岸田総理によるクメール・タイムズ紙への寄稿文
「信頼に基づき共に創るインド太平洋の未来」
カンボジアの皆様、こんにちは。今週末、私は、カンボジアのフン・マネット首相を始めとするASEAN(東南アジア諸国連合)各国の首脳を東京でお迎えし、日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議を開催します。日本とカンボジア、日本とASEANとの友好にとって特別な機会に、カンボジアの皆様に御挨拶申し上げます。
世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始してから半世紀、日本はASEANの発展と統合の道のりを、カンボジアをはじめとするASEAN諸国と共に歩んできました。日本はこれまで様々な分野での開発協力を通じ、ASEAN地域の発展を支えてきました。また日本とASEANは互いに主要な貿易相手であり、カンボジアとの貿易額は2005年の総額約2.2億米ドルから2022年には総額約22億ドルへと10倍に増加しています。日本はASEANにとって、米国に次ぐ第二の直接投資国であり、近年、日本からASEAN諸国に対し、毎年平均して約2.8兆円規模の直接投資がなされています。ASEANにおける日本企業の事業所数は約1.5万を数え、成長著しいASEANの活力を日本経済にとりこむとともに、ASEAN各国で製品、サービスそして雇用を生み、経済発展に貢献しています。私が2014年にオープニングに出席したイオンモールもその一例です。
日本とカンボジアをはじめとするASEANの関係はビジネスにとどまりません。日本とASEANの真の友人としての関係の基盤となっているのは、「心と心」のふれ合う相互信頼関係です。それは、広範な分野における人的交流によって長年にわたり育まれてきました。
官民双方で、青少年交流プログラムJENESYSをはじめとする様々な交流の取組を続け、これまでASEAN地域から約4万人の国費留学生を受け入れてきました。今やASEAN各国の元日本留学生会の評議会(ASCOJA)の会員総数は5万人を超え、カンボジアの元日本留学生協会(JAC)もそのネットワークを支えています。さらにJICA海外協力隊員の派遣、「文化のWA」プロジェクトの下での日本語パートナーズ派遣や、民間でも多くの交流事業が長年にわたり実施されてきました。
日本とASEANは、1997年のアジア通貨危機、2004年のスマトラ沖大地震及びインド洋大津波、2011年の東日本大震災、2019年からの新型コロナのパンデミックなど、多くの試練を経験する中で、互いに手を差し伸べ合い、「信頼できるパートナー」であることを示しました。
現在、国際社会は歴史の転換点にあり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は重大な挑戦を受けています。また、我々は気候変動や格差、公衆衛生危機、デジタル化、AI(人工知能)ガバナンスなど、複雑で複合的な課題に直面しています。私は、誰もが尊厳を持って生きられる平和で安定した世界、持続可能で繁栄した未来を「共創」するために、強固な「信頼」に基づき、これまで以上に緊密にASEANの皆様と協力していきたいと考えます。
記念すべき50周年の締め括(くく)りとして、ASEAN諸国の首脳をお迎えする特別首脳会議では、過去半世紀の日ASEAN関係を総括し、将来のための新たなビジョンと具体的な協力を打ち出したいと思います。
特に、日本として、「心と心」のパートナーを次世代に繋(つな)げ、強化するための包括的な人的交流プログラムや、我々の経済・社会が共有する課題への解決策を共に創造するための新たな取組、アジア・ゼロエミッション共同体構想のさらなる推進などの気候変動対策の取組、産業面での協力などを提案したいと思います。この歴史的な特別首脳会議を、我々の「輝ける友情」を次世代に繋げる「輝ける機会」としたいと思います。
本年は日本とカンボジアにとっても外交関係樹立70周年の記念すべき年です。日本とカンボジアの関係は、政府間の協力に加え、両国の民間企業やNGO(非政府組織)、多くの個人が関わることにより、強い信頼関係が築かれ、大きく発展してきました。また、近年は安全保障分野や、デジタル、サイバーなどの新しい分野へと両国間の協力が広がっています。日本は、「包括的戦略的パートナーシップ」の下、地域・国際場裡(じょうり)においても共通の課題に共に取り組むパートナーとして、カンボジアと互いのさらなる発展を目指し、連携を強化していく考えです。