第57回国家公務員合同初任研修 岸田内閣総理大臣訓示
皆さん、こんにちは。内閣総理大臣の岸田文雄です。
国家と国民のために尽くしたいという高い志と使命感を抱き、晴れて国家公務員の道を歩み出した皆さんを、内閣総理大臣として心から歓迎いたします。
今、日本、そして、世界は歴史の転換点を迎えています。
国際社会では、ロシアによるウクライナ侵略により、冷戦後のポスト冷戦期と呼ばれた平和と安定の時代が終わったとの指摘があります。
大国間のむき出しの国益の競争が顕著となり、世界に繁栄をもたらすと信じられてきたグローバル化のあり様も変容しています。
また、気候変動や、格差の拡大、民主主義の動揺、人口問題などに直面する中で、経済社会そのものをバージョンアップさせ、経済成長と、持続可能性を両立させていくことも急務となっています。
こうした変化の時代にあって、先送りできない様々な課題に正面から向き合い、一つ一つ答えを見出(いだ)し、新たな時代を切り拓(ひら)いていく。それこそが、政府に求められる使命であり、これから国家公務員となる皆さんの使命だと考えています。
持続可能な形で日本経済を再生させる、急速に進展する少子化を反転させる、断固として国家・国民を守り抜く、多様な個性をいかす包摂的な社会を創る。
大変難しい課題ばかりであり、私一人だけで、これらの課題を乗り越えていくことはできません。
国家公務員として、正に最前線で、国民と向き合う皆さんと共に、日本の未来を切り拓いていきたいと思います。是非、皆さんの力を貸してください。
皆さんがこれから取り組む仕事は、国家・国民の未来を創るために、必要不可欠なものであり、社会に対して提供できる価値は、他に代わりがない唯一無二のものです。
国家公務員という仕事に、是非、誇りを持ち、今、心の中にある初心や志を実現すべく、各々の仕事に、勇往邁進(まいしん)してほしいと思います。
今から、40年も前のことですが、私は、銀行員として、社会人のキャリアをスタートさせました。
新入社員の頃、多くの失敗もしましたし、仕事の上での修羅場も経験しました。
そのときの経験は、血肉となって今の私を支えてくれています。また、上司、先輩、友人との仕事ではない思い出も、同様に、今の私を支えてくれています。
当時のことを振り返ると、誇りを持って、充実した仕事をするためには、働きがいと働き方のバランスが、大切であると感じています。
皆さんが誇りを持って働ける職場をつくるのは、皆さんをお迎えする、我々の責任です。
私は、行政府の長として、国家公務員の皆さんが、男性も女性も、新卒の方も、中途採用の方も、人生のライフステージに関わらず、働きがいと働き方のバランスのとれる霞ヶ関を実現していきたいと思っています。
そのために、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による業務の見直し・効率化や、テレワークの推進、超過勤務の縮減、さらには、男性育休の取得推進、フレックスタイム制度の柔軟化など、様々な改革を進めています。
そして、こうした改革を実効性のあるものにするためには、制度の見直しに加え、働いている、国家公務員の皆さんの意識を変えていくことが必要です。若手からベテランまで、全ての皆さんの意識を変えていく。こうした取組にも力を入れていきたいと思います。
最後に、もう一つ大事なことを述べたいと思います。皆さんは採用されたばかりではありますが、国民からみれば、一人の立派な国家公務員です。新人だから仕方ないとは誰も言ってくれません。自分が一人の国家公務員であるという自覚を、しっかりと持っていただきたいと思います。
そして、国民の皆さんから常に見られているということを意識して、皆さんの誇りを自ら貶(おとし)めるような行為は厳に慎んでほしいと思います。
李下(りか)に冠を正さず、と言います。己を律しながら、国民全体の奉仕者として、高い倫理観の下、職務に当たってもらいたいと思います。
我々が力を合わせることで、今、我が国が直面する困難や課題も、必ずや、乗り越えていけると確信しています。
歴史の転換点を迎える今、時代の大きなうねりを乗り越え、共にこの国の未来を切り拓き、希望あふれる新たな時代を創っていこうではありませんか。
皆さんの大いなる活躍を心から期待いたします。