岸田総理によるコンパス紙への寄稿文

更新日:令和5年9月6日 総理の指示・談話など

 インドネシアが議長国として、「成長の中心(Epicentrum of Growth)」をテーマに掲げるASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議が、昨日から始まりました。私は、日本の総理大臣として、昨年4月及び11月に続き、こうして再びインドネシアを訪問できることを非常にうれしく思います。
 また、今年は、日本ASEAN友好協力50周年、日・インドネシア外交関係開設65周年の年でもあります。6月には、天皇皇后両陛下が国賓としてインドネシアを御訪問されましたが、ジョコ大統領始めインドネシアの皆さんから心温まる歓迎をお受けになり、心を通わせる多くの機会をお持ちになりました。両陛下の御訪問に引き続き、今回、私ども代表団を歓迎いただいているインドネシア政府及び国民の皆様のおもてなしに心から感謝いたします。
 日本が世界に先駆けてASEANとの対話を開始してから半世紀、日本とASEANは、主要な貿易・投資のパートナーとしてのみならず、「心と心」の触れ合う真の友人として、その発展と統合の道のりを共に歩んできました。それは決して平坦(へいたん)な道ではありませんでしたが、アジア通貨危機、インド洋大津波、東日本大震災、新型コロナのパンデミックなど、大きな困難に直面するたびに、互いに手を差し伸べ合い、地域の平和と安定、持続可能な発展と繁栄のために協力してきました。長年にわたる、相互の理解と信頼に基づくパートナー、それが日本とASEANのパートナーシップの特徴です。
 ASEAN諸国の飛躍的な発展に後押しされ、我々の地域は、今や世界経済を力強く牽引(けんいん)する存在へと成長しました。インドネシアが本年のASEAN議長国として「成長の中心(Epicentrum of Growth)」をテーマに掲げているのは誠に時宜を得たものであると考えます。
 国際社会が非常に厳しい歴史の岐路に立たされている中、この地域が平和で安定した「Epicentrum of Growth」であり続けるための鍵となるのが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化です。今、私たちのこの地域は、様々な挑戦に晒(さら)されています。ロシアによるウクライナ侵略は、欧州のみの問題ではなく、国際社会全体がよって立つ原則そのものへの挑戦であり、ロシアのウクライナ侵略が悪化させた食料やエネルギー価格の高騰は、この地域の人々の生活にも影響を与えています。インド太平洋地域に目を向ければ、力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化などの試練に直面しているほか、強靱(きょうじん)なサプライチェーンの構築や経済的威圧への対応が喫緊の課題となっています。このような中、この地域を力や威圧とは無縁で、自由と法の支配を重んじる場として育て豊かにしていくことは、日本とASEANのみならず、世界全体の利益になると確信しています。
 ASEANの掲げる「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」と日本の進める「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、開放性、透明性、包摂性、国際法の尊重といった本質的な原則を共有しています。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、このような本質的な原則に資する具体的な取組を推進することが、非常に重要です。
 私は本年3月に「FOIPのための新たなプラン」を発表し、重要な地域として初めに東南アジアを挙げ、ASEAN共同体の統合に貢献してきた日・ASEAN統合基金(JAIF)に新たに1億ドルの拠出を表明しました。さらにハード・ソフト両面の連結性を一層強化すべく、包括的な「日ASEAN連結性イニシアティブ」を刷新することを表明しました。具体的には、従来の交通インフラ整備支援に加え、デジタルや海洋協力、サプライチェーン、電力の連結性、さらには人・知の連結性を含めた幅広い分野での技術協力を進め、ASEANの統合深化を後押しするとともに、日本とASEANのつながりを強化していきます。今回のインドネシア訪問において、この新たなイニシアティブを発表する予定です。
 また、我々の緊密な関係の基盤である「心と心」のパートナーを次世代につなげていくためにも、幅広い国民間の交流を更に強化する必要があります。日本は、青年交流プログラム「ジェネシス」や、国際交流基金による「文化のWA」のような、魅力ある文化・人的・知的交流や日本語教育支援の取組を更に推進していきます。
 今日から101日後、本年の日本ASEAN友好協力50周年の締めくくりとして、12月に東京で特別首脳会議を開催し、将来の日ASEAN関係と協力の大きな方向性を示すビジョンを共同で発出します。明日からの関連首脳会議では、この特別首脳会議に向けて、ASEAN諸国と緊密な協力を確認したいと思います。
 日本は引き続きASEAN中心性・一体性を支持しつつ、地域の平和と繁栄のため、ASEANの友人と手を取り合い、我々が共通して抱える、気候変動、公衆衛生危機、デジタル化、AIガバナンスといった今日的な課題も含め、共に取り組んでいきたいと思います。
 そして、後世、この一年が長きにわたる日本とASEANの「輝ける友情」を次世代につなぎ、新たな時代を共に創る「輝ける機会」となったと評価されるものとしたいと思います。
 今回の滞在中に、お会いする方々との親交を深めることを心から楽しみにしています。