第58回国家公務員合同初任研修 岸田内閣総理大臣訓示
皆さん、こんにちは。内閣総理大臣の岸田文雄です。
国家と国民のために尽くしたいという高い志と使命感を抱き、晴れて国家公務員の道を歩み出した皆さんを、内閣総理大臣として心から歓迎いたします。
今、日本、そして、世界は歴史の転換点を迎えています。
まず、外に目を向けると、我が国が戦後最も厳しい安全保障環境にある中で、ウクライナ侵略や中東情勢はもとより、米国大統領選を始めとする今後の世界の行方を左右する重要な国政選挙が予定されており、国際社会は「緊迫」の度を一層高めています。
また、サプライチェーンの不安定化、世界規模でのエネルギー・食料危機など、世界の一体化と平和・繁栄をもたらすと信じられてきたグローバリゼーションの変質・変容も顕著です。深刻さを増す気候変動問題など、持続可能性の問題も待ったなしとなっています。
我が国の将来を見通せば、急速に進展する少子化の中で、持続可能な形で日本経済を再生することが極めて重要となっています。前例のない規模でこども・子育て政策の抜本的な強化を図るとともに、デジタルの力を活用し、利用者起点で、公共サービスの維持・強化と地方の活性化を図り、社会変革を実現するためのデジタル行財政改革を推進していく必要があります。また、多様な個性をいかす包摂的な社会を創ることも重要な課題です。
足下では、30年ぶりの水準となった賃上げ、名目100兆円を超えた設備投資など、明るい「兆し」が確実に見られつつあります。「新たな成長型経済」への移行の流れを更に加速させなければなりません。
「変化」の時代にあって、国民が直面する難しい課題に「先送りせず、必ず答えを出す」との覚悟をもって、一つ一つ答えを見出(いだ)し、新たな時代を切りひらいていく。それこそが、政府に求められる使命であり、これから国家公務員となる皆さんの使命です。
皆さんがこれから取り組む仕事は、国家・国民の未来を創るために、必要不可欠なものであり、社会に対して提供できる価値は、他に代わりがない唯一無二のものです。
国家公務員という仕事に、是非「誇り」を持ち、今、心の中にある「初心」や「志」を実現するべく、国民と向き合いながら、各々の仕事に、勇往邁進(まいしん)して欲しいと思います。
元日に発生し、甚大な被害をもたらした令和6年能登半島地震からの復旧・復興についても、被災者に寄り添った息の長い取組が求められる課題です。私は、被災者の帰還と能登を含めた被災地の再生まで、責任をもって取り組んでいく決意です。是非皆さんも、それぞれの立場で力を尽くしてください。
今から、40年以上も前のことですが、私は、銀行員として、社会人のキャリアをスタートさせました。新入社員の頃、多くの失敗をしましたし、仕事の上でのつらい経験もしました。
その時の経験は、血肉となって今の私を支えてくれています。また、上司、先輩、友人との仕事でない思い出も、同様に、今の私を支えてくれています。
皆さんも、今後、職場で様々な経験をされると思いますが、皆さんが「誇りを持って働ける職場」をつくるのは、皆さんをお迎えする、我々の責任です。
私は、行政府の長として皆さんが、性別にかかわらず、また、新卒・中途採用の別にかかわらず、人生のライフステージのいずれの段階においても、「働きがい」と「働き方」のバランスを取って活躍できる霞ヶ関を実現していきたいと思っています。
そのために、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による業務の見直し・効率化や、テレワークの推進、超過勤務の縮減、さらには、男性育休の取得推進、フレックスタイム制度の柔軟化など、様々な改革を進めています。
そして、こうした改革を実効性のあるものにするためには、制度の見直しに加え、働いている、国家公務員の皆さんの意識を変えていくことが必要です。若手からベテランまで、全ての皆さんの意識を変えていく。そうした取組にも力を入れていきたいと思います。
最後に、もう一つ大事なことを述べたいと思います。皆さんは採用されたばかりではありますが、国民から見れば、一人の立派な国家公務員です。「新人だから仕方がない」とは誰も言ってくれません。自分が一人の国家公務員であるという自覚を、しっかりと持っていただきたいと思います。
そして、国民の皆さんから「常に見られている」ということを意識し、強い責任感をもって、職務に当たってもらいたいと思います。
我々が力を合わせることで、今、我が国が直面する困難や課題も、必ずや、乗り越えていけると確信しています。
歴史的な転換点の中で、変化の流れをつかみ、変化を力にして、「明日は今日より良くなる」と信じられる、希望にあふれる時代を、共に創っていこうではありませんか。
皆さんの大いなる活躍を心から期待します。