岸田総理によるThe Star紙への寄稿文

更新日:令和5年5月2日 総理の指示・談話など

 問1.今回のケニア訪問の意義・狙いについて

 TICAD Ⅵ(第6回アフリカ開発会議)へ外務大臣として参加して以来、実に7年振りに、日・ケニア外交関係樹立60周年の節目の年にケニアを訪問できたことを大変嬉(うれ)しく思う。

 今回の訪問目的は、G7広島サミットの前に、東アフリカ地域の平和と安定や国際場裡(じょうり)で様々な課題の解決に貢献するケニアの「声」を聞き、その「声」をG7の議論に活(い)かすこと。また、昨年9月に民主的な選挙を経て就任したルト大統領との間で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の重要性を再確認しつつ、ケニアとの協力を強化したいと考えている。

 東アフリカ地域の要衝に位置するケニアが地域の平和と安定に寄与していることを高く評価する。情勢が悪化するスーダンでの即時の暴力停止及び人道アクセス確保に向けても緊密に連携したい。

 昨年8月のTICAD8(第8回アフリカ開発会議)で、日本は、アフリカと「共に成長するパートナー」として、アフリカ自身が目指す強靱(きょうじん)なアフリカを実現していくことを表明した。ケニアは、東アフリカの経済的ハブであり、ケニアとの経済関係を更に拡大したい。

 ロシアによるウクライナ侵略など、厳しく複雑な国際情勢の中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化が一層重要となっており、これまでも法の支配の徹底のために共に声を上げてきたケニアと、国際情勢について幅広く議論したいと考えている。

 問2.日本とケニアの経済関係の展望について

 ケニアはアフリカ有数の日本企業進出拠点の一つであり、100以上の企業が進出。イノベーションで社会課題を解決する日本発スタートアップも活躍している。日本政府としても、スタートアップ等企業の進出支援、ケニアスタートアップ等と日本企業の協業連携支援を行っていく。日本企業による大規模なデータセンターの整備も進んでおり、アフリカにおけるICT(情報通信技術)基盤強化の拠点となることが期待されている。

 また、我が国は「人への投資」を重視。ケニアの産業高度化の実現に向けて、日ケニアの産業人材育成協力事業や、TICAD8で表明した「未来の産業人材イニシアティブ(AfIF)」のケニアにおける取組を協力して進めていく。

 2016年にTICAD Ⅵをナイロビで開催した際には、当時の安倍総理が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を初めて提唱した。ケニアは、東アフリカ北部回廊の戦略的な要地であるモンバサ港を擁しており、我が国としてもその発展に向け、積極的に支援している。本年3月に発表したFOIPの新プランを推進すべく、海洋安全保障、同港や周辺でのインフラ整備でも具体的な協力を進めていきたい。

 また、昨年のTICAD8の機会には、太陽光やグリーン水素、地熱発電の分野での取組に関する両国企業又は政府機関の間で覚書が締結された。ケニアの実情に寄り添った、より現実的なエネルギー移行の実現に向け、両国の協力を進めていきたい。

 問3.日・ケニア外交関係60周年に際して、両国友好関係のこれまでの60年と本年を含む今後の展望について

 モンバサ港開発プロジェクトやオルカリア地熱発電所といった大型プロジェクトは、ケニアの人々の生活水準向上と雇用創出に大きな役割を果たし、今やケニアに進出する日系企業の数は、私が前回ケニアを訪問した2016年時から倍増している。

 しかし、日本とケニアの関係は経済関係にとどまらない多様なものであることを強調したい。一つは人材育成である。日本はこれまで、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)、ケニア中央医学研究所(KEMRI)、ケニア森林研究所(KEFRI)といった研究所の支援を行ってきた。また、延べ15,061名に及ぶJICA研修員の受入れを行い、日本からは、延べ1,757名の青年海外協力隊を派遣した。

 草の根の交流も非常に活発である。日本語の「もったいない」という循環型精神を世界に広めたワンガリ・マータイ女史は環境分野における日ケニアの協力を通じて国際社会に貢献した。また2022年にノーベル平和賞の候補者となったミリアム・ウェレ博士は母子手帳の普及により、母子の健康について、二国間の協力・交流を深めてきた。ケニアが世界に誇るマラソンのキプチョゲ選手は日本企業のアンバサダーを務めており、高名なダグラス・ワキウリ選手は、日本の企業マラソンチームの一員として成長して、世界最高レベルに到達した。交流は現在も活発である。

 このように、多様で深い歴史を持つ日・ケニア関係は、日本人とケニア人の絆(きずな)に支えられてきた。その力をこれからも借りつつ、両国の関係を更に深めていきたい。