるNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議を始め、様々な議論にしっかり貢献させていただきたいと思っております。
 特に、来月予定されておりますNPT運用検討会議、結局延びて、前回から6年以上、7年近く経つわけでありますが、前回のNPT運用検討会議、私は外務大臣として臨みました。日本の外務大臣としても10年ぶりにNPT運用検討会議に臨んだわけですが、残念ながら核兵器国と非核兵器国の対立を解消することができずに、合意文書一つ成立させることができずに終わってしまった、大変残念な思いをいたしました。
 NPT運用検討会議、核兵器国と非核兵器国の議論の中で、現実を変えようとしたならば、核兵器国を巻き込まなければ、核兵器国を変えなければ、現実は変わらない、こうした思いを、外務大臣時代、度々感じ、大変残念な思いを度々感じた、この経験からしましても、核兵器国が参加しているNPT運用検討会議、これを実際に動かすことこそ、現実的な核軍縮・不拡散への歩みであると信じています。こうしたNPT運用検討会議についても、しっかり取り組んでいきたいと考えているところです。
 そして、3つ目の柱、国民の命や暮らしを守る、こうした取組についても、1年かけて我が国の国家安全保障戦略と重要な安全保障文書、これをしっかりと見直していきたいと考えています。
 7年前、私が外務大臣時代に、今の国家安全保障戦略が作られたわけですが、国際情勢が大きく変化する中にあって、国家安全保障戦略、かつては経済安全保障なんて言葉すら、国家安全保障戦略の中になかったわけです。今の戦略の中にはないわけであります。
 こうした中で、経済安全保障を始め、新しい課題について、どう向き合うのか、あるいはミサイルを始め、安全保障の技術、急速なスピードで変化しています。こういった中で、国民の命や暮らしを守るためには、いわゆる敵基地攻撃能力を始め、あらゆる選択肢を排除することなく、現実的に何が求められるのか、しっかり議論していかなければいけない、こういったことだと思っています。国民の命や暮らしを守る、こういった課題についてもしっかり取り組んでいきたいと思います。

 すみません。時間を過ぎてしまったので、ここでまとめたいと思いますが、今言いました、コロナ対策、経済対策、そして外交・安全保障、しっかり進めていきたいと思いますし、また、私も自民党総裁として、従来から申し上げておりますが、憲法改正についても、今や憲法改正の議論は国会が主戦場となっています。
 国会での議論をしっかりと進めてもらう、そのためにも国民の理解を頂くことが何よりも重要だということで、国会の議論と国民の理解、これを車の両輪としてしっかり進めていきたい、こんなことも思っています。
 こういった政策をしっかり進めていく。しかし大事なことは、こうした政策を進める際には、国民の信頼と共感こそ求められる。国民の信頼と共感なくして、こういった政策は進めることはできない、このことは忘れてはならないと思っています。
 国民の声をしっかり聞き、丁寧で謙虚な政治を行わなければならない。この国民の信頼を得るということを考えたならば、政治の進め方、もちろん大事ですが、それより、何より大事なのは、自民党自らが変わらなければ、国民の信頼は取り戻せないということで、私も自民党総裁選挙の際に、自民党の党改革、これを訴えさせていただきました。
 自民党の役員の定年制の問題、若手登用の問題、また政策立案の仕組みなど、自民党の改革を訴えたわけですが、是非、自民党の改革をしっかり進めることによって、国民の信頼を得て、そして先ほど言いました政策、しっかり進めていきたいと考えております。
 今年も残すところ、あと9日となりましたが、是非、来年に向けて、様々な政策課題に取り組み、そして結果をしっかり出していきたいと思います。まずはコロナ禍、これをしっかりと乗り越えて、新しい経済を起動させたいと思いますし、そしてその上で、来年夏には参議院選挙があります。参議院選挙をしっかりと勝ち抜いて、新たな時代を切り拓く、こういった道筋を作っていきたいものだと思っています。是非、こうした来年の政治日程、政治課題をしっかりにらみながら、政権を動かしていきたいと思います。引き続きましての御指導を心からお願い申し上げて、話を終わらせていただきたいと存じます。
 本日は御清聴いただきまして、誠にありがとうございました。

(コロナ対策について、病床確保の実効性を担保するための法改正を検討しているかについて)

 病床については、おっしゃるように病床を確保しても、その稼働率が上がらなければ意味がないということで、今回の対策の中でも、まず自治体と医療機関の間で書面をもって、しっかりと病床提供の確約を取り、そして病院ごとに病床の稼働率を見える化するという形で、実際の稼働率を引き上げる、こうしたことを行っていきたいと思います。実際、神奈川方式と呼ばれる神奈川県の方式は、こういった仕組みを作ることによって稼働率をずっと上げてきたという実績があるわけです。
 これを横展開することによってできないかということで今回、政府においてもそういった仕組みを作って、病床も確保する、そして稼働率も引き上げる、結果として、感染力が2倍になったとしても対応できる体制を用意したというのが実情であります。
 そして、6月に向けて法改正を考えないのかということですが、来年の6月までに人の流れ、あるいは国と地方の関係、そして司令塔機能、こういった3点を中心に、これまでのコロナ対策をしっかり振り返った上で、必要な法改正があれば、しっかり法改正をするということを表明させていただいています。
 しっかりと6月まで検証した上で、そして今回の対応もしっかり振り返った上で、必要な法改正があれば考えていくというのが考え方であります。

(資本主義の弊害を是正する仕組みについて、賃上げ税制以外に早期に実現される具体策はあるかについて)

 予算において、今回、資本主義の中に、資本主義の弊害を取り除くための仕掛けを埋め込むということについて、賃上げ税制以外に何があるのかということでありますが、賃上げ自体についても、賃上げ税制だけではなくして、公的価格の引上げ、あるいは下請け関係の見直し等、様々なメニューを用意させていただきました。
 一方、成長の部分にも弊害を取り除くための仕掛けを埋め込まなければいけないということで、正に気候変動、あるいは日本の社会における弱点だと言ったデジタル、これを正に正面に取り上げて、これを成長戦略のエンジンに変えてしまおうということで、国が主導して、ここに大きな市場、マーケットを作ることによって、民間の力を結集して、この部分を成長戦略のエンジンにしてしまおうということも考えています。
 これも資本主義の弊害を乗り越える仕掛けを資本主義の中に埋め込む一つの例であると思っています。
 こうした様々な仕掛けを通じて、全体の成長と分配の好循環を実現したいと思っています。

(NPT運用検討会議の実効性を高めるための具体的な仕掛けを考えているかについて)

 NPTの実効性ということについてですが、まずNPTについては、これからNPTの議論の中で、従来から、CTBT(包括的核実験禁止条約)、FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)、このあたりはアメリカのクリントン政権までに、国際社会の中で議論は行われてきたわけですが、こうしたNPT体制で枠をかけ、核兵器の実験を禁止し、そしてそれでもテロ等の拡散が予想されるわけですから、FMCT、国際社会で、核兵器に必要な物質自体を管理する、こういった枠組みを作ろうという議論がずっと続いてきたわけですから、あの議論をしっかり呼び戻すこと、思い出すこと、これは一気に核兵器禁止条約にいくのではなくして、現実的な対応として、せっかく今まで議論を行ってきたわけですから、もう一度思い出そうではないか、これは大変重要な考え方ではないかと思います。
 そして、その実効性をより高めるための基本は、核兵器国と非核兵器国の信頼だと思っています。そして信頼の裏付けは透明性であります。
 私も、NPDI(核軍縮・不拡散イニシアティブ)という非核兵器国の議論の枠組みの中で、会議を広島で開いて、外相としてリードしたことがあるのですが、あの枠組みの中での考え方の最も大事なものは、核兵器国の透明性、どれだけの核兵器を持っているのかどうか、これを明らかにさせることであるということで、報告のフォーマットまで作って、核兵器国に全部実態を明らかにすることを求めたことがあります。残念ながら1か国だけゼロ回答という国がありましたが、多くの国は、自分の国の核兵器の透明性を明らかにする、そういった取組に応じてくれました。こういった透明性を基本としながら、さっき言った議論を進めることが現実的な取組であると私は思っています。

関連リンク

これまでの総理の演説・記者会見など