岸田総理によるJAPAN Forwardへの寄稿文
G7広島サミット:国際社会が直面する複合的危機への対応
ロシアによるウクライナ侵略が国際秩序の根幹を揺るがしている現在、国際社会は、歴史的分岐点にある。
現在、世界が気候危機、パンデミック、地政学的危機といった複合的な危機に直面している中、私は、G7の各首脳と結束し、こうした複合的危機に立ち向かう決意である。 G7広島サミットでは、次の2つの視点に基づき議論を深めたいと考えている。
第1に、法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序を堅持するG7の強い意志を示すことである。脆弱(ぜいじゃく)な国にこそ「法の支配」が必要であり、主権や領土の一体性の尊重、紛争の平和的な解決、武力の不行使など、国連憲章上の原則が守られていることが、国際社会で「自由」が享受される重要な前提と言えるということである。力による一方的な現状変更の試みや、ロシアが行っているような核兵器による威嚇、ましてや、その使用はあってはならないものとして断固として拒否する必要がある。
第2に、いわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国・途上国に対するG7の関与を強化することである。ロシアの侵略は、途上国をはじめとする世界の人々の生活に、大きな打撃を与えた。これらの国々との信頼関係を築くため、彼らの懸念に耳を傾け、それに対処することに一層努めなくてはならない。そして、国際社会の諸課題は、こうした国々との協力なくして解決することはできない。こうした観点からも、私は、G7広島サミットに「グローバル・サウス」と呼ばれる国々を中心とする8か国の首脳と7つの国際機関の長を招き、アウトリーチ会合を開催する。
これらの2つの視点に基づき、G7広島サミットでは、世界経済、エネルギー・食料安全保障、ウクライナやインド太平洋などの地域情勢、核軍縮・不拡散、経済的強靱(きょうじん)性・経済安全保障、また、気候変動、保健、開発、ジェンダーの主流化といった地球規模の課題など幅広い問題について議論したい。
ウクライナはもちろん議論の中心となる。ロシアの侵略に対応するために、G7が引き続き強い結束を示すことが何よりも重要である。3月21日、私は市民の虐殺があったとされるウクライナのブチャ市を訪れ、この目で、ロシアによる残虐行為の結果を目のあたりにしてきた。ウクライナのゼレンスキー大統領とは首脳会談を行い、厳しい対ロシア制裁と強力なウクライナ支援を維持していくことを伝え、G7議長国として、法の支配に基づく国際秩序を守り抜いていく上でのG7の揺るぎない結束の維持を表明した。
また、ゼレンスキー大統領に、G7広島サミットへのオンライン参加を招請した。G7はロシアに対し、ウクライナから即時かつ無条件に軍隊を撤退させることを改めて強く求め、厳しい対ロシア制裁の継続と、ウクライナへの強力な支援を改めて確認したい。さらに私はロシアの無責任な核のレトリックが、決して容認できないことを改めて確認したい。
G7で唯一のアジアの国である日本でのサミットは、インド太平洋地域に焦点を当てるチャンスでもある。
この地域は、世界の成長を牽引(けんいん)しているが、安全保障や経済面で様々な課題に直面している。私は、インド太平洋地域について突っ込んだ議論を行うとともに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けたG7の連携を確認したい。中国や北朝鮮など東アジアに関連する問題を含め、地域の課題に関してG7の足並みを揃(そろ)えるためには、しっかりとした議論が必要である。
日本の目標は、国際社会を分裂や対立ではなく協調の方向に導くとともに、FOIPビジョンの実現に向けた協力を強化することである。そのために、私は先般インドを訪問した際に、FOIPのための新しいプランを発表した。私が推進しているイニシアティブのひとつに、公的資金と民間資金の両方を結集する新たな手法を政府開発援助(ODA)に導入することで、持続可能な開発のために民間資金の活用を図るというものがある。
私がG7サミットを広島で開催することにしたのは、平和への決意を表明するのにこれ以上相応(ふさわ)しい場所はないと考えたからである。広島と長崎に原爆が投下されてから77年経(た)つが、この不使用の記録をないがしろにすることは決して許されないとのメッセージを、力強く世界に発信したい。「核兵器のない世界」という理想を実現するためには、現実的かつ実践的な取組を粘り強く進め、国際的な機運を醸成する必要がある。
G7はまた、持続可能な成長を実現するための解決策を率先して示す必要がある。それは、地政学的リスクやインフレなどの課題によって不確実性が高まっている現在、特に当てはまる。
パンデミックやロシアのウクライナ侵略など、世界が危機と対峙(たいじ)する中、資源へのアクセスを含む経済的強靱性・経済安全保障の重要性が一段と鮮明になっている。広島サミットでは、G7サミットとして初めて、この問題を正面から議論する。
気候変動・エネルギーについては、ロシアによるウクライナ侵略によりエネルギー安全保障確保の重要性が再認識される中においても、2050年温室効果ガス排出ネット・ゼロに向けた目標は不変である。あらゆる適切なエネルギー源、技術を活用する必要性や地政学的リスクを認識しつつ、エネルギー安全保障を確保した脱炭素化に向けた多様な道筋を示していく必要がある。
ほかにも食料、保健、開発、ジェンダー主流化、人工知能(AI)の急速な発展に見られるように進化し続けるデジタル技術のガバナンスの向上など、サミットで取り組むべき重要課題がある。
国際社会が複合的な危機に直面する今、G7広島サミットは、G7首脳が、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く強い決意を示すとともに、「グローバル・サウス」と呼ばれる国々を始めとするパートナーと協力して、すべての人にとってより良い未来を確保するための解決策を提示する機会となる。私は、G7広島サミットの議長として、そのためのリーダーシップの発揮を惜しまないつもりだ。