岸田総理によるコンパス紙への寄稿文
「信頼に基づき共に創るインド太平洋の未来」
インドネシア国民の皆様にご挨拶申し上げます。日本国総理大臣の岸田文雄です。インドネシアが本年、議長国としてASEAN(東南アジア諸国連合)関連会議を成功裡(せいこうり)に開催されたことに改めて敬意を表します。また、9月のASEAN関連首脳会議に出席するために貴国を訪問した際のインドネシア国民の皆様のおもてなしに感謝いたします。
今週、私は日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議を主催します。この歴史的節目に、ジョコ大統領を東京にお迎えすることを大変嬉(うれ)しく思います。
世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始してから半世紀、日本は、ASEANの発展と統合の道のりをインドネシアをはじめとするASEAN諸国と共に歩んできました。日本はこれまで様々な分野での開発協力を通じ、ASEAN地域の発展を支えてきました。また日本とASEANは互いに主要な貿易相手であり、日本はASEANにとって、米国に次ぐ第二の直接投資国です。近年、日本からASEAN諸国に対し、毎年平均して約2.8兆円規模の直接投資がなされています。ASEANにおける日本企業の事業所数は約1.5万を数え、成長著しいASEANの活力を日本経済にとりこむとともに、ASEAN各国で製品、サービスそして雇用を生み、経済発展に貢献しています。インドネシアには、約2,000社の日本企業が進出しており、これらの企業は約720万人のインドネシア人の方々の雇用や、インドネシアのGDP(国内総生産)の約8.5%、輸出の約25%に貢献しています。また、日本は累計ベースで世界第2位のインドネシアへの海外直接投資国です。こうした企業活動を含め、50年以上にわたり、両国は非常に緊密な経済関係を築いてきました。
日本とインドネシアをはじめとするASEANの関係はビジネスにとどまりません。日本とASEANの真の友人としての関係の基盤となっているのは、「心と心」のふれ合う相互信頼関係です。それは、広範な分野における人的交流によって長年にわたり育まれてきました。官民双方で、様々な青少年交流、留学生交流などの具体的な取組が続けられてきました。
また、日本とASEANは、1997年のアジア通貨危機、2004年のスマトラ沖大地震及びインド洋大津波、2011年の東日本大震災、2019年からの新型コロナのパンデミックなど、多くの試練を経験する中で、互いに手を差し伸べ合い、「信頼できるパートナー」であることを示しました。
現在、国際社会は歴史の転換点にあり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は重大な挑戦を受けています。また、我々は気候変動や格差、公衆衛生危機、デジタル化、AI(人工知能)ガバナンスなど、複雑で複合的な課題に直面しています。私は、誰もが尊厳を持って生きられる平和で安定した世界、持続可能で繁栄した未来を「共創」するために、強固な「信頼」に基づき、これまで以上に緊密にASEANの皆様と協力していきたいと考えます。
記念すべき50周年の締め括(くく)りとして、ASEAN諸国の首脳をお迎えする特別首脳会議では、過去半世紀の日ASEAN関係を総括し、将来のための新たなビジョンと具体的な協力を打ち出したいと思います。
特に、日本として、「心と心」のパートナーを次世代に繋(つな)げ、強化するための包括的な人的交流プログラムや、我々の経済・社会が共有する課題への解決策を共に創造するための新たな取組、アジア・ゼロエミッション共同体構想のさらなる推進などの気候変動対策の取組、産業面での協力などを提案したいと思います。
この歴史的な特別首脳会議を、我々の「輝ける友情」を次世代に繋げる「輝ける機会」としたいと思います。
さらに本年は日インドネシア外交関係開設65周年でもあります。こうした記念すべき年に、9月のジョコ大統領との首脳会談においては、長年にわたる友好協力関係を基礎に、様々な分野で発展してきた両国関係を包括的・戦略的パートナーシップへと格上げすることで一致でき、大変嬉しく思います。今後、経済分野に加え、海洋分野や安全保障分野を含む幅広い分野において、インドネシアとの協力関係を一層発展させていきたいと思います。
日本は、インドネシアとの新たな包括的・戦略的パートナーシップの下、幅広い分野における二国間協力を更に進展させるとともに、地域及び国際社会の平和、安定及び繁栄に引き続き貢献していきます。本年、私は議長として、G7広島サミットをホストし、ジョコ大統領にもアウトリーチ会合に御参加いただき、食料や気候変動・エネルギーなどの国際社会の諸課題についても連携を強化していくことで一致しました。こうした諸課題への対応に当たり、地域の大国であり、国際的にも重要な役割を担っているインドネシアと一層連携して取り組んでいきたいと思います。
現在のような厳しく複雑な国際社会の中で、日本とインドネシアが協力関係を発展させていく重要性は更に増していくものと思います。今後ともインドネシアやASEANが極めて重要なパートナーであり続けることは明らかであり、新たな包括的・戦略的パートナーシップの下、一層緊密な関係を築いていく考えです。