岸田総理大臣による「リヤド紙」寄稿
今般、総理大臣に就任後初めて、日本にとって戦略的パートナーであるサウジアラビア王国を訪問する機会が得られたことを大変嬉しく思います。
サウジアラビアは日本が必要とする原油の約4割を供給するなど、エネルギー安全保障上の重要なパートナーですが、両国の関係はエネルギー分野にとどまらず、近年、ますます多様化し、深化しています。また、サウジアラビアは、アラブ・イスラム世界の盟主であり、地域の平和と安定に主導的役割を担っており、日本が、中東地域及び国際社会における平和と安定により積極的に貢献する上で、サウジアラビアとの連携は不可欠です。サウジアラビアは、中東地域の平和と安定の実現のために、各国との対話や関係再構築への取組を積極的に進めるとともに、紛争当事者の政治対話の仲介役を積極的に担い、紛争や災害で深刻な状況に直面する人々が尊厳ある生活を送れるよう寛大な支援の手を差し伸べています。
G7広島サミットでは、すべての国が、主権や領土一体性の尊重といった国連憲章の原則を守るべきこと等が確認されました。日本は、インド太平洋において法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、地域及び世界の平和と安定、繁栄を実現する「自由で開かれたインド太平洋」を推進しています。このビジョンの実現のため、いかなる国も排除せず、すべての国との間で協力を進めており、サウジアラビアとも緊密に連携していきたいと考えています。
経済面では、エネルギーを軸に発展してきた日本とサウジアラビアの伝統的な協力関係が大きな変化を遂げています。サウジアラビアは、「サウジ・ビジョン2030」の下で、産業多角化や脱炭素化に向けて、広範な経済社会改革に取り組んでおり、日本はサウジアラビアの戦略的パートナーとして、自らの知見や先端技術の提供を通じて協力しています。2016年にムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相殿下が訪日した際、両国は、サウジアラビアの改革努力の達成に向けて両政府が協力する枠組みとして、「日・サウジ・ビジョン2030」の立ち上げを決定しました。この枠組みの下で、これまで両国から60以上の省庁等が参加して、100以上の案件で協力が進められてきています。「日・サウジ・ビジョン2030」の下での協力は、今後も揺ぎなく進めていきます。
サウジアラビアは、同国及び中東の「グリーン・イニシアティブ」を打ち出しています。サウジアラビアが、主要なエネルギー輸出国として、グローバルなエネルギー安全保障の確保に向けた責任を果たしつつ、同時に、気候変動問題に対して具体的な取り組みを進めていることを高く評価します。日本としても、バランスがとれたグリーン・トランスフォーメーションを推進していくため、サウジアラビアと緊密に連携していきます。
今後、サウジアラビアを含む中東の地理的優位性や低廉(れん)な再エネ資源、国内や周辺地域の鉱物資源、豊富な投資余力と、日本の最先端の脱炭素技術という、双方の「強み」を組み合わせ、中東を次世代燃料や鉱物資源のサプライチェーン上のグローバルなハブにするべく、今回の訪問で “Global Green Energy Hub”イニシアティブを提案したいと考えています。このイニシアティブに基づき、水素・アンモニアの製造・活用、カーボンリサイクルといった関連分野で重層的に連携していきます。
また、サウジアラビアから日本への直接投資が一層増えることを願っています。日本は、現在、ハイテク産業のグローバルなサプライチェーンの強靱化に向けて、この分野での対日直接投資の更なる拡大やハイテク産業への支援に取り組んでいます。サウジアラビアの政府系ファンドPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)は、これまで日本のコンテンツ産業への投資を活発に行っていますが、これに加え、ハイテク産業でも、サウジアラビアから更に積極的な投資が行われることを歓迎します。
日本とサウジアラビアは、2025年に国交樹立70周年を迎えます。両国の歴史は、友好の歴史であり続けました。その絆はますます強く、太くなっています。来る訪問において、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相殿下を始めとするサウジアラビアの皆様と、両国関係を一層強固なものにするための方策を話し合うことを、今から楽しみにしています。
そして日・サウジ・ビジョンの目標年2030年に向けて、現在の協力関係を一層拡充し、加速させていくことを願ってやみません。
日本国内閣総理大臣
岸田 文雄